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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第8章 ~変動~
156/181

脱出 2

 ―――状況はこうである。


 ホテル日本橋で、地震後NEWC内で様々なごたごたが発生し、内部分裂を起こしていることは既に聞いていた。結果、その余波が警備体制にまで影響を与えていたようであり、隙が生まれるようになっていった。

 ホテル日本橋が占拠されてから長い月日が経ったが、この段階に来ると、人質内でも連携感が生まれ始め、外からの救出が中々こない状態から自力での脱出を図ろうとする派閥とそうでない派閥に分かれ始めたようである。前者と脱出派とすると、その脱出派が『密偵』と称される、独自に外への脱出を行い、誰でもいいので外部にいる味方に状況を教えに行き、早期救出を懇願する役割を持った人間を抽出し始めたのだ。

 その結果、5人の『密偵』が組織されたのち、ホテルの男性メンテナンススタッフの一部から一番外に出やすいルートを享受し、監禁に使われていた部屋を脱出。驚いたのが、監禁に使われていた部屋、出入口は監視が入っていたが、最近交代が寝ている時があるのだそう。数日前、寝ている所を怒鳴るような声が部屋にも聞こえていたらしい。そして、出入口さえ押さえていればいいと思ったのか、部屋の中は余り見ることはなく、時折不定期に部屋の中をさっと見て終わりだったようだ。


 ……ゆえに、監視がよく寝ていることは知っていた。数日前から数時間毎に「トイレ行かせて」なり「今の時間教えて」なりの名目で外にいる監視を呼び出すことで、何時ごろよく寝ているかは調べ上げていた。結果、早朝はほぼ例外なく寝てしまっているとみて、早朝に部屋を飛び出し、脱出。監視の目をかいくぐって、外には出ることができたようである。


 しかし、さすがにそこから先まではどうしようもなく、あっけなく見つかった。だが運のいいことに、そこから逃げる様子を近くにいた深部偵察中の部隊が発見。即行で保護に成功し、さっさと逃げ帰っている途中なのだそうである。




 ……いや、サバイバリティが高すぎる。間違いなくその密偵の5人はサバイバル経験があるだろう。深部は敵がわらわらいたはずである。というより、ホテル内部の方がもっと敵に見つかりやすかったと思われるが、なぜ見つからなかったのか。それほどザルになっていたのか。それだけでも貴重な情報である。


 保護した部隊が後方に徐々に戻ってきている間、隙を見て聞き出した情報がここまでらしい。


 だが、ある意味チャンスだ。こうなれば、ハリスはメリアのことなど考えている余裕はなくなるであろう。後方の盾でもあり、事実上の召使でもあった組織の内情が完全にバラされる寸前なのである。尤も、メリアがこっちに渡った時点でもうそうなっているともいえるが。


「UAVからの映像を見るに、既に敵は場所をある程度把握してるっぽいな。徐々に包囲を詰めていっている」


「というか包囲されてるのか?」


「情報伝達は早かったらしいな。メリアさんの時は全然動いてなかったのに、随分と丁寧なご対応なこって」


 和弥がそう皮肉った。それだけ、人質の漏洩を恐れていたということなのだろう。前例もある。映像から起こしたフィールドマップをを見るに、ホテル日本橋から少し離れた建物群を中心に、徐々に敵が包囲を詰めていた。味方は籠城しているのだろう。たった数人の部隊だ。崩れるのは時間の問題である。


「メリアちゃんどうする? 私ら本当はこのまま家に帰るはずなんだけど」


「無茶言わんでください。優先事項が決められちゃったもんで」


「いや、でもねぇ……」


 すると、メリアは新澤さんの肩をたたいて言った。


「別に構わんぞ。ちょっと手伝いするだけだろう」


「手伝いって……」


「ロボット一人よりは二人の方がいい。違うか?」


 そう俺に話を振った。単純計算だ。一人より二人である。


「一人よりはな。ただ、一つ問題があるとすれば、向こうが偽物の方が寝返ったことを知っててそれをついでに潰すために間違ってユイのほうを撃っちゃわないかだが……」


「え、私が撃たれて当たると思ってたんですか?」


「まあこんな調子なのでたぶん大丈夫だろう」


 この悩みの種はたぶん芽が出る前に地面から抜き取って潰れてしまいそうである。力技感が半端ないことこの上ない。

 二澤さんらとは一旦離れ、包囲の外側に徐々に近づいていった。本当は車両部隊のベルファスト1-5に乗せてもらいたかったのだが、要救助者の方を乗せるべく別の場所で待機することになった。ここから先は、俺らは被保護者としてではなく、逆に救出者として動くこととなる。


「他の部隊は? さすがに俺らだけで突っ込めってことはないよな?」


「今後ろからAHと普通科部隊に護衛された機動戦闘車が突っ込んでくる。そいつらが一点突破の穴を作ることになってるってさ」


「随分と贅沢に送ってきたな」


「逃げてきた民間人を助けれずに死なせちまった前例があるからな。まあ、俺らのことなんだが」


 まだ中央区が奪われて間もない頃、化学兵器の輸送をしている敵とホテル日本橋から逃げてきた民間人を天秤にかけ、前者の回収を選んだことで後者を見殺しにせざるを得なかったという苦い記憶がある。司令部もその事実は把握しており、俺らを責める事はなかった。誰でもない、命令を下したのは自分達だったのである。

 結果、今度こそと意気込んだのかもしれない。5人の民間人が、また隙をついて逃げてきた。俺らがやったような判断をさせてはならんということなのだ。今度は機動力のある戦闘ヘリを即行で派遣し、できる限り一点に絞って掃討をかけるつもりらしい。


「機動戦闘車部隊が、まず包囲網の一部に全力で突撃をかける。随伴の普通科部隊とベルファスト1-5もついていくが、俺らはそれを後ろから追っかけて、普通科部隊とベルファスト1-5が保護対象パッケージを確保するまでの敵の妨害。穴がまたふさがれる前に、各部隊がパッケージ連れて戻ってきた後は、即行で撤退。シンプルイズベストの単純明快な流れ」


「んで、それの現着予定時刻は?」


「あと……AHは5分。地上部隊は7分後。待ち合わせてほぼ同タイミングで突っ込むらしいな」


 AHも地上部隊も、近隣から放てるだけ放ったものらしい。しかし、連続で毎日稼働させていることもあって、機器の不具合を起こし始めるわ整備が間に合わないわとトラブルが出始めており、出せるものも出しにくくなってきていた。そのうえ、今度の再奪還作戦のために、できる限り戦力を温存したいという思惑から、大っぴらに部隊を送れないという背景もあっただろう。

 前例と同じことにはなりたくないが、かといって再奪還のための戦力も残したい。板挟みの中出せた戦力である。


「俺らはここで待ってればいいんだよな?」


「ああ。ベルファスト1-5が突撃指示を出す。その時、俺らも表に出て敵の妨害だ。どんくらい時間かかるかは知らんが」


「俺が交信する。他の部隊のコールサインは?」


「AHがアタッカー1。16式機動戦闘車の部隊がベルツリー4-5。普通科部隊の指揮車がランド2-7」


「はいよ。最初はアタッカー1ね」


 5分待つ。それまで、敵の包囲網がどんなものか。できる限り探った。AHもUAVからのデータリンクで情報は把握しているはずだが、念のためである。


「しかし……言っちゃぁなんだが、ラッキーだな」


「?」


 和弥が唐突にそういった。


「ほら、仮にもヘリとか機動戦闘車とか来たんだぜ? アイツらがパッケージ確保してだ、そのあとさっさと撤退しまーすって時に、ついでについていくってなれば、結果的にはメリアさんも安全に撤退させられるってね」


「あー……」


 当初の目的とは違ったが、結果的に言えば、民間人救出という“大義名分”によって、重火力ユニットを戦闘地域に送ることができ、彼らの任務の帰りにメリアをついでに守ってもらうことができるということだ。なるほど、確かにちょっとした便乗である。


「俺らは運がいいぞ。何ならMCVの中に乗せてもらおうじゃないか」


「そんなんさせてもらえるわけないだろ。大人しく軽装甲機動車にでも乗せてもらうんだな」


「ちぇー……」


 何がちぇーだか……単に中みたいだけだろう。訓練で散々見たくせに。


「メリアちゃんって16式の中見た事あったっけ?」


「いや、ないが」


「なら今度見せてあげよっか? 私見た事あるんだよ? いいよぉ、中は機能美的な美しさがあってね?」


「ロボットにそんなことわかるのかよ」


「ロボットにも感性があることをどうかご理解いただきたく存じます」


「お、おう……」


 ロボットの感性って言われても……俺は反応に困り、とりあえず愛想笑いをして誤魔化した。


 ……あと2分。そろそろヘリのローター音が聞こえてきてもいい頃である。

 データリンクでは、既に機載の短距離対地兵装の射程距離内に入っている。もしかしたら、一定の距離を保ってそこからアウトレンジするやり方もあるのかもしれない。そうなれば、目視確認などによる戦果確認も必要となる。


「……もうちょい前出るかな……」


 そう考えていた時だった。


『―――シノビ0-1、こちらアタッカー1。送れ』


「ッ! きた」


 噂をすればというものである。和弥が反応した。


「アタッカー1、こちらシノビ0-1、送れ」


『シノビ0-1、アタッカー1、現場に到着。これより掃討を開始する。敵部隊の位置情報を求む』


「アタッカー1、シノビ0-1、了解。データリンクは繋がっている。リンクコードS-001ABで複合同期せよ」


『シノビ0-1、アタッカー1、了解。リンクコードS-001ABで複合同期する』


 AHのヘリの音が聞こえてきた。しかし、随分と近くから聞こえてくる。どこ飛んでるんだと、ビルの物陰からそっと顔を出して音源を確認。


「……えぇ……?」


 冗談だろうと思った。十数年前の某怪獣映画ぐらいでしか見たことない飛び方。ビルとビルの間の道路のすぐ上を、飛んでいやがる。

 どこぞの超本格的ヒコーキごっこのゲームでならよくやるが、それを現実でやるアホがいるとは思わなかった。と思えば、そのヘリの2機編隊は俺らの隠れる場所のすぐ目の前を通り過ぎて行った。


「リンク接続で敵の場所はあらかたわかるし、わざわざ高度上げる必要もないわな」


「にしたって本当にこんなところで地面スレスレ飛ぶ頭のねじ飛んだ奴がいるとは思わなかったよ」


 ねじがたぶん二ケタ単位で飛んでいるパイロットが乗っているに違いない。俺はそう確信した。

 さらに、少しして今度は何か空気が抜ける音と、数秒後には爆発音も聞こえてきた。始まったようである。


「次がくるぞ。無線は?」


「今若干賑やかになった。二澤さんとこはもうヘリきた。16式くるぞ」


 その直後である。確かに、ビル影から急激に曲がってきた機動戦闘車が2両、直線道路に入って突っ込んできた。両側には軽装甲機動車が随伴している。結構な速度だ。本当に“突っ込んでいる”という表現が似合う速度である。先頭に機動戦闘車、その両サイドと、後方にも2両か。


「ベルツリー4-5、こちらシノビ0-1、そちらを確認した。パッケージ、この先直線300mから400m」


『シノビ0-1、ベルツリー4-5、了解。このまま直進する。護衛を頼む』


「ベルツリー4-5、シノビ0-1、了解。そちらに合流する」


 奥から突っ走ってくる機動戦闘車と軽装甲機動車が目の前を高速で突っ切る中、ビル影から飛び出し同じ方向に向かって走り始める。とはいえ、人間が走るのと車両が走るのでは速度の差が大きすぎる故、さっさとおいてかれてしまうわけである。合流ってなんだっけ。

 HMDにデータリンクの映像流していた和弥が叫んだ。


「AHからデータリンク、包囲に穴開いた! 二澤さんところのMCVとラヴが突っ込むぞ!」


「包囲の淵に入れ! 二手に分かれろ!」


 別方向から飛んできた機動戦闘車と軽装甲機動車の一群が、アタッカー1とベルツリー4-5、ランド2-7の開けた穴に突撃していった。一瞬で全部突っ込む早業。上空からアタッカー1が放ったらしいミサイルが見える。

 俺らとタッグを組む地上部隊は速度を落とした。後は二手に分かれ、両サイドから包囲を戻そうとする攻勢を妨害する。


『こちらベルツリー4-5、UAVリンク、座標FG-558に敵の一群あり。めんどいやつだ。スティンガー持っていやがる』


「おいおい、対空火器は全部潰したんじゃなかったのか?」


『どうやら生き残りのようだ。地上車両には狙えないが、ヘリに向けられたら厄介だ。無誘導でこっちに当てられてもマズい。潰してきてくれ。他の包囲は任せろ』


「了解。少々お待ちを」


 UAVからの映像リンクを確認。西から増援あり。ヘリが飛んできたのを見て即行で用意したらしい。隠れて持っていたものがあぶりだされたと思えば、ある意味ラッキーか。

 すぐに5人で潰しにかかる。スティンガーを複数持っているのか、10人弱ほどいる。そこそこの人数だ。真正面からぶつかったらこっちもダメージである。


「敵、この先50m」


「ここで待て。そこの狭い路地に」


 近くにあったビル影の狭い路地に入り込むと、敵の予測針路上で待ち構える。行きを顰め、敵が来るのを待った。

 ……きた、通った。


「後ろと上からから奇襲してやれ。“二人とも”」


 その合図とともに、待ち伏せていた片割れが、敵の針路上に上から降り立った。


「―――ッ!?」


 どっちなのかわからないのだろう。本物か? 偽物か? すぐに撃とうとせず、一瞬迷ったのが運の尽き。


「―――残念、どっちでも同じだ」


 “メリア”は銃を使わなかった。全て近接戦闘で潰しにかかったのである。ナイフを取り出し、手から足まで使えるすべてを使って敵を蹴り飛ばし、突き飛ばす。途中、メリアの背後からナイフを取り出して突き刺そうとする敵が一人。


「―――ッ! ガハッ……!?」


 しかし、思惑敵わず。胸部に銃弾が貫通し、力尽き倒れたその後ろには、“本物”の姿があった。


「後ろから撃たれたら私にもあたるのだが」


「大丈夫、若干ずらしたから」


 まだ敵がいるというのに、この余裕ぶっこいた会話。あの二人に残党を任せている隙に、まだいた例のスティンガー一群の一味を捕捉。

 気づく前に、銃撃を以って仕留めた。どうやら、ユイ達が相手にしているのは一群の中でも前方に出張って見張る人間らしい。本隊はその後ろ。だが、前衛がやられたため、本体も丸腰状態であり、俺たちの敵ではなかった。

 スティンガーを回収。すると、改造が加えられていた。簡易だが、対地用のレーザー照準器が備え付けられている。


「ほう、アイツら、改造も出来ちまってるのか」


「放置してねえで助かった。よく見れば、スティンガーの弾頭もなんか若干形が違うな」


「スティンガーを対地兵器にするよう照準機能をとっかえたか。ただのテロリスト共がそんなことできるとは思えねえし……、ハリスの奴かな」


「たぶん手を加えたな」


 彼なら、これくらいの改造は余裕かもしれない。スティンガーが対地用に改造されているとすれば、装甲車にとっては厄介な相手である。和弥は機動戦闘車部隊に念のため警告しておくと、入れ替わりに他の一群の掃討を命令される。


「次、今度はRPG持ってるぞ! ここから南行け南!」


「そこのロボット女ども! 仕事終わったかそっち?!」


「終わりましたけどこいつらこのままでいいんですか?」


「ほっとけ! そのうちだれか持ってくだろ!」


 主に戦後処理の話だろうが……しかし、時間もない。すぐに南へ向かって別の一群を撃破しに行った。




 ……というのを繰り返して、早30分が経過した。


 敵は包囲を詰めるべく、徐々に大軍をよこすようになってきた。よほど人質を奪い取られたくないらしいが、これほどの量だ。もしかしたら近くにいる敵全部呼び集めたんじゃないだろうか?


「どんくらい敵がいやがる……もう50人はやられたはずだぞ」


「主にあの二人によってな」


 目の前では、例のロボット組がコンビで敵を撃退しまくっていた。時には銃撃で、時には近接戦闘で、時には遠近の役割を分けて。いつの間にか、メインであの二人が攻撃し、こっちはサポートという体制が出来上がっていた。しかも、これがまたうまくマッチする。


「息が合うなアンタら、やっぱり姉妹か?」


「らしいわね。こんな戦闘狂が姉とは思いたくないがな」


「オッケーアンタ後で絞めてあげるから覚悟してなさい」


 そんな冗談言えるなら十分だな。俺は一つ安心しつつ、マガジンを取り換える。

 今は、包囲網でできた穴をどうにか塞がれないよう、場所を固定してそのまま現状維持をさせている。機動戦闘車やヘリがさっきからひっきりなしに砲弾なりミサイルなりをぶっぱなす中、そろそろ疲労もたまり始める。


「和弥、パッケージ確保したって無線入ってたっけ?」


「一応入ってたぞさっき。もうこっち来てるはずだ。てか、見えてもいいはずなんだが……」


 しかし、一向に来ない。車列がホテル日本橋に近い方角から見えてくるはずが、車の一台見えてこない。まさか……という、悪い方向への想像をし始める。


『ベルツリー4-1、合流予定時間を過ぎている。状況を報告せよ。ベルツリー4-1、聞こえるか?』


『アタッカー1から各部隊、パッケージがいる方角で戦闘あり。これよりそちらの援護に向かう。アタッカー2がCASを引き継ぐ』


『無線がそもそも帰ってこないぞ、どうすればいい? 司令部は把握しているのか?』


 無線も混線してきた。敵が大軍を引き連れてきたことによる焦りが出てきたのだ。もう時間もない。機動戦闘車の高火力がこの大軍にどこまで通用するかはわからない。残りの弾薬的に、そろそろ逃げの準備に入りたいのが正直なところであるはずだ。


 ……だが、こない。


「見に行きますか? 何なら私だけでも」


 マガジンを交換するため、いったん後方に戻ってきたユイがそう言った。


「冗談はよすんだな。この大軍だ。むしろお前にはここにいてもらわないといけないぐらいだ」


「でも結構な数来てますよ。ここら近所の奴全部呼んだんじゃないんですか?」


「俺もそう思ってた。相当奪われたくないらしいぜアイツら」


「過度なストーカーは嫌われるってのはさっき学びましたからね、追い返しますか」


 そう言ってまだ戻っていった。それ、さっきのハリスのクソジジイのことか? さりげなくストーカー呼ばわりとはずいぶん失礼な話だが……いや、強ち間違ってもいないか。


「まだか、一体どこにいる!?」


 和弥がそう愚痴を吐いた。


 ……その数秒後である。


「……あ、あの車列ってそうじゃない?」


「え?」


 新澤さんが北の方を指さす。そこには……


「……いたぞ! MCVとラヴだ!」


 高速で突っ込んでくる、機動戦闘車とラヴの一群だった。間違いない。パッケージ確保に向かった奴らだ。


『こちらベルツリー4-1。予定より遅れた。パッケージ確保完了。バイタル問題なし。これより脱出する。援護頼む』


『了解、よくやった。ベルツリー4-5より各部隊、全速力で脱出せよ。このまま南進する。随伴も近くのラヴに飛び乗れ』


 言われた通り、一瞬だけ止まったラヴに手あたり次第飛び乗った。こういう時に備えてか、車内は人がほとんどおらず、運転手以外はガンナーだけが乗っている。


「よし突っ走るぞ! 全員掴まれ!」


 軽装甲機動車が速度を上げた。後はこのまま全速で南進。後方からやってきている別働隊と合流し厳重な守りの元、本部へと戻るだけである。この足さえあれば障害は大きくない。


「よし、この速度であれば奴らもおいつけ……」


 ……と思ってい自分が、甘かったのだ。


「―――なッ!?」


 前方に大きな障害物。二つもあった。


「クソッ、タイタンか!」


 しかも、下には武装した『歩兵』が大量にいる。南進するのを予測して、事前にこっちに人をまわしていたか。これでは、機動戦闘車がタイタンを即行で潰しても通れない。


『全車、入れる脇道に入れ!』


 無線に反応しすぐに近くの脇道に入った。入る直前、機動戦闘車2両がタイタンに向けて発砲。その後、俺たちはその場で止まった。いや、止めざるを得なかったのだ。


「この先、もう回り込まれてます」


「包囲が早すぎるぞ、奴ら本気だ」


 包囲を狭めてくる速度が余りに早すぎる。周辺にいる自分の味方のロボットを最大限索敵ツールとして使ったのだろうか。車両を降りて、元々使う予定だった道を確認した。


「……うへぇ」


 タイタンは死んでいた。精度抜群の機動戦闘車の砲撃を前に、脚部を一発でやられたらしい。肝心の機動戦闘車の姿が見えないが、別の道に行ったのかもしれない。しかし、タイタンの周りには、大量の敵がいる。

 ……人じゃない。ロボットだ。かき集めたな。


「ダメだ、これは突破できない」


「別の道に行こう。どこが空いてる?」


 和弥がすぐに道を検索するが、割と早い段階で、余りに状況が絶望的であることを知った。


「……冗談だろ……?」


「なんだ、どうした?」


 和弥はマップを見せた。


「UAVリンク見たけどよ、アイツら近隣にいるロボット全部集めやがったに違いねえぜ。こんな包囲あってたまるかよ」


 和弥の見せたマップには、敵の位置がマーキングされていたが、俺らのいる場所の周囲はほとんど赤い。さっきよりひどい状況だ。俺らが逆に包囲されている。


「ヘリだけで潰しきれねえぞ」


「今CAS入ってるけど、もう弾やべえよな? 敵が多すぎて予想外に使い過ぎてたろ?」


「もう弾がほとんどないって言ってさっき帰ったぞ」


「援軍のAHは?」


「今二澤さんとこが無線でよんでるらしい。無線で流れてる」


「ヘリがくるまで待てない。どこかで早めに突破しないと」


「でもどこだ?」


 切羽詰まった状況となった。こうしているうちにも、敵は包囲を狭めてきている。今から来た道を戻るなんてことはできそうもない。余りにハイリスクだ。


「……この数は……、ムリだよな?」


「私に死ねと?」


「さすがにこれは無理か……」


 いつもは人間顔負けレベルで強気なユイでも、こればっかりは即座に拒否せざるを得なかった。余りに多すぎる。一人では手に負えないレベルだった。

 タイタンがおらずとも、急造のロボット兵だけで十分な戦力だ。こっちの超高性能ロボット2体と数人の人間だけでどうにかできる規模じゃない。


 ……マズい、どこを行けばいい?


「(……脱出口あるか……?)」


 マップを凝視しながら必死に出口を探し求めた。


 ……その時である。


「……ここ、若干手薄だな」


「え?」


 マップを凝視する俺の視界に入ってくる一本の人差し指。メリアのものだ。指さした場所は、ここから少しだけ北に進み、そのあと東に進んだところにある。確かに、まだ比較的敵の規模は少ない。


「ここを一点突破する以外にない。それ以外道はないだろう」


「だが、ここを通るにしたって少し北に行って、さらに東に進むまでの時間を稼がないといけない。短時間ではできないぞ。その間ここで誰か足止めしないといけなくなる」


 先ほどまでヘリが担っていた部分は大きい。誰かが代用しないといけない。だが、撤退する上での護衛戦力も必要だし、機動戦闘車はそこから外せないだろうし、その護衛のラヴも数台必要だ。残り、誰が残るか。


「……いるだろ。ここに」


「……は?」


 彼女は、一直線にこっちを見つめていた。訴えるようなその目の意図を、俺は瞬時に察した。


「……それは、冗談で言ってるのか?」


「本気だ」


「……マジか」


 その真意が嘘でも何でもないことを知るや、俺はさらに問うた。




「……お前が、身代わりになるってか?」




 頷いてほしくないのに、彼女は臆することもなく頷いていた…………

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