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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第2章 ~不穏~
57/181

Cleared to land 1

 ―――それからしばらくの時間が経過する。

 空中待機区域に到着した俺たちは、オートパイロットに事前に入力した諸元を元に空中待機を開始。他の便が先に着陸するのを待った。


 サンフランシスコレディオ、そしてホノルル管制での努力により、ホノルルへの着陸機の選定と整理、迅速な着陸誘導が行われ、俺たちが着陸するまでの準備は着々と進められていった。

 例のA.S.Japan503便も、鈍足ではあるものの着実にホノルルに向かっていた。無線交信を聞く限りでは、機体姿勢は不安定ではあれど十分ホノルルにたどり着けるし、エンジンが2基止まって再起動できない以外の問題は起こっていないため、機体制御自体にさほど支障はなく着陸も問題なく可能だということだった。

 一応、俺たちが着陸するための最低限の条件自体は揃えられそうではある。


 だがしかし、同時に今俺たちが直面している問題も徐々に鮮明になってきた。

 その503便は、やはり鈍足な上、元々ハワイから離れていたところを無理してホノルルに向かっているため、ほかの便の結構後に降り立つことになり、結果的に俺たちが降りる時間は大幅に遅れることが予測された。

 503便と管制側の見立てでは、俺たちが着陸進入できる時間は良くても大体今から2時間前後あたり。今後燃料が減っていけば重量軽減で速度もうまく出せるようになるため、時間短縮によってもしかしたら2時間切るかもしれないが……それでも、ギリギリだった。


 少なくとも、俺たちが着陸進入できるチャンスは“たったの1回のみ”というのに変わりはなさそうであった。


 また、滑走路や天候の問題もある。結局、例の08Rの路面清掃は、現状、天気が晴れないとまともに動けないという状況から全く変わらないため、そのまま天気の回復待ちとなった。なので、滑走路閉鎖はまだ継続される。

 その天気も、最新の天気予報によれば、ホノルル周辺のハリケーンが離脱するのは俺たちが着陸する30分前~1時間前あたりとみられており、その後豪雨と視界は急速に晴れてくれるらしいが、それでも暴風だけはどうしても残るということだった。

 風向も現状とほぼ変わらず南風。風速も、俺たちが降り立つ予定の時間帯では大体25~28ノットほどになるとみられていた。

 風が吹きやすい海沿いなのも災いしてか、とんでもない風速となっている。時速に直せば約45km/h~50km/hだ。


 さらに、それだけではない。もう片方の08Lのほうも、先の報告にあった滑走路排水溝の機能不全化が、今になってより顕著になり始めた。

 現在急いで修復しているが、如何せんこの暴風雨である。着陸するまでにどこまで回復しているかわからず、ひどければ排水溝の機能が完全に回復せずに、路面が濡れてスベッスベの状態の中を降りることになる可能性も十分にあった。……というより、このままいけば確実にそうなる。


 つまり、このままで行けば俺たちは『45km/h後半から50km/hの右からの横風を受けながら手動で強引に着陸する』という荒業を『パイロットではない完全ド素人である陸軍軍人が』しなければならなくなるのだ。

 しかも、着陸してもその路面は『スベッスベ』でブレーキが利きにくいというおまけ付きである。


 ……こうしてみてみると、ほんとバカではないかとすら思えてくるひどさである。巷の航空パニック映画でもさすがにここまでひどい状況は起きないぞ。

 事実は小説より奇なりということか。とにかく、それほどひどい状況だった。


 そのため、こっちでも朝井さん手動で入念な準備を始めた。


「―――で、ここがスピードブレーキ。これを事前にアームドに設定しておけば、着陸直後に自動的に主翼上面のスピードブレーキが展開する。今はまだいい。着陸するってなったら操作しよう」


「了解。で、これがオートブレーキで……」


「それはMAXでいこう。路面状況がひどくなる可能性高いからな。だが、それも今はまだいい」


「これがあれば、着陸後ブレーキのために踏み込み必要がないんですよね?」


「そうだ。オートブレーキが自動的にブレーキをかけてくれるから、こっちは方向維持だけに専念できる。あと、そのリバーサーが……」


 朝井さんがマニュアル片手に事細かに着陸に際する方法や手順をレクチャーしてくれている。

 今のうちに、着陸のための知識や方法をとにかく頭に叩き込み、イメージトレーニングを繰り返す必要があると考え、朝井さんに頼んだのだ。

 一応、キャプテン役は俺が引き受け、ユイはコ・パイ席に座って補助を任せる。

 横からいろいろと細かな操作や補助動作をしてもらうため、ユイは今コックピット内を漁って見つけた操縦マニュアルの必要なページを、ロボット的超スピードでバーッと速読して頭に叩き込んでいる。

 辞書ぐらいある分厚いマニュアルだが……ユイ曰く「5分で終わる」らしい。必要ページ分だけとはいえ、この分厚さを5分で済ませて全部頭に完璧に叩き込むってほんとチートな頭してるなコイツ。

 本来は目的対象の解析や、それを記憶・学習し後の戦闘時に利用するためのものだった能力だが、今回はそれを応用した。

 すべて覚えた後も、今度はネットにはつないだままの状態を維持し、すぐに不明情報を検索、取り入れることができるようになっている。ネット接続中のソースは、フライトシミュレーター関連のブログや解説サイトなどだ。


 ここまで入念にやるのも、結局は着陸の難しさにある。

 というのも、航空機事故の大半が、離着陸に集中している事実がある。

 航空業界内で、離陸後の3分間と着陸前の8分間を指した『魔の11分クリティカル・イレブン・ミニッツ』という言葉があるくらいで、特に着陸はその操作の難しさも災いして、パイロットが得に神経を尖らせる時間帯とされている。

 着陸は離陸と違って操縦に際する留意点が多い。その時のスピード、風、機体姿勢、さらに途中の気流の変化や、着地点タッチダウンポイントなどに気を使い、なおかつそれらすべてを常にリアルタイムで把握・コントロールせねばならない。


 それらの複雑な要因を常に把握し、かつ安全、完璧におろすということはとても難しい。

 今回みたいな横風バンバン吹いてる状態での着陸はプロでも厳しいといった理由はこういう所にあり、俺みたいな素人が本来やるべきものではないのだ。


「(大丈夫だろうか……本当に)」


 出身地上等の偶然ではあれど、一応そういう事情を知っていた俺としては、やはり不安感を覚えてしまう。

 ……そんなさなかである。


「おう、そっちは大丈夫か?」


「―――? ……え、総理?」


 コックピットに入ってきたのは総理だった。先ほどまでキャビンにいたはずだが、なんでここに?


「キャビンにいなくていいんですか?」


「すまんな、いてもたってもいられなくてよォ。……ま、さっきからずっとここにいたわけだし、最後までいさせてくれや」


「えぇ……マジっすか」


 曰く「またアイツらが決起した時とかを考えるとやっぱここにいたほうが安全だろ?」ということで、空軍幹部の人たちや側近、あと娘の彩夜さんも説得したとかなんとか。

 いや、そりゃ確かにコックピットのほうがアイツから見ると遠いから安全っちゃ安全だろうけど……いいのか、これ。

 とはいえ、もう今更こんなことでどーこー言ってられない。もういるなら勝手にいてくれ。別に邪魔になるわけでもないだろうし。



 一方、空ではもうすっかり朝日も雲間から姿を見せ始め、光り輝く太陽の光がコックピットに鋭く入ってきていた。なるほど。パイロットもいつもサングラスをかけるわけだ。こりゃ眩しい。


 朝日を顔面に受けながら、そして不安と闘いながら着陸に際する準備を進めていった。


 当然、準備を進めているのはコックピットだけではない。


 キャビンでも、事情を説明した新海さんを中継して、一部の政府関係者、及び空軍幹部に同じく状況を説明。今のうちから自由行動を停止して緊急着陸に備えることとした。

 まだ全然早いが、すでに席に座らせてトイレ等事情がある人以外は一切席を立たせず緊急事態の手順を確認させた。




 ……そんなこんなで、徐々に準備を整えていく。燃料消費を抑えるためにギリギリまで高高度を飛ばしていた機体も、管制の指示で徐々に降ろしていった。高度低下により、視界内の雲が多くなり始めた。中層雲あたりのものだろうか。

 先ほどの気象情報によれば、ちょうどハリケーンはハワイを離脱し、天候が急速に回復し始めているらしいが、こっちのほうはまだまだ悪いみたいだった。だが、俺たちが向こうに着くころには大分晴れているだろう。……風を除いて。

 途中で空中待機解除が伝えられ、マニュアルを完全暗記したユイが『CDU』と呼ばれるコントロール・パネルに諸元をササッと入力し、さらに、アルティメーター(QNH)などその他の必要情報もパッパと入力していく。

 この手際の良さ……、コイツ、本当に完璧に覚えやがった。


「……まさかと思うけどさ。お前、それ最初から知ってたとかそういうわけじゃないよな?」


「まさか。私これ自体生で見たの初めてですよ?」


「だよね……やり方は?」


「つい5分ほど前まではこれっぽっちも知りませんでした」


「……で、マニュアル読んで完璧に覚えたと」


「覚えました」


「……うわぁ……」


 毎度のこと過ぎて我ながらそろそろしつこくなってきたが、こういうの見てるとほんとコイツの頭チートやなと思う。

 見るからに略称やら数字やら何やらばかりで、何が何だかわからない文字や数字の列を完璧に把握している。

 マニュアルを5分間で一発読んだだけで全部理解できるって一体どんな頭したらそうなるんだ。サヴァン脳か何かか。いや、コイツの場合は機械的にサヴァン脳以上のを作ったようなもんではあるが。

 ……だもんで、ついつい聞いてしまう。全力の苦笑込みで。


「総理ぃ……なんだってここまでチート性能にしちまったんです? 高性能すぎてそろそろ化け物か何かに見えてきましたよ?」


「化け物ってなんですか化け物って」


「性能的な面でって意味だよ間違ってるか?」


「せめて神々しいといってくれれば」


「やっべぇコイツここからぶん投げて太平洋に落としてやりてぇ」


 そしてこの地味ぃ~なドヤ顔がマジでイラつく。あれ、飛行機の窓って途中で開けれたっけか。んなわけないよなHAHAHAHAHAHA。

 総理もさすがに苦笑を抑えきれなかったらしい。その表情のまま言った。


「いや、まぁ……確かにできれば高性能なほうが好ましいとは言ったんだがな。でもな、実は最低限の搭載機器やスペックを指示して後は開発チームに丸投げしたんだわ、それ」


「え、ほんとですか?」


「あぁ、ほんとだ」


「てことはまさか……そのほか自分たちでやっぱつけたいと思った機能とか、全体的なスペック拡大とか……挙句の果てには容姿とかも全部……」


「あぁ……うん、その……なんだ、俺たちはちょっとこんな感じに作れって指示しただけで、後は全部……」





「海部田先生たちに、自由に作らせた」


「だから爺さんあんな好き勝手やっちゃってたのかぁぁああああ!!!!」





 俺はそのまま全力で頭を抱えた。後ろから朝井さんの苦笑が、そして当のユイ本人からも「ハハハ……」とひきつった笑いが聞こえてきたがそれすらも無視して俺は頭を抱えた。

 つまり、政府はほとんど手を加えてなくて、ほとんどのスペックや機能は爺さんたちが好き勝手につけた結果が、今のユイの姿だという。

 おのれあのクソジジイ、いくらノルマ達成したら後は自由に作っていいぞと言われたからって、仮にも国家機密をこんな自分の趣味嗜好に合わせて作っちゃうとか何を考えているのか。こりゃハワイに降りたら電話で抗議するしかあるまい。

 ……まぁ、それにのっちゃうその開発チームの皆さんもほんと勘弁してくれと……全くそろいもそろってこの変態どもめ……。


 ……そんな一騒動(?)をしながらしばらくの時間を経ていると、無線音声が唐突に耳元に響いた。


『ジャパニーズエアフォース001、周波数を118.3に変更し『HCFアプローチ』と交信してください』


 無線が響いた。サンフランシスコレディオの役目はここまでらしい。

 HCFアプローチはホノルルの着陸管制だ。朝井さんが事前に入れ知恵として教えてくれたものだ。


「了解。周波数118.3に変更しHCFアプローチとコンタクト。ジャパニーズエアフォース001」


『幸運を祈ります。グットラック』


「……センキュー」


 少し名残惜しいが、そこで無線を切った。最後の最後にそう無線を投げてくれるあたり、こちらとしても何か救われるものがある。

 朝井さんに周波数を伝え、目の前にある周波数を変更するつまみを回し、ボタンを押した。


「ここからは私が無線交信を担当します。祥樹さんはほかの操作を」


「了解した。頼むぜ」


「了解」


 ここからは俺は操縦と他の機器類の操作に専念するため、ユイに無線交信を後退してもらう。

 まもなく雲に突入する中、ユイは周波数が変わったことを確認し、無線に呼びかけた。


「HCF Approach, this is Japanese Air Force 001, approaching BOOKE, flight level 160 to 110 descending.(HCFアプローチ、こちらジャパニーズエアフォース001、現在経由ポイントBOOKEに向け16000ftから11000ftに降下中)」


 流暢な英語だった。発音も、合成音声ではなく人工声帯を使ったリアルな発音のため日本語同様とても自然に聞こえる。

 返答もすぐに来た。音声からして女性のものだろう。


『Japanese Air Fouse 001, this is HCF Approach, rader contact. We grasp your situation. Do you have any problems with pilot?(ジャパニーズエアフォース001、こちらHCFアプローチ、レーダーで確認しました。そちらの状況は把握しています。操縦に関して何か支障はありますか?)』


「No Problem.(問題ありません)」


『OK.Then, Heading 160, vactor to final runway 8L, descend and maintain 8000.(わかりました。それでは、方位1-6-0に転針し08Lへ向かい、8000ftまで降下してください)』


「Heading 160, descend and maintain 8000, Japanese Air force 001.(方位1-6-0に向け8000ftまで降下。ジャパニーズエアフォース001)」


「朝井さん、高度8000、方位1-6-0です」


「了解。1-6-0で高度8000だな」


 無線での情報を朝井さんに伝えオートパイロットに入力する。

 機体はさらに降下を始めた。このころになると機体は雲海に突入しはじめ、周りが灰色一色になる。しかもまだ朝方なので少し暗めだ。


 そのあとさらに6000ftまで降下するよう指示を受け、またオートパイロットを操作して高度調整。機体はどんどん降下する。


「しかし、ちょっと揺れてるな……風が強いのか?」


「ええ、たぶん。オーパイが機能してるので最小限度に抑えてますが……こりゃ強いですね」


 朝井さんが少し苦い顔をしていった。

 降下するにつれて、機体は徐々に揺れを激しくさせていっていた。

 オートパイロットが風の動きを察知してうまく機体を制御しているため幾分もマシであるが、それでも震度2くらいの縦揺れの地震にでもあったかのような感じの振動が続いていた。

 高度10000ftを切ったあたりからずっとこの状態で、こりゃ、着陸する頃にはもっと激しくなってるのだろうか……と思うと、また少し不安になる。


『Japanese Air Fouse 001, turn left heading 0-8-0 at there place, contact tower 118.1.(ジャパニーズエアフォース001、今の場所で方位0-8-0に転針、周波数118.1に変更しホノルルタワーと交信してください)』


「祥樹さん、今すぐ0-8-0にオーパイ更新」


「了解」


「Turn left heading 0-8-0, contact ―――」


 今の場所で、という英語無線だったため、すぐに朝井さんにオートパイロットに0-8-0を入力してもらい転針。

 本来ならここでILSの誘導が始まるため一々転針をせよという無線はこないらしいのだが、今回はそのILSが運用停止中のため特別らしい。

 左旋回をしつつ、さらに緩降下。方位を0-8-0に向けたところで旋回を止め、いよいよ滑走路と正対する形となった。

 ……しかし、まだ雲の中なので何も見えない。


「さて、そろそろフラップを下げようか。フラップを1のところに」


 朝井さんが頃合いを見てフラップ操作を指示した。フラップレバーはユイのところにあるため、ユイの手でレバーが1段階下げられ、『1』と書かれているところに置かれる。


 ……が、



 ガタンッ…………



「……?」


 フラップは無事降りた。コックピット中央にある『EICASアイキャス』と呼ばれるパネルにも、そのフラップ情報が書かれている。1段しっかり降りていた。

 そして、それに相応してか少しだけ速度が減速していた。


 ……だが、


「(なんだ、今の右から突き上げるような揺れ……)」


 右からの横風の影響だろうか、とも思ったが、明らかにタイミングが良すぎた。

 今はすでに収まっている。だが、なぜかは知らないが今までにはなかった揺れであったために、俺は妙に気になった。

 目の前にあるPDFプライマリー・フライト・ディスプレイの右にあるNDナビゲーション・ディスプレイの左上をみる。そこには現在の対地速度、対気速度、そのすぐ下に現在の風向と風速があり、そのさらに下には風向を示す矢印が表示されている。

 俺はその中で風向と風速を見た。


「(方位1-9-5から29……? 上空だからある程度強いのはわかるが、さっきからずっとこれだったような……)」


 そう極端な変化はなかったはずだ。なのになんであんないきなり突き上げるような風が吹いた? 一時的な突風だったのか? その時の俺は答えを出せなかった。

 そのうち、降下によりさらに揺れが激しくなるにつれてそこに関する思考も一旦放棄した。気になりはするが、今はそれどころではない。


 ……すると、そこで朗報が入る。


『This is A.S.Japan 503 heavy, We are complete landing! Request moving vehicle.(こちらA.S.Japan503便、無事着陸した! 移動車両を要請!)』


「お、無事おりたか!」


 思わずユイと顔を合わせた。朝井さんたちにも報告すると、二人ともホッとしたようすだった。

 俺たちの一つ前に着陸した503便は、何とか無事着陸に成功したようだった。現在急いで滑走路状況を確認し、滑走路上に止まっている503便を事前に待機させていた車両で近くの誘導路に入ってどかす作業に入っているおうで、俺たちが着陸する頃には余裕で作業は終わるらしい。


 また、ついでに無線で流れた報告で、視界も開けて雨も収まったので、08Rでの滑走路清掃作業を開始するとのことだった。当然俺たちは間に合わないが、今後ホノルルにくるであろう後続便や今から飛び立つ離陸便が使う分の滑走路は一応確保できるそうだ。

 これにより、万が一俺たちが08Lをふさいでも空港内の滑走路を全閉鎖する時間は少なく済むらしい。

 俺たちより後に来る後続便に関しては、俺たちが着陸した後長い時間を空ける手筈になっているので、ハワイに来たのに降りれないという事態に発展することはなさそうである。


 よし、これでいくつかの懸念材料は取っ払えた。現状、後は俺たちが無事に降りるだけだ。


「そろそろ雲抜けます。キャビンにベルトサインを」


「わかった」


 高度的に見て、そろそろ雲を抜けてもいいはずだ。雲の中なのにさっきから窓に雨粒があたらないあたり、一応雨は晴れたとみていいだろう。

 それだけでも進展だ。雨がなければ、そこそこ視界は確保できる。

 タイミング的にもそろそろだとみて、キャビンにはベルトサインをつけてもらう。俺たちもベルトを方から絞めた。

 このため、朝井さんも一旦席につかないといけないが、後方のシート自体は中央に寄せれるため、朝井さんは中央にシートを寄せてすぐ横からサポートする。

 ただし、パネルの操作等をするにはベルトをしてる関係所手が届かないため、俺たちでやるしかない。


「もうすぐだ、抜けるぞ」


 朝井さんも言った。


 その時である。


「―――ッ! 抜けた!」


 雲を抜けた。さっきまで視界に広がっていた灰色の世界が、一瞬にしてカラフルなものに変わる。


「よし、視界は開けてる! 空港も見えるぞ!」


 半ば歓喜がまじった声を上げた。

 雲の下は晴れていた。若干ながら青空も見え始めているようで、視界は完璧。雨も降ってない。

 ちゃんと空港も見えるが……まだ遠いため、滑走路が見えにくい。


「ユイ、ランウェイライト点けてもらってくれ。ILSが使えないからそれを目印にする。輝度は最大で」


「了解」


 ユイを中継してホノルル管制に08Lのランウェイライトをつけてもらう。ライトの明るさにも段階はあるが、今回は最大にしてもらう。とにかく目立つようにしてもらわねばならない。

 空港側はすぐに反応した。ユイが無線を言い終える数瞬後には、待ってましたとばかりにその08Lの滑走路だけ一気に明るくなった。その明るさに一瞬眩しささえ覚える。

 見やすくなった滑走路。これで何とか目印になる。


「朝井さん、オートブレーキMAX、セット」


「了解。MAXセット」


「スピードブレーキアームド……と、これでよし。アプローチングファイナル。ユイ、無線入れろ」


「了解。Honolulu tower, Japanese Air Fouse 001, approaching final(ホノルルタワー、こちらジャパニーズエアフォース001、着陸最終進入中)」


『Japanese Air Fouse 001, runway 8L, Cleared to land, wind 1-9-0 at 24.(ジャパニーズエアフォース001、08Lへの着陸許可。風は1-9-0(ほぼ南風)から24ノット)』


「に、24!?」


 おいおい、ここまできてまだそんなに横風ひどいのか? 勘弁してくれんか……。


「Runway 8L, Cleared to land, wind 1-9-0 at 24, Japanese Air Fouse 001.(08Lへの着陸許可。風は1-9-0から24ノット。ジャパニーズエアフォース001)」


『コウウン、イノリマス。Good-Luck』


「センキュー。ありがとう」


 優しげな声での日本語を残して無線を切る。しかし、その顔はひきつっていた。


「……24ですって」


「聞いてた。おいおい、全然収まってねえじゃねえか……空はあんなに青いのにってか」


 まあ、晴れ間はまだあまり出てないが。


「24か……だが、やるしかない。そろそろオーパイも切ろう。横風で殴られるだろうからしっかり支えておけ。大型機の操縦は実際にはタイムラグが若干ある。操縦桿操作してもそれが機体に反映されるまでの若干の時間をしっかり把握しておけ」


「了解」


 右からの風がガンガンぶち当たってくる中、いよいよ手動で操作するときがくる。

 イメージトレーニングはした。何度も手順は確認した。後は、実際に降ろすだけだ。


「(大丈夫……為せば成る。映画みたいなハッピーエンド系航空パニックを現実にするつもりでいけばいい)」


 ましてや今の俺は映画にあるような素人さんではなく、急造ものだが知恵がある状態だ。大まかな操作方法くらいは子供のころから知ってる。

 大丈夫、落ち着け……俺ならやれる。俺ならやれる。相棒もいるし、朝井さんもいるし、いざとなったら総理も精神的に支え手になってくれてる。


 朝井さんがキャビンにアナウンスを入れ、衝撃防止姿勢をとるように伝えた。飛行機が緊急着陸をする際にとるものだ。映画とかでもよく見かけるので知っている人も多いはずだが、事前に新海さんを通じてやり方を伝えておいた。

 俺はそのアナウンスを後ろから聞きながら、MCPモード・コントロール・パネルと呼ばれる目の前の計器類の上部にあるボタン類の一つ『A/Pオートパイロット』に指先をふれる。

 そこをプレスオフし解除すれば、その瞬間この機体と俺たちを含む乗員の行先は、俺とユイの手にゆだねられる。


「……いくぞ、覚悟決めろ」


 ユイとアイコンタクトをとりそう言葉を投げる。ユイも頷くだけだけだったが、その顔は今までにないほど真剣みが増していた。人間だったら汗流してるだろう表情だ。

 手に持っている操縦桿の力を強める。

 唾を飲み、額から汗が流れる中……




「オーパイ、解除」




 ボタンを押し、オートパイロットを解除した…………

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