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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第9章 ~終末~
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応酬

[同時刻 東京湾上]




 東京湾の海は異様な静けさを保っていた。遠くの空では戦闘機、ヘリが飛び交う音が聞こえてくるものの、それ以外は何もない。東京湾に揃った国防海軍の艦艇らは、そのすべてが、どこを攻撃するまでもなく、ただ海に浮かんでいるのみであった。


 ……総勢10隻は下らない。そのすべてが、ある一つの目的のみに集中していた。


「ネットワーク接続完了。向こうからのリンク返答来ました」


「よし。あとは向こうに任せろ。接続完了と同時に肉眼でのみ警戒を実施」


「いいんですか、機械的な対潜、対空、対水上警戒全部なしですよ?」


「あと数分だけだ。その間だけ耐えればいい。水中はまだしも、水上ならヘリが警戒している」


 艦長ととある幹部との会話声である。CICでのそのやり取りは、目の前のモニターを見ながらされていた。


「船務長代理、他の艦は?」


「全て接続したようです。先ほど、駆逐艦ふぶきといそかぜ、しらなみから接続完了の報告あり。これで全部です」


「よし、砲雷長、この後はこの艦に任せよう。コイツは優秀だ」


「はい」


 そんな会話がなされている間の艦橋でも、周辺警戒をさせるべく見張りに指示を出している幹部がいた。


「肉眼だけでも目を光らせておけ。奴らが特攻しかけてこないとも限らない。キャリバー準備はいいな? よし、装弾してそのまま構えておけよ」


「了解」


「航海長、ここにいる奴ら全員分の携帯持ってきました!」


 とある乗員が、袋いっぱいに詰め込んだ携帯電話を持ってきた。息切れをしているところからして、相当急いできたようであった。


「よし、全員自分の携帯持ち出して自分の知ってるやつら全員に電話かけて接続を“強要”しろ。通常の電話回線は使う前にまずは災害用伝言ダイヤルにも入れておけよ。下手すりゃ繋がらないからな」


 各々が自分の携帯を取り出し、とにかく伝言ダイヤルに一言二言、すぐに政府が発表した場所に接続させるよう強要する言葉を入れる。そのあとすぐに電話をかけ、繋がったものは強い口調で接続を求めた。ほとんど脅迫染みたものである。


「しかし、航海長。もう10分切りましたが……、間に合いますか?」


「間に合わせるのさ。でなければ、この世が終わりを迎えるだけだ」


 航海長とよばれた彼は、東京の都市部の方向を見ながらそう言った。その先にある何かを頭に浮かべながら、小さく微笑みを浮かべていた。


「……恩返しの時がこうした形で来るとはな」


「しかし、驚きました。まさか、彼女が……」


「道理で人並み以上の物理的な動きができたわけだ。全く、まんまと騙されたよ」


「今あそこで、彼女が文字通り命を削って……」


「……殺すわけにはいかないな。トマホークでも幾つかぶち込んでやりたいが、地下とあればそうもいかん。大人しく演算リソースでも与えてやろう」


「ですね」


 この艦は、仮にもイージスシステムを追いかける目的で備えられた最新型の火器管制システムを搭載している。演算処理能力は従来型のそれとは比べ物にならず、就役から10年以上たった今でも幾度もの改修を経て最前線に立つ。

 そんなこの艦の処理能力なら相当な力になるだろうと、航海長自らが進言し、全ての戦闘能力を停止させ、それによって確保できた演算リソースを全て彼女に捧げるのだと、その決意は固かった。


「俺らは守られたんだしな。ロボットならロボットでいい。むしろ好都合だ。こうした支援のやり方は最善かつ容易だ」


「しかし、政府も人が悪い。そんなSFロマンなものができていたなら、我々にも一言言ってくれればよかったものを」


「あとで政府をとっちめねばならんな。ハハハ」


 そんな言葉とは裏腹に、同時に出した彼の笑いは穏やかなものだった。彼のような人間にとって、相手がロボットか人間かはさしたる問題ではなかった。恩人であるのに変わりはないのだ。返すべき時に恩を返さずは、人の恥である。そんな考えは、少なくともこの環境にいる乗員共通のものであり、航海長がその意思を一手に引き受け、陣頭指揮を執っていた。


「あと何分だ?」


「……8分です」


「どれくらい進んだ? 家族には全員伝えたな?」


 全員から了承の返答が返ってきた。上官や伝令を通じず、直接である。


「こっちは全員終わりました。今親戚にも頼んでます」


「だからさ! あれは別に詐欺でも何でもねえんだって! とりあえずお前のPCから繋いでくれよ! お前の自作PCすっげえ高性能だろうが!」


「ああ、とりあえずその目の前にあるロボットをネットワークに繋いでくれればそれでいいから。……念のためってことで最新型の奴買っといてよかったな」


「そういうことだ。一応繋げばあとは向こうでやってくれる。いいか? 繋いだらあとは何もいじるなよ?」


「ええ、そうなんです、ですからそちらの方からとにかくいろんな人に頼んでくれませんか? はい、ええ、父にはもう話してあります。詳しいことはそちらから……はい、お願いします」


 各々で繋げられる全ての人間に、同じ内容を伝えていた。一人でもいい。ここで無駄な人はいない。一人増えれば、その人がどれだけ小さい力しかもっていなくとも、マイナスにはならない。雀の涙も大量に集まれば、大きなコップが必要なぐらいの量の水にはなるのだ。


 どれだけの水を用意できるか、時間との勝負であった。


「……しかし、お前は気づいてたとはな……やはり、形は違えど同じ機械か……」


 そんな彼のつぶやきは非常に小さい。艦橋内の喧騒に比べれば、それを聞き取ることができた人間は、本人以外皆無であろう。その意味を理解する者もいない。

 彼は再び東京の街を見た。もう日の出が近い。東の空は大分明るくなっていた。


「……無事でいてくれ……」


 その目は祈るようなものでもあった……。









 ―――状況はすぐに飲み込めた。


 総理がすべてを仕組んだのだ。迅速に上に上がった情報はほぼ脅迫めいたものだったに違いない。確実に実行させるにはそれしかない。だが、総理は疑問を持つまでもなく、現場を信じた。

 国民に対し、CONNECTORの政府公式アカウントを使い、とにかく手持ちの機器を、政府が提示したURLにつないで演算接続を待つよう必死に頼んでいた。一見すれば詐欺か何かに思えるこの切り口も、何かしらの損害が生じた場合、例外なく全て政府が全面的に補償するという思い切った判断を伝えることで、接続によるリスクを減らす方向を取ったようであった。そのためか、「どうせ繋げるだけでいいなら」という思考が働いたか、どんどんとネットワークへの接続が増えていった。軍の方はもちろん、民間でも、携帯から高性能PC、自家用ロボットまで。とにかく演算の能力を持つものすべてをネットワークに繋げていた。

 各機器で演算処理の構造などが異なっており、一律に管制することは非常に難しい。だが、今のところは問題なさそうだ。そういった処理に関する相違の解消も、全てユイが一手に引き受けているのだ。


「……すげぇ……」


 状況が状況なのに呑気に感心していると、和弥がさらに言った。


「見ろ、これって……」


 国防軍側のネットワーク接続だ。海軍艦艇……、このコードは!


「……やまとか……ッ!」


 海の向こうでも、同志たちが動いている様だった。東京湾にいる艦艇も、艦の演算処理能力を提供してくれているのだ。艦の持つ処理能力は高い。大きな軍艦をあらゆる攻撃から身を護るべく、卓越した処理能力を発揮できる演算機器を搭載している。彼女らの力を借りることができるのはデカいだろう。

 徐々に増えて言っている中には、東京湾以外で活動している艦艇のものもあった。今後増えることはあっても、減ることはないだろう。


「チャンスだ。処理能力がどんどん底上げされてる」


「ああ。あとはユイが持ってくれるか……」


 向こうの状況がわからない。今は演算処理に集中してるから、ユイにむやみに話しかけるわけにもいかない。メリアに状況を確認してもらうしかなかった。


「メリア、ユイ今どうなってるんだ? わかるか?」


 返答はすぐに来た。だが、曖昧なものでしかなかった。


『さっきからこれっぽっちも動かない。たぶん無駄に体を動かすこともしなくなったんだろう』


「死んではいないんだな?」


『それは間違いない。どうも演算処理そのものは継続中だ。死んでたらこれも止まってる』


「ならいいが……」


 ならもう、こっちからは何も手を出さないほうがいい。いずれにせよ信じるしかないのだ。アイツが耐えてくれることを。信じて、今は目の前の敵を追い返すしかない。


「アイツら、どんだけ兵隊送り込んできやがったんだ! 大量に湧いて出てきやがるぞ!」


 二澤さんが叫んだ。弾薬も無駄に消費できない中、ゲームで言う無限沸き状態のこの状況に嫌気がさしてきたのかもしれない。交代で銃撃に加わったとき、影から一瞬見てみた。


「……クソッタレ……」


 多い。確かに多い。FPSゲームだったらスコア稼ぎだとかギミック上の何かしらの救済措置だとか、そういった話にはなりそうな展開だが、そんな呑気な事を言っている暇ではないレベルだ。現実としてここまでされてしまってはたまらない。


 倒した自らの同胞の屍が積み重なる。だが、敵はそれすらをも盾にし始めた。土嚢を積み上げて盾を作るかのように、即興の死体の防壁を作り始めたのだ。


「……自らの仲間を盾にすることすら厭わないか……」


 形振り構ってられなくなったのだろうか。こっちだって損害が出てきている。何人かは胴体に銃弾を受け、後ろで治療を受けざるを得なくなった。数は圧倒的に相手が多い。味方が何人か合流したが、弾薬も豊富とは言えなかった。他の味方の合流まで、ここを持ちこたえることができるかはわからない。

 こうしている間にも、もう時間はどんどんと無くなっていく。もう5分を切った。


「チクショウ、どこかで隙を見つけてあの扉の所まで行かないと……」


「でもどうするのよ、アイツら切れ目なく撃ってくるわよ?」 


「扉まで何の障害物もない。手榴弾もほとんど使っちまった。一個二個投げたぐらいじゃ意味がない……」


 二澤さんの小さな嘆きである。同意しかない。敵は恐らく、ここでの残り数分の時間を稼ぐために死にもの狂いなのだろう。たった数分だが、あわよくばユイの下に突入し、ハッキングを妨害しにかかるはずだ。そして、最低でも、俺らをあそこに入れるまいと。


 ……ここで時間を食ってる場合じゃねえんだ。


「……クソッ……」


 そう舌打ちを突いた時だった。


『……おいおいッ、嘘だろ!?』


 誰かの無線だ。地下に入った部隊の人の声じゃない。無線の向こうから環境音が騒がしい当たり、恐らく外の方にいる部隊だ。


『クソッ、こっちにも大量に兵隊差し向けてきやがったか! 二つの方向から!』


『まて、無線はどこの隊だ?』


『サーバル6-2、及び6-3。ポイントF9前においてゲート封鎖中。しかし二つの方向から敵襲あり! ヘリは向かったが抑えきれるかわからん! 建物の隙間に入りやがった!』


 ポイントF9といえば、ここに来る前に通ってきた地下鉄出入口だ。サーバル6-2と6-3は、そこを守る中枢部隊。まさか、外からの襲撃もか!


『コノハ4-4よりCP。ホテル日本橋方面から大量の敵勢力が出てきた。あの数だとホテルの中はたぶん空っぽだぞ。F9へもう間もなくつく』


「全部差し向けてきたか!」


 ほんとになりふり構わなくなってきた。この瞬間に全てをかけるつもりか。余りにも大規模だ。よくまあここまで大きな兵隊を持っていたものだと逆に関心すらしてしまう。


『奴らも全力だ。応戦しろ』


『だがもう弾薬もマズくなってきた! 援軍はどこに―――』


 だが、途中で無線の声がいったん途切れ、


『―――なに!? 別の方向から!?』


 そんな声も届いた。


「(別方向化ら敵襲か?)」


 CPが呼びかける。


『サーバル6-2、敵か? UAVで確認を……』


『いや、違う……』





『……アイツら……まさか……』





 俺らは銃撃をしつつ、外で起きている変化に耳を傾けた…………

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