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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第1章 ~平穏~
28/181

ロボットの成長

 ―――そんなこんな数日の時を過ごす。そんなロボットとのギャップまみれの軍隊生活を繰り返すうちに、もう数えるのも面倒になった何度目かの休暇を迎える。


 俺もとあるイベントに向かうために、私服に着替えて身分証と外泊証を提示して門を出た。

 俺が外出中は、上層部の許可を得て当直で駐屯地残留組となった新澤さんに頼むことにした。ユイとの二人っきりの時間はこれまで中々取れなかったので、新澤さんも相当喜んでいた。


 門を出ると、ホッと重圧から解放されたように大きく背を伸ばす。

 最近訓練漬けで中々もらえなかった休暇であり、結構久しぶりに感じた。


「(……そういや、これ着るの結構久しぶりだな)」


 7月も中盤に入る、学校じゃ夏休み直前の時期になり結構暑くなってきたので、今日はさっぱりした服装だ。

 無地の白色カットソーに上からサックス色のデニムシャツを羽織り、下はベージュのチノパンにネイビー色のシンプルデザインスエードシューズという、結構爽やかな感じでまとめている。

 しかし、実はこれは新澤さんがコーディネートしたものである。いいセンスだな、女性がまとめただけに。


「……と、時間がない。とりあえずバスだな」


 時刻は8:10分。そろそろバスが来る頃だった。

 すぐ近くにある自衛隊前バス停から、船橋新京浜バスの津田沼駅行に乗り込み、そのまま津田沼駅に向かう。

 そこで乗り換えて、京浜バスで17分かけて新習志野駅に到着した。


 今では駅の自動改札機も進化し、スマホに電子マネーを入れているか専用のICカードを持っているなら、何も券などを買ったりせず改札を通るだけでポケットなりに入っている媒体を自動的に感知して出発駅が登録される。

 そして、到着してまた改札を通ったらその分の料金が勝手に支払われる仕組みだ。昔みたいに一々改札機にかざす必要がなく、まさに、人間の手いらずである。


 ……ただし、


「……あれ?」


 俺の場合はなぜか「ピーッ」という電子音と共に『料金ガ確認デキマセン』という電子音声のご忠告が入った。他の人の邪魔にならないようにすぐに改札を出て、持っていたiPhoneの料金設定をする。


「やっべ、そういえばしてなかった」


 何らかの拍子に通信がオフになっていたようだ。俺もうっかりさんだ。こうなるとさすがの改札機もしっかり読み取ってくれない。いやー、失敗失敗。


 通信をオンにし、今度こそ改札を通って……、



 ピーッ



 ……解せぬ。


 おかしい。料金設定はしたはずだ。通信はオンだし、料金もちゃんと今回使う分は入ってるから問題なく通れるはずだ。料金支払いに影響はない。


「じゃあ改札か?」


 そう思い改札のほうを向くと、


「……あ」


 他の人が通ろうとして俺と同じような目にあっていた。それも、数人ほど。そして、隣の改札を通って言っている。その間、料金媒体の通信設定などをした様子はない。


 やはり、改札に問題があるようだ。駅員等が気づかないということは、運の悪いことに異常信号も出ていないということだろう。誰かに伝えておかなければ。

 えっと、隣に窓口はあるが……、あ、今御取込み中か。乗客と何か話している。整理券関連だろうか。

 仕方ない。じゃあ、ちょうど近くにいるし、あいつでいっか。


「あー、すまん。ちょっといいか」


 そこにいたやつに声をかける。すぐに振り向いた。


『ハイ。何デショウ』


 そこにいたのはロボットだった。骨格むき出しでその上から白いプレートを張り巡らした、少し前のSF映画にあるようなゴツゴツ感満載のもので、肩に『OUBISHI』の横文字とピンク色の細いひし形を桜状に並べたフィフスダイヤの桜菱重工の標章がプリントされている。

 形からして、おそらく準新型汎用ロボットのセキュリティ特化タイプだろう。


 胸元には駅マークもプリントされている。どうやら、この新習志野駅で管理しているロボットのようだ。

 ちょうどいい。コイツに知らせておこう。


「あの改札なんだが、どうにも媒体通信機能がイカれてるらしい。見といてくれるか?」


『……了解。3番改札、通信不具合デヨロシイデスカ?』


「あぁ、すまんな。じゃ、あとは頼む」


『確認シマシタ。情報提供感謝致シマス。本日モゴ利用アリガトウゴザイマス』


「ん。そんじゃ」


 ご丁寧に礼までしてくれる。日本製ロボットらしい特徴だ。外国産ならまずないだろう。入れる必要もないしな。


 俺がほかの改札を通っていると、そのロボットは自分で近くからその改札を凝視し、すぐに誰かに通信するようなしぐさで耳に手をかざしていた。改札をスキャンして不具合の内容に応じて仲間を呼んだのか、それとも技師を呼んだのか。

 便利なものだ。こうなるとその改札はしばらくの間使えなくなるのだが、その場ですぐに原因を把握して相応の対応が可能なんだからな。こういう時は、ほんとにロボット様様である。


 ホームに到着するとちょうど蘇我行の京葉線を確認した。

 しかし、やはりここでも俺と行く先が同じなのか、中は人でギッシリ。コミケ行きの電車の中かとでも言わんばかりの人間缶詰状態で、これはさすがに無理だということで、この電車は見送って他のホーム待ち乗客にに交じって次のに乗ることにした。

 次の電車は結構すぐに着た。今日が今日なので、ダイヤの本数を増やして臨時電車が増発しているらしい。まさに、コミケ当日のりんかい線である。


 ……そして、その中も、


「……ぐるじい」


 ぎゅうぎゅう詰めである。人間缶詰とはまさにこれのことを言う。

 青森でも学生時代満員電車は経験したことはあったが、あんな辺境地方のものなどとは比べ物にならない。

 それほど、中は人間で敷き詰められていた。しかも、俺は席に座れず立ちっぱなしだったので余計キツいのである。そりゃ、置換騒ぎも起ころうってもの。

 これとほぼ毎日戦っている都心の朝のサラリーマンの皆さん、いつもお疲れ様です。

 たった4分足らずの電車内だったが、とても長く感じで正直苦しいものだった。

 隣の海浜幕張駅についた時は大きく息をついた。あー苦しかった。これでこの苦しみから解放……、


 ……と行きたかったのに、また最後にとどめを刺される。


 改札を抜けると、最後に2番乗り場から幕張メッセ中央行きの京浜バスに乗り込んだ。

 ここから幕張メッセに直接向かうことができる。そこまでいけば、いよいよ俺の目的地だ。


 ……が、


「…………暑い」


 暑い。暑苦しい。息が苦しい。

 公共バスなので当たり前ではあったが、ここでもまたぎゅうぎゅう詰めの缶詰状態になった。これに関しては運よく席に座れたからいいものの、中がもうひとでいっぱいなので空気がほんとに感覚的に苦しくなる。青森でもないぞこんな人間缶詰。

 結局、現地についてまた大きく一息つくこととなった。


「ふぃ~……やっと着いたぞ」


 出発からかれこれ約1時間の旅。

 何とか、目的地にたどり着いた。



『幕張メッセ』



 千葉県沿岸にある大型の会議・展示施設で、メッセはドイツ語で“見本市”という意味を持つ。

 東京国際展示場ビッグサイトに次ぐ2番目の規模を持っており、国際的な各種会議や展示会を開催するうえでの会場としてよく使われている。


 今回も、あるモノの国際展示の場ということで、今回幕張メッセが選ばれたのだ。


「……案の定、大盛況のようだな」


 俺はその周りの人混みを見てそうつぶやいた。

 周りは見渡す限りの、人、人、人。全員、俺と同じ目的でやってきた奴らなのだろう。


 俺たちの目的はただ一つ。あれを、見に来たのである。


 国際展示場棟1~8ホール出入り口に来ると、その上にはでかでかとこんなチャンネル文字が吊り下げられていた。




『東京国際ロボティックスショー』

“TOKYO INTERNATIONAL ROBOTICS SHOW”


 通称『TIRSティアース




 日本で開催されている、国際的なロボティックス展示会であった。


 日本国内では最大級のもので、日本企業はもちろん、世界各国の企業らも集結し、自分の自慢のロボットを展示し、ついでに宣伝や販売もしまくる、企業にとっての大舞台だ。

 ここには一般人はもちろん、日本政府や各国の政治家や企業家なども集まるため、ロボットたちやそれを扱う企業にとってはこれほど大きな晴れ舞台はない。

 また、ロボット自体だけに限らず、ロボットに搭載する部品や各種機器などを扱う中小企業らも進出している。


 また、ここでは先にも言ったように、他の企業家や政治家らも展示会に赴くため、展示する側の企業連中も躍起だ。訪問者が訪問者だけに、ここでの宣伝営業で成功を収めるということは、必然的にロボット業界での営業に成功したということにもつながり、とにかく結果をだそうと各企業ともしのぎを削っている。

 特に中小企業にとってはこれは莫大な利益になることは間違いないので、そりゃもう大企業に負けないくらいその動きは活発だ。俺たち側からみてもわからないが、その舞台裏ではとんでもない『戦争』が勃発しているに違いない。


 それだけ、ここの展示会は様々な点で重要、かつ大きな意味を持つのだ。


「(……すでにもう政治家とか来てるしね)」


 いたるところにすでに企業家らしいリッチな雰囲気を醸し出した人や、政治家らしい堅苦しい雰囲気を出した人がずらずらと秘書やら警護やらを連れて中に入って言っている。中には、TVで見たことがある人も混ざっており、それだけ関心が高い展示会だということを裏付けていた。


 俺も長い行列に並んで事前に購入していた前売り電子入場データをiPhoneに登録し、入場ゲートでこれを改札のようにかざして入場をする。前売り券なんて紙切れを使っていたのはもういつまでだったか。あんなのに頼るより世の中やっぱり入場券ならぬ電子入場データである。


「おぉ~……すげぇ」


 中のホールは多くの人でごった返し、大きな賑わいを見せていた。

 各ブースに分かれての展示会だったが、どこにいっても一般人、政治家、企業家らが入り乱れてロボットを見学、ないし時には体験しており、案の定大盛況のようだ。

 子供が来たら確実に迷子勃発……、というか、さっそく迷子案内の放送が流れている。一般入場さっき開始したばっかりのはずなのに早いっての。


 そんな放送を耳にしつつ、さっそく展示会に足を踏み入れた。

 とりあえず、まずは無難に統合エリアから行くことにする。

 ここでは、そのまんまロボット自体が展示されているブースとなっている。


「どの企業からいくか……」


 いろいろ進出していた。ベテランの桜菱重工、新興企業の有澤重工、何かと発想が独特な川島重工などといった日本企業がやはり猛威をふるっているようだった。

 当然ではあるが、世界的ロボット大国である日本製ロボットは大きな威容を見せており、他国のロボットを圧倒し大きな人気を博していた。

 日本企業のブースには多くの世界各国のお偉いさん方が押し寄せている。和弥曰く、これはほぼ毎年恒例らしく、多くの企業家や政治家が日本製ロボットのほうに関心が向いているようだ。


 まずは、桜菱でいいか。


 ここでは……


「……やっぱり、汎用型が多いな」


 日常生活で扱う上で一番平均的なロボットが展示されていた。

 ある程度能力はほかのロボットの基準ともいうべきもので、搭載するソフトウェアによって警備特化になったり工場作業特化になったりできる。さっき、俺が声をかけたロボットもこれに値する。

 今回展示されているのはその中でも最新型のようだ。案の定、桜菱ブースのほうは人だかりが大量にできており、一般人が入る隙間がほとんどない。その万能さゆえ、人気は高いようだ。


 それでも何とか入ってみると、どうやら稼働展示中らしい。すぐに持ってきたデジカメのシャッターを着て保存する。隣の壁に立てかけられているTVモニターでは、この最新型の紹介ムービーを流したり、開発過程を紹介する専用の透明ガラスのモニターやプレートが飾ってあったりなど、他の企業と比べても一番力が入っている。

 桜菱としても、今の好調の流れを食い止めないようにするべく必死になっているようだ。


「へぇ……こんなこともできるのか」


 その紹介ムービーには、今稼働展示させている最新型の運動性能を証明するべく、新体操選手のような俊敏な動きを再現させている様子が流れていた。もし警備用に特化したものを売る場合は、製造時に少し改良が入ってこのレベルのものを提供できるのだという。その俊敏さは目を見張るもので、外人が見たら「ニンジャ! ニンジャ!!」と歓喜しそうなものだ。いや、というかさっきから隣で外人がニンジャ連呼してうるさいのだが。

 最近のロボットの運動性能も高くなったものだ。確かに、これほどの能力があるなら警備などたやすいだろう。犯罪者から守る抑止力にもなるかもしれない。


 ……とはいえ、


「……まあ、あいつにはかなわんがな」


 少し勝ち誇ったような感じでそうつぶやいた。アイツの運動性能はある意味これをはるかに超えるものだろう。しかも、あの容姿を保ってあれなのだ。クマさえ投げちまうバカ性能である。さすがに、このロボットはそこまではあるようには見えない。その前にどこかが折れる。絶対に。


 桜菱はやはり王道だ。すべての基本となっている。


 では、次。有澤重工のブースだ。


 通称『AHI』。十数年前より台頭してきた重工中心企業で、今では主に国防軍に対する陸海空各種兵器開発や製造に大きくかかわっている、桜菱重工と並ぶほどの規模の重工企業となった。

 なので、製造されるされているロボットも、民間向けの人型というよりは、軍用向けのより兵器色が強いものとなっている。元より、ここはそういうのを作るのが得意だ。


 今回もしかりで、このたび展示しているのは、新たな試みらしくて……


「……でっか」


 その大きさに目を見張った。


 正式名称『MTG-013』。


 対テロ戦略の一環で、市街地でのテロ・ゲリラ戦闘を想定し、迅速な移動と豊富な火力を両方合わせもった兵器として今現在注目を集めており、去年からAHIが初めて国防軍に納入させた。

 それ以来、その扱いやすさから世界からの受注を受けてそれを輸出しており、早くもベストセラーウェポンシリーズの一角になりつつある。

 市街地戦闘での使用を想定し、戦車や機動戦闘車、歩兵の護衛はもちろん、やろうと思えば戦車や機動戦闘車の代わりをすることも可能で、市街地戦闘の新たな主役として注目されている。

 ……ただし、搭載可能な弾薬量がまだ若干少ないのが難点である。これに関しては今後改良されていくだろう。


 見た目は人の平均身長の2,5~3倍の高さを持ち、人型の体から腕を取っ払って代わりに肩の上に砲台を2本分担ぐような形のものとなっている。片方がガトリング砲で、もう片方が専用の鉄鋼榴弾を放つ中型グレネードライフル砲となっている。

 実物自体は見たことは何度かあるが、しかし、最新型を見たのは初めてだ。これもまたすぐにシャッターを切って記録を残す。


 これもまた、稼働展示の真っ最中だ。兵器なので、ここにいる人は大抵は政治家や軍関係者の人たちだらけだった。


「動きがスムーズだ……モーターいいの積んでんだろうな」


 ここまで大型のものだというのに、動作が俊敏かつスムーズだ。兵器開発慣れしているだけある。これくらいの大きさならうまく動かすこと自体は造作ないということか。

 高性能電動モーターを使った高度なバランス制御を実現し、しかも、電力も大容量対応ワイヤレス充電技術を用いているのだとか。市街地戦闘にほんとに特化されている仕様のようだ。

 今度行われる市街地戦闘訓練でも姿を現す予定であった。これは、今から見るのが楽しみだ。


 他にも、自律飛行が可能なボール型の無人偵察ユニットや、警備型・軍事訓練型の戦闘ロボットなど、やはり兵器類が目立った。AHIの得意分野である。


 ここいら辺はもういいだろう。次は……


「……ん?」


 と、iPhoneがメールの着信を告げるアラームを鳴らした。すぐにポケットから取り出すと……


「……え? ユイ?」


 なぜか、差出人がユイである。名前が見事に『ユイ』である。あいつ、個人名提示の時にも使うようになったのか。


「……あいつメールできたのかよ」


 とはいえ、どうせ携帯とかは使ってないんだろう。そんなことをするまでもなく、自分の頭の中で文章作ってそのまま送ったのであろう。ほんと、機械でできたやつは便利なもんだ。


 そんで、中身は……



差出人:ユイ

To:祥樹さん

件名:伝言です

日付:2030/6/28/ 10:35


新澤さんが「お土産よろしく!」だそうです。

個人的にもほしいので写真付きで4649。


ではまた~(^^)v




「……」


 ……少し、いくつか突っ込ませてもらいたい。

 まず、新澤さんはいったいどこから俺がここに来ると聞いたのか。俺は別にどこに行くなんて一言も言ってないのだが。どこから情報漏れた。

 そして、ユイ。お前、メールの内容が現代化されすぎだろ。

 なんだよ「(^^)v」は。あと、4649を「よろしく」っていつどこでどうやって覚えた。しかも、さりげなく写真まで要求してきやがる。いや、まあ、確かに今とってるけど。


 俺はツッコミで返した。




差出人:自分

To:ユイ

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28 10:38


土産の件はいいんだが、お前らちょっと待て。

まず、新澤さんに聞け。どこで俺がここにいるって聞いたんだと。

あと、お前メール内容が顔文字付きやら語呂合わせやらってどこで覚えたんだ? 俺教えてないよな?




 なお、返答はすぐに来た。




差出人:ユイ

To:祥樹さん

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28/ 10:38


新澤さんいわく「和弥が大体ここにいるだろ」的なことを言ってたから試しに聞いてみたそうです。

あと、これはネットで漁ってそれっぽくやってみた結果です( ̄ー ̄)

どうです? イケてるでしょ? 人間の現代っ子っぽくなってるでしょこれ?( ̄ー+ ̄)どや

フハハハハハ。(⌒∇⌒。)三(。⌒∇⌒)。





差出人:自分

To:ユイ

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28 10:41


え え い 荒 ら す な あ !


というかお前適当にそれっぽいの張っつけてるだけだろそれ!

別に現代人そこまで顔文字頻繁に使ってねぇよ。

最近じゃ「ww」とか「(ドヤ」とかで済ますのが割と一般的だぜ?





差出人:ユイ

To:祥樹さん

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28/ 10:41


エーソンナー(´・ω・`)


……


じゃあこれは流行らせて(*´ω`*)




差出人:自分

To:ユイ

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28 10:42


どこでネタを知ったのかはあらかた察しはつくがそれは流行らないし流行らせないからな?




差出人:ユイ

To:祥樹さん

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28/ 10:42


……フリですか?



差出人:自分

To:ユイ

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28 10:42


 フリじゃない



差出人:ユイ

To:祥樹さん

件名:Re:伝言です

日付:2030/6/28/ 10:42


(´・ω・`)





 しばらくの間はメールを打ちまくる時間となった。

 和弥がまあこの日程を知っていたとしたら、俺の行動パターンをあらかた読んでいても不思議ではない。新澤さんに何かしらの拍子にポロっと漏らしたのだろう。それはまあいい。


 しかし、ユイがいつの間にかヒューマンナイズされてやがる。これは予想外だ。メール機能くらいなら自分で何とかできそうではあるが、しかし、内容がそこまでとは。まあ、今どきのギャルがやりそうな暗号ともいえるような謎メール文体よりは幾分もマシか。

 ……たまに、割と本気であれを暗号か何かに使えないかと考察することがある。


 と、メールを終えてまたiPhoneを仕舞って再び散策開始。


 すると、今度は川島重工のブースが……


「……え!?」


 ……その展示内容におどろいた。


 どうやら、AHIの作った波に乗りたかったのか、こちらも移動型砲台を試作し展示しているようだ。

 あくまで試作、というだけで、別に売り出すつもりもなければそもそも受注もない。あくまで、今後のために試作して、政治家や軍事関係者らに評価してもらう、といったところだろう。


 ……が、その形が……


「……逆関節?」


 独特すぎるものであった。

 基本的な構造はAHIのものを大差ないように思えたが、足が大きく異なる。


 逆関節とは、人間がもちような膝関節が前に突き出ているのとは逆のもので、関節が後ろに突き出ているような構造をしている。

 平地での水平高速移動に適しており、また、上下からの衝撃に強い。一方で、長時間の直立には不適であり、前後からの衝撃にも弱く、荒れ地や山岳での行動には不向きという弱点を持つ。


 しかし、それでも逆関節ということは、おそらくAHI製と同じく使用想定自体は市街地なのだろう。そこなら平地がほとんどなので行動に支障はほとんどなさそうだった。


 ……が、


「……わざわざ逆関節にしなくても……」


 存続の技術のほとんどが普通の人間のような正関節構造なのに、わざわざ逆関節にする必要は……、って、


「えー……そんなアホな」


 試験稼働中のその試験機がおかしな機動をしやがる。




 なんで移動砲台が“華麗にジャンピング”するんだよ。




 両足ジャンプはもちろん、子供の頃やった懐かしき片足ケンケンもお手の物。そして、なぜか“片足のまま棒立ちの後何回か跳ねながら横に一回転”までしやがった。さっきから地味にドシンドシンうるさいのはコイツのせいか。

 ……おかしいな。逆関節って直立は苦手ってさっき話したのだが、コイツの逆関節はそれは関係ないのか?


 当然、周りにいる政治家や軍事関係者も顔をポカーンとさせていた。性能、というよりは、その発想に呆然としているのだろう。いろいろと、違う意味で無駄なところにつぎ込んでいるその発想と努力と技術力。


 独特すぎる発想。とりあえず、俺はこの一言を送ろう。


「……」




「カワシマか……」




 ……さて、そんなちょっと独創的過ぎる川島重工のブースを一瞥しながら、俺はさらにほかのブースをいくつか回った。


 ロボット自体の展示は各種さまざまで、中には非人型のものまで大量であった。尤も、その大半は工場で動くような産業ロボットばかりであったが。


 ロボット自体の展示だけではない。隣には、ロボットに搭載される各種機器自体を展示するエリアもあった。


 ここは外国企業も結構いた。ロボット自体の市場が日本企業によって付け入る隙が無いなら、その中身で攻めようって魂胆だろう。


「フロントライン社……。ここのAIって確かアメリカ1だったか」


 目の前に来たそのアメリカ企業は、AI開発でMITと提携を結んで商業活動に取り組んでいたか。ここ、汎用ロボットも結構いいの揃ってるんだがなぁ……。日本でも極たまに見かける、フロントライン社製。


「ん、話しかけれるのか」


 ブース内の一区画に、何やら裏方のほうにコードが繋がったタブレットがある。これも一応自社製らしい。さりげない宣伝である。

 どうやらAIの高性能さを実証させるために、会話機能を試用できるようだ。


 ちょうどいい。暇つぶしにはなるだろう。


 ……つっても、なにを話せばいいのかわからない。なんて言ってやろうか。


 ……あ、そうだ。


「W杯Dグループ日本戦初戦の結果は?」


『……検索完了。台湾対日本、1-0デ日本ガ勝利シテイマス』


 ほう、回答が中々早い。

 検索完了するまでの時間が短いな。まあ、今どきのロボットならそんくらいできるか。


 適当に質問をぶつける。


「現在の日本の内閣総理大臣は?」


『……検索完了。麻生新造氏デス』


「じゃあ今のアメリカ大統領は?」


『……検索完了。ジョン・G・ハミルトン氏デス』


「でもなんか支持率落ちてきてるよな。原因は?」


『……検索完了。数年前ヨリ発生シテイル経済危機ノ対策ガホトンド講ジラレテイナイトイウ意見ガ大勢ヲ占メテイマス』


「あー、やっぱりか。んで、話変わるけどAIになった気分どう?」


『……回答不能デス』


「ありゃ、できんのか」


 まあ、これはある意味人間である俺に「人間になってどう?」って聞いてるようなもんだろう。

 ……あとでユイに言ってみるか。「ロボットになった気分ってどう?」って。あいつのことだ。変に面白い回答が返ってくることを期待する。


 ……じゃあ、ついでに。


「……なあ、俺ってどう見える?」


 ここで「カッコいいですよ」なんて言ってくれたら俺はコイツをほめたたえてやろうと思った。


 ……が、


『……顔認識ガデキマセン』


「おいちょっと待て。お前カメラちゃんとあるよな?」


『顔認識ガデキマセン』


「いやいや待ってくれ。ここにあるって。顔あるって。わからない?」


『顔認識ガデキマセン』


「アメリカンジョークか? それのつもりなのか? 日本人にはウケないからそれはやめといたほうがいいぞ?」


『顔認識ガデキマセン』


「それで押し通せると思うなよ? 俺はしつこいからな?」


『質問ノ意味ガ理解デキマセン』


「アカン、これ完全に舐めてるパターンや。顔ここにあるってわからない?」


『顔ハ確認デキマセン。ハンサム・ボーイハ確認デキマス』


「なんだコイツ」


 アメリカ製はよくわからん……。なんだ、顔は確認できなくてハンサムボーイは確認できまっせ、キリッ、ってか。わからない。外国製はよくわからない。

 お宅らは自国のAIにそれっぽいジョークを実装させたいのか。アメリカンらしい発想だが、そういうのは自然と覚えさせるのが一番だぞ?


 ユイを見てみろってんだ。どこから習ったのかは知らんが、最近は前の夜のクイズの時みたいにちょっと冗談交えての会話がこなせるぞ? あれをジョークっていうんだよ。わかったかアメリカンAI。


『……ワカリマセン』


「なんも言ってねぇよ」


 読心能力は実装されてないはずだが、なんだ今の返答は。ユイみたいなことをするんじゃない。


 コイツの相手するのは少し疲れるな。ほかのブースで時間稼ごう。




 ……そんな風に、適当にあたりを回っているとあっという間に時間が過ぎる。


 どこの企業もキャッチコピーは決まって『最新鋭~』っていうのばかりである。

 それらを見るたびに「うちには本当の意味での最新鋭があるんだぞ」と思うと、ちょっと周りよりテストの成績が優秀だったときのような少し浮かれた優越感に浸れた。

 ここにいるロボットたちはとても高性能なんだろうが、見た目はやっはり人間の見た目とはかけ離れたものばかり。その点、アイツとは比べるまでもない差を感じる。

 ……尤も、アイツはその中身すら他とは比べ物にならないのだが。


「(もうあらかた回ったかな……)」


 一応、この会場内は一通り見渡した。iPhoneの画面に表示されている時計を見ると、すでに正午を回っている。そろそろ飯時か。

 もう少しこのあたりを見たら近場で飯を食おう、そんなことを思っている時だった。


「……お、ここは……」


 隣には新たなブースがある。企業名は『水瀬製作所』。

 水瀬グループ傘下の電機メーカーだったか。桜菱などとは違ってその役目に特化した専用ロボットを作ることで有名な企業だ。


 今回は……医療用と警備用か。手術用のロボットや看護ロボット、そしてセキュリティロボットなどが展示されている。

 その一つの介護用らしいロボットは、どうやら老人たちの相手もできるようになっており、今はベットに寝かす時のあの人間のような自然な動きを再現、かつ体験できるらしい。


 というわけで、俺もちょっと寝てみた。


「(おぉ~……結構気持ちいいなこれ)」


 背中にそれほど圧力がなく、静かに俺をベットに寝かせた。その目の前にある顔が完全にそこいらにあるごく普通のロボット顔だったが、これがユイみたいな人間顔だったら完全に看護婦かなんかである。

 ……あとでユイ使って試そうか。


 さらに、最近の介護ロボットは高性能で、その相手している人の容態を自分から検知して対応できるらしい。だから、老人がいきなり具合が悪くなってもすぐに症状などから原因や病状を特定できるのだそうだ。


 ……最近のロボットはすごいものである。


「(これが、あの時とかにあればどれほど心が休まったことかな……)」


 ふと、昔を思い出してしまう。

 尤も、あったところであの時の俺が正常に戻れたとも思えんが。俺にも、イカれた時代があったもんである。


 そんなことを考えているうちに、順番があるので俺はすぐにベットから起き上がる。起き上がるときもロボットが補佐してくれたが、ほんとにタッチが優しいので、これは老人たちも気持ちよく寝たり起きたりできるだろう。


 ブースを後にすると、ちょうどよく今度は携帯が鳴った。

 さっきとは違ってメールではない。電話である。


 主は……、は?


「……またアイツかよ」


 ユイである。メールだけでは飽き足らず、今度は電話まで仕掛けてきやがった。自力で無線通信できる時点であらかた察しはつくが、だからと言ってほんとにやらなくてもいいだろう。というか、電話できるなら最初っから電話でこいってんだ。

 俺はそんな不満を抱えつつ電話に出た。


「あい? なんですか?」


『あ、祥樹さん。そっちはどうですか?』


「どうですかもなにも、充実した時間を送らせてもらってますが、何か?」


『おー、それはそれは』


「……で、要件は?」


『いえ、ちょっと暇なので電話をば』


「をば、って……。ってか、暇なのかよ。そっちに新澤さんいたろ?」


『寝ました』


「寝た!?」


『昼食を食べた後「疲れたからねる!」といって祥樹さんのベットにダイビングしてそのまま夢の世界に』


「ダイビングっておい……」


 俺のベットそこそこ年期いってたはずなんだが……。壊れてねぇだろうな。今から心配になってきた。

 ……というか、ちょっと待て。


「一応、俺の体自体はいつも清潔を保たせてるけどよ……仮にも汗臭い男性のベットだぞ? 大丈夫なのか? 女性にはキツくないか?」


『ご安心を。そう思って事前に入念に消臭スプレーかけて浄化しておきました』


「誰が?」


『私が。ドヤッ』


「……」


 ……あいつなりの心遣いなのだろうが、それがなぜかなんとなく悲しい。くさいと思われてなければいいが。

 ……いや、そもそもアイツ嗅覚あったっけか。


『……それで、そっちの我が同胞たちはどんなもんで?』


「同胞ってお前……、いや、間違ってねぇけどさ。まあ、あれだ。お前にはかなわん」


『ですよねぇ~やっぱりそうですよねぇ~~』


 見える、見えるぞ。電話の向こうで思いっきり満面のドヤ顔をしているユイの顔が見える。とりあえず、一発殴ってみたい、その笑顔。


「中には対話できるAIの試験も体験したんだがよ……、ちょっといいか?」


『なんですか?』


「いや……、お前、俺の顔どう見える?」


『は? いや、どうって……少なくとも悪くない顔してますよね。むしろ、お世辞抜きでどちらかと言うとイケメン面してますし、下手すればそこいらの女性にもウケはいいと思いますよ』


「あぁ、お前はそう見えるのか……」


『ついでに、実は私も結構気に入っています』


「お前が言うと別の意味に聞こえる」


『何が言いたいんですかそれ……、で、それが何か?』


「いや、実はな……」


 そのAIとの対話内容を伝えると、なぜかアイツのツボにはまったのか、大爆笑であった。笑いをこらえながら電話の返答をしている。


『な、なんですかそれッ、か、顔が……顔がッ、認識できませんって……ッ』


「いや、当の言われた本人からすれば全然笑えねぇんだよ……。一昔前のカメラの顔認識機能じゃねぇんだぞって話だよ」


『い、いや、でも、こ、これはドンマイとしかいえな……ブフッ』


 ……とうとう吹き出しやがったぞコイツ。このやろう、帰ったらただじゃおかねぇ。


「ったく……お前みたいに何でも認識できるようなAIはまだ出てこないのか」


『いや、私はただの国家機密ですからね。そこはまたほかのそこいらのAIと比べられてもね? ね?』


「……電話だからっていってもあんまり変なこと口走るなよ? アメリカスパイに盗聴されるぜ?」


 アメリカじゃ一般市民の電話すらテロ対策を名目に盗聴してるって話らしいしな。


『ご安心を。回線は完全に擬装してますので見えっこないですよ』


「……本当だろうな?」


『私を信じれないと?』


「妙にな」


『……最近、私に対する信頼が落ちてる気が。これでも最新鋭の兵器であって―――』


「気のせい気のせい」


『……』


 沈黙のユイである。ほんと、アイツもこういった表現がめちゃくちゃ豊かになりおって。どこから学んだんやら。


「あー、そうだ」


『?』


 一つ思い出したので聞いてみる。


「突然聞くんだけどさ……、お前、ロボットになった気分どう?」


『はい? これまた、変なこと聞いてきますね』


 素っ頓狂な声を上げてそんな疑問を上げた。


「さっきの話聞いてたろ? ついでだからお前にもな」


『はぁ……でもそれって、人間に対して人間になってどう?って言ってるようなものですよね。答えれます?』


「さぁ? 全然」


『はい。その言葉、そっくりそのままお返しします。というより、私はロボットにしかなったことないですし、祥樹さんは人間にしかなったことないですから答えようがないですよね?』


「デスヨネー」


 ぐうの音も出ない正論である。

 まあ、さすがにコイツといえども応えれないか。人間で答えれるやつは少ないんだ。ロボットがそう簡単に……


『……でもまぁ、しいて言うなら』


「ん?」


 と、思ってたら答える気になったようである。


『少なくとも、悪い気分ではないですね。こうして生まれたのも何かの意味があっての事でしょうし、ロボットとして生まれたなら、ロボットらしいことしてそれの役に立てれたら、って思ってます。……って、なんか、これ前にも言った記憶が……』


「はは、一番最初、お前の名前を決めるときに自分が言った抱負だな」


『あー、それです。まぁ、結局はそれにつきます。ロボットの存在意義は、そこに終始しますから。ロボットとしてやるべきことができたなら、個人的には嬉しい気分でいれますし、ロボットでいてよかったって思えれます』


「なるほどね……」


 アイツらしい回答だ。ほんと、そこまで考えれるロボットっていったい何なんだともいえるが、半ボトムアップ型ってそこまでできるのか。すごいこっちゃ。お前実は人間か?


 “ロボットとしてやるべきことができる”

 “それを達成することで自分はロボットでいることに充実感を抱く”


 ……てことか。


「(……そう考えると、今、人間がやるべきことって何なんだろうな……)」


 ロボットがやるべきこと。それをすることが、自分自身にとってもロボットでいてよかった、それでいて気分がいいということなら、じゃあ、人間はいったいどうすればその感情に至れるのか。

 国をよくすることか。地球環境をよくすることか。ロボットをもっと作ることか。


 それとも……、戦争を、止めることか。


 中々、難しい問題である。

 そもそも、人による、としか言えないだろう。

 どこにそういった“充実感”を感じるか。


 俺の場合は……そうだな、


「(……ユイが、アイツみたいなことにならないように―――)」


 ―――そこまで、思った時である。


「―――ッ!?」


 遠くから叫び声が聞こえた。

 ブース前通路の横を見ると、そこにいた大衆が何かに強引にどかされるように横に軽く払われていた。そのたびに、その人たちの悲鳴が上がる。


「(なんだ? 何が起きた?)」


 状況はわからないが、これは向こうにも聞こえたようだ。


『―――ッ? 祥樹さん、そっちから悲鳴が聞こえますが、一体何が?』


 俺はそれには答えない。というか、答えることができない。

 しかし、状況はすぐに察しがついた。


 そのさらに奥からだ。男性の叫び声が聞こえた。


「その男をひっとらえろ! 誰か! そいつを捕まえてくれ!」


 かすかに見えた影からして、警備員だろうか。2人がかりで大衆をかき分けながら強引にこちらに突っ込んでくる。

 その、視線の先には……


「(……あいつか?)」


 この騒ぎの元凶らしい人物が確認できた。

 黒いスーツ姿の男2人組であった。どこのどちらさんかは知らんが、どうやら、警備員らしい人が追いかけているのはこの二人の事らしい。

 警備員がしきりに制止を促すとともに周りの協力を求めるが、もちろん止まるはずもなく、そして周りも、そんな凶悪男に立ち向かう勇気があるはずもなく。状況は一方的だった。


 こっちのブースのほうに向かってくる。このままだと、このブースの前を通過するだろう。

 警察官ではないが、俺とて国民を守る一軍人だ。正義感というわけではないが、不届き物は成敗あるのみである。


「わり、ならずもんが出てきやがった。ちょっと席外すぜ」


『了解。お気をつけて』


 ユイも事情を察してくれたらしい。確率面からよくこの状況が予測できたな。偉いぞユイ。

 すぐに電話を切る。そして、通路に出て大衆をかき分けて突っ込んできたクソ野郎を見据えた。

 幸い、このブースの前はあらかた開けている。仕留めるにはちょうどいい広さだ。


 まず一人目。俺の存在に気付いたのか、強引に俺に突撃をかけた。

 タックルでも仕掛けるつもりだろう。体格はそこそこあるやつだ。一応、判断自体は間違ってはない。


 ……尤も、相手は、間違ったようだが。


「おらぁ!」


 そのタックルを両手で正面から受け止め、そのままその慣性に従って一本背負いで投げた。

 体格はいいが、結局はそれまでのようだった。簡単にスーツ男は宙に浮き、そのまま地面に思いっきりたたきつけられる。そのまま、しばらく動かなくなった。


 はい、まず一人目いっちょ上がり。


「(軍で散々ユイに投げられた俺をなめるなよ……)」


 あの一戦の後、何度となくユイに投げられては投げ返してを繰り返している俺だ。どうあがいてもCQC能力は上がろうってものだ。

 人間相手などむしろ容易い。さぁ、こい。俺がとめてやる。


 二人目が突っ込んできた。自分の仲間の惨状を見て怖気づいたように見えたが、それでも、同じ手法のようだ。

 ……こいつらは、“学習”という人間が持つロボットに勝るとも劣らない数少ない能力を持っていないらしい。バカな野郎だ。


「おら、こい!」


 威嚇を仕掛ける。しかし、向こうは足を止めない。

 口では利かないようだ。しかたない。同じ目に合わせてやる。


「(よし、そろそろ仕掛けて―――)」


 ……だが、その時である。


「ッ!?」


 俺の目の前に、一人、いや、“一体”の人影が割って入ってきた。

 そう思うと、今度はその突っ込んできた同じスーツ男の足を払うと、そのまま俺と同じように一本背負いでそいつをぶん投げて地面にたたきつける。たたきつけた時の音が、妙に俺の時より強かったのは気のせいだろうか。


 しかし、そいつは一人目と違ってまだ意識は持っていた。頑丈なやつらしい。

 また立ち上がろうとする彼を、そいつは今さっき倒したスーツ男を上から両足の間に挟んで制止させる。


 そして、無機質な、かつ、威圧がかかった一言を放った。


『警告スル。抵抗スルナ。サモナクバ相応ノ対応ヲトル』


 ロボットだった。少し角張を取っ払って円形的な外殻プレートを持つそれは、隣で展示されていた水瀬製作所のセキュリティロボットであった。

 どうやら、隣で起きている状況を察知してそのまま所定の行動に移ってしまったらしい。結果、こうしてセキュリティロボットとして模範的な行動を起こしたのだ。


「おおぅ……すげぇ……」


 役目は半分奪われてしまったが、それでも、俺はコイツに対して感嘆の声を上げた。

 あの一瞬でよく状況を理解できたな。これは、AIの能力が高いことの証明だ。しかも、投げ方が俺とほぼ同じところからして、俺をまねたのだろう。学習能力もまた高い。


 周りから、コイツと、まあ、たぶん俺に対してもなのだろう、そのスーツ男を倒した勇者を称える歓声と拍手が轟く中、それらの大衆をかき分けて数人の警備員が現場に到着した。

 すぐに周りの大衆が野次馬にならないように通路の交通整理しつつ、その現場の状況を確認した。


 一人が、俺のもとにやってきた。着ている制服からして、この幕張メッセに勤務しているらしい若い警備員のようだ。


「すいません。ご協力感謝します。お怪我等のほうは?」


「いえ、大丈夫です。此方は全然」


「そうですか。いや、助かりました。……ん?」


「?」


 すると、警備員は俺の腰のほうに目を向けた。

 視線を追うと、ベルトループに紐で結んでいた身分証と外出証が垂れ下がっていた。どうやら、さっき投げた時に拍子に飛び出してしまったらしい。

 危ない危ない。紐がなかったら無くしてたところだ。俺はすぐにポケットにしまう。


「あぁ、国防軍の方でしたか」


「えぇ。一応、空挺団所属でして」


「おぉ、しかも空挺団。……そりゃ、あの綺麗な投げ技を決めれるもので……」


「いえ、とんでもないです。むしろ、驚くのは……」


「?」


 俺は視線をその警備員の後ろに向ける。

 そこでは、同じくそのスーツ男を投げた展示中だったセキュリティロボットが技師らしい人から簡単にチェックを受けるとともに、同じく警官から礼を言われていた。なんとなく、シュールな光景である。

 当然、そのロボットは角ばった答えしかしない。『ドウイタシマシテ』とか『私ハ問題アリマセン』とか。もう少し、愛想よくしようぜ。ユイみたいに。


「……あいつを褒めてやってくださいよ。俺なんかよりそっちのほうがすごいでしょ」


「ハハ、まあ、確かに。最近のロボットも、ここまでできるようになりましてね」


「ええ、ほんとに……」


 かつて、人間がやることをまねるのが精一杯で、ここまで高度な動きを実現することが不可能だった時代から、今ではこんなにも成長してしまってなぁ……。


「(……子供の成長を見る親ってこんな感覚なんだろうか)」


 少し、嬉しさ半面、儚さ半面の複雑な心境になった。


 その後、警備員はそのままスーツ男二人組を連行していった。


 当のロボットもまた展示のために戻っていったが、展示主の水瀬製作所の人たちは、少しヒヤヒヤした表情ではあっても結構テンションが高かった。

 嬉しい誤算というやつなのだろう。意外なところで営業宣伝デモンストレーションを見せることとなり、ちょうどよく見物していた大御所たちにその性能の良さをうまく証明できたようだ。

 見物に来た大御所たちにも結構な好印象を与えれただろうし、これは、水瀬側にもいい方向に動いてくれるだろう。その点については、ありがとう、スーツ男共。




「……と、またアイツからか」


 そのあと警備員から解放された俺は、少しまた適当に見物しつつ土産を買いつつ、としていると、二度目の電話である。相手は、もちろんユイであった。


「あいよ、なんかようか?」


『あ、祥樹さん。そっちは大丈夫でした?』


「問題ねぇよ。一人こっちで仕留めといた。お前に比べりゃ全然手ごたえなかったがな」


『ハハ、私以上の人間なんてそうそういないでしょ』


「自分で言うのね……。まあ、もう一人はそのロボットにとられちまったけど」


『? どういう意味で?』


「帰ったら話すよ。……にしてもだ」


『?』


 少し間をおいて感慨深いように口を開いた。


「……お前ら、ロボットも成長したな。なんとなく、そう感じた」


 電話の向こうは少し無言だった。何を考えているのかは知ることはできないが、しかし、そのあと届いた声は少し静かであった。


『……何度も言わせないでください。その結果が、私ですから』


「ハハ、わかってるよ。……お前がその究極形なんだってことだろ」


『そういうことです。ロボットも、時代と共に成長しますよ』


「まあな……」


 その言葉に、少し感慨を抱く。


『で、土産はちゃんと買いました?』


「買ったよ。あとでくれてやるって」


『りょーかーい。じゃ、待ってまーす』


「ん。了解」


 そういって電話を切った。

 この時点で時刻はもう午後の2時を回った。まだまだ門限までは余裕であるが、そろそろ帰りの手順を確認しておいてもいいだろう。


「……ロボットも成長する……か」


 ふと、そんなことを呟いた。


 成長。つまり、“発展”や“進化”ともいえるだろう。

 ロボットが成長すること。それはつまり、人間に限りなく近づくことだ。尤も、今俺のすぐ近くにはその究極の形をしたやつが居座っているのだが。


 ……その成長した先には、一体何があるんだろうな。


 もしかしたら……


「(……ある意味、人間を超える存在になったりしてな)」


 まあ、そこはさすがにありえないか。ユイでもまだそこまでは至っていないんだ。


 ……でもまぁ、



「……そうなったら、この世界はどうなるのやら……」






 そんなことを考えながら、俺はこの後の展示会を楽しんだ…………

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