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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第9章 ~終末~
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贅沢な選択

繋ぎのため短めに終わります

 ―――新豊洲駅付近まで来た後は、持参したロープを使って道路上に降りた。

 本当はここから晴海通りを北西に行けば一直線に目的地に向かえるのだが、途中の勝鬨橋がまだ死んでるので、実は進軍ルートとして指定されていない。再奪還作戦を前に、ルート外の場所からある程度戦力が抜かれているため、ここら辺は閑散としていた。


 まだまだ暗いこの時間帯。近くに放置された車が幾つかある。すぐ近くにあったリパーク新豊洲駅前の駐車場にもあったが、鍵がかかってるやつを即行で見つけ出し、それに乗ってとりあえず勝鬨橋前まで向かった。

 監視は付近の川や運河の方が厳重で、陸の方はあまりいない。UAVを使って味方がいる位置を把握し、見えない場所を通るように時々迂回しながら走った。勝鬨橋の前までくると、適当な場所に車を乗り捨て、橋の目の前まで来た。


 普通は、ここに連絡ボートが幾つか常駐されているはずであった。しかし、目の前の隅田川の警備のボートが常に右往左往しているので、うかつに一直線に対岸に行こうモノなら即追跡される。数が多いので、たぶん一瞬でも誰もいなくなるタイミングを見計らうというのも無理であろう。


「(……ショートカットは無理だな)」


 いったん迂回することに決めた。近くにあった船着き場に放置されていた小さめのボートを回収。そこから南東に進み豊洲運河に出る。その後、島沿いに北上し、隅田川との合流地点にある中央大橋の付近で、また降りた。

 中央区新川地域。もうここからは本来は封鎖されている地域である。本当はこんな簡単に入れないのだが、隙が無いわけではないし、そもそも誰かが海上からこの地域に入ることを想定もしていない。


「こっからは走るぞ。んで、今何時?」


「午前4時05分。もう1時間切ってます」


「十分だ。歩いても30分前後でつく。こっから走るなりすればいい」


「戦闘時間考えてます?」


「考えつつ、ってところだな」


 曇り空の夜空の下。ほとんど明りがない中で、俺らは銀座一丁目駅へと向かい始めた。

 走りながら、そして疲れたら休憩しながら、慎重に目的地へと足を進める。案の定、敵はもうまばらだ。先のメリアや脱出した人質の奪還のために、相当数を割いてしまったらしい。いたとしても、もう長期間動かしっぱなしでガタがきているロボットと疲れ切った人間である。逃げ足ならこっちの方が何倍も上であった。

 時々、そのロボットを目にする。すぐに隠れるが、見るからにもう動くのが限界に近そうであった。無理もない。奴らはユイみたいな非接触型の充電機能は備わっていない。あいつらはもう数ヵ月もずっと動きっぱなしだ。充電がよくもったなとは思ったが、あの様子、ついに充電支援がなくなったようだな。


「……誰も来ませんね」


「来ないな。」


 この調子なら、幸いにして、このペースなら30分以上前に到着しそうである。恐らく、今後のケラウノス計画実行のために銀座一丁目駅周辺はガッチリ警備されているだろう。ここら辺に人がいないのは、そういう理由もあるのかもしれない。

 結果的に向こうには早く早く着きそうだが、早めに終わらせて損はない。元より、もう5時まで1時間を切っており、再奪還作戦決行と宇宙からの攻撃までの時間が迫っているため、本当は車を使いたい気分ですらあるのだ。


 だが、それを使うことがなく、ずっと歩いたり走ったりしているためか、ユイがなぜか飽きてきてしまったらしい。暇つぶしを始めた。


「さすがに暇しません?」


「バカ言え。暇してる余裕なんてないんだよ俺らには」


「そりゃそうですけどね、なんか暇をつぶせる話題なんかをですね」


「お前はもう少し危機感っていうものをだな」


「ある程度は気楽にいかないと寿命縮みますよ」


「お前が言うかお前が」


 メンテすれば理論上は半永久的に生きながらえられるであろうロボットと、神によってか宇宙の輪廻によってか、はたまた単に偶然の産物かはわからないが、どれだけ長くても百十数年で死ぬ人間とはわけが違う。

 実際にそうなるかは別として、こいつはやろうと思えば幾らでも生存できるのだ。データだけを別の新規のボディに移すということを何度もやっていけば、何百年何千年と生きることだってできる。人間の不老不死フィクションでたまにこれの応用だってされる。技術はないが。


「私は死ぬときはありますかね」


「データが破損したら死ぬんじゃねえかな」


「妹はどうなったんだろう」


「生きてることを祈るしかないんだよなぁ」


「仮に亡くなってたら墓ってできますか?」


「ロボットの墓なんざ聞いたことねえな。ほしいか?」


「別に」


「ほう、そこら近所にスクラップにされるぞ?」


「機械はそれでいいですよ。有機物じゃないんで」


「無機物らしくつめてぇ~……」


 久しぶりにコイツのロボットらしき冷たさを感じた気がする。認識の違いであろう。墓だって、その対象たる生物の魂を祭る意味も込めているが、ロボットであるユイに魂なんてあるんだろうか……。我らが八百万の神々は、ロボットにも魂を与えて下さっているのだろうか。


「でも、そういうところは人間は自由でいいですよ」


「何が?」


「いえ、そっちは生に対して自分で自由に扱えるので。私はそういうのは許されず、基本的に決まった生き方しかできませんからね」


「まあ、それもそうだが……」


 自由過ぎる所もなくはないが、まあ、自由度の高い人間と逆に低いロボットとは生き方も違うだろう。ロボットなりにそれを理解できる当たり、相当頭いいのは間違いない。今に始まったことではないが。


「人間なんて、自らの命捨てられるじゃないですか」


「自殺か」


「そうそれ。ロボットはそれができないんですから」


「なんだ、自殺したいのか?」


「まさか、こんなにも面白い世界と友と相棒に恵まれてるのに、捨てるなんてもったいないことできるわけないですよ」


 けらけらと笑いながらそう言い放った。元より、こいつなんて自殺のじも考えなさそうな性格しているが、ロボットにとってみれば、それはそれで別の見方からすれば"羨ましい"のだという。


「良し悪しは別ですけど、生きるか死ぬかを選択できるっていうのは、生き方の選択肢が最大限幅広い証拠ですよ。私はそれすらできないんですし、許されないんですからね」


「目の前に溶鉱炉があったとして、それに自ら入って燃えていくって発想はあるのか?」


「できてもしませんよ。ついでに親指もたてませんし。それ以上にやることがあるって自制しますから」


「発想はできるけどやれないって感覚がわからん」


「言語化は難しいでしょう。そこは実際にロボットになってみないと」


 人間がなれるのはせいぜいサイボーグぐらいだと思うが……まあ、ロボットの一歩手前ぐらいではあるか。脳は人なのだが……。


「生死を自ら選択できるっていうのはある意味贅沢ですよね。自殺は忌避されてはいますし、まあ、余りいいイメージはありませんけど、"自殺もできる"っていうのはロボット的には少し羨ましいところはあるんですよ。自由にやれてることの象徴染みてる、っていえばちょっと誇張かもしれませんけど」


「自由か……」


 確かに、極端な話ではあるが、生きるか死ぬかはその人の人生であり、その人の人生の選択において他者が強制的に介入するための権利がこの世にあるのかと言われれば、また難しい頭の体操を強いられることとなるだろう。

 自殺できる人間は贅沢な生物だ。どっかの日本の小説家が「人間にだけできることは創造、信仰、自殺」だと言ったとか言わなかったとか。だが、実際その通りだろうとは思う。

 実際問題として、良し悪しは別にしても、自殺は贅沢な選択だろう。人間はたった一回限りの人生を贅沢に使っている。それが、たった一回で、一回過ぎ去ったらもう後戻りはできないコンティニューなしリセットなしのハードモードであるにもかかわらず、それを毎回毎回考えて人生を送っている奴なんてどれだけいるであろうか。


 ……自殺は、最高の贅沢なのだろう。現代日本においては、その贅沢を全うすることがよくあると言われている。先進国の中でも特にそうだ。

 そして、俺もかつては……


「……自殺か、懐かしい思い出だ」


「はい?」


 思わずふと漏らした言葉に、ユイが反応した。若干眉をひそめて、怪訝そうな表情をのぞかせながら言った。


「自殺がですか?」


「ああ。小さい頃の思い出だよ」


「自殺が思い出って、そんなまさか。自殺未遂でもしたんですか?」


 呆れ笑いに近い笑みを浮かべ、小さく「ハハハ……」と失笑していた。そんな彼女にとっても、この答えは想定外だったに違いない。


「ああ」


「ハハハ、そりゃあ意外なこって…………」


 そこまで言ったあと、数秒ぐらいそのまま何も言わずにいて、



「…………、は?」



 3~4割ぐらい威圧が混じったように声のトーンが下がった。

 ……この時になってようやく気づいた。あー、そういやこいつにまだ話してなかったわ、"あれの続き"。


 そして、軽く声を震わせた状態で、恐る恐る聞いてきた。


「……待ってください、今、なんて言いました?」


「ああって」


「まさか、自殺未遂をしようとしたことを肯定した意味で言ってます?」


「……そうだよ」


「ッ!?」


 ユイの足が止まった。相方が突きつけた新しい事実。今まで、俺は確かにそんなことするような面を出した覚えもないし、たぶんそんな性格にも見えなかっただろう。小さく「うそでしょ」と、声は聞こえなかったが、口が動いていたのは確認できた。たぶん、小さく呟いたのだろう。無理もないか。


 ……だが、ちょうどいいかもしれない。何れ話すときがあれば話しておこうとは思っていたところだった。


 アイツがさっき言っていた"暇つぶし"には最適かどうかはわからないが、目的地に向けて歩きながら、俺は静かに話し始めた。



「……どうせだから今のうちに話しておくか。俺は昔―――」






「―――一回だけ、あの戦争のせいで"本気で自殺しよう"と思ってた」

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