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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第5章 ~勃発~
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捜索・救出作戦 1

[PM14:10 東京都中央区被災区域ホットゾーン上空 UH-60JA]








『―――現在NHUでは、テロ・ゲリラの情報をお伝えしております。えー、午後2時現在、東京都中央区の隅田川以北の区域は、すべて政府より被災区域、ホットゾーン指定がされております。最重要危険区域ですので、すべての車両や航空機は厳重な規制が張られています。また、近隣の江東区西部、港区北東部、千代田区東部、台東区、及び墨田区南部は、すべて緊急活動域、ウォームゾーン指定がされ、他、各区域のその他のエリアでも後方支援区域、コールドゾーンとして関係者以外は立ち入りが規制されています。これらの区域は、後の状況などによって広がる可能性があります。付近の住民の皆様は、政府や自治体の指示に従い、冷静に避難を続けてください。また、まだ被災区域にいる方は、落ち着いて、冷静な行動をお取りください。まだ、付近に武装した集団がいる可能性があります。決して表には出ず、人影がない場所で静かに待ち、各警察・陸軍特殊部隊の救助を待ってください。携帯電話などの何らかの通信手段がある方は、電源を切らずにいてください。GPSを用いて、救出部隊が救助に向かいます。もし余裕がある場合は、ConnecterやTHREADなどを使って、臨時設置した警察・軍共用災害用通報アカウントに避難している場所を投稿してください。ただし、携帯電話にある通常の電話機能はもちろん、THREADを用いる方は、無料サービスされている無料通話機能の使用は極力避けてください。近隣にいる武装集団に聞き取られる可能性があります。できるだけ、ネット上に文面を用いての通報を行ってください。……現在の武装ゲリラと思われる集団の状況ですが、警察、軍の発表では―――』







 少しヘリに揺られていると、すぐに目的地の上空にたどり着いた。

 一見何事もないように見える中央区の風景。しかし、その下では死に物狂いの生存競争が行われているという事実に、思わず緊張の念を覚える。


「和弥、そろそろだぞ。TV切っとけ」


 緊急速報特番に切り替わったNHUの放送を見ていた和弥にそういった。ユイの空間投影機能を使って、ヘリの中でNHUのTVチャンネルを傍受してみていたのだ。さっきからずっと、今回のテロ・ゲリラに関する情報をしきりに流している。和弥曰く、これもある種の情報収集と把握、確認の一環らしい。

 今は東京に関する情報だが、今回のテロの発生場所は全国にわたる。次は他の地域の情報を流すことになるだろう。NHUも大変だ。


「了解。じゃ、ユイさんもういっすよ」


「はい」


 ユイもその空間投影機能を切った。先ほどまで目の前で薄く投影されていたTVの映像もフッと消えるとともに、俺は無線で指示を仰いだ。


「HQ、こちらシノビリーダー。まもなくランディングゾーン(LZ)現地情報インテル要請、どうぞ」


『シノビリーダー、こちらHQ。了解。最新インテル通達。LZ変更なし、周辺に敵影なしエリアクリア。身近な要救助者より救出を行う。LZより北東、直線距離約500m先にわずかにGPS信号あり。詳細は不明だが、信号強度から携帯のものと思われる。貴隊は直ちに当該地点へ向かえ。オーバー』


 皇居前広場の本部からの情報伝達だ。ここから北東500mとなると、その先には小規模ながら密集した文化住宅があったはず。

 あそこは狭くて見通しが悪いから、確かに隠れるには打ってつけだ。GPS信号がわずかしか聞こえないのは、密集してる故の電波の通りにくさが原因だろう。そうなると、後は俺らがどうにかして見つけるしかない。


「了解。ネットへの情報は?」


『そちらは現在確認できていない。ConnecterにもGPS信号位置と合致する情報は投稿されていないようだ』


「THREADは?」


『そっちもダメだ。とにかく、GPS信号の位置を送るから、それを元に付近を入念に捜索してくれ。最悪家内に入っても構わない。また、近隣にはハチスカも捜索を行っているため、何かあったら援護を要請しろ。その旨は向こうにも伝えてある。……GPS信号は今も発せられているから、何としてでも見つけ出せ。生存が確認されていることを願う。オーバー』


「了解。GPS発信位置に急いで向かいます。シノビリーダー、アウト」


『了解。HQアウト』


 そういって俺は無線通信を切った。

 ネット上でのSNSには何も投稿がないか。ConnecterもTHREADも画像投稿機能があるし、THREADに限っては、家内に潜んでいるならひそひそ声で無料通話機能を用いることも一応できるはず。通話自体は、SNSの付属機能を使わずにやることもできるが……しかし、何らかの事情で使えていない可能性もある。

 隠れた場所によっては、その通話の使用を極力避けているというのは容易に考えうる。さっき和弥が見ていたNHUのアナウンサーも言っていた。まだ外に敵がいる可能性が否定できない場合は、極力避けろと。


 しかし、そうなるとGPSの信号のみであたりを探せということになるか……そこそこの高さのあるマンションや住宅街が密集しているエリアであるため、GPS信号がうまく届いてくれるか気になるところだが、何かあったらユイに頼ろう。そこいらを適当に電波傍受してくれれば何かしらわかるはず。


「もうすぐLZや。準備やで」


「了解。よし行くぞ、ドア開けろ」


 敦見さんの準備宣言が入った。事前にファストロープに体を固定した俺たちは、直ちに両サイドのドアを開け、降下の体勢を整える。

 ユイとのグータッチも済ませ下を確認すると、俺たちの降りるLZとなる築地川公園の最北端側の広場が見えてきた。

 楕円形の草むらが生えているあたりに降り立つ。ここなら、敵がおらず、なおかつ最低限降りるためのスペースが確保されている。時間はあまりかけてはいられない。このヘリの音が、敵を引き付ける大きな要因となってしまうからだ。

 そのため、敦見さんも、敵に見つからない様にするために半ば人外的な飛行をこなしていた。中央区の南側にある築地市場上空から、隣接するマンションなどに挟まれて、狭く南北に伸びている埋立地や駐車場を経由して築地川公園に向かうルートを、近隣のマンションとほぼ同じ高さで高速で飛行してやがるのだ。

 ちょっと左右への操作を間違えば、あっという間にすぐ隣にある建物にぶつかってお陀仏というところで、これである。しかも、すぐ下は木々も生い茂っている上、近くにはまだ対空火器をもった敵がいる可能性が否定できず、下手すれば死角から不意打ちを喰らいかねない状況でもある。……正直、まだ地上に降りてないのに無駄に緊張してしまった。

 しかし、それでも第1ヘリ団1、2を争う猛者を自称しているだけはあった。その言葉の裏付けは、しっかりこの飛行技術をもって行われたのだ。緊張はしたが、改めて彼の腕と、そしてそれを適切にサポートする三咲さんのフォロー能力の高さに感銘を受けた。


 そんなちょっとしたアクロバティックな飛行も終わりが近づく。築地川北側にある広場のすぐ上にヘリをホバリングさせると、敦見さんはすぐに叫んだ。


『よし、着いた。あとは頼むで!』


「了解。全員、ロープチェック」


『チェック』


「降下地点確認」


『確認』


「よし、降下!」


『降下!』


 合図とともに一斉に俺たち4人は足を軽く蹴って、地上へと急降下した。ロープをつたって築地川公園広場に降り立つと、すぐにロープを外し、フタゴーを構えて陣形を整える。周囲警戒。敵の姿は肉眼では確認できない。

 ヘリはそのままロープを自動で巻き上げながら、ホバリングを維持しつつ反転。徐々に高度を上げながら急速離脱した。


 ヘリの出番はここまでである。あとは、地上での仕事だ。


 公園内の目立たない場所に身を隠すと、全員にHMDの起動を指示。本部や他の部隊とのデータリンクを結ぶとともに、本部へ無線を入れた。


「HQ、こちらシノビリーダー。ポイントに現着。これより行動を開始する」


『HQ了解。現在近隣で敵の発見は報告されていない。だが注意しろ。そこは市街地だ。電波は届きにくいからデータリンクも場所によっては届きにくい』


「了解。警戒します」


 無線交信を終えると、ハンドシグナルを通じて徐々に前進。まずは、北側にある都道473号線を出ることにする。


「そんで、どのルートで行くんだ隊長殿?」


 和弥の問いに俺は端的に返す。


「あまり目立ちたくはない。目の前の473号線を出たらできるだけ狭い道を行くぞ」


「俺としてはむしろ堂々と行って派手に助太刀したいんだがね。そのほうがカッコいいだろ?」


「バカ言え。そんなの仮想世界でのシミュレーション訓練でやれよ」


「アメリカンなノリがわからない?」


「ここはジャパンじゃボケ」


 向こうの軍隊行動がカウボーイなら、こっちは忍者の如くである。……ていうのは、昔の日米演習時に、日米それぞれの部隊の動き方を比喩した将校らの言葉だが、俺らはそんなカウボーイなやり方を習ったわけじゃない。あんなのは映画でやってくれ。


「はぁ……まあいいや。ユイ、近くに敵は?」


「見てのとおりすっからかんです。たぶんここはまだ影響が少ないのでしょう」


「オーケー。だが油断するな。この市街地じゃどこに敵がいるかは不明瞭だ。お前の周辺走査がカギになる。疲れるだろうが、常時つけっぱにしとけ」


「了解。別にこれくらいで私は疲れませんけどね」


 まあ、間違いないな。俺は静かに同意した。

 一先ず、都道の473号線に出た。慎重に周囲を確認。特に道路の先のほうはよくよく警戒する。そうでなくてもここは視界が良く、何か動くものがあると妙に目立ってしまうため、敵に悟られやすい場所でもあった。


 しかし、運のいいことに誰もいない様である。そそくさと広い道路を渡ると、東側に足を向けて目的地に繋がる道路を探した。


「今目の前にある道路の他に、この先にもう一つ左へ行ける道があるわ。どっちをとっても目的地へはいけるけど……」


「どうする祥樹、判断は任せるぞ」


 判断をゆだねられた俺は、頭の中で事前に把握していた地図を思い浮かべながら、数秒もかけずに即決する。


「すぐ目の前にあるあの道路を使う。あの道路のほうが狭くて視界が悪いはずだ」


 この道路は完全1車線で狭い。おまけに両サイドは高いマンションやアパート、賃貸物件で囲まれており、視界は最悪に等しい。

 ここいら辺は半ば碁盤の目に近い地形となっているため、直線方向での視界は確保できる。しかし、市街地特融ではあるが、同時に死角が多すぎる地形でもあった。近くには自販機や、そのまま放置された車などがあり、こそこそと隠れながら移動するには最適といえるだろう。

 もう片方は2車線道路で視界がより広くなってしまうため、ローリスクなこちらを取ることにした。


「了解。んじゃ、二組ペアでカバーしあいながら進みましょ」


「ですね。そんじゃ、いつものペアで―――」


 とりあえず、いつもの俺とユイ、和弥と新澤さんのペアで行こうとした時である。和弥が一つ提案をした。


「なあ、たまにはペア変えね?」


「―――? なんでだ?」


「いや、いつも同じペアとだと連携偏るだろ? 緊急時に今みたいに都合よくはいかない時だってあるし、たまにはな?」


「ふむ……」


 ……和弥の言うことも一理あるか。確かに、何かあった時今みたいに自由にペア組んで行動できるとは限らない。訓練では6割ぐらいは固定ペアだった。たまには変えていったほうがいいだろう。


「だな。たまには変えるか」


「え?」


「え?」


 すると、今度はユイが「マジで?」とでも言わんばかりの声を出した。即行で顔を背けたあたり、たぶんいうつもりはなかったのだろう。


「じゃあ、たまには祥樹と組むかね。最近これっぽっちもくんでなかったし、別にいいだろ?」


「あ、ああ……」


「じゃ、私はユイちゃんと組むわね。時間もないし、先を急ぎましょう」


 そんなわけで、今回は俺と和弥、新澤さんとユイでコンビを組んでみることとなった。ユイが妙に複雑な視線を和弥に向けているのを俺は見逃さなかったが……和弥も和弥でその視線を察していたのか、陰で「どうしたものか」と苦笑していた。


 とにもかくにも、そのようにして体勢を整えた俺たちは狭い1車線道路を慎重に、かつできる限り素早く移動した。片方のペアが前方を監視し、その間にもう片方が一定距離移動。そのあとは交代し、移動したペアが前方監視、監視していたペアが素早くまた一定距離移動する。

 これを何度か繰り返すことで、警戒を解かずに迅速に進むことができる。


 移動を終え、ハンドシグナルを通じて一旦警戒に入ると同時に、女子ペアのほうに移動を指示した。

 ……と、同時に、


「……で、なんでまた唐突にペアを変えたんだ?」


 俺はその時間を利用して和弥に聞いた。和弥も、そうくることはわかっていたらしい。


「ハハ、やっぱりバレるよな?」


「バレないとでも思ったか。何か考えがあったんだろ? ユイ関連か?」


 わざわざ俺とユイを離したんだ。またユイの例の感情関連で色々と言わされたり聞かされたりするのではと、少し警戒をしていた。

 しかし、今回はそうではないらしい。


「いや、今回はそれじゃない。ちょっと別のことだ」


「別のこと? なんだよそれ」


「気づかなかったか? ……さっき、都道473号線を見たろ。違和感感じなかったか?」


「違和感? 何をだよ」


 随分とすっきりして、首都の道路もこうして誰もいなくなると解放感あるなぐらいにしか感じなかったが、それだけではないらしかった。

 再び移動のタイミングになったので少し位置を変えて、また女子ペアのほうに移動を指示したとき、和弥は言った。


「考えてみろ。あの時誰もいなかったがよ……、おかしくねえか?」


「おかしい? 何が?」


「だから、いくらなんでも“誰もいなさすぎ”なんだよ。敵はいなくて結構だし、一般人はそもそも表には出るなって言われてるから道路とかにいなくて当然だが、“味方”がこれっぽっちも見当たらないのはおかしいだろ?」


「味方……?」


 味方といえば、現在中央区内で作戦展開中の警察SATと、俺たち特察隊、そして、もしかしたらいるかもしれないしいないかもしれない特戦群の奴らあたりか。だが、中央区全体と比べるとそんなにどこにもかしこにもいるってほどの大規模なものでもなく、そこらかしこにいるような状況とは思えない。

 その点を和弥に伝えたが、人間のほうではないという。再び移動し、カバーの段階に入った時、また話した。


「もう一つあるだろ。……ロボットだよ、ロボット」


「ロボット?」


 ああ、なるほど。ロボットか。そういえば、確かに考えてみれば473号線を見渡した時にはこれっぽっちも見当たらなかった。

 ここでいうロボットとは、AHIやカワシマが開発した移動型砲台(MTG)や、警察で採用されてる警備用ロボットなどのことである。また、情報はまだ受けていないが、陸軍あたりも訓練で使っていたものをソフトウェアをとっかえてここに投入しているかもしれない。

 ロボットは人的損失を考えずにいくらでも投入できるため、ある意味人間より大量にここに投入しても差し支えないだろう。仮に武装集団と戦闘になっても、一定の武装組織との戦闘能力・技術はデータとして組み込まれている。無双するかどうかはわからないが、少なくともそんなに苦労するようなことはないはずである。


 ……つまり、ロボットを投入するべきところで、その肝心のロボットが“どこにも見当たらない”ということになる。


 交代交代で移動しながら、時折和弥とそんなことに関しての懸念を話した。


「だが、偶然いなかっただけじゃないか? それに、仮に視界内にいなかったとしても、ロボットの持つ衛星通信リンク使ったところでこんな都市部じゃ信号届きにくいだろうし、たぶんデータリンクで存在が教えられてないだけでそこら近所にいるんじゃねえの?」


「にしては、GPSとかが比較的届きやすい他の地域にもそれらがいるなんて情報がほとんどない……こういう時、ほとんどは企業が警備用を貸し出す規定になってるんだが、それがこれっぽっちも見当たらないぞ」


「規定なのか、それ?」


 和弥に言わせれば、それは事前に政府と各企業連合との間で交わされた厳密な取り決めに基づくものであるらしい。

 政府が、ロボットの普及や管理システムの開発援助を全面的に手助けする代わりに、今回のような災害・有事発生時には、一時的に一部を政府管轄下に置き、今みたいな救出任務や警戒監視要員として大量に配置することが義務付けられるというものだった。これは、今時の大手企業なら例外なく交わされているもので、今回も、それに則って政府が指定した一定数のロボットを“戦力”として迎え入れているはずである。

 各企業ごとに設けられたクラウドネットワークによって、自社のロボットを一元的に管理している『R-CONシステム』ができたのも、こうした側面が一因としてあるのだという。仮に個人が持っているロボットが損壊を受けても、ロボットの中にあるデータはシステム内で保管され、新規ロボットに移植される手筈となっているようだ。ユーザーもそこら辺はすべて事前に同意を得るらしい。

 そのため、手順通り進んでいるなら、今頃はそのR-CONシステムを経由して与えられた緊急指令により、政府主導での独自行動をとっているはずであった。


 ……が、にしてはさっきからロボットをこれっぽっちも見ないのだという。


「データリンクで見る限りじゃ、表示があるのがロボットの信号が元々警察や軍が保有しているモノしかない。これらは元々配備数が少ない。だからこそのこの規定なんだが……、これじゃ意味ないじゃねえか。お前、何か聞いてないか?」


「いや、俺は何も……というか、そこら辺のことは全部初めて聞いた」


「そうか……しかし、おかしいな。企業の連中は一体何をしている?」


 そういって和弥は顔をしかめる。しかし、話を聞く限りでは確かに妙なものでもあった。


 和弥の言う通りならば、所謂穴埋め役となる民間から貸し出されたロボットが、視界内どころかデータリンク内にすら存在しないことになる。

 企業側からの連絡もない。あったらHQを通じてこの無線に伝わるはずで、HQとしても、下手すれば友軍の作戦行動などに関わるため軽視できないもののはずだ。さすがに、和弥ですら気づくものを向こうが気づいてませんでした、なんてことはないだろうから、今頃企業や政府に確認を取っているかもしれんが……


「(……まさかユーザー側が出し渋ったりとか?)」


 だが、それでもほぼすべてのユーザーが一斉にそれをしてるとも思えない。せめて何体かぐらいはここにいてもいい。偶然にしては確率が小さすぎる。


「(……こういう時の本業の方がいないんじゃあなあ……)」


 確かに俺たち特察隊やSAT、特戦群は、こうしたテロ・ゲリラ戦闘にも長けてはいるが、今の時代ロボットも前線に出されるようになっている。人間とロボットが共同で色々と行動しようといった流れになっている中なので、こうした形での不参加は正直勘弁してほしかった。


 さっさとこっちに合流することを祈るが……


「次、また十字路よ。カバーよろしく」


「了解」


 そんな話の最中、新澤さんの言葉で思考は現実へと引き戻される。見ると、目の前には何度か鉢合っている十字路。ここでは、念のため合流する道路の左右を警戒するペアがそれぞれ監視。もう片方のペアが前方を監視しながら素早く移動する手筈となっている。


「和弥、左監視よろしく」


「了解」


 十字路の左右の監視の分担を分け、俺は十字路の右側を監視。データリンクを用いた死角からの情報収集の他、小型の反射鏡を道の陰からだし、自らの目でその鏡に映った光景から様子を窺う。

 どうやら、右側にそれらしい敵はいないらしい。付近の道路にも、敵の存在はデータリンクには表示されていない。


「右クリア。和弥、そっちはどうだ?」


 左側を監視している和弥に状況を聞く。


「ちょっと待ってな、今反射鏡で様子をだな……、ん?」


 和弥は小さくそう呟いた。と思うと、今度は切迫した低い声で、小さく諭すように言った。


「待て。なんかそれっぽい影が見えたぞ」


「何? 間違いないか?」


「ああ、確かに何か写った。……あそこに敵らしいのがいるなんてデータリンクにないぞ?」


 確かに。和弥の示した方向に敵がいるらしい表示はない。データリンクに乗っていないだけか?


「あそこら辺は高いマンションとかが立ち並んでるから、たぶんそれで阻害されてるのね」


「ケッ、もっと近くに無人機か哨戒ヘリの一機でも飛ばして上空監視やってくれりゃいいのによ……」


 和弥がそう愚痴る。現在、UAVを使って上空からの監視はしているのだそうだが、前にも言ったように、今回のテロは全国的に起こっているため、そっちに大量に回さなければならない関係上、ちょっと足りないのだという。

 なので、完全に隅々まで探せないのだ。いつもなら、ここら辺はUAVと衛星がデータリンクして情報を送受信しあうことで、こっちのデータリンクに正確な情報が渡る手筈になっていたのだが……さすがに、ここまで大規模なものが同時に起こるなどとは想定していなかったようである。


「ったく、こんな時に限って近くにいねんだもんなぁ……」


「ここからだと鉄筋コンクリートの建物が邪魔でIFFスキャンできません。和弥さんからは何が見えますか?」


「あー、えっと……、うわぁ、困ったな。こりゃ、さっきから何人か通ってるぞ」


「マジか?」


「マジだ。たぶんこっちにも手の範囲を広げてきてるんだと思う。……うぉ、今すぐ向こうでロケラン持ってるやつを乗せた軽トラが止まった」


「ロケラン?」


 RPG-7あたりかね。ったく、ただの武装集団のくせに重武装なこった。


「でもなんで軽トラ? どこから持ってきたのそれ?」


「たぶん、緊急避難ということでキーをつけたままになってたのを悪用したんでしょう」


 これは災害時の取り決めで、特に首都圏においては、大きな地震が発生した際はほぼ間違いなく通行規制がされる。さらに、ひどい場合はその場で車を乗り捨ててさっさと逃げろと指示がされることもあり、そうなったときは、車にキーを付けた状態で一時的に乗り捨てるのだ。

 これは、後々になって緊急車両が通ったりなどする際に、邪魔な車を見つけたらすぐにどかせるようにするためのものだった。キーがなければ車は動かない。それは、今の時代になっても同じだった。


 今回も、緊急避難に際してキーはつけたままにしているよう指示がされていたはずだった。だが、そのあとに武装集団が本格的に区域を占領してしまったため、こうして悪用することになってしまったのだろう。ちゃんとした災害対策を、悪知恵働かせてうまく活用しやがっている例である。


「クソッ、ロケラン持った奴となんてやり合いたくねえぞ」


「私の救いの手をご希望でしたら、あのロケットが撃たれた瞬間に陸上型CIWSになって差し上げますが、如何します?」


「今時ファランクスかよ。SeaRAMはないのか」


「普通科に置かれてる多目的マイクロミサイル持ってきてくれれば喜んで投げますけど」


「投げるのかよ……」


 そこは撃つじゃねえのかよ。ロケット噴射させるまでもなく、自らで投げるといったあたりミサイルとしての意義の7割ぐらいは失われたようなものであるが。


「あー、和弥。そのロケラン持ちそこから動かないのか?」


「まったくもって動かないな。どうやらあそこの出入口封鎖してる感じらしい。……なんか嫌な予感がするんだが」


「変なフラグ立たせんな……。で、こっちを見てるのか?」


「いや、主に外のほうを見てるらしいな。……いくか?」


「見てない今がチャンスだな……。よし、和弥と俺で警戒する。新澤さんとユイは即行で向こうに行ってください」


「了解。行くわよユイちゃん」


「イエッサー」


 敵がこちらを見ていないなら問題ない。まず二人を十字路の奥に行かせる。敵がこちらにまったくもって興味を示さないあたり、やはり和弥の言う通り外を見ていると考えて差し支えないだろう。

 新澤さんとユイの監視を受けながら、俺と和弥もさっさと十字路を抜けることに成功した。ここから先は目的地まで文字通りの一直線である。

 距離もそこまで離れていない。GPS信号があると思われる文化住宅にはすぐに着いた。目の前には少々ボロいアパートや2、3階建て建屋が密集しており、この中に救助を求める人が隠れているとされている。


「よし、ここが現場だな」


「ボロッちいもんばっか建ってるな。今の時代に合わねえぐらいに」


「まあそういうな。……HQ、こちらシノビリーダー。現場到着。これより捜索を開始する」


 敵がすぐ近くにいることだし、隠れてこそこそとしつつも、急いで捜索せなばならないだろう。俺が無線を開いたころには、すでに他3人はどこから探すか話し合っていた。


『HQ了解。GPS信号に変化なし。直ちに捜索を開始し―――』


 そのまま俺は「開始しろ」という言葉を待った。その指示によって、俺たちはすぐに全力で捜索を行うことができる。

 ……が、


『―――ん? 待て。情報が入った……』


「?」


 その指示が途中で止まった。無線での異変に気付いた3人も俺のほうを向いて疑問の顔を浮かべている。

 GPS情報の更新だろうか? そのように考えていたが……


『……ッ!? ま、マズイ! CB-454周辺にいる各部隊に告ぐ!』


「え?」


 CB-454とはまさしく今俺たちがいる周辺である。本部の声は切迫していた。ただならぬ雰囲気に、俺たちの顔も一瞬にして険しくなる。


「なんだ、何があった?」


 和弥のその言葉に応えるように、無線は続けた。


『展開中のUAVより情報更新。現在当該エリアに―――』


 ……そして俺たちは、




『―――敵の車両部隊が接近中。ロケットランチャーを装備した軽トラック3に随伴歩兵相当の集団を確認! 当該区域を調べるつもりだ!』




「はぁ!?」






 捜索を急ぐ理由が、また要らなく増えることとなってしまった…………

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