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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第1章 ~平穏~
39/181

ロボットと結目

 ―――そんな訓練を無事(?)終えた1週間後。

 夏の暑さが全然治まらず、巷ではクーラーを電気代高騰など頭の片隅にはあってもやはりやめられない的な感覚でガンガンつけて涼んでいるだろう、この日々。


 今日は日曜日。そう、休日である。


 例の市街地訓練の件でいろいろと休日返上で準備や訓練をしていた上、そのあともまた休日返上で後始末や取り調べ等々をしていたために、その分をこの週末や年末にまわした。今日はその1日目である。

 休日といっても何も予定自体はなかった。それといって何かイベントがこの日にあるわけでもなく、近所で有名人が来たとかいうわけでもなく、TV取材がくるわけでもなく。ぶっちゃけ隊舎で適当にくつろいだままでもいい気がしていた。


 ……が、


「たまには男二人でどっかいくか」


 そんな和弥の一言で俺は予定を思いっきり変更せざるを得なかった。

 別にいくことは構わないし、たまにはそれもありだろうという気持ちはあったが、せめて前日くらいに予告の一つや二つくらいくれよ、という愚痴を言っても軽く流される始末。あの騒動があってまだ数日であるのに、コイツはいつも通りである。

 ユイは例によって例の如く新澤さんにお守を頼んだ。彼女も休日ではあったのだが、とくにすることなくて適当にネットサーフィンで時間をつぶす予定だったらしい。休日なのに何もすることないのかとは思ったが、まあちょうどいいっちゃあちょうどいい。


 ……そんで、そっちから誘ったんだからさぞちゃんとした計画を立ててるんだろうなとか勝手に表いたら、


「まあ、そこいら適当にぶらぶらでよくね?」


「考えてないんかい!」


 ほぼ無計画というアホさ加減。ぶっちゃけ暇潰せればどこでもいいというもう休日を何と思っているのかわからないコイツの思考回路にあっけにとられつつ、せっかくの休日が無駄になりかける事態なので、即行で適当に外出によさそうな場所をチョイスする。

 移動のための車はすでにレンタルで用意されていた。というか、なぜそれだけは用意して計画はなしなのか。


 そして、車に乗り込んでカーナビに適当に目的地をセット……といっても、


「……今から行ける所ってったら、あそこしかないだろうな」


「だな」


 そのカーナビの目的地検索欄には、千葉県にあるのに東京の名前が付いた某テーマパークの名前があった。

 一番近いところで休日過ごせるってったら確実にこれしかない。俺はそこに決め、ルートを設定して自動運転モードに切り替えた。

 電気自動車ゆえ静かな発進を始めると、自動的に道路上をそって目的地へ向けて走り始めた。


 その間、俺たちは暇である。船橋市の市街地を横に見、カーナビ欄は自動的に適当なTVチャンネルを表示し出した。今はまだTVの朝ニュースの時間帯である。

 ついでだから、和弥に例の件について聞いた。


「んでさ、和弥、例の私幌市の件なんだが……その後どうなったんだ?」


 和弥も手に持っていたタブレットを操作しつつ、朝飯代わりのクロワッサンを食いながら言った。


「あぁ、結局、政府は表ざたに公表はしなかったようだ。初実施のことでいろいろと手間取ったけどなんとか無事終わったよ、みたいなことで終わらせたらしい」


「やっぱりか」


 案の定、というべきか。IEDが本物だったし、しかも実弾まで出てきてへたすりゃ死人が“市街地”ででてきたとなれば、もう左翼云々関係なく批判殺到は間違いなしだろう。

 政府としてもそれは好ましくなかったはずだ。隠ぺい工作となるが、まあ無用な混乱をするよりはマシではあるだろう。

 だが、実弾によって起きた市街地の被害はどうしたんだろうか。あの時の無線では、「コンクリが割れた!」っていう無線も聞こえてきていたが……


「それについてはどうにかこうにかごまかしたっぽいな。訓練中に勝手にコンクリ崩れただけで関係ないよってね」


「なんだその無茶が過ぎる言い分は……それでごまかせたのか?」


「まあ、土木関係者もそれに同調してることもあってそれほど疑いはかけられてないな。元々あのコンクリ古びてて他の部分も欠損してたらしいからありえなくはないだろうってね」


「ふーん……」


 仕事が早いね。おそらく政府の差し金なんだろうけど、その仕事の速さをもう少し他の財政とかにまわしてくれれば今頃俺たちももっと快適な生活できてたってのに。

 さらに、タブレットを今度は車内のUSBポートとコードでつないで、タブレット画面をカーナビ画面と同期させた。


「そんで、ニュースの記事を見る限りでも、どうやらこの訓練は無事成功、ということになってる。だが、どうやら左翼連中やその他市民団体が「やっぱりやめてくれ」って抗議してるらしいな。騒音がひどいとかで」


「騒音って……」


 んなの昔からよくある程度のものだったのに今更ってしか言えないが、まあ彼らがあんな感じなのは今に始まったことではないしスルーだな。

 しかも、ニュースではそれを“大々的に”報道して抗議者人数も水増ししてるらしい。映像とテロップに出てる数字がどう考えても釣り合わないそうだ。マスコミのやりそうなことではある。

 まあ、「ここら辺はスルーでいいだろ」という和弥の言葉通り、相手にするだけ無駄っぽいのでここは無視でいいだろう。放置しまくりも好ましくないが、かといって相手してたら時間の無駄だ。


「今やってる朝ニュースも……あー、うん、あんまり触れられてないな」


「成功したよどーもどーも、で終わりか?」


「だな」


 カーナビ画面を操作して隅っこに縮小させていたTV映像を拡大させるが、ちょうどその訓練のことが触れられていたにしろ、もう1週間も経ったこともあってか、「これらの訓練によってまだ抗議が~」とかどうとか簡単に言って終わりだった。もう注目度もなくなったってことだろう。


「世間の目が向けられなくなれば後は政府も後処理がやりやすいかね。まあ、無用な混乱は避けられたな」


「だな……」


 混乱といっても、おもに批判とそれによる誤情報錯綜だろうが。

 話が大体まとまったところ、


「……お?」


 カーナビが突然『ポーン』という電子音とともに画面を切り替え道路図を表示するとともに、フロントガラスにも現在のルート情報が投影される。

 そこには、『この先渋滞』の文字があった。


『ホンマ・テレマティクスサービスより情報更新。この先、爆発発生により渋滞が発生しています』


 テレマティクス。カーナビとかに交通情報や天気予報など多種多様な情報をリンクさせてくれるサービスの総称である。曰く、この先渋滞らしい。てか、爆発っておい。


「ええ!? ど、どっから何km?」


『現在地より500m先。400m~500m。発生初期のため今後さらに増える可能性があります』


「うへぇ、マジかよ」


 和弥が隣で参った、とばかりに頭を軽く押さえた。

 カーナビ上の道路図では、その渋滞域が赤く表示されている。今走ってる国道296号線の大体中腹くらいか。

 そこは最短距離で行く予定だったのだが、元々2車線道路で大きいものではなかった上、脇道はあってもどれもこれも滅茶苦茶小さい小路同然のものばかりのものだった。渋滞に巻き込まれた車も、今いる本線道路からの退避が間に合っていないらしく、しかも、情報を更新させてみればその小路から本線に入るつもりだった車もあるのか、渋滞は増える一方だった。


「だが、この本線って中腹くらいに2本くらい本線と同じくらいの広さの道路に抜けれるT字路なかったか?」


「いや、その爆破現場がちょうどそこの建物らしい。消防が道ふさいじまってどこにも抜けれないって形か。しかも、こっちから見て手前のほうだ。奥のほうは俺たちは退避に使えねえよ」


「かぁ~、困ったな。渋滞の異様な長さから推測するに、こちゃ朝通勤か何かにつかまったかな? この近くには駅もあったはずだしな」


「近所で駅っていうと津田沼駅か。そこから、ないしそこに行く通勤客が流れてぶち当たったか?」


「だろうな。この渋滞、おそらくしばらく待たされるぜ」


 この状況、どう考えてもそうだろうな。

 渋滞につかまるのはごめんだ。どっかで道を変えよう。


「仕方ない。ここから左に曲がって135号線から69号線に抜けて本経路に戻る形でいくか」


 幸い、渋滞発生初期ということもあってか俺たちみたいに他の道路に退避して二次渋滞が起きたりはしていなかった。まあ、するほどの交通量でもないだろうが、いくなら今のうちだろう。

 すぐにカーナビに新たな退避道路を設定すると、経路表示に反映され自動的に使用道路を変更。135号線に入れるT字路を左に曲がった。

 その際、本来通るはずだった296号線の先を見てみると、すぐそこでもう信号もないのに止まって列を成している車の集団があった。すでに渋滞がここまで来ているようである。


「早めに着ておいてよかったな……へたすりゃ数十分でこの交差点もふさがるぞ」


「だな」


 渋滞の拡大速度を鑑みれば、そう見たほうが自然だろう。ここは津田沼駅に直通する道路でもあるから、仮にふさがれば結構不便になる。

 ちょうど朝ニュースの時間帯だし、もしかしたら速報ででてないか?と思いカーナビ画面を切り替えると……


「あ、やっぱり入ってる」


 案の定、速報扱いでニュースに取り上げられていた。しかも、現場からの中継付きという手際のよさである。


「建物からの爆発火災か……最近ここいら辺火災事故多くないか?」


「いや、事故じゃない。もはや群発事件だな」


「え?」


 気がつけば和弥はまたタブレットで画面を操作している。いつもの情報収集や提供をする際は基本そうだった。日常でのコイツの相棒はもはやそのタブレットである。

 またタブレットの画面をカーナビ画面と同期させて言った。


「ここら辺は数年前から一般建物火災が多発してる。しかも、それの大半が“爆発事故”だ」


「爆発か。コンロとかの可燃物の不処理か、または漏電が原因の奴か?」


「いやいや、そういう生半可なもんじゃない。俺たちが先週体験したのは何だよ?」


「先週……?」


 先週、と聞いて一瞬迷ったが、すぐに察する。


「……まさか、爆弾か?」


「広義的にはそれであってるな。正確には市街地に持ち込まれた爆発物の誤爆発だ」


「誤爆発?」


 和弥は説明する。


 最近ここいら辺で群発している火災事故は、和弥に言わせれば事故ではなくもはや“事件”みたいなものであると。

 というのも、その火災はさっき言ったとおり爆発物の誤爆破が大半であるのだが、それの爆発物のタイプがほぼ同じか同グループのIED爆薬、その爆発物の保有者と思われる人物がほぼ全員北朝鮮系・共産党系マフィアか、それらと関係を持っている人物ばかり。

 こんなの偶然で処理していいレベルのものじゃない。

 それらが、海外から持ち込まれた後市街地で隠していたが誤って爆破させてしまった、という形であると推測している。

 事実、その事故、という名の実質事件のたびに周辺住民が火災が起きた後も何度か小さい爆発音を聞いているし、今はいってるニュースでもそれらしい証言が放送された。


 ……聞いてたら地味に怖くなってきた。なんでって……


「……それ、テロリスト側がアホってわけでもないし、爆発物の取り扱いくらいならそれほど誤爆発なんて多発しそうでもないのに、それでもこんなに起きてるってことは……」


「ああ、普通に考えれば“もっとある”と考えたほうが自然だわな。それほど難しくない爆発物の取り扱いだけでここまで誤爆発事例が起きてるってことは、まだちゃんと扱って隠してる分がもっとあるってことの裏返しでもある。今頃、この爆破事故を受けて警察も頭抱えてるんじゃないかな」


「うわぁ……」


 事例が事例だし、下手すれば警察どころか政府や公安まで頭を抱えて悲鳴上げそうなんだが。


「例の私幌市の奴も、IEDの型によってはもしかしたらここから送られた奴じゃないか、とも取れなくもない。まあ、そこら辺は調査で判明するだろうし、仮に判明しても俺らに知る由はないだろうがな」


「だろうな。そこら辺はぜんぶ機密扱いだろうし」


 だが、仮にそうだったら千葉と岐阜またがってまた捜査が面倒になるだろうな。政府の仲介もめんどくさいことになる。政府頑張れ、マジ頑張れ。


「(それの余波が、うちらのとこにも来なきゃいいが……)」


 隠し持ってる地域が他にないとも限らないし、全国規模で見渡したら案外……なんてことになったらシャレにならない。

 全部見つけれないのはまだ仕方ないとして、こうして少しでも見つけておくことで他の奴らに対する見せしめくらいにはなってもらいたいが、さて……。





 そんな適当会話のキャッチボールをしながら目的地に着いたのはいいが、やはり世間でも休日なのでとんでもない人の量である。

 見たところ、子供連れの家族が大量にいた。今はまだ夏休み期間中であるがために、夏の最後の思い出がてらラッシュで来ていると和弥は推測している。

 それゆえか否か、朝から並んだのに午前中に入場制限がかかってしまう始末。幸い俺たちはギリギリそれの前に入れたからいいものの、入場ゲートではまだそこそこの人数の人が列を成していた。和弥曰く、ここでは8万人くらいになったら入場制限がかかるらしい。とはいえ、和弥に言わせれば8月でここまでの客が来るのはそこそこ珍しいという。まあ、そんなこともあるだろう、日本随一のテーマパークやし。


 ランド、と言えば一番はよくこのテーマパークのモデルとなったところの会社が出資して作ってる映画の冒頭でよく登場する、例のドでかい城が見どころであるのはもはや言うまでもない。修学旅行で来て以来だが、またシャッターを切りつつ横目でふと見ると……


「……お、ロボット増えてる」


 修学旅行行った時と比べて、随分とロボットが増えていた。時間毎に行われるパレードや、そこら近所の売店の前でも売り子やら宣伝業務やらでもロボットの姿が大量に見受けられる。中学時代、修学旅行で来たときはこんなのは全然なかった。


 それだけではない。その後しばらくアトラクションとかをのったり写真とったりしていても、いたるところでロボットを見かける。昼食をとる時は、まさかのウェイターさんまでもがしっかりおめかししたロボットだった。妙にレストランの雰囲気にあってるのが地味にシュールだった。


 人間の姿とは似ても似つかないが、それでも、この人間たちという名の海の中に魚の如く自然に溶け込んでいた。時代によって徐々に人間の仕事がロボットに受け継がれていっているのがここからでも見て取れた。

 そして、そこに群がるのは子供たちばっかり。……見てくれは人間とはかけ離れてるロボットが人間の子供を相手取る光景というのも中々シュールで面白いものである。


「もう、こんなところにもロボットの波が来たか……」


 昼食後、次のアトラクションを探しつつそのロボットたちを見ながら俺はつぶやく。

 和弥も昔を思い出して懐かしんでいるようだった。


「はぁ、懐かしいな。あの時とは見てくれはそれほど変わってないのに、中身は完璧に変ってやがる」


「ああ。人間の中にいつの間にかロボットが紛れ込んでいるうえ、それに違和感を覚えなくなっちまった。俺らも、大分ロボットに慣れちまったな」


「俺たちだけじゃねぇ。一見すればある種ここまで多いのは異常とも言える光景なのに、それに異を唱える奴が全然いない。……日本人ってほんとこういのに寛容だよな」


「昔からアニメとかで慣らしてきたからな」


 そのせいか、今の若年世代はもちろん、1世代前のロボットアニメ全盛期で育った人たちですらそれを容易に受け入れてる始末。かく言う俺たちもそれらの世代に一人だし、そういった寛容世代が多いおかげもあって日本のロボット普及速度がヤバいことになった。たった数年しかたってないのにこの現状である。


「やっぱり文化の違いが大きいのかねぇ。アメリカとかでもここまで普及してねぇぞ」


「確か、あっちはまだ抵抗派が多いんだっけか」


「ああ。しかも、アメリカの場合は政党単位でそれに異を唱えてる奴もいる。今野党一党の民主党や、後はネオブラックパンサー党とか」


 なんだ、そのどっかの人型機動兵器アニメのコロニーの名前に出てきそうな政党名は。


「まずそうくる発想がアレだが……まあ、少数規模の政党よ。野党一党の民主党をしのぐレベルでロボット反対派が多くてな。最近じゃ民主と結託してアメリカでのロボット推進に反対してる」


「そんなに熱心なのか?」


「たとえれば、銃規制推進派と反対派の関係かな。銃規制をロボット推進に変えてみ」


「ああ、理解した」


 一応、いるにはいるのか。さらに聞くところによれば、今政権与党の共和党は時代の流れに沿ってロボットを推進するべく動いてはいるものの、民主党の反対がすごいうえ、共和党内部にも反対、とまではいかないまでも普及に際してロボットに対する各種規制を敷かせようとする規制派がいるがために全然まとまっていないのだそうだ。

 だから、実は技術はあっても普及率でいえば世界的にはどっちかというと遅れているほうなのだという。

 それとは打って変わって、まだ土地開発等が進んでいないアフリカや極一部の東南アジア国家では、それらへの支援を名目に日本などが輸出した作業用ロボットが結構受け入れられて普及率が高めで、むしろそういった発展途上国のほうが以上の背景からロボットが多くある傾向にあるらしい。

 もちろん、先進国なのにロボット普及率が段違いの日本は例外中の例外である。


「でも、それでも日本に来る外人の観光目的の一つに必ず入ってるのがこのロボットの観察なんだよなぁ……。台湾じゃ、それらの工場や展示会を見て回る観光ツアーまで毎年定期的に計画されてるうえ、それに参加する客が毎年大量にいるらしいっていうね」


「台湾は文化的に日本が浸食してる部分があるからな、仕方ないな」


 萌えとか、オタクとかな。しかも、台湾以外の国が自国で全然やらないからって理由で台湾のこの観光ツアーを使って日本ロボット巡りに乗り出していたりもするらしい。だから、参加国で見れば実は台湾人率は7割~8割程度で、そのほかは欧米出身が多いとか。とくに最近多いのはアメリカらしい。

 ……もう、あんたらはロボットが嫌いなんだかそうでないんだかもうわからない。


「(だが、そういった認識の違いが混在してるから今みたいな状況になるんだろうな……)」


 ロボットがほしいって人といらないって人がギャーギャーいってる間に、またロボットがどんどんできて普及する国としてない国で単純な国力や生活水準、治安水準などで差が出てくる。その差を埋めたいのに国内の抵抗派のおかげでそれが遅れて……と。

 こりゃ、ロボットのせいで国内・国際情勢的に変化でてくるかもしれないな。事実、ロボット開発に力を入れている日本がまた経済的に回復してきていて治安維持に貢献してるし、その逆ともいえる欧米はまた経済が横ばい状態を維持して治安も微妙という現状だ。


 ロボットだけでここまで変わった、というわけでもないだろうが、少なくとも世界の変化に様々な面で大きく関与しているのは間違いないだろう。

 今後の動きにさらに注目していかねばならない。とくに、アメリカ。


 そんな会話をしていると、気がつけば時間もそろそろ夕方である。日は西に沈み始め、空が赤くなりかけてきた頃である。


「―――まあ、そんな話はここら辺でいいか。どれ、大分回ったしそろそろ最後のアトラクションに……」


 そういいつつ適当なアトラクションを見つけて乗って行こうとした時だった。


「……ん?」


 ふと、あるものに目がとまる。


「ん、なんだ。どうした?」


「いや……あの店、前あったか?」


「ん?」


 その指差す方向には、ある売店があった。

 どうやら各種アクセサリー関連の店らしい。このテーマパークの雰囲気に沿った、華々しく、如何にもファンタジーなオーラを放つそれは、和弥がパンフレットを調べたところでは、どうやらつい先月オープンしたばっかりの店らしい。

 そこそこ小さめだったので、それほど話題にならなかったからさすがの情報屋の和弥も今の今まで気がつかなかったという。


「なんだ、その店がどうしたってんだ? お前がそんなのに興味持つとは珍しいじゃねえか」


「いや、別に今に始まったことじゃないだろ」


「ああ、今までに買ったことあったか。“彼女”宛てに」


「うっ……」


 彼女。ここでいう彼女とはそのまんまの意味で行ったわけではないだろう。たぶん、あいつの……。

 和弥も、言ってすぐに「ヤベッ」と察したらしい。


「あ、ああーッ、あの店、なんかキャンペーンやってるみたいだなーッ、開店キャンペーンかなー?」


「んー?」


 別に気にしてもいないのにやられた下手くそな話題逸らしに内心苦笑いしつつも、その指差す方向にあるガラス製電光掲示板を見る。

 そこには、


『開店キャンペーン本日最終日! ヘアクリップ手作り教室開催中!

 短時間で作製可能! 彼女宛てのプレゼントが作れるぞ♪』


 ―――とかいう、何とも顧客ターゲットをうまい具合にスナイピングしたような誘引文がつらつらと表示されていた。

 どうやらこのテーマパークの出入り口付近にある売店エリアからは独立しているらしく、例のロボットもなく自分たち人間の手によってすべて運用されているようだった。

 そのキャンペーンも今日までか。ちょうど1カ月、という予定だったのだろう。


「ヘアクリップ……か」


 ヘアクリップといえば、新澤さんが兄から10年前の戦争終結祝いでもらってリボン型の奴があったな。やけに大切にしていたのを覚えている。

 何でも、終戦間際で敵からの銃弾受けて国防軍病院で入院していたところに、見舞いに来た時にもらったのだそうだ。やけに妹思いな兄さんである。それ以来、休日は頭に付けてたり、それ以外ではお守りがてら常に持ち合わせているそうだ。


「(贈り物……)」


 そういえば、例の1週間前の事件以来それといって動きがなかったからこっちもいつの間にか頭から離れていたが、考えてみればそう言った時の生還祝いとか考えてなかったな……。いや、する必要もないだろうけど。

 しかし、この際だから何か送ってやりたいという気持ちもある。とくに、アイツに対してはこっちは助けられた身だ。命の恩人ともいえる。


「……」


 少し考え、看板の下を見る。値段は別段高くない。というか、いくら高値傾向にあるテーマパークとはいえただのヘアクリップ造りで高い値段なわけないのだが。

 さらに、手造りの過程ではちゃんとスタッフが手とり足とり説明をくれるようで、個人から団体まで誰でも歓迎。種類も豊富のようだ。


 ……よし、“チャンス”的に見てもちょうどいいだろう。


「悪い、和弥。ちょっと抜ける」


「え? いや、抜けるってどこに?」


「そこに」


「は? そこ?」


 指差した先はもちろんその例の目の前にあるアクセサリー店。和弥は顔を怪訝にさせる。


「すぐ終わるから。そこらへん適当にぶらぶらしといて」


「お、おう……わかった」


 いぶかしげに思いつつも一応承諾をした和弥といったんはなれ、俺はその店に入った。




 しばらくして、またこの店を出る。手には、紙袋が一枚。

 たった数十分そこらで終わったのがありがたかった。これがまた客待ちで1時間待ちとか言われたら勘弁願いたいところだった。まあ、見た感じそれほど客待ちしてなかったが。

 店を出ると、ちょうど和弥が一通り軽食を買い終えてきたばっかりらしく、手には売店で買ったらしいピザやらドリンクやらのセットがあった。しかも、気がきくことに2人分である。


「お、ナイスタイミングだな。そっちは終わったか」


「ああ。お前は飯か?」


「そろそろ夕方だしな。んで、お前の手に持ってるそれは何だ?」


「ん? あぁ、これ」


 紙袋からその中身をとり上げて見せる。


「ん? ……なんだ、それ、例の」


「ああ。作ってみた」


「ほぅ、よくできてんじゃんか。経験あるのか?」


「全然。初体験だよ。前に“アイツ”に送ったのは完成品だし」


「なるほど。だから、今回は手造りか」


「そういうこと」


 手に持っていたのは手造りのリボン型のヘアクリップだった。新澤さんの点けてるのとは形は違うが、大体蝶結びのような形をしている。色は桜色。

 本当は可愛らしさも表現したいので桃色で行こうかと思ったのだが、それだと新澤さんのとかぶるので、折衷案的な感じでこれに落ち着いた。ある意味、これもピンクの一種である。


「しかし、なんでリボン型なんだ?」


「そこはまぁ……由来ってやつかな」


「は?」


 簡単に意味を説明すると、和弥も納得した。妙に感心しつつ。


「お前、色と形一つでそこまで考えるってある種異常だぜ?」


「異常呼ばわりは失礼だな。それくらいいいだろ」


「ハイハイ。ま、お前らしくていいんじゃねえか?」


 そう言っている和弥の顔はどことなくおちゃらけた感じであった。こっちは割と真剣なんだってのに、いつもどおりである。


「そろそろ帰宅ラッシュが来るぞ。さっさと行こうぜ。ほれ、ピザ」


「ん、サンキュー」


 その後は、適当にアトラクションやら何やらを体験しつつ、帰宅ラッシュに入る前にいち早く入場ゲートを抜けて習志野への帰途へ着いた。

 結局、一日中ここでいろいろと楽しむこととなった。修学旅行以来のことゆえ、そこそこに楽しんでしまった。明日からはまた訓練だってのに、今夜中に疲労を取れるか早くも心配になってきた。

 そう考えると、車が今の時代自動運転になってくれてほんとありがたいものである。





 駐屯地近くにある営業所にレンタカーを置いてくると、そのまま駐屯地についた。時刻は6時前後で、夕食時間的にもちょうどいい時間帯であった。


「じゃ、飯時に」


「おう」


 和弥とはこの後の夕食時に食堂で会うことを約束しつつ、隊舎の部屋前で分かれた。

 完全私服状態からジャー戦に戻るために、自分の部屋に向かっていた時だった。


「あ、祥樹さん、おかえりなさい」


「ん?」


 ちょうど通りかかったのはユイだった。

 新澤さんの姿はない。事情を聴くと、どうやらまた部屋で爆睡してるらしい。あの人、休日になったらほぼ確実に寝てるな。しかも、ユイがいるからって理由だけで俺の部屋に居座るうえその俺のベットの上でである。


「あの人も随分とずぼらなところもあるんだな」


「まあ、そういうギャップもいいですけどね」


「ギャップねぇ……。そういうのはただのアニメの萌えキャラで十分な気がするが」


「私は?」


「……ないな」


 一瞬返すのを手間取った。前の訓練時のアイツを想像してしまい、そのまま本音で返すのを躊躇してしまった。あれも、一応ギャップといえば、ギャップなのだろう。

 そういった会話を一言二言交わしたところだった。


「あれ?」


「?」


 ふとユイは視線を下方に移す。正確には、俺の手元であった。


「その持ってるのなんです? お土産か何か?」


「ん? あぁ、これね」


 手に持っていいた紙袋。例のテーマパークのロゴを見ていた。


「あの遊園地ですか」


「まあ、そこだな」


「ふ~ん、子供の如くはしゃぐ大人男性ですか……」


「おう意味深な声で言うなや」


「別にそんなつもりはないですけど……。で、何買ってきたんです?」


「あぁ、まあ、お土産的な?」


「へえ、誰に?」


 そこで自分、とこないあたりコイツも謙虚ということを知ってくれたか、と少しコイツの成長を喜んだ。ロボットの成長は喜ばしい。とくにコイツの性格を鑑みれば。

「誰って、お前に」と言いながら中身を取り出しす。そこには、さっき和弥にも見せたヘアクリップがあった。


「え、私?」


「そう、お前」


 桜色の小さなヘアクリップ。しかも手造りだ。

 ユイは手に取ると、新澤さんの以外あまり見たことすらなかったために少し物珍しそうに見ていた。


「手造りですか?」


「ああ、手造り」


「結構形整ってますね。作ったことあるんですか?」


「いや、別に。スタッフの説明が丁寧でね」


「へぇ……」


 少しそのヘアクリップをみて、さらに聞いてきた。


「この形と色にした理由ってあったりするんですか? 手作りなら適当な形にすることもできますけど」


 妥当な質問。和弥も聞いてきたものだった。

 和弥も妙に感心したその意味をちゃんと説明する。


「あぁ、そういう風にリボン型なのは、ユイの名前に由来するんだよ」


「え?」


「リボンってのは結ぶものだろ。結ぶ、は別名“結う”。そしてその漢字から結、からの、ユイ。ほら、繋がるだろ?」


「あー……なるほど。連想ってやつですね」


「そういうこと」


「じゃあ、桜色なのは?」


「お前、日本製だろ。日本っていったら桜、桜といったらその桜色。桃色でもよかったんだけどな。それだと新澤さんとかぶる」


「なるほど……」


 これが、こんな形と色のヘアクリップにした理由だった。

 つまり、これだけでユイを連想できるように形づけたのだ。リボン型から名前、色から日本ということを。

 言ってしまえば、このヘアクリップはユイの由来をそのまま別の形で具現化したようなものでもあった。

 どうせ持つなら、こうした形で何らかの意味を持っていれば思い入れも持つだろうと思ったのだ。そんな感じのことをユイに簡単に説明する。


「ま、俺が勝手にそう思っただけだけどね。お前がどう思うかは……」


 と、半ば軽い気持ちで言うと、


「……」


「……ん?」


 随分とそのヘアクリップに注目していたユイがさらに沈黙した。

 呆けてる、というか、何かと思いをそれに集中しているかのようだった。


「……えっと、つまり、これは私自身みたいなもので……」


「自分自身、というか、お前の名前が形になった感じだな。広義的にいえば、お前であるともいえるかもしれないな」


「わ、私自身?」


「そう、お前自身。の、別の形への具現化」


 そういうとまたヘアクリップを注視した。何やら思いいれたように。

 さらに、これだけではない。


「それに、ほら、これ」


「?」


 ユイの持っているヘアクリップを手ごと裏返し、金具が付いているところの横を指差す。

 そこには、文字が刻まれていた。俺がスタッフに頼んでやり方を教えてもらって刻んだものだった。


「ほら、この文字とかな」


 そこには、英文字で短く文字が刻まれていた。



『My Buddy』


 ―――俺の相棒



 ただのヘアクリップで終わらせたくなかった、という俺のわがままによって刻まれたといっていい。どうせなら世界に一つだけのヘアクリップにしたかった俺が、ユイに対する俺からのメッセージがてら刻んだのが、この英文字だった。


 これは、俺が、ユイを相棒だと証明する証でもあった。


 ユイはその文字を見たとき少し驚いたようだった。どこに驚いたのか、文字の中身か、刻まれてる文字の綺麗さか、どこに対してかはわからない。だが、それによってか少しユイはその表情のまま固まっている。


「どうせなら、ってことだし、お守りがてらに使うんならそういうの書いとけば結構それっぽくなるかと思ったんだが……」


 それっぽく、つまり「俺が付いてるぞ」みたいなもんだ。そういうの書いておけばなんとなくそれっぽく見えるかと思ったのだが、しかし、さっきからユイが何とも言わない。

 あまり気に入らなかった? そんな不安をよぎったが……


「……祥樹さん」


「?」


 口元を少しゆがませた。微笑である。

 ヘアクリップに向いていた視線をこちらに向けた時には、その顔は微笑から満面の笑みに代わっていた。

 そしてそのまま一言。


「……ありがとうございます」


 そういって白い歯を見せてまたニコッと笑った。

 俺は静かに安堵する。どうにか気に入られたらしい。ユイはそのままヘアクリップを頭部の左側にいそいそと付けた。


「どうですか?」


 頭に付けた後、俺に聞いてきた。

 新澤さんのように頭にヘアクリップを付けたユイの姿は当然はじめてみるが、自分で言うのもあれだが結構にあっていた。

 桃色系統の桜色を選んだのもあたっていたようだ。今のユイに似合っている。大きさも、邪魔にならず、そして小さすぎずでちょうどよかった。


「お、似合ってるじゃんか、案外」


 そういうとユイは頭に付けたヘアクリップを手で軽く触れて、また微笑を浮かべた。相当気に入ったらしい。よかった、これで買ってきたかいがあったというものである。


「まあ、ロボットである私がこれつけるのもちょっと変ですけどね」


「そういうな。似合ってるからいいじゃんか」


「ですね」


 そんな会話の最中である。


「ふぁぁあ~~~、おはよぉ~~」


「おはよーって……もう夜ですよ」


 そんないつもの新澤さんとは打って変わってだるさ前回の声を出してきたのは新澤さんである。ジャー戦姿のままで、起きたばかりなのか目をこすらせている。


「ん? アンタ、あのネズミ国家から来たばっかなの?」


「まあ、帰ってきたばっかりですね」


「ふ~ん……ん? 何そのユイちゃんが付けてるの。土産?」


「あぁ、これは……」


 さっきユイに言ったようなことを一通り説明する。すると、新澤さんは自分の持っているのを頭からはずして比べた。


「まあ、私の兄さんがくれたのは完成品だし、形はそこそこ違うかな。リボン型だから大まかには同じだし同じ桃色系統の色だけどね」


「でも、見分けは十分付くでしょう。それに、ヘアクリップ付きでいえば新澤さんとお揃いですよ」


「だよねぇ~」


 そういう新澤さんの顔はそこそこうれしそうである。ヘアクリップ女子仲間の誕生ではあるうえ、自身もお気に入りのロボットである。そりゃそうもなろう。


「リボン=ユイか……シャレたことするもんね、アンタも」


「まあ、下手な連想ゲームみたいなもんですけどね」


「そういうのアンタ得意でしょ。……いいもんもらったねーユイちゃんも」


「はい」


 相変わらずうれしそうにほほ笑むユイ。また手をヘアクリップに乗せてその感触を確かめていた。

 それにつられて新澤さんも笑みを浮かべていた。


「まあ、リボンでユイって言ったらs「おーい飯まだー?」うぇいッ、いきなりなに?」


「?」


 途中で後ろからいきなり声をかけたのは和弥だった。飯に向かっていたはずなのだが、待ち切れずに自分から来たらしい。すでにジャー戦姿である。


「さっきから待ってるのに全然来ないから来てみたら……なに、全員集合して」


「いや、これのこと」


「え? あぁ、そのヘアクリップね。シャレた由来付けてわざわざそんな形と色にしてな」


「ハハ、まあね」


 そう言いつつも、「まあ本人が気に入ったようで何より」と同じく安心したような表情で一言加えて、互いに笑いあう。


「で、何の話?」


「いや、これ見てて思ったんだけどさ……」


 新澤さんが話を戻すように言った。そのヘアクリップを指差して。


「……リボンの結い目、あるじゃん?」


「ええ」


「それとさ……ほら、アンタとユイちゃんが最近やるようになったあれ、あるでしょ?」


 そういって自分の右手に拳を作って軽く突き出すしぐさをする。それは、少し前から俺の提案でやるようになったあのしぐさのことを指していた。


「あぁ、あのグーサインですか?」


「そう、それ。ちょっとそれやってみて」


「え? えぇ、いいっすけど……」


 少し変に思いつつもユイとグーサインを交わす。拳をあてた時、新澤さんは「ストップ」と止めた。


「そのタッチした時の形がさ……前々から思ってたんだけど、そのリボンの結目に似てるよね」


「え?」


 ユイと互いに拳をあてたまま、それを横から見てみる。

 拳が当たっている部分をリボンの結目部分としてみると、確かにそれっぽく……


「……ギリギリですよ、見えるとしても」


「え? 見えない?」


「形的に微妙ですよ……? ほんとにそう見えます?」


「あれ、私だけなのかな……?」


 首をかしげてそのグーサインの手を凝視する新澤さん。和弥も隣から見てみるが、やはり微妙、といった顔。「ギリギリかなぁ……」とかつぶやいている。

 横から見てみればわかるが、リボンというのは外に花びら部分が広がっているため、この場合はむしろ逆で、外側にある腕のほうが細いためにリボンとしてみるのはちょっと微妙だった。


 見ているうちに徐々に自分でもそう見えなくなったのか、少し慌てた感じで事故フォローを始めた。


「で、でも、なんかそれって繋がってるって感じでいいよねッ。ほら、ユイちゃんの名前にあるし」


「グーサインしてる限り、それで繋がってるってこってすか?」


「そうそうそれ! そ、そういうのなんかいいよね!」


 和弥が隣からフォローがてらの質問にそう答える。なるほど。そう考えると、案外これも悪くないかもしれない。

 訓練中、ああやって完全兵器状態のユイから引き出す“繋がり”の要素。それを、グーサインという名の“結目”で実らせるのだ。


 ……新澤さん自身はあんまり考えないで言ったつもりなのだろうが、しかし、考えてみれば結構これもこれでありかとも思えた。ユイも同感だったのか、いたく感心した様子であった。


「(……となると、このグーサインも今となっては結構意味あるものになってるんだろうな)」


 そう考えつつグーサインを解く。すると、時間を確認していた和弥がまた思い出したように言う。


「さて、そろそろ飯できるぜ。さっさと食って寝るぞ」


「だな」


 気がつけば食堂もそろそろ混雑になってきそうな時間帯である。ラッシュに巻き込まれたくはないし、和也の言葉通りさっさと食ってしまおう。


「さぁて、皆に自慢してこよ~」


「自慢てお前」


 ユイはそういって軽くルンルン気分でステップでもしそうな感じで、新澤さんとの会話を楽しんでいた。そのユイの手はいつもさっきおれが上げたヘアクリップにあった。会話相手になっている新澤さんも、ユイの笑顔につられたのか楽しそうである。


「随分と楽しいことになったもんだ……ほんと、お前らも生物と人工物の壁越えまくりだな」


 和弥が妙に面白がりつつ言った。その視線は俺とユイを交互に見ている。


「まあ、あんまり気にしてなかったからなぁ……これも、ある種の異常か?」


「ある種、な。ただし悪い異常とは言ってない」


「じゃあ良い異常か?」


「さあね」


「さあねってお前……」


 何が言いたいんだかコイツは。とかツッコんでもコイツは笑ってごまかすだけだった。相変わらずっちゃそうだが、ほんとこういうときのコイツは何考えてるかわからなかった。


「(まぁ、仲良くできればそれでいいさ……)」


 たとえ、それが異常でも。


 異常であることが悪いとは限らないんだ。場合によるもんだからな。

 俺は別に悪いとは思わない。アイツは今では俺の文句なしの相棒だ。アイツもそう思っている。相思相愛、とまでいくかはわからないが、少なくともそれに近いものをおれは感じていた。ぶっちゃけ贈り物をしてしまうほどの仲である。今みたいに。


 隣で楽しく会話を交わすユイを見る。相変わらずヘアクリップを気に入っている的な意味で気にしつつ、新澤さんにそれを自慢していた。可愛らしい一面もあるもんである。


「(これが、いつでも見れるように俺が……てことだな)」


 相棒となったからには、そういう使命も俺にはある。


 試験機ではあるコイツの身分。しかし、それは、こういったロボットらしからぬ面を見るための意味もあったのだ。

 それを守っていく義務が俺にはあることを、コイツの笑顔を見て改めて感じた。


 そして、それは俺自身が過去に負った“過ち”を再び起こさせないようにする意味もあった。


 そんな責任感を感じながら、俺は仲間とともに食堂に足を運ばせる……。





 そんな日常を送りっているうちに、ユイと出会ってから結構な日数が経っていた。

 様々な面を見てきた。今見ているような笑顔、ちょっとからかったりした時の怒り、訓練中のあの冷徹さ、そして、冷静さ。


 ロボットである面、そうでない面。それらをいつも見てきた。今は8月の初旬だから、かれこれ、3ヶ月半くらいは経つだろうか。いつの間にそんなに日数がたっていただろうか。それだけ、コイツとの日々が充実していた証拠とも言えるのかもしれない。


 当たり前異になっていた日常を脅かされる時もあった。あの一週間前。ほんとに死の間際になった時、アイツがほんとに頼りになる存在に見えたのは初めてだった。

 そんな体験をしつつ過ごしたこの日々。半年の期間だからあと半分、いや、確か予定では2ヶ月くらいか、とりあえずコイツと過ごすことになる。

 その後もここに残るのは間違いないが、ほんとに俺の元で残るかはまだわからない。それに、上が気まぐれでやっぱ変えるってなるかもしれない。


 だから、残りの約2ヶ月も、どうせならちゃんと平和的に暮らしたいと思っていたし、そう確信していた。




 そんな、自分勝手な確信を持ったまま、さらにユイとのいつも通りの時を過ごす。




 何も変わらない日常だった。だが、それが変わってきたのは……







 それから、さらに2週間ほど時間が過ぎた時期である…………

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