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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第8章 ~変動~
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囮の二体 2

 道路は広い。戦いやすいが、弾を受けやすい。そんなハイリスクハイリターンな環境下。銃弾飛び交う戦場はロボットの独壇場だということは、もはや現代においては常識だと、少なくとも周囲から教わった。人間が出る幕ではもうなくなってくるという予測は、いろんなところから出てるらしい。危険地帯は非人類の役目。間違いない。私はそのために生まれたわけで。


 ……とはいったって、ねぇ……


「(うわぁ……この多さ……)」


 ほんの少しだけ後悔し始めた、この数。勢いよく正面突破とは言ったものの、いざ真正面から見てみるとドン引きするしかないぐらいの多さ。どれだけ人質を取られたなくなかったのか、向こうの焦りが見えるというものなんだろうけども、これはこれで過剰反応と言いたい。声を大にして言いたい。

 真正面で、近場にあった乗り捨ての車の影にそれぞれ隠れた後、幸いにしてまだこっちに気づいていなかった敵の様子を見て、当然の如く思い浮かんだ一言。


「……弾、絶対足りないねこれ」


「後ろにもっと控えてるはずだからなぁ、こりゃ向こうからふんだくるか?」


「それもそうだけどさ、もっとドカーンと一発やれないかな。どっかの怪獣映画みたいに定置爆破で高層ビル倒したりとかさ」


「東京駅でやれ」


「無人化した新幹線も在来線もないから、この際車とかに爆薬詰め込んで向こうに突進させれば一網打尽な気がするんだけどなぁ……てかまって、その映画知ってるの?」


「彼が前見てたのをチラッとな。ラストの部分だけだが」


「あぁ、あそこか」


 そんな会話しながら、敵の数と距離を再計測。70弱からまだ変わらない。距離は……もう十分近い。

 近場に何かないだろうか。まずこう、敵が一気に吹っ飛んで数が一気に減る……


「……ゲームみたいに、近場に回数限定の必殺技よろしく燃料満載のドラム缶とかない?」


「燃料満載かはわからない車なら大量に残ってるぞ。というかよく残ってたな」


 周辺にはまだ何台か車が残っていた。放置されたものだろうけども、今までよく生き残ってたなと思う。というより、燃料、残ってるんだろうか。

 車種から燃料タンクがありそうなところを推定。当然、中に燃料があるかはここからじゃわからないので、ターゲティングの対象にするのみとして、


「……あれ、使えるかな?」


「あれ?」


 私は奥の方を指さした。敵が徐々に進んでくる中、ドでかく残っている残骸がある。


 皆で周囲のビル影に隠れた時、MCVに出オチを喰らったタイタンだった。


「あれ、まだ弾薬大量に残ってたよね?」


「そりゃ、出オチ喰らったしな」


「動かないだけで、弾薬そのものは残ってるってことでいいよね?」


「引火しなかったしそういうことだろう」


「……よし」


「待て、嫌な予感しかしない」


 それ以上は言うな、とでも言いたげな視線を完全にスルーし、タイタンの設計から弾薬が残っていそうな場所を探る。……よし、場所的には届くはず。


「狙えるかなー……弾薬」


「ここから撃つのかッ? フタゴーは高精度だが、この距離を自身のFCSのみで捉えるといっても多少の時間と補正が必要だ。その間に敵にバレるぞ」


「どっちにしろ撃った時点でバレるなら別にいいでしょ。というか、もう敵近いよ」


 もう100mは切る直前だった。今すぐにでも撃たなければいけない程の近距離になった時点で、もう選択肢は限られたようなもの。強引に納得させる。


「多くても3発で当てるからそれまで時間稼いどいて。5秒とかからないと思うし」


「いやいやいやいや、1発撃った瞬間向こうから数十発と飛んでくるぞ? 一瞬だぞ?」


「だから、時間稼ぎと注意引く役割よろしく。ほら、行くよ」


「サラッと無茶言ってくれる……」


 嫌々ながらも持っていたフタゴーを構えた彼女。車の影から顔をのぞかせて「うわぁ……」と引いていた。元々アンタも一人でお相手しようとしていたはずなのに……案外私と同じ理由だったのか、それとも想像以上だったのか。


「そっちの合図でいいよ」


「はいはい。……行くぞ、2、3秒くれ」


「オッケー」


 車影から一気に飛び出し、別の車の方へと突進しながらフタゴーを乱射する。牽制でしかないので、あくまで命中は狙わない。しかし、獲物が飛び出してきたとばかりに敵のロボット群はそっちに注意を向けた。

 ここだ。


『よし、やれ』


 返事代わりに、車の影から横に身を半分だけ乗り出してタイタンの弾薬があるはずの部分へと銃弾を放つ。単発、1発目はわずかに外れ、2発目で命中。しかし、貫通しない。


「(あれ、あそこ装甲あったっけ?)」


 弾薬庫周辺は堅めの装甲が張られていることはままあるとはいえ、タイタンの場合軽量性重視で一部装甲に隙間があり、そこから狙えるはずだった。もしかしたら、MCVに討たれて崩れた時にそこが塞がった?


「……冗談でしょ」


 貫通してくれと思いつつ、もう2発。しかし、同じ個所に当てたはずなのに通らなかった。


「ごめん、そっちにターゲットのインテル送るからそっちから撃ってみて。こっちが牽制やるから」


『当たらなかったのか?』


「当たったけど貫通しない。角度悪いかもしれないからそっちよろしく」


『はいよ』


 いったん元のビル影に隠れるために猛ダッシュ。牽制ついでに銃撃をするが適当にばらまくだけ。お互い離れたところにいるようにして、敵の注意を文字通り二分する。敵は二つの群にこれで分かれるはず。

 さらに陰に隠れながら銃撃を与える。数が数なので、顔を出す余裕すらないのだけども、とにかく弾をばら撒いて注意を引く。運よく数体に弾が当たったが、それだけだった。向こうはよほど慎重な設定になっているのか、相手はたった二人なのに、すぐに立ち止まって銃撃戦の構えを見せた。

 たぶん向こうもこっちがロボットだということには気付いているはず。警戒が強まったのかもしれない。こっちはたったの二体ではあれど、“二体も”いるともいえる。


 メリアのほうから銃声が響く。数にして3発。そのあとの銃声はなかった。


「当たった?」


『1発ごとに若干角度変えたんだが、まるっきり貫通しないぞ。どういうことだ?』


 ダメだった……。向こうから見れば、弾薬があると思われる場所の角度は、私が最初撃った場所と比べても結構違う。あそこから撃ってダメということは、もう射撃が可能な場所からの貫通は実質ムリということになる。


 ……うわぁ、冗談キツイ。


「あちゃ~、あれ使わないとこの大軍全部小銃だけで潰せって話になっちゃうなぁ」


『冗談じゃない。割と真面目な話、今すぐこの隣のビル倒してくれないか? 一気に押しつぶせるだろ』


「東京駅でやれって言ったのそっちじゃん」


『代替案がある前提だよ。ないならもう手段選んでる暇ないだろう』


「それはそうだけどねぇ……」


 今から爆薬の用意はちょっと無理過ぎるので、何か別の方法を探す。何れにせよ、あの弾薬は使いたい。というか、使わないと弾が間に合わない。どうしたものか。

 今狙っていたのと別の一体がもう少し奥の方にある。あっちは脚部を撃ち抜かれたのか、足だけが粉砕され、残り上半身部分はほぼきれいに残っていた。しかし、着弾時の衝撃が強かったのか、未だに動く気配はない。起動信号も発信されていないあたり、もう電源が落ちてしまっているとみてもいいかもしれない。


「あの奥の奴ってどうだろ? そもそも動くよねアレ?」


『奥の奴って、あれここから約150mちょいはあるぞ。あそこまで走れって言わないだろうな?』


 それには答えず、チラッと場所を確認する。銃撃が飛び交っているため、若干牽制を与えながら推定距離を計算。たぶん、180m前後。でも、そこまでいけばロボットの大群もそこまで大量というわけではない。まばらなのは、もう戦力として使えない等で利用価値ゼロと判断したためだろうか。例外なくスルーするロボットばかりだった。


「……いったん後ろにいけば……」


『とか思ってんじゃないだろうな? 私はやだぞ? 絶対やだぞ?」


 さすが腹違いとはいえ我が妹。考えてることを即行で読み解く当たり、もうこの空気に慣れたらしい。

 だが、しかし、


「……いや、ごめん、これしかなさそう」


『ハハハ、冗談はよしてくれないか? あの中を突っ切ったらその途中で死ぬ覚悟あるぞ? バラバラの金属片になる妹が見たいと申すか?』


「大丈夫大丈夫、メリアちゃん頑丈さでは私より上だから行ける行ける」


『厚い皮膚より早い足とかぬかしてたのはどこの誰だと思ってんだ』


「グデーリアン上級大将でしょ?」


『お前だよ! 少し前のお前だよ!』


 無線で怒鳴らないでよ、うるさいから。しかも人間のように無線機中継ではなく音声が直接伝達される形なので、余計鮮明に届いてしまう。私のイヤーぶっ壊すつもり?


「そうはいっても……もうこれ以外になさそうだし……」


『……本当に今すぐに地震起きて建物倒れてくれないかな』


「残念だけど最近余震でかいのこないからね~。大きくても5レベルだと、地震に強い日本の建物は中々倒れないよ?」


『無駄に耐震性の高い造りにしやがって……』


「そう言われても……」


 むしろそれが日本の建築の自慢なのにここで愚痴られるという理不尽さ。しかし、さすがにこの状況。彼女もいい加減諦めた。


『……何メートルある?』


「180前後と見た」


『途中何台か車両がある。もうこの際だからあれを全部使うぞ。で、向こうに付いたら?』


「即行でハッキングかける。電源はこっちが全部出すから」


『電源足りるか?』


「まだ半分以上あるから問題なし。何かあったらワイヤレス充電使うから」


 今まであんまり使ったことがなかったワイヤレス充電。余りに使わな過ぎて最近自分でも存在を忘れかけるぐらいには使っていない。バッテリーがもっと長期間もつ奴に変わったがために、もっと存在意義が薄くなってきた。なんか可哀想。


「覚悟きめよう、私ももう突進する準備はできた」


『手がないならしょうがないか。……で、どう突っ込む?』


「そらもう」




「正面突破。ハイ走って!」


『ああ、そうだろうと思ったさ』




 銃撃戦を一旦停止。すぐに全速力で南へと一気に南進。持てるだけの出力を足に集中させる。全速力で走ったのはいつ以来だったか。一番最初の試験の時と空挺団に来た後の試験と……あとそれ以外は数回ぐらいしかやってないはず。

 メリアも、速さでは負けるとか言っていながら結構な早さだった。銃弾が彼女を捉えようとするが、全て後方にずれているように見える。修正が間に合ってない。

 目の前に車両一台。乗り捨てたものであろうその車に、ハンドガンを使って数発銃弾をぶち込んだ。ちょうど、車の横を過ぎた時、車両の中にあった燃料に引火。


「ッひぃい!」


 隣からの爆発をモロにイヤーに受ける。衝撃波はどうにか耐えつつも、とにかく無我夢中で走った。

 後ろからの銃撃が少し減った。一瞬だけ振り返ると、車の炎に巻き込まれる10機前後ぐらいのロボットたち。爆発の衝撃で壁や道路に強くぶつけた機体もあったようで、胴体の一部が破片と化していた。もうアイツは動けまい。

 メリアのほうでも2回ほど爆発が起きていた。前方に撃ってほぼ並んでいたのを爆発させたと思ったら、そのまま間に突っ込んで通り抜けた。炎が立ち上る中を高速で通り抜ける様は、まさしくロボットらしさがある。耐熱性抜群。さすが姉譲り。


「あと100m! ほら頑張って!」


『簡単に言ってくれるな?! こっちはもう足が悲鳴上げてるんだぞ!?』


「たった180mでしょ耐えなさい!」


『案外厳しいなお前!?』


 足が悲鳴上げてるにしてはそんなに速度堕ちてないうえ、やっぱりそんな返しができるだけまだマシだよね。そんな根拠で安心しつつ、もう目標は目の前。幸いにして、鎮座している体勢が、銃撃からの壁の代わりになるにはちょうどいい形となっていた。あそこで隠れて操作できる。


「ハッキングかけてる間ちょっと耐えてもらっていい? 弾薬はあげるから」


『そんな役だと思ってたよ。なに、得意分野だ』


「じゃよろしく」


 そんなこんなで、無事到着。幸いにして、傷はなかった。私の速さを捉えようものなど、ロボットの技術界隈にしてあと2世代ぐらい早かったようだった。メリアも合流した。


「無事?」


「肩カスったぐらいで済んだ」


「むしろカスれたんだ。よく当てたね向こう」


「偶然だろ。んで、やればいいか?」


「どうぞどうぞ」


 すると、メリアはすぐにこの鎮座したタイタンの影から銃弾を大量にばらまいた。私の分の弾薬を彼女の隣に置き、AIのハードがあった部分を探す。

 事前に設計図を検索していたことで場所は大体把握していた。あとは、取り出せるか、そして、生きているかだけだった。


「(これで生きてなかったらどうしよ……)」


 これこそ、神に祈るしかなくなる。これは選択肢がなくなった私たちなりの賭けだった。うまい具合に、祥樹さんらのほうから注意をそらすことはできた。これだけの大群を逸らすことができたのだから、もうここで決着をつけるしかない。つけれなかったら、それまでだ。


「……あった」


 白い箱のようなAIのハード。すぐに取り出し、カバーをとって接続できそうな部分を探す。タイタンのAIのハードは、プログラムのアップデートや整備などのためにUSB接続できるポートがあったはず。ある程度頑丈に作られていたはずだけど……


「えっと、これだよ……ね?」


 思ったより形が違っていた。少しだけ歪んでいるように見える。砲弾受けた時、ハードごと形がズレた?

 でも、どうにかして物理的に接続しないと、メリアが持たない。ケーブルを取り出して、どうにかハードとの接続を試みる。


「うわ、はいらな……ッ」


 中々コネクタを差し込まれない。やはり歪んでいるらしい。でも、もうこれしか手がない。強引にでも押し込む。


「この、砲弾当たったぐらいで歪んじゃって! さされって、ほら、さされってのよもう!」


 すると、「ガジャッ」となんか鳴っていいのかわからない音を鳴らしながら、コネクタが差し込まれた。電力を送ってみると、接続確認の返信も来た。

 ……ハードもソフトも生きてた。まだまだ私たちは神に見捨てられてない。


「今繋がった! 即行でハックするからちょっと待って!」


「急いでくれよ? こっちもう限界だぞ。一人でこんだけやってるんだからな」


「一番近いのどこ?」


「50m先」


「50m!?」


 それ、戦場の場合はすぐ目の前って表現を適用していいぐらいの距離。マズい、これはメリアが押されるのも時間の問題。ハックを急がないと。

 タイタンのAIの中身を熟知しているわけではないけど、そこまで強固なプロテクトをかけているわけでもないらしかった。というより、AIそのものがいかれてしまったのか、再起動はされたものの、データなどが色々とイカれていた。たぶん初期化に近い状態になってしまったとみていい。ある意味ラッキー。このほうが色々と操作しやすい。


「(タイタンの基礎動作とFCSプログラム……、あった、これだ)」


 武器使用に関わる全てのプログラムを全部こっちと同期させる。これだけあればいい。余計なモノを動かすのに電力は要らない。あとは、動作チェックが済むのを待つだけ。10秒とかからない。


「ッテ」


「ッ?」


 一瞬、メリアから漏れた声に私は反応した。明らかに何かが当たったときに出す声だ。


「大丈夫? あたった?」


「いや、なんでもない。胴体のすぐ横を銃弾が通っただけだ」


「でもすぐ横って……ッ」


 やろうと思えば頭部を直接狙える距離にまで近づいている証左だった。当たらなかったのが幸運。もう時間がない。


「急いでくれ。まだか?」


 メリアからの催促に、


「……よし、大丈夫。行ける」


 何とか、朗報で返すことができそうだった。


「よっしゃあ行くよ! 離れて!」


 タイタンに操作コマンドを適宜入力。すると、


「……おぉ、動いた」


 タイタンの脚部以外が起動した。再起動完了。今のタイタンは、完全にこっちの味方であり、手玉だった。


「どーれ、それじゃあ今までやられた分、しっかり返すからね!」


「利息付きで返してやれ。倍返しだ!」


「じゃあ今だけ特典ボーナス10倍ね! 照準よし、喰らいやがれぇ!」


 ご挨拶に、残っていた弾薬を使ってガトリング砲をおみまい。私たちの反撃が始まった。

 ガトリング砲の名がつくだけあって弾はでかい。口径20mm。1発でも当たったらロボットでも粉々。よくて半身不随がせいぜいのこの凶弾を喰らったロボットらは、最前列から順にどんどんとその場に文字通り崩れていった。瞬く間に瓦礫の山が出来上がる。


「20mmファランクス流用の弾の味はどうだクソッタレどもォ!」


「旧海自の護衛艦が使ってた古いやつの流用だけど威力は抜群ぎるんだよヒャッハーァ!!」


 今までストレスためていた分を一気に発散。ロボットにストレスの概念があるのかは微妙だけど、色々と貯めていたものを一気に発散するには良い機会だった。どんどん倒れていくロボットたち。

 しかし、このガトリング砲の欠点としては、すぐに弾がなくなることだった。案の定、弾はすぐに尽きた。替えはない。これで終わり。

 ……でも、まだある。


「グレネード弾何発ある!?」


「ざっと20発ぐらいあるよ!」


「十分すぎるぜ! 全部ぶちかましてやれ!」


「言われなくともォ!」


 そこから先はトリガーハッピーという言葉が似合う状況となった。

 中型グレネードライフルが放つグレネード砲弾の着弾によって、1発ごとに数体は例外なく残骸と化した。それによって、どんどん敵の機体数が減っていく。正直、これほどすっきりする銃撃はたぶんなかったと思う。なるほど、気分爽快とはこのことだったのか。


「だいぶ減ったぞ! もう撃ち尽くしたか!?」


「あと3発! どーれ、あとはどこにうt―――」


 撃ってやろうか、と、最後まで言おうと思っていたのだが、


「―――あれ?」


 ふと見ていたUAVリンクを通じて得た情報から、思わず後ろを振り返った。南の方向。ちょうどお相手していた敵とは別の方向。


 ……そこには、


「……え、後ろからも?」


 そういえば、ここ敵陣の奥深くだった。肝心なことを失念していたことを、今さながらに後悔した。ロボットらしからぬ、中々に初歩的なミスだった。

 後ろから、中々の数の敵ロボットが押し寄せてきていた。いや、一部人も混ざっている。周辺からとにかくかき集めたんだ。数……



「……な、70……」


「またぁ!?」



 第二陣、ということだろうか。後ろから迫ってくる、70“以上”の敵の大群。しかも、走ってきている。ロボットを先頭に、とにかく私たちの首根っこを摑まえるための競争をしているかの如く。


「マッズ、こっちもうあと3発しかない」


「後ろに撃てるか?」


「ムリ。前方にしか指向しない。結構マズい」


 私たちは重大な危機に直面した。前方からは、まだ少数とはいえ敵のロボットがわらわらと。そして、後方からは逆に大軍がわらわらわらわらと。


 ……完全に、挟まれた。


 こっちの弾は、残り3発。小銃の弾も、もう相当数消費した。二人で分けて使うには余りに足りないものだった。

 両隣は……ビル。さっきから定置爆破したいと息巻いていた、メリアの気持ちが今よ~くわかった。今すぐに爆破したい。少数しかいない前方をもう一回全速力で突っ走るのもいいけど、私はまだしも、メリアはさっきの突進で足が悲鳴を上げていたばかりだった。再び無理をさせて走らせたら、今度は足に致命的な不具合が起きる可能性もあった。無理をさせることはできない。元は私の判断でここまで来たとはいえ、それは南からの増援がないこと前提だった。敵の戦力も限られている。てっきり包囲網は1層のみと思っていた。

 ……しかし、その見立ては甘いものだった。今更になって、自分の誤った判断を後悔しても遅い。祥樹さんらからの無線はまだ来ない。まだ、向こうが来れる状況じゃないのだろう。つまり、孤立しているといってもいいものだった。



 私たちは、ほぼ完全に逃げ道を失った。




「……どうしよ……これ……」






 残りの手数で、これをどう乗り切ればいいのか。





 私の今までの人生(?)で一番の、絶体絶命の危機に追い込まれた…………

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