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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
序章 ~遭逢~
17/181

対面

 その顔は当然怪訝なものだ。訝しそうな目つきでユイを一瞬見た後、今度は俺にその視線を向ける。

 当たり前だ。男性である俺の部屋になぜかいるもう一人の異性。しかも、部屋の主が俺だけという一人部屋の中にだ。

 疑問を呈するのも当然と言える。今までだったらありえない状況だ。いくら豊富な知識を持っているあいつでもこんな状況は今までに聞いたことがないだろう。

 

 ……うん、ないだろうな。“人間同士”に限ったことなら。

 

 だが、今のコイツはまるっきり人間だ。見た目は完全に人間だ。ロボットと一目で認識できるやつはいない。

 

 ……そう、“ただ一つの特徴を除いては”。

 

 俺が和弥に声をかける前にまた向こうから声を発した。

 

「……? なんでお前の部屋に若い女性が……」

 

 そう言いつつ、その視線は再びユイに向けられる。それも、さっきより目を凝らしているようだった。

 ……そして、

 

「……ッ! ッ!!!???」

 

 案の定、少し間が空いたとはいえ和弥の目にも入ってしまったらしい。表情が一変し、手に持っていた俺のタオルが床にずり落ちた。

 そして、すぐに自分の目の異常を真っ先に疑ったらしく、指で目を擦っては見て、擦っては見てを数回繰り返した。それを、たった5秒も経たないうちに素早く繰り返す。その素早さが、今のあいつの心境を物語っているようであった。

 ……だが、視界に入る光景は変わらない。顔は一気にこわばって真っ青になる。若干ながら、体が震えているようにも見えた。

 

 ……まあ、そりゃそうなるだろう。奴を責めるべくもない。

 

「……あ……ッ!!」

 

 そして、思わずその光景に対して叫びだしそうになったところを……、

 

「あぁ……、あああッ!!」

 

「シィーーー!!!」

 

 即行で和弥の元に立ち、口を手で覆いつつ沈静を促した。

 ここで叫ばれてはマズい。ここ叫ばれたら確実に近隣住民という名の付近の部屋にいる奴が叫び声を聞きつけて大量の野次馬を作ってしまう。そうなるとその原因であるユイのほうに話題が向かってしまうのは確実だ。

 まだユイのことは多くの兵士には知らされていない。後に駐屯地内の人間には知らされるが、今この段階で知られたら確実にその外に広がるだろう。

 そうなったら政治的な面も含めて事が重大になる。


 だから、そうならないように水面下で静かに事情を説明し、それぞれで冷静に応対するよう求める手筈になっているのだ。 

 ここでばれたらそのための努力がすべて水の泡だ。コイツには少し落ち着いてもらわねばならない。

 

 叫ぶこと自体は阻止したが、その代わりに和弥が自分の口をふさいでいる俺の手を必死に叩いて、手を取るよう目線で要求する。よく見たらちょっとばかし涙目になっていた。

 あんまりふさいでおいて呼吸困難になられてもそれはそれで困るので、俺はすぐにとってあげた。

 

 少しの間呼吸が荒くなるがすぐに整った。

 そして、改めてユイのほうを見てまた叫びそうになったので、それを防ぐ意味も含めて俺は少し威圧をかけながら、かつ声を抑えて言った。

 

「大きい声は出すな。周りに気づかれる」

 

「え、ち、ちょ、ちょっと待ってくれ。こ、これはどういうことだ?」

 

 そういう和弥の声は、俺のその圧力的な雰囲気に半ば押されて声は抑えてくれているとはいえ、今までにないほど動揺している。その顔と状態は、今までの陽気なコイツとは思えないほどのものだった。

 一癖も二癖もあるコイツがここまで動揺するのはある意味初めてのことだ。

 

 そこで俺も俺で焦ったりしてはコイツの動揺を助長させるだけだ。いや、別にもう焦ったりはしてないんだが、それでもさっき以上に冷静を装っていった。

 

「どういうことって……、見たとおりだが?」

 

「見ての通りじゃねえよ! なんだよあれ! 人間の女性からケーブルが出てるんだけど!? いや、正確には繋がってるのかあれ!?」

 

 そういってまたユイのほうを見た。ユイもユイで突発的事態のためどういった反応をすればわからずただ呆然と俺たちのほうを見ている。だからこそ、あのユイの首に繋がっているコードがよく見えていたともいえよう。

 

 俺はそんな様子を見つつ冷静に応対する。

 

「まあ、繋がってるはいるな……。んで、それが?」

 

「それが?じゃねえだろ! お前は何とも思わねえのかよ!? 変に疑問持ったりしねえの!?」

 

「疑問ねぇ……。持ってなかったらそいつはたぶん人間じゃないわな」

 

「はぁ!? 何わけのわかんねぇこと言ってんだよ! 女性の首筋にケーブルだぞ? しかもお前の部屋にいるし! なぜかお前の部屋だし! お前どうせ事情知ってんだろ? どういうことか俺にもちゃんと説明し……」

 

 そのような長々とした文句に、思わず「はぁ~……」と少し長めのため息をついた。

 思った以上に動揺しているようだ。まあ、あんな非現実的な光景を見られたらそうなるのも無理はあるまい。案の定、といったところだ。

 まさしく、一番最初の俺のような状態である。

 

 あんまり話を引き延ばすのも億劫だ。確か、話によればコイツも……。

 

「落ち着いてくれ。その前にだな……、一つ確認をとりたい」

 

「え? あー……なんだ?」

 

「えっと……。お前、団長に呼び出されたか?」

 

「え? なんで知ってるんだよ?」

 

「やっぱり……」

 

 やはりな。団長の話の通りなら、たぶん近いうちに和弥にもお呼びがかかるはずだと思ったのだが、思ったより早くにことが進んでいるようだ。

 俺といい新澤さんといい、たぶん俺が受け持つ部隊の構成員予定の奴に関しては今日中に方をつけるつもりなのだろう。だから、同じく俺の部隊の構成員予定である和弥にもお呼びがかかったんだ。

 すると、さらに和弥はやおらこんなことを言った。

 

「……というか」

 

「?」

 

「むしろ、俺今さっきいってきたばっかなんだけど……」

 

「え、マジで?」

 

 その問いに和弥はうなづいた。

 

 驚いた。俺の思っていた以上に事態は進んでいたようだ。


 和弥の超簡単な話によれば、俺を団長室に送った後、少しして今度は自分にもお呼びがかかったので慌てて自室に戻って制服に着替え、その後急いで団長室に向かったらしい。

 その時、俺から預かっていたタオルをそのまま自室に置きっぱなしにしてしまい、自室に戻ってジャー戦に着替えた時にそのタオルを見て、俺に預けられてたのをすっかり忘れてたところを急いでここに届けに来て、今に至るということらしかった。


 また、団長室を出る際、ちょうど団長室に来た新澤さんと鉢合わせになったとも言っていた。となると、時系列的には俺の後に和弥が即行で呼ばれて簡単に説明を受けたということになるのだろう。

 新澤さんが先だと思っていたが、まあよく考えれば俺が団長室を出たあと時間をかけてやっていた施設案内が終わった直後に団長室に向かっていた新澤さんと鉢合わせた上、そのあと少しの時間立ち話していたしな。

 時間がある程度空いてたし、その間に和弥に事情を説明することもできなくはないだろう。

 

 そうなると、一応今までの和弥のほうの行動にも納得がいった。それなら話が早い。

 

 ……ということは、

 

「……てことは、お前もう団長から説明聞いた?」

 

「あ、ああ……。えっと、たしか、あれだろ? あのお前が隊長やるっていうやつと、あと……、その、ロボットのやつ」

 

「あ、やっぱりもうそこまで話いってる?」

 

「あぁ、まあ……。んで、詳しいことはどうせだからお前から聞けって言われたんだが……」

 

「そうか……、なるほどね。なら、なおさら話が早い……」

 

 そこまで和弥のほうでも話が進んでるならこっちとて説明しやすい。無駄な前置きの手間が省けたというものだ。というか、団長め、めんどくさい説明こっちに丸投げしやがったな?

 しかし、ここまでの説明でもやはり和弥は状況が呑み込めてないようだ。俺のほうを怪訝な表情で見続ける。

 

「ん? な、なあ、それがいったい何の関係があるんだ? それより彼女の説明をだな……」

 

「ああ、いや……、実は、今から説明することはそれにも関連しててな……」

 

「え? そうなのか?」

 

「うん……」

 

 まあ、和弥のほうでもそこまで話が進んでるなら話しても差し支えなかろう。今後コイツも大きくかかわることになるだろうしな。

 

「……まあ、とにかく、そういうことなら問題ない。わかった、事情を説明するよ。……あー、まあ、ここでもなんだ。中に入ってくれ。あ、タオルはそこにかけといて」

 

「お、おぅ……」

 

 とりあえず和弥を部屋に招き入れ、ドアを閉めた。今度は鍵をかけておく。

 和弥が落ちていたタオルを拾い上げ軽くゴミを払うと、ロッカー近くのハンガーにタオルをかけ、俺の手招き通りに俺の据わるソファの向かい側に床座りさせた。

 そして、左にイスに座っているユイを横目で凝視する。ユイはユイでそれとなく微笑みつつ和弥を見ていたが、それに対して和弥はちょっとバツが悪そうな顔をしていた。

 男二人の仲にいる異性という何とも異様なな空気に耐えれなくなったらしい。和弥のほうからさっそく話を振られる。その顔は、少ぉし圧迫的である。

 

「……んで、これはいったいどういうことなんだ? きっちりきっぱり説明してもらおうか?」

 

「ああ、わかった。じゃあ、お前も団長からある程度説明を受けてる前提で、そこにも軽く触れて説明するとだな……」

 

 そのあとは、簡単に事のあらましを和弥に説明していった。

 大まかな流れは新澤さんとほぼ同じだったが、すでに団長から説明受けてるということでもう少し詳しめに説明。

 そんで……、実はコイツロボットだぜ、って言った時のコイツときたら、

 

「…………はぁ?」

 

 思いっきり人を馬鹿にするような目でそう言った。ケーブル繋がってるの見ただろって思ったしそういったのだが、本人はそれはわかってはいるにせよ自分の本心まだうまく信じきれないらしい。首が機械でなんで信じれないんだよと思ったが、まあ、俺も半ば人のことは言えないのでお相子である。

 そうならばと、ユイの許可を得てそのユイの目を間近で見せた。

 機械的な眼を見ればさすがに信じると思ってのことで、案の定そうはなったのだが……

 

「………………はぁぁああ???」

 

 驚きを通り越してもはや呆然……、いや、それすらも通り越してもはや気絶寸前である。一瞬貧血でも起きたのかと言わんばかりに倒れそうになった。

 一応は信じてはくれたが、和弥はそのあとはずっとテーブルに肘ついて頭抱えて半ば呆然自失状態だった。そのあと説明した新設部隊のやつも、もうこれコイツの耳に入ってんのか?と言わんばかりの無反応、ないし無気力反応である。


「お前もロボット工学専攻してるから、技術的な面はある程度は理解できるだろ?」


「いや、まあ、それはそうだけどよ……。これ、技術的に何個かステップ飛ばしてないか?」


「同意。でもまあ、事実作っちゃったわけで」


「お前の爺さん何もんだよほんと……。あの人がそれほどのチートな人間だったとはな」


 一応、爺さんと和弥は面識がある。それほど多くあったわけではないが、互いの性格が影響してか結構仲は良いようだ。変態同士めが。


「俺もびっくりだよ。思わず叫んじまったからな」


「今が夜じゃなかったら俺も叫びてえよほんとによォ……」


 そういってまたガックシ。苦笑いでしか返せなかった。

 和弥も和弥で、俺と同じくロボット工学を専攻していた折もあったために、半ば俺と同じような、信じられないといった感想をお持ちのようだ。

 

 ……そう言った感じで、あんまり時間をかけずにぱっぱと説明を終わらせてしまう。

 

「……まあそんなわけなんだが……、質問は?」

 

 念のため、そんな一言を問いかけてはみるが……

 

「…………」

 

 和弥は相変わらず頭を抱えて俯いている。もう、そんなのに答えてる暇なんざねえよ、といった雰囲気がその体全体から発されているのがわかる。こりゃ、ある意味では俺より重症かもしれない。

 ……その代わり、俺は大パニックになったが。

 ちなみに、もう俺たちの話の途中からユイは再び読書タイムへ移行しました。続きを読んでます。静かな空間です。

 

 少しして、和弥がやおら顔を上げると思いっきり長いため息をついた。そんで言った一言が、

 

「……なあ、これは夢かなんかか? 俺らしくねぇずいぶんと悪趣味な夢だなおい」

 

 そんな、半ば現実逃避な内容であった。

 俺は軽く苦笑いしながら答える。

 

「ハハ、悪いが夢でもなんでもねぇよ。ここは現実だ」

 

「はぁ~……、いや、わかってはいるんだが……日本はいつの間にこんなもん開発しちまう技術を……」

 

「まったくだ。俺も最初は驚いたよ。そんなもん、今の技術でできるわけないってな」

 

「それが、まさか裏で隠しもってただけだったとはなぁ……。まったく、驚きあきれるとはまさにこのことを言うんだろうな」

 

「ああ、だろうな」

 

 その顔は互いにヤレヤレといった感じであった。和弥も和弥で、呆れつつもちょっとすごいと思っているような複雑なものである。別段、嫌悪しているわけではないようだが。

 左にいる読書中のユイを頬杖をつきながらみる。ユイが視線に気づいて自分を見た時は「ヒュ~」と小さく口笛を吹いてまた苦笑いしていた。

 まさに、信じらんねぇといった顔である。

 

「……これがロボットだって? ハハ、何にも事情を知らねぇド素人が見たら絶対勘違いするわな」

 

「ああ。外見からはロボットらしい特徴がほとんど見受けられない。まさに、人間そっくりだ」

 

「自分から出さない限りはな」

 

「あぁ、まったくだ」

 

 そういって互いにけらけらと笑う。そして、和弥はユイを見た。

 徐々にコイツの目も、驚愕から興味関心に移り変わっている。こういうものを見た時の目は誰しもが共通して子供っぽい。そこは、もう半ば規定事項のようなものとなっていた。

「ふ~ん」と軽くうなづきながら、全身を横目に見渡す。

 

「……ユイさん、だっけ?」

 

「はい」

 

 初の和弥との会話実現である。とはいえ、簡素なものであった。

 

「えっと……、とりあえず、自己紹介しとこう。俺は斯波和弥。階級はそっちと同じ伍長。あと……、そうだな、一つ特徴を入れるなら、昔から生粋のサバゲー民故、精密射撃は任せてくれ。これでも狙撃は大の得意分野だ。というわけで、以後よろしく」

 

 和弥らしい陽気な口調での自己紹介だった。後半いるかわからないが。

 

「こちらこそ。RSG-01Xユイです。以後、よろしくお願いします」

 

 座ったまま座礼である。和弥も思わずつられてそのまま軽く頭を下げた。

 そして、そのまま少しテンションがちょっと上がったらしくさらに陽気な口調でつづけた。

 

「うん。んで、彼女、今度から部隊に入るんだっけか?」

 

「ああ。俺が隊長やる新設のやつにな。お前も乗ったんだろ?」

 

「ああ、まあな。上の連中も、別にお友達内閣ならぬお友達チームで組ませたわけじゃないだろうが、それでも、中々信頼できるメンバーに固まったからな。乗らないわきゃないだろう。……それに」

 

「?」

 

 すると、また和弥はユイのほうを見ていった。

 

「……彼女も加わるって話だしな。まったく、申し出その場でうけといてよかったぜ。彼女みたいなかわいい娘とチーム組めるなんて、人生でそうそうあるわけじゃねえからな」

 

「まあ、実態はただの戦闘兵器ですがね」

 

「その実態像がこの美少女か。まったく、日本は正しい方向で間違ってるのか違う方向であってるのか……」

 

「ほんとな」

 

 そういって互いに半笑いである。とはいえ、こんなのは今に始まったことじゃない。

 

 ぶっちゃけ、日本は昔からそうだった。

 アニメで女の子が美少女戦隊やったり、擬人化したり、巨大化したり、小さい妖精さんになったり。そんな国だった。海外からは「Japanese HENTAI」やら「日本では美少女が国を守る」なんていう褒めてるんだかけなしてるんだかわからないことを言われる始末である。

 もはや、こういった役目は完全に女性が担当するような風潮になっていった。それがいいか悪いかは別として。

 

 ロボット開発もしかり。人間の姿に似せたロボットを作るときは、大衆向けなのか大抵は女である。

 とはいえ、リアル志向なので美少女かどうかはその人次第だが、それでも女である。ほぼ必ず女である。男がこういう役目負ったのを俺はほとんど見たことはない。

 

 ……今回もそのいい例だろう。何回も言ったが、コイツは国家機密級の戦闘兵器である。そう、“兵器”なのである。

 昔兵器が美少女化したゲームやらがいっぱいあったが、そんなのの比ではない。

 

 そんなアニメでよくある萌えネタを見事に実現してしまう爺さんも相当だが、それをガチで発案して実際にやり遂げてしまう日本技術陣の変態さもほんと大概である。尤も、そういった性格が、こうした技術を実際に作ってしまう原動力にもなっている側面もあるのであながち否定できるものでもない。

 

 ……そんな、日本特有の性格が成し遂げたといっても過言ではない代物が、俺たちのすぐ横にいるこの現状。

 俺はもうある程度慣れたが、和弥はまだまだ出会ったばかり。驚きはしなくなったが、代わりにちょっと苦笑いが多くなってきた。半ば、違う意味での呆れの部類である。

 

「しかし、中々面白いことになったじゃねえか……。俺と、お前と、新澤さんに……、コイツだろ? この4人でチーム組むことになるんだよな?」

 

「まあな。新澤さんもコイツが入るっていったら即行で話に乗ったし、お前も乗ったってことはもう完全にチームはこれで固定だろう。たぶん、今頃新澤さんのほうも話はついたはずだ」

 

「ほほぅ、なるほどね……。随分と異色な中身になったもんだ」

 

「まったくな。まさか、俺たちでまたチームを組めるとは……。サバゲーの時を思い出すな」

 

「ほんとな……」

 

 そんなことを呟いて昔を思い出す。

 そこに、割って入ってきたのはさっきまで空気だったユイである。

 

「あ、そういえば和弥さんはサバゲーやってたって……」

 

「おう。コイツとは昔っからサバゲーに興じてたんだ。あの時も一緒にチーム組んでたもんだよ」

 

「へぇ~……。あ、でも未成年でサバゲーってできましたっけ?」

 

「あぁ。許可証さえ出せば未成年でも普通にできるよ。……とはいえ、いろいろと保険に入ったりって感じで手続きが面倒だけどな」

 

「へ~」

 

 そうユイは軽くうなづいていた。

 

 サバゲーと聞くとどうしても大人の遊びというイメージがあるように思われるが、実は許可証さえだせれば未成年でも普通にやれる。

 俺が学生時代にいたチームには小学生の子供まで親と一緒に参加していた。中には家族ぐるみで参加してる人までいる。

 案外、そこら辺はオープンな遊びである。とはいえ、保険や使用可能な銃などの面でいろいろ規制はあるが。

 

 その中で、俺は中学時代から和弥とサバゲーに興じていた。そんで、一緒にチーム組んではジョーク投げ合って撃ちまくってで楽しんでた。なお、このジョークはアメリカン映画を見すぎた結果である。

 それのせいか、和弥に限っては“なぜか”狙撃が得意になっていた。

 本物と電動ガンの狙撃銃はまた扱い方等々の面で違うはずなのだが、それでもこの現在の彼の能力の高さである。

 その適応力はどこから来たのか、本人すらわからない永遠の謎となっている。

 

 ……と、そんな会話をちょっと重ねていると、

 

「……お?」

 

 ふとPCの画面を見ると、ピコンッという効果音と共にさっきまで仕事していたプログレスバーが消えて、そのウインドウの中に『転送完了』の文字が表示された。

 さっきまでやっていたデータの転送が終わったらしい。気が付けばもうそんなに時間が経っていた。

 

「転送終わりました。そちらで確認おねがいします」

 

「あ~いりょうか~い」

 

 とはいっても、ぶっちゃけ確認するまでもなかった。

 中身を確認すると、何やら長々と書かれた数字やらC言語やらが書かれていたが、それらを確認するとどれほど膨大な量かがうかがえた。しかし、それらは一文字もかけずにこのPCに送られていた。

 ……よほど高性能らしい。初っ端からこのPCに適応させて送るとか結構簡単なことではないはずなのだが、やはり最新型は格がちがう。尤も、それについていくこのPCも相当だが。

 

 とりあえずデータを圧縮。機密暗号化も済ませ、厳重にプロテクトを施しておく。あとはメール機能にこれを載せてサーバー最下層行きにっと……、

 

「それ、例のデータの奴か?」

 

 和弥が俺のその作業を見つつそう言った。

 手を止めず、そして視線も変えずに少し早口めに答えた。

 

「ああ。今日からこれを毎日だぜ。中々大変だ」

 

「まあそういうな。そこらへんに長けてるお前だからできることだ」

 

「おまえだってこんくらいはできるだろ」

 

「お前ほどじゃない」

 

「あぁ、そう」

 

 その間にさっさとデータの擬装を済ませていく。あくまで今回は普通のデータに見せかけてデッドドロップよろしく最下層においてくるだけ。簡単な作業だ。

 メールに圧縮データを添付して、作成完了。

 

「……ほい、じゃあいってこい」

 

 そう一言添えてエンターキーを押す。

 すぐにウインドウにメール送信画面が表示されるが、すぐにそれは消えた。送信は完了である。

 俺はデータを送ると気の抜けた声と共にソファの背もたれに腕を伸ばしながら延びた。比較的短時間とはいえ扱っている代物が代物ゆえやはり気が気でならないのである。

 

「ふぃ~終わったぁ~。……ったく、これを毎日とはしんどいぜ」

 

「何をぬかすか。お前ほとんどなんもしてねぇくせに」

 

「言ってくれるな」

 

 そしてまた互いに「へへッ」と小さく笑う。

 その間にPCも落とす。USB接続の時と同じく、通知領域からハードウェア取り外しの手順を追って接続を解除し、ケーブルもとった。

 今日はもうPCはいいや。初っ端の高処理でコイツも疲れただろうし、今日はこれで休ませてやろう。今日はさっさと寝るんだな。お前も結局はコンピューターだろう。

 

「……あれ?」

 

 ふと、俺は視線を移してそんな声をだした。

 右を見ると、なぜかユイがケーブルを外していなかった。もうデータ転送は終わったしもう用済みだと思うんだが……何かあったっけ?

 

「すいません、コンセントどこですか?」

 

「え、コンセント?」

 

 唐突にそんなことを言われる。コンセントなんてすぐそこなんだが……。あ、そうか。

 

「(……そういや一日一回は充電するんだっけ)」

 

 確か資料にそんなことが書かれていた。そうか、人間で言う睡眠はコイツにとっては充電時間になるんだっけか。

 とはいえ、バッテリーが高性能なおかげで一回充電したら最低1ヶ月は余裕で動ける仕様だって聞いてたんだが、まあそこはあれだろう、常に満タンでいるに越したことはないってことだ。携帯だってまだ充電切れてないのに夜寝ってる間に充電するのとおんなじだ。

 

 ケーブル繋いでたのはそれか。となると、ちゃんとACアダプタを介しての充電になるんだろうな。

 

「コンセントはそのイスの横な。それ使え」

 

「……あ、これですね。では、失礼して……」

 

 すると、今度はまた足ポケットからケーブルを取り出した。片方の先はACアダプタ付きのプラグとなっており、それの逆側にコネクタを差し込むUSBポートが付いている。

 それに差し込むと、プラグをコンセントに差し込んだ。はい、充電開始。

 

 ……それの動作を見ていた和弥がちょっと小さくため息つきながら一言。

 

「そうか、ロボットだから充電だけでいいのか」

 

「はい。人間のように食物の摂取はできないので」

 

 ロボットゆえの特徴である。とはいえ、これはロボット全般に言えるから今に始まったことじゃない。

 ……が、見た目人間ゆえなんとなく確認がてらそんなことを言っているのだろう。こうでもしないと、見た目とのギャップを自分の中で処理しきれない。

 

 すると、今度はまたため息をつきながらうらやましそうな目線を向けていった。

 

「はぁ、そこらへんはいいよねぇロボットは。人間のように三回くらい飯食わないと満足に動けな~い、なんてことにはならないんだからさぁ」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうもんだよ。それこそ人間は飲まず食わずで生活しても数ヶ月は生き残れるが、その間はとても過酷なもんだ。その間に病気にならない保証はないし、免疫はすこぶる低下してるから、下手すりゃ普通は勝手に自然治癒してくれそうな小さな病気が足かせになって死ぬなんてこともあり得なくはない。リスクがでかいんだよ。その点ロボットはいいよ。最低1ヶ月はちょっと日は浅いけど、その間はまだ万全に動けるんだからよ」

 

「中には5年やら、インドには70年間飲まず食わずでいたって奴もいたがな」

 

「あれは俺からすればあり得ねえよ。飯とかの固形物ならまだしも、水分すらとらないで年単位で生き残るなんて無理難題な話だ。人間は成人が60%~80%ほどが水分でできてる。その中で数%失っただけで脱水症状、10%からは健康障害、さらにそこから数%消えただけでもう死亡だ。それだけ人間ってのは水分に依存してる。そんな中で70年も何も摂取しないで生きるなんていったいどんな体構造してるのかって話だ」

 

「……じゃあこれデマか?」

 

「さあね。だが、もしこれが本当ならそいつはいろんな意味で人間じゃねぇ。でも、それ確か喉のうがいはしてたって話だったから、たぶんそれで水分は接種できたと思うぞ。知らないうちにちょっとの水は喉を通ってた可能性もある。あと、5年の奴は水自体は接種してたからそれでなら一応生存は可能だよ」

 

「ほ~う……」

 

 よくまあそんな細かいところまで知ってるもんだ。コイツの情報量は中々のものである。

 水さえ摂取していればある程度は長く生存は可能だとは聞いていた。だが、その固形物の中にも必要栄養素は含まれているはずだから、その水にその栄養素が入ってないと体内バランスが崩れてしまってそれはそれで病気とかの原因になりそうなものだが……。そこは人間の体内が勝手に適応とかしてるんだろうか。

 そう考えると、ロボットすげぇって言ってる俺たち人間も大概だな、と不思議に思えてしまう。

 

 ……しかし、そう思ったのは俺だけではないようだ。

 

「……和弥さん、詳しいですね」

 

 そうふと言ったのはユイであった。

 情報量が高いという認識はロボットでも同じだったらしい。和弥は鼻を長くしている。

 

「まあ、コイツは情報屋の側面もあるからな。コイツのもってる情報量は結構なものだ」

 

「情報屋?」

 

「まあ、いろいろな情報を提供して利益を得る人のことを言う。とはいえ、コイツは利益はもらわないで、依頼受けるたびに無償提供してるけどな」

 

「無償でですか?」

 

「まあ、半ば暇つぶしでやってるからな。というか、俺自身もほかに負けてないのが狙撃とこれくらいしかないゆえ」

 

「へぇ……。そのうち私の情報も即行で手に入っちゃうんでしょうね。いらないところまで」

 

「機密情報なんぞ提供できるかい」

 

 ユイが若干目をそらしつつ言っているのをすかさず和弥がツッコんだ。コイツにしては珍しくツッコミに回る。

 ユイの目が細い。たぶん人間で言う遠い目をしているのかもしれない。……ボケに値するのだろうかこれは。

 そのうち、ロボットが本気でボケる日も近い……。来てうれしいのかそうでないのかはまた別として。

 そうなると俺がツッコむ機会も増えて……うわ、毎日が疲れてしまう。

 

 ……すると、また話題が変わった。

 

「……なぁ、なに読んでんだそれ?」

 

 ユイが読んでる本のことだ。未だに最初に手に取ったやつを呼んでいる。とはいえ、もうそのページは半分を過ぎていた。速読の速さが早いな。さすがはロボット、文章認識が早い故速度も速いってね。うらやましい限りだ。

 

「あぁ、SFです。祥樹さんから借りました」

 

「SFねぇ……。お前はユイさんをSFオタクにする気で?」

 

「なんでや」

 

 落ち着け。これはコイツが自発的に読みたいって言ったやつだ。俺は無実だ。

 

「コイツが読みたいって言ったから読ませてるだけだ。俺は関係ないだろ」

 

「さぁてね……、わからんぞ? お前の持ってるSFはほとんどがロボット系だ。自分自身のような人間そっくりのロボットが大量に出てくるのばっかりだ。それを読んでいるうちに人間そっくりのロボットが好きになる。そしてそれは自分自身が好きになったのと同じになるからつまり……」

 

 

 

 

 

「……まさかのユイさんナルシスト化?」

 

「おいどんな考察だそれ」

 

 

 

 

 

 どんなひねくれた考察だよ。ロボットがナルシストってアホか。そもそもその中身をどういう意図で読んでるのかがわからない中でそんなこと言ったって無駄だろうに。

 

「な、ナルシスト……」

 

 当の本人もどういう反応すりゃいいのかわからないがためにこんな苦笑いだよ。ナルシストの意味自体はさすがにわからないことはないだろうが、むしろわかってるが故での苦笑いだろう。

 自分がナルシストってどういう状態だよ。俺もユイ本人もわからないよ。想像ができない。

 

「……でも見てみたくね? ナルシストなロボット」

 

「おまえの脳内妄想だけにしてくれ」

 

「じゃああれか? お前と一緒にいすぎた結果、お前みたいに活発だけと役割的にツッコミに回るっていう……」

 

「なんでそうなるんだよ」

 

 そりゃコイツのAIは学習型でそれは人間並みではあるが、その学習の方向が俺と同方向に行くとかそんな都合のいい話があるか。

 俺みたいな性格って何だ。たまにハイテンションなツッコミくらわすのか? そんでもって実戦訓練中はアメリカンジョーク交わしまくるのか? そんなユイあんまし想像できないんだがなぁ……。まあ、そっちに関してはなったらなったで面白そうではあるが。

 

 

 ……そんな会話が少しの間続いた。

 和弥も最初は慣れない様子ではあったが、それでもロボットとの会話というのは中々体験できないことゆえ、結構途中からは面白半分で話を挟んでいた。

 

 というか、最終的には……

 

「……ロボットといえど女性だ。そのうち、彼女はコイツに落ちるかもな」

 

「え?」

 

「おいちょっとまて落ちるってどういう意味だ?」

 

「何言ってんだ。男女で落ちるっていったらあれしかあるまい」

 

「……あれ?」

 

「いやいやちょっと待てその理屈はおかしい」

 

 ユイがあれの意味をしらなくてよかったのかそうでなかったのか。ロボットがそういうのに落ちるとか、そんなことはまずない。そういった思想を理解できるわけでもないだろう。

 コイツはあとで締め上げとく事にして……。しかし、もしそれを理解した日にはユイは……。

 

 ……いや、よそう。フラグになりそうで怖い。違う意味で。

 

 ……と、そうしているうちに、

 

「……あれ?」

 

「? どうした?」

 

 ユイが何かに気づいたようにそう言った。

 また右のこめかみを軽く触れる動作。そして、その体勢のまま言った。

 

「……もうすぐ点呼ですけど、部屋に戻らなくていいんですか? そろそろ当直回ってきますけど……」

 

 どうやら時間を見ていたらしい。自分の視界にデジタル時計でも表示されてるんだろう。うらやましい限りだ。

 和弥も部屋の中にあるデジタル時計を見た。時刻はもうまもなく点呼時間である。

 国防軍での点呼は起床後と就寝前の2回行なわれる。それに間に合わないと、腕立てなどの何らかの罰則が待っている。

 俺は個人的には今までされたことはないが、和弥は何度かやらされた。原因の主な理由が他人の部屋にお邪魔して時間を忘れるというのばっかりである。


 時刻を見た途端顔も少し焦ってくる。というか、若干青い。

 

「ヤッベッ、もうこんな時間じゃねえか。ひぇ~、腕立てはもう御免だ」

 

 そう言いつつ立ち上がり、適当に熱かったらしくて脱いでいた迷彩を羽織る。ついさっきまでシャツ一枚だった和弥。もう4月後半といえど寒くないのかと思ったが、考えてみればこいつは道産子だった。寒さとかは全然どうってことないか。かくいう俺も雪国青森出身だが。

 

「じゃあ祥樹、俺はこれにて失礼するぜ」

 

「あぁ。じゃあまた明日……」

 

 と、そう言おうとした時である。

 

「あ、それと……」

 

「?」

 

 すると、和弥が何かを思い出したように「ちょいちょい」と小さく手招きしている。目を少し細め、ちょっと話がある的な顔をしている。

 俺は怪訝な表情をした。話ってこのタイミングでいったい何を考えているのか、例の団長から説明された案件のことならすでに話はついたはず。

 

 妙に思いながらも俺はとりあえずドアのほうまで出た。すでにカードキーでドアを開けている。

 そこで、和弥のもとに立った。

 

「なんだ和弥、早くいかねぇとまた腕立て……」

 

 しかし、俺の言葉を全部聞く前に向こうから言葉を挟まれた。ユイに聞かれないようにしたためか、いささか小声である。

 

「お前、彼女を“あの娘”にかぶせてるだろ?」

 

「……え?」

 

 突然と言われたことに思わず固まってしまった。瞬時に顔の表情がぎこちないものとなる。

 対して和弥の顔はしてやったりと言わんばかりニヤケ顔である。

 ……コイツには、すべてお見通しであるかのように。俺の本心を見抜いているような表情だった。

 

「……何が言いたいんだ?」

 

「本棚の上にある写真たてが伏せてあった。写真を見せないようにな。……別段彼女にしてみれば仮にみられても問題なさそうなものだったはずだが? まあ、“確かに似てはいるが”」

 

「それはそうだけど……」

 

「……要はそう言うことだろ? まだ、お前の中でも迷ってるってことだ」

 

「……」

 

 ぐうの音も出ない。すべて、コイツに御見通しだった。

 写真たてが伏せてあるところだけで、そこまで読まれるとは……。コイツも、さすがにかつて俺を助けただけある。

 こういうところに関してはコイツには全くかなわない。嫌な性格してるくせに、こういうところだけは鋭い。

 まったくもって、親友ではあるが中々厄介なやつだ。

 

 参った、という意味も込めて少し小さなため息をついてしまう。

 

「……いや、別に迷ってるわけじゃない。ユイはユイだ。あいつとは関係ない」

 

「ほう……、ほんとにか?」

 

「ほんとだ。信じてくれ」

 

「いや、別に信じないわけじゃないんだが……、まあ、それなら別にいい。あんまり深く考えんなよ。彼女は彼女だ。一人……、じゃなかった、一体の仲間であるだけなんだからな」

 

「わかってるっての」

 

 そうはいっているが、しかしこいつはまだ顔をにやけている。何を言いたいのかは大体俺でも察しがついたが、だからこそ俺も少し頬をひきつらせてムスッとさせてしまう。

 ほんとに、嫌な性格である。とはいえ、これがあったからこそ今の俺があるともいえるが……。だから、頭が上がらない。というか、文句が言えない。

 

 ……まあいい。昔話はここでは抜きだ。

 

「……はぁ、もういいだろ。ほれ、さっさと行け。腕立てやらされても知らんぞ」

 

「へいへい。んじゃ、また明日」

 

「おう、また明日」

 

 そういって早足に部屋を出ていった。

 そしてチラッと振り向きざまにまたドヤ顔を置き土産に残していく。一瞬ではあったが。

 ……どう返せばいいのかわからず俺は少し顔をひきつらせていた。何か俺からも返そうかと思ったが、それは喉の奥にしまう。

 そして、何かをあきらめたようにまたため息をついた。

 

「(……あいつにはかなわん)」

 

 俺は改めてそう確信した。あいつには隠し事は無理だと。

 とはいえ、こればっかりは……。時期は見るつもりだが、今は見逃してくれ。

 

 まだ……、今はその時じゃない。いくらなんでも早すぎる。

 

 あいつだって、こればっかりは理解しているはずだ。もう少し時間を置いたって罰は当たるまい。

 

 そんなことを思いつつまた部屋に入る。もうすぐ俺たちにも点呼が来るが、鍵はかける。

 

「何の話だったんですか?」

 

「いや、特に何も。個人的事情だ」

 

 ユイからのフリにもそっけなく返した。それ以上聞いてこなかったのが今は救いだ。今問いただされたらさすがに何も答えれる自信がない。

 

 

 そのあとは特に何もすることなく暇して過ごした。

 点呼が回ってきたときはさっさとドア前で済ましてベットインスタンバイである。

 今日は点呼前までいったんベットで寝るつもりが、こんな展開になったが故に今度は十分寝れるか不安になってくる。

 ……理由なんていう間でもないだろうが……、

 

「(……隣にコイツいるんだがなぁ……)」

 

 ……いや、別にベットの上で、ってことじゃない。そんな一線越えたわけじゃない。そんな勘違いした人は後で警務官呼んでくるからそちら御用になってくれ。

 ユイはユイでイスに座ったままでいいらしい。人間みたいにベットに横になる必要もないようで、シングルベットでスペースもない俺に配慮してくれた。

 ……仮に寝れるスペースがあってもこっちから御免だが。そんなの無理である。


 

 とはいえ、ロボットにも一応睡眠というもの自体は必要不可欠のようだ。

 さすがに毎日毎日ずっと使いっぱなしでいると、体内機器の熱がたまって動作の不具合や処理能力低下等の原因になるらしい。従来のコンピュータと同じある。

 戦時中なら、そうなることも想定されているし設計上はそれも考えているのではまだ対応できなくはないが、平時の時にまで必要以上の無理はかけれないので、こうして睡眠によって機器の熱を冷ましたり処理を休ませたりなどして、それらが原因で起こる異常の発生を抑止するのだ。

 ……ただし、地震などの突発的事態の発生を想定してある程度はすぐに起きれるよう電源は最小限度は常に入れているらしいが。

 

 そんな発見をしつつ、まもなく午後の10時半である。就寝時間はその時刻ピッタシで、その時間になると消灯ラッパがなるはずだ。

 その前に俺はそのままのジャー戦状態でベットの整理。

 

 ……そうしているうちに、

 

「……お」

 

 消灯ラッパが鳴った。今にも眠くなりそうな寝たくなるような、そんなゆったりしたメロディは自衛隊時代から全く変わっていない。

 その音と共に、俺はすぐに部屋の電気を消した。今この部屋を照らしている明りは、部屋の窓から入ってくる綺麗な月明かりだけだ。いつのまにか外は晴れていたらしい。

 しかし、まだ目はこの暗闇に慣れない。慣れたら慣れたでまた眠気が覚めそうなのでさっさとベットイン。

 

「……んで、ほんとにイスにすわりっぱでいいのか?」

 

 念のためもう一回確認。見た目的にやっぱりどうしてもきつくないかと思ってしまう。

 しかし、そのような心配は杞憂だったらしい。

 

「ご心配なく。これでも問題ありません」

 

「ん。そうか」

 

 なんら問題はないようです。イスに座ったまま寝るとか、うらやましいのやらそうでないのやら。

 

 俺はそのまま布団にくるまった。

 

「んじゃ、お休み」

 

「はい。おやすみなさい」

 

 お互いのお決まりの言葉を交わしながら、今日の分の睡眠に入った。ロボットと寝る第1夜である。


 布団にくるまって寝た後も、やっぱり気になって少しユイのほうを見る。

 ちょうどベットヘッドの隣すぐそこにユイの座っているイスがあるので、寝ている姿勢から右側をみるだけですぐにその姿を確認できた。

 

 耳を澄ますと、ほんの少しだが呼吸をする音が聞こえる。

 やはり何らかの緊急事態に備えて電源自体は切らずに、若干低出力で最低限の機器だけは稼働させているため、その分の機器の熱排出はしているらしい。

 だが、それ以外は全然動かない。ピクリとも動かない。

 まるでそこだけ時間が止まっているようであった。それだけ、コイツは全然動かない。

 

 ……なんとなく、そこはロボットらしいな、とも思えた。

 

「……」

 

 そんなユイを見つめながら、少し思い出す。

 

 

 

 “あんまり深く考えんなよ。彼女は彼女だ”

 

 “一体の仲間であるだけなんだからな”

 

 

 

 和弥が、去り際に言ったその一言である。

 俺の脳内で、その言葉が反響して響いていた。

 

「(……ただの仲間、ね)」

 

 ……はぁ、知ってるよそんなの。そう、知ってはいるよ。

 

 ……だが、どうしても思い出しちまうのは理解してくれ。いや……、してるからこそ、あいつはあえていったのか?

 そこらへんの真意はあいつにしかわからない。あいつなりの考えがあってのこの言葉なのだろう。

 

 ……しかし、そうはいっても始まらない。あんまり過去に執着するものあれだ。

 

 コイツは、今日からちゃんとした、れっきとした俺たちの仲間となる。

 

 あいつとは違う。ユイはユイだ。別々に見ていかねばならない。

 ……どうしても思い出してはしまうが。

 

「……」

 

 俺はため息を少しつくと、また視線を逆方向にそらして眠りについた。

 

 先ほどまでのあわただしい騒音から離れ、静かな静寂があたりを支配する。

 

 

 

 

 

 明日からの、新たな生活のために、今日の分の静かな眠りについた…………

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