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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第3章 ~動揺~
61/181

会議初日

 [9月1日(日)HAST:AM9:30

     ハワイコンベンションセンター3階大会議室『オアフ』 中央大通路アラ・ハラワイ




 翌日午前。この日からさっそく会議の日程が始まる。


 初日は首脳クラスが集う全体会議が予定されている。サミットでの日程確認や、首脳全体での大規模な会議を行う予定で、様々な議題について全体的に話し合われる。

 当然、特に重要視されている対テロ関連についても話し合われる予定だった。

 この首脳会議はサミットの中でも特に重要なものであるため、初日のうちにやってしまおうという魂胆である。

 そのあとに、各国の首脳がそれぞれで会談を行ったり、他ついでにやってきた各大臣クラスでの会談等も行われる予定ではあるが、今はその大臣クラスの政府高官もここに集っている。


 早朝早くに俺たちは起床し、事前に用意された黒色のスラックスに白い半袖Yシャツを着、それに上から黒いベストを羽織るという何ともラフな服装で身をこなす。

 そのあとは、先のテロにより急遽再編された警備チームの中で改めて日程や役割を確認。

 その結果、本来一緒に連れてきたはずの首相らの警護も、テロの被害により数が足りなくなってしまっていることが発覚し、急遽俺たちがつくことになった。


「君たち、特察隊出身でしょ? 要人警護も想定されてたチームのはずだから、むしろ適任だろう。よろしく頼む」


 ―――という言葉は、負傷した警護主任の代わりに臨時でなった警備隊長から発せられたものである。役職的に、むしろ本業というか、うってつけだろうということらしい。

 ハワイ州警察から何人か借りれよ、みたいなことは提言したものの、ハワイ州警察も、今回のサミットに対する警護や周辺警備などで人数を回せないらしい。

 しかも、先の政府専用機のハイジャックを受けてより厳重にやってるようで、ぶっちゃけそっちにまで回せないそうだ。優先順位ってなんだっけか。


 まあ、とはいえ俺たちが所属する特察隊がそういったことも想定されているのは確かである。警護に関しては一定の心得と技術は持ち合わせているゆえ、やれないことはない。ここはとりあえず引き受けることにした。

 ……いつの間にか、ただの人事交流の人員のはずが、正規の警護チームに入っているような扱いを受けているが、気のせいではないのだろうな。状況が状況なので仕方ないが。


 後にブリーフィングを終えた俺たちは、警護チームを組んで会議に向かう首相らと合流。3階へと向かった。

 HCCの3階は会議室や展示室エリアとなっており、そのうちの一つである『オアフ・ルーム』にて、その全体的な首脳会議を行うことになっていた。


 同じタイミングで各国首脳たちも自分の警護を連れて中へと入っていく。ここから先は少数人数しか入れないうえ、マスコミも入ってくるので警護の一部は外で待機となった。

 待機組には俺とユイも含まれる。さすがにそんな重要な場所の警護までは同行できない。


「(……よし、もうすぐ入るな)」


 側近として近くにはいないが、少し遠目で総理がオアフルーム前に着いたところを確認する。

 マスコミが駈け寄ったり、しこたまフラッシュを光らせる中、視線はそのままに、俺は隣にいるユイを肘で軽くつついた。

 すぐにユイから右腕を軽くポンッとたたかれる。「なんですか?」の意味だ。


 俺は右のこめかみをさりげなく指し、それを上にあげて回す。


「(周囲確認。以上報告よろ)」


 今のサインにはそんな意味が込められている。

 数秒の後、また軽く右腕をポンッと叩かれる。それも2回だ。


「(よし、周りにはやばい奴はいないか)」


 ユイのそのサインの意味をすぐさま受け取る。


 ユイには赤外線やX線などの探知機器を用いて武器類の走査をしてもらっていた。

 警備は厳重に行われているが、念には念を。こうした時は“ある程度臆病であること”が必要だ。

 特に、先のハイジャックで使われたマスコミのカメラの中などは要注意だ。また同じ手口を使われる可能性は否定できない。ユイにある熱源探知を細かに使えば、内部にある弾薬の微量な熱分も解析することは可能だ。


 周囲に気づかれないよう、言葉ではなくこうした手を体に当てたりなどといったサインで意思疎通をしている。小声に対応できるインカムはあるにはあるが、こうして使わずに済むに越したことはない。


 ……しかし、幸いなことにこの周りにはいないようである。武器類を持っている輩はいないようだ。

 尤も、そもそもの問題として今はここはマスコミや各国首脳、その関係者、警備チームなどがごった返している。会議室につながるメインの大通路なので比較的広めではあるはずだが、この状況だ。

 こんな時にわざわざ襲いに来るとも思えんし、問題はないとみていいだろう。


 定期的にこうすることによって、常に周囲を警戒している。ユイの見た目からして誰にも警戒されず、しかも最高の探知性能を誇るそのユイ本人の目によって一発で見抜く。完璧ともいえる体制と状況である。


「総理、及び大臣閣下ら入室。アルファ、後は頼んだ」


『了解。任を引き継ぐ』


 無線で小さなやり取りを済ませると、日本人首脳らと警護チームは会議室の中に消えていった。


『ブラボー総員、これより周辺警戒を行う。交代で各担当の持ち場を見回れ。怪しい者は見逃すな』


 右の耳にかけられた超小型のイヤホン越しに警護主任の声を聞く。

 ここからは数グループに分かれて周辺警戒だ。何回かに分けて交代制。会議は2時間半程かけてじっくり行われる予定なので、その間ずっとになる。


 俺とユイはコンビで一つの行動単位とされ、基本ペアで行動することが義務付けられた。担当区域として、俺たちは3階の見回りを頼まれる。

 マスコミや各国首脳、警護が入り乱れる中、その隙間を縫ってさりげなくうろつく。その過程で、不審な人物を見つけていくべく目を光らせた。


「(……つっても、どこもかしこも人ばっかだなぁオイ)」


 例えるなら、コミケに行くために朝一の電車で来た時の国際展示場駅か。あれくらい……より、多少少ないくらいの人だかりだ。

 この中から不審なと言われても……ぶっちゃけどうやって見分けろと、といった感じである。


「(これ、要人警護ってよりは周辺警備だな……)」


 まあ、どっちにしろ特察隊の運用想定には入ってるので問題はないが。

 時折、ハワイ州警察から来たらしいセキュリティポリスも見かける。俺たちとほぼ同じような比較的ラフな服装でまとめており、その鋭い目線が周囲に向けられていた。


 その雰囲気は、だれもがピリピリしていた。


「……この居づらい空気な」


「我慢してください、事が事ですから」


「わかってるって」


 小声でそんな会話を挟む。

 周りからのその厳重なプレッシャーに圧倒されそうになりながらも、何とか周辺警戒の任を続ける。

 マスコミあたりに紛れてないか?とも思ったが、幸いなことに不審な人物はいなかった。ユイの走査にも引っかからないあたり、持ち物にも危険物はないらしい。


「チェリーよりブラボーリーダー、定期報告。3階Bエリア異常なし。ただのマスコミだらけですよ」


 周辺に目を向けたまま、襟の陰につけた超小型マイクに向けて声を発する。

 ブラボーリーダーはこの周辺警戒のチームのリーダーである。臨時で立てられた隊長の一人だ。


『了解。時間になったらケストレルと変われ。あと、マスコミだらけは余計だ』


「こりゃ失礼。しかし、ほんとにマスコミだらけなんで見分けるのも一苦労です。たぶんもっと増えますよ。マスコミも会議終了に向けて増員かけてきますから」


『わかっている。とにかく、今は周辺警戒を怠るな。紛れてくる可能性もある』


「了解。チェリーアウト」


 こうした無線の間にも、目線はずっと周囲に向けられた。先ほどから、各国のマスコミも増員が来たのか、それとも交代要員なのか知らんがどんどん増えてきている。その中にテロリストらが紛れていたら厄介だ。


 ……しかし、この後しばらく探しても見当たらなかった。簡単に紛れ込もうとは思わなかったらしい。

 交代時間が来たので、所定の場所でさりげなく交代する。あくまでさりげなく。周りにはあまりバレないように。

 ケストレルと呼ばれていた人とすれ違いざまにアイコンタクトで交代の意思を伝えあう。ケストレルと呼ばれるその男はそのままマスコミの群れの中に消えていった。


「(ふぅ……どれ、一先ず休憩だ)」


 そのまま俺たちはエスカレーターに乗って屋上へと登った。そこで、一旦外の空気を吸って休憩である。





「……はぁ~~、疲れるわぁ~~」


 外に出ての一言目。思いっきりため息つきながらそんな言葉を吐き出す。

 HCCの4階は敷地の半分が屋上になっており、同時に広場としても使われている。

 今日の天気は快晴。南国らしくむしろ熱いぐらいの晴れ晴れとした青空が頭上に広がっていた。


「疲れたって、たった1時間ぶっ続けで見張りしただけじゃないですか」


「その1時間がなげーんだよ……もう少しこまめに休憩入れさせてくれよ、俺これ本職じゃねえんだからさ」


「半分本職みたいなもんですけどね」


「それはそうだけどさ……」


 しかし、それだけいってもコイツの顔はけろっとしている。にゃろう、身体的な意味での疲れ知らずめが。


「なんでしたらジュースでも買ってきましょうか? ここカフェショップあるみたいなんで店員に頼んで持ち込めますけど」


「あー、じゃあなんか適当に見繕ってきて。金ある?」


「ここに有り金をドル変換したものが。じゃ、ちょっと失礼」


「うぇい」


 そういってユイはカフェで飲み物を見つくろいに行った。

 俺は適当に屋根が立てられているスペースで一先ず休息をとる。横長に配置された石の花壇に腰掛けると、ちょうど場所的に日差しをカットしてくれてる上、ここは地上より少し高いので案外涼しいものだ。

 周りを見ると、俺以外にもここで休息をとっている人がちらほら見える。俺みたいにラフな制服姿をしてる人もいれば、完全にハワイらしいアロハなシャツを着ている人もいる。

 ここは休憩場所としては多くの人に開放されているらしい。


「はぁ……休息といっても特に何もすることねぇな……」


 これといって暇つぶしを持ってくることもなかった。

 手持ちに本でも持ってこれればよかったが、警備任務でそんなことできるわけもなく。iPhoneは持ってるが、生憎電子書籍機能に入ってるものはもう読んでしまった。

 また新しく買うのも……今からってのもちょっとめんどくさい。


 たまには涼しく空を眺めるのも……うん、ちょっと飽きる。


「(何か暇つぶせる奴あったっけか……)」


 ……そんな感じで、適当に思考を巡らしている時だった。


「……あ、そういえば」


 ふと、気になる点を思い出す。


「例のハイジャック……旭日川だって言ってたよな……」


 あの政府専用機にいた時、ハイジャックをしたリーダー格本人は、自分は旭日川出身だといっていた。しかも、「俺たちが旭日川に~」というあたり、その時はハイジャック犯は全員そこ出身なのかと疑いもした。

 そして結局、今現在判明しているところでは確かにハイジャック犯の大半は旭日川出身だった。一部空中輸送員のほうからも謀反者もいたりしたが、主導はマスコミ搭乗に紛れて入ってきた、この旭日川出身の奴等らしい。



 ……なんで、旭日川なんだ?



 本人たちは、マスコミを扇動として利用するための学習として就職した、みたいなことを言っていたが……


「(……別に、そんな理由ならわざわざ旭日川でなくてもよかったはず。どこのマスコミも根本的には似たようなものだし……)」


 政府専用機に確実に乗るためか? だが、今回はマスコミは大手各社からそれぞれ搭乗者を募っていたはずだ。旭日川に限定する必要もない。

 それに、わざわざ旭日川オンリーだったのも気になる……同じ会社出身のほうが意志疎通取りやすかったのか? でも、出身を分散させたほうが怪しまれずに済むはずじゃ……


「(……ちょっと気になるな)」


 ちょっと、偶然と処理するにはおかしい部分が多い。少し探ってみる必要がある。

 とはいえ、俺の立場からでは大きな行動は起こせない。代わりがいる。


 ……となれば、


「……やっぱ、アイツしかいないよな」


 俺は携帯を取り出す。今の時間帯からして、向こうは翌日の朝……か。でも確かアイツ、ここ数日連休でオフとってたって言ってたよな? 実家に帰る予定だったんだっけか。

 ならちょうどいい。朝方で申し訳ないが、ちょっくら情報収集がてらに探りを入れてもらおう。

 iPhoneを取り出し、アドレス欄からすぐに呼び出した。


「祥樹さ~ん、コーヒー持ってきましたー。……って、だれに電話してるんですか?」


 ちょうどそのタイミングでユイが返ってきた。手にはふたがされた一個の紙のコーヒーカップ。


「あ、ユイか。わりわり、コーヒー置いといて」


「いいですけど……何用の電話で?」


「なに、ちょっと気になったことがな」


「?」


 ユイが怪訝な顔をして首をかしげる中、8回くらいコールを鳴らしてやっと出てきた。


『あぁ~~い、どちらさぁ~ん?』


 滅茶苦茶眠そうな声である。画面の呼び出し人すら確認せず「どちらさん」呼びするあたり、コイツ今起きたな?


「俺だよ和弥、おはようございやす」


『ん~? ……ん? え!? お、ひ、祥樹か!?』


「今更過ぎる反応だな」


 相当寝ぼけてたらしい。俺の声を聴いても一瞬判断がついてなかった。

 しかし、今はもう完全に起きたようである。そのあとの声はいつも通りのものだ。


「悪いな、そっち朝っぱらだろ」


『ああ、まあな。だが、それよりもそっち大丈夫だったか? 政府専用機が……』


「あぁ、その点に関しては問題ない。もうカタが付いた」


『そうか、よかった……ニュースを聞く限り相当やばい状況だったみたいだし、しばらく連絡なかったからな。心配したぞ』


「スマンな、こっちの事情もあってむやみやたらに連絡出せねんだわ」


『いや、そこはちゃんと察してるさ。一応、無事が確認できただけ問題ない』


「おう。今は話せないことが多いから、そっちに帰ったらおいおいってことで」


『了解。帰国を待ってるぜ』


 この口調、相当心配していたようである。親友としてありがたい限りだが、しかし中身を聞く限り、やはり日本のほうでも相当大きなニュースとなっていることがうかがえる。まあ、ある意味当然ともいえるが。


「で、ついでに聞きたいんだがお前今何してんだ? 確か今日もオフだったろ?」


『ああ。実家の用が予定よりすぐに終わっちまったんでちょっと観光してら。札幌に出張して今ホテルよ』


「マジかよ」


 アイツ、地元の函館の用が済んだと思ったら札幌にまで出張かよ。終わったならさっさと帰ってやれよ。新澤さん絶対胃が死んでる思いしてるってマジで。


『二澤さんたちに土産頼まれててよ。函館の白い恋人とか、あと札幌で同人誌買って来いって』


「同人誌って……それ中身によっちゃ当直に見つかったらアウトじゃねえか?」


『だから、その保存に関して今頃協議中っぽいぜ?』


「おいおい……」


 まーたあの人らは変なことをたくらんで……あぁ、もういつものことだから別にいいか。

 ため息交じりに隣に置いていたコーヒーを一口飲むと、今度は向こうからくる。


『で、こんな朝方なのを承知でわざわざ電話してきたってことは、何かあったってことだろ?』


「ん、まぁ……何かあったっていうか、気になったことがあってな」


『ほう? なんだ?』


「いや……なぁ、この回線って、民間回してないよな?」


『安心しろ、今の俺のiPhoneは軍用の使ってるから機密性は抜群だ』


「そうか……すまんな、今からはなすことは、ちょっとほかには話せねえことなんだよ」


『……というと?』


 向こうの口調が一気に真剣みを増した。声だけで、向こうの雰囲気が一変したのをすぐに感じ取る。


「いや、例のハイジャックあったろ? 俺もあの当事者で、いろいろと動かせてもらった。……でな、その過程で気になったことがあるんだよ」


『気になったこと?』


「そっちの報道で、ハイジャック犯、またはテロリストが、どこの会社出身かってのは流れてたか?」


『出身……マスコミ関係者出身だとは聞いてる。どこの会社かまでは出てない』


「そうか……」


 かれこれ4日過ぎてるが、そこまでの報道はしてないのか。

 マスコミ記者が絡んでただけあって、マスコミ自体への過度な批判を避けたのか、それとも単に情報が開示されてないのか……どっちかはわからないが、どこかで情報が止められているのだろう。


「ここからはちょっとまだ話してないやつだ。お前しか言えない。誰にも話すなよ?」


『ほう? そこまでの中身ってのもちょっと興味あるな……。なに、情報屋として、機密性は保証する。誰にも話さねえって』


「すまんな。……でさ、実はそのマスコミ……」


『おう』


「本人たち曰く……全員、『旭日川出身』らしい」


『旭日川?』


「あぁ、旭日川だ」


 そして、そこから本人たちが言っていた内容を超要約して簡単に説明した。

 当然、一部どうしても話せない部分があるため誤魔化したりもしたが、それでも、俺たちがあの彩夜さんを助け出そうとした時に、リーダー格の人が言っていたことの大まかな内容を和弥に伝えた。

 和弥は終始無言で聞いていたが、簡単に伝え終えると「ふむ……」と唸っていた。


『……なるほどな。つまり、奴らはマスコミを扇動して、とにかく会議を中止に追い込ませるために利用しようとしてたってことか』


「ああ。それに関して、マスコミの特徴とかを学ぶために、旭日川に入ったとも言っていた」


『マスコミをうまく扇動するための学習だな。なるほど……奴ら、中々面白いこと考えやがる』


「だろ? で、結果的にはどっちに転んでも自分たちに利するように働きかけていた」


『ハワイサミットの中止を断れば、日本の政府専用機が落ちて、マスコミからぶっ叩かれる。そして断らなければテロに屈したと大バッシング……か。阻止できたのがほんとに幸いだったな』


「ああ、何とかな」


『ふむ……しかし、会議が中止にならなくてよかったな。ハイジャック未遂を受けて中止ってなったら結局そいつらの思う壺だった』


「そのかわりこっちは疲労困憊になりそうだがね」


 現在がすでにそうだし。


『ハハ、まあな。でも実際、そのハイジャック連中もそこを狙ってたのかもしれん。口ではああはいっていたが、実際常識で考えればハイジャックが起きた時点で中止してもおかしくない。そいつらも、成否関係なくハイジャック自体を起こしたという事実を伝えて中止を誘発させたかったって可能性もある』


「ふむ……なるほどな」


 中止自体が彼らの目的だったことを考えれば、確かにそれもありえそうではあるな。そこに関しては実際に本人に聞いてみないとわからないが……彼らのことだ。マスコミ扇動を考えるくらいだし、そこら辺を考えていないとも限らん。


『……まぁ、事情は分かった。で、何を聞きたいんだって?』


「あぁ、それがさ……思ったんだが、何で旭日川なんだ?」


『なんでって、どういう意味だよ?』


「だから、別にマスコミの特徴云々学びたいなら、ほかの会社でもよかったはずなんだよ。TVではなく、新聞社でもいいし。それに、旭日川オンリーってのも妙に気になってさ……お前からして、そこはどう考えてんだ? ただの偶然と処理していいのか?」


 すると、和弥は「あぁ~、そういうこと」と納得したような声を上げて、すぐに適当な回答を示した。


『そこについての答えは簡単だ。そのほうが奴等にとっても都合がよかったんだよ』


「都合がよかった? どういうことだよそれ?」


 コーヒーを飲みながら説明を要求する。


『今回起こしたハイジャック犯、さらにいえばテロリストがどこの出身かは知らんが、旭日川ってのは実はテロリストとちょっと繋がってる部分があるんだよ』


「え、マジで?」


 テロリストとつながってる? 仮にも日本の大手マスコミだぞ?


「旭日川がテロリストとパイプがあるってことか?」


『あくまで、噂されてる、てレベルの話だ。だが、裏背景を見るとそういわれるのも頷ける』


「というと?」


 和弥が一つ咳払いをし、講義する先生のように話を始めた。


『時系列を立てながら話すぞ。事の発端は2014年だったかに起きた旭日川新聞社の誤報問題だ。一時期大問題になってたろ。覚えてるか?』


「あぁ、一応はな」


 まだ俺たちが小学生の頃の話だったが、当時のニュース映像とかはうっすらと覚えていた。

 どういう内容だったっけ……っていうのを思い出そうとした時、


「2014年の旭日川誤報問題って、調書の奴とか慰安婦問題の奴ですか?」


「うゎぇい、お前聞こえてたのか?」


 隣から突然のユイの声。この内容、明らかにこっちの会話理解しているとみる。


「電話からほんの少し聞こえてくる声をね、ちょちょいと」


 そういって耳を指しながらドヤ顔をかますユイ。そうか、そういう機能もあるのか。最近のロボットマジパネェ。

 だが、一応思い出せる範囲ではその調書やら慰安婦やらの奴で間違いないだろう。確か、それによる誤報が積りに積もって不満が爆発しちまってたはず。


「で、その旭日川の問題がどうなんだって?」


『あぁ。その誤報問題によって、一時期マスコミ全体としての報道姿勢が非難されたてたんだ。特に旭日川の場合、誤報っていうか中身を見る限りは明らかな報道内容の部分的捏造で、それが大問題になっちまったんだな。あくまで一時期の話で比較的すぐに事は終息したんだが、それが原因で、旭日川全体としての信頼性が低下して、親会社である旭日川TVにもその悪影響が及んでいったわけだ。しかも、その旭日川TVも後々になって報道内容にヤバい誤報があったんてんで放送倫理・番組向上機構(BPO)にダメ出し喰らっちまったからな。その結果は、契約数の減少と、年々減っていく就職者数という形で現れた』


「誰も旭日川を見ようとせず、そして入ろうとしなくなったわけか」


 まあ、世間から嫌な目で見られる会社にわざわざ入ろうとする奴もいないから当たり前の反応だろうが。


『ああ。契約者数減少はまだ許容範囲内で済んだらしいんだが、問題になったのが就職者数減少による労働力の低下だ。当時の旭日川はすでに社内高齢化が進んでてどんどん老人が退職して、慢性的な労働者不足に陥っていたんだ。しかも、そこに日本全体としての少子高齢化の波もぶち当たって、まさに人手不足な状態になりかけてたわけだ』


「当時からすでにか……」


 タイミングとしてはまさに最悪のところで問題になったわけか……こりゃ大変だな。自業自得ではあるが。


『そうだ。そこで旭日川TVとしては事態打開のためにまず労働力を確保しようとしたわけだが……そこで、あれが起こる』


「あれ?」


『そう、あれだ』




『朝鮮戦争の再開だよ。旧北朝鮮の南進だ』




「……そうか、この時期だったか」


『あぁ、まさにこのタイミングだ。旭日川誤報問題の数年後の話だった』


 朝鮮戦争の再開。旧北朝鮮の南進のタイミングと、このほぼ同じタイミングで起きていたか。

 たった1ヵ月によるものではあったが、これはアメリカに対して北朝鮮本格介入の口実を与え、結果的に旧北朝鮮は崩壊。韓国に吸収され、晴れて朝鮮統一が達成された。


 それが、一体何の関係があるんだ?


『朝鮮戦争勃発時、南進してきた旧北朝鮮軍から逃れるために、多くの南北朝鮮人難民が日本に押し寄せてきてな。日本政府としては最大限人道支援として受け入れはしたが、旭日川はこれをチャンスと踏んだわけだ』


「チャンス?」


『そう、チャンスだ。難民救済の名目で、労働力としてこの朝鮮人たちを迎え入れることによって、社内の慢性的な労働力不足を補おうって魂胆なわけだ』


「難民救済措置名目の実質会社救済措置ってことか?」


『そういうこと』


 なるほど……確かに、あの後一部の難民はそのまま日本に住み着いたという情報もあるし、働き口として開放すれば、多くのその難民が就職のために押し寄せてくれる。

 日本人でダメなら南北朝鮮人……ということか。ある意味、合理的な判断だ。


『旭日川TVの難民受け入れは終戦後も続いた。多かった韓国系だけでなく、後になってやってきた旧北朝鮮系も受け入れた。ほかの企業も、面倒な難民保護を旭日川に押し付けれるし、当時の日本政府も、難民者の就職先問題をどうにか解決してくれたりで扱いには困らないだろうってことで、どこもかしこもそれを黙認していたんだ。実際問題、難民の多くはそっちにいってくれて経済的に自活を始めてくれたおかげで、政府が思ったほど極端な就職問題は起きなかったし、難民生活に関しても、旭日川TVがほぼ一手に担ってくれたおかげで、さほど大きな問題にならずに済んだ。旭日川も、何とか一定の労働力を手にすることができて、まさにWin-Winな状況だったわけだ』


「なんだ、そこまで悪い状況とは思えんが」


『だろ? 一見そう見えるんだよ。……だが、のちに陰りが見え始めてな』


「陰り?」


 そこまで悪い状況になったとは思えない流れだが。


『そう、陰りだ。元々韓国人ってちょい日本の政治や軍事に反発的な面があったろ? はっきり言ってしまえば左翼的だ。韓国人、南北混ざってるから正確には朝鮮人、ないし朝鮮系って感じなんだが、その人たちの意向や意見が反映されやすくなっちまったんだ。ほら、前に話したろ? 暴力団が朝鮮系や共産党系とかに汚染されつつあるってやつ』


「あー……そういえば言ってたな」


 政府専用機に乗る1週間くらい前。和弥と都内での調査協力活動中、そんなことを話していたな。

 今の暴力団が、そういった旧北朝鮮系や共産党系の人たちの受け入れ先として成り立った結果、彼らの意向がその暴力団の意向として反映されやすくなり、結果的に旧北朝鮮系や共産党系テロ組織とのパイプに使われてる可能性がある、みたいなことだ。


「つまり、今の旭日川TVがその暴力団と似たような状態になってるってことか?」


『ご名答。難民といえど元韓国人、ないし北朝鮮人。思想はそっちの国の人たちよ。朝鮮系を受け入れすぎて今度は今までより左寄り、韓国寄りの報道が極端に加速しちまって、さらには朝鮮系がかかわってるテロに関してはこれっぽっちも関わらないなどの偏向的な報道まで起きちまってな』


「おいおい、それじゃ本末転倒だろうが」


 自分たちが起こした偏向報道やら何やらの結果起きた労働者不足を補おうとしたのに、最初に戻っちまったらまた同じ結果しか生まないぞこれは。


「(もしかして、さっきマスコミがハイジャック犯の出身会社流してないって言ってたのってこれが理由……?)」


 旭日川だけならまだしも、ほかの会社すら流してないというのも気になるが……あの和弥が他のマスコミからの情報を持ってないとも言い難いし、和弥が言ってないということは他のマスコミも流してないということになる。

 もしかしたら……他のマスコミにもその息がかかってたりするのか? 少し思考にふけるが、和弥の怖えそれはすぐに戻される。


『そう、ガチで本末転倒なんよ。で、それが最初の話に戻るんだが、結果的に朝鮮系テロリストもその難民受け入れの時点でそこに入りこんじまったんじゃないかって言われてる。実際に』


「そうなのか?」


『あぁ。実際、報道はされてないだけで他社マスコミは大なり小なりで何個かのテロリストがこの旭日川の出身だってのを伝えてて、いつからかは知らんが、少なくとも今じゃ旭日川はすっかり朝鮮系テロリストの“温床”に成り果てちまってる現状がある。そこからさらには資金とかまで渡してるんじゃないかって陰謀論まで流れちまう始末でな。いろいろと暗躍が疑われてる』


「おいおい、もう救いようがなくないかそれ……」


 これじゃ事態を悪化させてるだけじゃんか。難民受け入れによる労働力確保はまだよかったが、その先まで考えてなかったかのような事態の流れだ……。やはり、社内勢力では朝鮮系も無視できなくなっているのか。


 そこまで話を終えると、今まで空気だったユイが納得したような声を上げていった。


「……なるほど。つまり、朝鮮系の人たちに言わせれば、旭日川のほうが活動がしやすかったってことなわけですね」


「そういうことだな……マスコミの扇動を使うのも、やはりそのノウハウは旭日川で学んだほうが自分たちにとってもやりやすいし、資金も旭日川からうまくやれば流用できる……」


「資金に関しては陰謀論レベルの話ではありますが、あの政府専用機の時の装備の揃い様……いくら“あの方”とやらが絡んでたとはいえ、資金自体は絶対自分たちで募ってますよね」


「あの方ってやつが全部面倒見るとも限らんしな。もしかしたら、資金は旭日川の懐から隠れて持ってきたものかもしれん」


 それで、装備とかを買ったりしか可能性もある。

 さらに、和弥曰く、今までに旭日川は何度か社員が資金報告内容の捏造を起こしていることもあったらしい。資金提供の陰謀論の主となる根拠にも使われる事実らしいのだが、その捏造理由が“個人利用”だそうだ。

 その人の身元がもしテロリスト系列だったら……もはや、考えるまでもない。


『どこまで本当かは知らないが、可能性としては個人的には結構高いんではないかって見てる。今回のハイジャック犯もここから出たって話が本当なら、そいつらは間違いなくその旭日川TV内にいるかもしれない他の朝鮮系テロリストとも徒党を組んでるぞ』


「あぁ……そこに関しても、もう少し情報がほしい。ことと場合によっては、うちの警備で知り合った政治家先生たちにも知らせてみようとも思う」


『そうか。つまり、旭日川のテロリスト情報をもっとよこせってこったな?』


「あぁ、依頼、頼めるか?」


『承った。旭日川TVのテロリスト内情だな? こっちでもいろいろと調べてみる。事によっちゃ……こりゃ、ハイジャック犯を通じていろいろパイプ見つかりそうだな』


「見つかったら見つかったでお前諜報か何かに行けよマジで」


 実際それだけの能力単体であるんだからよ。


『軍人やめたら考えちゃる』


「さいですか……まあいいや、とにかく、そこら辺頼む」


『了解。……じゃ、俺ちっと眠い故、これにて失礼』


「ああ、朝早くにスマンな。ゆっくり寝な」


『あいよ、お休み』


「お休み」


 っていっても、向こうもう朝だからおはようなんだが。

 そんなことを思いながら電話を切る。横で残っていたコーヒーをさらに飲み干しながら、俺はため息交じりに呟いた。


「……やっぱり、旭日川自体も絡んでるってみたほうがいいのか……?」


 和弥の言っていた“仮説”が本当だとしたら、旭日川全体として裏でいろいろと動いてることにもなりかねない。

 旭日川TV内の朝鮮系の割合は結構なレベルだとは聞いているが、その中にどれだけ朝鮮系テロリストがまじっているか……量によっては、政府も無視できないレベルになり始めるだろう。


「……身近なところにも、敵はいそうってことかね」


「いそうもなにも、政府専用機でいることが判明しましたけどね」


「まあな」


 身近な存在が敵だった……なんて、あまり考えたくもないが、実際いる可能性も否定できない。

 今ここで休息をとっている人たちの中にも、実は……なんて可能性も、テロが横行している今現代では全く否定はできないのだ。


「(……ゆったりできる世界にはならんものか……)」


 そんな愚痴を心の中でこぼす。身近な存在、周りの存在に怯えずにいれる世の中になるにはどれくらいかかるか……。

 できれば、そんな世の中はさっさと来てほしい。そう願った。


「……そろそろ時間です。行きますよ」


「あいよ」


 交代の時間が来たらしい。すぐに立ち上がり、適当なゴミ箱に紙コップを捨てて、また中へと入っていった。



「(……まぁ、俺だけが願ってもしょうがないか……)」



 自然に任せるのも癪だが、いずれそうなることを願うばかりだ。





 そんなことを考えつつ、俺たちはまた警備の任に就く…………

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