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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第5章 ~勃発~
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vs タイタン 1

 俺たちはいったん南に逃げた。敵が起き上がりかけていたがそれを無視し、そのあとすぐに東の小路に入った。

 そんなに幅はない小路だ。ここなら、あのタイタンのセンサーを誤魔化せると踏んだのだ。

 何とか隠れ衣に入り安堵した。


 ……しかし、その瞬間だった。


「―――ハァッ!?」


 その小路の入り口から、「ドガァンッ」という爆発音が数回。そして、ガラガラとコンクリーとやら鉄筋やらが崩れ落ちる音が連続して響いてきた。

 その先には、中型グレネードライフルを構えたタイタンの姿があった。奴がやったことは明白だ。


「……コイツ、無理くり入ろうとしてきやがる!?」


 あまりにも無茶苦茶だった。「道が狭いなら広げてしまえばいいじゃない」と言わんばかりの脳筋思考。どこぞの大佐が出てきて娘を救う映画なら「筋肉論破」と言われてもしょうがないやり方を堂々とやり始めたのだ。

 しかも、入った小路の周りが軒並み古い老朽化した建物ばかりなのが奴の行動を助長させた。一発鉄鋼榴弾をぶち込めば簡単に崩れてしまい、道が開いてしまう構造となっていたこともあって、上からはがれきが降ってくる。後ろからは道を強引にこじ開けたタイタンが迫ってくるという、まさに泣きっ面にハチどころではない事態となったのだ。


「(マズイ、小路に入ったのは判断ミスだったか!?)」


 奴がまさかここまで大胆に来るとは想定していなかった。訓練ですらそんなアホみたいなことやらかさなかっただけに、想像が至らなかったのだ。

 しかし、タイタンは問答無用で鉄鋼榴弾を周囲の邪魔な建物の外壁にぶち込み、大小様々な瓦礫を豪雨の如く振らせてきた。その雨に撃たれない様にしながらも、俺とユイは全速力で逃げる。

 だが、上から降ってくる瓦礫や落ちた場所によっては、その衝撃によって足元を掬われ、その場で何度か転倒してしまう。そのたびに、タイタンとの距離は縮まってきていた。


「あの野郎、入れないからって道こじ開けてまで入るか!? あそこまで論理働かんAI積んでんのか!?」


 何度か転倒したとき、思わずそう叫んでしまった。叫びたくもなる。その思いはユイも同じだった。


「おかしいですね、あれ私と同じロボットですか? 随分と優秀なAIをお持ちで」


「少なくとも人じゃねえわ」


「うわぁ、あんなのと一緒にされたくない」


 冷静ながらも、その言葉には少々毒がある。コイツなりの皮肉だった。

 中央区特有の若干碁盤の目になっている路外をうまく使い、右に左にとよけていくが、最初入った小路より狭い道なんてそうそうない。どうやって逃げても、比較的小柄な身を使ってするする入るか、無理くりこじ開けるかの二択だった。逃げ道らしい逃げ道が建物の中しかないが、入ったところで外からバシバシ鉄鋼榴弾をぶち込まれたら、下手をすれば袋のネズミ。場所によっては陸空の援護が期待できず、結局、逃げたほうがマシという状況だった。

 さっきからガトリングが火を噴かないのは、弾の消費を嫌ったからだろうか。ちゃんと視界が開き、命中が期待できるところで撃つ算段か、それとも、単に俺たちを舐めてるだけか。


 何れにせよ、長い間このままでいるわけにはいかなかった。何度か曲がり角を曲がり、小路に入ったり陰に隠れたりしながら、どうにか距離を稼いでいく。少しずつではあるが、成果はあるにはあった。だが、それがいつまで続くかわからない。

 ユイに牽制射撃を命じ、さらに、


「シノビよりHQ! 聞こえるか!」


 本当は逃げるのに必死でそれどころじゃなかったのだが、今更ながら、俺は司令部に無線を繋いだ。


『こちらHQ。どうした?』


「そっちで機体番号TT-0058の信号受信できるか!?」


『……いや、確認されていない』


「俺たちの信号は!?」


『そっちはかろうじて確認できている。小路に入っているからか、信号は微弱だが』


「じゃあなんでタイタンの信号は受信できてねんだ! 俺たちのよりビーコン出力たっけえだろうが!!」


 一方的にやられる状況から、俺のイライラは結構たまりまくっていたが、しかし、向こうはそんなこっちの切迫した状況など意に介さず、


『……何を言ってるんだ?』


 呑気な声で返してきた。マジで少しは察しろよクソ野郎。


「この轟音が聞こえねえのか!? さっきからタイタンにフレンドリーファイヤ喰らいまくってんだよ! そっちからはよ止めろやァ!」


 瞬間、近くで鉄鋼榴弾が着弾し、その衝撃で「うわぁッ!」と呻きながらその場に転倒する。さすがにこの音は無線越しに司令部に届いたのか、やっとこっちの尋常でない様子を察したようだった。


『……どういうことだ? いったい何が起きている?』


「だからさっきも言った! タイタンがこっちに攻撃してきている! 俺たちを友軍だと認識していない! 早く機体番号TT-0058を検索して奴を止めるか友軍情報を更新してくれ! このままじゃ間違いなく死ぬ!」


『なんだと!? ま、待て! すぐに確認する!』


 やっと慌てた様子となった司令部は、一旦無線を切った。タイタンの信号確認のために、少し時間を喰うだろう。その間に、さらにもう一人に無線を繋ぐ。


「和弥! 聞こえるか! 聞こえんならさっさと応答しやがれ!」


 すぐに情報屋に助けを呼んだ。声からして尋常でない様子を悟ったらしい俺の親友は、少し動揺しながら応答した。


『お、おう、祥樹か。こっちはもうすぐ護衛対象をヘリに移せる。今合流地点の建設ビルの屋上だ。そっちはどうだ?』


「どうだも何もねえ! マズイ状況になった、お前の知識ちょっと貸してくれ!」


『……何があったんだ?』


 動揺が困惑に変わった。簡単に事情を説明すると、和弥も司令部とほぼ同じような反応を返した。


『タイタンが攻撃だって!? んな馬鹿な! 俺たちのIFF情報は、作戦開始時に全てのタイタンを制御するクラウドネットワークにしっかりアップデートされてたはずだ。フレンドリーファイヤなんてありえない!』


「そのありえない状況が今俺たちの目の前で起こってるんだ! 俺たちが見てるのは幻覚か何かか?」


『ユイさんまで同じ目にあってる時点でそれはないな』


「だろうな。今司令部にさっさとコイツ止めてくれるか確認してもらってるが、そもそもビーコンが確認できないらしい」


 司令部はタイタンの制御を専用のクラウドネットワーク『TCN(Titan Cloud Network)』を用いて行っている。さっき和弥が言ったこともそれに由来し、タイタンが持つIFF情報や自動行動規範などのデータは、すべて上位にあるTCNが管理し、そこから制御下に置いている各タイタンのAIに渡される。

 もちろん、TCNの制御電波が届かなくなると管理・制御がうまくいかなくなるので、そこはAIの独自行動がなされるような仕組みとなっているが……


『TCNがそのタイタンの信号を受信できていないなら、そもそも制御することはできない。止めるのもまず無理だな』


 すると、ほぼ同タイミングで司令部の方からの無線が割り込んできた。


『こちらHQ。TT-0058の信号がやはり確認できない。制御ができないのでもう少し待ってくれ。現在復旧作業を急いでいる』


「チッ……了解。できるだけ早く頼む」


 まあ、仕様を知っているので案の定といったところだが、やはり無理なのか……。だが、そうなると俺たちはコイツを放置しておくことになる。それはあまりにも危険だ。

 今は移動しながら無線をしているが、これが勝手に止まってくれるとも思えない。だから、隙間に入ってやり過ごすというのも、一種危険が伴ってしまうのだ。放置し、タイタンが見逃してくれることを願うのは、リスクがあまりにも高い選択と言えた。


「和弥、お前の予測通り、HQは俺らを追っかけまわしてるタイタンを制御できていない」


『だろうと思った。さっき、タイタンの信号を途中からずっと受信できてなかったって言ってたな。もしかしたら、その時に何かあったのかも……』


「故障か、それともAIがぶっ壊れたか……」


 ……もしくは、外から、何か“入れ知恵”されたか。機械的な入れ知恵というのは、いわば“クラッキング”だ。

 ここでは“ハッキング”とは言わない。ハッキングはコンピュータに対する高度な制御・利用の意味を持つが、ここに善悪の違いはない。クラッキングはそれに加え、明確な悪意を持った意味合いが入る。


 ……これが、クラッキングじゃない、つまり、“明確な悪意がないハッキング”なわけがない。そうなると、犯人がいることになる。


「これをしでかした犯人が誰かいるはずだ。だが、今はそれどころじゃねえ……そっちから援軍出せるか? ビーコンを見る限り近くには誰もいねえ」


『今二澤さんとも話した。こっちはたった今ヘリが着いたから、彼女らを乗せればすぐに向かうことはできる。ただ、どれだけ急いでも最低15~20分はかかると思え』


「15分か……」


 それじゃ遅い。こっちは下手すりゃ数秒後にはガトリングに蜂の巣にされるか、鉄鋼榴弾で肉片にされるかの状況だっていうのに、そんなに長い時間待ってはいられなかった。


『今どこにいる?』


「新富2丁目のとこ。そこの狭い路地をぐるぐる回って逃げてる」


『あえて広い道路にでるのは? そこにいたらよけたくてもよけにくいだろう』


「それはそうなんだが、広い道路に出たら今度は他の敵に見つかる可能性もあるし、何よりタイタンにとっても攻撃しやすい環境が出来ちまう。デメリットが多い気がしてならないぞ」


 タイタンと対峙するうえでは、確かにこんな狭苦しいところより広い道路に出たほうがやりやすいのだが、やりやすいのは向こうとて同じだった。

 むしろ、こっちが体格的に小柄な分、この路地で奴と対峙したほうがまだメリットがあるというのが現状だった。事実、向こうは狭い路地をこじ開けるために周りを力づくで破壊するという“手間”をかけねばならず、さらに、照準が定めにくいのか、ガトリングを使おうとしない。この状況自体は、俺たちにとってはいい方向に働いているとみることもできるのだ。


 ……とはいえ、このままではまともに航空支援を受けることができないのも事実。というより、さっきからヘリがあまり飛んでいない。死角からの対空火器の攻撃を警戒してか、不用意に低空を飛ぶことを躊躇しているようだった。

 対空火器の除去は一応進んでいるようだが、完全ではない。司令部が慎重になっているところを見るに、まだ幾つかいることを懸念しているんだろう。気持ちはわかるが、使いたいときに空から攻撃できないで何のための航空支援だといいたい。


「(空からの攻撃は期待しないほうがいい……となると、陸でどうにかするしかないが、ここからどうやって挽回しろってんだ……)」


 色々と考えをめぐらすが、その時、ユイから一言聞こえた。


「……そろそろここでやり合うのも限界になってきましたね」


「というと?」


 ユイがビル陰に隠れて牽制弾幕を張りながら言った。


「こっちも弾薬が残りわずか。牽制しても向こうは道をこじ開ける筋肉思考で強引に突破してくる無茶苦茶さです。……そろそろ、デメリットを覚悟するときが来たように思えます」


「……」


 デメリット。ここでいうデメリットとは、広い道路に出て対応するうえでのものだ。

 こっちが戦いやすくなる分。向こうは全力を出す条件が満たされる。まともにやりあったら、米がいなく負けるのはこっちだ。

 しかし、ここでいつまでもやり合ってるわけにもいかないのも事実だった。ユイの言う通り、手持ちの弾薬はもう残り少ない。さっきまでの武装集団との銃撃戦で結構消費してしまい、後はこのタイタンに任せるつもりだったのだ。ところが、そのタイタンともやり合うこととなり、完全に予定が狂ってしまった。

 残弾調整がうまくいかなくなり、弾薬が欠乏し始めていた。


「向こうにはこっちの5.56mmが聞きません。的確に基部は狙ってますが、そこはご丁寧に装甲板が張り巡らされているためこれっぽっちも貫通せずです。もうどうしようもないですよ」


「マジか……」


 ユイの射撃能力は抜群だ。今の状態なら、弱点のみを狙って射撃することも可能だろう。しかし、それでも向こうは前進を止めず、こっちに近づきつつある。ビル陰に隠れ、必死に撃っても、ゆっくりと、確実に近づいてくる。


 ……ユイの射撃も、装甲の前には太刀打ちできない。


「(小路にいつまでもいるわけにはいかないが……、つっても、広い道路に出た後はどうやって……)」


 広い道路に出た後の勝ちパターンをどうにかして考える。何かないだろうか。こっちの手元にある重火器では火力不足。手榴弾も効果は限定的だろうし、当然閃光手榴弾は聞かないし、煙幕弾も、わざと近くで砲弾を爆発させ爆風を引き起こすことで、煙幕をどかすことなんて造作もないことだ。

 タイタンのAIは、そういった戦闘方法も瞬時に判断・選択し、実行に移す。


「(……せめて、大きな火力があれば……)」


 近くに都合よくRPGは転がってないだろうし……と、そんな風に思っていた時だった。


『……あ、そうだ』


 和弥が無線でそう呟いた。


『海軍のトマホークは?』


「トマホーク?」


 トマホークは艦載型の対地巡行ミサイルだ。西側諸国で採用されており、現在は日本の国防海軍の標準装備とされているものである。

 現代のものはタクティカル。トマホークの中でも最新型。高度なGPS機能と地形走査機能を用いて、適宜針路を細かく変えながら目標へ誘導される。対地攻撃という点でいうなら、確かにトマホークも使えるだろう。近くに海軍艦船が居なくても、そもそもトマホークの射程は長いのでそんなに問題ではないはずだ。


 ……が、別の問題がある。


「待ってくれ。トマホークはタイタンのような高機動目標に対する攻撃には適していない。奴の動きに適宜トマホークが対応しきれるとは限らないし、下手をすれば目標への追従機動が間に合わず、周囲の建物にぶつかって二次被害を招く可能性がある。市街地で、あのタイタンに対して使うにはちょっと相性が合わないと思うぞ?」


 トマホークは攻撃精密度は確かに高いが、タイタンは人の慎重の2~3倍くらいしかなく、戦車とほぼどっこいの大きさだ。しかも、それに加えて戦車より素早く動けるとあっては、トマホークといえど当たってくれるかはわからない。

 目標を追尾しているうちに、間違って他の建物などにぶち当たってしまってはいらぬ損害を招いてしまうことにもなり、高機動移動目標に対してはあまり効果が期待できないと思えた。


 ……しかし、和弥はそれを踏まえたうえで、もう一つの策を提示した。


『ああ、わかってる。そこでだ。もう一つ使う。……そこから北に行くと、奴の動きを封じ込めれそうな場所があるんだよ。座標を送る』


 HMDのほうにデータがアップロードされた。そこは新大橋通りをとにかく北に行ったところ。大体、東京都道408号線と合流する地点あたりにポイントが指示されていた。


「……どこだこれ?」


 その問いに和弥は少し含みを加えたニヤケ声でいった。


『……“墜落地点”だよ。“貨物機”の』


「ハァ!? 貨物機!?」


 初めて知った情報に俺は少し驚いた。確かに、このポイントがしめされているところあたりから煙は立体上ってはいたものの、てっきり別の何らかの爆発によるものだと思っていた。こんなご近所でいつの間にそんなの墜ちてたんだ。

 タイタンが迫ってきたのでちょっと移動しながら和弥と無線を交わした。


「どういうことだ? 俺そんなの初めて知ったぞ?」


『いや、俺もさっき知った。色々混乱してたらしくて伝達が遅れてたらしい』


「混乱しててもそんくらいの情報は流しとけよ……」


 あんなドでかいものが墜ちてどうやったら情報伝達が遅れるんだか。


『まあまあ。んで、墜ちたのは東京発ロサンゼルス行きのジャパンスカイカーゴ025便。機種はB767-300BCF』


「Fナンバーってことは貨物専用機だな」


『ああ。C滑走路の34Rから離陸した直後に、テロリストが操ったドローンの特攻を受けたらしくてな。そのドローンがまた爆弾満載で、翼だかエンジンだかをへし折っちまったらしい』


「マジかよ」


 実際の離陸の様子をみればわかるが、離陸した直後といえど結構な高さまで上昇する。そうなると地上からは当然小さく見え、ましてや動いてる飛行機に対してまた何かを手動で突っ込ませるというのは中々に至難の業だ。相当な腕を持ってるやつが操ったとみるべきだろう。これ自体は、新幹線の奴と同様、実行組織は同一とはいえ基本的に別で動いていた奴が行ったものらしい。

 その後、パイロットは体勢を立て直そうとしたが、離陸直後で、燃料が満載だったこともあり機体がうまく安定せず、さらにそこに風の状況や破損の大きさもあって、立て直しが聞かないまま落下。中央区の新大橋通り沿いを舐めるように突っ込んだということだった。


 ……そんな惨劇今初めて知ったのだが。


『伝達遅延もそうだが、そのあとに情報をまとめるのに時間がかかったんだとさ。ま、この混乱だししょうがないな』


「おいおい……」


 しょうがないで済ます者でもないと思うのだが。しかし、和弥はそこを本題にはせずさらに進めた。


『とにかくだ。まだ機体に残ってるかもしれないパイロットの人たちには本当に申し訳ないが、これを使わない手はない。そこに奴を誘導するんだ』


「誘導したって、その機体ってもう完全に残骸を化してるだろ? 何をどうするつもりだ?」


『いや、確かに機体はほぼ瓦礫と化しているんだが、そっちは基本的に使わないでいい。衛星写真を見る限りでは、主翼があたったらしい新大橋通り沿いの一部の建物が倒壊して、同じく瓦礫の山になっている。あそこに埋めてしまえばいいんだよ』


「埋める?」


『そうだ。“埋める”んだ』


 つまり、和弥の考えた作戦をまとめるとこうだ。


 まず、俺たちは新大橋通りに出て、大っぴらにあの暴走タイタンをおびき寄せる。その状態を維持して、例の機体墜落地点へと目指す。そこは、少し前に別のテロのドローン特攻によって“撃墜”させられたB767貨物の残骸に加え、その主翼やら何やらがぶち当たった時に倒壊したいくつもの建物の残骸も散乱している。

 和弥が衛星写真や無人機の映像を見る限りでは、墜落時に主翼は周囲の建物を刀で切り刻んだように切ったようで、古い建物は完全に半分から上が“倒れた”ようになっているものもあるそうだ。それが重なったりなどして、結構積み重なっているものもあるという。


 俺たちはこれを用いる。いくら積み重なっているとはいえ、無造作に積み重なると大抵は“空洞っぽい隙間”というのがあるもので、そのその上に持ってきて“落とす”のだ。そうでなくても結構重量が重いタイタンなので、仮に空洞らしい空洞がなくても、その重さで勝手に落ちることが期待できる。

 人間だって、ゴミが積み重なったところに行くとたまに足が埋まってしまうこともある。あれをより大々的に、やるイメージで、タイタンが上がった瞬間に道路が陥没するような想像をしてくれれば大体あっている。正確には、その足元にあるのは道路ではなく瓦礫の山なのだが。

 こうなると、タイタンは自力での脱出が困難になる。あの脳筋思考なAIなので、おそらく周りの瓦礫を強引にぶっ壊して脱出を図るだろうが、その間にも時間はかかる。そこで、ようやくトマホークの出番だ。


 海にいる海軍艦船のどれでもいいので、事前に知らせていたこの地点にトマホークの目標を設定して撃ってもらう。身動きが取れないところに撃つだけなら、トマホークのむしろ本業に近い。

 そのトマホークが、周囲の瓦礫ごとタイタンをぶち壊してくれれば、それで俺たちの勝ち。一発で仕留めれなくても、少なくとも小さくないダメージは通っているはずなので、後はもう一発トマホーク撃ってもらうなり自由にできるという寸法だ。


 ……以上が、和弥の考えた急ごしらえの作戦である。


「(瓦礫に落として身動きを止める……まあ、まともに動きを止めたいならこれを使うのが手っ取り早いか)」


 少々リスクがあるが、現状使えそうな作戦としては確かにこれしかなさそうである。

 ……とはいえ、


「だが、その瓦礫があまりに水平に散乱しまくって、そんなに厚さなかったらどうするんだ? 簡単に脱出できるほどの厚さじゃ意味がないぞ」


 うま~く積載してくれているならいいのだが、そうでなかった場合は簡単に払いのけられてしまうだろう。また、これまた見事に瓦礫が積み重なり、空洞らしい空洞がなく、上に乗っても落ちるような隙間がない場合は、ただ単にタイタンに高い足場を与えるだけになってしまう。

 都合よく、その隙間がある“かもしれない”瓦礫の山に誘い込んで落とすことがかなわない場合は……ただの無駄足になるうえ、貴重なトマホークもただ単に一発瓦礫にぶち込んで終わりになるかもしれない。そうなったら海軍にまで迷惑がいく。


 ……が、そこに関しては、


『……祈れ』


「祈れ!?」


 最終的には神頼みになってしまった。急ごしらえとはいえだな、それでいいのか。作戦って。


「ていっても、まあそれくらいしか使えそうなのなさそうですしねぇ……。もうこっちも弾ほとんどないですし」


 ユイが少しため息をつきながら言った。


「あとどんくらい?」


「マガジン一つ分。そっちは?」


「予備マガ1個と今装填してるので最後。……対する向こうは」


「元気溌剌」


「栄養ドリンク飲んでるんかなアイツ」


 あの某製薬会社の奴。飲んでるんならここまでハッスルするのも納得がいかないでもない。もちろん、あいつはロボットなので飲めないが。


「……時間もないしな」


 こっちも体力の限界が見えてきた。いつまでも逃げてるわけにはいかない。

 近くに味方はいない。空から攻撃してくれそうにない。無人機は偵察型しかいないため使えず、海からの支援は目標をある程度固定する必要があり……


 ……もはや、手段はなかった。


「(……やるしかない)」


 そこまで考えて、


「……ユイ、やるぞ。アイツを潰す」


 俺は覚悟を決めた。攻撃は最大の防御という。ここで逃げてて時間稼ぎするのが限界なら、取るべき手段は一つだった。“攻め”である。


「やる気になりましたか」


「ならざるを得ないんだよ。あのクソッたれ巨神をスクラップにしてやる」


「ナチュラルに神様に対して失礼な言動をしおる」


「今だけ許しを請え。こればっかりは俺たちは何にも悪くない」


 元はといえば勝手に攻撃してきたのはタイタンのほうであり、俺たちは何もしていない。もちろん、先制で攻撃したわけでもない。文句を言われる筋合いはないはずだ。

 和弥に作戦の決行を伝え、近くにいる海軍艦船の誰でもいいから連絡をするよう言った。和弥も、司令部に無理やりにでも要請させることを約束し、そこで無線を切った。


「残りあるマガジンをすべて使って賭けようか。瓦礫ができる限り埋まってることを祈りながら」


「いいでしょう。付き合いますよ」


「悪いね。あまり弾は撃つな。向こうにいくまで取っとけ」


「了解。弾は大切にね」


 ユイはすでに牽制弾幕をやめていた。タイタンは周りの外壁を相変わらず破壊しながら、ゆっくりとこっちに近づきつつあった。隠れてはいるが、すでにこちらの位置は大体ばれているだろう。


「……よし、一旦新大橋通りに出る。いくぞ」


「了解」


 俺たちはまた走り出した。すでに結構な距離を走っているため、ユイはまだしも、俺は正直ばて始めていた。「下手したら死ぬ」という恐怖が気力となり、俺の足をどうにかして動かしているような状況だった。

 少し逃げていると、また次のグレネードが構えられる。大分道が開いたので、次はおそらく俺らを狙うだろう。ガトリングもそろそろ使い始めるころだ。

 しかし、こっちもそろそろ小路を出る。弾が少なくなった今となっては、小路にいるより回避に専念しやすい広い道路に出たほうが楽だろう。その点で見ても、和弥の判断は正しいと見れる。


 すぐ目の前に、新大橋通りが迫っていた。


「いいか! 道路に出たらすぐに左だ! 北上するぞ!」


「了解。あとはずっと突っ走りですね?」


「ああそうだ。お前の大の得意分野だろ。しかも一直線だ!」


「走りやすいことこの上ない。今だけスプリンターになりますよ」


「ああ、いくらでもなりやがれ!」


 ユイの自慢の足はこういう時こそ発揮される。いつだったか、動作試験の時に200mを10.35のおかしな速さで突っ走ったアイツの足なら、いくら装備を抱えて重たいとはいえ、相当な速度を発揮することができるだろう。おいていかれないようついていけるか今から心配だ。


 新大橋通りが迫った。最新のドローン情報では、少なくとも近くに敵はいない。仮にいても、今は無視するだけ。タイタンの存在が、一応アイツらを引き付けはしないはずだ。

 ……暴走してることがバレなければ、だが。


「行くぞ、左だ!」


「はい!」


 そして、新大橋通りを出た瞬間、俺たちはすぐに足を左に向け、全速力で走り始めた。すでにフタゴーも構えるのをやめ、背中に回してスリングで固定して腕を思いっきり振って走る。


 ……その瞬間、


「―――ッ!」


 後ろで爆発が起きた。ちょうど、俺たちがさっきいたところのコンクリートがめくれ上がっている。案の定、俺たちを狙った鉄鋼榴弾だ。

 そして、タイタンも新大橋通りに姿を現した。中型グレネードライフルだけでなく、今度はガトリングも構え始めた。照準を合わせるためか、細かく動かしている。その様子は恐怖を与えるものに他ならない。


 だが、俺はそれに負けじと、そして自分を鼓舞するよに叫んだ。



「……撃てるもんなら撃ってみやがれ、このクソ巨人が!」




 ……これが、負け犬の遠吠えになるか、未来の勝者の放つ挑発となるか。




 それは、俺と相棒の足と“運”にかかっていた…………

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