表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
序章 ~遭逢~
14/181

同性同士(ただし中身は……)

 その後少しの間、この施設の中を簡単に案内した。


 全施設を回るのに別段時間はかからなかった。それほど大きなものでもないし、建屋内を回れば数十分で回れるくらいには小さい。

 時々ほかの自由時間中の兵士たちともすれ違いちょっと会話を挟んだりした。

 向こうにはこの隣にいるこいつはただの新米隊員だってことで話を進める。こいつもそれに同調してくれた。

 時には頑固な新人隊員は「コイツいたっけ?」みたいな反応を示すこともあり少し焦ったが、そういうやつらに対しては頑なに「いや、いたよ最初っから?」とか「大丈夫です私影薄いですから」とかって言いつつも押し通してできる限りさっさと会話を切り上げた。


 そんな感じで、そうやって施設を巡っているうちに最後のあたりに行き着く。


 廊下の窓から今日の夜の風景が見れる。とはいえ、今日は曇っててや夜の風景もくそもないが。

 その反対側は雑用品やらなんやらの不要物を置いておく物置部屋に、用済みの機密書類やその他書斎物などを管理しておく保管部屋が点在しており、あんまり人影はいない。

 今この時間も同様だ。天井に点いている白いLEDライトに照らされたこの廊下の空間も、人が俺たち以外全然いない今となっては、なんとなく、何とも言えないような侘しさを感じてしまう。


「……んで、ここが書斎書庫。中には機密関連の文書も含まれてて、それらは全部ここに置かれる」


「じゃあ、警備厳重なんですか?」


「いや、機密文書とはいっても、今は用無しのものばっかだ。ぶっちゃけ今更外部に漏れても何ら問題はないもんばっかだよ。だから警備はあんまりない。あくまで物置だから」


「なるほど……」


 そう言いつつ自身のメモリーに情報を記録中……。とかしてるんだろうな。

 ロボットの気分になって今頃何してるかなって考えるのが、これまた実際やってみると結構面白い。ある意味ロマンの一種だろう。


 ……ロボットって考えるだけでここまで想像できてしまう日本人も中々いないわな。まあ、俺が特別そんな人間なのかもしれないが。


 とはいえ、そういう情報記録も、人間の感覚にしてみれば一瞬で終わるのはロボットも同じ。別段時間をかけて記録はしない。

 少しこの部屋のほうを見たまま固まると、すぐに小さく何度もうなずきながら視線をそらす。記録は終わったっぽい。


 ……よし、となれば後はもう回るところはないか……。


「よーし……。施設は大体こんくらいか。あとは隊舎のほうを……」


 と、そんなことを考えていた時だった。


「あれ? 祥樹じゃない」


「?」


 途端に向かって左前方から声が聞こえる。女性の声だった。

 すぐにその声の主は判明する。


「……あぁ、新澤さん」


 俺と同じく上下ともに制服姿の新澤さんの姿だった。


 風呂上りかなんかで急いで制服に着替えたんだろう。なんとなくさっぱりした顔を見せている彼女の左手には、何やら数枚の紙が入っているらしい赤いファイルを持っており、たぶん何らかの書類かなんかだろう。彼女とて、階級自体は俺より一つ下とはいえ同じ下士官。そういう身分ではある。


 方向からして隊舎からきたみたいだな。ここの通路は隊舎と施設の連絡通路のような役割もある。もちろん構造上そうなっただけで別に正確には連絡通路とはまた違うが。


 互いに相手のもとに向かうと同時にすぐに聞いた。


「どうしたんです? こんなところで」


「いや、ちょっと今日の訓練の報告まとめてただけ。まだやってなかったからね」


 そう言って左に持っているファイルをひらひらさせる。中身の書類はその類か。


「あれ? それってどっちかってと俺の役目だった気が……」


「いやぁ、ほら、羽鳥さんと組んだ時のアンタの評価とかそれも含まれててさ。……あれ私もやらされてたから」


「ははぁ……」


 お疲れさんですねぇ俺なんかの評価のために。なるほど、わざわざ俺を和弥と組ませてたのはこれのためか。評価と被評価のってことね。和弥の分も入ってるのだろうか。少し気になるところである。

 大方団長に私に行くところだったのだろう。女性といえどそこまで任されるというのは、信頼が高いことの証明だ。結構結構。


「この後団長のとこに行く予定なのよ。さっさとこれだして例の事情聴きださないとね」


「―――? 例の事情?」


「そう。ほら、祥樹も聞いてるでしょ? 新設する部隊と、あと新しく試験的に来るって予定だったロボットの件」


「……あー」


 ははぁ、新澤さんも事前に聞いてたのか。でもロボットに関してはあの時初めて知ったんだがね。いったいどこから情報漏れた。

 一緒にいた羽鳥さんあたりか? そこらへんならなんとなく知ってそうな気もするが、いずれにしろ即行で情報漏れてるこの機密体制どうなんだ。後で羽鳥さんに相談してみるほかはあるまい。


 確か、新澤さんは俺の部隊の副隊長をするかもしれないってことだったか。成績やら適性やらなんやらの件で。

 ……どうせだ。今聞いてやる。


「それ、もうさっき俺聞きましたよ?」


「あ、団長のとこいったの?」


「ええ。んで、新澤さんが俺を隊長に推薦したことも“ば っ ち り”聞きました」


「アッハハ、やっぱり?」


 そういう新澤さんはなぜか笑顔である。解せぬ。

 俺は少し呆れつつため息をついた。


「はぁ……、いやまあ、別に推薦自体はダメとは言いませんが、なんだって俺なんです? 理由とかは大まかに団長から聞きましたけど、ぜひとも本人の口から事情をですね」


「いや、そうはいっても……。ほら、私、あんまり上に立つ人間には向いてないから」


「じゃあなんで下士官になったんですか……」


「仕方ないじゃない。周りが進めるんだもん。元は確かに一般候補生から入ったけど、やってみて自分それほど上の人間には向いてないって気づいたし」


「いやいやいやいや……」


 思わず苦笑いで目をそらしてしまう。


 そうはいって下士官になったからにはそれくらいやってくださいよ……。アンタのせいで俺が年下なのにソッチより上の曹長で、しかも隊長と副隊長の立場が逆転してんですよ? はぁ……。


 新澤さんも俺の言わんとしていることを階級的な意味でなんとなく察したのか、慌てた口調で言う。


「そ、それに、ほら、私はどっちかっていうと下にいたほうが動きやすいから」


「それ単にアンタが指揮したくないだけでしょ……」


「い、いや、それは……まぁ……。うん、否定はしない」


「しないんかい」


 そんな汗水たらして目線そらされたらそれこそ胡散臭くなるで言ってることが。

 ……はぁ。でもまあ、一応それは俺の能力を認めてるってことの裏返しにもなるから別に悪い気はしないとはいえ、それでも副隊長ってことはあくまで俺の下からサポートと、万が一の時の臨時指揮をするには彼女が一番の適任だってことなんだろうな。というか、本人があとでそう言っていた。

 ある意味、新澤さんの場合は事前に渡される情報が俺より多いようだ。副隊長云々の件まで知ってるし。

 となると、ロボットの件もただ単に俺より渡される情報多かっただけ? まあ、そこは俺が知る由もないだろう。


 すると、話はそのロボットのほうに移る。


「にしても、そのロボットってどんなのだろうなぁ……」


「え?」


「いや、だって気になるでしょ? 完全自律って噂だし、それこそ完全にSFよSF。それ系大好きのアンタならわかるでしょ?」


「……あー、うん……はい……」


 思わずちょっとバツが悪そうに目をそらす。

 噂程度でそこまでの情報が来てるのか。人間の情報網というのは実に恐ろしいものだが、でもそれ……、実は俺のすぐ後ろにいるんですがね……。

 なんでか知らんが俺の隣にはついてこないで後ろで待機。こっちに気を使って邪魔をしないようにしてるのか、それともただ単に自分の話題が出ないように極力後ろで待機中なのか……。


 まあ、どっちにしろもう話題出てるから隠れてる意味ないんですがね。


 しかし、新澤さんはそんなことはお構いなしに目を輝かせていた。

 彼女とて日本人。こういうロボット系に対しては結構ロマンを感じる民族の一人のようです。


「後で団長にも聞くつもりなんだけどさ、ほんと、もう来てるらしいのよそれ」


「……誰から聞いたんですそれ?」


「え? いや、ついさっき羽鳥さんから聞いたけど?」


「あの人もうそこまで知ってんの……?」


 まあ、案の定といえば案の定だが……。


 実は団長とか羽鳥さんとか、そういう上の人は前々から知ってたのだろうか? いや、ある意味当たり前なんだろうが、それ普通にしゃべっちゃっていいのだろうか。尤も、後々普通に駐屯地内全員に知らされるわけだからはっきり言ってどっちに転がっても後々の結果は同じわけだが。


 まあ、羽鳥さんがそういう機密に触れるようなことをむやみやたらにしゃべるわけでもないし……。それに、一応ついさっき聞いたばっかりってあたり、たぶん直前まで黙ってたのは確かだろう。


 とにかく、あの人がわざわざ話すということはそれなりの意図があるだろうし、まあそこまで知ってるならこっちとしても話が早いのは事実。


 ……問題は……


「(……その、アンタが楽しみにしてるロボットが後ろにいる女の子ってくらいかな……)」


 はて、自分と同じ女性形。どんな反応を示すやら……。


「とにかく、もう私としてはさっさと実物を拝んでみたいわけよ。どこに配属かは知らないけど少なくともうちの団に配属確定なのは間違いないからさ。SF映画みたいにゴッツゴツのガッチガチだったりするんかねぇ……はぁ~~どんなのだろうなぁ~~」


 その目はもうさっきの俺みたいな子供の目である。漫画なら背景がまぶしくキラキラ光ってるところだろう。

 新澤さんも女なので、まるでその光景は憧れの先輩を思うときの後輩ようなきらびやかな顔である。どこの乙女だって言いたいが、よく考えたら新澤さんもまだ年代的にも外見的にも十分、いや、十分すぎるほどの乙女でした。


 俺はどう答えればいいかわからず、終始それを見つつ苦笑いを続けていたが……。


「……ん?」


「?」


 ふと新澤さんが視線を変えた。

 体を向かって右にちょっと傾けて後ろの方向を見ている。その視線の先に俺も顔だけついていくと……。


「うわィッ、お、お前いつの間にこんなとこに……?」


 なぜかいつの間にか俺の隣に近寄ってた。一切表情を変えずに。

 そして、そのままの表情で淡々と答える。


「いえ、あんまり無駄に会話に入るのも野暮かと思いまして」


「無駄に空気読めるんだなお前……」


 呆れるやら感心するやら。ちょっと微妙なため息を軽くついてしまう。

 ロボットのくせにある程度空気を読むという概念を会得しているのか。すごいなおい。

 尤も、空気を読むことにとてもうるさい日本人作のものなら、もしかしたら、ってこともあるかもしれないが。子は親に似るというし。


 さっきまで後ろのほうに待機してたってのに、何の気配も感じなかった。まさか、これもロボット所以か。正確にはロボットには準電磁界のようなもんはないからこっちが気配を感じるのは無理があるか。電気が外に発生するわけでもない限りな。


 気配を感じるっていうと、なんとなく人間の本能というか、あんまり科学的に証明するのが難しそうな部類に入るように思えるが、実はもうすでに科学的に解明されている。


 人間の体にある『準電磁界』と呼ばれる独特の電磁界があるが、これがその気配の正体とされている。それを相手側の体毛がアンテナのような役割をもって敏感に感じ取ることで『気配』という現象が生まれるのだ。

 誰もいない時でも気配を感じるときも、ただ単にその前にいた人が歩いたり何かに触ったりした時に残した『残留電気』を気配として感じ取ってるだけだったりする。


 今どきそこまでわかっちゃう科学も結構すごいと実感してしまう。


 こいつの場合、その人間が持ってるような無自覚で電気を発する準静電界がないから、どうやっても人間が感知しようがない。

 しかし、それでもたぶん電気的なのはなんとなく発してると思うものだが、仮にあっても微弱すぎて人間ごときには感知できませんってことなのだろう。


 とはいえ、視線の方向から見ても新澤さんがさっきまで気づかなかったってことは、たぶんこいつもついさっき来たな? その前から来てたなら普通気づくだろうし。


 そして、当然新澤さんも興味を持つ。


「ねぇ、そのかわいこちゃん誰?」


「かわいこちゃんって……」


 しかし、その目は興味津々だ。少し首をこいつのほうに傾けている。しかも結構嬉しそうに。

 なんせ、男ばっかりの、というか、実際新澤さん自身以外男しかいないこの職場に現れたもう一人の同性仲間。そりゃ、ちょっとばかし喜びもするし、興味も持つ。


 だが、そのマジマジとした視線にも全然こいつは動じない。さすがロボット。やっぱりこれは持ち前の耐性云々以前にそもそもこういう時の反応は人間らしいものをプログラムされてないらしい。


「まあ、ちょっと……。新人さんなんで、ちょっと施設案内をね。ついでなんで」


「ふ~ん、新人さんか……。あれ? でも今年分の新米の中にWACっていたっけ?」


「ギクッ」


「というか、たしかリストにWAC載ってなかったような……」


「うッ……」


 しまった。この人知ってるパターンか。下士官でしかもしばらく長居している人だから一々その面子までちゃんと見てないかと思ったらむしろ逆だったとかそういうパターンか?

 ……とかいう心配をしていると、


「……でもかわいいわね。少なくとも私より」


「おいおい……」


 そんなことを即行で言われたので思わず拍子抜けである。


 ……もう、アンタの興味はそこか。そこしかないのか。いや、否定はしないけど。むしろ全肯定してやるけど。

 というか、近づいてマジマジとみすぎだろ。さっきの俺かアンタは。


 ……そして、そこまで言われてやられてもただただ笑顔を振り向けるだけで済ませるお前もどんなメンタルしてんだよ。

 いや、ロボットにメンタルもクソもないんだろうが、しかしここまで続けざまに褒められて見つめられて何にもそれらしいリアクション起こさないあたり、やっぱりこいつはロボットだと実感する。……外見のおかげで違和感満載ではあるが。


 しかし、どうしたものか。そこまで記憶されていてはもうかわしようがない。この人の場合、性格上、無駄に押し通そうとすると余計に怪しまれるし、今からさっさとこの場をおさらばしようとしたら余計逆効果だ。


 ……う~ん……


「(……一応、この後団長から真実伝えられるよなたぶん……)」


 団長のもとに行くとなると、たぶん呼ばれたんだろうし、その時俺がさっきうけた報告と同じことを言われるんだろうし……。


 ……じゃあもういいか。どうせこの後団長から言われるんだろうし、そもそも遅かれ早かれこいつの正体は団長のほうから隠れて全員に明かされるんだし……。


 そんなことを思い、俺は少しため息をつきつつ未だに興味津々に彼女を見ている新澤さんに声をかける。


「……あー、えっとですね、新澤さん。実はちょっとぶっちゃけたことを告白いたしますと……」


「―――? なに? 私告白されるの?」


「そっちではないですって」


 ベタなボケにベタなツッコミで返す。


「いや、そうでなくて……。もうこの際ここで言っちゃうんですけど……。新澤さん、さっきロボットを見てみたいって言ってましたよね?」


「ええ、そうね。ぜひともこの目でね」


「ええ、それなんですが……。実は、もう目の前にいるんですよ」


「……は?」


 案の定、新澤さんはこっちを見たまま呆気にとられたような顔をする。

「なに言ってんのコイツ?」とでも言わんばかりの目線だった。まあ、予測できたことだ。なんせ、数十分前の俺がこんなだったからな。

 尤も、これ以外の反応はまるで想像がつかないので妥当ではある。


 しかし、俺はそれに構わず話をつづけた。


「いや、ですからね……。もう、目の前にいるんですよ。そのロボット」


「…………はぁ?」


 しかし、返ってくる反応がさっきと全く同じという。まあ、別段おかしくない反応ではあるが。なんせ、この周りにロボットらしいやつなんていないし。

 ……うん。いないよ。“それらしい奴”は。


 ……この段階でいったいどこの誰が人間そっくりの彼女が実はロボットなんて考えるだろうかね。やはり、新澤さんはそっちのグループには入らんか。いや、普通はいらないか。普通は。


 新澤さんも突然変なことを聞かれたがためにちょっと怪訝な表情となる。


「え、えっと……、え? ロボット? ここにいるの?」


「ええ、います。目の前に」


「いや……いやいやいや、どこによ? 全然いないわよここには?」


「え、ええ……まあ……そう見えるのには違いないんですが……、その……」


 さ~て、どうやって説明してくれようか……。

 直球で「あ、実はこいつなんですよ」とかいってもどうせ信じてくれないどころか即行で精神病院を紹介されるのがオチだろう。

 とはいえ、これしか方法がないのも事実。


 ふむ……、この場合、ご丁寧にまず今回くるロボットがどんなもんなのかを簡単に説明してからのほうが……。


 ……とか思っていると、


「……あ、まさか」


「?」


 新澤さんが何かを察したような声を上げた。目も見開いている。

 まさか、察したのだろうか。まあ、ここにいるのが俺たち3人なわけであるし、ここまで条件がそろえばさすがに察してしまうのだろうか。

 しょうがない。バレてしまったし(とはいっても意図的にだけど)、ここからはちゃんと説明……


「……つまり」


「はい」


「……ま」


「?」





「まさか、祥樹がロボットだったってオチ!?」


「いやなんでそのオチが出てくるの!?」





 新澤さん、まさかのアホの娘説が急速浮上。


 ……あのさぁ、ここまできてなんで俺に振るの? 俺今まで普通に人間だったよね? そういったしぐさとかしてきたよね? あと俺一切ロボットっぽいことしてないよね? ロボット大好きってのは周知されてるだろうけど。

 なに、これボケ? 新手のボケ? いささか無理有りすぎでしょこれ。センス疑うよ。俺が言えた義理じゃないけどさ。


 そんな新澤さんはさっきの衝撃の顔からは一転してヘラヘラした様子で言ってくる。


「な~んてね。冗談よ冗談。まさかそんなわけないでしょここにいるの人間だけよ?」


「は、ははは……そ、そうっすよね……」


 しかしそんな見え見えなベタボケをされてもむしろ反応がねぇ……。そんな感じで呆れかえっていると、新澤さんがまた慌てたように話題を振る。


「で、でもさ! 目の前にいるって言っても、一体どこにいるのよ? ここには人間しかいないわよ?」


「人間ねぇ……」


 ……仕方ない。長くなりそうだからさっさといってしまおう。

 あんまり引きずるとまたさっきみたいになる。


 チラッと隣にいる名無しロボットの彼女を見て、また視線を戻して意を決して言った。


「……実はですね。この中に人間でないやつが混じってて……」


「……え?」


「ですから……。一人だけ、人間でないやつがいるんです。そいつが、新澤さんが楽しみにしているロボットの正体です」


「…………え?」


 これまた素っ頓狂な顔である。無理もない。そりゃそうなるようなことを俺は言っているんだ。


 普通に考えれば、今俺の言ってること自体おかしな内容なんだ。見た目人間が3人しかいないこの状況下で実はロボットがいますって言われても、そりゃ「は?」となる。ならないほうがおかしい。SF映画の世界じゃないんだぞって話である。


 そして、俺と新澤さんは、そのSF世界ではない現実世界に住む人として当然の反応をした。


 新澤さんもまた軽くあたふたする。


「え、で、でも、ここにはいないわよね? ここにいるのは人間だけで、ま、まさかアンタがほんとにロボットなわけ……」


「ええ。もちろん、俺は違います。そして当然、新澤さんもロボットではありません。SFとかなら、実は自分はロボットだったとかって展開が来ますが、残念ながらそれはSFだけです」


「だ、だよね……、わ、割と本気でびっくりした……」


 その顔はあながち冗談でもなく、割と本気でホッとしている感じだった。

 心配せずとも、そこまでの技術はできておりませんよ。SFではよくある手法だけど、でも現実的に考えたらそんな自分の正体を自覚せずに人間のような生活を送るなんてものくっそ現実的ではないのである。


 ロボットは人間ほど精巧、かつ高性能ではないので、どうあがいても途中で不都合が起きてその瞬間自分の正体がバレる。

 たまに、むしろそれを使ってストーリーを展開させるやつもあるが、俺の知る限りではごく少数派だ。いや、そもそもそんな展開を持ってくるSFすら最近見ない。

 SFの世界でも非現実的なんだ。


 ……そう。だからこの時点で俺と新澤さんはハズレ。


 ……となれば、


「……え、じ、じゃあちょっとまって? てことは、ここにいるのでまだ残ってるのって……」


 ここまでくれば、さすがに新澤さんも察してきた。いや、むしろなんでここまでこないと察せれないのかとも思ったが、やはり、発想がなかったか。無理もないだろうが。

 その視線は何ともぎこちなくガチガチした感じだった。その先は、案の定“彼女”に向かう。

 彼女は相変わらず表情を一切変えない。もうこれにも大分慣れてしまった。


 人間というのは案外慣れようと思えば即行で慣れる生き物である。ドストエフスキーさんもそう言っている。


 しかし、新澤さんはまだ出会ったばっかり。そろそろ彼女の人間的な性質に関しての疑問も抱き始めるころであろう。もちろん、ここでいう疑問とはこの彼女の反応の異常なまでの“不変さ”である。


「え、い、いや……でも……、え、え?」


 新澤さんの表情もどんどんとこわばってきた。個人的にはこんな新澤さんを見るのは何気に初めてである。いつもは男顔負けのテンションかつ性格なのである。


 もうちょっとこんな新澤さんも眺めていたいとも思ったが、あんまりこのままにするのも可哀想なのですぐに割って入った。


「……まあ、自分も未だにちょっと信じられないんですけど……」


「え、いや……。う、うそでしょ? マジで?」


 そう言って顔はこっちに向けつつ指は彼女を指す。しかしその指も指で結構震えている。ここでの震えは恐怖感からなのか驚愕からなのか。またはそれ以外なのか。それはわからない。


 ……だが、いずれにしてもそれは尋常でない反応であったということは俺から見てもしっかりと見て取れた。

 まるっきりさっきの俺と同じだ。こんな感じに見えていたのだろうかと思うと、なぜかちょっと笑えて来てしまう。しかし、ここでは絶対に顔には出さない。新澤さんが自分が笑われたと勘違いするから。


 ……そして、俺はそのまま、静かに言った。


「……うそでもなんでもありません。……そうです。お察しの通り、この、目の前にいる彼女こそが……」








「……あなたが楽しみにしていると言っていたロボット、正式名称『RSG-01X』です。こう見えても……、ロボットなんですよ。コイツ」









 俺のその一言に、新澤さんはただただ顔を驚愕の表情で固定させて、



 信じられないといった表情で、何かを訴えるようにずっと俺のほうを見ていた…………

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ