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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第1章 ~平穏~
19/181

顔合わせ

『日本国防陸軍第1空挺団本部中隊直轄特殊偵察隊 通称“特察隊”』


別名:SSC(Special Scouting Company)

 習志野駐屯地第1空挺団内に設けられた少数コマンド部隊である。

 対テロ・ゲリラ等の周辺事態対処の必要性の急激な上昇に鑑み、その有事の際に本隊から分かれて、その本隊の攻勢を援護する目的で戦線に潜入し、偵察を兼ねた各種裏工作等を行う軽武装工作部隊として様々な特殊な任務を担当する。


 小規模な部隊ではあるが、任務の性質上、迅速性を伴い、他とは違った特殊な任務を帯びることが多くなるため、全体的な部隊編成が他より少し変質的である。

 まず、本部中隊の指揮下に置くことで各種重要命令を迅速に下令できる形にし、さらに本部中隊内に中隊本部を設置し、それを司令部として実働部隊となる計10個の偵察班を直接指揮下に置くことで命令系統の単純化を図っている。

 一つの班は総勢4~6人で構成されており、実態は分隊だが名称簡略化の関係上“班”と表記される。

 裏工作といってもやることは様々であり、本隊が進行するルートの斥候を行ったり、時には民間人避難が間に合わない場合はそれの誘導、それに関連して要人保護、ないしそれの補助、敵部隊の工作に対するカウンタースキームといった、いわば縁の下で動くようなあんまり目立たない内容の任務となる。

 基本班ごとの単独行動だが、任務如何によってはいくつかの班と共同で行動したり、または本隊に援軍が必要な場合はその本隊に合流して行動することも想定されている。


 任務の性質上、この特察隊に当てられた権限は大きく、場合によっては航空支援や電子的戦闘支援等を要請することができる。

 どことなくそう言った面での性質は米海兵隊武装偵察部隊フォース・リーコンと似ているが、あくまでこれは軽武装工作部隊であり、むこうの上陸支援とかとはまた違うためそこまで万能ではない。ただし、その分即応性を重視されているため特察隊からの支援は比較的優先されている。


 以上のように、この特察隊は権限が大きい軽武装の裏工作部隊となっており、今後万が一の有事の際は裏から支援する偵察兼工作部隊としての活躍が期待されている。




 ……そんな、新たに新設された部隊の、一つの班の隊長が……。


「はい、じゃあ式典お疲れー」


「お疲れー」


 この、俺というわけである。


 式典を終えた午後、というか夕方。

 記念行事を無事終えて一般開放も無事終了させた俺たちは、その後駐屯地内のとある一室に集まった。会議室のような広めの部屋の中には、まあ早い話、打ち上げと俺たちのほうでまた小さな第二の結団式みたいなのをやるためだ。

 なので、ここにいるのは例の新設部隊“特察隊”のメンバーのみ。

 先ほどまで、この部屋の前のほうで、このたび部隊の前大使機関として任命された羽鳥さんが一言決意表明をしていた。

 これには団長の強い推薦があったようで、本人も気を引き締めている。


 結団式とはいえ、さっきの式典の時のような大それたものではない。軽く決意表明したりなんだりして、あとはただのメンバー初顔合わせみたいなものだ。

 なので、今俺の目の前には一つの小さめの丸テーブルを中心にして俺を含め例の4人のメンバーが揃っている。俺と、新澤さん、和弥に、そんで、ユイだ。

 今はお互いに迷彩作業着でいる。とはいえ、あのダサいジャー戦ではない。普通の迷彩作業着を上下にきてのこの式だ。


 円形テーブルを囲んで立ちながら茶などを一服したり、ユイの場合は飲めないから読書に勤しんだり。そんな感じでまず結団祝いの一杯を呑み終えると、和弥が大きく唸りながら言った。


「しかしまぁ、まさか、祝辞の最後に国防大臣自らが出向いてくるとはな」


 例の午前中の結団式のことだろう。

 後ろで吹いてたりしていたが、やはり内心驚いていたのはコイツも同じらしい。小さくうなづきいて同意した。


「あぁ。……そうか、あの人今休会中で暇なんだったっけか」


「まあ、暇ってか、休会中でハワイ行くまでの間ができてたってところだな。あの言葉の選びようからして……」


「やっぱりお前も気づいたか?」


「あぁ。狙いはユイさんだな。確実に」


 そういってまた一口喉に通す。

 さすがは今まで様々な情報等を見極めてきただけある。たったあれだけのことで真意を察せれたあたり、コイツも同じことを考えていたようだ。

 当然ながら大臣本人に確認仕様がなかったのだが、あの状況や行動から推察するに、間違いなくその意味があるのだろう。


 ……しかし、それをいまいち自覚できてないやつが……、


「―――? それほど深い意味あったんですか?」


 当のユイ本人だ。言ってる意味が分からないと言いたげな怪訝な表情を見て、和弥と少し呆れ半分仕方なし半分で苦笑いしてしまう。


「え、なに、私もわからないんだけど、どういうこと?」


 どうやら新澤さんもわからなかったらしい。

 人間やロボット関係なく女性陣はこれの感覚が鈍いのか。ロボットであるユイはまだしも新澤さんはユイと始めて出会った時、ユイの正体をあの状況から推察してあらかた察してたんだしわかると思うんだが……。


「とはいっても、どうせ新澤さん大臣の話寝てて聞いてなかったんでしょ? 開眼睡眠的な感じで」


 そう「ひっひっひ」とおちょくるようにいうのは和弥だった。

 図星だったのか、すぐさまギクッと肩を一瞬揺らせた。


「……あー、バレた?」


「おいおい……」


 思わずそんな声を漏らした。これは完全に呆れ全開である。

 寝てたんか。なら仕方ない。……ってなるかってんだ。

 後ろにいたから俺は知らんが、なに、あの状況で寝ってたのかい。立って眼を開けたまま寝るとか器用のごどばしやがって。開眼睡眠できる奴なんてそうそういないよな。


 ……とにかく、女性陣にはどうやらさっぱりらしいので、簡単に説明しとこう。


「要はあれですよ。「今日からくる転校生と皆仲良くしてねー」っていう先生と同じですよ。ユイに対する大臣なりの配慮でしょう」


「あー、なるほどね。そういうこと」


 納得したように小刻みにうなづいていた。

 これでちゃんと理解してくれるあたり、新澤さんもまだちゃんとした人間だ。よくあるシチュエーションだと、人間の頭の中ではすでに記憶されている。現実やアニメや漫画で散々見てきたことだ。


 ……が、


「……?」


 それがないユイはやっぱりさっぱりな顔をしている。ここでいうさっぱりとはもちろん「は?」という意味のほうだ。

 あの式典の時こっそり意味を教えたのだが、それでもいまいちパッとしない様子だ。まあ、こういったものはある意味人間の独特の感性みたいなものだ。今の合理的なロボットには意味がわかるまい。後に日が経てばまたわかる日も来るだろう。

 ……ほんとに来るかは本人次第ではあるが。


「しかし、なんだ」


「?」


 すると、また和弥が話題を変えた。

 持っていたお茶を一口喉に通して、空になったらしく追加を注ぎながら言った。


「……結局、このメンバーで固定されたってことか。あの時から全然変更がない」


「あー……、んだな」


 俺は軽く目の前を見渡して、一口喉に通した。テーブル越しにいるのはやはりこの3人だ。


 結局、全員が全員即日快諾したこともあって、メンバーはこれで確定となった。


 配属されるのは新設された特察隊指揮下の実働班の一つである特察隊第5班。

 通称『特察5班(略称:Special Scouting 5th Unit:SS5U)』だ。

 構成員は4名。隊長である俺、副隊長となった新澤さん、その他構成員かつ狙撃担当となった和弥に、そして、ユイだ。

 ユイには今後部隊内で電子戦や戦術支援といった状況に応じて適当な役割が当てられることになる。小銃手でもスナイパーでもなんでもこい。歩兵戦とはいえ、最近ではここいら辺もハイテクになってきたゆえ、ユイはある意味部隊内でも隊長である俺と同じくらい重要な基幹的ポジションとなった。

 また、ユイにはそれ以外にもHQなどの司令部へのデータ通信といった俺たちと向こうをつなぐ情報網のパイプ役を担うことにもなる。こちらが要請したデータを受け取ったり、逆にデータを送ったりといった、電子的なものだ。先に言った電子戦というプロセスの中にこれも含まれる。


 それ以外での俺たちの役目はまあ大体決まっている。まず、隊長は俺で、全体の指揮をするとともに、小銃手を担当する。小銃手は、副隊長となった新澤さんも担当するが、彼女はほかにも制圧射撃時には率先して撃ちまくる、突入時の初っ端の弾幕を張るのは新澤さんの役目となった。

 狙撃手は先に言ったように和弥で固定する。もちろんユイに代役を任せることもあるが、基本的には担当は和弥だ。当然、和弥の得意な狙撃能力を生かす大きな場面であるがゆえに最初は俺から推薦して新澤さんの賛同も得ていたのだが、とはいえ、和弥自身最初は、


「もうユイさんにやらせたほうが手っ取り早いんじゃね?」


 といって半ば自分から身を引いていた。

 確かに能力上ユイに分があるのもうなづけはするのだが、しかし、そこで異を唱えたのは誰でもないユイ本人だった。


「いや、他に電子戦や戦術支援といった役割もありますので狙撃まで兼任するのはちょっと……」


 自分が受け持つ仕事が多すぎるからそれはちょっと勘弁してくれ、ということらしい。

 ユイは、先にも言ったように電子的・戦術的支援まで担当する関係で、状況的にはどうしても狙撃をする時間がなくなるかもしれないということだった。狙撃任務しながららこれもこなすのはいくらなんでも難しい。

 完全体の状態でない場合は極端に性能が落ちるのがロボットの特徴。損傷が少しでもあればそれによる他への影響は人間よりデカい。


 そこまでやったら誰か代わりにってなるが、結局そういう展開になるのなら最初から固定でいいだろ、ということなのである。

 リスク低減などの意味も含めて、こういうことが言えるのだと説明すると、和弥も最終的には納得した。


 ……が、


「しかし、大丈夫かねぇ?」


「ん?」


 そう、不安、というわけでもないが、少し気遣わしい様子で言った。


「何がだよ?」


「いや……、こんな少数で行動って、相手が相手だといろいろ不利になりそうでな」


「ほう? そういうもんか?」


「いやぁ、ほら、『狼衆おおかみおおければ人を食らい、人多ければおおかみを食らう』っていうじゃんか。それだよそれ」


「なんだそれ?」


「要は、“数が少ないほうは数が多いほうには絶対かなわない”ってこと。人数さえ多ければ人でも狼に勝とうと思えば勝てるだろ? ……いくらユイさんがいるとはいえ、こんな少人数だとちょっと不安でな」


「ふむ……」


 なるほど。まあ、懸念はわからんでもない。

 つまり、こっちには切り札ユイがいるとしても、相手がもし大軍出来たらちょっと旗色悪くね?ってことか。

 まあ、その諺もこの場合でもあながち間違ってないんだよな。確かに、いざ戦場となったらもしかしたら大軍を相手にするかもしれないし、そうなると確かに単純に戦力的に不利だな、ってことか。


 だが、そこで新澤さんが割って入る。


「でも、別に私たちが相手にするのはそんな大軍じゃないし、そもそも表に出る役目じゃないからね。いわば裏方よ裏方」


「まあ……そうではありますけどね」


「だがまあ、懸念が分からんでもない。確かに、そういえないこともないからな」


 とはいえ、和弥の言ってることも新澤さんの言ってることもどっちも的を得てる。そもそもそんなところで運用する予定の部隊ではないが、もし遭遇したらとても不利となる。単純に物量の問題だ。戦いは数だよ兄貴、ってどっかのアニメで聞いたフレーズも間違ってはいない。これは、いつの時代も結局変わることはない。

 そこは難しいところだ。まずそもそもの問題そうならないように俺のほうで指揮しないといけないが……


「まあ、そうならないようにするのが祥樹さんの役目ですけどね」


 と、俺が考えるまでもなくユイからそういわれた。

 俺の考えていることをまるで読んでいたかのごとくのタイミングだった。いや、というかたぶん読んでただろう、このタイミングの良さは。


「はぁ、まあな」


 しかし、こうも面と向かって言われると改めてプレッシャーを感じてしまう。少し小さなため息が出た。

 それに追い打ちをかけるように和弥がへらへら笑いながら言った。


「頼むぜ隊長さんよ。こんな少数メンバーで大軍とガチンコなんてしたかねえからよ」


「誰だってしたかねえよそんなの……」


 ちょっとした心労からか、その言葉も少し呟き気味になる。また小さくため息もついた。


 尤も、今の時代そんな大軍相手にするなんて状況はもう他国との本土決戦でもしない限り滅多に出てこないんだが、10年前以上ならまだしも、今どきそんなことしてる余裕がある国なんて日本の周りにはいない。

 中国はもう10年前の戦争の敗戦でその力はないし、お隣のロシアや、大国アメリカも、この2ヶ国も今は対テロ戦略転換でそういった他国に対するまともな侵攻能力を削いできている現状にあるので、これもまずない。

 となると、て敵対する勢力は必然的にテロ・ゲリラ勢力となるが、こいつらに、そんな大軍でまとまって組織的にドンパチやるような能力があるとも思えない。

 あくまで少数勢力でよくわからないところに神出鬼没にでてくるからテロやゲリラだっていうのに、もしそうなったらそれはもうテロ・ゲリラじゃなくただの“一国家のちょっとした軍事力”だ。そこまでやれる能力はない。


 もっとも、それが本当に起こりえないとも限らないから困るのだが。


 そう考えているとちょっと憂鬱になりかけてきた。気晴らしがてら持っていた天然水をそのまま飲み干し、追加の分をそそくさと注いでいると……


「おっと、わり」


「ん?」


 テーブル越しの奥のほうから声が聞こえた。すぐそこだ。

 視界には何かに当たったらしく後ろを軽く振り向いているユイと、一人の男性団員。どうやら移動中にぶつかってしまったらしい。


 ……が、そこで話が終わってその団員がそそくさと退散するなら別段話題にあげるまでもないことだ。そのあとに……


「……ん? なんだ、またSF読んでるのか?」


「はい」


「アンタも好きだねぇそれ。すっかり染まっちまってよぉ」


「なぁんだ結城、何の話だ?」


「あぁ、二澤か。いや、コイツの話だよ」


「ふ~ん。あ、まぁたSF……」


 ―――といった感じで、話題がどんどんと伝播していっている。今の場合は相変わらずユイが読んでるSFに興味が向かっているようだ。

 足を止めてユイとの会話に浸り始める。


「あ、というかこれまた表紙違うし。何冊目だこれ?」


「5冊目です」


「5冊!? うっはぁ~、速読はえぇなぁおい」


「さすがはロボット……。まだ一週間だってのにもう5冊とは……」


 話題は速読のほうに向かっているようだ。まあ、考えてみればまだ一週間しか経ってないのにもう5冊も読んでしまうのは相当な速度だろう。誰しも注目してしまうところだ。

 読んでいる小説自体もそれほど薄いものではない。ほとんどが300ページ前後をいく比較的分厚いものばかりだ。課外時間のみに限定させた場合、俺だったら2,3日ぶっ続けで読んでやっと読み終わるってくらいの厚さがあるが、コイツにかかっては1日足らずで読み終えてしまう。早いな、ほんと。


 当然この二人も話題にそれを出していた。……が、この二人の場合はそれだけではとどまらない。


「まぁ、でもこれは逆を言えばそれだけSFにのめりこんだってことだよなぁ……」


「読んでみたら案外面白かったのでつい」


「ほぅ……? ふっ、篠山、お前ああいってながら案外ほんとにSF好きに染まらせたかったんじゃねえの? お前ほどにSF語れるやつほかにいなかったから同胞確保の意味もかねて」


「いやですから、俺は何もしてませんって」


 もはやお約束ともいえるような頻度で言われるこの言われようのない誤解にすぐさまお返しをする。もう一体何回言われればいいんだよと言いたいくらいなのだが、事実こうしてユイがSF好きに染まった背景には確かに俺がいないことはないのでもう文句を言うことはできない。


 ……とはいえ、


「あのさぁ、それはあくまでユイが自発的に興味持っただけだからな? 俺はそれに乗っただけだからな? わかるか?」


「そこからさらに染めるためにいろいろ手を……」


「この人は何を言ってるのか」


 ツッコミは時には鋭く返す。今回は少し投げやりだ。もう何度も言われまくって少しうんざりし始めている。そこからは少しバカ話に花が咲いた。また疲れるツッコミに回る破目になった。



 ……とはいえ、こうしてロボットが加わっても案外いつも通りの会話を送れること自体には結構安心感を抱いている。

 今こうしているうちでも、ユイは自然と俺たちの会話に参加できていた。それ自体は俺としても喜ばしいことだった。


 あの一週間前の出来事以来、他のこの駐屯地内にいる各部隊員全員にユイに関する情報は瞬時に伝わった。

 当然、日が増すにつれてユイのほうを興味深そうな視線を送る連中が増えるのはもはや必然的であった。常に隣にいなければならない俺は何とも居づらい感覚である。その見る目が完全にどっかのカップルを見るかのようなものであった。


 とはいえ、それでもロボットに対する認識の違いなのでそこら辺に対する反応は十人十色。新澤さんみたいな反応することもあれば、まだ慣れてないために少し距離を置く反応をするやつもいるというのはこちらも許容範囲内。ユイも別段気にすることはなかった。むしろ、


「やっとそれらしい反応示されたような……」


 ―――と、半ば苦笑いで言っていたくらいだ。

 さらに問題なのは、そこからさらに“拒否感や拒絶感”に膨れ上がってしまうパターンが発生することだ。


 人によっては、この違和感からさらにこれらの感情に膨れ上がり、自分からその対象を避ける、ないし遠ざける行動に入る人間も出てくる。好き嫌いが激しかったり性格が固い人だったりするとよくあることなのだが、現実でもこれはロボットが普及してきた現代でもよく見る現象だった。ユイに限った話ではない。


 尤も、そうなっても俺だけはユイの味方でいる必要があるし、言われなくてもそうさせてもらうつもりだったが……。


 ……どうやら、そんな心配は杞憂に終わったらしい。


 そんなタイプの人間もいないことはなかったのだが、運のいいことにそれはどちらかというと少数派の部類に入った。

 比較的多数の人が、このユイという“人間そっくりのロボットの存在”を許容してくれた。だからこその、この人気様ともいえた。

 今ここにいる二人の先輩も、こういったロボットものに対してもある程度は寛容な人であったため、比較的早くユイの存在と正体を知らされたときは驚愕しつつも歓喜していた。そして、俺たちに次いで仲のいい人間となることに成功し、今このような良好な関係を保つに至っている。


 この二人に限らない。先述の通り、ユイの人気はそれ以来とどまるところを知らず、これはまた違う意味でうれしい悲鳴をあげることになった。


 いい意味で期待を裏切られた形となった俺たちは、何とかユイをいう存在をしっかり俺たち人間たちの間に入れることに成功した。

 今では比較的良好な関係を保つことに成功し、今後ともその関係を維持していくことが必要となるだろう。



 ……そんなわけで、しっかりと良好な関係を気づいている俺たちなのだが、この二人はその中でも特に好意的な人だ。俺ほどではないが、やはり男のロマンというものを会得している同類だったらしい。


「しかし、なんだな」


「?」


 そんな会話の中、和弥もふと安心したような、そんな柔らかい表情で言った。


「……最初はちょっと不安があったとはいえ、案外普通に受け入れられたよな、ユイさん」


 俺が考えていた懸念はどうやら和弥も同じだったらしい。今まで口には出してはいなかったが、同じくロボット好きか。考えることは同じだということなのだろう。

 俺も小さく何度かうなづき、ユイも少し安心したように言った。


「はい。少し不安はありましたけど、でも、比較的皆さん好意的に受け入れてくれて、正直ほっとしています」


「だよなぁ……。ほんと、日本人はロボット好きな民族だよ」


 和弥が少し感心ともいえるような口調でそんなことを言いながら、もっていたお茶を一気飲みし、また追加を注いだ。

 すると、少し声のトーンを上げていったのは周りからキリトと呼ばれている同僚だ。もちろんこれはただのあだ名で、本名はちゃんと桐ヶ谷という名前がある。


「だってさぁ~、ロボットっつってもこんなかわいい女の子だぜ? アニメとか漫画とかならまだわかるけどさ、現実でこんなのができちゃったら誰だってこうならないか?」


「それはアンタがアニメ見すぎてるってのもあるんじゃ……」


 新澤さんが半ば呆れ気味に口をはさむが、しかしそんなことは問答無用で話し続ける。


「いや、でもですよ。こ~んな可愛い娘が男顔負けのロボットって中々お目にかかれないですよ? 海外から『日本では美少女が国を守る』って言われてますけど、実際それ現実になりましたからね。現実に」


「現実っつってもあんなアニメみたいな表だって怪獣と戦ったり悪の組織と戦ったりしないわけだが」


「それはアニメだから仕方ない。裏方に回したって詰まんないだろ。ほら、探偵推理アニメとかで、その主人公が行く先々でほぼ必ず事件が発生したりとかするのとおんなじだって」


「死神蝶ネクタイか?」


「そう、それそれ」


 言ってやるなよそんな大人の事情、とツッコミを入れるが、これは向こうには届いていないらしい。

 話についていくのも疲れたのでまた水飲んで、そろそろさすがに水も飽きたのでなんかほかの飲もうかとでも考えていると……


「……でもいいよなぁお前は。この娘と一緒なんだろ?」


「ん? あぁ、まぁ、一応は」


 今度はそっちに話題が移った。

 これもこれで今まで散々話題にされたどころか、一部からはそれはそれで俺に対してなぜか批判が殺到して、前にも言ったように「俺にもやらせろ!」の後に「私がしたかったわよコラァ!」という流れになったほどなのだが……。というか、その「俺にもやらせろ!」のところを主にやってたのは誰でもないアンタらだろうに、この変態共が……。


 しかし、男としてはやはりうらやましいのだろう。お気持ち自体は一応はお察しする。

 同じ屋根の下で同部屋なんて展開はアニメくらいしか思いつかない。軍隊という男ばかりの職場ではこういうのに嫉妬を抱くやつも大量にいる。心中お察しします。

 ……ロボットに対する嫌悪はうちにはなかったとは言ったが、それとは別にこの構図自体に対する目線では、そういった極端にねたむ目線はある。とはいえ、それは本気というよりは絶対半ばネタに走っているタイプのものだが。


 でも、これに関してはぶっちゃけ俺に言われてもどうしようもない。上の連中が勝手に決めたからこればっかりは俺は不可抗力だ。

 ……と、説明しても、向こうは全然納得してくれないんだよな。まったく困ったもんである。


「やっぱり羨ましいよ、お前。やっぱ俺にもたまにやらせてくんね?」


「団長にでも直談判してオーケーもらったんでしたら考えてもいいですよ」


「んな無茶な」


「じゃあ諦めましょう」


「ぐふぅ……」


 そしてテーブルにうなだれる結城と呼ばれる同僚。この二人は元から仲のいい奴で、偶然にも同じ班になったらしい。やはり少数人数で編成するにあたり、そこらへんも考慮して選んでるのだろうか。お友達編成で固めたわけではないのだろうが。


 ……でも、それでもあきらめないこの二人の性根の悪さ。


「でも、お前が外出とかで手が付けられないときは……」


「でも結局うちの部隊で管理するんで自動的に管理権は新澤さんに移ります」


「言っとくけど渡さないからね?」


 そんなめちゃくちゃ鋭い眼光向けてやらなくても。そんなことを目線で伝えるが新澤さんは見ていない。一歩間違えれば殺人をしてしまいそうである。


 新澤さんは昔から男ばっかりのところで育てられてきた。兄妹は上の兄2人しかおらず、女友達はいてもどっちかというと“慕われた”みたいな感じの扱いだったので、妹みたいな自分からかわいがる存在がいない。


 そんな新澤さんにしてみれば、ユイは自分にとっては妹みたいな存在だった。暇さえあればいつもユイのそばにいる。それだけ、特別な存在だということなのだろう。

 だからこそ、今のこの眼光だ。

 さすがにこの二人はたじろいだが、でも引き下がらない。


「じ、じゃあ交代制とか……」


「団長に頼みましょうか」


「……無理な?」


「ドンマイです」


「くそぅ……くそう……ッ!」


 そんな大人にあるまじき声をだされても、とか思ったが、もうこの場合ツッコむのも野暮というものだと俺は瞬時に判断した。もう勝手に泣いてやがれこの変態共。


 後にこの二人は素直に退散したが、あの顔、確実に諦めていないと直感で来た。これは今後確実に阻止せねばならないと、新澤さんと言葉なしの目線での会話を済ませた。

 その横にいた和弥は……、まあ、この状況を面白おかしく見ながらお茶をグビグビ飲んでいる。

 ユイに限ってはもう話が自分からそれてきたあたりから小説に没頭し始めた。なんとなく、コイツもマイペースな性格になってきたものである。それもそれで面白いが。





 そんな、この特察隊始まって以来初めての結団式兼初顔合わせは、



 そういった感じに、少しにぎやかな雰囲気に終始した…………

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