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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第9章 ~終末~
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深部突入


『サーバル6-4、もっと前に出ろ! 今のあいつらなんぞただのネット弁慶じみた臆病者だ!』


『いけるぞ! 奴ら、同胞が出てきたと思ってまともに攻撃しなくなった!』


『この旧式野郎を味方だと誤認してるんだ! ビーコンが敵のと同じになってるしな!』


『ノブナ0-6、側面に回り込め。ロボット損傷具合は?』


『0-6、まだ行けます。こいつタフすぎますね、あとで貰っていいっすか?』


『傷ついたのがほしいとかどんなフェチだよ。まあいい、いけるならすぐにいけ。今なら撃ちまくれるぞそっから』


『このロボット最高だぞ! 盾になるわ撃てるわなんでもこいだ! 今度からコイツを妻にしよう!』


『そいつメスだったのか……?』




 無線越しに聞こえてくる歓喜の声。……と、一部なんかおかしいことを考えている声。


 銃撃戦をしながら、横耳でそんな状況を頭に入れていた。どうもロボットの加勢だったらしい。敵でなかったどころか味方であった。しかも呼んだのがアイツだった疑惑がある。向こうからの無線の報告だった。


『彼女に礼をいっといてくれ! たぶんそっちで死にもの狂いしてる彼女が呼んだらしい!』


 ……メリアに聞いたら何も知らないと答えた。アイツ今自分何やってると思って……


 だが、この加勢によって出入り口付近はほぼ安全地帯となった。戦車部隊も健在である。あとは個々の実だ。


「誰かフラグ持ってねえか!? アイツらに一回投げたいんだがな!」


「あと一発しかありませんが使いますか?」


「もう一発しかないのかよ、誰も持ってないのか?」


「ここに来るまでに使いましたよ」


「クソッ、ならもうちょい近づけて一気に投げつけるしか……」


 二澤さんが恨めしそうに影から銃弾の発砲先を見る。未だに減らない敵の数。本当にゲームの無限沸きスペースと化してきた。弾も残り少ない。もうどこかで一気呵成の突撃でもかますしか方法がなくなってきた。


 ……そして、


「おい、あと何分だ?」


「あと二分です!」


「二分も持ちこたえろってのか? 無茶言うな!」


 残り二分。普通に過ごしていればすぐに過ぎ去る時間が、今は途轍もなく長く感じる時間である。

 残りの二分を耐えきれるとは正直思えなかった。もうドアまで迫っているのは向こうなのだ。あとどれくらい敵がいるかもわからない。無限沸きなのかもう沸き終わったのか、それすらもわからないのにまともに真正面から銃撃戦など続けたくなかった。もう負傷者もいる。隣では数名が傷の手当てを“自分で”していた。手当てをする人すら惜しいのだ。


「(援軍すら来ねえ状況で一体どうしろってんだ……)」


 どこもかしこも防戦一方。あと二分だけ耐えればいいとはいえ、弾薬はどんどん減る。体力もどんどん減る。集中力なんてすでにどこかに消え去った。ほとんど気力で戦っているようなものだった。


「和弥、誰もこっちに来てくれないのか?」


「こないっぽいぞ。もうどこも余裕ない。幸いなのは、後ろからの奇襲はなさそうだってことだけだ。別の部隊が塞いでる」


「俺たちが相手してる方向は抑えられたのか?」


「抑えられたって無線があったようななかったようなって状況だよ。無線が混線してんだ、情報が錯綜してる」


「抑えられたのを祈るしかないのか……」


 そんなお祈りゲーム要素まで持ち込まれた兵士の心境を考えてほしい。これはゲームではないのだが。

 弾薬も融通し始める状況となってきた。まるで共食い整備のように。射撃のいい奴が射撃を担当し始め、それ以外はバックアップか負傷した奴の治療をするようになっていた。俺と和弥は射撃担当だが、先ほどから新澤さんは母体保護だとかなんだとか言われて、後ろで負傷者の手当てをしている。


「うじゃうじゃ出てきやがって、いつになったら終わるんだこりゃ」


「だが射撃の腕は落ちてきたぞ。あいつらもスタミナ切れてきやがった」


 それぐらいしか吉報がない。もう二分を切ってもうすぐ一分を迎えようとしていた。


 ……アイツは大丈夫か?


「メリア、アイツ大丈夫か?」


 ユイが大丈夫なのか確認した。


『リンクが増えてるお陰で大分処理が進んでる。だが、それに比例して負担も……』


「耐えてるか?」


『耐えてる。処理能力どうなってるんだ、私が姉さんをそのままコピーしたスペックだって言うなら、もうとっくにイカれてもおかしくない状態だぞ』


「気力、なんて言葉はロボットには似合わんな」


『ロボットの辞書に気力なんぞあってないようなものだ』


「不思議なもんだな、アイツは」


 スペックを超えるロボットっていうのは割と創作ではよくある話だが、実際それができるのかは疑問でしかなかった。スペックを超えるということは、人間で例えれば人間の持つ処理能力以上のことをやらせることであって、人間の体力以上の労働を課すのと同じことである。頑張ればやれる、なんていう根性論がはびこる時代ではない。働き過ぎたら死ぬ。当然の話である。


 今ユイに起きているのが、スペック以上を発揮したことなのか、実は元々余裕を持った設計だったのかはわからない。だが、生きてるのなら……。


「……システムは解けそうなのか?」


『ギリギリだ。うまい具合にリンクは多くなってきた。並列処理もすごいスピードになってきてる。だが、肝心の姉さんがその中継処理に耐えないとどうにもならない』


「やっぱりアイツ次第か」


 わかってはいたことだが、何度も確認してしまうのは否定の回答を願っているからなのか。それで安心したいからなのか。もうまもなく一分を切るという状況で、どこまでも呑気なものだと自分を責め立てる。


「(……もう時間がない)」


 一刻も早くアイツのそばに行かなくてはならない。例えギリギリになろうとも、俺たちが保護しなければ意味がないのだ。誰でもない、俺たちがだ。


「クソッ、アイツらもう突貫仕掛ける気だぞ!」


 誰かが叫んだ。射線の先を見ると、数名の敵が一つのグループとなり、段階的に突撃を仕掛けてきた。これをするということは、もう人数がなくなってきた証拠である。 人数が多いなら強引な手段をとる必要がない。

 しかし、こっちも限界がある。一気に来たならまだしも、数段階に分けてこられたら弾も無駄に消費する。フラググレネードは一発しかない。この状況で一発のグレネードを投げたところで、一網打尽は無理だし、半分も撃破できまい。


「……どこかに投げれないか?」


 そう呟きながら周囲を探す。そうしているうちに第一波は撃破できた。だが、もう二派、三派がやってくる。どこかに一発逆転のチャンスが転がっていないか、必死になって探した。


「(……クソッ、どこにもないのか?)」


 ……だが、ここでやってきた僥倖である。


「……おい、アイツ、手榴弾持ってないか?」


 和弥が指さしたその方向には、先ほど倒した敵の一人。しかし、その腰には手榴弾らしきものが備えられていた。敵が用意していたものだ。見えるだけでも二発ある。使う前に撃たれたのだ。


「あれだ! アレを使わせてもらおう!」


「だが、アイツドアの真ん前にいるし、しかも通路のど真ん中に倒れてるぞ? 距離も少しばかりあるし、遮蔽物もない。間違いなく撃たれる!」


 和弥がそう言って止めた。思いっきり目立つ場所に、しかも遮蔽物も何もないところで死んでいる。手榴弾を取る前に、撃たれるのはこっち側だ。

 本来なら、こういうのをするのはユイの役目なのだ。少しばかり被弾しても何ともない。手榴弾を素早くとって、被弾を少ししながらもさっさと投げて自分も一気に射撃。何ならそのまま近接戦闘に行ってもいい。こうした膠着状態になった場面で、役に立つのがユイなのだ。


 ……だが、今あいつはいない。頼るわけにはいかないのだ。


「メリア、敵もう奥の方から来てないのか? 監視カメラはないみたいだが、一番近いカメラから状況はわかるだろ?」


『こっちに来てる敵がもういなくなった。たぶん増援はいなくなったとみていい』


「よし、これで終わりなら……」


 俺は決断した。もう一分切るのだ。待ってられない。


「二澤さん、一発手榴弾ぶん投げてください。そのまま一気に射撃を。全部弾使っちゃって構わないです」


「まさか、その隙に突っ込むってのか? 死ぬ気かお前!?」


「ですがもう時間がありません。アイツが死ぬ気でやってんなら俺だって死ぬ気でやってやります!」


「だが……」


「時間がありません! 早くやってください!」


 切羽詰まっている状況下、二澤さんも判断を遅らせるわけにはいかなかった。もう耐えられないのは、自分も同じだった。


「……クソッ、お前ら、弾を全部目の前に置いておけ。リロードはスピーディに、次の一派が来たら俺がフラグを投げる。それが合図だ。一気に撃て」


 全員が持っているマガジンを地面に置く。リロードを一秒でも素早くやるために、そして、この膠着を一気に解消するために。


「おい、お前のフラグ貸せ」


「これが最後です。お願いします」


「ああ、わかってる」


 すぐにピンを抜いた。「グレネード!」という二澤さんの叫び声が銃撃音に混じって響き、そして、通路のど真ん中にいる敵に向けて投げられる。

 数秒後、敵の真っただ中で爆発した。狭い通路内では、逃げるスペースも限られる。集中力が切れていたからか、反応も遅かった。

 爆発に巻き込まれた敵は後方に吹き飛ばされた。後ろから突撃をかましていた敵もそれに巻き込まれ、一瞬の隙ができる。


 いまだ。


「よし、いけ!」


 和弥の声と同時に、俺は影から飛び出した。文字にするとどうんるのか、「あああああああ」となるのか、自分を鼓舞するためにそんな叫び声を上げながら走った。遠いわけではないのですぐに追いついた。後ろから猛烈な射撃音が響く。今までにない大きさだ。

 どこに手榴弾があるかはわかっている。そこから、ピンが引っかかっていたものの、好都合だと思いそのまま強引に引いた。刹那、


「―――ッチ!」


 数発の射撃音とともに、左肩に何かが掠った。防弾チョッキがはじいたことで難を逃れたが、その次には右肩の、防弾チョッキがないところに何かが掠った。どっちも弾丸だ。


「(クソッ!)」


 肩が痛む。寄りにも依って利き腕だ。小さくない痛みが走る。掠ったとは思っていたが、もしかしたら軽く皮膚を抉ってるかもしれない。何かが流れる感覚からして、出血は間違いなくある。だが、関係ない。


「ォオラァアッ!」


 二発を左右の腕で一斉に投げた。突撃してきていた敵の一群。それらは、手榴弾を避けようと来た道を引き返そうとした。


 だが、それでも遅かった。


「伏せろ!」


 誰のものかわからない声が響いた。反射的にその場に伏せた瞬間、手榴弾が一斉に爆発する音が響いた。銃撃が鳴りやむ時間ができる。

 その後、俺が伏せている間、何回か銃撃の音がまた出てきたが、少ないものだった。それも、すぐに消えてしまったのだ。


「……きたか?」


 それにこたえるように、二澤さんの声が聞こえた。


「クリア!」


 歓喜と、安堵と、達成感と、それらが混じったようなものだった。目の前に大量に散らばっている死体の数々。もうかき集めればそこそこデカい有機物の山が出来るのではと思えるぐらいだった。うまく積み上げれば壁を作ることだってできるだろう。

 ……誰一人として幸福すらしなかった、その忠誠心は見習いたい。


「よし、いけ! あとどんくらいだ!」


「あと30秒!」


 ドアの中に突撃しながら、二澤さんは言った。


 もう時間がない。あと30秒で宇宙から鉄の棒が降ってくる。地球が死地と化してしまう。俺たちは急いだ。


「耐えろユイ……耐えろ……ッ!」


 必死に願った。たぶん30秒以内にたどり着けそうにはない。だが、ユイが耐えきって、処理を終えてくれさえすればそれでいいのだ。


『もうすぐ処理が終わる! もうすぐ終わる!』


「頼む早くしてくれ!」


 和弥が叫んだ。もう俺たちに何もできる事はなく、そう応援するしかなかった。銃撃戦の疲れがなどと言ってはいられない。こっちも気力で走っているようなものだった。アドレナリンはどれほど出ているのだろうか。脳内麻薬でも大量に出まくっているのではないだろうか。


 時間は刻々と迫る。10秒を切りそうになった……


 その時だった。


『処理終わり! 今システムに入った!』


 きた! 入ってしまえばこっちのものだ。大量にあった壁を全て持ち上げて、目の前にあるゴールにあるスイッチを押しに、最後に全力で走っていくようなものだ。タイマーはもう時間切れを知らせようとしていた。


「10秒!」


 誰かが時計を見て叫んだ。5時まであと10秒。1秒1秒が、もうこれでもかというぐらい長く感じられた。走馬燈を見ているわけでもないのに、体感時間は極端に長く感じられた。


「5秒切った!」



 瞬間、






『きたあ!! 止まったあ!!』






 今までにないぐらい聞いたことない、メリアの歓喜の声だった。


 ユイの声と一瞬本気で錯覚したぐらいだった。





「止まったか!?」



『止まったぞ! 残り2.54! 何だこの数字すごいギリギリだ!』



「ひいいいいはああああああ!!! 衛星止まったぞおお!!!」



 走りながら大歓声。俺も走りながら大絶叫。一体何て言っているのかもわからない。とにかく何かを叫んでいた。


 すぐ目の前には、例の深部の部屋のドア。このまま蹴破って、一気になだれ込んでやる。あとは胴上げでもしてやればいい!



「今行くぞぉ! さっさと担いで外に行って祝いの席じゃあ!!」



 二澤さんの絶叫を後ろから聞きながら、先頭の俺は勢いそのままに、一気に飛び蹴りでドアを蹴破った。蹴った後、このドアが鉄製だったことに気づき、よく蹴破ったなと一瞬思ってしまったが、これも火事場の馬鹿力ということでいいだろう。



「ユイ! きたぞ!」







バァンッ







 ―――刹那に響いた一発の爆発……いや、発砲音。






「――――は?」






 やっと終わったに見えた。地獄が、ようやく終わった……そのはずだった。





「……ユイ?」



 ユイは、コンソールに一瞬正面から凭れたと思うと、そのまま後ろに倒れた。腹部から走るショートした電気の線。





 ……その後ろには……






「……あのジジイ……ッ!」







 忌々しき、全ての元凶のあの男がいた…………

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