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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第2章 ~不穏~
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ハイジャック 2

 冷たい空気が張り詰める中、すぐに俺は位置を整えた。

 この貨物室内では近くに小さめの貨物コンテナが均等に立ち並んでいるため、一本の通路みたいなのが自然とできていた。それが両サイドに計2本ある。

 “敵”はそれのうち左側の一本を使い、前方のほうから徐々に近づいているようだ。ちょうど例の階段のすぐ近くにある通路だ。見える範囲では1人だけ確認できる。


「(暗くてよく見えない……)」


 通路上は明かりが少ないため、薄暗く映るか、または光源の位置の関係で逆行気味になったりしてよく見えない。しかも、先ほどまで比較的明るい部屋にいたために目がまだ慣れていなかった。

 男性っぽい感じはある。見た感じ俺と同じ身長で比較的細めの体格。手には……長い。アサルトか? だが、俺の目で確認できるのはここまでだ。

 あとは、機械の目に頼ろう。


「ユイ、アイツ何持ってるか確認できるか?」


 俺のすぐ下でしゃがんで待機しているユイに確認を依頼した。

 すぐに了承の返答を受け、赤外線を用いて敵の装備を確認する。赤外線だから暗闇も関係ない。むしろこういう時に一番役立つものだ。


「型式判明。AKで間違いありません。形状からAK-74系統と確認できます」


「AKか……あの無線の言ってた通りだな」


 とすると、余計にどうやって持ち込んだのかわからないのだが……。しかも74のほうか。本当に47と比べて流通数少ないんだろうな、この型は? 私幌でも見たし随分と流れてるように思えるんだが。


「……でも変ですね」


「―――? 何が?」


「いえ、AK-74にしては少し小さい気がして……寸法計測間違ったかな?」


「暗くて良く見えないだけじゃ……あ、赤外線だからないか」


「……」


 何か変だな、と不審な顔をしているユイ。妙に真剣みあるので俺も少しのぞいてみてみるが、やはりよく見えないがために確認のしようがない。

 だが、さっき見た限りではそれほど大きさがおかしいということはなかったのだが……。


 ……とはいえ、今はそこを気にしている場合ではない。そうしている間にもその男は徐々にこちらに近づいてきている。距離もそう遠くない。


「チッ、時間は待ってくれねぇか……仕方ない」


 ここは俺が撃って黙らせよう。そう思い持っていたH&K USP 9mmハンドガンを構えた。

 元は特戦群にしかなかったのが拡大配備されたもの。サイレンサーも取り付け、いつでも撃てる体勢を整えた。

 しかし、ユイがすぐに止めた。


「待ってください。ここで銃声をむやみやたらと鳴らすのは危険です」


「だが、一応これでもサイレンサーつけてるぞ?」


「こんな静かな貨物室内じゃそれも外部に響きやすいですよ。もし階段の入り口が空いてたらかすかにでも音が漏れる可能性があります」


 ぐうの音も出ない正論に返す言葉もない。

 確かに、こんな状況でむやみやたらに発砲するのはマズイか。もしかしたら、どこかにまた潜んでいる可能性も否定できない。


「じゃあ……どうするってんだ? 相手はアサルト持ちだ。下手したらすぐに撃たれて終わりだぞ?」


 俺の懸念にも、ユイは小さくため息をついて若干口をゆがませつついった。まるで、自信に満ちたように。


「……そういう時のために私でしょ」


「は?」


 そういうとユイは少し離れるように言い、俺もそれにこたえて若干ユイと距離を置いた。

 俺や、すぐ近くの陰に隠れている3人が不審に首をかしげる中、ユイはコンテナの陰に隠れて敵がこっちに来るのを待つ。


「(……格闘にでも持ち込む気か?)」


 そんなことを考えつつ息をひそめる。幸いまだ気づかれていないらしく、その足音は一定の間隔を保ちながら近づき、音を大きくしていく。

 そして、少ない光源により生み出された男の影がコンテナから見え、さらに本体も陰から出てきた瞬間、ユイは急にスイッチが入ったように飛び出た。


「ッ!? んぐゥッ!!!」


 男は声を出すまでもなく、瞬時に背後に回ったユイに口を手で押さえられ、今度は右で手刀を作り首の“延髄あたり”を思いっきりぶっ叩いた。

 ……もう一度言う。“延髄あたり”である。


「……」


 あまりの鬼畜の所業に、俺たちは呆然とした。そして、男は一瞬のうちに気絶しそのまま倒れ、ユイが大きな音を出さないよう抱えて慎重に床におろした。もちろん、持っていたAKも回収する。


 ……お前、寄りにもよってなんつーとこを……


「ふぅ、敵は仕留めました。もう大丈夫です」


「うん。大丈夫なのはいいけどさ、コイツは全然大丈夫じゃないよな? 確実に気絶で済まんぞこれ絶対」


 延髄は首の後ろあたりにあって、人体にとってとても重要な部位だ。

 各種重要な神経が通って生命維持に必要な神経回路がめっちゃ集中しているところで、寄りにもよってそこを手刀して衝撃を加えようものなら、当たった場所と延髄の損傷具合、そして手刀の威力によっては最悪そのまま死ぬんだが……


「何言ってるんですか。攻撃してきたんですかられっきとした正当防衛です」


「え、正当防衛の条件整ってたっけ?」


「先ほど上で銃撃してたじゃないですか」


「いやいやいやいやそっちじゃなくて……」


 待ってくれ、緊急事態だからそうでなくても攻撃権利は成り立つだろうが、まだ個人的には攻撃受けてすらないのにこの仕打ち……せめて、ひっとらえて捕虜とかそういう選択肢はなかったんだろうか。いやまぁ、捕虜にしたところで何も成果は期待できないだろうが。


 ……いずれにせよ、ユイに見つかってしまった時点で、コイツの運命は決まってしまっていたのだろう。敵で見知らぬ30代くらいの男性だが、さすがに気の毒に思わざるを得ない。


「(……ご愁傷様です)」


 死んではいないが、小さく合掌する。せめて死なずには済んでいることを祈る。何も進んで殺そうとは思っていなかったものでな。


「……よいこのみんなはマネすんなよ」


 ……そんなことを呟きつつ、まぁ形はともかく獲物は釣れたので、さっさと調べてみることにする。手荒な真似はしてないこともあって綺麗な形で残っていたのですぐに身元は判明する。


「この服装……私服か。例のマスコミの奴だ」


 そこら近所にある半袖Tシャツにジーパンといった至ってシンプルな服装に、なぜかうちらが使っている防弾ベストを身に着けていた。

 ……そして、白目向いてるのが何とも言えない痛々しさを醸し出している。

 この機内で私服を許されているのは一般客席にいたマスコミ関係者のみだったはずだ。

 間違いない。彼らの中にグルが混ざっていたのだ。


「祥樹さん、ポケットにこれが」


「?」


 胸ポケットから取り出したらしいそれは、本来首からかけているはずのネームカードだった。紐ごとポケットにしまわれていたらしい。

 絡まっていた紐を取っ払って中身を見た。


「旭日川TV、宮本洋……って、これ旭日川TVんとこのカメラマンじゃなかったか?」


 ネームカードに載っている写真とも顔は一致した。持ち主がコイツであるのはまず間違いない。


「……名簿を参照しました。間違いありません。機内に乗り合わせていた旭日川TVのクルーの一人です」


「おいおい、マスコミのクルーがハイジャック犯ってまんま映画エアフォースワンじゃねえか……」


 あの映画じゃロシアのマスコミクルーがハイジャック犯だったろ。ほんとに今現在あの映画リアルで再現中じゃないか。まさかこいつらあの映画みて手口パクりやがったのか?

 ……いや、それはまさかな。


「マスコミのクルーにハイジャック犯が紛れ込んでいたということか?」


「おおぅ、総理」


 いつの間にか近くに来ていた総理がそう聞いた。見ると、ほか二人もその男をのぞき込んでいる。


「どうやら、そのようですね。となると、一応ほかのマスコミクルーも相当数紛れ込んでるとみたほうがいいでしょう」


「ふむ……しかし、俺たちはその時のために若干クルー減らしてきたんだが……」


「え? そうなんですか?」


 総理は説明する。

 通常ならいつもマスコミは30人から、多い時には50人という大所帯を連れていくことが多いのだが、近年のハイジャック事件を警戒して、今みたいに紛れ込む可能性も考えて今回は20人しか載せていないという。

 それでも、警備員を追っ払うほどの“戦力”を用意できた。


 ……となると、


「……マスコミ関係者全員がまさかハイジャック犯なわけではないでしょうし、もしかしたら、空中輸送員の中にも?」


「もしかしたら……潜んでいた可能性もあるな」


 隣にいた山内さんが険しい顔をしていった。

 会議室内で総理と話していた懸念事項。俺たちがここに来た本当の理由の原因が、まさに現実になっている可能性も考えられた。


「(……そういえば、無線じゃ警護主任がいないって言ってたり、ブラボーチームが起きていないとか言ってたり……いや、まさかな)」


 単純に、ユイがさっき言っていたように睡眠中に奇襲しかけられて動けなかっただけだろう。そこまで本当にハイジャック犯だったなんてオチだったらほんとに笑えない事態になる。

 そこまでは、さすがに考えてもキリがないので懸念で済ませておくことにした。


「ですが、もしそうだとしたらマズイですよ……俺たち二人だけで対応できるかどうか」


「まだわかりませんよ。とりあえず、我々の予測がそうだってだけで、本当に空中輸送員までグルが潜んでいるのかはまだ未確定事項ですし……」


 そう新海さんは言うが、顔は不安さを隠せていない。やはり、頭から離れず恐れているのだろう。

 しかし、本当にそうだったら余計俺たちが不利になることになる。ただでさえ俺たちはまともな戦力が二人しかいないうえ、機内での閉所戦闘の経験値は向こうが断然に上だ。

 通常の室内戦闘しか経験していない俺がどこまでやれるかわからないし、ユイがその分の穴を埋めるにしても限界がある。相手戦力によってはユイも危険な状態になることも考えられるだろう。


「(……マズイな。考えれば考えるほど最悪の状況だ……どうしろってんだこれ……)」


 こんな事態を齢23の若者が経験するとは思わなかったし、なんだってこんな目にと思ったが、今更そんなことうめいたって始まらないのも事実だった。

 とにかく、敵側の戦力がより大規模なものが予想される以上、俺たちはどうやって動けば……


「……って、何してんだお前」


 そんな深刻な思考中、ユイは男の持っていたAKを手に持ってじっと眺めていた。時折、銃のほかの部位を見たりしている。

 何してんだ? といった不審な目を向ける中、ユイは妙に疑念を深めるようにつぶやいた。


「……これ、やっぱり小さい……」


「え? なんだって?」


「ですから、やっぱり小さいんですよ。間近で寸法を測りましたが、結果は先ほどと同じでした。一回りほど小型化してます」


「小型?」


「ええ、小型です。でも、ここまで小さいAK-47って聞いたことない……」


 ユイが妙に不思議がるように言った。そして、再びじ~っとそれを見る。

 俺も模造品とか訓練用のではあるが何度かAK-74は見たことがあった。私幌の奴でも遠くからではあるが見ている。

 確かに、間近でよくよく見てみるとなんかちょっと小さいように見えなくはない。


 隣にいた新海さんも同意していた。


「確かに、パッと見なんか小さいですね……製造時に寸法間違えたんでしょうかね?」


「製造時って、そうはいっても大方密輸品でしょう? そんなんあったら劣悪品だって製造会社に文句言われ―――」


 そういいつつとりあえずユイから借りて持ってみようとした時、




 ガチャッ




「……あ」


 持った瞬間、銃床の部分が引金部を境に“折れた”。簡単に。持つときちょっと触っただけなのに。

 折れた、というか、なんか当たっただけで外れたような感じで、元から取れやすかったのが今更取れたような、それくらい簡単に取れた。


「え、えッ? ちょ、なんか取れたぞこれ。まさかほんとに劣悪品なのか?」


 若干焦りつつもそんなことを言うが、ユイは冷静だった。

 最初は俺と同様の反応は示すも、落ちた銃床を拾って見るとすぐにその違和感に気づく。


「……いえ、これ違いますね。ただ外れただけです。折れたわけではありません」


「え?」


 ユイはその外れたと称する銃床の部分の断面を指さした。


「よく見て下さい。ここ、無理やりつなぎ合わせたような跡があります」


「……あー、ほんとだ。なんかでくっつけたような感じだな」


 その銃床の断面は、あたかも元々はくっついていなかったかのごとく綺麗で、所々にのりでくっつけた紙を無理やり取ろうとした時にできたような感じで、片方に元々くっついていたほうの断面の金属片みたいなものが若干くっついている。

 また、最初は暗くて良く見えなかったが、断面自体はよく見ると両方をくっつけるためにある程度凹凸のある構造がなされていた。うまくかみ合うように仕組まれているらしく、そこをさらに何らかの接着媒体でくっつけたようだった。


「本来、ここは簡単に取れないはずなんですよ。ここまで単純な構造でくっつけてませんし、それに接合するにはねじが……あー、このネジ噛みあってない」


 そういって銃床と引金部をつないでいたはずの小さなネジを摘み取るが、案外簡単に取れてしまった。これではちゃんと接続できない。むしろよく今まで外れなかったなと思えるほどあっけなく取れた。


「確かに、それに、そもそも銃床は折りたたんだり伸縮したりはできても、取り外しはできないはす……」


 俺の疑念に、軍オタの新海さんも食いついた。


「AK-74ならなおさらですね。空挺や特殊部隊向けに折りたたみ式、伸縮式はありますが、取り外すことはできなかったはずです」


「ええ、そのはずです」


 銃床の折り畳み式は俺がいる空挺団でも常に使われている。というか、むしろ空挺にあるフタゴーはこれで統一されていた。

 日本に限らず、こういった銃床を折りたたんだり伸縮したりする機構を持ったアサルトライフルはいくつも存在する。

 しかし、こうも簡単に取り外すことのできる奴は今までに聞いたことがなかった。少なくとも、AK-74系統でこの機能を持つ奴は存在しないはずだ。


 ……というより、よくよく見るとこの銃床と引金部の接続部分の構造が若干違ってるような気がしないでもない。ネジだけに頼らずいろいろと構造的に仕組んでるあたり。

 いや、別にAK-74の構造を熟知してるわけでもないので正確なことはわからないが。


「じゃあこのAK-74はなんだ……? 改造か?」


 ユイに聞いてみるが、それにはすぐには答えずじ~っとその手に持ったAK-74を見ていた。

 ロボットらしく何やら入念に調べてるらしい、そういうことを悟った俺たち人間勢は少しユイの次の発言を待った。

 ……周りが沈黙した、その数秒後である。


「……もしかして、これ……」


「?」


 そうユイが呟いたと思ったら、いきなり今度はAK-74を分解し始めた。

 ストッパーとして銃身の下についていたワイヤーを抜き取り、マズルブレーキも取って、そして上についているガスピストン部分のカバーをとって……


 ……ってちょいまてや。


「お前、なんでそれの分解方法知ってんの? 教えたりしてないよな?」


「ネットで検索したらロシアの軍事養成学校でやってる解体実習の動画あったのでそれを参考までに」


「え、ロシアそんなことやってんの」


「中高一貫校だそうです。祥樹さんとこの一緒ですね」


「うちはロボット工学専行だっつの」


 ロボット工学の学校でこんな実習なんぞやるかってんだ。そんで俺が基本的にやってたのはソフト面だ。軍事学校じゃねえんだよ。そしてそんなのやってるロシアが少し怖くなったよ。

 ユイの解体を見ている限り、その参考動画とやらも結構凝った内容やっているのだろう。俺たちが静かに見てる中、部品はうまい具合に解体できた。

 こうしてみると、AK-74も簡素な構造だ。AK-47の後を継いだだけある。弾薬が前のAK-47と共通化してればもっと普及していただろう。それこそ、テロリストのほうにまで。


「動画ではここまで解体できてた……で、これを……」


 そのままユイはさらにハンドグリップまで外した。これで、AK-74はフォアグリップのついた銃身と機関部のみの状態となる。


「……これでオーケー」


「で、解体したのはいいが、これが一体何だってんだ?」


「ちょっと待ってください……私の推測が正しいならたぶん……」


 そこから本体や取り外した部品とかをまじまじと見始めた。自らの目でスキャンしつつ銃を分析する。

 この場合のスキャンと言っても精々大まかな構成物質を判別するくらいだが、それでも処理はすぐに完了した。そして、妙に納得したような顔で言う。


「……やっぱり。これ、結構な頻度でプラスチック部品が使われてます。それも、民生品で売られてるような安物です」


「え? マジで?」


 ユイは言った。


 本来、金属でなきゃいけないような部品とかまでもプラスチックで覆われているらしい。金属部分はほんとに銃を構成する上で重要な部分だけで、それ以外はちょっと強度が高めのプラスチックなのだそうだ。見た目からはよくわからないが。

 ここまで高頻度でプラスチックが使われているAK-74は聞いたことがないらしい。

 そのためか、全体的な強度も低くなり、さっきみたいにちょっと構造が“オリジナル”と変わってたりするだけで簡単に外れてしまったりしたそうだ。銃身も若干熱が残ってたので、上での銃撃戦で使われたときに振動で取れやすくなったと思われた。


 また、その構造自体がオリジナルのほうと違っていたのは先ほどの銃床のところと同じだ。各部品の接合部分が若干寸法ずれてたりしている。


 ……つまり、極端に言えば“オリジナル”と若干違うということだ。


 ここから導き出される応え。それは……


「……つまり、このAK-74って見かけがそうなだけの“偽物”ってことか?」


「そういうことですね。それも、プラスチック部品がいくつか使われているあたり、たぶん3Dプリンタ技術が使われています」


「3Dプリンタ?」


 3Dプリンタ。通常の印刷のように、とある物体の3Dデータをもとに立体的にコピーすることで、昔からよく使われていた技術だ。

 一時期では、これを用いて模造銃を作ることも可能だってことで、昔アメリカでそれをネットで公表したら政府からHPの削除をくらったっていう事例もあった。


「……まさか、それを使ったのか?」


 山内さんがそう聞いた。彼もそういう海外の事情にも詳しいため、その3Dプリンタに関する情報も入っていた。新海さんも同様である。


「可能性は高いです。それも、分解して結構コンパクトにまとめれるように設計面から改良加えてますね」


「おいおい、随分と凝ったことを……」


 総理が軽く頭を抱えてうめいた。

 単純構造で改造はしやすいとはいえ、改良までするあたりに敵方の本気度がうかがえる。そこまでしてこの機体を乗っ取りたかったのか……。

 さらに総理は聞いた。


「しかし、3Dプリンタでそこまでできるのか?」


「一応、できなくはありませんよ。今の3Dプリンタ技術は数十年前よりは革新的に進化しましたし、プラスチックを用いたものであればそっくりそのままの銃を作ることもできなくはありません」


 俺の持っている知識をもとにそう返す。


 元より、これは近年アメリカだけでなく世界各国で起きており、日本でも3Dプリンタ技術を暴力団が購入して、単純構造のAK系統をまるまるコピーする、なんてことはいくらか起きていた。

 もちろん、3Dプリンタ技術に使える資材はプラスチックくらいだが、主要な部品だけを密輸し、後は3Dプリンタでプラスチック製の部品としてくっつけて完成させる、なんてことも現代なら可能だ。だから、日本でも暴力団の武装化が進む原因になっているのである。

 当然これは犯罪行為であり刑罰も与えられるが、数が多いがゆえに対処が間に合ってないのが現状だった。


 ……もしかしたら、これもそれらの類で作ったのかもしれない。そういった懸念も付け加えると、ユイもそれに同意したうえでさらに言った。


「しかも、構造自体もよりコンパクトになるようになってますね。銃床をわざわざ取り外せるようにしたところからも伺えます」


「この場合のコンパクト、ってなるとやはり何かに隠しやすいようにですか?」


「そうでしょうね……しかし、彼らが持ち運んできたものの中でこれが入りそうなものってありましたっけ……祥樹さんわかりません?」


「え、そこで俺に振る……」


 そんなこと突然言われても、コイツらが隠しそうなものって一体何があったろうか。

 マスコミに成りすました人が、解体してコンパクトにした銃を入れる入れ物になりそうな……箱……




 ……箱……?




「(……ん? 待てよ?)」


 マスコミがいつも持ち歩いていた、しかも今回もちゃんと持ち込んだものでこれが入りそうなのって……




 ……あッ



「……あった。“カメラ”あるじゃねえかッ」


 そうだ。この機に乗り込んだマスコミの一部が持っていたやけに大きめなカメラ。あれなら入るかもしれない。

 中には、元から大きいスタジオカメラもあったはずだ。現地で使うという話だったが、まさかこれが……


「ユイ、マスコミが入ってきたとき何人かカメラ持ってたよな?」


「はい、持ってましたね。私の記憶が正しいとすれば、合計8人ほどですか」


「8人か……十分すぎるな……」


 記憶が正しければ、あの大きさならこれをコンパクトに詰め込めば合計8人分のAK-74は用意できる。そこに弾薬もパンパンに詰め込めば、余裕で武器になるだろう。


「えっと、その持ち込んだ荷物って確か機内の……」


 そこは俺が思い出す前に総理が答えてくれた。


「ここ以外なら、キャビンに貨物スペースがある。貨物に入らない、ないし希望する物に関しては許可を得てそこに入れることができる」


「そうか、そこにカメラという入れ物ごと隠したのか……」


 山内さんがやっと納得がいったようにそういった。


「ええ。しかも、カメラは見た限り完全に金属製でした。金属探知機で探知されてもカメラの金属ととられて怪しまれませんし、X線検査でもカメラの金属の性質によっては透過性悪くて中が見えない……というか、さすがにカメラの中まで検査しないだろうし……ハァ、なんてこった。考えれば考えるほど隠すにはうってつけの“箱”じゃないか……」


 道理でデカいと思ったんだ……。

 カメラなんて生でほとんど見たことないからあの程度の大きさなのかと思ったが、やはり、分解したとはいえちょっと大き目の銃の部品を入れるためにそれっぽい形にして大きさを合わせた“偽物の金属箱”だったんだ……。クソッ、まんまとやられた……。


「クソッ! まんまとしてすり抜けられたってことかよ……」


 山内さんが悔しがる、というより不満をぶちまけるように言った。総理も「してやられた」と言わんばかりの落胆した顔である。


「確かに、その方法なら税関も通らない、カウンターに預けるわけでもないから簡単に持ち込むことができる……となれば、おそらくタイミングを見計らって……」


「ええ。機内は夜のためもあって暗い状態でした。もし仮に、空中輸送員の中にグルが混じっていたと仮定すれば、彼らの協力を得てキャビンの荷物スペースからカメラを点検と称して持ち出して、周りが寝っている隙にこそこそと組み立てる、とか、同じく持ち出してトイレで組み立てて隠しておいて……とか、いろいろと方法は思い浮かびます」


 それこそ、空中輸送員にグルがいなくても、「ちょっとカメラを見たいんだけど」とか言えば簡単に荷物スペースから出させてくれるだろう。カメラごときにそこまえ厳重にする必要はない。


「……となると、今頃キャビンにはその“空になったカメラ”があるはずだな。それさえ見つかれば……」


「俺が言った仮定は事実に変わりますよ」


「くそ……なんてこった……」


 総理がまた頭を深く抱えた。セキュリティの穴がこんなところで出てしまうとは思わなかった。カメラに入れてくるとか一体どこの誰が予測するんだろうか。いや、しないだろう。

 あくまで仮定の話ではあるし、もしかしたら違う可能性ももちろんあるが、しかし、一番有力なのはこれだろうと思われた。


「(困った……そうだとしたら、最低でもあと7人はアサルト持ちがいる。おそらく同じAK-74だろう。そいつらがまた機内で暴れられちゃたまんないぞ……)」


 彼らが内壁には傷をつけない機内戦闘用の衝撃弾とかの専用の弾薬を持っているとは思えない。普通の銃弾だろう。

 だとすれば、すでに内壁やガラスに穴が空いている可能性も否定できず、もしそうならマズイ事態になる。


 空の上は地上より気圧が薄い。なので、飛行機では機内の気圧を地上にいる時と同じように保つために与圧をしているのだが、もし穴がいたらそこから空気が漏れて気圧が外と同等となり、酸素不足で呼吸困難、低酸素症、そして最悪機体自体がその衝撃に耐えれなくなって空中分解なんてことにすらなりかねない。


 もちろん、それらによってすぐに落っこちないような構造にはなっているし、何重ものセーフティ機能がある。

 基本的には高度を下げれば気圧が外部と同等になり、少なくとも機体の空中分解は避けられる。しかし、その操作は当然コックピットで行われているため、そこが占拠されていた場合は、パイロットがそのまま操縦でもしてない限りは対処法がわからなくて手遅れなんてことにもなる。


 それが政府専用機で起こってはマズイ。とはいえ、今現在戦闘が終わったらしい時間からいくらか立った現状でその兆候はなさそうなのででまずは安心っぽいが、油断はできない。

 最悪、今まさにこのタイミングで機体がその穴から広がった亀裂で機体がひっさかれて即海に墜落、なんてことにすらなりかねなかった。


 そこら辺はユイと相談して同意を得ていた。


「……となれば、残り7人のAK持ちをすぐに確保して、キャビンを奪還しないといけませんね」


「簡単に言うが、どうやる? 即行でこのまま上がるか?」


「すぐに行く必要はありません。少し様子を見ながら慎重に進めましょう」


「だが、その間にアイツらがこの機に何かしないとも限らないぞ。最悪落とそうとするかもしれない」


 事実、今までの政府専用機ハイジャック事件では結果的にそうなった事例もあった。

 だが、ユイはすぐに否定する。


「いえ、それだったらもうとっくに落としてます。ここまで時間をかける必要はありません。何かほかの目的があるはずです。……といっても」


「それはどうせ、俺たちを探してるんだろ? もう名簿も確認されてるはずだ。違和感にはもう気づいてるだろう」


 それこそ、さらに細かく言えば総理あたりだろうな。アイツらがこの機を狙う理由としてはそれくらいしか考えが及ばない。


「でしょうね……とにかく、今は上に上がらないと」


「だな……だが、どういく?」


「まずは階段近くに行きましょう……話はそこからでも遅くはありません」


「了解した。……で、総理たちは……」


 一瞬ここにおいていこうと考えた。一応、ここは敵がいないし安全ではあるからだ。だが、ユイはそれを進めなかった。


「ここに置いていった場合、私たちがキャビンに出た後の警護が誰もいません。どちらか一人が分担するわけにもいきませんし、かといってここに警護なしで残した場合階段を降りた敵の手にさらされる可能性も否定できません」


「キャビンを奪還ってなるとどうしても階段は離れるし……ダメか」


 となると、少々危険だが総理たちも同行させないといけなくなるのか。護衛しつつ、キャビンの奪還をしつつ……と、ちょっと仕事多すぎやしませんかね、これは。


「とにかく、最悪一刻の猶予もない状況も考えられます。事態が悪化しないうちに、早めに行動に移りましょう」


「そうだな。焦りは禁物だが、そうはいっていられる状況でもないし……、皆さんも、それでいいですね?」


 すでに警護に関しては俺たちに任せてしまっている3人も同意した。もうここまで来たら覚悟を決めているらしく、顔も不安げはあるもののある種の決意があった。


 とりあえず、分解したAK-74は適当に隠しておいて、そして延髄直撃をくらった可哀想な男性は、ちょうど近くにあったロープを使って適当な積荷のロープに括り付けて縛っておいた。これで仮に起きても抵抗はできないだろう。


 そして、再び手に持っているH&K USP9mmハンドガンを準備。セーフティの解除を確認し、サイレンサーも一応つけておく。どうせこの機内じゃ使っても音が漏れてバレるだろうが、一応念のためだ。

 ユイも準備し、身に着けていた防弾ベストの装着も確認。


 ……よし、とりあえず準備はできた。


「……それでは、行きます。ここからは、私たちの指示に従ってください。いいですね?」


 俺がそういうと3人は頷いた。すでに中腰になり、いつでも動ける体制を整える。

 俺はユイを見た。すでに、準備は万全である。


「……じゃあ行くぞ。互いにサポートは万全に」


「了解。そして、勝手に死なないように」


「へっ、こんなところで死んでたまるか。……よし、頃合いだ」


 俺は右手で拳を作ってユイに突き出した。





「行動開始。いくぞ」


「了解」







 ユイからのグータッチの返答をもらい、俺とユイは静かに移動を始めた。





 暗夜の太平洋上空。



 静寂に包まれた政府専用機の水面下で、




 たった二人の陸軍軍人による、奪還に向けた行動が静かに開始された…………

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