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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第5章 ~勃発~
92/181

猛吹雪の後は……

 目の前には時間が止まったような停止した光景が広がっていた。

 右手にはホームが見え、そしてその数百m先はホームの先。そして、さらにその先は、線路の行き止まりだった。

 あと数秒……ブレーキをかけるのが遅ければ、間違いなくあそこに突っ込んでいただろう。衝撃はすさまじくなる。被害は免れなくい事態となるところだった。


 停車後、直ちに電気が止められたことにより、コンソールのモニターも一瞬にしてすべて消えた。静寂が、この運転席内を支配する。


「と……止まった……」


 俺は数秒その光景をじっと見、次の瞬間どっと疲労感に襲われ、目の前のコンソールに前のめりにうなだれた。

 実際にヘリから突入してから、かれこれどれだけの時間がたっただろうか。あっという間にも感じるし、考えてみれば結構長くないか、とも思えなくもない。もう感覚がマヒしていた。


 手をブレーキレバーから離し、手首を軽く振ってほぐす。グローブもさっさと取った。暑苦しくてしょうがない。


「何とか止まりましたね」


「だな。……やっとだよまったく」


 ユイと停止後初めての言葉を交わす。ユイも自身の首につけていたUSBケーブルを取って、制御盤との接続を解除する。電気が止まったこの新幹線は、もう暴れまわることもないだろう。奴らの親玉(?)が腹に巻いていた爆弾も、ハックしたATCからの信号がないので動くことはないだろう。実際に爆発はしてないので問題はないはずだ。


「お疲れさん」


 そういってさりげなく拳を差し出す。


「はい、お疲れさんです」


 そういって左手の拳で軽く突き合わす。そのまま、俺はユイに指示を出した。


「ユイ、軽く乗客の様子見てきてくれ。歓喜した乗客にもみくちゃにされんなよ」


「了解。じゃ、ちょっと失礼します」


 そう言い残しユイはいったん退出。そして俺は無線を開いた。


「あー……和弥、聞こえるか。一応猛吹雪止めたぞ。そっちはどうだ?」


 和弥へと確認の無線を取る。だが、向こうはバックから歓声が上がっており聞こえにくい状態だった。


『ああ、こっちでも確認したぜ! なんて奴だお前は。まさか本当にとめちまうとは!』


「やまない雨はないってね。それは雪だって同じだ」


『ハハ、お前らしい返しだ。だが、止め方ってのもあるぞ?』


「だから、穏便に止めたろ? 穏便に」


『穏便ってなんだっけな……』


 そういって苦笑をこぼしていた。少なくとも、行き止まりに突っ込ませるのよりは穏便だとは思うが……まあ、いつもの新幹線の止まり方ではないのは間違いないだろう。


『一先ずそっちに新澤さんたちと警察関係者が向かってる。そtっと合流しろ』


「了解。乗客さんを―――」


 そこまで言った時である。


『あの、待ってください! わかりましたから、わかりましたからその一気に押し寄せないでください! あ、待って! 一気に出入口に行かないで! 警察の方がきますからそのままで……え? カワイイとかそんな告白後にしてください!』


 …………。


「―――こっちで誘導しようと思ったんだが、妙にうちんとこのアイドルがもみくちゃにされてんだけど、どないしよ?」


『どないしましょうかねぇ……』


 無線は和弥にも届いていた。お互いに苦笑の笑いをしてしまう。

 もみくちゃにされるなよ。とは言ったが、あの状況下からの生還劇である。そりゃ、歓喜の渦というなの一種のパニック状態にはなるだろうか。ましてや、こういうのには慣れていない一般人ならなおさらだ。

 これはさすがにユイ一人送るのはマズっただろうか……俺も一緒についていけばよかったか。というか誰だ、どさくさに紛れて告白紛いのこと言ってるやつは。


『……できる限り急がせるわ』


「おう、そうしてやってくれ」


 ユイも一人で大変だろう。さっさとお助けに行ってやるほうがいい。運転席を後にした俺は、ユイの救援に向かった。

 ユイは案外近くにいた。先頭車両と2号車の間にあるデッキでもみくちゃ状態だった。そこにいるのはまだ若い人たちなあたり、結構パニックになりやすいタイプだったんだろうと思う。

 また、一部過呼吸症候群になってた人がいたので、ユイに頼んで即行で簡易的な治療を施した。そんなに重いものでもなかったのですぐに収まる。おそらく、今までの緊迫した状況下におかれ、緊張や過度のストレスが原因で起こったものだろう。無理もない。


 それらの事態を何とか収めると、一先ずユイを回収するとともに、もう一度車内アナウンスで、警察が来るまで席にいるよう伝えた。考えてみれば、止まった後さっさとこれ言っておけばここまでにならずにすんだんでは、と思い対応の遅さを反省する。


「そろそろ出よう。警察も来る」


「了解」


 とりあえず、長居は無用だということで、先頭車両のドアを開けに行こうとする。

 ……すると、


「……ん? あの、すいません」


「はい?」


 一人の男性が声をかけた。サラリーマンだろうか。どうやらユイのほうに言ったらしい。


「どうしました?」


「いえ、その……その右肩、どうしたんです?」


「右肩?」


 言われるがままにユイは右肩を見た。俺も視線をそちらにずらす。


 ……と、


「……あ゛ッ」


 思わず変な声が出た。その声に、周りの車内にいる人も反応してしまった。ユイは即行で、目に見えない速さで左手を右肩の一部分に重ねて隠す。そして、明らかに動揺した声で、


「あ、す、すいません、ハハハハ。ちょっと傷入りましたかねぇ? ハハハハ」


「いや、えっと……思いっきり切れてた気がするんですけど……」


「(見られてたーッ!?)」と、お互いで目線を合わせる。

 ユイの右肩の一部分。ちょうど防弾チョッキで隠れていないところの服が少しキレていたのだが、“その内側の皮膚まで切れていた”のである。


「(やっばッ! これアイツの体内に血なんてもん存在しないから流血が起きないだった!)」


 迂闊だった。そういえば、先頭車両で前後に敵で挟まれたのを突破しようとした時、ユイが「イタッ」と声を漏らしていた記憶がある。まさか、あの時にあたったのか?

 しまった。そのあとの処理などで完全に記憶から抜けていたが、すぐに気づいていれば隠せていたものを。


 どう誤魔化そうか……と、必死に頭をひねらせていたが、ユイが少し動揺しながらもその質問に返した。


「え、えっと……じ、実は、義手なんですよこれ。学生の時にちょっと事故で右腕をね……ハハハ」


 なるほど、ナイスな対応だ。たしかに義手なら、切れ目から血が流れていなくても問題はない。ただの機械なんだからな。


「え、でも義手にしては結構派手に腕動かしてましたよね?」


「え゛ッ。えっと……それは……」


 少し行き詰ったが、俺はすぐにフォローに入った。


「ああ、これちょっと軍のほうで作ってる義手なんです。なので民間に出回ってるのとは違うんですよ」


「違うんですか?」


「ええ。軍のほうで補助外骨格パワードスーツ技術を応用して開発してた、最新の神経接続型のものです。彼女、学生の頃に事故に会って右腕が壊死してしまって、そんで、当時開発中だったこれをつけるための臨床試験体となってまして……、結果、ご覧のとおり」


 即興で適当なストーリーを作り上げたが、それでその人は納得してくれたらしい。一先ず変な疑いは晴れたようだ。

 実際、こうした神経接続型の義手というのは現在開発が進んでいる。いくつか派生があり、これはそのうちの一つで、軍が独自に作っているものとした。

 ……桜ユイという偽の名前と今回の経歴といい、なんか、コイツの偽のストーリーがどんどん出来上がっている気がするのは気のせいだろうか。


「義手ですか……ちょうど医学関連を学んでいるのですが、見せてもらっても?」


「あー、ちょっと試験中ですのでむやみに触れなくてですね……」


 そんなことを言って逃げながら、その場を一旦後にする。そろそろ警察とかがくるのでドアを開けねばならない。


「……私、いつの間に事故にあってたんです?」


 そんなジョークが飛んでくるも、俺は半分スルー。


「いつかは起こすんじゃない? お前なら割とありそう」


「なんですかそれ……、というか、いつの間に右腕“だけ”が開発されたことになってるんです?」


「さあね。だが、軍が開発したのは間違ってないだろ?」


 実際は、右腕どころか“ハード面での中身と自我を含む体全体”なわけだけども。


「んで、その怪我どうしたん? 途中撃たれたような声出してたが」


「守ったんですよ、祥樹さんを」


「俺を?」


 話に聞くところによれば、どうやら俺は例の後ろ側にいた奴から銃撃を一発だけだが受けるところだったらしい。大体左肩のところ。ユイが撃ったと同時に、向こうも俺に向けて撃ったのだ。

 だが、ちょうど振り向いていた時にそれらの状況を瞬時に判断し、自身の右肩を少し上げてわざとあたりにいったそうである。そうすることで、銃弾を弾いて別の方向に飛んでいくようにしたのだ。ユイがちらっと後ろを見た限りでは、弾の弾着したところからして、俺のちょうど左肩のすぐ近くを掠めていたらしい。あっぶね。

 ある意味、何もつけていない素の状態でも人間以上の防弾能力があるロボットユイだからこそできた芸当ではあるものの……


「……でも、それ痛くね?」


「そんなに痛くないですよ。痛覚はありますけど」


「マジかよ」


 銃弾掠めて「あんまり痛くない」で済ませるあたり、コイツの人外的な面をまざまざと感じることができる。普通の人ならちょっと狼狽える。

 ちなみに、この切れた部分。時間はかかるが自動的にくっつくらしい。切れ目をくっつけた状態である程度熱を与えていれば、切れ目部分が溶けてすぐにくっつき、そのあとちょっと冷やせば勝手に固まる仕様。

 事前に貰ったアウトラインにそんなこと書かれてなかったが……、人工皮膚を加工に加工しまくった結果入れることができた能力だとか。別にこれ自体はそんなに高度な技術ってわけでもなく、今となっては飛行機あたりでも一部使われてるそうである。


「―――まあそんなわけで、そんなに気にせんでも勝手に治りますのでご安心を」


「そうかい。……しかし、また助けられたな」


「お気になさらず。むしろそういう役目を負わないといけないので」


「まあ、そうだけどさ……とりあえずサンキュー。助かった」


 そういって手で頭を軽くポンッと当ててやる。自然とやった行為だが、ユイは即行で自分の両手を頭にのせて顔を伏せた。

 ……ああ、これでもダメなの。マジでか。いいじゃん、頭にちょいと手乗せるぐらいさ。なんてことないって、ただのスキンシップだって。

 それでも、ユイの顔は上がらない。赤面してるのかどうなのか……そんなことを考えながら、ドアを開ける作業に入る。


 少しして、新澤さんと警察の人たちが大挙してホームにやってきた。電気が止まっているため車内へのドアは手動で開けられ、一気に乗客の保護へと入る。

 俺たちも新澤さんと合流した。


「お疲れさま、無事だったみたいね」


「ええ、まあ。この通り」


「まったく、暴走した新幹線を止めるためとはいえ……、こんな荒いやり方をほんとに実践するとはね」


「吹雪かれたんじゃどうしようもねえです」


「天気の話してないわよ」


 そんな軽いジョークを交わす。ここまでの荒いことをしたのに、少ししたらこんなジョークを交わせるほど精神的にも余裕ができてきたあたり、俺もこんな、普通に考えてみれば非現実的ともいえる状況下に慣れてしまったのだろう。幸か不幸かは知らないが。


 その後、和弥とも合流。対策本部は、特察隊のほうから来た本隊が引き継いだようだ。二澤さんたちも、後から合流するらしい。


「一先ずは無事で何よりだ。しかし、敵は……」


「見てのとおりの武装した連中だ。間違いなくテロリスト連中だろう。それも……」


「今東京中央区で跋扈している連中のお仲間だな。タイミング的に見ても明らかだ」


 その点は和弥と見解が一致した。警察と調整をしていた新澤さん曰く、向こうもその線で見ているという。

 日本全国の主要都市で起きている武装テロが、すべて同一組織、ないしは事前に申し合せた同じ目的を持つ複数の組織の犯行であるという見方が、警察では次第に浸透し始めているという。尤も、状況証拠からしてそれは明らかなので異論はない。


「事件解決の立役者として、色々と聞きたいところだが……」


「また政府専用機の時みたいに事情聴取か?」


「いや、俺たちは軍人だ。今はそれをする前にやることがある」


「……それもそうだな」


 お隣の中央区では今現在リアルで戦闘中なんだ。和弥の情報によれば、こっちからの情報を得た特察隊本部のほうで、他の駐屯地にいる特察隊を中央区周辺に張り付かせているという。

 敵の規模は未だにすべてを把握できていない。室内や地下に逃げ込み、ゲリラ行動を起こしているという。


「ここまでのことをする人員や弾薬、指揮系統……、どう見てもただのテロ組織とは思えない。何か、奴らを動かしている何かがあるように思える」


「軍のほうもそれを?」


「疑ってるわ。特察隊本部のほうに確認したけど、確認できるだけでも200~300。ドローンの上空偵察もしてるけど、何機か落とされたらしいのよ」


「対空火器まで持ってるのか?」


「旧式のスティンガーを持ってるのが一瞬確認されたわ。最新のドローンといえど、たとえ旧式であっても十分脅威にはなり得るわ。たぶん、まだほかにも持ってるかも……」


「おいおい、ウソだろ……」


 都市部にいるただの小規模武装連中が携行対空ミサイルを持ちますか? おかしいと思いませんか? あなた。……って、どこぞのニンジャみてえに言いたくなるほどの呆れた状況だ。

 RPG程度ならまだわかる。前々から福岡あたりでもよく所持が確認され、警察に散々にしょっ引かれまくっていた歴史がある。だが、携行対空ミサイルなんてそうそう出回るもんじゃない。どこから流れたんだ一体?


「携行対空ミサイルだけじゃない。奴ら、テロリストおなじみのIEDや、パチンコ玉と釘を鍋に詰め込んだ簡易型赤外線感応式の即席地雷も大量に使ってやがる。しかも、ご丁寧にカモフラージュしてだ。おかげで、満足に捜索もできやしない」


「入念なこったな……」


 IEDどころか、即席地雷まで用意してきたか。

 これは圧力鍋にパチンコ玉を大量に詰め込むことにより、何らかの形で爆発すると同時にそれが四方八方に吹き飛ぶ、いわばお手製クレイモア地雷のようなものである。

 かつて2013年にアメリカで起きたボストンマラソン大会の爆破テロ事件の時、テロに使われた爆弾がこのタイプのものだった。実際には、釘やボールベアリングなどの効果を高めたものを使っていたようだが、今回のものもどうやらパチンコ玉と釘を併用したものらしい。


 それらが、行く手に大量にばら撒かれているのだという。それも、カバンやら人形やらに詰め込まれた状態で。


「大半は事前に探知することができるらしいが、どれも赤外線感応型で、小型の簡易センサーがあるらしい。近くを誰かが通ったら、即ドカンだ。処理班がくるまで不用意に近づけない状態になってる。処理班以外なら俺ら特察隊あたりだが……まだ中に入れてねんだ。今警察が交渉してるらしいな」


「……」


 その報告を耳にしながら、俺は首をひねった。


 新澤さんや和弥のほうに入った報告がすべて正しいと仮定するなら、敵は少なくとも数百の人員を募り、数時間の間警察や国防軍の戦闘部隊と渡り合える分の大量の銃火器と弾薬、さらに一部携行型誘導兵器まで備え、そんでもってそれを日本全国の主要都市、いや、全世界の都市でテロ行為を展開しているということになる。


 ……そんなことができる組織なんて聞いたことないぞ? 今までのテロ組織だって、どんだけでかくなっても、先進各国の主要都市内でここまで内戦じみたことはできなかった。精々、治安が悪い中東やアフリカあたりで暴れるぐらいでしかないし、それが常識だった。

 それが、完全に常識を覆された形である。どう考えたらこんな状況に納得できるというのか。


「(……目的は知らんが、奴ら、本当に“ただの”武装組織か?)」


 ただの武装組織がやることではない。そもそも、彼らとしてもここまでのことをする必要性はどこにもないはずだ。先進各国を敵に回してでもやりたいことがこれっぽっちも思いつかない。


 ……おかしな点ばかりだった。この新幹線の件といい、謎が多すぎる。奴らの意図が読めないし、そもそもどうしてこんなことができるのかすらわからない。


「(……なんか変だな……)」


 そんな疑問を抱くが、次の和弥の問いに俺は思考をさえぎられることとなる。


「そういえば、そっちはどうだった? 何か情報とかは?」


「え? あ、ああ……そうだな……」


 情報といっても、何もよく見たりしたわけではないんだが……と、何かなかったか記憶をたどっていると、


「それでしたら、ちょっと気になるものがありまして……」


 ユイがそう言ってポッケから何かを取り出した。何やら焦げた紙切れである。しかも、ご丁寧に小さい袋に入れられている。

 和弥がすぐに喰い付いた。


「それは?」


「運転席のドアの近くで見つけました。爆発に使った時のものかと」


「ああ、そういえばなんか爆発の跡あったな……」


 最初運転席に入るとき、爆発があった時のようにドアが吹き飛ばされてたのを思い出した。というより、ここまではっきりしたものをすぐに思出せなかった自分にもビックリであるが。

 ユイは続けた。


「たぶんテープ型爆薬ですね。粒子スキャンしたら、ロシア型の旧式な爆薬圧縮がなされていました」


「ロシア式? てことは……」


 ロシア式のテープ型爆薬といえば、すぐに思い出されるものがあった。ユイから帰ってきたものも、それを肯定するものだった。周囲に聞こえないよう配慮しながら言った。


「たぶん、今頭に浮かんでいるものと同じです。政府専用機で使われたものと同類でした」


「やっぱり……」


「政府専用機のって、まさかドアぶっ壊すときの?」


 和弥が聞いてきたのに同意しつ、俺が引き継いでいった。


「ああ。元々、政府専用機のコックピットのドアなんて、そこら近所の爆弾括り付けて爆発させてもぶっ壊れない程度には強度は高かったんだ。それでもぶっ壊れるほどの爆発力を持ってる。新幹線のドアなんざ簡単に吹っ飛ぶな。ある程度火薬量抑えたとしても十分すぎるだろう」


「マジか……あの爆薬ってあれだったのか」


 和弥も少し唸るような声を出した。

 ユイの粒子スキャン機能は今までで何回も出してきたが、このテープの残骸からもそこら辺はしっかり読み取ることができたようだった。

 政府専用機で使ったのと同じとなると、これは同一の組織が使ってる可能性も当然出てくるということだ。もちろん、同じタイプのを別の組織が使ってるという可能性も否定できないし、このタイプはどっちかというと広く流通しているものらしいが、少なくとも、ある程度絞り込むことぐらいはできるだろう。ましてや、日本で活動する組織で……なんて考えたら、もっと絞られる。


「テープ型爆薬なんて持ってるやつはそんなに多くはないはずよ。誰だって持ってるわけじゃないし、絞るのはそこまで難しくはでしょうね」


「確かに。そこは警察や公安の捜査次第だろうが……まあ、そこまで難易度として高いものにはならんはずだ」


 そこは同意だ。元々、日本で活動する組織なんて限られている。この時に限って日本にやってきた、なんてことを除けば、特定は難しいものではない。

 さっきの武装した連中も、考えて見れば中国の北京訛りの日本語を話していた。間違いなく中国出身者だろう。となると、大抵は共産系だ。


「(やっぱ、そっちの連中かね……)」


 日本でテロするためだけにここまでの大金はたくとも思えんし……そうするならせめて日本で活動する別の組織と契約ぐらい結ぶだろう。最近のテロ組織はそれくらいのことはする。考えられるとしたらそんなもんだろうと思う。


「……あー、それと」


「?」


 さらに、ユイが追加でこんなことを言っていた。


「たぶん今警察のほうでも事情聴取してるんでしょうけど、一部の乗客さんの会話を聞いてたら、なんかこんなことを言ってまして」


「何を言ったって?」


「なんか、ケラウノスがどーたらって」


「『ケラウノス』?」


 聞いたことのない名前だった。何となくティラノサウルスに似てるから恐竜とかにありそうな名前だな、とか思っていたが、どうやら乗客たちの間でこれの話題が頻繁に離されていたらしい。

 ケラウノスってなんぞや。ということで、和弥に解説を頼んだ。案の定知っているらしく、得意げに解説を始める。


「『ケラウノス』ってのは、ギリシャ神話に登場する武器の一つだ。日本語では雷霆らいていとも訳されるな」


「雷霆って雷のこと?」


「そうです。『キュクロープス』っていうギリシャ神話で出てくるめっちゃ凄腕の鍛冶職人が作ったもので、ギリシャ神話の最高神兼天空神、まあつまり、一番偉くて、全宇宙から雲・雨・雪・雷など各種気象現象まで支配しちゃう『ゼウス』って神様が使ってたメインの武器だな」


「なんかえらくチートな神様が出てきた気がするんだが」


「まあな。そんで、そのケラウノスの威力ってのもまたおかしなもんで、ゼウスがこれを使えば世界を一発で溶かせるし、やろうと思えばこの宇宙のすべてを焼き尽くすことだってできる、まさにチートの武器だ」


「チートどころか完全に“ぼくのかんがえたさいきょうのぶき”状態じゃねえか」


 ゼウスさんとかに限らんが、神様は一体何がしたくてそんなおかしな武器を持とうとしてるのか。日本でも何かあったよな、そんな感じの奴。


「まあ、神話に登場するものなんてそんなもんだ。これは両端に三又のついた超小型の槍とも伝えられているし、雷光そのものという話もある。ぶっちゃけ神だけが使える必殺技だ」


「そんな必殺技あったらこの世界何回滅びるんだか」


 神話系はよくわからんが、まだこの世界が生きてるってことは、それは使われなかったってことだろうか。……いや、登場してるんだから間違いなくどっかで使ってる。たぶん威力を弱めたんだろうな。たぶん。


「そんで、そのケラウノスがなんだって?」


 和弥がユイに話を振った。


「なんか、そのコードを探してるとか」


「コード?」


 コードって、なんだ。ケラウノスって名前の付いた爆弾でもあるわけか? しかし、和弥は首をかしげていた。


「ケラウノスなんて名前のついたもので、奴らが使いそうなものなんてないですよ。何を指して言ったんです?」


「さあ……、ただ、それを乗客たちに聞いて回っていたらしいのは間違いないです」


「ふむ……」


 ケラウノスのコード……何のことだかさっぱりだが、それが奴らが新幹線を乗っ取った原因であるとするならば、これは一体何の意味合いを持つんだ?

 新幹線を乗っ取らねばならないほど重要性の高いものだ。そんな軽い存在ではないはず……


「(ケラウノスか……、気になるな)」


 固有名詞として使われていたのか? いや、もしくは……


「和弥、もしかしてこれただの通称か何かだったりしないか?」


「通称?」


「ほら、例えば……うちらで、軽装甲機動車のことをラヴとかライトアーマーとか言うみたいにさ」


 彼らが正式名称ではなくそういった通称、もしくは愛称を用いて言っているのだとしたら、もしかしたら可能性はある。尤も、それで奴らが使いそうなものは俺の頭では思いつかない。

 だが、和弥もそれはさすがに頭を悩ませた。


「愛称でケラウノスねぇ……そんなのあったっけかなぁ……?」


「雷霆ってことは、雷だろ? なんか、上から降ってくる奴とか」


「そんなミサイルじゃあるまいし……えっと……」


 和弥が必死に思い出そうとする。しかし、中々出てこず、答えは出てこない。


「上から落ちてくるなんて爆弾とミサイルと……あとは廃棄衛星ぐらい? でもどれも奴らが扱うものではないだろ」


「そうか……」


 俺たちの知るものではないか。何らかの通称とかに使ってるのかと思っていたが……、そこはアイツらから後で聞き出すしかないようである。


「まあ、そこは後々わかるだろ。とりあえず、そろそろ時間だし二澤さんらとも合流して―――」


 話を終え、和弥がそういった時である。


「あ、いたか!」


「ん? お、噂をすればなんとやら」


 声のしたほうを見る。ホームに繋がる階段から、二澤さんらが急いで降りてきているようだった。しかし、妙に急いでいるように見える。


「二人とも、無事だったか。状況は聞いたぞ。大変だったようだな、お疲れ様だ」


「ええ。しかし、何か急いでるので? 妙に息切れしてますけど」


「ああ。ちょっとこれ見てみろ……」


「はい?」


 二澤さんが取り出したのは一個のタブレットだった。画面を操作すると、そこには『Our Tube』の文字。全世界に普及しているただの動画サイトだが……


「……あぁ、あった。これだ」


「ん……?」


 その中に、再生数ランキングトップに君臨している動画のタイトルには、こう書かれてあった。


「『全世界の人民に告ぐ』。……なんすかこれ?」


 なんとも悪役じみたタイトルだが、二澤さん曰くこれは日本語訳されたものらしい。


「この動画自体、実はつい1時間前に投稿されたばかりだ。だが、今じゃ再生数が2000万を超えて、今もなお増加中……」


「とんでもねえ人気ですな。一体なにが流れてるんで?」


 和弥が少し気の抜けたような声で聞いてきたが……


「……この中にあるのは……」


 返ってきたのは、これっぽっちもそんな和弥みたいなノリには慣れないものだった。




「……犯行声明だ。今回のテロを起こした、組織からの。ネットに声明投げやがったんだ」




 俺らは一斉に二澤さんに驚愕の表情を向けた…………

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