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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第9章 ~終末~
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雷霆

 ―――彼女が残したSDカードが齎した情報は、余りに多岐に渡るものだった。


 全ての発端から始まり、その後の計画遂行、途中経過の一部始終、そして、実行後の記録まで。一体どこからこんなに集めたんだと言いたくなるほどだった。

 中には、彼女のルーツとなる部分も含まれていた。


 事は数ヵ月前から始まっていた。私幌市での訓練の際、爆薬入りのIEDをハッキングで解除した時があった。間一髪で食い止めることができめでたしめでたしで終わったアレ。あれも、実は彼らが仕込んだものであった。

 しかし、その内実は違う。表向きは、ただの爆破テロであったし、俺らもてっきりそうなのだと思っていた。だが、実際は、“ユイのデータを奪うため”のツールに過ぎなかったのだ。


 爆破のための工作はしていたし、実際にうまくやれば爆破させる予定であったのだが、メインはそれではない。ユイが、USB接続を用いてハッキングによって起爆解除を図ることは既に読まれていた。ハッキングを行う際、自動的に偵察型ウイルスをひそかに仕込んで、重要情報を読み取っていたのだ。

 ユイのAIシステムは演算処理がハッキングに集中していたうえ、彼が入念に練り込んだこの偵察型ウイルスは、そんな状況下にあるシステムの監視を潜り抜けることに成功した。ユイが気づかなかったのはそのせいだった。

 そもそも、ウイルスそのものはあくまでUSBによってリンクがされた際、外部から読み取れるだけの情報を読み取るだけの仕様で、ユイの中に直接深く入り込んだりしたわけではないらしく、システム側がそれを確認することはできなかった。ユイの警報が鳴らないのも頷けるものだった。


 兆候がなかったわけではない。ハッキングをしているさい、やけに処理が長いわ発熱がひどいわと、見た感じ高度な処理をしているように思えていた。ユイの額に触れた際、IHヒーターに炙られたフライパンか何かかと言わんばかりの熱量に、思わず火傷しかけたぐらいだった。

 当時、それは室内の密閉性による高湿・高温の環境が機能低下を引き起こし、それによる強引な高負荷処理によっておこったものだと思っていた。それは恐らく間違ってはいない。

 だが、これらの情報を見る限り、原因はそれだけではなかったのだろう。実はウイルスがユイのシステムを読み取る際の処理が、USBを通じて直接リンクしていたこともあって、ユイ自身の起こす処理に悪影響を与えていたのだ。

 だから、ただの爆弾解除のためのハッキングなのに、異常なほどの高負荷処理を強いられていた。全ては繋がる。


 これらのデータは、その後メリアを作るうえでの性格面でのデータ構築に大きく役に立った。これをするために、わざわざ実弾を用いた勢力を派遣するなどしていた。ただのテロではなかった。全て、ユイを狙ったものだったのだ。

 途中、妙な無線をする奴もいたが、恐らく彼らもその息のかかった人間だろう。あの時、俺らが見つかっていたらどうなっていたのか……。データを採るだけでなく、もっと別の段階に移されていたかもしれない。


 高負荷処理と言えば、こんな話もあった。


「うちらのほうでデータを漁ってみたが……データインストール時にも、それがあったらしいのぅ」


 そういうのは爺さんだった。


 さらに時間を遡って、ユイが生まれる直前のこと。別のコンピューター上で作ったユイのデータを、その母体に移すためにデータをインストールしていた際、本体のOSに負荷がかかっていた時があったらしい。一気にデータを送り続けた結果、OSが疲れたんだろうとその時は判断し、毎時のデータ転送量を抑えて何とか無事に乗り切ったようだった。

 別に何の問題もない動きだったのだが、この件を聞いた爺さんが、不審に思って爺さんが改めてログを徹底的に漁ったらしい。

 ……そうしたら、微かにだが、データを監視していたらしいウイルスの痕跡を捉えたのだそうだ。


「儂としたことが迂闊じゃった。もう既に、あの段階である程度は読まれていたんじゃな」


 爺さんが中々悔しそうな顔をしていた。少なくともこの二つの段階を使って、ユイのデータを奪った。

 ユイにハッキングをかける際に必要なコードや周波数なども、この際にひそかに奪ったと思われる。母体に入った後はその点の情報は厳重にプロテクトがかけられるはずなので、この最初の段階のうちに取ってしまったのだろう。データ移動中は、プロテクトを厳重にかけてはいなかったらしい。チャンスと言えば、チャンスだ。私幌で二回目のデータ奪取を実行したのは、一回目のデータ奪取で奪えなかったものを改めて奪えるだけ奪うためだと推測された。


 性格面でのデータが奪得られれば、そこから本物とほぼそっくりのデータを再構築させることができるし、ユイの行動をある程度はシミュレートできる。メリアを使って本物とすり替える際、あそこまで流れるようにユイの動きを予測しきれたのも、この奪ったデータの恩恵があるのだろう。俺を逃がして時間を稼がせることぐらいはシミュレーションで予測されれていたのだとすれば、その後の展開も彼の読み通りだった可能性も高い。俺らを知らず知らずのうちに不利にさせるように工作することだってできる。


 ……恐ろしい話だが、これらの情報の解析の過程で、俺を殺す計画すら立てていたこともわかった。

 どうもデータをとっている過程で俺のことも調べたようで、俺の分析力の高さから、メリアの正体を暴くことも予測されたそうだ。随分と高く買われたものである。

 その際は、仲間もろとも殺し、それでも無理なら今後諜報や裏工作などを駆使し、時間をかけつつ、ユイという身分を使ってあの手この手で暗殺することすらも考えていたようだった。

 彼が俺のことを知っていたのも頷ける話だった。データを取ったんだからそりゃ知っているはずである。とはいえ、全部ではなかったらしく、基礎情報しか取っていないらしいが。



 彼女のルーツは、そんなことだった。自分のことをデータで記録するってどんな気分なのかはわからないが、間違いなく、複雑であっただろう。

 母体そのものも、どうやら元DARPA局長という身分のコネを使って資金なり資材なりをくすねていたりなどしてこつこつ作ってたらしい。あれだけ精巧に作るのに時間も金もかかったはずだが、それらも、全て自らの身分を悪用したとみていいだろう。


 CIAの動きや資金ルート関連の情報も判明した。和弥の予測通り、彼はやはり、アメリカを貶めようとしたようだった。

 彼は独自に、アメリカ改新党や各テロ組織とのパイプをつなぎ、資金ルートを確保していた。その後、その資金は計画のために使われたが、事はあまり長続きしないことも最初から理解していたらしい。

 その際、資金ルートがこうした形でバレることを想定し、敢えて奪取されやすい形で保存していた。そのデータは、まんまと俺らが盗み出したわけだが、そのデータをもとにアメリカ政府に対し資金ルート差押と、アメリカ改新党の党内資金管理の調査依頼を行わせることで、「アメリカがテロに関わっていた」という“事実”を白日の下に晒し、アメリカの国としての権威を失墜させるつもりだったのだ。

 アメリカは世界トップの国力と政治的影響力を持つ覇権国である。しかも、テロ撲滅を主導する自由主義陣営のリーダー的存在である。そんな国が、テロに関わっていたと判明すれば、世界がどうなるかは想像に難しくない。


 スキャンダルを理由にした国務長官の解任は、彼にとっても予想外のことだったようだ。CIAが関わっていたと記録されており、改新党以外の人間がCIAの動きによって解任させられたことに不穏な動きを感じていたようだ。


 この件については、彼の記録には記されていなかった。だが、“添付”があった。

 メリアが残したメモである。


「CIAに潜んでいる分子がまだ彼に与えていない情報が少数データとしてあった。後程、彼に渡すつもりでいたらしいメールだが、ちょうどいいのでくすねてきた」


 そんな前文付きで残っていたデータを要約すると、こうだ。


 何らかの理由で資金ルートの存在を知った国務長官は、確かにそれに関わるデータを漏らそうとした。誰でもない、ホワイトハウスにである。

 彼は予測できなかったらしいが、改新党の情報は国務長官には筒抜けで、もしかしたら改新党も一枚岩ではなかったのかもしれない、という彼女の予測がついていた。

 しかし、それを漏らしたら最後、先ほども言ったようにテロに加担したアメリカという“レッテル”が張られてしまう。それを恐れたCIAは、ホワイトハウスには黙って彼を現在の権威から失墜させることで、暗に“脅迫”することにした。当初は事故死を想定していたらしいが、それだとさすがにバレるとの判断の要だった。

 マスコミに情報を漏らし、まんまと失脚させることに成功したCIAだが、一つの警告だけは打たれた。NEWCの動きに注意するよう、各国政府に極秘に情報を渡していたのである。


 この点は彩夜さんに確認した。彼女は、誰にも言わないことを条件とし、確かにその情報が来たことを教えてくれた。国務長官が、苦し紛れにうったものだったのだろう。

 今のホワイトハウスが、こうしたスキャンダルに敏感なのを当然CIAは知っている。だからこそのこの策に出たのだ。

 結果的に、改新党が関わっている資金ルートの件は、CIAの思惑によってホワイトハウスにもたらされることはなかった。CIAは、この件をできる限り内密に処理するために、激戦区となっている東京にパラミリチームを派遣することにしたようで、それで、今現在彼らがいるのだそうだ。


 ……勘弁してほしい。巻き込まれるこっちの身にもなってくれ。




 ……その他諸々。大量の情報がSDカードより齎されていた。すんごい量なので、これだけの短時間でよくここまで解析できたものだと思う。解析班を精一杯褒めてやりたい。


 ……だからこそだ。


「……掃宙兵器……?」


 このデータが出てきたときには、本当に頭痛がひどくなったように思えた……。




「―――つまり、どういうことだ?」


 俺が聞き返す。周りには、仮説のテーブルを中心に、俺ら5班と二澤さんら1班ほか複数人の特察隊の面々がいた。その中心にいるのは、解析のデータを引っ提げてきた和弥である。


「言った通りだ。宇宙に展開されている掃宙兵器を、一気にハッキングして地上を攻撃しようって腹積もりらしいッ」


「いや、だから、どうやってやるんだって所だよ。まずそもそも何を使うんだ? 掃宙兵器なんてワード聞いたことないぞ?」


 二澤さんは半ばかぶせるようにそう聞いてきた。焦燥感を隠しきれていなかった和弥はいったん落ち着きを取り戻し、呼吸を整えて改めて説明した。


「さっき、解析班が全てのデータの解析を終えました。色々と目玉はたくさんありましたがね、その中でも特ダネはコイツですよ」


 そう言って和弥がタブレットの画面を変えた。そこには、一つの衛星の画像があった。アメリカの持ってる早期警戒衛星が若干ゴツくなったような外見を持つそれは、和弥曰く『SDD衛星』というらしい。


「宇宙ゴミが問題になった頃に、各国で宇宙ゴミ対策が大量に作り出されたはずだが、そのうちアメリカが作った幾つかある計画のうちの一つが実行に移された。それがこれ」


「『SDDプラン』……?」


「正式名称『Space debris disposal plan』。宇宙ゴミ掃討計画」


 途轍もなくド直球なネーミングである。アメリカならもっと別の愛称付けるかと思った。スターウォーズ計画とか、そんな感じの。


「この衛星は、内部に強化タングステン製の掃射ロケットが複数内蔵されてて、特に大型の宇宙ゴミに対してこれを撃ちこむことで、細かい破片に分解し、後に大気圏に突入させて燃やす、という目的らしい。このロケットは機動変更が可能な優れモノでな、直接ぶち当たって自分もろとも細かい破片になる時も、そのまま燃え尽きるようにちゃんと計算して破片の大きさ調整するんだと」


「つまり、細かい破片にして大気圏で燃やす事で文字通り掃除する衛星ってことか?」


「そゆこと」


 それを行う衛星が、所謂SDD衛星なのだそうだ。現在、試験運用が進んでいて、結果も良好なのでもうすぐ本格稼働なのだそうである。


「これらは計12の衛星で構成されていて、別名『オリュンポス十二神』って呼ばれてる」


「オリュンポス十二神?」


 ギリシア神話に登場する、オリュンポス山の山頂に住まうとされる、主神ゼウスをはじめとする男女6柱ずつ、計12柱の神のことである。それぞれ、『ゼウス』『ヘーラー』『アテーナー』『アポローン』『アプロディーテー』『アレース』『アルテミス』『デーメーテール』『ヘーパイストス』『ヘルメース』『ポセイドーン』『ヘスティアー』とあり、個々の衛星にこれらのうちどれかの名前が付くのだろう。


「これらの衛星はデータを共有し合ってて、誰が、どのゴミを、どうやって掃討するか等を互いにリンクして勝手に決めてくれるので、ほぼ全自動。人が介入するところはほとんどないので、中々便利なんですよ」


「そんな衛星が、兵器にされるっていうのか?」


「そういうことです」


 和弥はそういうと、画面をまた変えて、今度はこのSDD衛星の運用構想図が出てきた。本来はこういう用途で利用するというのを示した絵であろう。


「問題なのはこの強化タングステン製のロケットです。正式には『タングステン・ロッド』っていいますが、このロッド、さっきも言ったように、本来はゴミに向けて撃って、あとは粉々になって燃えカスになって消えます」


「……これが、なんだって?」


「これを……」


 和弥が絵のうちSDD衛星を示しているらしいイラストを指さす。


「本来、こういう形でロケットが飛んでいくのを……」


 そう言いながら、衛星から近くにあるゴミのイラストに指を移すが、そのあとまた衛星に戻って、


「……このまま、地上に向けてはなったらどうなりますかね?」


 その指を、今度は地上に向けて移動させた。

 皆が、言いたいことを理解した。このロッドを、本来の用途とは別に、直接地上に向けて撃てば、迎撃手段もないので、事実上の無敵の対地兵器に変貌する。

 だが、疑問もあった。


「でもそれ、設計段階で大体わかるだろ。対策は打たなかったのか?」


「そこなんですよ」


 結城さんの問いに、待ってましたとばかりに笑みを浮かべた和弥。さらに続けた。


「ロッドの耐久性や構造の関係上、単体で地上に撃ったら燃え尽きる前に地上に到達してしまうようなんです。なので本来は、地上に誤って撃ってしまったり、ゴミに当たらずにそのまま地上に落ちてしまってもいいように、ロッド本体に自爆機能がついています。指定のゴミを探知しないまま一定高度に達すると、勝手に自爆するんです。その管理も、そのロッドを撃った衛星そのものが担っています」


「ならいいじゃねえか」


「その衛星が、ハッキングで管理を奪われたら?」


「……、あ」


 ……あぁ、そういうことか……。


 和弥が言っていたハッキングとは、こういうことだったのだ。ロッドの自爆などを管理する衛星そのものをハッキングし、自爆できなくする。そうなれば、ロッドはそのまま地上に真っ逆さま。火の塊となって落ちてきては、地上を“爆撃”する。自爆用の可燃物はあるだろうと思われるので、周辺は大炎上間違いなしだ。


「ロッドを、敢えて自爆しないように細工して、地上を攻撃するって事か!」


「最強の対地兵器の完成ね……」


 新澤さんが忌々しそうにそう言った。さらに解説は続く。


「当然、ロッドも限りがあります。余り豊富にあるというわけではないロッドを効率的に利用するため、まず、主要各国の首都は確実に狙っているようですが……問題は、それ以外」


「それ以外?」


 首都狙われてるってだけでも十分な気がするが……しかし、和弥はマップを表示して、さらに、赤い点を追加で表示させた。


「……データから判明した限りでの、衛星の目標です。……何か気が付きませんか?」


 赤い点のある場所を凝視する。世界各国にあるが、特に人が集まる場所なのかと思ったが、案外そうでもないところにもある。ここから見える法則性は……。


「……あぁッ!」


 誰かが叫んだ。





「……原発のある場所かコレ!?」





 和弥が顔をニンマリとさせた。その瞬間、皆がまたその赤い点の場所を見る。

 特に日本。日本にある赤い点の場所は、計10ヵ所。北は柏原発から、南は川内原発まで……首都圏に近い、東海原発も、もう廃止が決定していたはずのもんじゅも、再処理工場である六ヶ所再処理工場までもがその対象であった。

 海外の原発に関しては知識が疎いが、恐らく、ここにある赤い点の場所には、それぞれの国で運用されている原発があるのだろう。


「……そうか、原発をぶち壊すのか……ッ!」


 原発は、基本的はその内部にある放射性物質の危険性から、少なくとも原子炉格納容器は堅牢な造りとなっている。例え、B747型ジャンボジェット機が突っ込んでこようとも、そこだけは破壊されないようになっている。テロに使われたら厄介なことこの上ないからだ。


 ……だが、中には老朽化のせいで、これらの作りが不完全なものもあるし、第一……


「……宇宙からの爆撃を、さすがに想定している原発なんてあるのかって話だ」


 強化タングステン製の、ロケット推進すら利用して、宇宙から高速で突っ込んでくるロッドに対して、こうした格納容器がどれだけ堅牢であろうとも、どこまで抗うことができるのか。


 ひびすら入ることが許されないこの格納容器。大型旅客機の直撃にすら耐えることができるとはいえ、幾らなんでも、宇宙からの爆撃に耐えられるとは……、とても思えなかった。


「この目標にある原発、若しくはその核燃料関連施設。全てにロッドが直撃したと考えてみましょうや。……特に、こんな狭い国土で、10ヵ所もねらわれている日本なんて……」


「……もう二度と」





「人が、住めなくなる……」





 沈痛な空気が、周りを覆い尽くした。


 格納容器でなくてもいいのだ。大抵こうした原発の近くには、使用済み核燃料プールが備えられており、そこに、大量の使用済み核燃料が保存されている。使用済みと言えど、放射性物質は残存しているから、それらが破壊されれば周辺にとんでもない放射線被害を巻き起こす。

 格納容器が潰されたらもっと深刻だ。少なくとも半世紀は、この日本の地から離れなければならず、日本の国土は、放射能にまみれた無人の死地と化するのは想像に難しくない。日本だけではない。世界各国が、大なり小なり被害を受け、原発を使用している国は間違いなく“死ぬ”。

 今から稼働している全ての原発をスクラム停止させても意味はない。中身が漏れたらそれでおしまいなのだ。動いていようが止まっていようが、どっちにしろ最終的な結末は変わらない。


 それだけではない。原発を使っていない国でも、目標になっていないだけで、あとからサイド攻撃の可能性はあるし、そうでなくても、原発がやられて国を出て行かざるを得なくなった他国からの難民が大量に押し寄せることになるだろう。何時ぞやの、シリア難民を受け入れるかどうかでもめたEUのような……いや、それ以上に深刻な状態となり、治安悪化、自治能力低下、その他諸々考えうる限り最悪の状況を引き起こすに違いない。食糧危機だって問題だ。


「……そんでだ」


「?」


 和弥がさらに、トドメを刺した。


「これ、わざわざSDD衛星って言ったりするのが面倒なので、あるコードネームで、彼らは読んでいたらしい。……その名も」




「“雷霆ケラウノス”」




「……ケラウノス……ッ!」


 その言葉に、俺はすぐに反応した。聞いたことがあった。最初、ケラウノスを巡ってひと悶着があったのはまだ記憶には新しいのだ。


「ケラウノスって言えば、前にケラウノスのコードを探してるって話が合った。まさか?」


「ああ、これのことだったんだ……。正確には、ケラウノス、つまり、あの12基のSDD衛星の制御を奪うコードだ。NASAの方で運用してたはずだから、それの奴だろう」


 コードを探しているのはこれだったのだ。あの新幹線の時から、余り言葉を聞かなくなっていたためか暫く忘れていたが、だが、今までの説明からすれば納得はいく。そのコードを聞き出して制御を奪うためのコードを探していたのだ。計画としてすでにもうあるということは、そのコードも、恐らく……。


「ケラウノスといえば、ギリシア神話に出てくる、主神ゼウスが使う史上最強の武器だったな? 世界どころか、宇宙を焼き尽くすって言う……」


 二澤さんの言葉に、ユイが反応した。


「地上を焼き尽くす最強の武器……まさに、今のSDD衛星にはピッタリの名前ですね」


 ケラウノス、雷霆……。空から降り注ぐ雷火は、衝撃波と共にティーターン神族を一網打尽にし、それどころか、世界や宇宙、その根源をも焼き払うという、中二病を発症した中学生でも中々考えないようなチートどころの騒ぎではない威力を発揮した、神話上最強と言ってもいい武器。

 まさに、今のSDD衛星は、そして、それが放つタングステン・ロッドは、宇宙から降ってくる雷霆ケラウノスともいえた。



 ……マズい……。皆の顔が極度に青ざめた。



 もし、この計画が実行に移されようモノなら……





「日本が……世界が……」







「今度こそ、終わりを告げる……」








 終末へのカウントダウン。




 これほどこの言葉が似合う状況は、中々ないであろう…………

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