表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第3章 ~動揺~
66/181

ライブ会場内部調査

[9月21日(土) AM10:50 習志野駐屯地内隊舎]




 それから1週間後のこと。


 この日も、涼しさは出てきたものの未だに熱気を感じる若干蒸し暑い日となる。相変わらず外は日差しが差し込み、ホール内のLEDの照明の必要性が薄れていた。

 本来今日は休日であったが、今回はそれを返上してとある任務を請け負うことになっていた。

 今この駐屯地玄関前のホールには、それに参加する人員が集まっている。


「そろそろ出発するぞ。いない人は返事しろー」


「はーい俺いませーん、ってなんでやねん」


「オウケェイッ。今日もいい調子だな篠山」


「いや、こんな時にツッコませないでくださいよ……」


 こんなクソ暑い日にもかかわらずいつもどおりのテンションとボケを見せる二澤さん。平日までに蓄積されてるはずの疲労なんて知らない様子。まあ、今からいくところがいくところだから、そうなるのもある種当然ともいえるのだろう。


 彼は、今回の任務のリーダーを任されていた。

 今回任務に参加する、二澤さん率いる特察1班チーム・ハチスカ、俺率いる特察5班チーム・シノビ。それらの全体の総まとめ役だ。

 今ではこういった場面での現場指揮でおなじみの人となったが、今回もしかりのようである。


 そんな彼も、今日はガンガン差し込む日差しと地味な熱気に嫌気をさしているらしい。


「ったく、今日も暑い日になりそうだ……私服姿でできる任務でよかったぜ。これでスーツ姿でよろしくとか言われた日にゃ逃げたくなっちまう」


「これでもまだマシな日ですよ。気温なんて正午過ぎでも32度だけでしたし」


「32度“も”だろ? まあ向こうに行きゃ温度調整効いた室内には入れるけどよ……」


 そんな愚痴をこぼす。相変わらず少しでも暑いのはどうも苦手らしい。蒸し暑い装備をいつも身にまとってるくせに。

 まあ、それでも確かに現地に行けば暑い外からはおさらばして室内に入れる。室内、というより、どっちかというと屋内っていったほうがいいだろうが。


 ふと、横から和弥が声をかける。


「……で、祥樹、あと誰いないんだ? 大体集まったんじゃないか?」


「いや、新澤さんとユイがまだだ。私服の選定がまだ済んでないだと」


「まだ調整してるのかあの人……」


「胴体のパネルラインが見えないようにしつつ見た目を可愛く、とかどうとか」


「ハハハ……もうあの人ガチで妹にする勢いだわ……」


 和弥が呆れ半分感心半分の複雑な苦笑いを浮かべた。まあ、無理もない。


 今回の任務は性質上先ほども言ったように私服で行われる。俺たちは各々でいつも休日で使う私服に着込んだ。

 俺は今日は少し暑いといえど屋内は涼しいはずなため、インナーで黒いTシャツを着、その上から少し厚めのグレーのストレッチボタンダウン半袖シャツを羽織った。下は動きやすいようにベージュのチノパンにネイビーカラーのシューズを履いた。大体誰もがそんな感じだ。

 しかし、ユイに関してはそもそも私服で外に出るなんてこと想定してないため、当然自前の私服を持ってない。かといって、さすがに一人だけ軍服で行くというわけにもいかない。

 一時期は1週間の期間内にちょうどいいの買ってくるか、という話になっていたが、新澤さんがちょうど昔使ってたお下がりを持ち合わせていたため、じゃあそれでいいやということでそれを使うことになった。

 で、結構前から一応服の調整とかはしていたのだが、今現在になってもまだ終わらないらしい。早めにやっとけとあれほどいったのに。


「あと5分くらいでいくが……そろそろ呼んできた方がいいんじゃないか?」


 私服に身を包んだ和弥がそういった。今日のコイツは白Yシャツに黒の半袖ガーディガンと俺より少し厚め。下は灰色のクロップドパンツにシューズと動きやすさ重視だ。


「あんま時間かけられねえしな……、どれ、俺ちょっとみてk―――」


 そう言って部屋の方へ向かおうとした時だった。


「ごめーん、お待たせー」


「ん? お、噂をすれば」


 ちょうどいいタイミングで新澤さんの声だ。

 見ると、私服姿の新澤さんが走ってくるのが見えた。厚めの白い半袖パーカーに青いカーディガンにベージュのショートパンツである。新澤さんらしい雰囲気にあったものがきた。


「……ん?」


 そして、後ろには新澤さんに手をひかれたユイがいた。私服姿らしいが……


「……おお」


 その姿に一瞬言葉を失う。男性陣の目はその後ろにいるユイに釘ずけになった。当然、俺も含まれる。


「いやぁ、いいのを使おうと思ったら全然決まらなくて……ギリギリだった?」


「あ、ああ……ギリギリなのはギリギリだが……」


 そういう二澤さんの目は一度新澤さんに向いたと思ったらまたユイに向かれる。やはり気になるらしい。


 ユイのその私服姿は結構爽やかさがあった。

 上は襟と袖が白く赤いラインが入っている茜色のYシャツ、そこにピンクと白のネクタイを下げている。下はベージュのショートパンツで、さらに足には上に赤い横ラインの入った黒いニーソックスと来た。靴は動きやすさ重視か白いシューズを履いていたが、少し年忌が入っているあたりこれも新澤さんにお下がりだろう。


 ……うん。お下がりを寄せ集めたにしては結構似合ってる。


「……ヒュ~、こりゃあいい。情熱の赤系が多いのに青い爽やかさを感じるな。合わせて最強か」


 隣にいた和弥が口笛を軽く拭きながらそう漏らす。情熱の赤て、ユイには赤より青だと思うんだが。


「どう、これ。結構似合うでしょ?」


 ユイの肩に手を回しながら自慢げに言う新澤さんに、二澤さんもあごにてを当て感心していた。


「まあ、寄せ集めを組み合わせたにしては結構なぁ……というか、よくまあこんなのあったな」


「昔使ってたのが偶然あったからさ、サイズもちょうどいいし、ね?」


「ほう。……でもさ、散々悩んだにしては結局こんなシンプルになったのな。こんな時間まで悩む必要あったか?」


 同感である。


「あのね、女は見た目にこだわるの。わかる?」


「そういうもん?」


「そういうもん。それにパネルライン隠しながらユイちゃんに合うの探すの大変なんだからね? わかる?」


「コイツのパネルラインってそんなになかったような……」


 実際そうである。ユイのパネルライン、つまり各部の繋ぎ目は極力少なくなっていて、足関節と股部分、両肩、首の根っこと、あとは首の右にあるUSBポートの開口部のみ。しかもその部分は通常は結構近くで見ないと見えないほど精密にくっついているので、ぶっちゃけ若い女性の肌を間近で見るガチの変態野郎にでも合わない限りはそこまで心配することはないのだが、どうせこの人のことだ、念には念をということなのだろう。


「で、実際どうなんだ? 相棒さんよ」


「はい?」


 突然結城さんから話を振られる。


「初の私服姿だぜ? さっきから見とれてる感じに見えたが?」


「あー、まぁ、似合ってると思いますよ。普通に」


「テンプレな感想で返されちまったよ。もうちょい粋な感じのをだな」


「俺にそんなアメリカンなノリができると思います?」


「いつも訓練中やってんじゃん……」


「まがいなことです。いきなり振られても無理ですよ」


「あー……さいですか」


 しかもその相手は大体和弥とかユイあたりである。向こうから来る振りは大体予測付くのでそれっぽく返せるだけで、それ以外の人から振られてもあまりいいのはお返しできない。なお、普段はいい返しができるとは言っていない。


「サイズ大丈夫? きつかったりしない?」


「あぁ、はい。一応問題はないですけど……」


 最後の最後でサイズチェック。見た感じそこまできついようには見えないので問題はないだろう。ユイ自身もそこまで窮屈してるようには見えない。


「……ただ」


「ただ?」


 ……しかし、ユイは自身の胸元を見て半ばつぶやくように一言。






「……な~んか胸元がほんの少しだけブカブカするなーって」


「新澤さんなんでこの服着せたんですか」


「ごめん、サイズ合うのこれしかなくて……」






 俯いて胸元を手でペタペタさせるが、それを見た俺の即質問に新澤さんは顔をそらしていた。顔をひきつらせながら。苦笑込みで。

 そして、周囲はその一言で一気に微妙に気まずい空気になってしまった。「やっばい、これどないしよ」と言わんばかりである。


「新澤……なんでお前そんなに胸成長してたんだ……」


「いや仕方ないじゃない! これ遺伝だから! うちの親の遺伝だから! あとそこまで大きくないからね? 平均サイズだからね?」


「アイツはその平均以下なんだよそしてそれなぜか気にしちゃってるんだよもっといいのなかったのか……」


「あったにはあったんだけどそうなると今度は全体的にサイズがきつくなって」


「なんてこったい……」


 二澤さんが軽く頭を抱えた。同じハチスカの面々は苦笑にさらに気まずさプラス。

 ……大体いつ頃からだったかは知らんが、ユイ自身自分にそこまで胸ないことに対して、極端にいえばコンプレックス的な何かを抱いているらしい。ロボットがそんなどーでもいいことにコンプレックス抱くもんなのかと聞きたいところだが、本人の反応を見るにそうとしか見えない。


「(例のキスの日あたりからだったっけ……自分の胸に劣等感抱き始めてたの……)」


 あの日、まさかの新澤さんとあいつの胸を両手でわし掴むという三途の川一直線コース待ったなしの行動の時から、それに対する羞恥心は抱かず“なぜか”劣等感だけは抱いていた。比較対象はすぐ隣にいる新澤さんである。


 ……あぁ、ちなみに、あの時の勇者(笑)は新澤さんに自腹で個人的に賠償したことで一応警務官沙汰にはならなかったようである。新澤さんの慈悲に、自費でお返しするってか。喧しいわ。


「あー……と、とにかく、そろそろ時間だ」


 二澤さんが空気を変えるべくさっさと移動をさせる。

 こちらの目的がばれないよう、いくつかのグループに分かれて行動を行う手筈となっていた。チーム問わず、とにかくバラバラになって目的地まで急ぐ。


 俺の方にはユイと新澤さん、そして二澤さんがついた。和弥は単独で目的地に行き、先行して情報収集に努めることになる。こういう役目はアイツのお家芸だ。

 わざわざ俺と二澤さんが一緒になったのも、こちらの方から全体的に指示を出したりするのを円滑にする意味がある。一々車が違っていると何かと面倒なのだ。


 とりあえず最後の組として駐屯地を密かに出た俺たちは、近くにあったレンタカーから適当に車を拝借。料金は一応軍持ちで出してくれた。


 二澤さんが運転者席に乗り、自動運転に目標地点を設定して走行を開始した。渋滞さえなければ会場までは高速を使って1時間もかからない。

 日差しがガンガン降り注ぐ中、二澤さんが軽く背を伸ばしながら言った。


「……しかし、本来は遊びで行くはずが、急きょ仕事で行くことになるとはな」


「前に話してた奴ってこれだったんですね……ま、いつもより早くから見に行けるだけいいじゃないですか」


「それはそうなんだがな、どうせなら仕事に気を取られず見に行きたかったところだ。まぁ、那佳ちゃんに会いに行けるだけでもありがたいんだけど」


「さいですか……」


 本人は当日を楽しみにしていただけあって、チケットとかも主催者側が融通を利かせて分けてくれてありがたかったらしい。そういう意味では、これはこれで本人的にはメリットだったようだ。

 ……ちなみに、すでに手に入れてしまっていた分のチケットは他の友人にあげたらしい。


「でも、こんなに早めに行かないと駄目なの? 開始って確か13時半からだったわよね?」


「ファンってのはその前にスタンバッてるもんなのさ新澤。列にはならんでなくても、早めに着て周辺に待機しているってのは結構あるぜ」


「わーお……よくまあそこまで調べてるわね」


「伊達に今日を楽しみにしてなかったしな」


 二澤さんが軽く半笑いを浮かべる。こういうときは情報収集に余念がない。


「無線機は付けたな?」


「ばっちりです。そっちは?」


「こっちもオーケー」


「こちらも大丈夫です」


「よし……、あぁ、すまない、あいつ等の位置を確認したい。ここら辺に投影できる?」


「了解です」


 二澤さんの指示で、ユイにフロントガラスの前あたりにマップを投影してもらった。

 すると、そこに3つの赤い光点と一つの青い光点が表示される。青い光点は俺たちが乗ってる車で、他3つは別々に分かれているそれぞれの車だ。一番会場に近いのは和弥のものだろう。もうあと数十分で着く距離だ。

 出発した時間帯から見て、これは渋滞には巻き込まれなかったとみていいのだろうか。

 他二つは、二澤さんとこのハチスカから分かれた二つのグループのものだ。

 これらはすべて、俺たちが今見に付けている小型の無線機から発せられるGPS信号をもとに表示している。


「よーし、これでオーケーだ。……カーナビ見るよりこっち見たほうが早いわな」


「確かに。カーナビより情報量多いですしね、仕様の関係上」


「でもたまに休憩させてくださいね? ずっと出すのはキツイので」


「ういっす」


 これは結構前にサッカーの試合を映像で投影してもらった時にも聞いたことだ。ずっと動かしているのは仕様上想定外……というわけではないのだが、あまり好まれる使用法ではない。

 まあ、休憩自体もそこまで時間はかかるものでもないし、定期的に休ませる方向で行こう。


 続いて無線チェック。それぞれの方に無線で呼び掛ける。


「マザーより各チーム、レディオチェック、報告せよ」


『ファースト、感度最良メリット・ファイブ


『セカンド、感度最良ファイブです。よく聞こえます』


『サード、こっちも感度最良メリット・ファイブです。むさ苦しい男の声が鮮明に』


 和弥よ、お前はなんつーこと無線で言いやがる。そして無線の向こうから笑い声が聞こえるが、和弥のものではない。他の同僚までこのボケにはウケたらしい。


「悪かったなむさ苦しい声で。これでも一般曹言ってた頃はイケボって言われてたんだぞ?」


『知ってますよ、実際今もイケボですから』


「だったらむさ苦しい言うなアホ」


 半ば吐き捨てるようにそういう。でも実際この人の声は結構いい方で、新澤さんも声は「力強い」って理由で好きらしい。……“声は”、らしいが。


「はぁ……まあいい。マザーよりサード、渋滞状況どんな感じだ?」


『現在東京に入って首都高の小松川付近を走ってますが、思ったほど混んでません。そちらのカーナビにも出てると思いますが、予定より早めに着けそうです』


「土曜日だからもっとあるかと思ったが……なるほど、どうやらそうらしいな。今、渋滞情報を検索したが、そこまで極端な混雑は起こっていないみたいだ」


『でしょうね。でも会場の情報を検索してたら、もうすでに列でき始めてるらしいですよ。なるべく早め早めにいったほうがいいかと』


「了解した。とにかく、お前は現地に早めに言って情報収集だ。手筈通りにな」


『了解』


 一通りの無線交信を終えて一息つける。

 会場までは後30分もないが、この後通るルート上での渋滞はそこまで出ていないとの表示が出ている。和弥との情報とも合致するし、現地到着は定刻より早めにいけそうだった。


「現地に着いたらあいつらと合流を図る。そのあとは、あくまで一般人を装いつつも付近を捜索だ。いいな?」


「了解」


 二澤さんと改めて今後の行動を確認しあった後、車をそのまま現地へと走らせる……。






 さらに30分ほど立つと、目的地に到着する。


 車を付近の駐車場に止めた後、一先ず会場正面出入り口付近に来た。この時点で、すでに俺たちは軍人ではなく一般人である。


「マザーより各チーム。到着した。状況を」


『ファースト、会場の列に並びました。付近に不審な人物なし』


『セカンド、こちらも並びました。こちらからは会場のスタッフが見えますが、そちらにも異常なし』


「了解。サードは?」


『こちらサード。会場周辺を少し見てますが、そこまでおかしなものはありません。だれにも見つからないようにゴミ箱も調べました』


「そうか。では、そっちの周辺調査が終わったらこっちに合流しろ」


『了解』


 無線交信する間も周囲に気を配る。無線交信をする様子ははたから見れば不審な行動だ。そうならないよう、できるだけ自然体で、口を小さく動かすだけでマイクに声が届くようになっている。

 なので、マイク自体も耳にあるイヤホンとは別に分かれた超小型の者を使い、自身の服装の裏に隠して付けている。


「俺たちも並びます?」


「一応な。だが、周辺に気をつけろ。なんせ会場が会場だ。全員がその対象になる」


「了解」


 俺はそう答えながら、ふとすぐ横にあった建物を見る。

 今回の俺たちの任務の舞台となる会場。その正面出入り口となる。


 ……そこにはデカデカと、『TOKYO EXCITE CITY HALL』と書いてある。


 その下に……




『SEA GIRLs 5th FAN MEMORY LIVES』




 ……という、これまたデカデカとした空間投影文字が掲げられていた。



 ……そう、ここ、“アイドルのライブ会場”である。



「(休日での任務の舞台が、まさかこことはねぇ……)」


 俺は小さく複雑なため息をつきながらそう思った。

 SEA GIRLsっていうのは今日本で活動中のライブユニットで、日本国内ではトップレベルの実力者ガールズトリオ。ファンは全国にこれでもかってくらい大量にいる。

 現在第2回全国ツアーの真最中らしく、この東京でのライブはその一つ目らしい。


 ……それだけならいい。それなら世にいるアイドルオタクとファンの方々でお好きにお楽しみいただいて熱中すればいいだけの話だ。


 ……が、そうもいかない事態が発生したために俺たちまで狩り出されてるわけで……


「……ほんとにこんなところに仕掛けれるんですかね? “爆弾”」


「あまり大きい声で言うな。周りに聞かれる」


「……了解」


 二澤さんも随分と注意深いが、大人しくそれに従う。


 そう、実は公安やらJSAやらがいろいろ調査していたところ、この日にライブ中に誰かが爆弾を仕掛けるかもしれないという情報を入手したらしい。

 詳しいところはまだ未確認な部分も多いが、日程はこの日とわかっているし、時間帯も大体ライブ中にやるということもわかっていた。


 だからこそ、本当はライブは止めたかったのだが、これが判明した時点ではすでにライブまで1週間ちょい前に迫っており、しかもそのあともツアーが予定されているため、今更変更も効かなかった。

 それならということで公安やJSAに頼んで現場で調査をさせるしかないのだが、如何せん捜索規模に対して人出が圧倒的に足りなかった。

 それに、今時警察関係者にも共産党系や旧北朝鮮系のシンパが入っている可能性を疑われていることもあって、臆病なことにあまり思い切った行動をしたくないというのが本音にあるらしい。ここら辺は羽鳥さんがあまり口外しないことを条件に教えてくれた裏話だ。


 ……なので、ぶっちゃけ便利屋みたいな感じになっている俺たちに白羽の矢がたったというわけである。そんな警察事情に巻き込まれる俺たちの身にもなってくれってんだ。

 というか、東京にも特察隊あるんだからそっちに頼めばいいものを。何で俺たちが。


 ……とはいえ、やれと言われたものはやるしかない。


 この東京エキサイトシティホールは収容人数4500人弱。元々ここは有事や震災時には住民の避難場所兼国防軍司令部施設になり、さらには緊急物資や備蓄食糧の収容にも使われるだけあって結構規模はデカイ。和弥や二澤さんらによれば、当日の券はすでに完売しているため、確実に席はファンでほぼ満杯になるだろうといわれていた。


 ……これらが意味することは、今更言うまでもない。二澤さんも、改めて忠告するように言った。


「……いいか、決して油断するな。爆弾によってはライブ中に大勢の死傷者が出る大惨事だ。下手すれば地下鉄サリン事件以降、そしてそれ以上の悲惨な都市部を狙ったテロになる。何としても見つけ出さないとならない」


「わかってますよ。しかし、この大勢の人の中をかきわけるというのは相当堪えますよ?」


「それでもやるしかない。……一番は、爆弾がそもそもなかったってことなのだが……」


 二澤さんが苦い表情を浮かべる。そんな間違いであればいろいろとありがたいのだが、はて、現実日本の公安やJSAも優秀ゆえ。残念ながらそれは叶わない夢になるだろう。


 こうしてみると、もう周りにいる全員が実行犯なんじゃないか、なんていう錯覚まで覚えてしまう。人は人間不信になった時ほど怖いものはない。周りが誰も信じられなくなるのだ。

 日本人みたいに、特に集団的行動が多い傾向にある人にとっては余計そうなる。


「(信じられる者が信じられなくなったとき……か。今はただの一般人相手だからいいが、これが身内だったらなぁ……)」


 なんて、怖い想像も思わずしてしまう。身内が信じられないとか、スパイでも入ったのかって状況だが、生憎国防軍内部に、しかも空挺団にまで簡単に入りこめるスパイがいたらたぶん俺らとっくに殺されてる。いろんな意味で。


 そんな野暮なことを考えつつ、一先ず列に並ぶ。

 チケットは携帯にデータを内蔵させる電子通信型のチケットで、すでに二澤さんのほうから俺たちに渡っていた。これは公安のほうから情報を受けたライブの主催者側が、俺たちに対して気を利かせてくれたものだ。とはいえ、主催者側は厳密に誰に渡すのかまでは知らされていない。知らされたら潜入の意味がなくなる。


「あと、ついでだからこれももっとけ」


「?」


 そういってとりだしたのはペンライト……の、束である。しかもちゃんと入れ物付きだった。それが、3人分。


「ライブに使うペンライトだ。一応一般人になりすますってことだから、もっておいて損はない。使うかどうかは知らんが、基本なりきらないと怪しまれるからな」


「それは分かるんだけど……アンタ、いつの間にそんな大量に持ってたのよ」


「部屋に隠し持ってたのさ。ヘヘヘ」


「ハァ……アンタって人は……」


 新澤さんの呆れるため息にも、二澤さんは笑ってごまかした。彼らしいというかなんというか、自分の欲に忠実というか。

 でもまあ、ライブに来たのに手ぶらっていうのも少し変なので一応持っておく。腰に据え付けておくものらしく、とりあえず二澤さんが付けてるのと同じように腰に引っ提げた。

 ついでにペンライトも見てみるが……LED仕様で、12色しっかり揃っていた。しかも、二澤さん曰く結構新しいほうのタイプで結構高かったという。


「この日のための入念な準備は怠ってこなかったわけだ。それが今になって使えるとはな。ッハッハッハッハ」


「ハァ、アーハイハイ……そうですね」


 ペンライトを腰に引っ提げながらまたため息をつく新澤さん。何を思ってるのか大体察しはつくが、あえて聞かないで置いておこう。


 ……そんな中、


「……ん?」


 少し興味深げにペンライトを手に持って見つめるユイ。はじめてみたものだから興味あるんだろうか。


「ペンライトがどうしたんだ? 珍しいものにでも見えたか?」


「? あぁ、珍しいというか、こういうの初めてなので。……私、基本こういうのに縁ないと思ってましたから」


「あー……まあ、そうだよな」


 本当なら基地内にいるはずのユイ。あくまで基地内でいろいろ試験を済ませるつもりだったはずが、あれやこれやと理由をつけられては外に引っ張り出される始末。これじゃ基地内で厳重に保管してる意味が薄れてしまう気がするが気にしてはいけない。

 今回も、一応爆弾操作ということでユイの能力を使うことになった。人員選定は羽鳥さんが行ったが、例のハワイサミット最終日でのことが彼にも伝わっていたらしく、その金属探知能力を使えば早期発見が見込めるという判断によるものだった。要は、あの時の業績を買われたわけである。


 アレのおかげもあり、ハワイサミットの締めで爆弾テロが発生するという最悪の事態は避けられたことで、一応表沙汰にはされてないが謝辞が俺たちの方に来た。結局、あのサミットではずっと働きっぱなしだったと、日本のあの警備チームの中では賞賛されたりしたのだが、その結果、今日のこれである。


 いやまぁ、褒められるのは悪い気持はしないしむしろ鼻が高くなる気分なのだが、またこうして狩り出されるとは思わなかった……俺らって、ほんとこういうのに縁あるなとつくづく思う。


「まあ、何かあったら貧血装ってすぐに倒れろ。俺が回収するから」


「了解です」


 そういった確認事項を小声で耳打ちする。周りには聞かれないよう配慮は怠らない。


「すいません、お待たせしました」


「ん?」


 すると、横から聞きなれた声が聞こえる。和弥の声だ。どうやら周辺調査を終えたらしい。


「終わったか、どうだ」


「いえ、特に何も。あとは中だけです」


「そうか、わかった。……となると、本格的に目標は中にいる人だな……」


 二澤さんの顔が険しくなる。

 会場の外には何もなかった。まあ、テロを起こすっていうならどうせ中だろうと思っていたが、案の定といったところか。

 後は、実際に中に入って直接確かめるしかない。


 しばらく時間をつぶし、列も結構長くなった頃、スタッフが拡声器を持って入場開始を叫んだ。

 それに合わせて一気に列が進む。出入り口の入場スピードがスムーズなのか、列もどんどんと前に進んでいった。

 それに合わせ、二澤さんも周りに気づかれないように無線で先行して列にいたチームに無線をいれる。先に入って席を確保したら、後は周辺警戒と異常物の調査に乗り出すよう指示を出し、後は俺たちが入場するのみとなった。


「よし、では中でも手筈通りの行動を頼む。……ここからが本番だ。気を引き締めろ」


「了解」


 二澤さんの表情が引き締まるの、俺たちもつられる。列はどんどん進み、出入り口にスムーズに吸い込まれていった。





 そのまま、俺たちも中に入り、いよいよ舞台は会場内部へと移る…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ