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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第2章 ~不穏~
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調査協力 2

 その和弥の言葉。それが意味することは、一々考えるまでもない。


 俺はバックミラーで俺たちをつけているであろう黒いバン2台を見た。横一列に並び、俺たちとの間に他の民間車を挟ませつつ、ずっと俺たちと同じ進行方向を走っていた。どこで曲がろうが、どこで止まろうが、何があっても絶対にこの間隔を開けもせず、狭めもしなかった。


 ……間違いない。こっちを追ってきている。


「ここで俺たちを追うってなると……理由は一つだな」


「ああ……俺が奪い取った、USBメモリとメモだ。クソッ、つけられてたのか」


 和弥は苦い顔をした。首都連合側が仕向けたのか、それとも武器商人側か。そこははからないが、しかし、どっちであろうがこっちの受ける状況は変わらない。非常にマズイ。

 車はちょうど都道401号線と接続する交差点で赤信号となり止まった。それでも、向こうは距離を置く。この反応からして、おそらく俺たちが気づいた、ということに向こうは気づいていないだろう。気づいてるならこの隙に距離を縮めるはずである。片側3車線道路だし、そこそこ車は空いているから接近する余裕はある。


 ……となると、


「……今は、あくまで追ってきているだけか?」


「だろうな」


 和弥と意見が一致した。さらに、和弥が補足する。


「しかも、今は昼休み終了時間帯だから、車道にいる車の量も少ない。……あのマンガ喫茶と同じか」


「同じ?」


「いや、あそこでも結構空いてたんだよ。さっき言った昼休み終了時間帯で、皆会社に向かった直後だったからな。だから、俺も結構監視しやすかったわけだが……、チッ、立場が逆転したな」


「追われやすいってことか……」


 車の量がそこそこ少なければそれだけ追いやすい。余計な車の心配はあまりしなくて済む。

 だが、まさかこのタイミングでとは……もう少しのんびりしててもよかったんやで首都圏在住のサラリマンの皆さん? もっと車道埋めてーな。


「だが、なんでもっと追ってこない? 向こうは今すぐにでも捕まえたいんじゃないのか?」


「こんな首都圏の真っただ中でそんな大それたことできるか。おそらく、俺たちが降車するのを待ってるのさ」


「でも、俺たちが降車する場所が目立たない場所だとは限らないぞ?」


 とはいえ、今から行こうとしてるのはそれこそあまり目立たない場所だけども。


「俺がこれを奪った目的なんて、向こうも十分予測してるさ。誰かにそれを渡すため。それをするのに、わざわざクソ目立つ場所でやるかって話だ。そこら辺は誰だって予測がつく」


「まさか、それを根拠に?」


「たぶんな。こっちの動きをある程度予測してるぜあいつら……。こりゃ、こっちがそのまま向こうについて降りた瞬間、警察よろしくどっかに連れてかれるんじゃねえの?」


「おいおい、勘弁してくれよ……」


 そのあとどうなるかなんてもう考えなくてもわかるわ。どうせ旧北朝鮮の拉致問題のごとく行方不明になるかなんかしそうなもんだよ。どう考えてもバットエンドだよこんなの。


「(……つっても、あれ放置しておくわけにはいかないしなぁ……)」


 どうにかしてあれの目を逃れなければ。しかし、どうやって逃げるべきか……。そんなことを考えていると、和弥が冗談かますように、


「やってみるか? カーチェイス」


 そんなことをぬかした。


「はぁ? おいおい、こんなクソ狭い日本の道路でそんなのやってられるかよ。アメリカにいけアメリカに」


「とはいってもよォ、それくらいしかないんじゃねえの? 狭いっつっても、走れないわけじゃないだろ?」


「それはそうだけどよ……」


 俺にアメリカンなカーチェイス映画バリバリのドライビングテクニックをここでかませってか。首都圏の都心でそれをやったら絵面的には栄えるだろうが、やってる本人はものくっそきついわけだが。


 ……とはいえ、


「(……和弥の言う通り、最悪カーチェイスまがいになってでも、今すぐにどっかでまかないといけない)」


 それは事実だった。しかし、そうはいってもどうしたものか。

 自動運転のままでいるわけにもいかないから、青信号になる前にモードを手動運転に切り替えねばならないだろう。さすがに自動運転に「後ろの車から撒け」なんていうわけにもいかないし、そもそもそんな芸当はできない。そこからどこをどう行くかは俺たち人間の頭が頼りだ。


 ここら辺は首都圏ゆえ、細い路地もあるっちゃある。そこに逃げ込むこともできるが、


「いや、それもできなくはないがオススメはしないな」


 和弥に止められた。


「なんでだ? そこに逃げたほうが撒きやすいぞ?」


「首都圏の中でも交通量が段違いで多い都心だぞ? いくら昼休み終了時間帯で交通量は少ないとはいえ、まだまだ車の量は多い。そんな路地に逃げ込んでほかの車がまだいて最悪ふさいでた、なんてことになったらどうする?」


「ッ……」


 言い返せなかった。都心の交通量的に見ても、それは確かに言えてるからだ。

 細めの路地は大抵1車線道路か2車線道路。使えなくはないが、そこはどこも道幅が狭く撒くには少し動きにくい上、車道によっては車が道をふさいで、そこそこスピードを出しながら横を抜けるなんてことが難しい場合もある。ましてや、まれにふさいでしまってる場合もあるからそうなったら完全に詰んだも同然だ。


 狭い道を使うとなれば、動きにくいのは向こうも同じだから、はっきり言えばハイリスクハイリターン。だが、かといって広い車道を走ってもあまり状況は変わらないようにも思える。

 道路の特性上、どこを使ってもそれぞれで長所短所がある。それを見ても、はっきり言ってどっちを使っても状況は好転しそうになかった。


 ……なら、


「(……どっちを使っても同じなら、たまには“リスク”を負って見るのもありか)」


 やらなければやられる。戦場以外でこんな言葉を思い出すことになるとは思わなかった。それも、こんな首都圏で。

 リスクを負うのはもう十分慣れてる。あの時、ユイに賭けたときに勝った経験から、俺はこういう賭けに自信を持っていた。もちろん、だからといって俺はこんなところでカーチェイスをするほどのテクニックはないが、それでも、やれるだけやるしかなかった。状況が、俺たちが妥協することを許してくれなかった。


「しゃあねぇ……やってみるか。カーチェイス」


「え゛、マジで?」


 和弥の顔が一瞬のうちに蒼白する。いや、一番最初に言ったのお前だろうがよ。そんでもっていろいろアドバイスくれたのもお前だろうが。


「おいおい、言いだしっぺがそんな声出すのかよ」


「いや、あれは半ば冗談半分で、まさか本気にするとは思ってなかったからさ……。逃げるにしても、カーチェイスはないよな? な?」


「カーチェイス以外何があるんだよ」


「えぇ……マジで?」


 この本気で嫌そうな顔。言いだしっぺの割に、本音マジでやりたくなかったようである。じゃあなんでいったんだよって話なんだが。まあ、これレンタカーだし壊したらマズイってのはわかるけどさ。


「ど、どうせカーチェイスやるならさ、せめて首都高いかね? ほら、ここからなら東に行けば汐留JCTジャンクションあるし、逆に西に行けば谷町JCTか、あとその北に行けば三宅町JCTもあるぜ?」


 そういってカーナビを操作してJCTの場所を道路図上に表示させる。この3つのJCTは、ここからなら直線距離的に見ればほぼ同じ距離に位置していると見れる。汐留JCTに限れば、この3つの中では一番近い。


 ……が、


「首都高じゃ最終的に料金所に差し掛かった時点で余裕で追いつかれるじゃねえか。入るだけ無駄だぜ?」


「あー……そうだった」


 首都高はあくまで高速道路。他の高速の類にもれず、JCTでは料金所でチェックインはしなければならない。

 ETCでの通過速度は20km/h。そこで低速になると後ろから高速で追ってくる2台に追いつかれる可能性が高い。首都高内でどれだけ差を開かせれるかもわからないのに、そんなメリットが微妙な手に乗りたくはなかった。


「……え? となると、一般道?」


「まあ、そりゃな」


「え、でも、狭いぞ? それに昼休み終了直後とはいえ、車もまだ……」


「何言ってんだ。それも使ってやろうぜ。せっかく首都圏の都心という名の“迷路”があるんだ。使わない手はないだろ」


「いや、でもお前こんなクソ狭い道路でやれるかって……」


「できない、とは言ってないだろ?」


「うへぇ……コイツマジになってやがる」


 いつの間にか頭から肩に掛け直したタオルで汗を拭く。すっかり乾いてしまっているようだった。その汗はいったい何の汗なのかは……まあ、大体予想はつく。

 そうしているうちに、少し長めに時間がとられていた信号もそろそろ青になる。接続している車線の信号が点滅していた。


「道路図の倍率低めにしておけ。広範囲で見てるから」


「お、オーケー……でもよ、お前、そんなカーチェイスするほどのテクニックある?」


「やれるだけやってみるよ。レースだと思ってみればいいだろ」


「おいおい、やれるだけって……ていうか、レースじゃなくてチェイスだからなこれ?」


 和弥の苦々しい表情での言葉を耳に受けつつ、俺は運転モードを自動から手動に切り替え、カーナビ情報による自動運転を切った。

 ハンドルを握りしめ、すぐにアクセルを踏めるよう右足も軽くペダルにのせて準備する。


「和弥、うしろは?」


「まだこっちの動きに気づいてないらしいな。隣の車線からこっちに近づけるのに、それをしてこないで現状維持だ」


「よし、好都合だ。この差を開かせてもらおう」


「……もうすぐ青になる。頼むぞ」


「あいよ、やってやるぜ」


 ハンドルを握る両手の力が一瞬強くなる。その瞬間だった。


 信号が、青に変わった。


「(よし、GO!)」


 アクセルを踏み込み、一気に加速した。電気自動車のため音はほとんどないが、その加速力はガソリン車以上。すぐに交差点を通過して一直線に突っ走り始める。

 後ろが気づいたらしい。慌ててアクセルを踏んでこっちを追い始めたようだ。


「来たな。祥樹、追ってきたぞッ」


「わかってる。どれ、日本初の首都圏開催市街地レースと行くか」


「だから、レースじゃなくてチェイスだとなんどいえbぬわぁッ!」


 発言途中だったが左手に見えた2車線道路に入る。案の定道が狭かったが、運よく車は少ない。それも、いるといっても脇に停車中の車ばかりで、ギリギリ横をそのままの高速度で抜けていった。


「ここ途中から単線になるぞ、気をつけろ」


「え、マジでッ?」


 マジだった。その後右手に旧日本郵政本社建屋が見えてきたあたりから道幅が狭くなり、左側が完全に路上駐車スペースとなり、走行スペースが右側だけという実質単線道路状態になった。

 しかも、なぜかこのあたりから路上駐車中の車が多い。置く場所が片側オンリーだからいいものの、たまにぶつかりそうになる。

 なんせ、現在速度60km/hである。細かい機動は利かない。


「ひぇぇ……時速60kmでこんなとこ通るなよォ……」


「何言ってんだ。大通りでたらもっと出すぞ」


「マジかよッ、これ以上上げたら捕まるぜッ?」


「大丈夫オービスは30km超過しないと反応しないから」


「パトカー搭載型は?」


「……祈れ」


「祈れ!? ってうわぁッ!」


 すぐにまた左にハンドルを切った。若干ドリフトしつつ国道一号線に出ると、右手すぐにある信号はたった今青になったらしく車の列がこっちに来るのがバックミラーで一瞬確認できた。


「うわぁッ、あいつらあぶねぇ!」


「ッ?」


 バックミラーでまた確認する。

 すると、その青信号で発進したばかりの車の列を、隙間を縫うように2台の黒バンが突進してきた。自動運転中の車は自動的に衝突を回避するが、それによってまたほかの列の車にぶつかりそうになり若干パニックになる。

 だが、それによって若干彼我の差が開いた。今のうちにもっとあけなければ。


「曲がるぞ! 捕まれ!」


「ッ!」


 左に見えたすぐ近くの路地にまたドリフトしながら強引に入った。ここは単線らしい。左手はまた路上駐車スペースがあ理、車が何台か止まっている。余計な機動はできない。

 バックミラーではまだ2台が追ってくるのが見えた。だが、やはり差は開いている。無理くり子の路地に突っ込み、路上駐車中の車にあたりそうになりながらも危なげなくこっちを追ってきていた。


「人のこと言えねえけど、随分と荒い運転しやがるぜあいつら。事故ったらただじゃ済まねえぞ」


「あぁ、まったくだ」


 視線を前方から移さずそう返す。和弥の視線はずっとバックミラーと、そして後部のリアゲートガラスにあった。それぞれを険しい表情で交互に見ている。

 細い道が少し続く。両サイドを高い建造物に囲まれ、そして路上を駐車中の車と若干の閉塞感を覚える状況を感じつつ、車は再び都道301号線を視界にとらえた。


「和弥、バン2台の距離は?」


「1台は徐々に接近してる。だけど、その後ろが運転下手くそなのか知らんがまた距離が空いてるな。先行のバンとの隙間がある」


「よし。西新橋一丁目交差点の現示なに?」


「カーナビ情報だともうすぐ青だ。気をつけろ。ちょうど列にぶつかるぞ」


 西新橋一丁目交差点は、最初俺たちがカーチェイスを始めた交差点だ。カーナビを操作した和弥曰く、ちょうど青信号発進した車の列にぶつかるらしい。車の量も、そこそこあるとのことだった。


「(ちょうどいい。使えるな)」


 そう考えると、ちょうどよく差し掛かった都道301号線に再び入った。タイミングよく直前で車の列が車道を占めるのが見えたが、お構いなしで突っ込む。


 ……より、深いところに。


「え、ちょ、外側に入らねえの?」


「いや、あいつらをひっかける」


「え?」


 3車線あるうちより内側の斜線にドリフトをかけながら車列に割り込む。先行のバンがそれに続くが、2台目はまだ来ない。


「2台目は?」


「見えた、入ってきたぞ」


「よし、いまだ」


 タイミング的には2台目のバンが内側の車列に入ったところだった。それを狙い、ハンドルを左に切ると、車列から強引にぬけて隙間を縫いつつ最初の2車線の路地に突っ込んだ。ちょうどさっき抜けた単線路地のビルを挟んだすぐ隣にあったのだ。

 反応できたのは先行のバンだけだった。比較的近くを追ってこれただけに、何とか俺たちについてくることができた。

 しかし、2台目は車列の内側にいたうえ、遅れてきたのでその車列の密集率が高いところに入ってしまったために、他の車が邪魔でその路地に入ることができずにそのまま通過した。


 よし、1台はめることに成功した。車列という名の沼に。


「うへぇ、マジかよ。2台目が来ないッ」


「よっしッ、これでまず1台ッ」


「おいおい、これ全部計算のうちか?」


「状況判断は得意なもんでね。伊達に隊長やってねえよ。ッハッハッハァ」


「それあんまり関係ないと思うんけどな……」


 そういうもんかね。結構培った能力は使えるわけだが。


「んで、この後どうする? もう1台は?」


「大丈夫、策は練ってる。さっきお前が戻ってくる前のニュースでやってたが、外務省前って今舗装工事で交通規制中なんだよな?」


「え? あ、ああ……そういえばそんなことやってたな」


 和弥がここに戻ってくる前。天気予報の前あたりに都内の交通情報でいくつかの道路が定期的な舗装工事をしてるとあったが、その一つにこの外務省前があった。外務省と言ったら、ここからならすぐ近くだ。なんせここは霞が関である。日本の中枢である関係各省が大量に集中しているエリアだ。


「確か、中央分離帯側の1車線が封鎖中だってあった。エリアはどこだ?」


「えっと……あぁ、あった。外務省前の一部区画が封鎖されてる。それに混雑してるらしい」


 カーナビを操作して交通諸情報を表示する和弥。そこには封鎖区画として、外務省入口南側の中央分離帯側の車道が半分ほどと、北側の同じく中央分離帯側の車道全面が赤く表示されていた。

 外務省入口前だけは、中央分離帯も反対車線に入れるように途切れてることもあって封鎖はされていない。しかし、そこいら辺は結構渋滞しているようだった。


「都合がいい。今度はそこにはめるか」


「渋滞にか? だが、さっきとは違って俺たちも通りにくいぞ?」


「やってやるさ。勝負しないと勝てない戦も勝てねえだろ」


「戦って、そりゃ間違ってないけdうわぁッとッ」


 また戻ってきた国道一号線を左折し、すぐに虎ノ門交差点のところで一気にUターン。対向車線は2車線しかなく入るのが難しいが、ドリフトをかけまくり何とかギリギリ曲がり切った。後続のバンも同様である。

 そこから一気に加速した。途中でさらに2車線が合流し4車線となったため走りやすくなるうえ、信号もちょうど青だった。問答無用で加速していく。いつの間にか、速度メーターは法定速度の60km/hを超えて75km/hを示していた。


「(……これが限界だな)」


 道が複雑で交通量もそこそこある首都圏の一般道ではこの速度が限界だった。せいぜい今みたいに60km/hプラスアルファぐらいでいくのが俺的にもちょうどいい。

 前方で等速度・等間隔で走っている車列を左右に交わしながら、今度は外務省前に霞が関2丁目交差点に差し掛かる。75km/hの猛スピードで。


「ッ! あった!」


 見えた。中央分離帯側の車道、交差点前数十メートルを除いてすべて封鎖されている。また、外務省前が妙に車が多い。なんだ、今日なんかあったか?

 それには、和弥が答えた。


「外務省のHPにある動静情報によれば、今日は来週の『ハワイ・サミット』に関する関係各省の調整とかで忙しくなってるってさ。たぶんその車じゃね?」


「ハワイか。いいねぇ、俺も行ってみてえよハワイ」


「政府専用機にでものせてもらえば? 首相に頼めばオーケーしてくれるかもな」


「ハハッ、もしそうなったら嬉々として乗らせてもらうわッ!」


 思わず互いに爆笑しあう。一度は行ってみたい常夏の国。ほんと、政府専用機でいけるやつらはいいよねぇ、ハハハハハハハ。


「交差点もギリギリ青だ。急ぐぞ!」


「あいよッ」


 その速度のまま交差点に差し掛かる。信号は青。歩道信号は点滅が始まってるから、ギリギリセーフか。車道はまだ中央分離帯側。交差点に入ったらすぐに外側に移らねばならない。なんせこの速度。すぐにその工事現場に突っ込んでしまう。


 そのまま交差点に入った。


「(よし、ここから左を……)」


 と、その時である。


「―――ッ! ッわぁッ!?」


 すぐ目の前を何かが横ぎり、そのまま俺たちの視界の後ろに流れた。それも、ドリフトの摩擦音をガンガン響かせつつ。黒いバンだった。

 ……まさか、


「あいつ、追いついてきやがったのかッ!?」


 和弥の言葉を、バックミラーを見た俺はそう確信した。あの黒いバンがただの民間車なわけがない。さっき俺がはめたはずの車が、そのまま都道301号線を北上しこっちに合流してきたのだ。しかも、こっちの車道はまだ青だったので明らかに信号無視。事故の可能性など全く考えていないかのように強引に突っ込んできた。


「(クソッ、たかがUSBだけにどれだけ執着心強いんだよッ!)」


 そんな愚痴を心の中でこぼした。その直後だった。


「お、おい祥樹! まえまえまえまえ!」


 思わず前方への注意が不完全になっていた。自分の走っていた車道が交通規制中の車道だったのをすっかり忘れていた。誘導担当の交通警備員が旗を必死に振って何か叫んでいる。


「ッ! やっべッ!」


 すぐに左にハンドルを切り、ギリギリで封鎖区画を交わし、左の斜線に入って車を落ち着かせる。外務省の門の前に外務省に入出しようとしている車がいくつかあったが、何とか隙間を縫う形で何とかかわした。

 追ってきていたバンは事前に車道を移していたようでそんな激しい機動はとらなかった。悠々と隙間を抜けてくる。

 さりげなく、俺の目論見が軽く外れた。思ったより隙間が大きかったらしい。


「(もう1台は!?)」


 そう思いバックミラーを見る。和弥も体をひねって後方を見た。


 ……が、ほぼそれと同タイミングである。


「(―――ッ!?)」


 そのさっき合流した車が大勢を崩した。

 無理にドリフトをして車線に入ろうとしたのがまずかったのか、そのまま俺がさっきまでいた内側車線に入ろうとしたらすぐそこは工事現場。あわてて左にハンドルを切ったが、衝突は免れたものの強引なハンドル操作に車体が追いつかなかった。


「「あッ……」」


 そう互いにつぶやいた時には時すでに遅し。

 車体は慣性の法則にしたがって右側に大きく傾きそのまま横転。「ドッシャンッ」とドでかい重複的な金属音とガラスの破壊音を響かせ、歩道にいる人が反射的に悲鳴あげながら逃げる中、そのまま火花を散らしながら歩道側の縁石に突っ込んでやっと止まった。電気自動車だったらしく、火災は発生しなかった。


 ……完全に自滅だが、交通事故がこんなところで発生した。


 近くには外務省に入出している車の集団があったが、それらはいきなりの交通事故に車を止めてそっちに関心を寄せるなど、多様な反応を見せるのが一瞬バックミラーで確認できた。


「うわぁ……やっちったよあいつ」


「異様に速度早くなかったか?」


「ああ。ありゃどう見ても60kmにプラス20kmは出てた。そりゃあんな横転もしちまうわな」


「チッ、ったく、あいつらは安全運転ってもんを知らねえのかッ」


「俺たちが人のこと言えないがね。てか、安全運転ってなんだっけ」


「事故を起こさなければ安全運転だろ」


「え、それだけ?」


「基本はな」


「うわ、この後絶対事故起こすパターンの奴や」


 苦笑交じりの和弥の苦言を耳に入れつつも、そのまま霞が関1丁目交差点に差し掛かり、点滅しているところをギリギリ通過。すると、今度は左側に総務省と警視庁を見て、さらに前方の信号は……げ、マズイ。


「目の前の桜田門交差点が赤になるぞ。もう点滅してるッ」


 和弥が前方を見てそう言った。信号はすでに点滅をはじめ、自動運転中の車列は減速を始めていた。どう考えても間に合わない。


「どうする? ここで止まったら追いつかれるぞ?」


「……」


 和弥の言葉には返さずすぐに使えそうな抜け道を探した。警視庁の前だから下手に増速はできない。パトカーもいる。やむを得ず減速を始めるが、ここで止まったらせっかく差が開いているのにその努力が水の泡だ。

 どこか、道でなくてもUターンできれば……


「―――ッ! あったッ!」


 それを視界に入れた瞬間、俺は車線をすぐに変えて目の前にある中央分離帯の切れ目から反対車線に最大限出せる速度を出しつつ即行でUターンをかけた。不意を突かれた形になったのか、バンのほうは対応が遅れた。のろのろとその分離帯の切れ目からUターンするが、そのうちにまた距離が空く。


 さらに、目の前にはさっき通った霞が関1丁目交差点が見えた。

 ……その現示は、


「(よっしゃ、思った通りッ!)」


 ちょうど青になったところだった。最初俺たちが通った後赤になる寸前だったために、そのあと俺たちがUターンしてここに戻ってくるまでの時間でまた青になったのだ。予想通りである。


「ここから左に行く。和弥、ここの道路って単線?」


「いや、2車線道路だ。だが気をつけろ、道幅は結構狭いうえ、たまに路上駐車もあるからな」


「ここもかよ、もうちょっとほかのとこにおいてくれよ車はッ」


 そんな愚痴をこぼしつつ、青信号現示になったばかりのタイミングで車列を交わしながらその2車線路地に入る。

 ……が、確かにあった。路上駐車。


「ほらな、やっぱりあった」


「チッ、ったく、動きにくいッたらありゃしねぇ。警察は何やってんだ」


 警視庁が目の前だってのにこの大胆なる迷惑路上駐車。警察は一体何をやってるのか。もっと規制してくれよこういうのは。

 速度が出しにくい。60km/hがせいぜい、後ろのバンも同じようなものらしい。しかし、先ほどのUターンで手間取ったのか、さらに距離が空いている。

 そんな路地も比較的すぐに終わる。目の前には都道301号線が見え、薄暗い路地から開けた大通りに躍り出た。左折し、祝田橋交差点方面に向く。その方向は、皇居外苑である。


「ここから先は全部青?」


「一応はな。というか、その青になるタイミングを見て道選んでるんじゃないのか?」


「まあ、そうだけどよ。念のためだ」


「安心しろ。この先の祝田橋交差点は青だ。車列もそれほどない。十分かわせる」


 カーナビを確認した和弥が言う。事実、ここから見てみる分にはそれほど車はいない。信号も今は赤だが、さっきこの道路に入った時点ですでに赤だった。時間的にみてそろそろ青になってもいいころだ。

 さらに俺は聞いた。


「その先は?」


「え?」


「その先。二重橋前交差点はどうなんだよ?」


「え……いや、今の速度で行けば青でぶつかるだろうけど……」


「よし、わかった」


 向こうもこの速度で行けばセーフか。確かあそこオービス設置されてたはずだが、まあ、そこはどうやっても速度落とさないといけないし、速度制限的にはどうあがいてもセーフだろう。たぶん。

 祝田橋交差点に差し掛かる。ちょうど青になった。車列が動き出す中、俺も後ろから猛スピードで追いかける。“ウインカーはつけない”。


「え、ちょ、ちょっと待って」


「あん?」


「お、お前、どこ通る気だよ?」


「どこって、内堀通りだけど? おら、もう行くぞ」


「え、ちょ、ちょっと待って!?」


「あ?」


「お、お前……」





「こ、皇居の前通る気か!?」


「せっかくの直線なんだ。距離稼ぐぞ」


「うへえ、コイツマジかよ!」





 和弥は片手で頭を抱える。まあ、言いたいこともわかるっちゃわかる。


「お前、天皇陛下の目の前で爆走する気か!?」


「安心しろ。陛下は今日は宮殿におられるからぶつかりはしねえよ」


「そういう問題じゃなくて! こんな安全運転くそくらえをこんなところでやるって本気かよ! 陛下がいる前で! 事故ったらどうするんだよ! 」


「しないから安心しろ」


「俺たちじゃなくて後ろが!」


「大丈夫だ、問題ない」


「根拠は!?」


「……祈れ」


「またかよ! またそれで逃げるのかyってうわぁ! もう交差点過ぎてるし!」


 そんな和弥の悲鳴などどこ吹く風。俺は内堀通りを65km/hの速度で突っ走り始める。その後ろをほぼ同じ速度で黒バンが1台追跡してきた。

 直線道路な上車道も広いため、とても走りやすい。狭苦しい日本の数少ない“カーチェイス向け”の道路である。……さりげなく、今の俺は問題発言である。


「お前絶対事故んなよ!? 事故ったらいろいろとマズイからな保安的な意味で!」


「わかってるって。天皇陛下、ちょっと物騒なことをしますが、お許しください。これもお国のためなのです」


「お国のためで陛下の前でここまでするバカがいるかァ!」


 さっきから和弥のツッコミが割とうるさい。窓開けてやろうか。とんでもない風が入ってくるだろうが。


「交差点は?」


「あ、青だよ。……ここで曲がるのか?」


「その先は赤なんだろ?」


「あ、ああ……青にぶつかりたきゃここで減速するか、または逆に加速するか……」


「加速は無理だ。これ以上は危険すぎる」


「今更なこと言ってやがる。じゃあ減速は?」


「後ろとの距離縮める気か?」


「デスヨネーシッテター」


 そんな二つの選択肢はどっちも使えない。となれば、やることは一つである。


「……よし、ここで曲がるぞ。3車線だよな?」


「あ、ああ。頼むぞ、マジでここで事故ったら変に厄介になるからな?」


「しつこいっての。そんなに俺の運転信用出来ね?」


「信用云々の問題じゃなくてだな……はぁ……」


 何やら諦めたようにため息をつく和弥。そんなことしてる暇あったら後ろが事故らないことを祈りたまえ。後ろが事故らないことを。

 二重橋交差点が目の前に来る。和弥やカーナビの情報通り、タイミングよく青になった。車列もそこそこ。動き出した直後だが、隙間はある。それに、右折車が少ない。


「よし、曲がるぞ!」


 ブレーキを踏みながら一気にハンドルを右に切った。ここまで来ると大体コツもつかみ、うまく摩擦音を響かせながら右の都道406号線に入った。うまく他車を交わしつつ、3車線道路の中央の車線に乗る。

 バックミラーを確認する。後続のバンは相変わらずカーブには弱いらしい。図体がでかいため、高速状態でのドリフトなんていう器用な機動はプロでもない限りは簡単にはできないうえ、さっきの仲間の横転を見てか、どことなくカーブに慎重になっていた。


「よし、このまま突っ走る。青信号にあたる奴全部探してカーナビ表示」


「はいはい、もうこうなったらとことん付き合ってやらぁ」


 愚痴りつつもちゃんと自分からやることやってくれるあたり、やはり親友である。昔からかわらないコイツの性格だ。


 青信号表示の道路を順に突っ走っていく。馬場先門交差点を過ぎると、目の前に立ちそびえる高層ビル群の間々にある道路を迷路のように突っ走った。カーブが多いため、俺みたいにコツをつかんででもスムーズに曲がれるほうにアドバンテージがあった。

 元々このレンタカーも車体的に身軽だったのに比べ、バンは図体がでかくて俊敏な動きが苦手だ。それによって、徐々に差は開いていった。


 曲がり角のたびに左折右折を繰り返すうちに、東京駅前をそのまま突っ切る。そのあたりから、バンが息切れを始めたのか、徐々にトロトロとした動きになってきた。


「バンが遅れてきた。もう一息だぞ」


「ハッ、運転手も根性ねえな。お前は年寄かッ」


「なんでお前は運転しながらそんな余裕なんだよ……。あ、その大手駅前を左折、その次のT字路を左折して路地に入れ」


「了解」


 和弥の指示通り、大手駅前交差点を左折。ここら辺から車両数が多くなるが、隙間を縫いつつ、今度はすぐ近くにあったT字路を左折して2車線道路の路地に入った。


「このまま次の十字路を突っ切って、行幸通りのT字路まで行け。そこからは左折でも右折でもどっちでも行ける」


「オッケー。よし、あとは現状維持で向こうがバテるのを待って……」


 そう言いつつバックミラーを見た時である。


「……えッ!?」


 俺は目を見開いた。和弥もほぼ同じ反応だった。

 後ろには黒バンがいた。それはまだいい。予測済みだ。

 ……だが、


「あ、あいつこんなところで加速してやがるぞ!」


 どう考えても速度が上がっている。俺たちとの距離がどんどん縮まってきていた。


「クソッ! あいつら、この路地で距離を詰める気か!」


「だけど、こんなところであそこまでの速度出したらいろいろと危険だぞ!」


 事実、俺だって最初路地に入ったときはもう少し速度を抑えていた。精々60km/h直前だ。だが、あのバンは明らかにそれ以上出している。

 確かにここは他と比べて車両数は少なく空いているが、しかし、それでもこの後の十字路もあるし、衝突などの可能性は否定できない。

 だが、和弥は吐き捨てた。


「もう限界だと悟って、なりふり構ってられなくなったんだろ。このコースにこの速度、どう考えてもあいつら衝突仕掛けてくるぞ」


「なッ!? ま、マジかよ!」


「手段を選んでる暇はなくなったんだろ。こうなったら、俺たちを自分たちが起こす衝突事故か何かの巻き添えにする気だぜ、くそがっ!」


 和弥の顔が険しくなる。

 確かに、バンの動きを見る限り運転手側も限界に達してるだろう。俺も俺で、そろそろこの運転も応えてきていた。


 だからこそだろう。こうなったら俺たちを巻き込んで、特攻を仕掛ける策に出たのだ。


「(クソッ、路地が狭いからこれ以上は速度が出せない)」


 これ以上出したら危険だ。自滅する危険性が高い。


 ……しかも、


「ま、待て祥樹! ブレーキブレーキブレーキ!」


「ッ! あぶねッ!」


 その十字路のところで、アラームとともに右からくる車がビル越しにフロントガラスに表示され、ブレーキをかけてその車をやり過ごす。

 そのまま直進していった車の後ろを通りつつ再加速をかけるが、その時点でまた距離が思いっきり縮まった。


「マズイ、もっと加速しろ!」


「これ以上は無理だ! 無茶いうな!」


 この時点で60km/h。これ以上は危険で出せない上、今のうちにカーブに備えて徐々に減速する必要がある。だが、後ろのバンはまだまだ追いかけてくる。

 この後は行幸通りのある都道404号線に入るT字路を曲がらなければならない。もうどっちでもいいから適当に左折を選び、少しずつ減速しながらカーブに備えて車体を少し路地の中央側に寄せる。

 バンはもう覚悟を決めたらしい。T字路が近いのにブレーキをかけず、むしろ加速したまま俺たちに追いつかんとしていた。


「まだ来るか……あいつら正気じゃねぇッ」


「元から正気なんて期待すんなよッ」


 目の前にT字路が見えてくる。その先は行幸通り。信号は青に変わった。もう少しでカーブに入れる。


「(早く早く早くッ! 頼むッ、急いでくれッ!)」


 自分の操る車に向けて、半ば懇願するようにそう心の中で叫んだ。心臓が高鳴る。後ろからくるバンに対する恐怖が徐々に肥大していくのを感じていた。


「もうすぐだ! 間に合ってくれ!」


 和弥に至ってはもう声に出している。後ろを見て、その視線をバンに向けながら。

 一瞬バックミラーで確認する。もうすぐ近くだ。今にもぶつかりそうなぐらい接近している。


 ……そして、残り十mを切ったあたりだった。


「よし、捕まれッ!!」


 T字路に差し掛かり、ブレーキを踏みつつ一気に左にハンドルを切る。4車線だったのが幸いし、行幸通り側のガードレールにぶつかりそうになったところをギリギリで交わした。車もそれほどないのが幸いだった。


「よし、抜けた!」


「後ろは!?」


 そう叫びつつ俺はバックミラーを見た。それと同タイミングである。


「ッ!」


「バンが倒れたッ!」


 和弥が叫んだ。

 バックミラーでは、後ろを追いかけたバンが追突による衝突をもくろむも、俺たちが直前でカーブしたため失敗。自分たちもカーブしようとするも、慣性には勝てず左側に横転しつつ、目の前にある信号機を支柱にぶつかって大破した。その信号機の支柱も、元々細かったこともありその衝撃で折れてしまった。

 当然、近隣にいる人たちは悲鳴を上げて逃げる。電気自動車だったらしくこれも火災は起きなかったが、完全に車体が横転した天井から折れ曲がり、バンとは思えない形に変形した。


 ……2台目も、自滅ではあったが、事故を起こして追跡を強制的に止めざるを得なくなった。あの状態では中の人はどうなったかは想像に難しくないが、少なくともただで済むことはないだろう。


「……お……」


「おわ……った……?」


 車の速度を落として落ち着かせつつ、俺と和弥は一斉に安どのため息をついた。10秒くらいかけて長く息を吐く。

 追跡者はすべて振り払った。まあ、完全に自滅だったうえに、最終的には明らかに頭に血が上ったような策に出たが、それでも何とか振り払った。


 一応、これで身の安全は確保できた。とりあえずは一安心といったところか。


「ひとまず撒いたな……」


「ああ……ったく、『ダイ・ハード4.0』みたいなことさせやがって」


「それ、途中でカーチェイスするやつか? 車でヘリ落とす?」


「やめてくれ。あんな芸当できっこないわ」


 あんな世界一不幸な刑事さんみたいなことにはなりたくない。俺はそこまで不幸体質じゃないぞ、どっかの右手に変な異能が宿ってる不幸な高校生じゃあるまいし。


「(ったく、ただのお遣いのつもりが、厄介な目に合っちまったな……)」


 あいつらも雇われなのか、それとも構成員なのか。よくはわからんが、ご愁傷様とは言っておく。……完全に自爆だから、俺たちに責任は求めるなよ?


「一応、救急車くらいは呼んどくか?」


「もう誰か呼んでるんじゃね? さすがにこんな事故起こしちまったらよ」


「そうかい。……どれ、もう疲れたし、さっさとそれを届けちまうか」


「だな。えっと、場所は……」


 改めてカーナビにそのポイントを設定し、俺たちはその合流地点に向かった。







 東京都郊外でそのJSAの人と合流後、USBメモリとメモを渡し簡単に事情を説明して解散。俺たちはフリーの身となる。

 説明途中、なんか、


「まさか、こいつらにもNEWCの人間が……」


「はい?」


 なんてことを呟いてたのを思わず聞いてしまったのだが、そのあと慌てて言葉を噤んだあたり俺は聞くべきではないことを聞いてしまったのかもしれない。守秘義務もある。これに関してはさっさと記憶から消し去ろう。

 ……こういう時、ユイみたいなロボットは即行消去できるだろうから便利だよね。あ、仕様によってはできないか。間違って全消しなんてしちまった日には「ミスっちまったてへぺろ」では済まない事態になるだろうし。


 そんなこともあり、一応“お遣い”は完了。完全に自由の身だが、時はすでに14時も後半を回っていた。


「暇になったな……」


 車に戻って最初の一言。事実、この後の予定は何も考えてなかった。


「そして、中途半端な時間帯。こりゃ、俺の言った通り都市観光で時間つぶすしかなさそうだな?」


「カーチェイスでめっちゃ体力使った後に観光する気力がなぁ……」


 そういってまたエンジンをかける。静かな始動音とともにカーナビも表示された。

 ……体力を使うといえば、


「……しかし、このレンタカーコイツにも随分と無茶させちまったわな。ただのレンタカーなのによ」


「確かに。後で褒美に洗車と充電でもしてやるか?」


「ハハッ、そりゃあいい。金賭けて大量に食わせてやろうぜ。俺飯代出すわ」


「じゃあ俺風呂代なー」



「「ハハハハハハッ」」



 そんなジョークをかましながら、カーナビに適当な場所を登録して自動運転開始。駐車場を出る。






 その後は、洗車したり充電したりした後は、



 和弥の言った通り都市観光に時間を費やすこととなった…………

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