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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第3章 ~動揺~
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不穏な裏

[9月25日(水) PM20:42 日本国千葉県 習志野駐屯地隊舎]




 ―――あれから数日の時を経る。


 結局、あの事件のことは公表されなかった。公表することによるホールという閉鎖空間内でのライブに対する恐怖から集客率が減るのを懸念した事務所側の意向と、まだ完全に調査を終えてないあいまいな状態で公表することによって憶測などが飛び交い、さらに混乱を招くことを憂慮した公安の意向が合わさった結果だった。


 表向きではライブは無事成功。しかし久しぶりの大規模ライブに少し無理が入ったため、ライブの日程はそのままだがちょっと休息を入れるということで話がつけられた。

 ファンの間でも「さすがにちょっと長かったよな」とか「ファンサービス行き過ぎたか?」といった憶測が飛び交ったが、それ以上のことは言われなかった。よくある陰謀論すら流れない。裏工作はばっちりのようである。


 また、あの3人組の娘らも、今現在快復に向かっているとのことだった。和弥筋によれば、思ったより炎症の治りが早くて、1週間待つまでもなくもうほとんど喉は問題なく機能するようになったらしい。こればっかりは例のプロデューサーさんも、彼女らの回復力にびっくらこいたようだ。


 いずれにせよ、あの東京エキサイトシティホールでの事態は、大きな混乱を招くことなく収束に向かっている。後始末は俺たちが関知するところではない。公安やJSAあたりが勝手にしてくれる。

 俺たちは、何事もなく収まりきることを願いつついつもの仕事に戻るだけだった。




 ……そんな日々を過ごしての、今日の午後。


 今日も今日とで訓練日和な一日を終える。すっかり今の部隊にも慣れ、戦闘訓練でも順調に成果を上げつつあった。

 午後中の隊舎を使った室内戦闘訓練でも、今までの市街地・室内戦闘経験が大いに役に立っている。連携も抜群で、俺たち5班と二澤さんらの1班は特に高い連携を維持していると評価された。

 番号は離れてしまっているが、今後事によっては部隊単位でコンビを組むことも検討されているらしいことを羽鳥さんもほのめかしていたし、今後、さらに部隊内での変化が見込まれるだろう。


 そのような訓練の後。いつものように飯を食って風呂入って、適当に休憩の時間。俺たち空挺団員が、厳しい訓練を乗り越えて味わう至福の時である。


 少し小さめの広間でTVなり菓子なりを食って無駄話に花を咲かせる面々。それを横目に、俺は相棒との業務会話を交わす。


「―――つーわけだから、お前もこれに乗るからな。バッテリーは洋上で交換できねえぞ」


「できるものならしてみろって話ですけどね」


「確かに」


 そういって互いに笑みを浮かべた。その俺の手には、一つのタブレットがある。

 画面をタップしながら、俺は続けた。


「しかし、空の次は海か……今度のは、純粋な人事交流だよな?」


「私に聞かないで下さいよ。受け取ったの祥樹さんでしょ」


「いや、そうなんだけどさ……ほら、前の政府専用機の奴もあるからさ、ちょっと不安でな?」


「情けないことを言いますねぇ。そんなの男なら割り切りましょうよ」


「人間を舐めるなよ。こういうトラウマってのは結構引きずるものなんだよ」


「いやそんなドヤ顔で言われても……」


 口をひきつらせた半笑いを浮かべるユイ。人間みたいにこういうのの割り切りは結構キッパリとできるので羨ましい限りである。不便な人間ももうちょい器用だったらいいものを。

 そんなユイが、俺の持っているタブレットをテーブル越しに軽く覗き込みながら言った。


「でも、楽しみですね。『体験航海』」


「横須賀でやる奴に招待されたからな……」


 そう。俺たちはこのたび、最近流行りの軍内人事交流の一環で、とある艦の体験航海にご招待されたのだ。


 その艦の名を、『やまと』という。


 かつての世界最強の超弩級戦艦の名を引き継いだ、日本が誇る巡洋艦だ。

 できた当時は、その名前に相応しく世界トップレベルの性能を保持するに至った艦で、かつての、10年前の戦争でも大きな活躍をした武勲艦である。

 今では横須賀に籍を置き、横須賀基地第1艦隊の一つの戦隊を指揮する身となった。


「お前、艦初めてだったよな」


「はい。もっぱら陸人間でしたので」


「その人間というのはただの表現のみだな?」


「表現のみです」


 中身は人間をかけ離れてることはもうさすがに忘れたりはしない。たまに思い出せなくなるときはあるが。


「言っとくが、洋上は電波は使えないからな? 陸上部隊が使用する通信衛星の範囲外だしな」


「じゃあ普通の海洋部隊が使用する通信衛星は使ってもいいんですね?」


「何に使うんだよ」


「友人にメール」


「誰だよ。彩夜さんあたりにリアルタイム実況中継でもするつもりか?」


「なぜばれたし」


「やめとけ。当日は平日の日中だから向こうも仕事中だし、第一勝手に使ったら怪しまれる」


「ちぇ~」


 何がちぇ~だか、まったくコイツは。

 画面をタップしながら再度日付を確認した。さっき言ったように、その体験航海参加日は今から1ヵ月後。平日の日中すべてを使ってたっぷりとその予定を消化する。


 これに参加するのは俺たち5班と、さらに二澤さんらの1班だ。幸運にも、俺たちは近現代では一番の武勲をたてた艦に乗る事が許されたのだ。はがき当選とかしてないのにこれだ。滅多にないことである。


「海とかすらあんまりみたことないですからね~。どんなのだろうな~」


「小さい頃“護衛艦”に乗ったことあるが、結構揺れたな。それに、海に出るから結構寒い。夏でも寒い」


「まあ、洋上は水ばっかりですし潮風がねぇ……厚着しようかな」


「しようにも当日は制服着用義務入ってるからそれ以上着れねえよ」


「ですよねー……」


 カクッと肩を落として首をしょげるユイ。そんなに厚着したけりゃ乗った時に許可とってもらえって話だ。もらえるか知らんが。


「まあいいや……で、それってほかの人には伝えたんですか? 和弥さんとか、あと新澤さんとか」


「いや、まだだ。だからそろそろ向こうにも伝えに―――」


 そこまで言ったときである。


「オッス。タブレットもって何話してんだ?」


 噂をすればなんとやらである。和弥の声だった。まことに都合のいいことに新澤さんも同伴である。

 少し崩したジャー戦姿で、和弥の右手には一つの小さい袋がる。中身は……よく見えないが、パッと見る限りでは何かの飯類らしい。


「おお、ちょうどよかった。何してたんだ?」


「んにゃ、ちょっとシャツ類クリーニングさんに出してついでに購買で飯買ってきた」


「飯って、さっき食堂で食ったばっかじゃね?」


「腹の虫がもっとよこせって要求するのよ、仕方ないじゃない。ほら、最近流行りのピザパンよ。人数分あるけど食べる?」


 流行りって言ってもこの駐屯地内限定だろうに。

 とはいえ、確かに小腹は空いていたので一つもらう。ついでに天然水も貰った。


 ちょうど4人が揃ったので、とりあえず先ほどの話をこの2人にも伝えた。

『人事交流日程:国防海軍巡洋艦やまと体験航海』と題されたこの予定を簡潔に説明すると、一番に喜んだのは新澤さんだった。


「え、やまと? ほんとに!?」


「え、ええ。やまとですよ。どうやら割り当てがそうなったらしくて」


「ヨッシャァ! 寄りにもよっていいとこあたったぁ!」


「え? 何かありましたっけ?」


 ガッツポーズまで繰り出す新澤さんに思わず困惑を隠せない。和弥にユイも、若干不審な目を彼女に向けていた。

 視線に気づいた新澤さんは軽く誤魔化すように笑いながら言った。


「あぁ、いや、別にね。ちょうどその艦に私の兄さんが乗ってるってだけの話でね、それでね?」


 照れ笑い混じりのその言葉に、俺は思わず食いついた。


「え? 新澤さんの兄さんそれに乗ってるんですか?」


「ええ、そうよ」


「あれ? でもその兄さんって確か別の艦乗ってませんでしたっけ?」


 和弥がそう話に挟んだ。

 新澤さんのお兄さん。名前は知らんが、確か例の10年前でもやまとに乗っていたらしい。

 だが、あの後少しやまとで勤務した後は別の艦に異動になったと聞いていた。というか、それは新澤さん自身が明かした事実である。


 しかし、新澤さんはそれに補足するように言った。


「それがね、あの後またなんだかんだで戻ってきたらしいのよ。それもつい数か月前。先週くらいにもらった電話で聞けば、なんと航海長やってらっしゃるじゃないのあの人」


「航海長? マジですか?」


「ええ。私より二つ上だから、31で航海長ね」


「うへぇ、異例の大出世ですなぁ」


 和弥が感嘆の言葉を漏らす。

 国防海軍の艦艇で航海長になるのは大体30代とは聞いていたが、そんな早くからなれるとは。やはり、かつて実戦を経験した差ってもんもあるのだろうか。


「なんだかんだで優秀だったしねぇ、あの人。今は艦橋に缶詰してんじゃない?」


「缶詰って、そんなに貼り付けられる仕事なんですか?」


「あんまり休めないって。まあ、長にもなればある程度はでるらしいけどさ、それでもきついとか」


「ほう」


 艦艇での職務って大変なんだろうな。艦の中っていうある種の閉鎖空間で一定の秩序を保って生活するのは中々簡単にできることではないだろうし。

 ……そう考えると、一応他と比べるとある程度自由度がある陸のほうが俺向きなのかもしれない。


「あの戦争から10年目ってこともあって、結構張り切ってるらしいな。艦内イベントも盛りだくさんだ。武勲艦としての節目をそれだけ貴重に扱ってるってことだろう」


「10年前の戦争って、例の中亜戦争ですよね? この艦何かしたんですか?」


 そうか。ユイはそこはまだ知らなかったな。俺たちはある程度知っていたのだが。

 それに関しては、和弥もそうだが実は新澤さんが詳しい。やはり当時を身をもって体験した人間であると同時に、その武勲艦の乗員を身内に入れている身でもあるからだ。

 あの当時のことはよく知っている人間の一人である。


「あの艦は戦争すべてを通じて最大限の活躍をした艦でね。対空対潜対水上のみならず、イージス艦の役割もあったから弾道ミサイル迎撃にも駆り出されてバシバシ戦果を挙げまくったのよ。当時就役したての超最新鋭艦だったからね」


「へぇ~。性能そんなによかったんですか?」


「当時はまだ今ほどECCMも発達してなかったから、ひとたび対空を任せればバッシバシ落としちゃうくらいには高性能。あの艦いればその艦隊ほぼ安泰だったからね」


 その説明にユイは「ほ~」と感嘆の声を漏らす。


 それこそ、海軍にあるDGGグループ艦隊の中でも特に中心に立たせることを想定した艦艇だけあって、多少大型化してもその運用に耐えうる性能を持つことが要求された。その結果生まれたのが、あの艦だ。

 対空抜群。他の性能も従来型以上のものを発揮し、それは例の10年前の戦争でも大いに発揮された。

 もちろん、それは乗員が優秀だったこともあるし、いわば二人三脚が見事に成り立った形になる。


 あの戦争中に起きた東シナ海-台湾方面での海戦のほとんどに参加し、元々あった名声を一気に底上げさせた。最後の最後まで戦い抜いたあの艦と乗員には、のちに台湾から勲章を授与されている。


 それほど、やまとは10年前の戦争で大きな貢献をした艦なのだ。


「―――でね、その艦に兄さんがいたのよ。新米扱いでね。元々操舵やってた航海一筋の人間だったしね、それが認められたんじゃない?」


「こりゃまたすごい武勲艦に乗りましたねぇ、その新澤さんのお兄さん」


「自慢の兄さんよ。……最近あってないし、どうせだからこの機会に会えればいいんだけど」


「艦内を案内する機会もあるそうですから、たぶんうまくいけば」


「そうね、そうであることを祈るわ」


 和弥の言葉に同意する新澤さん。なんだかんだで兄さん大好きな人である。そろそろ恋しい時期だったのかもしれない。

 今時妹から好かれる兄貴というのも中々の存在だ。人柄もそこそこいい人なのだろうな。


「……」


 そんな、10年前の戦争関連の話題をボーっと聞いていた俺。

 どんな顔しているのか。ただただ呆けた情けない表情でもしてるのだろうか。


 ……そんな表情を見てか、


「……祥樹さんどうしたんです?」


「え?」


「いや、何やら魂引っこ抜かれたように呆けてましたので」


「あぁ……」


 向かいにいるユイにバレていたようである。案の定表情に出ていたらしい。


「いや、ただの考え事だ。気にすんな」


「何のです?」


「個人的なものだよ。お前には関係ない」


「えぇ~。気になるじゃないですか、教えてくださいよ」


「お前そんな欲求持つようになったのか……いや、でもほんとに個人的なことだし……」


 そんな押し問答が少し続いた。あまり今までは見受けられたかっただけに、こうした問いへの準備はしてなかった。迂闊だった。

 そんな俺らの状況を察してか、和弥と新澤さんが短くアイコンタクトを交わすと、すぐに切り出した。


「あ、そうだユイちゃん。ちょっと買うもの忘れてたから付き合える? 一人じゃちょっと決めきれないやつあってね?」


「―――? 別にいいですけど、何買うんです?」


「いやぁ、そろそろシャツとか変えたいんだけどね、サイズ自分じゃわかり切れないからね? ロボットの目をね?」


「あぁ、なるほど。そういうことでしたら付き合いますよ」


「ごめんね。じゃ、ちょっとユイちゃん借りてくわよ~」


 そういって新澤さんは早々にユイを連れてこの場を離れた。最後に、ユイにバレない様に和弥に再びアイコンタクトをとったのを俺は見逃さない。

 ……二人の気遣いにより、何とかこの場をしのぐことはできた。帰ってきたころには話題もスムーズに帰ることができるだろう。

 そんなことを考えながら、とりあえずまだ残っていた天然水を飲み干そうとした時である。


「……お前、まだ言ってなかったのか?」


「ん?」


 和弥がテーブル越しに顔をのぞかせてきた。あまりいい表情ではないが、どちらかというと真剣さに重みがある顔である。

「言ってなかった」の意味はすぐに理解できた。だが、俺はすぐに返す。


「……わざわざ言う必要もないだろう。そもそも、これはアイツには関係ない」


「まあ、そりゃそうなんだけどさ……あまり隠し事は関心しないぜ? もう彼女と会ってざっと5ヶ月は経つし、それに、また今後も付き合っていくことになるし」


「とはいっても、試験期間はあと1ヵ月ちょいくらいだろ?」


「そのあともまたここに残る可能性が高いんじゃなかったか? まだまだ彼女とは長い期間付き合っていくよ。それなのに、いつまでも隠し事してるのは個人的にはちょっと気が引けてね。……まあ、そっちの事情だから俺が深入りする余地はないんだがな」


「……」


 和弥の言葉に俺は思わず押し黙った。


 確かに、まだまだアイツとは同じ部隊で付き合っていくことは十分に考えられる。というか、現状もうそうなりかけている。

 前に爺さんがメールでよこした連絡によれば、もうすでに国防省ではアイツの正式配備部隊の選定が始まっていたのだが、早くもここに、つまり俺たちの部隊にそのまま留任でいいかとまとまり始めてるらしい。

 他にアイツを扱いやすそうな部隊が見当たらないのだそうだ。様々な理由があるが、一番は現場レベルでこのロボットに対する万一の事態における機械的な対処ができる人材が限られてるのと、ロボットという存在に対して問題なく接することができる適任者が中々いないということにあるらしい。


 そういったデリケートな部分まで含めた様々な観点から見比べた結果、やはり一番の適任部隊はここしかないということだった。実際、爺さんも真面目に考えた結果ここしかまともに扱えそうなところがないという結論に至り、実地試験終了後もここに留まらせることを国防省の担当部署に推薦したらしい。


 つまり、何か下手なことでも起きない限りはここに残ることはほぼ確定事項なのだ。一旦整備やらなんやらで離れたら、また戻ってくるということだ。


 そして、また下手すれば長い期間、俺らと同じ部隊で同じ時間を過ごすことになる。


「(……やっぱ、話しといたほうがいいのか?」)」


 そりゃ、長い期間付き合う相手に隠し事をするのは後ろめたさは感じる。

 とはいえ、結局は相手はロボットである。こんな人間的な感情論ありきの“過去”を離したところで何にもならないのではないか。ロボットで言う精神的な変化を見極める材料にはいいかもしれないが、それに俺の過去をダシに使うというのも、個人的にではあるが、あまりいい気分ではない。……まあ、言ったら言ったでユイロボットにとっては何かしらの経験データにはなるだろうが。


 そんな相手に話す必要はあるのか……だが、それでも、アイツはロボットであると同時に“一人”の仲間でもある。仲間に隠し事なんてのはあまり感心することではない。


 俺は迷った。言うべきか、言わざるべきか。


 仮に言ったとして……アイツは、なんて思うだろうか。


 ……少し自問自答を繰り返したが、結局まともな答えは出なかった。


「……すまん、少し時間をくれ。考える時間がほしい」


 結局、後に持ち越してしまった。すぐに決断できないのを情けなく思うが、和弥はそれでもフォローしてくれた。


「なに、気にするな。そこらへんの事情の当事者はお前だし、俺が深いところまでとやかく言うつもりはない。まあ、強制ってわけでもないし、最終的な判断はお前に任せるよ」


「ああ……そうさせてくれ」


 和弥は一応事情を知っている人間だ。こういう時の配慮ができることをありがたく思う。

 すぐに決断することは今の俺にはできなかった。少しだけ……少しだけ本気で考える時間がほしい。


「(……早めに、決めとく必要があるよな……)」


 あまり異常に長引かせたくはない。やりなら早めにしよう。それだけは決めた。


 ……すると、ちょうどそのタイミングで携帯のバイブがなった。


「ん、俺か。ちょっと失礼」


 和弥のだった。自らのジャージのポケットに入れていたスマホを取り出し、画面をスライドさせながらその画面を見つめていた。どうやらラインらしい。


「……ほほう、面白い情報がやってきたもんだ」


「ん?」


 和弥がニヤけた表情を浮かべながらそういった。

 面白い情報。和弥が興味を示すくらいだから相当気になる情報に違いない。俺はすぐに食いついた。


「なんだ、その情報ってのは?」


「ん、いや、前にさ、俺がハワイにいるお前とTV電話してた時のこと覚えてるか?」


「ハワイのTV電話?」


 となると、例のホテルの一室で、彩夜さんを部屋に招いて和弥に意見をもらっていた時のことか。

 アメリカの主導力がやばいだの、クリミア事変以来外交下手が増しているだのと言っていたのを覚えているが……それのことか?


「いや、そっちじゃなくてな……ほら、例の飲み会の件」


「……あぁ、あれか」


 旭日川の社員数人が、毎週高頻度で飲み会に行くっていうやつか。確か、メンバーもこれっぽっちも変わっていないとか。


「あれの情報更新だ。……例の信頼できる記者さんが独自にいろいろ調べてみたんだが、また増えたらしい」


「増えた? あれ毎週4日だろ?」


「ああ。週4が週5になったってさ。それも、メンバーも増えて」


「週5?」


 そいつら本格的に体壊しに来てるな、なんてツッコミは一先ず置いといてだ。


 ……また、増えたのか。


「一応、すでに例の使用している飲み会場所も特定できた。旭日川御用達の場所をしらみつぶしに探したら、ちょうど同じ時間帯に同じメンバーの人が飲みに来る店が一つだけあった」


「よく見つけたなそんなの……」


「コツコツと聞き込みしてりゃ勝手に行き着くさ」


 そう簡単に言ってのけるが、それが簡単にできるなら警察も苦労しないわと思う。


「そんでだ。何やら常連さんになってるらしくて、いつも使ってる個室を借りてるそうだ。で、ご都合よく人通りの少ない奥の部屋を選んでるんだと」


「人の通らない……?」


 わざわざそんな部屋を指定してるということか。そんなに毎回指定する必要なんてどこにあるんだ?

 今までの状況といい……ちょっと都合がよすぎてる。


「何やら会議でもしてるらしいが……俺は最低1ヵ月も同じ飲み場、同じ時間帯、そして同じ場所を使う会議なんて聞いたことないんだがな」


「俺もだわ。なんだ、そんなに聞かれたくない機密を扱う会議なのか?」


「実際会議なんだろうぜ? ……俺たち一般市民には聞かれたくない、超重要な会議、な」


「……」


 ……その超重要な、の中身は容易に想像がついた。

 明らかに、何かを企んでいる状況だ。わざわざ週5に増やしたのも、何か理由があるのかもしれない。伏線として記憶にとどめておく必要があるだろうか?


「なんか、その店の店員さんに聞いたら「花火はもうすぐ上がる」みたいなことを言ってたらしいぜ。聞いてみたら、花火大会をご近所でするんだとさ」


「花火大会ねぇ……もうギリギリその時期過ぎてないか?」


「アイツらにとっては今時期なんだろうぜ。……さて、どんな花火なのかねぇ……」


 和弥が口を歪ませて、あごに手を当て熟考した。いつもの、何かを面白おかしく探るときの顔だ。

 花火自体が何を意味するのかはまだわかっていないらしいが、しかし、明らかに文字通りの意味での花火ではないことは確かのようだ。花火に関する会議をするにしても、場所と時間帯とメンバーをここまで長期間固定する必要はないし、何らかの事情があると考えてもここまで長くはない。


「(……例のライブの奴は花火ではないよな……)」


 それなら、この“飲み会”はすでに終わっているはずだ。終わってはいなくても、花火大会のワードはどこかに消え去っているとみるのが自然だろう。

 それでも消えないということは、ほかの何かを示していることになる。


「(……こんな時期に何の花火を上げる気だ……?)」


 ろくでもないクソ汚い花火になるのは間違いないだろうが、肝心な発射台たる事の詳細はわからずじまいだ。

 そこは、また地道に調べていくほかはないだろう。


「旭日川の件で、また何か情報は集まったのか?」


 ついでなのでさらにそう聞いた俺に、和弥も軽くうなづいた言った。


「うん、少し集まってきたぜ。旭日川の今までの取材記事などから探ってきた記者名簿とか、パイプを伝って持ってきた過去の名鑑を見比べてみたんだが……徐々に増えてるんだよ、帰化人率が」


「帰化人率? つまり、元々他国にいた人が多く入ってるってことか?」


「ああ。それも、俺が把握してる限りの中では6割以上が元朝鮮系だった。俺の想像していた以上だったわ」


「6割も?」


 随分と汚染されているな。前に、和弥は今の暴力団は旧南北朝鮮人や共産党支持者の受け入れ先として成り立った結果、極度にその人たちに組織が汚染されたといっていたが、下手したらあれ以上なのか?


「もう重職にあたる一部の人もそこそこの割合で浸食してやがる。……これじゃ、半分くらいあっち方面の企業だ。下っ端はまだしも、上がこんなんじゃ話にならねえ」


「よくまあそこまでいって問題にならないな。最近聞かれなくなったろ?」


「そらおとなしーく政権批判してるだけだからな。それだけなら、まだ害はないさ」


「ふむ……」


 まあ、実際問題例のハイジャック事件で旭日川の人間が関わってましたって奴以来は、何も問題は起こしていない。ほんとにおとなしくいつも通りの左寄り報道をしているだけだった。

 だが、年々それが増え続けているらしい。例の記者さんにも確認したら、一時期事務関連をやっていた時に名簿を扱ったりしていたことがあったそうだが、ほんとに、名前が完全に帰化した人たちのものばっかだったらしい。


「完全に、あっち方面の御用達機関状態だ……就職の奴も見てみれば、わざわざ若い段階でこの旭日川に就職活動に来る人までいた」


「もう本土で仕事に就けないやつの受け入れ先みたいなものだな……最初はただの難民救済という名の会社救済措置だったのに、結果的に名実が逆転したのか」


「そういうことになるな。これだけいるなら、旧北朝鮮系の奴らが大量に混ざっててもおかしくはない……そろそろ、本格的にマークを始めたほうがいいんじゃないかな」


「マークねぇ……」


 まあ、そこら辺は本来公安とかJSAの仕事ではあるが、個人的にも注意しておくに越したことはないだろう。

 何だかんだで結構稼いでる営利企業だ。資金は大量にあるだろうし、経理のほうにそっち方面の人が入っていたとしたら、そこから資金が流れる可能性が高い。


 旭日川の現状がどんどんと悪化している状態を……このまんま看過しておくのはマズイだろう。


「(……さすがに公安とかも気づいてるだろうが……)」


 はてさて、どこまで頑張ってくれるやら。

 和弥みたいな一般軍人まで手に入れることができたんだ。そういった組織が手に入れれないはずはないだろう。


 ……あまり厄介な事態にならないことを祈るばかりである。


「……と、そろそろいいか」


「?」


 ずると、和弥はやおら立ち上がった。


「どこに行くんだ?」


「いや、地震に関してちょっと調べてくるだけだ。ちょうど図書室に資料があったはずだからな」


「地震か……気になる点でもあったか?」


「いや、情報が足りないからまだ判断できないが……ちょっと、気になることが色々と出てきてな」


「なんだよそれ」


「まとまったら教えるよ。今はまだ不確定事項が多すぎる」


 未確認の情報は出せないという。まあ、和弥らしい。


「ついでだ。お前もちょっと手伝って」


「俺もか? 今もうそろそろ部屋に戻りたいわけだが……」


「資料とるの手伝うだけでいいから。あとの調べたりとかは俺がするからさ、ちょっとだけ」


「はぁ……ったく、しゃーねーなぁ」


「あざーっす」


 そういってわざとらしい笑みと礼を向ける。実にわざとらしい。


 手伝いいるほどってどんだけ資料を取る気なんだか……せっかく休息時間だというのに、俺はもう少し働かなければいけないようである。




 結局、和弥の手伝いに付き添ってから部屋に戻るまでしばらくの時間を使った…………

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