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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第9章 ~終末~
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応援要請

[数分前 総理官邸危機管理センター 幹部会議室]




 幹部会議室は紛糾していた。今さっきまで、米国のSDD衛星の管制が奪われ、米国政府経由でNASAからの通報が合って以降、危機管理センターは、東京でのテロ対処の最終段階と、このSDD衛星の対応を同時並行でやらざるを得ず、大きな混乱を巻き起こしていた。

 JAXAも衛星を独自に追跡し始めた。国防省の通信衛星なども駆使し、とにかく衛星の状況を少しでも収拾しようとしていたが、調べれば調べる程状況はひどいものであった。

 もう既に12基の衛星全てが地上に対し指向している。そのすべてが原発、若しくは原子力関連施設。日本に向けられたものだけでも10ヵ所。全てに攻撃されたら、日本はいよいよを以って死の列島と化すことは約束されたも同然であった。全世界を狙ったこの衛星……。


 嘗て、宇宙ゴミを掃討する物理的対処手段として目された、その12基の衛星は、今や全世界の地上を狙う悪魔の雷霆と化した。宙からの攻撃に、今の日本に、世界に、物理的な対処手段はない。


「……ハッキングぐらいしかない……」


 やれるとしたらそれくらい。だが、それを今すぐ実行しようにも、どれほどの時間があるか。まともに時間も取れない中、本当に成功するのか。そんな不安は室内を駆け巡っていた。


 ……そんな中である。


「なに?! もう行ってるやつがいる!?」


 側近から報告を受けた統幕長の叫び声が響いた。室内にいる多くの人間が彼の方を向く。すぐに、隣にいた新海国防大臣に報告した。


「既に、現場に向かいハッキングを行っている者がいたと、現地指揮官が報告を」


「待ってください、少し前に出撃命令を出したばかりで、到着はつい先ほどでは?」


「そのはずなのですが、向こうは相当前から到着していた可能性が高いと。独断なのか現場判断なのかは問い合わせ中ですが……」


 統幕長の発言を聞きながら、まさかと思い、私は彼に尋ねた。


「統幕長、その者はもしや、空挺団所属じゃないか?」


 すぐに確認を取った。帰ってきたのは、肯定の回答。


 ……ハッキングをできる空挺団の者といえば、特定は容易だった。


「……あの二人か」


 政府専用機での命の恩人。あの二人が、先んじてあの内部に潜入したのだ。如何なる経緯かは存じないが、思ったより早くハッキングを始めていたのならば、これは僥倖といえるかもしれない。


「まさか、彼女と……」


「……彼だな」


 隣にいた菅原官房長官と確認し合った。その隣にいる仲山副首相も、話自体は聞いていた。


「あの二人が独断で? 例の政府専用機の」


「だとすれば話は合う。彼女は、ハッキングもお手の物だったはずだ」


「でも、どうやってあそこまで二人だけで……」


 他の大臣らには聞こえないよう小声で話し合うが、そんな中、さらに追加で情報がやってきた。


「大臣、現場からです。ネットワークを開放しろと」


「ネットワークって、何のですか?」


「中枢ネットワークです。官民ともに、とにかく今すぐ開いてリンクさせてくれと」


「中枢ネットワーク!? 一般に開放しろって言うんですか!? あれはクローズドネットワークですよ!?」


「ですから、そこもとにかくオープン系ネットワークにも接続してそこを中継してとにかく繋いでくれとと……」


 新海君との若干の口論となった。クローズドネットワークである中枢ネットワークは、外部とは遮断された環境にある。全ては、ハッキング被害を防止し秘密保持を徹底するためである。そこと外部と繋がるためには、ごく限られたオープン系ネットワークとの接続をする以外にないが、そこを中継点にして、さらに多くの民間との接続が可能な状況としろというものであった。無茶言うなと言いたい。

 だが、報告は続いた。


「ネットワークを通じて、このIPアドレスに全部繋げて、演算リソースを分けてくれと……たぶん分散コンピューティングのことを言っているのだと思いますが……」


「ということはまさか、ハッキングを一緒にやれと!? 今からですか!? もう10分切りますよ!?」


 報告はこうだ。中枢ネットワークをすべてオープンにし、できる限りの媒体と接続。その中には、軍のものはもちろん、民間の力も最大限借りる。とにかく、今は多くの電子機器を接続させ、演算リソースを確保。ハッキングの足しにするというものだ。


 だが、余りに無茶である。今から解放したとて、どれだけ集まるか。


「ですので、直ちにオープンにすると同時に、軍の使えるすべての機械をこれにつないでくれとのことです。スパコンは最低限、軍艦ともリンクを通じてリソースを分けてもらって、あと、政府が使っているものも全部繋いでほしいと。軍所有の機器類は最低限必要だそうで」


「今からですか!?」


「今からです。さもないと日本どころか世界が死ぬと」


「脅迫の間違いでしょ……」


 新海君も呆れていた。だが、時間がないのは確かだ。この指示を出しているのは、恐らくあの二人のうちどちらか、若しくは両方だろう。向こうで自分たちなりにハッキングを行ったはずだ。それでいてこの指示ということは、もうハッキング以外の手段を考えている暇もなく、“力押し”するしかないという判断か。


 ……考えている暇はない。


「すぐにオープンにしろ。全開放だ」


「で、ですが、それだとセキュリティが!」


「あと10分ちょいで世界が死ぬって時にセキュリティもくそもあるか! とにかく全部開けるんだ。全部隊に緊急指示。全ての部隊は手持ちの機器類をネットワークに接続後、指定IPアドレスとの接触を待て。あとは全部向こうがやってくれるはずだ」


「わ、わかりました。全部隊に通達を」


「了解しました」


 すぐに全部隊へ向けて通知させた。それでも若干の時間がかかる。最優先命令として行ったとしても、多くの部隊にいきわたる速度には限界がある。その間に、IPアドレスも確認した。


「……このアドレス、見覚えあるな?」


「例の、彼女のIPアドレスですね……ネットワークするときに使ってる……」


 菅原君も思い出したようであった。彼女が使っていたアドレスに、直接ネットワークを通じて繋いでしまおうということである。ハッキングを全ての演算機器が同時並列的に行う上で、それを管制し、結果をひとまとめにする役割を担おうというのだ。

 ……だが、彼女は耐えられるのか?


「新海君、アドレス先のほうはスペック的に耐えられるのかね?」


 彼女の正体を知らない大臣もいる。若干ぼかして、彼女が耐えられるかを聞いたが、答えはあいまいだ。


「ここまでの大規模なハッキング管制は前例がありません。某怪獣映画最新作の終盤であったスパコン同時並列じゃありませんが、正直あれぐらいのものです。想定スペックははるかに超えてます」


「では、できないというのかね?」


「正確には、未知数といったところかと。やってみないことには……何とも言えないもので……」


 彼ですらまともにわからない。本当に大丈夫なのか。テストなしのぶっつけ本番一発勝負。失敗すればもう一巻の終わりというこの状況では、余りに危険な賭けだと言わざるを得なかった。


「……」


 それでも、他に適当な手段がない以上、やるしかないのかもしれない。


 今まで、彼女に助けられてきたことは多い。政府専用機の件もある。いろんな場面で助けられてきた。そして今、ここでも死ぬ気で足掻いている。


 ……我々が恩返しするべき時はいつか。


「……よし」


 私は決心した。


「官房長官」


「はい」


「すぐに各マスコミに通達。CONNECTORの政府公式アカウントを開き、そこで生放送されている映像を全国に流せと」


「CONNECTOR? 生放送ここでするんですか?」


「国民に通知せねばならん。総務省、ネットワーク回線を確保、直ちに生放送の準備だ。そこの君の持ってるスマホで言い。すぐに私の目の前にもってきてくれ」


「は、はい!」


「軍の全ての広報にトップにこれを乗せろ。文句は言わせるな。すぐにやれと伝えろ!」


「了解」


 もう時間がない。10分は切った。もう1秒の時間も無駄にはできない。準備はすぐにできた。総務大臣の持っているスマホをカメラ代わりに、政府公式アカウントに接続し、直ちに生放送を開始。本当は撮影が許可されていない危機管理センターの、しかも幹部会議室だが、もうそんなことは言ってられない。

 ……ん?


「……彩夜?」


 奥で娘が必死に電話している。誰に向けてだ? だが、気にしている余裕はなかった。


「ネットワーク開放完了。接続できるアセットから直ちに接続させます」


「広報に伝えました! トップページに出てます!」


「マスコミから了承の旨返答来ました。すぐに映像を同期させるそうです」


「カメラ回りました。お願いします」


 総務大臣がカメラをONにした。映像はもう回っている。


「……」


 私はカメラを一直線に見て、早口で話し始めた。



「……国民の皆さん。これからいう指示を、直ちに実行してください。“世界の危機”です」







[同時刻 東京都内 某避難所]

 



「……マジで言ってるのコレ?」


 私がすぐ近くで電話中、隣にいる浅ちゃんが怪訝そうに言った。避難所のラジオが騒がしくなって、すぐに政府公式アカウントを見るように言っていたから見始めたら、この状況。首相がすんごい早口で、すんごい事を言っていた。そのまま聞けば、焦燥感をあおるような内容も相まって、ただの詐欺動画にしか見えない。通常なら、このままニセのHPにでも飛ばされて金取られたりする流れ。


「でも相当焦ってますね……言ってること本当でしょうか?」


「中身昔過ぎてわかんないよ。仁ちゃんわかった?」


「要は自分の持ってる電子機器をネットワークにつないでくれってことみたいです。リンクは用意してくれてるようですので、そっちにさっさとつないだ方がいいんでしょうか?」


「でもこれ何でつなぐのさ? あと数分で世界死ぬって言ってるけどなんで死ぬかって言ってないじゃん」


「わかりませんけど、とにかくマズい状況のようです。スマホ持ってます?」


「持ってるけど、つなげばいいの? ……あ、これか」


「それですね。とりあえずここから繋いで……」


 そして、私は電話を切った。すぐに二人に話す。


「二人とも、ちょっと耳かして」


「はい?」


「なに、どうしたの那佳ちゃん」


 その時私の顔を見た二人の顔はぎょっとしていた。私の顔そんなに強張っていたのかな。でも、そんなことを気にしている場合じゃないみたいだった。


「今プロデューサーさんから電話あった。知り合いの人から、この状況軽く教えてもらったんだけど、もうヤバいんだって」


「ヤバいって何?」


「大きい声じゃ言えないんだけど、あと数分のタイムリミット状態で、とにかくいろんな人にネットワークにつないでもらわないといけないらしいの。で、私たちにも力を貸してほしいんだって」


「私たちにも?」


「……今、その中心で戦ってるの……」



「東京で、私たちを救ってくれたあの二人らしいの」



「あの二人って……、え、篠山さんとユイさん!?」


「あの二人が!? でも、なんでそこに? 重要な立ち回り何ですか?」


「わからない。なんかユイさんが実はロボットで、今ハッキングかけてて、それを篠山さんが守っててって、色々と言ってたけど、とにかくあの二人がピンチらしくて」


「まって、ユイさんロボットって何よ」


「とにかく!」


 じれったくなった私は、思わず若干ながら声を荒げた。


「あの二人がピンチで、恩を返すチャンスなんだって! 私たちがファンの皆に呼びかけて、できる限り多くの人につないでもらってって言ってた!」


「でも、どうやって?」


「私のスマホを使って、CONNECTORとか、いろんな私たちのアカウントに一つの動画を乗せる。そしたら、あとはファンがそれを見てその通りに実行してもらうのを待つしかない! 嬉しい事に、今は私たちのこと気にかけてるファンの人がこの私たちのアカウントに殺到してるみたいだから! 注目されてる今がチャンスだよ!」


「動画って、皆も協力してくださいっていうそういう感じの?」


「そういう感じの! ほら、もう時間ないよ! もう撮るよ!」


「え、今!? まだ私髪整ってないんだけど!」


「髪なんてどうでもいいでしょ!? あの二人がピンチなのに、恩返ししないでどうするのさ!」


「随分と必至っていうか……張り切ってますね」


 仁ちゃんがそう落ち着かせるように言った。自分でも自覚してるつもりだった。

 でも、正直何が何だか自分でもわからない。篠山さんとユイさんがピンチで、しかもユイさんは実はロボットで、今何かしらのコンピューターにハッキングしかけてて、それが成功しないと世界がヤバいぐらいしか理解できていない。言葉で説明する余裕もない。


 ……でも、


「……全部事実だとしたら、それこそ今がチャンスだよ二人とも。ロボットに助けられたってすんごいことじゃない? 私たち凄いよ二回もロボットとその仲間たちに助けられたんだよ? 人間が恩を返さないでどうするのさ」


「……なるほど……」


「ほら、もう撮るよ。全部私が言うから。後ろからお願いしまーすって必死こいて言って」


「う、うん。わかった!」


 すぐに録画ボタンを押した。ここは元々某学校の体育館で、他にもいろんな人がいるけど、そんなことはお構いなし。もうとっくの昔の私たちのことはバレてるから、問答無用で軽く声を荒げて言った。





「唐突に動画流してごめんね! でも皆聞いて! 私たちの命の恩人がピンチなの!」


 

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