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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第4章 ~兆候~
84/181

迎撃

 対水上戦闘。CICでそのような言葉が何回か復唱された。カンを棒でたたいた時のような警報もなる。

 ここから先はCICを全力で守らねばならない。戦闘中は、ここは完全に無防備だ。


「結城さん、そっちは給弾にいく乗員の護衛を。ここは俺たちが」


「ああ、頼む。ここの戦闘指揮は任せた」


「了解。ご武運を」


 結城さんは自身の部下を連れて、乗員数名を護衛するためCICを離れた。そこからさらに出入口付近に俺たちも陣取り、おそらくやってくるだろう敵の襲撃に備える。

 そして、それはCICのほうでも同じだった。


「電測、状況を!」


「複数、いや、大多数の漁船団が突入中。以降、これを目標群アルファと呼称! 330度、距離7海里マイル。まっすぐ突っ込んでくる!」


「ギリギリです。もはや警告の必要はありません。今すぐにESSMで迎撃を」


「了解。対水上戦闘。ESSMを対水上迎撃モードで設定、衛星リンク急げ」


 CICの乗員たちが慌ただしく動き始めた。指示が飛び交い、冷静さを保ちながらも幾ばくかの焦燥感も感じられる。


「(ESSMって対空ミサイルだよな……水上にも撃てるのか)」


 そういったモードがあるのだろうと思いながら、俺はさらに無線を開いた。


「チャーリーよりアルファ。ブラボーが給弾を行う乗員と移動を開始。チャーリーはCICの防衛を行うため、せめて機関室のほうの奪還に戦力送ってください。そろそろ向こうも限界のはずです」


『こちらアルファ。ここに残っていた乗員で臨時部隊を編成した。今機関室とCICの二つに向かっている。コールサインはそれぞれデルタとエコーだ。俺たちはここを引き続き防衛する』


「チャーリー了解」


 二澤さんとの交信を済ませ、さらにその無線の先を変えた。


「エコー、こちらチャーリー。現在CICにて防衛準備中。そちらの状況を知らせ」


『チャーリー、こちらエコー。現在そちらに急行中だが敵の襲撃にあっている。数分待ってくれ』


「了解。できるだけお早目に。……デルタ、そちらはどうか?」


『現在エコーと同じく機関室に急行中。すぐに終わる。少し待て』


「了解。そちらもできる限りお早目に」


 両チームともにすでに行動を開始した。あとは、援軍が到着するまではここで俺たちのみで対応することになる。出入口はせまいため、二人ずつ交互に、それも通路を出て左右をそれぞれで監視していく。どっちから来るかわからないうえ、それを大体一人で対応することになるため、結構キツくなる。


 完全に数のほうでは不利な状態だ。


「そろそろ敵が復活して襲撃してくるぞ。艦橋からもやってくる可能性もある」


「正直ここから出てさっさと床に薙ぎ払ったほうが早いと思うんですけどね」


「お前みたいな超人ばっかじゃねえの」


 たまにエグイことを言うコイツの言動にも最近慣れてきた自分がいる。苦笑しつつも、そのまま待機した。最初は和弥と新澤さんが出入口を塞ぎ、襲撃に備える。

 すると、さっそく動きがあった。スタンバイ後数秒もしないうちに、和弥が叫んだ。


「チッ、やっぱりおでました。迎撃を開始する!」


「階段をぞろぞろと降りてきたわ。艦橋から急いで降りてきたみたいね」


 二人がすぐに89式をぶっ放し始める。幸い、CICには衝撃弾を装填したマガジン弾薬が大量に備えられていた。補充はいつでもいける。弾薬をさほど気にせず遠慮なく撃てる分、こっちには余裕があった。

 とはいえ、数の暴力というのはあるのだが。


 さらに、今度は対水上戦闘を行っているほうでも動きがあった。


「ESSM、発射用意良し」


「目標群アルファ、ESSM攻撃識別確認。すべて漁船。数71」


「最前列を狙って混乱を起こします。12のターゲットに配分完了」


「艦内無線にて伝達。外甲板にいる乗員は退避せよ。繰り返す、外甲板にいる乗員は退避せよ」


 レーダーに映し出された情報を基に的確に攻撃手順を整える。すべての準備が終わり、艦長が指示を出した。


「了解。左対水上戦闘、CIC指示の目標……ESSMシースパロー、撃ち方始め!」


ESSMシースパロー、発射始め!」


 発射に伴う警報音とともに、CIC内にも重く暗い音が連続して響き渡った。先ほどの指示から、一斉に12のESSMを連射したのだろう。レーダー画面を見た限りでは、ESSMはしっかりと誘導されていた。艦の誘導機器に問題はなさそうである。


ESSMシースパロー発射完了バーズアウェイ。正常飛行。弾着15秒前」


「目標群アルファ、針路、速度変わらず」


「付近にいる巡視船に退避要請。……弾着5秒目。スタンバイ……マークインターセプト」


 時間などあっという間だった。ものの十数秒でESSMは弾着。12個のESSMの反応は消え、その代りその矛先にいた12隻の漁船を道連れにした。

 極めて高精度。外れはゼロだった。


「ターゲットキル。目標群アルファ、12隻撃破」


「目標群アルファ、戦列乱れます。一部集団進路変更、北の方角へ転針。以降目標群ブラボーと呼称」


「次の攻撃に備え。ESSM第2派準備」


 さらなる迎撃のための準備が整う中、今度は和弥たちの声だ。


「祥樹、ユイさん。そろそろ交代だ。こっち疲れた」


「了解。ユイ、やるぞ。くれぐれも前にでるなよ」


「アイッサー」


 交代の時間だ。マガジンの装填がてら休息に入る二人に代わって、今度は俺たちが守りに入る。

 出入り口左側の敵は依然として攻撃を仕掛けるが、積極的ではない。先ほどまでの戦闘で怖気づいたかは知らないが、好都合だ。

 一方、右側からの攻撃が見受けられない。そっちは後部格納庫方面なので、例のエコーやデルタなどが引き寄せているのかもしれない。こちらも好都合だ。


「牽制だけでいい。余裕はあるが弾薬は無駄にするな。CICが攻撃されないならそれで構わない」


「了解。最低限牽制ですね?」


「ああ、牽制だ。撃たせず進ませなきゃこっちのもんだ」


 無理に敵を倒す必要はない。倒してしまうのが理想だが、それができなくても最低限こちらに近づけさせなければこっちのもんだ。それだけで、CICのほうでの戦闘の時間が稼げる。


 中からも、声が響いていた。


「第2派、迎撃完了。一部ターゲットサーバイブ。されど減速入ります」


「第3派急げ。まだまだ来るぞ」


「目標群アルファ、距離5マイル。ESSMまもなく最低交戦距離限界入ります」


 次々と放たれるESSM。そろそろ、ミサイルだけを使うのも限界となってきた。確か、この距離は本来は主砲を用いているはずで、ESSMの出番じゃない。そろそろ、こうした近接戦闘に必要不可欠な主砲がほしい。

 俺は思わず無線をかけた。


「ブラボー、こちらチャーリー。そろそろESSMだけってのも限界来てます。主砲の給弾はまだですか?」


『こちらブラボー。たった今到着した。少し待ってくれ。すぐに終わる』


「了解」


 給弾にはさほど時間はかからないはずだ。実弾装填がされたら、あとはバンバン主砲で薙ぎ払ってもらうまでだ。

 さらに、敵も敵で疲弊しはじめた。長い戦闘時間を経てか、体力が切れ始めたようだ。軍人にしてみればこの程度どうってことないのだが、所詮は素人か。すぐにバテる。


「よし、ここまできたら体力切れを狙うのもいい。奴らを体力的に撃てない様にすれば後からでも―――」


 と、そこまで考えていた時だった。ユイは突然後ろを向き、


「後ろ!」


 その叫び声とともに、持っていた89式の銃床部を後ろに突き付けてきた。咄嗟にしゃがんでよけた俺だが、その後ろにいたのは……


「―――ゲッ、いつの間に」


 敵だった。同じく89式を持っていたが、私服に防弾チョッキ。明らかにふんだくってきたものだ。奴らの一味が、いつの間にか後ろに控えていたらしい。

 だが、それで終わらない。


「(―――ッ! しまった!)」


 さっきのユイの攻撃により、ユイ自身が出入口から出てしまった。その隙を見てか、階段方面にいた敵が陰から出てきて攻撃の構えをとった。


「(クソッ、一斉に撃たれるのはマズイ!)」


 いくらユイとて、一斉に射撃を受けては、死にはしなくても体勢を崩す。集中攻撃を与える隙は作りたくない。


「ユイ、伏せろ!」


 今度はこっちの番だ。俺はユイに咄嗟に伏せるように言うと、同時に89式を階段方面の敵に構える。

 ユイはすぐに反応した。一瞬にして床に伏せると、完全がら空きとなった空間から、俺は一気に89式の衝撃弾をばら撒いた。

 ばら撒くだけで効果は絶大だ。こっちの攻撃を読まれていた敵は一瞬動きを止めたが、その一瞬の間に大量の衝撃弾を一気に浴びた。

 ユイを撃つチャンスとほとんどが陰から出ていたため、半ば一網打尽の様相を呈した。一瞬の油断が命取りとなる、それをよく教えられるものだった。


「……これで借りはチャラな」


「お互いに」


 そんな軽口をたたくと、ちょうどいいタイミングで彼らが到着した。


「すいません、お待たせしました」


「―――ッ! やっときた」


 その視線の先には、青いデジタル迷彩の作業服に防弾チョッキと89式の装備を抱えた乗員がいた。その数3名。彼らが例のエコーチームだろう。


「お待たせしました。ここからは我々も参加します」


「感謝します。では出入口付近を固めてください。おそらくまだ奴らは来ます」


「了解。よし、全員配置につけ」


  エコーが俺たちと交代した。俺とユイはいったんCIC内に入り、和弥と新澤さんにバックアップを依頼した。バックアップといっても、万が一向こうが負傷などをした際の穴埋めをするためにスタンバイするだけだが。

 ついでに、海軍系に詳しい新澤さんに状況を聞いた。


「状況はどうです?」


「迎撃はしてるけど、数が多くて結構手を焼いてるわ。しかも、さっきまた一部針路を変えていった。3つの方向に全力航行中。どれを優先するかで手をこまねいているみたいね」


 彼女の言ったことは事実だった。レーダーの画面を拝見する限りでは、敵の漁船は確実に数は減らせど、集団は3つに分派している。アルファ、ブラボー、チャーリーと呼称がレーダー画面に重ねて表示されていた。

 どこもここから見るとほぼ同じ距離にいる。普通ならこっちに向かっているのを優先するのがセオリーなのだが、どうもそういうわけにはいかないようだった。


「聞いてればわかるわ。私はスタンバイ入るから」


「了解」


 そういうわけで、言われた通り乗員たちの会話を聞いていると……確かに、新澤さんがああいった理由が理解できた。


「目標群ブラボー、依然として針路を維持しています。針路上のタンカー『セントス』の退避が間に合いません」


「『セントス』への警告は出したか?」


「すでに出ています。しかし、足が遅い上退避機動ものろいためすぐには……」


「目標群チャーリー、針路上への客船『クリスタル・プリンセス』にまっすぐ突っ込みます! 突入まであと十分弱とありません!」


「そっちは事前に退避を伝えていたはずだろ! なんで逃げないんだ!」


「すでに機関故障につき微速航行中との連絡が……」


「クソッ! なんだってこんなタイミングで故障なんて起こしやがるんだ……ッ!」


 あまりのタイミングの悪さに新澤さんの兄さんは悪態をついた。なるほど、退避が遅れた民間船が近くを航行していたのか。しかも、片方の客船はのろのろ航行中ときた。

 これでは、自分を優先させるなんてことはあまりお勧めできない。タンカーはもちろんだが、客船に突撃したらどんな被害がでることか。


「クリスタル・プリンセスって、確か外国の奴だよな?」


「ラングジュアリークラスというクルーズ船の中でも特に上級クラスにあたる豪華客船の1隻です。総トン数50,000トン超え、旅客乗員約1000人。たかが可燃物詰んだちっこい漁船とはいえ、そんなのが数隻当たったらただでは済みません」


「だよな……」


 懇切丁寧な返答に感心するとともに、どれを優先させるかで手間取るのも納得した。

 しかもの船、仮に全力を出せても精々20ノットが限界という豪華客船ならではのノロさ。35ノットも出てる漁船のほうが即行でたどり着くに決まっている。


 しかし、それでも艦長は決断した。


「……ミサイルはブラボーとチャーリーに分けろ。それぞれの最前列を潰せ。アルファは主砲で対処」


「了解。ESSMはブラボーとチャーリー、主砲はアルファを狙う」


「主砲、給弾はまだか?」


『ただいま完了しました。2番主砲、いつでもどうぞ!』


 主砲の給弾が完了する。瞬間、主砲は自動的に目標を指向し始めた。その様子は外部カメラから確認できる。事前に、主砲の所定目標を入力させていたようだった。


「よし。2番主砲、セーフティキャップ自動解放。左対水上戦闘、目標群アルファ。……主砲、うちーかたはじめ!」


「主砲、うちーかたはじめ!」


 ESSMに加えて、さらにそこに主砲も加わった。ESSMの発射音だけでなく、主砲の発砲音も連続して響き渡る。前部にある2基のうち片方のみだが、ないよりは幾分もましだった。

 ミサイルで撃ち漏らした漁船に対してバンバン主砲弾を当てまくる。しばしスタンバイ中の俺は少しその光景に見とれていた。伊達に、かつて最強の防空艦をやっていたわけではない。

 防空だけでなく、対水上でもその真価を発揮していた。


 主砲が加わったことによって、どんどんと敵が沈んでいった。気が付けば、80近くいた漁船はすでに10隻を切ろうとしている。


「目標群ブラボー、残り3隻。次の攻撃で仕留めます」


「目標群チャーリー。敵船すべて撃沈しました。針路上の客船に被害なし。客船、先ほど機関回復の連絡あり」


「客船にそのまま退避をさせるよう伝えろ。アルファはどうだ?」


 ほとんどの敵が沈んでいったところだが、敵は未だにこちらへの突撃意志を捨ててはいなかった。


「目標群アルファ、残り6隻! されど向こうすべて回避してきています! 主砲が中々命中しません!」


「至近弾は浴びせてるというのに……こりゃただの漁船じゃないぞ。どんな改造しやがったんだ?」


 外部カメラがとらえた漁船群を見ながら乗員たちはそんなことを呟いていた。すでに視程にとらえている漁船群は、依然として蛇行を繰り返しながら接近している。近づけば近づくほど、こっちの主砲は旋回が間に合わず、機動力の高い漁船が有利となる。……なぜ、ただの漁船がそこまで高い機動性を発揮できるのかがほんとに謎だが。


「祥樹、そろそろ来てくれ。交代入れるぞ」


「あいよ」


 和弥からの交代要請だ。エコーが今度は休憩に入り、和弥と新澤さんが出入口封鎖。俺とユイがそのバックアップに入る。


「もうすぐすべて迎撃しおわる。それまでもう少し耐えよう」


「了解。なに、この艦は優秀だ。もうすぐ終わるさ」


 和弥がそんなことを言いながら衝撃弾を連射し始めた。こいつなりにやまとのことは調べていた。だからこその自信ありげな発言だろう。


「目標群ブラボー、すべて撃破! 目標群アルファ残り5隻!」


「もう少し狙いをつけろ! あいつら不規則に蛇行してるぞ!」


 アルファ以外の目標はすべて撃破した。だが、その残りの5隻の動きは敵ながらあっぱれなものだった。

 こちらの動きを呼んでいるかのように、寸分の差でよける。たとえ至近に弾着しても、臆することなく突進してくる。まるで恐れを知らないトラの如し。

 大分近づいているため、主砲でも中々当たりにくくなった。これでは満足な迎撃ができない。だからこそ、特攻というものが有効だったのだろう。


「二人とも、ちょっと後部からも来たわ。手伝って」


「了解。ユイ、新澤さんのサポ入れ」


「了解」


 ここからは出入口は4人で守ることになる。見れば、確かにさっきからまた増えてきていた。尤も、戦力的にはそこまで脅威ではない。向こうも、大分戦力をそいだみたいだった。

 もうすぐ迎撃し終える。それまでの辛抱だと考えれば、十分耐えれるほうだった。


「(よし、このまま撃ちまくって、あとはCICがすべてどうにかしてくれれば……)」


 もう少しだ。もう少しでこの地獄も終わりを告げる。漁船さえ潰せれば、後は全力をもってこいつらを叩き潰せる。アイツらにとっても、ここを一々支配する理由はなくなるはずだ。それまでの辛抱だ。


 ……そのように考え、何とかモチベーションを保っていた時だった。


「……ッ! な、なに!?」


「ッ?」


 もうすぐ終わるという希望を見出していたCICのムードが、一気に逆転した。


「もうすぐ主砲の最低交戦距離に入るだと!?」


「これ以上は撃ってもまともな射撃が期待できません! 敵が近すぎます! 現在主砲弾を再度給弾中ですが、その間に最低交戦距離に入ります! 無理に撃ってもまともにあたりません!」


「クソッ! 機関はどうした! デルタはまだ奪還できんのか!」


「まだ連絡がありません! おそらく奪還が困難な状況かと……」


 CICの乗員たちが青ざめた。ついでに、新澤さんも地味に青ざめているのが見えた。

 敵との距離が、主砲の最低交戦距離を下回った。ということはつまり、これ以上主砲は撃てないということになる。

 だが、主砲で無理ということはESSMも当然無理だ。他の自衛兵器はSeaRAMがあるが、そっちは確か最初甲板で見たとき、安全のためということでカバーがされており、そこは手動で取っ払うこととなっていた。だが、当然そんなことしてる余裕はない。


「海保の巡視船は!? 彼らは近くにいないんですか!?」


 俺はとっさに叫んだ。俺たちが対処に移る前、海保の巡視船が対処にあたっていたはずだ。彼らはどこにいった? たった数隻なら対処は可能なはずだ。

 だが、CICにいる乗員からは否定の返答が入ってきた。


「そっちはだめです! もう残弾がない上、どの巡視船も漁船からの反撃を受け大きな損傷を受けています! これ以上の戦闘は見込めません!」


「そ、そんな……」


 すでに限界のようだった。海保の巡視船は、初期の戦闘に於いていくつかの漁船を行動不能には陥れたはずだが、いまとなってはもうその能力がないという。外部からの支援は望めなかった。


 ……マズイ。となるともう防御兵器がない!


「(機関はどうした! まだ奪還しないのか!)」


 そう思うと同時に、新澤さんが無線に手をかけていた。


「こちらチャーリー! デルタ、そっちはまだ奪還できないの!? 状況を報告して!」


 新澤さんが焦燥感を全面に出してそう叫んだ。

 ……しかし、


「……? どうしたのデルタ。応答して、デルタ! どうしたの!?」


「……ッ!?」


 応答がない。最初はちゃんと無線は届いていたはずだ。まさか、こんな時の故障というのも考えにくい。

 ……まさか、やられたか? いずれにしろ、ここで機関に何ら動きもなく、他の通信手段を用いての連絡もないということは、向こうに何かあったということになる。


 機関を動かすことは、どうも期待できそうになかった。


「SeaRAMの近くに誰か乗員はいないか!?」


「誰もいませんよ! 艦橋からは全員退避したんです!」


「クソッ、これじゃ何も使えないじゃないか!」


 艦長の言葉に全力で同感だ。


「(チクショウ、じゃあ一体何で迎撃しろってんだ!)」


 主砲とミサイルは使えず、SeaRAMもカバーが邪魔で使えないとなると、機関銃か? 今更12.7mmなんて準備できない。舷側にある魚雷なんてもってのほかだ。動けず、撃てずでは何も意味がない。


「(何があった? どっかに飛び道具ないか?)」


 正確に狙い撃ちできる奴だ。この際、自動でも手動でもいい。何か飛び道具を使って正確に狙い撃てる奴は……


 ……ん?


「(正確に……狙い撃つ……、ああ! あった!!)」


 一つだけあった。だが、これは完全人力便りだ。不安定な艦上からなんてやったことないが、“こいつらの腕”を信じるしかない。


「和弥、ユイ。弾薬どんくらいある?」


「ん? まだたんまりあるぞ。そっちは?」


「右に同じく」


 よし。たんまりあるなら、問題ない。やれる。


「オッケー。お前ら、ちょっと付き合え」


「え?」


「ん? 何する気だ?」


 二人にしかできないことだった。これが得意なのはこいつらぐらいだ。


「新澤さん。護衛頼みます」


「いいけど、どこに?」


「甲板です」


「甲板!?」


 新澤さんが妙に裏返った声を上げた。当然っちゃ当然だ。和弥とユイも不審な顔をこちらに向けるが、説明してる暇はない。


「とにかく、時間がない。すいません! ここの出入口お願いします! すぐ戻りますんで!」


「戻るって、え、え?? ちょっと!?」


「おら、急ぐぞ! 左舷側に行け!」


 半ば背中を強引に推す形で出入口を出た俺たちは、牽制弾幕を盛大にはりながらCICに来た通路を逆走していった。このころになると敵はほとんど消えていたが、それでも何人かは前に立ちふさがったので……


「ユイ、今まで我慢させてすまなかったな」


「ほう?」


「……道を作ってやれ。邪魔な障害物は排除だ」


「うおぅ、まさかの許可降りちゃった。じゃ、張り切っちゃいますよぉ」


 軽い口調とは裏腹に、ユイを前面に立てて強引に力づくで突破した。ユイが手っ取り早いと口うるさく言っていた行動をここでやらせることになるとは、そこはちょっと予想外だったが、まあコイツらしいやり方なので存分にやらせる。そうでもしないと、これは間に合わない。


 しかし、あまりにも派手にやってるようで、銃床で敵の顔面をぶん殴ったり、拳を腹にぶち込んだり、挙句の果てには足裏で蹴り飛ばすなど、まるで日頃の鬱憤を晴らさんかの如くだった。

 ある意味、戦闘用のロボットらしい冷徹ともいえる所業に、さすがに俺たちは若干引き気味だった。


「……敵じゃなくてよかったわ」


「まったくだ(ね)」


 俺の言葉に新澤さんと和弥は全面同意した。


 ユイによる人力戦車を前面に出す強引戦術で、何とか甲板の左舷側に飛び出ることができた。艦橋の通路隔壁を出ると、右手にある海の奥には……


「……ゲッ、もう来てる」


 何個か白い航跡が見えていた。数えたところ5つ。

 肉眼でもはっきり見えるところまできている。もう悠長なことはしてられない。


「和弥、ユイ。出番だ。お前らの得意技を見せてやれ」


「……この場面で俺を求めるということは、まさか?」


「ああ、そのまさかだ。艦上からってのはやったことないが……」





「ここから、敵の漁船を“狙撃”しろ。距離はちょいあるけどな」





 そう。わざわざこの二人に頼んだのはこれのことだった。

 いまとなっては唯一の飛び道具。この89式自動小銃を使って、敵の漁船を狙撃する。狙撃をするうえで、今艦内にいる人間で一番と二番の腕を持つのはは和弥とユイだ。しかも波にあおられて揺れてる艦上では、その狙撃の腕は特に高度なものが要求される。


 この二人にしか、頼むことができなかった。


「お前らの腕なら、この距離ならギリギリ行けるはずだ。やれるか?」


「ハハ、そういうことね。面白い。俺の腕を実戦で試す時が来たわけだ」


 そういって和弥はすでにニーリングポジションで手すりの隙間から銃口を出している。もうやる気だ。


「揺れてる状態になる。外すなよ」


「任せな隊長殿。んで、どこを狙えばいい?」


「ちょっと待て。ユイ、敵の漁船はポリタンクや木箱を船首に括り付けてるって言ってたよな?」


「はい」


「アイツらにもついてるか」


「バッチリと。船首に赤いポリタンクに木箱がガッチリ括りついてます」


 ユイの報告を聞きながら、自分の目でも確認する。

 薄らとだが、選手に赤いものが見える。あれがポリタンクだ。船首にガッチリ固定させている。あの高速航行で、大きな船体の揺れにしっかり耐えれる時点で固定力は半端ないはずだ。

 そして、その隣にある木材色の箱は……おそらく、可燃物だ。大方火薬関連だろう。


「よし、あの木箱を狙え。中にある火薬類、またはその類の可燃物に引火させろ」


「ポリタンクじゃねえのか?」


「こっちはゴム弾だから引火が期待できない。それよりなら、乾いた環境で引火を誘発させやすいところを狙う」


「了解した。そんじゃ、やっちゃいますかユイさん」


「ですね。始めましょう」


 ユイはそのままスタンディングポジションの姿勢で狙撃を始めた。和弥もそれに続くように狙撃を開始した。

 距離は数百メートルといったところか。もうこっちにたどり着くまで1分とないだろう。そんな中、二人は漁船の選手に向けて衝撃弾を次々に送り込む。


「新澤さん、格納庫方面の襲撃の警戒を。狙撃中を狙われるのはマズイ」


「オッケー。文字通り盾になってやるわよ」


 新澤さんもすぐに動いた。和弥の隣に立ち、そのまんま仁王立ちの状態で敵の襲撃に備えた。

 俺は艦橋の方向を警戒する。とはいえ、先ほどのCIC襲撃によって大部分の戦力はいなくなったはずだが、念のためだった。


 その間に、二人は次々と漁船の船首に命中させた。まず、V字に並んで突撃してくる漁船5隻のうち、左翼にいる2隻が爆発を起こして沈んだ。


「よし、1隻撃破。案外やろうと思えばやれるぜ」


「こちらも撃破。木箱はそこまで厚くありません。中には火薬類が満載のようです」


「特攻の効果を上げようとしたのがあだになったな。せめて箱に防弾版を備えておけってこった」


 和弥の皮肉が聞いた軽口は尤もだ。特攻をするうえで、船首や船全体に可燃物を満載するのは常套手段だが、今回の場合はそれを逆手に取れる。ましてや船首に於いているので、狙撃がしやすい。

 また、さらに言えば89式が元から命中精度が高いものだったのも救いだった。昔から89式を狙撃に使うこともよくあるほどの代物だったために、こういった使い方もやろうと思えばできるのだ。そこに、二人の狙撃の腕を合わせれば完璧だ。


 あとの3隻も、何とか撃沈してくれるはずだ。


「ユイさん、一番右をお願いします。俺はその左を」


「了解しました。ついでですので競争でもしますか」


「いいですね、俺が勝ったら飯おごってください」


「5000円まで」


「あざっす」


「今はいいよそんなジョークは」


 軽口叩きながら狙撃してるコイツらってすごいのか単にアホなのか。それでもなんだかんだで命中させてるあたり、これがあいつら流なのだろう。妙に解せないが。


「敵1隻撃破」


 ユイが右翼最端にいる漁船を撃破した。残り2隻。


 しかし、そんなときに、


「……ッ! 来たわ、格納庫方面! 隔壁から湧いてきたわね!」


 最後の最後の抵抗とでもいうべきか。たった2名だが、敵が第2煙突につながる隔壁から飛び出して突っ込んできた。だが、それだけだ。銃は連射するが、あたりもしない。


「迎撃を!」


「任せて! 一網打尽よ!」


 新澤さんが射撃を開始する。その時、ちょうど和弥も右翼最後の漁船を撃破し終え、最後の中央にいる漁船を狙い始めた。


「一人撃破!」


 新澤さんが一人さらに撃破。よし、これでもうあとは……


 ……と、思った瞬間だった。


「イッタッ!!??」


「ッ! 新澤さん!」


 自分が次に狙ったもう一人の敵に、左肩を撃たれた。正確にはかすったらしいが、運悪くちょうどチョッキが覆っていない部分だった。

 新澤さんが姿勢を崩した一瞬、向こうから見て二人の姿が丸見えとなる。

 しかも、向こうから見て手前にいるうえ、立っているため目立っているユイが真っ先に狙われた。ユイはすでに最後の狙撃に出ようとしており、今更姿勢を帰れない。


「(クソッ! 誰がさせるか!)」


 俺は向きをかえ、敵のほうに銃口を向けた。

 敵は艦の揺れに耐えきれず舷側の外側に流されそうなところだったが、それでも銃口はユイに向けていた。ユイだけでも。その考えがあるのは明白だった。


「(頼む、そのままでいろ)」


 一瞬、目の前の世界がゆっくりとなる。脳内処理に負担がかかり、処理情報の膨大化によって起きる現象だ。ゆっくりとした世界で、感覚的には一瞬でも、俺は十分に照準を定める余裕があった。


 そして、相棒にそのまま動くなと願いながら……、



 俺は、引き金を引いた。



 1発のみの衝撃弾。それが、スタンディングポジションで構えているユイの顔のすぐ目の前、鼻先のすぐ前を高速で通り過ぎる。ユイはこれっぽっちも動じないが、それと同時に、ユイも表情を一切変えず引き金を引いた。


 互いの銃弾が当たるのはほぼ同時だった。


 俺の撃った衝撃弾は敵のちょうど額にぶち当たった。貫通はせず頭蓋骨のところで弾いてはいたが、その際バランスを崩して手すりから海におっこちた。

 そして、ユイは最後の漁船を撃破した。船首に備えられた可燃物に盛大に引火し、大きな大爆発を引き起こされた漁船は、瞬く間に大破してしまった。


 一瞬にして静まり返るこの空間。


 銃撃の音や喧噪の声は鳴りやみ、波の音を響かせながら、風が俺たちの汗まみれの顔を優しくなでるだけとなった。


「……や、」






「やった……のか?」






 確認を込めるように言った言葉に、現実は嘘をつかなかった…………

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