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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第9章 ~終末~
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再突入

 ―――あとはやることをやるだけだ。


 出入り口付近を完全封鎖した国防軍部隊は、一気に施設内部に突入。戦車、機動戦闘車を含む機甲部隊は出入口に蓋をするように陣取り、まさに自らが壁となって周りに目を光らせる。空は戦闘ヘリが来援した。F-2戦闘機も、残りの爆弾をどこに落とすかを見極めるべく周辺を旋回しているほか、時折ビルの間をギリギリ抜けての低空飛行を実施する。

 嘗て、トルコで軍のクーデターがあった際に、政府側の差し向けた戦闘機が市街地で行った超低空飛行のように、爆音を使って相手を怯ませる狙いである。実際、近くに敵の、それも基本的に対抗できない空の敵がいるという事実をわかりやすく伝える戦闘機の爆音は、威嚇としては十分すぎる効果があった。これも、立派な“武器”である。


 地下鉄網を伝って、敵の別働隊がこっちに接近しているという情報が入っていると、二澤さんは伝えた。敵が差し向けたなけなしの勢力であり、数もそんなに多くないはずだが、抵抗が凄まじいという。


「やっさんも死にもの狂いだ。一部はもう既に施設内部に侵入を許しているらしい」


「唯一の出入口はあそこだけだったはずじゃ?」


「あのいかれたサイエンティストのことだ、こんな時のために別の裏ルートでも拵えてたんだろうぜ」


 和弥が吐き捨てるように言った。厄介だ。そんな出口、ユイの所に繋がってたりでもしたらマズいことになる。アイツは戦闘ができる状態じゃない。あらゆるリソースを全部システムへの介入の演算に使っている状態なのだ。


「とにかく、今はアイツの下に向かうのが先決だ。……よし、ここだな」


 出入口の前にやってくると、既に他の一部部隊もいた。出入口を警備していたようである。計2個班。俺らも含めて4個班。大体1個小隊レベルの規模である。待っていた他の部隊を周辺の方に一旦散らばせて、俺らが突入すると同タイミングで突っ込ませる。


「よし、内部に突入する。中がどうなってるのかが問題だが、手探りで行くしか……」


「あ、それならご心配なく」


「え?」


 呆気にとられる二澤さんをよそに、俺は無線をつないだ。


「メリア、こっちに無線合わせたか? 誘導頼む」


「は?」


『いいぞ。こっちは合わせた』


「……は?」


 口をあんぐりと開けて茫然とする二澤さん。だが、その逆の反応をしたのがうちの部隊である。


「……ちょっと待ってくれ。なんでメリアさんの声がここにきてるんだ? どこだ?」


「ここにはいないよ。システムにいる」


「システムってどういう事よ? あの娘は確か……ッ!」


 新澤さんに至っては、生きてたっぽいのは嬉しいんだが一体何が何やらでもう複雑な顔をしている。


「詳しく話してる余裕はありませんが、この施設のシステムにデータ全部予備で置いておいたらしくてですね。そっちで残ってたんでなんの問題もなかったってオチです。俺は後でアイツ殴りますよ」


『え』


「右ストレートで勘弁してやろう」


『え、ちょ』


「じゃあ私は一本背負いで」


『一本!? 投げられるのか!?』


 音声だけではあるが余程狼狽しているのが容易に想像できる。俺と同じことを考えたらしいこの二人、もう胴体修復してデータ移したら一気に襲い掛かってやろう。それがいい。


「……なるほど、バックアップとはちょっと違うが、やっていることは理解した」


「今は彼女が、衛星関連以外のシステムのほぼ全権を握っています。生きてる監視カメラを使って誘導を頼みましょう。内部は物理的に荒らされてるんでアイツの誘導が頼りです」


「わかった。彼女を信頼するとしよう」


 時間がないこともあり、二澤さんも即決した。すぐにメリアが現状の最適ルートを伝える。それでも、敵さんの内部への浸透速度が速いのか、どうあがいても戦闘が予測されるとのことだった。だが、和弥が「蹴散らせばいい」と言った一言が、今の俺らの心情を物語る。


「邪魔な奴はどかす。それだけだ。やるぞ」


『了解した。じゃあさっき言ったように部隊を分けて後で合流する形をとる。ルートはその都度更新するから聞き逃すなよ』


「オッケー。そんじゃ、行くぞ。……GO!」


 再度内部に突入。敵がいるだろう場所へと一目散に突っ走る。4個班がそれぞれ二手に分かれ、俺らと二澤さんの班が同じルートでそのまま一気に深部へと突撃する。


『この先、敵複数』


「奴らはRPGすら持ってくるぞ」


「まさか、中で一気にぶっぱなす気か! どうりで本当に物理的に荒れてるわけだ」


 和弥が一蹴ぐらい回って感心したように言った。元々外で盛大にぶっぱなすための兵器を、クソ狭い屋内で盛大に発車しようなどとは思わない。ましてや、物理的に通路などをふさいだりするために等、考えついても普通は実行しない。内部から崩壊が起きるかもしれないからだ。


「なりふり構わねえな! 早速お出ましだ!」


 前方、敵確認。案の定、RPGを持ってるのが一人いた。ここで放って、進撃を防ごうという魂胆だ。


「アイツを狙え! 最優先だ!」


 通路の影から一斉射撃。他には目もくれず、完全なる集中攻撃を喰らったRPG持ちの敵は、あえなく転倒。その衝撃か、内部にあった弾薬が暴発してしまい、あたりにいた敵が巻き込まれた。装填済みを持ち歩いた状態で、弾頭から勢いよく落としてしまえばまあ無理もないか。

 狭い室内のため、爆音と衝撃波が一気にこっちにもおしよせた。


「ヒィ! だから言ったんだよこんなクソ狭い屋内でRPG使うなって!」


 いつ言ったんだよ、と心の中で和弥にツッコみつつ、幸い壁がはがれずに済んだ目の前の通路を、有機物の破片と化した敵の横を素通りしつつ通過。ここからはもう迷路みたいなものである。


 敵もこの内部を熟知しているのだろう。的確な場所でこちらを迎え撃ってきた。


「彼女は無事か!? このままじゃ向こうにも着くぞ!」


「メリア! ユイの様子はどうだ?」


 すぐに彼女に問い合わせる。返答はすぐに来た。


『今はまだ行けるみたいだ。最初、祥樹がきた隠し通路以外は壁が崩れてて通れない。自分らも入れないからここまでやる予定ではなかったはずだが、恐らくこれに関しては“事故”だな』


「てことはだ、あの通路以外は入れないってことだな?」


『そういうことだ。今からそっちの通路にも誘導する。敵もそっちに向かってるが、どっちが先につくか……』


「全力ではしりゃ行けるぜ! 人間の足なめんな!」


 結城さんの声はまるで雄たけびの様ですらあった。もはやアドレナリン噴出での興奮状態。あとはノリだけでも敵を蹴散らせるぐらいの勢いで突っ走る。途中遭遇した敵も、RPG持ちがいればそいつを攻撃し、武装の落下を用いての暴発を狙う。それでだめなら、王道のやり方で各個撃破。

 上の方から急いで向かえと言われて、言われるがままに来たのだろう。俺たちと遭遇した時点で、相当体力を消耗しているらしい状態であるのが見て取れた。確認できる限り、敵は息切れが激しい上、弾の照準もまともではない。こんなのではこちらに弾を当てることはまず無理であろう。こっちは不定期に顔を出しながら交互に撃っているのだ。


「あの様子じゃ、上から言われるがままに放り出された感じみたいね」


「だな。こっちは車で来たから余裕過ぎるんだよな」


 対する二澤さんらは先ほどまで車両を使ってここまで来ていた。一部敵と戦闘をしてはいても、走りながらではない分、体力の消耗はそれほどない。これだけでも、十分有利である。


 疲労困憊の敵に負けるわけがなく、さっさと撃ち倒して進撃。そのままさらに突進ののち、そろそろというところで、また壁があった。


「チッ、ここもかよ。メリア、別のルートを」


 検索ならすぐにやってくれる。メリアも別ルートを複数考慮しているはずだ。すぐに返って……


「……ん?」


 ……こない。返答がない。


「どうした? ルートはどこだ?」


『……マズい』


「え?」


 やっと帰ってきたのは狼狽の声だった。


『そこがないならもうないぞ。あとは敵が用意してた裏ルートを伝うしかない』


「んなバカな!」


 ここがダメならもう入れない? 今更敵が用意してた別ルートを探してそっちを伝っていくわけにもいかない。時間がかかりすぎる。


「強引に突破するしかない! 敵のRPGか何か持ってこい! なんでもいい!」


「手榴弾持ってるやつは壁の前に全部置きましょう。RPGの爆発に巻き込んでやります」


 余計なことを考えている暇はない。とにかくRPGを探しまくる。敵がそこら中にいるので、1発ぐらい無事な奴があるだろう。そう思って必死に探した。


「……お、あったぞ!」


 天はまだ見捨てなかった。ちょうど運よく残っていたRPGが1発。これだけあればいい。手榴弾は壁の前に全部置いた。そんなに分厚いわけではない。一発で仕留められる。


「全員衝撃と爆音に備えろ! 撃つぞ!」


 二澤さんの部隊の一人がそう叫ぶ。刹那、一発のRPGの弾頭が壁と手榴弾のある場所にめがけて突進。射手の人もすぐに壁に隠れた。次の瞬間には、ドでかい爆音と衝撃波が密閉空間となる通路を数秒に渡って襲う。

 無事に壁は崩れた。一部に開いた穴は、今にもまた崩れそうではあれど、人が通るには十分なものだった。


「よし通れ! 急げよ!」


 崩れ始めないうちにさっさと素通りする。全員通って、また深部へと向かってる最中、背後からコンクリートが崩れる音がしたが、まあ、そういうことなのだろう……。見向きもせずさっさと突っ走る。


「ここを曲がれば!」


 ここら辺は俺も最初通った道。この先を曲がれば、あとはすぐ目の前に……


「……ッ! 嘘だろおい!」


 ……と思ったが、ある意味では一歩遅かった。


 偶然にも、反対側からきた敵とばったり遭遇した。向こうに、別の裏ルートがあったのか。

 もうお互い相手を確認してしまった。スルーはできない。


「クソッ! もう目の前にあるじゃねえかそれっぽいのが!」


 和弥が悔しそうに叫ぶ。俺らの目の前には、先にユイが足の一突きで電子ロック事ぶち壊した、あの部屋へと続くドアと、その入り口がある。非常通路の暗い通路。そこさえ突っ切ればあとはすぐ目の前なのだ。もう目の前に、俺たちが守るべき相棒がいる。


 ……はずなのに……、


「奴ら、大量に送ってきやがったな! とんだ邪魔だ!」


 敵も同じことを考えていただろう。この通路を使って、一気に間を詰める腹積もりのようであった。その結果がこれだ。こんなところで足止めを喰らっている場合ではない。

 すぐにユイの下に駆けつけ、身辺警護の下システムハッキングをさせねばならないのだ。ここではまともに警護できない。ふとした拍子に内部に入られる。ドアはあけっぱだ。


「もう10分切ってどころか、もう5分すら切るぞ!」


「ユイちゃんは大丈夫なの!?」


 新澤さんがそう叫んだ。もう5分切る段階で、ユイはどこまで行ったか? 無線に応えている余裕はないはずだ。メリアも、衛星関連のシステムには介入できないため何もわからない。となれば、こっちから間接的に状況を見るしかない。


「和弥、状況見てくれ。気になってしょうがない!」


「オッケー。ちょうどリロードだ。今見てみる」


 和弥がタブレットを取り出し、素早く検索、代わりにリロードが終わった新澤さんが交代するように曲がり角の影から銃撃を加えた。


「(アイツ、大丈夫だろうな……?)」


 ハッキングの実績はある。だが前例もなければ、想定すらしていない状況において、どこまでやってくれるか、未だに不安があった。


「よし、国防軍の戦術ネットワークにアクセスした。ここから接続状況をみれば……」


 和弥がネットワークに接続されているコンピューターの数と演算状況から、大体の状態を把握する。タブレットをタップしていると、


「……ぅん……?」


 和弥が喉を唸らせた。


「どうした?」


「いや……どういうこったこれは……」


「なんだ、マズい状況か?」


 こんな時に、まさか?


 だが、返ってきたのは、



「……いや、その逆だ」



 むしろ、吉報の方だった。


「え?」


「見てみろ。たった数分しか経ってないのに、こんなにネットワークへのアクセスが増えてる。信じられねえ」


 そのタブレットにある表示を見てみた。ネットワークに接続されているアセットやコンピューターの一覧。思った以上に膨大な数だった。軍のモノが圧倒的だが、中には民間のモノすらあった。政府系機関のものから、完全に私企業のものまで。範囲は膨大だ。所々、恐らく個人のモノと思われるPCのIPアドレスが記載されたものもあった。


「冗談だろ? 一体何をどうやったらここまで集められるんだ?」


「待ってくれ、民間にもいきわたっているのは思った以上の効果だが、何か仕掛けが……」


 和弥は疑問に思い、民間のSNSを漁り始めた。民間が協力しているということは、民間にも情報が出回っていることであり、それは大抵SNSを通じて一気に拡散されるのが常だ。和弥は適当にいろんなSNSを漁る。


 ……すると、


「……そうか、これか!」


 和弥は気づいた。リロードをしていた俺は、すぐに和弥の持っているタブレットをのぞき込んだ。



 ……そこでみたのは、





「……総理……?」






 彼の、“恩返し”であった…………

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