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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第7章 ~混乱~
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再会

 ―――こられない?


 一瞬、思考が止まった。ここに来いと言われて死線跨いでやってきた結果、今度は「来れない」?


 ……おいおい、冗談はよしなさいや。


「……ここからまた移動を?」


『そうだ。それも時間がない。できれば急いでほしい』


「待ってくれ、一体何が起きた。ヘリはどうした?」


『新たに構築された対空網がついさっき発見された。侵入コースを塞いでしまっている。そっちが排除されるまで、ヘリは不用意に飛ばせない』


「マジかよ」


 タイミングの悪い。クソッたれめ、誰だこんな時にスティンガーだか何だかしらんが対空火器いらんところに置いたのは。空気を読めってんだ。ここはノンバーバルコミュニケーションがスタンダードな日本だぞ。


「ヘリの予備機は? 他のコースをとる方法はどうだ?」


『今別働に回っていて外せない。他のコースをとることも検討したが、時間がかかる。すでにUAVより、敵接近の報あり。すぐに場所を離れたほうがいい』


「かぁ~、ついてねえぞ今日の俺ら」


 居場所を察知した奴らが来ているらしい。さっき倒したロボットらが居場所を味方に通報したか。そいつらが来る前に回収される手筈だったが、やむを得まいか。


『ポイントHM-258。周波数はそのまま。今すぐ移動を開始しろ。敵の妨害を予測しておいたほうがいい』


「了解。移動を開始する」


 善は急げ。場所はそう遠くない。さっさと場所を移したほうがいい。ただ、場所が建物の屋上というわけではないあたり、もう空輸はあきらめたか。とすれば、間違いなく味方の地上部隊との合流ののち、車両などを使ってさっさと逃げるということなのだろう。


 誰が来るかは知らないが、早くそっちに向かわねばならない。


「んじゃ、さっさとおりますか。UAVリンクどうだ」


「受信確認。もう200m圏内に入りそうですね」


「予想より早い」


 動きが素早い。ロボットなのだろう。こっちはそこまで弾が豊富にないため、時には回り道も必要だ。

 一先ず屋上を飛び出し、一気に階を降りた。幸い、まだ裏口付近は敵の行動範囲から外れており、俺らが潰したロボットらの残骸がそのままだ。それらを飛び越えて、細い脇道に入る。もうそろそろ日も十分高くなってきたのだが、この道はまだまだ暗い。道案内役のユイを先頭に、慎重に、かつできる限り急いで足を進めた。


「(南に直進すればいいのか? そこらへんHQ何も言ってないよな)」


 ルートの指定はない。このまま直行でもよし、回り道でもよし、そこはこっちの判断ということだろうが、それはそれで困るのも正直ある。

 このような場所では、たまに不意打ちでロボットが襲ってくる場合もある。UAVの監視の目を逃れた個体だ。油断も隙もありゃしないのが市街地戦の特徴だが、電子的監視網が発達しても、なおそれは存在した。


「この先右です」


 ユイが一言そう告げると、鉄筋コンクリートの壁ばかりの細道の先にあるT字を右に曲がる。


 ……が、


「―――ィッ!?」


 いきなり右から掴みかかる“誰か”が一人。完全なる奇襲に、体勢が悪いユイもすぐに反撃に出れずにいた。ロボットじゃないッ? 体格のいい武装した男だ。まさか、敵の!


「チィッ! どけ!」


 ユイの怪力ならどうともなるかもしれないが、このほうが早い。手に持っていたAK-74の5.45mm弾を敵の胴体部から足の方面にとにかく放つ。脚部に命中し一瞬ひるんだその男を、今度はユイが強引に右手のみで地面に投げ捨てた。

 ただの背負い投げのような技を、片手でやるあたり、さすがの怪力といったところであろうか。何の息切れもせず、さっきの押され気味のあれはただの演出だったのかと言いたくなるほどのあっさりした決着だ。


「はぁ、まったく、ここ鉄筋コンクリートばっかじゃなかったらX線スキャンで見えたのに」


「まあ、運が悪かったな。しかし、これまた随分とした武装……」


 そういって、俺がその完全に気を失っている男を見た時だった。


「……ッ! こいつは」


 その武装に見覚えがあった。欧米系の防弾装備に、ロシアのAKS-74U。数日前、偽物のほうのユイと行動していた時から、何度か見たことあるものだった。


「ここの武装集団の奴らじゃない……先進装備だ」


 まさかここでもおいでなすったとは。偶然にも通りかかったのか。というか、まだいたのか。肌が黒いところからして、コイツはどうも黒人らしい。アフリカ方面か、それとも、単にアフリカ系なだけか。

 前は白人だったので、これでもうどこの奴なのか見当もつかない。だが、所属する組織は同じはずだ。


「ここにもいたんだ……」


「うん?」


 ユイの意味深な呟くを俺は聞き逃さなかった。事情を聴くと、どうやら、ユイも見たことあるのだという。


 ……それどころか、


「向こうにいた時、これ関連で面白い情報を盗ってきましてね」


「え、盗ってきたの?」


「盗ってきました。まあ間違いなくスクープだろうなぁと思いまして」


「完全にスパイしてんじゃねえかお前」


 あれ、これ向こうに潜入してたの大正解だったんじゃないだろうか。ある意味一番不気味で一番知りたかった情報を持ってきちゃったこいつの功績はこれだけでも十分讃えられるレベルであると個人的には思う次第である。

 ユイは右耳のすぐ後ろに手を添えると、何かを取り出した。ちっこいSDカードである。大容量タイプのものだ。そういえば、そこがSDカードの収納スペースになってたのを思い出す。


「本当はさっき屋上にいるときに渡せられればよかったんですけど、時間がなくなってしまったものでしてね」


「こいつに、色々とデータが入ってるってことか?」


「全部ではありません。ですが、大まかなものはすべてそこに。あと、プラスアルファのデータも」


「なるほど……」


 まあ、さすがに今見るわけにはいかない。少し移動して、時間が取れるときに見るとしよう。小さなタブレット型端末にSDカードを差し込むと、そのまま少し移動した。

 南方向へ向かいはするものの、直進はせず、寄り道を多用しながら進んだ。できる限り大通りにはでない。敵の捜索を切り抜けるには、細い脇道を使うしかなかった。時間はかかるが、最善であると信じた。


 合流予定の部隊と交信を行いたかったが、電波が届かないらしい。どうも例の電子戦型ロボットに電波をやられているらしい。参った。どこで落ち合うかは既に決まっているが、それを変更したくてもできないし、時間も遅れるときに伝えることができない。

 幸いユイの先導がいいのか割と順調に進んだ。だが、途中どうしても止まらざるを得ない場面が来る。細道の次の曲がり角に、敵のロボットが立って動かないのだ。


「……動くの待ちますか。ここから回り道っていってもあまりにも時間かかりすぎますし」


「だな」


 少しの間待つことになった。向こうはどうやらしばらく動きそうにないし、どうせなのでこの時間を使って、ユイがくれたSDカードの中身を拝見することにした。中身は幾つかのファイルに入っているようだ。


「……これは?」


 『ハッキング』と書かれたファイルの中身には、向こうから盗んできたらしいデータが入っていた。PDFのものもあれば、メモ帳のものまで様々である。幾つかは画像もあった。中身を見ると、これもこれで驚きの内容であった。


「……奴らがどうやってハッキングしたかの方法?」


「完全にではありませんが、これで、ある程度は把握できるでしょう。今回のこれは、いうなれば“長ハイレベルなF5アタック”みたいなものです」


「F5アタック……」


 F5アタックは、インターネット上ではよく知られる禁止行動の一つである。サーバーに対するDos(サービス妨害)攻撃を行うときの手法の一つで、多数のクライアントが一斉にページ再送請求を繰り返し送ることで、カフカによりサーバーを落とすもの。組織ぐるみでやったら当然犯罪として立件されるものだ。

 今回のロボットの暴走の件は、これと似たやり方が用いられたらしい。まず、多数のコンピューターを使って、R-CONシステムのサーバーに対するDDos攻撃を仕掛ける。それにより、サーバーが処理能力の限界を超え、完全に落ちた段階で、ロボットらの支配システムに割り込み、偽物としてR-CONシステムに成りすます。それにより、本物のR-CONシステムが落ちている隙に、本物と成り代わってロボットらを支配下に置くというものである。


 そういえば、以前和弥と指定暴力団の首都連合の密売情報を奪取したとき、通常の武器類より、なぜかコンピューターなどの電子機器類のほうが多かったことに違和感を感じた件について話していた記憶がある。しかも、桜菱や富士見といったものを、内部機密に関わる通信ができるよう改造されたものばかりだった。

 ……これは、もしかしたら今回のDDos攻撃に用いるためのものだったのかもしれない。あれだけの量があれば、少なくとも処理能力の低下を引き起こすことぐらいはできる。あれも、市販の量子コンピューターだったし、元から高性能だったため、改造すればもっと性能が上がるかもしれない。


「……じゃあ、あれは全部、この時のため……」


「たぶん、私を襲ったのもこれだった可能性も」


「チッ、事前に気づけていれば……」


 また、この武器類も、どうやら先の首都連合あたりから流れてロボットに渡されているらしいことも書いてあった。あいつら、この武装集団とグルだったということになる。この情報だけでも大戦果なのだが、まだあった。R-CONシステムの弱点を記したものだ。


「要はこれ、一枚岩だったんだそうです。セキュリティはガッチガチに固まってますが、逆に、それに頼っていたそうで」


「セキュリティの壁が厚いなら、その壁が壁として機能しなくなるようにしてしまえばいいってことか」


 直接崩す、というのとは違った手法だ。これをするために、DDos攻撃を仕掛けて、機能不全を引き起こさせたのだ。元より、これのサーバーには量子コンピューターを使っていたので簡単に破られるはずはないのだが、対抗する側が、これほど大量の量子コンピューターをDDos攻撃に使うことを想定していなかったのだそうだ。どうやら、産業スパイを使って、あらかたの性能を盗んだ模様だ。完全にマズい情報流出の証拠である。

 こうなれば、数の暴力で圧倒できる。個々の性能は劣っていても、数を増やして総合的な性能を上げてしまえば、あとは分散コンピューティングの技術を使って処理能力を上げ、それでぶん殴ればいいのである。


 ……完全にセキュリティ設計の甘さを突かれたものだった。


「(……これ企業責任者死ぬんじゃねえか)」


 もちろん、そのまんまの意味ではなく違う意味での死である。責任追及は免れないうえ、これが世間にさらされた日には、世論ぶっ叩きは間違いない。東京のどっかの鉄道が人身事故で止まったときは、もしや……と、見ることになるのかもしれない。

 だが、このデータを見るに、簡単にではあるがハッキングをするための大まかな手順や必要なシステム構成も入っていた。これを使えば、逆にハッキングを解除する突破口も見つかるかもしれない。名誉挽回したいならそこがチャンスではないだろうかと思ったが、結構な難易度であろう。


 また、二つ目のファイルには、例の東京都内の爆弾を使ったテロについても情報が入っていた。あれも、やはり用意周到な計画に基づくものだったようだが、もう中止がされたらしい。


「理由はわかりません。そこまではデータがなくて」


「爆弾を使う必要性を感じなくなったか。お前には話してなかったが、もしかしたらあの爆弾は俺らに“処理”させようとしたんではないかって疑いがあってな」


 偽物が、敢えてわかりやすい“間違ったヒント”を与えたことは、俺らにあえて間違った数字を入力させ、爆発させることで処理させようとしたのではないかという疑念を浮かばせた。

 しかし、これを見るに、どうも中止とだけしか書いていないあたり、どういう風に中止するのかがわからない。爆発させて、世間に恐怖を与えつつ爆破処理させようとしたのか、それとも、ただ単にすべて中止して爆破も何もしないのか。そこは、未だに謎である。


「暗号の回答は見させてもらいましたよ。あんなの、たぶん古典知ってる人でないとわからないだろうなぁと思いましたが」


「お前、すぐに思いつくか?」


「お生憎様、私は古典はてんでど素人なもので」


「だろうと思った。偽物はなぜか詳しかったんだよ。妙にね」


「なりきれてないなぁ私にィ」


 若干得意げな表情をしているのは、自慢したいのか、それともただただ嫌味言ってるつもりなだけなのか。だが、こいつのことだ。どっちもなのだろう。

 ……そして、注目すべきは最後のファイルである。だが、名前が妙に気になった。


「……なんでこの名前なんだ? 嫌な予感しかしないぞ」


「見てみたほうが早いですよ。口で説明するよりはね」


「ふむ……」


 正直開きたくないのだが、ここまで来て現実逃避は許されない。意を決して、俺はその中身を開いた。同時に、幾つかのデータを見る。


 ……俺は唖然とした。まさか、“アイツら”が関わっていたのか。


「……どういうことだ。なんで―――」





「―――“CIA”の名前が出てくるんだ?」





 映画やドラマでお馴染みといえばお馴染みだが、まさか本当にここでこの名前を見ることになるとは思わなかった。

 ファイルの名前にCIAがあったからまさかとは思っていたが、どうやら、このテロにはCIAが関わっているらしいことが、このデータから明らかになった。強力なのか、阻止のための関与なのか、はたまた、それとは別のものなのか。

 さらにデータを見る。すると、彼らの武装の内約も示されていた。俺らが今まで見た例の男たちの装備と一致する。データの中では、彼らは“CIA工作員”とされているようだが、敵なのか味方なのか、そこまではうまく判断できない。


「NEWCのファイルに、なんでCIA工作員の装備内約が入ってるんだ? アイツらって、そこらへん簡単にばらすか?」


「国防軍の上層部にも子分を送り込んだりする連中です。もしかしたら、CIAにも入り込んでたのかも」


「だとしたら深刻だぞ。とはいえ、そもそも奴らの味方としているんだったら、「フレンドリーファイヤするなよ」って名目で装備内約を送る意味もわかるが」


「もしそうだったとしたら事態は深刻どころではすみませんよ。CIAなんていったら、アメリカの諜報機関ですし、要は、アメリカ政府が一枚かんでいることにもなります」


「だよな……」


 CIAがまさか独断で動けるわけがない。いつもアメリカ政府の監視が入ってるんだ。最近予算減らされて大変だろうが、色々と世界で暗躍しているのには変わりはないとのうわさもある。つい十数年前くらいには、世界各国の要人を盗聴してるみたいな疑惑が持ち上がるくらいには暗躍してるし、元CIA・NSA局員を自称する人の暴露話が出回るぐらいには暗躍している。

 データによれば、CIAはそこそこ前からこのテロに関わっていたという。仮に、CIAが今回のテロに絡んでいるとしたら、形はどうあれ、つまりは今回のテロのことを知っていたことになる。CIAだけではない。下手すれば、アメリカ政府すらも知っていたとみることだって可能だ。


「(場合によっては政治問題だぞ。なぜ今まで公表しなかったんだ……)」


 その政治問題化を恐れたか、もしくは、国民大パニックを恐れたか。とはいえ、一見突飛にも見えるこの計画を信じる人もそうそうおるまい。

 もしくは、余りに突飛すぎて当のアメリカ政府に信じてもらえなかったCIAが、独自に調べている最中に、このテロが起きたか……。考えればきりがない。幾らでも可能性は考えられる。


「なんでCIAが絡んでいるかは別としてだ……少なくとも、この男たちの正体はこれでわかったってことになるのか」


「ええ。彼らはCIAの人間です。おそらく、CIA内にある準軍事組織……もしくはその類の武装担当部署でしょう」


「和弥曰く、CIAの中にもそういうのはあるらしいから、たぶんそいつらだな。諜報機関だから、装備の統一性がまるでないのも頷ける」


 これに関しては、軍の中で済ませることはできそうにない。帰ったら、すぐにこの情報を政府のほうにも上げねばならないだろう。アメリカ政府に確認をとってもらう必要がある。「アンタらんとこの工作員がなんでこっちにいるんだ」ってな。

 ……しかし、なんだな。


「CIAとはロマンある奴らが来たものだが……はてさて、一体どういうことなのか。お前はどう見る?」


「単に、敵組織の監視のために来たんじゃないかって見てますが……にしては、あっさり装備内約バレてるんですよね。日本の特戦群や、他国の工作員とみることもなく、CIAとピンポイントで見抜いてます。やっぱりCIAにも子分入り込まれたんでしょうかね?」


「だが、個人的にはそこまでCIAが間抜けにも思えねんだよなぁ……うちんとこのJSAですらそういうのは言ったって話は聞かないだろ?」


「ですね。聞かないだけかもしれないですが」


「言えてる」


 入ってたら冗談抜きで笑えなくなるが、今のところそんな話はない。CIAなんていう、ある意味諜報の世界ではMI6と肩並べてトップレベルの実力と経験を持っている奴らが、たかが慈善団体の皮をかぶった一巨大組織の入り込みを許すかどうか、少し疑問を持たざるを得ない。向こうだって、身分は徹底的に洗われるはずである。今回のテロが起きる前から、兆候ぐらいは察知してもいいはずだ。


 ……本当に、ただの監視だろうか。


「(向こうは何考えてるんだ……なぜこそこそと送り込む)」


 そんな疑念は、ずっと俺の脳裏を行ったり来たりしていた。たぶん、ユイも同じだろう。監視ではという予測は言ったが、俺の感じた矛盾を自分から感じ取れないほどバカではない。むしろ、自分でいう前から考えていたはずだ。首を傾げて眉を顰めるその表情が、何よりその心情を物語っていた。


 データはあらかた見た。色々と気になる部分はあるが、やはりCIAに関しては即行にでも政府に情報をもっていかねばならないのは間違いない。これに関しては、俺らの手には負えない。というか、触れていいものとは思えない。


「俺ら、たぶん死ねなくなったな」


「ですね。あとは私のこの戦果を知らしめてですね」


「こればっかりは真っ向から反対できないからたちが悪い」


「なんでッ?」


 たちが悪い、の部分に反発したようだが、当たり前だろう。自惚れの延長をするにしても、今回ばかりはそれをするに値する十分な理由があるのである。尤も、場合によっては「危ないことするな!」と言われそうだが。


「……んでだ、ロボットまだ動かねえのか? こっちはもう暇なんだが」


 かれこれ10分以上待っているのだが、ユイからの報告が全くない。会話中も、ユイはロボットのほうの監視は続けていたのだが、何の変化もない以上、ロボットのほうも変化がないと見たほうがいいのだろうか。改めて影からロボットらを見たユイが言った。


「……ぜ~んぜん動いてないですね。どうしましょうこれ」


「どうしましょう言われても、こっちく言うたんお前やんけ」


「そりゃあそうなんですけどねぇ……もう回り道したほうが早いのかな」


 それこそ今更な判断に思えるが、まあ、ここで道草食ってるわけにもいかないのも事実。いったんきたみを戻って、途轍もなく遠回りになるが、時間を食うよりはマシと思うしかない。


「……しょーがない。道戻りますか。はーいじゃちょっと後ろ下がって下がってー」


「はいはい待ってくれ、ここ本当に狭いからすぐにはうごけn―――」


 そう言って、後ろからユイに押されながらも来た道を戻っていった時だった。一つ手前にある十字路に差し掛かった時である。


「…………あ」


 隣を見た。その先、これまた細い脇道の先には……


「……やっば、いるしッ! 戻って戻って戻ってッ!」


 今日の俺らは本当についていないらしい。敵がいた。敵ロボットが3体。こっちのUAVリンクにもなかった。脇道だから見えなかったのだろう。鉄筋コンクリートの建物で囲まれているため、ユイのX線スキャンも効果が薄かったのだ。


 即行で来た道を戻る。だが、思いっきり体を外にさらけ出してしまっていたため、向こうにも完全にバレたに違いない。証拠に、いつの間にか後ろを守る形となったユイが慌てた様子で言った。


「ゲェッ、なんか後ろからすっごい険相のロボット来てますけどォ!?」


「あのロボットに表情なんざあるかい、お前じゃあるまいしッ!」


「でも赤い目すっごい怖いですよ!」


「お前もやってたやろが! てかやれるのかよお前!」


「夜間だと赤色ライト使うときあるじゃないですかぁ!」


「そういえばそうだった」


 その時のための奴だったのか。そういえばアウトラインシートにもそんなこと書いてたようなそうでないような。

 だが、そんな呑気な話もそこまでである。この先は、例のロボットらがスタンバっている道に入る。反対側に言ってもどうせバレるだけなので、どうせなら強引に突破することも厭わず突き進んだほうがまだ安全である。


「ユイ、後ろ頼んだ」


「え、何するんです?」


 俺はAK-74をスリングで締め、代わりに、


「持ってきててよかったグレネードランチャー!」


 M25IAWSを構え、左に曲がった瞬間一気に三発ほど針路上にばら撒いた。ロボットは敏感に反応したものの、振り返った瞬間目に入ったのがグレランの弾とあってはどうしようもない。直撃したものが1体。他、至近弾で残りは部分的に破壊された。直撃した一体はもう原型がない。狙ったつもりはなかったのだが、運がなかったということでどうか諦めてほしい。


 ロボット相手にもこの威力。素晴らしい。残りの生き残っていた奴らも、グレランの弾を簡単にばらまくことで強引に静めた。残骸を今踏んだ気がしたが、気にしてはいけないだろう。ロボットとはいえ死骸を踏んだ罪悪感はあるので、それをどうか忘れないことにしたい。


「この先どこいくんだ!」


「そこから左いってください。もう細い道使って逃げるのはやめます。広めの道路使って直線で行きましょう」


「承知した。広い道路出るぞ!」


 ユイの指示通り、すぐに右に曲がって、広めの道路に出た。案の定、そこにはいくつかのロボットがいるが、AK-74の機銃弾や、ユイの持つフタゴーの銃撃により牽制を兼ねて数体は戦闘不能にする。歩道を通っていくと、次の道をさらに右に行く。そこから、次の十字を左に行けば、もう合流ポイントはすぐそこだった。


 ……だが、


「……え」


 出会いたくない、というか、すっかり存在を忘れていたものが、目の前にいた。


「……い、移動砲台!? まだ残ってたのかアレ!?」


 移動砲台“タイタン”。派遣されたのは数機だったので、てっきりもう全部処理したと思ったら、そんなことはなかったということなのか? 完全に、こっちにその銃口と砲口を向けているあたり、コイツもハッキングを受けているものと思われた。


「グレラン効果あるかこれッ?」


「牽制でもいいですから全部撃ってください! 5.56mmじゃ絶対効果ないやつですから!」


「あいよ!」


 すぐにM25IAWSを構え、スピードリロードでマガジンを交換すると、その中にある弾をとにかくタイタンにぶち込んだ。足を中心に、時々腕。素早い動きは苦手なので、すぐ懐に入り込んでどうにか敵を振り切る。


 ……しかし、


「……グレラン全然利かねえじゃねえか」


 全然、タイタンが怯んだ様子がない。傷はついたようだが、結局はそれまでのようである。


「素晴らしい日本の技術です。グレランをものともしないとは」


「それを今見せつけられても困るんだよ!」


 技術立国日本の底力は敵の奴らに見せつけてやってください。俺らはもう十分知ってるんです。そんなことを、タイタンに叫んでも効果なんてまるでないのは当たり前。

 幸い、足を撃った時動きが緩んだので、すぐ横を全力で突っ走って通り過ぎる。ゆっくりと振り返るタイタンを後ろに、すぐそこに見える十字路をめがけて、もう撃つことを忘れてお互い全力で走った。撃ってる体力も時間も勿体なくなったのである。


「ここを左でいいんだよな!? 間違ってないよな!」


「大丈夫ですここを左!」


「オッケー! ……こちらシノビ0-1! もうすぐ合流できる! 誰か聞こえるか!」


 合流ポイントにいるであろう味方部隊に無線をかける。誰でもいい。すぐにでも反応を……





『待ってたぞ二人とも』





 聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった。その瞬間、十字路を左に曲がった。


 ……すると、



「―――なるほど、最強のお出迎えだ」



 そこにいたのは……



『待ってたわよ、こっちに突っ走ってきなさい』


『後ろにタイタン1、他数体のロボット確認。撃ちまくれ!』


『祥樹! ユイさん! こっちに全力で走ってこい! 後ろは任せろ!』



 和弥に新澤さん、そして二澤さん率いる1班の面々だった。お馴染みの奴らがお出迎えである。これほどありがたいことはない。後ろを安心して任せられる、一番のメンツであろう。

 俺らはそのまま全力で走った。後ろから銃撃などが飛んでくるが、目の前であいつらが応戦している。徐々に射撃の密度が減っているあたり、的確な射撃がうまくいっているのだろう。


『もう少しだ! がんばれ!』


 和弥が大げさに手を招いている。そこのすぐ近くには、俺らが飛び込める分のスペースがあった。

 もう100mを切った。ここで、俺はM25を取り出して、スリングから外し、片手に持った。


「和弥! お前狙撃強かったよな!」


『おう、任せろ! それがどうした!』


「グレランで頼む!」


『……え?』


 50mを切った。マガジンを交換し、最後の6発弾倉に入れ替える。そして、飛び込む寸前……


「そんじゃ任せた!」


『ええええ!!??』


 和弥に向けてM25を投げつつ、俺とユイは向こうが作った小さな隙間に飛び込んだ。そこから、和弥や新澤さんたちの後ろに伏せて隠れる。


「和弥、やっちまえ!」


「マジで言ってんのお前!?」


 M25を何とか受け取った和弥は、驚きながらも構え、そして、2発撃った。


 数秒後である。


「……お?」


「あ、当たった」


 あっさりと言いのけた。実際、俺が頭をあげてみると、タイタンは足の付け根を撃ち抜かれたらしく、完全に横倒しで倒れてしまっていた。砲口も、銃口もあらぬ方向を向いてしまっているうえもう動かないため、これ以上の戦闘はできない。他のロボットも、一部は倒れたタイタンに巻き込まれて死んだし、しかもそれが最後のロボットだった。


 ……一瞬にして、静かになった。


「……終わった」


 二澤さんの一言で、緊張の糸がほぐれた。後ろからやってくる恐怖をぶっ潰したことによる安心感。久しぶりの巨大兵器の登場は予想外だったが、和弥が狙撃技術高くてよかった。当の本人は「あれ? マジで?」とそこまで本気で当たるとは思っていない様子であったが。


「ふぃ……やっと帰ってこれたぁ……」


 深くため息をついてそう呟くユイ。コイツも力を抜いて安堵している模様だった。


「……ユイさん」


「はい?」


 和弥の声にユイが反応する。いつの間にか、全員ユイのほうを向いていた。その顔は、全員……



「……おかえり」



 安堵の、表情だった。


 その笑顔は、間違いなく安堵の感情を表面に出したものだった。そして、ユイもそれにこたえる。




「……ただいま」





 そのユイの顔もまた、満面の笑みだった。





 久しぶりの仲間との再会は、互いにとって自然と笑顔になるものとなった…………

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