サブ・パイロット 3
「……いや、あの、さっき俺たちもうやらなくていいって話でしたよね?」
俺はしどろもどろになりながらそう聞く。だが、朝井さんの口からは否定しか返ってこなかった。
「そうもいってられんのだよ……自動着陸ができる状況じゃなくなってしまった。風から見て唯一自動着陸ができる08Rが使えないとなれば、もう片方の08Lでしか降りれんだろう」
「で、ですが……修復って本当に間に合わないんですか? 確か、最悪でも1時間もあればなんとかなってたような……」
実際、昔何度か見たニュースとかだと羽田あたりが燃料漏れ事故おこしても20分~1時間くらいで復旧していた。
今から1時間なら十分着陸には間に合いそうだが……。
「こんなハリケーンが元気にしている状況でそれは無理だろう……ましてや起こったのはリーフランウェイだ。ハリケーンのせいで波浪がひどくてまともに活動なんざできんだろうし、そこからランウェイチェックの手続きとかを済ませるとなると絶対1、2時間では済まん。……どう考えても間に合わない」
「えぇ……」
俺はそのまま固まった。なんてこった、結局俺が操縦桿握ることになるのか?
こんなヘリケーンのせいで風がめちゃくちゃ吹き荒れてる最悪の状態のホノルルに、にわか程度の飛行機知識しか持っていないド素人の陸軍軍人が降ろせってか?
……アホか。実にアホか。
「どうしても、そこにしか降ろせないんでしょうか? ほかの滑走路は?」
新海さんが若干汗を流しながら聞くが、朝井さんは首を振った。
「現地の風向は今後しばらくは南風だそうです。ハリケーンのしっぽが長いためだそうで、これがまた……サンフランシスコレディオが言うには、最悪ハリケーンの速度によっては午前中ずっとかかるかもしれないと」
「確か、現在もハリケーンは減速中だって……」
「ええ、現在も減速してるようです。まるで狙っていたように」
朝井さんが苦笑を浮かべる。
減速したうえで、しかもしっぽが永井となれば南風はずっとそこに居座り続けることになる。
しかも、ハリケーンのホノルル離脱が遅くなれば遅くなるほど、そのハリケーンの影響を受けた強風はしばらく吹き荒れることになるだろう。
……そんな中を着陸せよとのお達しである。ブラック企業が「残業徹夜よろ」とか言うのとは比べ物にならない負担である。
「現地の天候はまだ悪化中ってことかぃ?」
総理の問いに朝井さんは肯定した。
「ええ、はっきりと申し上げれば。悪化してる最中ですから、ホノルルもまだまだ状況は悪くなるでしょう。さすがに唯一使用可能となっている08Lまで封鎖されるとは思えませんが、そのほかの滑走路が使えるようになるかは微妙なところです」
「ふむ……困ったな。これじゃハリケーン直撃中のタイミングでこれを降ろすことになるぞ」
「どうにかして、しばらくの間空中待機してみては? もしかしたら減速がやんで、予想よりハリケーンが抜けるタイミングが早くなってくれるかもしれませんし、それに、そのころにはさすがにウインドシアってのも収まってるでしょうし……」
新海さんがそう提案する。
他の便も、ハリケーンが抜けるか、その影響が少しでも弱まるまで粘って空中待機をしている。それに乗っかろうというのだ。
だが、これもまた朝井さんに言わせればリスクがそこそこあるという。
「確かにウインドシアはさすがに収まってるでしょうが……今から空中待機してハリケーンが抜けてくれても、ほかの便の着陸ラッシュに巻き込まれる可能性もあります。こちらはエマージェンシーを宣言してはいますが、燃料不足の便があるなどの場合によっては後に回される可能性も……そうなったら、燃料が不足してしまいます」
「そうですか……」
新海さんの言葉を最後に、コックピット内は沈黙した。
有効な手筈がなくなってしまった。空中待機してしばらくしたら着陸しようにも、人間同じ事を考える生物である。同じように着陸しようとしてそのラッシュに巻き込まれでもしたらマズイ。
そうやって、さっきのオアフ航空254便みたいな事故がどこかで起こったらもっとマズイ。最悪、着陸にあせって254便以上の事故でも起こされたら確実に滑走路は封鎖だ。
08Rが開放されてくればければ、風が変わってくれない間はずっと行くあてを失ってしまう。ほかの空港に行くにしても滑走路距離の制約や、そもそも容量が許してはくれないだろう。限界がある。
……政府専用機という身分上優先してはくれるかもしれないが、それで一般民間人を巻き込むのは妙に嫌な気分だった。
「(……てことはなにか。俺たちは結局どうすりゃいいってんだ……)」
しばらく空中待機して待つか、それともさっさと行って降りてしまうか。ほかの行くあてがない以上このどちらかしかない。
だが、どっちをとるにしてもリスクはある。
……俺たちは迷った。最善の策はどっちなのか。それとも、気づかないうちにほかに何かあるのか。
頭を使ったが、人間の頭では何もよさそうな案はなかった。
ただただ、『ハリケーン並の風が吹き荒れる中を無理くり降ろす』というベテランパイロットも真っ青の荒業を展開するしか思いつかなかった。
「(こんなんできるかい……勘弁してくれよおい……)」
まぁ、さすがにこんな状況においてもオアフ航空254便を責めることはできないが……にしても、マズイタイミングでやらかしちまったなぁ、こりゃ。
俺もユイも、本物の操縦経験など一切ない中、こんな状況で満足におろせるとも思えなかった。
絶対、何かしらで事故る自信がある。ゲームのシミュレーターですらこんな状況を再現してやったことはない。快晴で風ほとんどなしの条件でやってばっかりだった。
他にパイロットのあてがない以上俺たちがやるしかないが……さて、ほんとうにまともにおろせるんかこんな状況で。
「(……最悪ユイにダメ元で頼るか……?)」
みたいな、本人が聞けば無茶言うなと怒られそうなことを考えていた時である。
さっきから空気になっていたその当の本人が、久しぶりに口を開いた。
「……あの、無線で現地の滑走路状況確認してもらっていいですか?」
「え? 俺が?」
「ええ、お願いします」
「お、おう……別にいいけど……」
いきなり何を言うかと思えばそんなことだった。まぁ、路面状況は悪いだろうが、今更わざわざ確認するほどでもないと思ったりする。
とはいえ、気にならないといえばうそになるので一応無線で聞く。
「サンフランシスコレディオ、こちらジャパニーズエアフォース001。ホノルルの滑走路状況を教えてださい」
『ジャパニーズエアフォース001、了解。少々お待ちください』
少しの時間をおいて、また無線が開いた。
『ジャパニーズエアフォース001、ホノルルより現地情報。08L方面のウインドシアまもなく収束の見込み。されどハイドロ容量オーバーにより路面状況悪化。着陸時は注意せよ。以上』
「は、ハイドロッ? ……あぁ、了解、感謝する」
いったん無線を切る。ウインドシアはまもなく収まるそうだが、今度はハイドロがマズイそうだ。
今まで耐えていたが、そろそろ限界のようである。
「で、なんだって?」
総理の言葉に少し無気力気味に返した。
「ウインドシアは収まるそうですが、今度はハイドロがマズイそうです……おかげで滑走路の路面がずぶ濡れになるかもしれませんよ、これは」
「そうか……」
それ以上は帰ってこなかった。返せなかった、ともいえるか。
ウインドシアは収まっても、ハリケーンのせいで横風はひどい。そんで路面は濡れまくってスベッスベ。降りれても路面状況の程度によってはギアのタイヤがスリップか……。
……ハハハ、考えうる中で最悪の状況ができちまったぜ。参ったねこりゃ。
「やっぱり……」
「ん?」
ユイが案の定といった声を出した。
「なんだよ、やっぱりって」
「いえ、これほどの暴風雨に晒されてるならそろそろハイドロパンクするんじゃないかって考えてただけです。……となると……」
「?」
ユイは一瞬の間をおいて、「これしかない」と言いたげに決意を決めた真剣みのある顔を俺に向けた。
「祥樹さん、しばらくの間空中待機しましょう」
「え? マジで?」
ユイのとった選択は空中待機だった。朝井さんたちも驚愕してユイのほうを見た。
「横風がひどくて路面状況は悪化、こんな状態で着陸したってまともに降りれるわけがありません。ですよね?」
「おう、下手すりゃそのまま地面に頭から突っ込める自信あるで」
「そんな自信持っちゃいけない」
「で、それが何?」
「ええ、ですから……もし、万が一降りるのに失敗した場合、後ろにいる航空機が行き場を失うんです」
「……あ」
そういえばそうだった。ほかの航空機が事故ったら俺たちが、とか思ってはいたが、そもそも俺がそんなことしでかしたらもっとマズイことになる。
この気象条件と路面条件で、まともに降りれるほどの技術を俺は持ち合わせてない。どちらか片方だけでもあればまずまともには降りれないのに、二つとも一斉にとなればそもそも話にすらならない。
……確実に何かしらやらかす。オアフ航空254便みたいに片翼ぶつけるか、それともブレーキ効かずにオーバーランか。
もしくは……そもそもまともにタッチダウンすらできず、お陀仏か。
「確かに……そうなったら、後続の旅客機は降りる場所なくなるな」
「08Rが空けばいいんですが、私たちが降りる予定時間からみてもハリケーン離脱するかしないかのギリギリのタイミングです。まともに滑走路メンテとかできる状態ではないですし、仮にこのタイミングで降りて事故ったとなった場合、そのあとは風が南風から変わらない限りは08Rが空かないとどこにも降りれません。……海以外は」
「おいおい、無茶言うな。こんな大波状態の海に降りろとか強要できんぞ」
「ですから、いまそのまま降りたら後続が死んじゃうんですよ……なので、空中待機です」
そこに、総理が聞いた。
「だが、どんくらい待つんだ? 待機時間にも限界はあるぞ」
「えっと……まず、今の燃料からして空中待機が可能な時間ってどれくらいですか?」
「あーっと……ちょっと待ってくれ」
朝井さんがすぐに燃料計算をしてくれた。燃料数がどこに書かれてるのかよくわからなかったが、手元に持ったスマホの電卓機能を用いてのものだろう。
「……速度と高度を適切に保って最大限燃料消費を抑えたと仮定した場合、大体、余分に1時間くらいは飛べる。今から1時間15分後くらいに降りる予定ではあったが、そのあとさらに1時間プラスで、あと2時間15分ほどか」
「あれ、随分と短い……」
俺は一瞬そうつぶやいた。
B777-300ERの航続距離からすれば、もっと長く飛べてもいいはずだ。元々太平洋無着陸横断なんて余裕でできるほどの航続距離を持つなら、羽田-ホノルルを何とか往復できるレベルであり、あと数時間は飛べると見ていたのだ。
だが、朝井さんは否定した。
「今どき燃料をいつも満タンにして飛んではいかないよ。羽田-ホノルル間の飛行に必要な分と、あと余分にこういう時のための空中待機に使う分しか載せてない。燃料に使う油も無駄遣いできる時代じゃないし、そもそも経済的に悪いからね」
「はぁ……なるほど」
今どき燃料満タンはむしろ珍しい部類だという。
「じゃあその分でおろせる旅客機ほとんど降ろさせましょう。燃料あるやつはほかのコールドベイかキングサーモン、どこにでもいいのでできる限りダイバードさせる。そして、ホノルル行きの便で最後に私たちが降りる形にできれば、仮に事故を起こしても問題ありません。そのあと降りてくる便があったとしても、その時間帯にはさすがに08Rも空いてるはずです」
「おいおい、本気か……?」
一見まともそうな“作戦”だが、それもまたリスクがある。
確かに、時間を最大限かけて空中待機して、ホノルルに降りる奴を全部降ろしてから降りるってなれば、事故を起こした後の二次被害は避けられるし、もしかしたら、その時になったら08Rも空いてたりするかもしれない。そうなったら余裕で自動着陸だ。
だが、その形で空中待機をするにしても、それは燃料がほぼ枯渇した状態で行くことを許容することになる。
ホノルル行きの便を全部降ろすといっても、どれくらいあるかわからない。ダイヤが乱れまくってるから、ネット上にある時刻表から予測するのも難しい。
ホノルル行きの便の量によっては、その最大限の空中待機を使っても足りない場合も考えられる。
……で、結局まだ全部降りてないのに俺たちが降りないといけなくなったらあまり意味なくなってしまう。
だが、ユイに言わせればそれくらいしかまともなのがないという。
「無線を少しの間聞いてました。そこに出てた無線内容から、確実にこの空中待機に使う2時間ちょいで十分間に合います。今向かってる、燃料がまだ豊富に残ってる便をすべてほかにダイバードさせたと仮定すれば、そこそこ余裕持って降りることができますし、そこまで時間をかければホノルルもさすがに風は少しは弱まってるはずです。いくら減速がひどいといっても」
いつの間に聞いてたんだ。あんな膨大な英語をすべて聞きわけたというのか。素晴らしいぐらいの翻訳能力である。
「だが、後々そのホノルル行き増えたらまずくね? そいつらもおろすってなったら俺たちの残燃料の余裕分が圧迫されちまうぜ?」
「いらなく焦って降りるよりは幾分もマシと考えますが?」
「うわぉ……俺の操縦に対するプレッシャー半端ねぇ……」
「大丈夫ですよ、そういう時はこの私の腕がありますから」
そういって二の腕軽くたたいて「エッヘン」とかドヤ顔でぬかすが、それでも俺は苦笑しか出てこなかった。それでも十分怖いのには変わりない。
……とはいえ、
「(……俺が確実に事故起こす可能性を考えたら……、まぁ、後続巻き込むわけにはいかないし……)」
選択肢を消去法で選んでいくと、やはり残るのはこれしかなさそうだった。
朝井さんに相談しても、「リスクが低いのはそれくらいか」ってところで、半ば諦観を含めて納得していた。ほか二人もほぼ同様の反応である。
……どうやら、選択肢はこれしかなさそうだった。
こうなると、もはや今から何をどーのこーのといっても仕方がない。覚悟を決めるほかはなくなった。
「(……やるしかないか)」
まともな当てが俺とユイしかないのだ。こうなったらとことんやるほかはない。
そうと決まれば善は急げだ。余計にホノルル行きが増える前に先手を打つ。
「無線をつないでくれ。同時翻訳」
「了解」
無線を開いて、サンフランシスコにこっちの意図を簡潔に伝えた。
当然、向こうは渋ったが、「ド素人が事故起こして後続巻き込むのとどっちがマシだ?」といったらさすがに退いてくれた。
サンフランシスコレディオのほうで近隣の旅客機と空港に伝達し、量を調節してもらうように手筈をうってくれるようだ。ありがたい、こういう時の管制官の腕である。
また、空中待機のための空域も確保してくれた。ホノルルの管制域のすぐ近くで旋回待機をするよう伝達を受け、朝井さん中継でオートパイロットにその諸元を入力する。
そこで、燃料ギリギリまで空中待機し、ほかのホノルル行きの便を全部降ろすことになる。……とはいっても、実際は管制のほうでもさっさとホノルル便を降ろしてくれるそうなので、それが終わり次第残燃料の量にかかわらず即行で降りることになるが。
さらに、それに関連してホノルルでも事情を伝えて今から緊急車両を配置するなどの準備を始めるとのことだった。
事故る前提だが、当たり前である。何度も言うが、こんな状況でド素人が飛行機をまともに降ろすなんていう航空パニック映画にありそうな展開は、現実ではありえないのである。
……せめて、オーバーラン程度で済ませたいなと考えていたりそうでなかったり。
すると、新海さんが思い出したように言った。
「……あぁ、そういえば、後続の副務機はどうします? あっちも先におろしますか?」
「あ、そうだった、忘れてた」
羽田を30分遅れてとび立ちそのまま後続している副務機。向こうは問題なくこちらに続いているし、一応こちらの状況は把握しているはずだった。ユイの作戦通りにやるとすれば、その副務機も先に降ろさねばならない。
ユイも、先行させる決断をする。
「ええ、そうですね。向こうに伝えて、こちらが空中待機に入ったら先に行くよう伝えてください」
「了解した」
無線で副務機に直接無線で事情を伝え、空中待機に入ったら管制の指示に従い先に降りるよう伝えた。
向こうも驚きはしつつも了承し、早くもさっさと先行せんと速度を上げているそうだった。
「(……となると、あとはしばらくの間空中待機空域へ直行ってことか)」
それまではオートパイロットが行ってくれる。空中待機の諸元も入力したので機械任せだ。
……その間の時間は、俺にとってはプレッシャーがのしかかるだけでしかないのだが。
早くも肩にかかる重圧のような重さを感じつつある……そんな中、
「……ん?」
とたんに、左前方の空が明るくなってきているのに気が付いた。そっちは東の空……その光は、太陽からもたらされたものだった。
そうか、そういえばもう日の出の時間帯か……。
周りが雲海におおわれているため、今日の太陽は雲の下からのご登場となった。
「きれいな光だな……もう少しリラックスしてみたかったが」
総理の一言に全力で同感する。どうせならキャビンから気楽に見たかったものを、どっかの誰かがハイジャックしたせいでこの状態である。おかげで俺が操縦する羽目になった。
……まぁでも、コックピットという名の特等席から見る日の出自体はとてもきれいなのには間違いない。
その後しばらくは空中待機区域へ向けて一直線に飛び立った。
新海さんの計らいでコーヒーを差し入れしてもらい、無線交信を聞きながら一服するなど、できる限り精神的に落ち着くように努力した。
だが、その間の無線と言ったら本当にうるさいもので、半分くらいは俺たちのせいでもあるのは間違いないのだが、もう途中から交代がてら無線交信をユイに任せて少しの間休憩したくらいだった。
……もう少し静かなイメージがあるのだが、それは平常時の時に限るということか。
その間、新海さんはいったんキャビンに戻って、一部の人には事情を伝えにいった。さすがに全員に知らせるとパニックになるので、あくまで一部の人だけだという。
万一俺が着陸に失敗した時に備えて、即行で避難誘導を行えるように配慮するためのようで、その人たちがその時の避難誘導の中心になるという。
全員に知らせないのはまあ当然の判断と言えた。一体どこに「飛行機操縦したことないド素人の陸軍軍人が降ろす」と聞いて慌てない人がいるというのか。要は、そういうことであろう。
知らせる対象も、そこら辺を配慮して常に冷静でいれて機密保持が容易な人に限ってるはずだ。
総理と朝井さんはこの場にとどまった。朝井さんはなんだかんだで飛行機に詳し、操縦に関しての知識や補助にはうってつけだ。今も、残燃料と飛行時間の計算にかかりっきりになっている。
総理は……特に理由はないが、さっきからずっと任せっぱなしな以上自分も付き合うという。俺は止めたのだが。
そういった感じで、徐々に着陸に向けての準備も始まっていた。
……だが、その時である。
「……ん?」
「―――? どうしたユイ」
ユイが無線のほうに耳を傾けそんな声を小さく上げた。
そして、指で無線をつつき、「そっちも聞いて」と目と指で促す。
無線に再び耳をかけ、その交信を聞くが……
「……お? なんだこの無線は?」
そこから聞こえてきたのは、通常とは違うものだった。無線交信をしていたのは女性パイロットらしいが、管制官との間に交わす声はそこそこ切迫しているようにも聞こえていた。
『―――えー、サンフランシスコレディオよりA.S.Japan503へヴィー、確認します。エマージェンシーですか?』
『A.S.Japan503へヴィー、そうです、エマージェンシーを宣言します。高度2万3000フィートで第2エンジンフレームアウト、第1エンジン不調。現在ドリフトダウン中。飛行困難と判断したためホノルルに引き返します』
「ホノルルに引き返す?」
無線では確かにそういっていた。それほどの緊急事態なのか。
A.S.Japan503便……へヴィーということは大型機か? エンジンがフレームアウトというのがよくわからない。第1エンジンが不調ってのはわかるが……
「どうした、何があった?」
朝井さんが聞いてきた。
「A.S.Japan503便がエマージェンシー宣言だそうです。高度2万3000フィートで第2エンジンがフレームアウト、第1エンジンが不調、ドリフトダウンしながらホノルルに引き返すといってますが……」
「フレームアウトだと? 本当か?」
「ええ、間違いありません。向こうがそういってます」
「ふむ……なんてこった。こんな時にか」
「あぁ、朝井先生、フレームアウトってのは何だい? あと、ドリフトダウンってのも」
総理の問いはごもっともだ。俺もわからん。
「簡単に言えば何らかの理由で“止まった”ってことですよ。整備ミスなどのヒューマンエラー、つまり人的要因によるものか、それとも構造上の欠陥によるものか。それはわかりませんが、とにかく途中で勝手に止まってしまうことです。それを、フレームアウトといいます。また、高高度ではその再起動をしている間は巡航速度を維持できず安定した巡航を行うことができないため、それができる適当な高度に降りねばなりません。その際行う降下が、ドリフトダウンです」
「ほう、なるほど……それが、第2エンジンで起こったってことでいいのか?」
「そういうことです。……ただ、フレームアウト自体はそれほど問題ではありません。再始動をかけることができれば大抵は飛び続けれます。それでも、エマージェンシーをかけてきたってことは……」
「その再始動が利かなかった……そこに、さらに第1エンジンも不調となれば、確かにいったん戻ったほうが得策か」
総理も一応は納得したようにそういった。
エンジンが使えず、さらにもう1基もその兆しがありそうならば、確かに戻るという選択は最善の策ものだ。
原因はわからないが、状況が悪化しないうちにさっさと降りたくもなろう。
しょうがない。時間はちょっとロスするかもしれないが、コイツも先に降ろしてしまおう。
「んで、そのホノルル発のA.S.Japan503便っていつ飛んだんだ? さすがに時刻表には書いてるだろ?」
ユイに頼んで、ネット上にあるリアルタイムの時刻表の履歴から503便のものを取り寄せた。
……それによると、
「ホノルルの時刻表によれば……503便は、当初の予定を3時間遅れで飛び立ってます。離陸時間は今から2時間前です」
「……え、2時間?」
「2時間」
それ、ハリケーン直撃中だろ。よく飛び上れたな。
……ていうのもあるし、それ以前に……
「……あの、これも先におろすんですか?」
「えーっと……これは……」
これの問題もあった。
2時間はいくらなんでも想定外だ。コイツも先に降ろすことになるのか?
……でもちょっと待て。これもおろすってなると相当時間がかかるぞ。行きで2時間なら帰りもそんくらいだろう。それをそのまま降ろすためにその分俺たちが待機していたら……
「……コイツが降りるまで待機するってなると……どんくらいかかる?」
「え、私に聞きます?」
「そこは無線で直接聞いたほうが速いだろう。さすがに答える余裕がないわけではないだろうし」
「了解。……あー、すいません。ジャパニーズエアフォース001よりA.S.Japann503へヴィー、少しよろしいですか」
日本語ではあるが無線で向こうに直接問いかけた。どうせ日本の航空会社である。英語音声もまるっきり日本語なまりだったので問題ないはずだ。
規則上こうして飛行機どうしで無線交信していいのかわからないが、こっちとて緊急事態だし見逃してくれるだろう。
反応はすぐに来た。
『えッ? ……あ、あぁ、こちらA.S.Japan503へヴィー、聞こえています。どうぞ』
「失礼、今からできる限り全力でホノルルに戻った場合、所要時間はどれくらいかかりますか?」
『えっと……すいません、少しお待ちください』
「了解」
無線の奥がほんの少し騒がしくなる。政府専用機から直接無線かけられる想定はやはりしてなかったのだろう。
ただ、計算自体は即行で済ませてくれた。
『こちらA.S.Japan503へヴィー、ジャパニーズエアフォース001へ。所要時間は2時間~1時間半ほど』
「え゛、マジ……」
思わず同じく無線を聞いていたユイと目を合わせた。
ユイも「やっぱし……」といった感じで苦い顔をしていた。自分でも一応計算でもしていたのだろう。それとほぼ同じ結果だったと見た。
「最低1時間半か……かぁ~、困ったなぁ、こりゃ……」
1時間半もかけられるとこっちとてきつい。空中待機後に降りる前に、この503便まで待つとなると大量のロスタイムがかかってしまう。
朝井さんも「厳しいなぁ……」と渋い表情を示した。
「1時間半か……せめて、1時間ちょいくらいで降りれないか?」
「A.S.Japan503へヴィー、せめて1時間で降りることはできませんか? こちらとしてはできる限り早く降りたい」
『ジャパニーズエアフォース001、そちらの状況はすでに把握しています。ですが、どれだけ全速力で向かっても最低1時間半かかることは確実とみられます。燃料状況等によってはこれ以上かかるものと』
「うぇ……マジかよ……」
これ以上無理いうなとのお達しである。だが、こっちも無理いうなと言いたい。
最低1時間半もかかられたらこっちが降りる時間がもっと遅くなる。しかも、その1時間半もあくまで最低を見積もった場合であるだろうし、現実にはもっとかかるだろう。
朝井さんに首を振って要求はのめないらしいことを伝えた。
「無理か……1時間半とはずいぶん遅いな。偏西風使っての追い風でも無理か……」
「ん? 追い風って確か使っちゃまずいんじゃねぇのか?」
「総理、それはあくまで着陸の時ですよ。巡航中に追い風がくる分には別に問題ないんです。むしろ速度が上がって所要時間短縮できるんでありがたいですよ」
「あぁ、そうなのか。で、その偏西風がなんだって?」
「ええ、西からハワイに向かう分には、偏西風自体は追い風として作用してくれるので、通常より早く飛ぶことができるんです。逆にハワイから西に向かう時は向かい風になるのでちょっと遅くなるんですがね。羽田-ホノルル間の所要時間が行きと帰りで違う一因にそれがあります」
「あ、時間違うのってそれが……」
道理でこの政府専用機に乗る時の行きと帰りの予定時間が違うなと思ったわ。偏西風のおかげなのか。
だが、それでも朝井さんに言わせればこれは遅いという。もう少し早くてもいいらしい。
「たぶん、離陸したばかりなために燃料がまだ大量にあるから、その分の重量が原因だろう。高高度で吹いてる偏西風も、2万3000フィートでは恩恵を受けにくいしな。それに、無線ではへヴィーと言っていたのだな?」
「ええ、へヴィーですね」
「へヴィーは大型機のことだ。大型機となるとそうでなくても鈍足になりやすい。機種は……時刻表ではなんて書いている?」
「B747-8だそうです」
時刻表をネットからとってきたユイが横から言った。
「B747-8か……余計に遅いな。ジャンボはとても重量が重い。燃料満載、しかも乗客貨物も半分以上入ってると仮定すればもっと速度は遅くなる。しかも、エンジンが少なくとも1基使えないとなれば、速度が得られないため少しでも大気密度が多い低空に降りて速度を得ようとするだろうが、それでも遅くなる」
「ですが、確か低空に降りれば燃料消費激しくなりますよね? 燃料が早めになくなってくれてありがたいのでは?」
低空はエンジンをガンガン回すと燃料を早く消費する。これは空気抵抗がある低空だからこそで、空気密度が少ない高高度ではそれの影響が小さくなる。ゆえに、空気抵抗もあまりないため速度も出しやすい。
だからこそ、少ない燃料消費で適切な高速度を保つことができるのだ。
……もちろん高すぎてもダメだが。そうなると今度はエンジンが吸い込む空気の量が減って推力ダウン、なんてことになる。
しかし、今みたいにエンジンが一個でも使えないとなると、外気を吸収し速度に変換する媒体が減り、結果的に速度が落ちる。高高度だとそれは顕著だ。
速度が確保できなければ、当然今飛んでる高度は維持できず降下する。それによって、今度は燃料の消費も激しくなってしまうだろう。
とはいえ、燃料さえ消費されれば機体が軽くなって速度も出しやすくなるのも事実だ。素人認識だがそう考えた。
だが、朝井さんは否定した。
「それでも、エンジン1基が消えれば高度を保つのは厳しい。飛べなくはないが、あくまで“飛べなくはない”だけだ。安全に飛べる高度まで降りれても、通常の速度を維持するのは難しい。結果的に速度の低下は免れんさ」
「ですが、それでも燃料消費の分と比較すれば十分―――」
そう反論しようとしたが……
『―――ッ! 第1エンジンファイア! 警報灯の確認を―――』
「ッ!?」
無線が、それを間接的に引き止めた。
今一瞬無線が漏れていた。女性の声。明らかに例のA.S.Japan503便の人だ。
『A.S.Japan503へヴィー、どうした? 状況を報告せよ』
サンフランシスコレディオのほうでも何度か呼びかけるが応答なし。数十秒たってやっと応答があったと思ったら、そこから来たのは耳を疑う内容だった。
『A.S.Japan503へヴィー、第1エンジン火災によりフレームアウト! 再起動できず! 現在降下中!』
「ええ!?」
俺は思わず叫んだ。とうとう死亡フラグが立っていた第1エンジンもついにフレームアウトだという。早くもフラグを回収してしまった。
これでは、現在503便はたった2基での飛行を強いられることになる。余計高度を下げ、さらに出力不足による鈍足の状態での飛行をすることになった。
「今度はなんだ? 一体何があった?」
「フラグ回収ですよ。第1エンジンもやられました。現在片翼にある2基だけで飛んでます」
「何!?」
「もう1基もやられたのかね?」
二人も動揺した。不調で済めばよかったものが、とうとう最悪の状態にまで発展してしまったのだ。無理もなかった。
「片側2基だけか……これは、さすがに燃料消費による機体軽量化の恩恵は受けにくいな」
「低空に降りれてもですか?」
「ああ。低空に降りたとしても、エンジン2基分で毎時消費する量は少ない。今頃壊れた2基分を補うためにもう2基を全開にしてるだろうが、それでも4基が一斉に消費する量と比べるとやはり見劣りするんだ。つまり……」
「毎時燃料を消費する量が、減るってことですか?」
「まぁ、そういうことだ」
「あっちゃー……」
俺は頭を抱えた。簡単なことだ。使うエンジンが少なくなれば、その分消費する燃料も減るってことだ。
これでは、低空で燃料消費が激しくなろうが、残りの2基のエンジンをガンガン回して燃料を使いまくろうが、それによる恩恵はあまり受けにくい。結果的に、燃料が“余る”。
「(じゃあ結局鈍足で行くことになるじゃんか……)」
これではいろいろと困る。先ほど言っていた1時間半の最低値はもっと上がることになるだろう。下手すりゃ2時間超えコース一直線だ。
とはいえ、時間さえかければその分機体は軽くなるかもしれない。鈍足で動いてるし、時間はどうしてもかかる。その間に燃料が消費されて少しでも軽くなってくれれば、いずれ速度は稼げるようになるだろう。
だが、こっちは下手すりゃ一分一秒を争う事態に発展しかねない状況だ。その間の時間さえも惜しいのだ。
「困ったな……どうします? 結果的に鈍足状態でいく503便もおろしますか?」
俺は朝井さんに判断を託すことにした。こんな複雑な状況俺には判断しかねる。少しでも飛行機の事情に精通している朝井さんのほうが適切な判断ができると考えた。
だが、その朝井さんすらも頭を抱えていた。
「そうはいわれてもなぁ……仮にこれもおろすとなると、その後すぐに降りるとなっても厳しいぞ。燃料がどれほど残ってるか」
「ですが、俺この状況で映画みたいに完璧に降ろせる自信ないですよ? ましてや、もし仮に事故ったらその後続はエマージェンシー宣言してる機体です。しばらく待っていられるとも思えません」
「そうなんだよなぁ……」
未だにサンフランシスコレディオから、08Rのほうの作業が開始した旨の情報がない。ないということは、まだ始まっていないということだ。
それすなわち、現地の天候がそれほどひどいことの裏返しでもある。
こんな状況でまともにおろせるわけがない。俺が失敗したら、後続の503便は確実に事故る。2基だけで飛んでいて、しばらく待たせるわけにもいかない。
……非常にマズい事態となった。
「(どうする……? 選択肢はもう一つだけしかないとはいえ、ほんとうにおろすか……?)」
最後の最後で決断を渋った。503便の時間のかけようによっては、こっちが先に燃料がビンゴになってホノルルに届かなくなる可能性も否定できなくなっているのだ。それでは、今まで散々待った意味がなくなってしまう。
『こちらA.S.Japan503へヴィー、現在2万フィート。高度を変更させてください。あと、最優先着陸を要請します』
『で、ですが現在すでにジャパニーズエアフォース001がエマージェンシーを宣言しています。優先度ではこちらの着陸が……』
『お願いです! こちらはもうまともに飛べる状況ではないんです!』
『し、しかし向こうの状況を考えなければ―――』
コックピット内で少しの時間沈黙が支配する中、無線がしきりに悲鳴に似た叫び声を送っている。もはやパニックに似た状態であった。どうするべきか判断に迷った。
……しかし、
「……しょうがない。これ以外に手がねぇんだ」
総理は、静かに決断した。
「その503便も先におろそう。無線で連絡しておけ」
「で、ですが総理、いいんですか? 下手すれば私たちの飛ぶ燃料が途中でなくなる可能性も……」
朝井さんの言葉を受けても、総理の決断は変わらなかった。
「朝井先生、あそこにいるのは我が国の航空会社、そして我が国の国民だ。ただの政府専用機という“まともなパイロットがいなくなっただけでまだ十分飛べる”飛行機より、“今すぐにでも落ちそうな”飛行機を優先するのは当然のことだ。それに……俺たちが先に降りて、そのせいで万一国民が死んじまったなんてなっちまったらたまんねえからな」
「で、ですが……」
「時間もない。こうしているうちに貴重な時間が消えちまうんだ。篠山君、無線で伝えたまえ。私名義でいい」
「り、了解」
総理は、俺たちより国民の保護を優先した。ある意味、あの会議室にいた時、かつて“あの決断”をしたことを心の底から悔やんでいる総理らしい決断だった。
何事も、国民第一を本当の意味で考えている希少な政治家である。
総理がそういうなら、俺も改めて覚悟を決めるしかない。無線を開き、直接503便に伝えた。
「ジャパニーズエアフォース001よりA.S.Japan503へヴィー。先に降りてください。我々はそのすぐ後に続きます」
『ええ!? あ……え、えっと、こちらA.S.Japan503へヴィー、よろしいのですか?』
「構いません。総理のほうからも許可がでました。こちらの心配は無用です。サンフランシスコレディオ、そちらもそのように誘導をお願いします」
『さ、サンフランシスコレディオ、了解した。ではA.S.Japan503を先行させる。いいな?』
「オーケーです。それでお願いします」
『了解。ではA.S.Japan503へヴィー、貴機をホノルルへ誘導します。高度を1万7000でどうか』
『A.S.Japan503へヴィー、問題ありません。それで設定します』
『了解。A.S.Japan503へヴィーは高度1万7000へ降下。現針路を維持せよ』
『A.S.Japan503へヴィー、了解。現針路を維持し高度1万7000へ降下。……あぁ、それと、ジャパニーズエアフォース001へ』
「?」
いきなりこっちに振られた。もう無線に言うことはないので気を抜いていたが、すぐに無線に耳を傾ける。
……とはいえ、大体言われることは予測ついていた。
『……貴機の決断に感謝します。総理に、感謝するとお伝えください』
「了解。こちらはお気になさらず。無事降りられることを願っております。グットラック」
『ありがとう。できるだけ急いで、無事着陸します。そちらこそ、グットラック』
そういって互いに無事を願った。
グットラック。健闘を祈る、の意味だ。航空無線ではよく使われるワードだったりするそうだ。
「感謝する、ですって。ハワイにいったらお褒めの言葉もらいそうですね、総理」
「ハハハ、かもしれんな」
総理ははにかみながらそういった。
これで、503便は鈍足状態でホノルルに向かうことになる。鈍足状態が解消されるほど機体が軽量化するにはどれくらい時間がかかるかわからない。場合によっては燃料も途中で放出するかもしれない。
だが、どれだけ短くなってくれようが、結局俺たちが窮地に陥ったのには変わりはなかった。
「これで……503便が降りるまで、嫌でもしばらく空中待機することになるのか」
「どれくらいかかるでしょう……燃料が残ってくれればいいんですけど……」
さすがにユイも不安げだった。その視線は目の前のディスプレイ群に向いている。
不安げなのは、俺たちだけではない。
「503便が早く降りてくれればいいが……」
「ですが、それが終わっても今度は風の問題もあります。……考えてみれば、あまり早く降りられても今度は風の影響がありますしね……」
総理と朝井さんの言葉に思わず小さく唸った。
確かにそうだ。早めに降りてくれるのはありがたいが、それはつまり風がまだ少し強い状態で降りることにもなるということだ。
時間がたつほど風の影響は弱まっていくのは間違いない。そんな状況で早く降りるということは、その時の風の状況がまだ比較的強い状態で降りることにもなるのだ。
そう考えると、503便が鈍足で降りてくれるのは幸いな面もなくはない……と、思いたいが……はてさて、これはなんてジレンマだろうか。
随分と厳しい状況になった。早く降りてくれても今度は強い風の影響があるし、遅く降りると風は最大限弱まってくれても今度は燃料がやばい……
「(……まぁ、そのまま燃料消えて落ちるのよりは幾分もマシか……)」
風があるといっても、燃料が全部消えてしまうよりはマシ……と強く思いながら、何とか気を強く保つ。そうでもしないとやってられなかった。
……今はとり合えず……
「……ちゃんと無事降りてくれよ、503便……」
俺たちがちゃんと降りれるように、
503便が無事ホノルルにたどり着いてくれることを祈るほかはなかった…………




