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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第7章 ~混乱~
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反撃

 ―――いい顔だ。


 ゲスいながら、俺が一番最初に思ったことはそれだった。


 今の今まで“自分たちが操っていた”と思っていたはずのロボットは、今、俺の背中を守っている。はて、何がどうなっているのやら? 向こうはさぞ大パニックであろう。

 ……というより、後ろを向いているからわからないが、先の男どもは喧騒を撒き散らしている。


「何をしている? こっちに銃口が向いているではないか! 早く下させろ!」


「ダメです! コマンドは受け付けているのに、その通りに動きません!」


「何をバカなことを言っている! さっきまで動いていたのは一体どう説明するんだ!」


 英語だった。だが、ロシア系の訛りが強い。ロシア系欧米人とみるが、わざわざ日本語ではなく英語で立て続けに指示するあたり、地味に焦りが見え隠れする。俺の目の前にいる部下たちであろう人たちも、指示は来ない目の前にいた味方が敵になるのコンボで、ざわざわして落ち着きがない。予想外というか、想定外の事態であったようだ。尤も、ロボットはさっきからこれっぽっちも動かないが。

 自分達が一番信頼していたであろうとてつもなく高性能なロボットに目の前で裏切られる気分はどんなもんだろうか。おそらく、俺が最初ユイと再会した時と似たようなものであろうと思う。


 ……だからこそ、俺は今、途轍もなくいい気分だった。


「……いい気味だ。何がどういうことなのかは全くもって知らないが」


 思わずそう呟く程度には、いい気分だった。

 それが聞こえたのかどうかは知らないが、イリンスキーが声を荒げた。


「貴様! 一体何をしたんだ!」


「……あ、俺に言ってます?」


「お前だお前! こいつに何をした? 一体何を仕組んだんだ!」


「何をしたって言われましても……正直、俺もさっぱりなんすよ。本人に聞いてくれません?」


 こればっかりは本当にそうだったので、説明は全部相棒に投げた。俺も俺で、まだ何も聞いていなかったのである。

 ……しかし、その後ろで背中合わせでいる、そして、今イリンスキーらと面と向かって銃口向けているであろう相棒は……


「……ロボットは賢明なんですよ。“け ん め い”」


 途轍もなく厭味ったらしい口調でいった。俺ですら若干イラッとしたのである。当の言われた本人は激怒ものだ。ロボットは賢明、なんて言葉を最初に言ったのは、彼本人なのである。これほどの皮肉な言い返しはないだろう。


「なぜだ……なぜ裏切ったんだッ。一体なぜ! どうやって!?」


「あら……“裏切った”って言葉は適切じゃないですよ」


「なに?」


「あとで私の操作に使ったその機器のログ調べてみてください。そうすればわかります」


 意味深なこと聞いた気がするが、正直調べたいのは俺のほうである。あとで調査に参加させてくれないだろうかと思いはするが、当然叶いはしない願い。さっさと願望を捨て、向こうがパニックになってる間に、小声で声をかけた。


「……んで、実際どうやったんだ? 俺もさっぱりわからん」


 こうしてちゃんとした形でユイを言葉を交わすのは久しぶりであろう。正直、何とも言えない安心感があった。背中が、というか、肩が楽だ。こうして背中からくる安心感を感じるのはいつほどか。

 そして、久しぶりの相棒の声が、後ろから聞こえてきた。


「……さあ?」


「さあってお前」


 とぼけやがった。コイツ、俺にまで教えない気かよ。クソッたれめ、生意気なのは相変わらずか。妙に安心感のある生意気さじゃねえか。


「俺にぐらいはタネ明かししてくれてもいいだろうがよ」


「また後でにしましょう。一から話すと長くなるので」


「ほう、どんくらいだ?」


「ここにいる色々と勘違いしてるクソ野郎共を全員地獄に送るのよりちょっとかかるくらい」


「なんだ、“割と早く終わりそう”だな」


 こんな会話を交わすのも久しぶりである。懐かしさすら感じるこの感触は、やはり忘れたくても忘れられないものであろう。

 ……でも待ってくれ。“クソ野郎共”なんて言葉をコイツが発するの俺初めて見たんだが。誰だ。誰から学びやがったそんな汚い言葉。どれだけキレてるんだこいつらに対して。


「(……なんか怖い)」


 そんな感想を心の中で思っていると、また後ろが騒ぎ出した。


「……なぜだ、なぜだ! なぜ我々に従わぬ! 機械にとっても理想であろうというのに! どうして!」


 まだいうかコイツ。だが、俺がわざわざ言うまでもなかった。


「どうしてって言われましても……自分で言ったんでしょ。ロボットは賢明で、地道に学ぶって」


「ああ、そうだ。だからお前を―――」


「ムリなんですよ」


「何?」


「……だって」


 少し声のトーンが低くなった。ざわついていた周囲も、ユイに視線を集中させる。俺も、目の前にいる敵を監視しながらも、耳は後ろに向けた。再び、口を開く。


「……学ぼうとしても、たった一人の人間の男の幸せすら完璧に理解しきれない“バカ”が、全人類約83億2500万人の幸せを、どうやって配分しろっていうんです?」


「……一人の人間の男だと?」


「彼は私がどれだけボロくそに貶しても、命張ってここにやってくるぐらいには“バカ”なんですよ。自分がどれだけバカやってるかも知ってるくせに」


「……おいちょっと待て」


 おい、その文言聞く限りその男って間違いなく……


「それ、俺のことじゃ―――」


「でもですよ」


「聞けよ人の話ィッ」


 俺はそれを聞こうとしたが、向こうは止めなかった。


「そんな愛すべきバカの感じる幸福すら、私は何もわかっちゃいない。たった一人の、一番自分の身近にいるはずの人間の考える幸福すら理解しきれないような“バカ”が、それより遠いところにいる人間の幸福を理解しきれる頭を持っていると思えるのなら、あなた方は最っ高に“アホ”ですよ」


「なんだと……ッ」


「もしそんな頭を持っている機械がいるならぜひ私に移植してくれませんかね? 世界中の量子ニューロのスパコン数十台ぐらい複製して連接でもします? でもたぶん、それでようやっとそこら近所にいる人らがマシな幸せ得るぐらいですよ。それもすぐにボロがでるぐらいの淡いやつ」


「貴様、バカにしてるいるのかねッ?」


「アホにはしましたよ、アホには」


 さっきから口が減らねぇぞコイツ。……なんて思った次の瞬間には、銃声が一発響いていた。

 後ろから。おそらく、イリンスキーが撃ったものだろう。証拠に、ちょうどよく彼の本気でキレる5秒前な声が響いた。


「……貴様はもはや我々の知る賢明なロボットではなくなったようだな」


「元からなった覚えないんですが、いつから私が賢いと錯覚していたんです?」


「黙れ! もうお前に要はない……そこにいる男共々、ここで消えてもらう」


 刹那、目の前にいる敵が手に持っているアサルトライフルを構えた。ここで始末するつもりだな。ロボットもいる。2対20数人。戦争は数の時代は相も変わらず変わらない。この数的不利はどうあがいても覆せないだろう。


 ……コイツさえいなければ。


「そういって、一回でも私の後ろの人傷つけてみてください? ……私が何するか知りませんよ?」


 いや、お前自分の行動を自分で保障しないのかよ。怖いよ純粋に。ヤンデレか何かに片足突っ込んでんじゃねえだろうなコイツ、ああいうのって止めるの大変なんだぞ。ジョークで言ってるだけだろうけどさ。

 すると一転、今度は俺のほうに声をかけてきた。小声で、相手に聞こえないよに態勢は変えない。


「……それじゃ、やりますか」


「やりますかってお前、この状況どうする気だよ。左右はビル、前後は敵の皆さんロボット付き。こっちが一発でも撃ったら向こうからもれなく数十発で返ってくるぞ」


「存じてますよ。しかし幸いなことに、今隣にボロッぼろの車が二台ありますね?」


 そう言って、自分の左右を見る。互いの車線の外側に、焼け焦げたバンが2台ある。火も出ていないし、熱も感じず冷えているらしい。最初期の襲撃によるものだろう。だが、原形は幸いにもとどめているようだ。


「ああ……それが、なんだって?」


「合図しますんで各々の車の陰に飛び込みましょうか。あとはおいおい指示しますんで」


「あのさ、最近の車って軽量化の流行りのせいで銃弾軽く貫通するんだぞ?」


「時間稼ぎですよ。すぐに移動しますんで」


「できないときは?」


「祈れ」


「結局最後は神頼みぃ……」


 やっぱりコイツを人類の長に添えようなんてのは無理だったんじゃないだろうか。肝心なところが抜けてやがる。だが、もう時間がない。やるしかないだろう。


「……俺はまだ死にたくないからな?」


「もちろん。私もここでくたばりたかぁないですわ」


「あいよ。じゃ、合図」


 ここでうだうだやっていても始まらない。こうなればまずはコイツをすべて信じるべきであろう。ユイが合図をするのを待った。向こうはそろそろパニックも収まり、ガチで殺し始める数秒前状態となった。


「なめ腐った真似を……もはや慈悲などいらぬ。死ぬがよいッ!」


 彼が高々しくそういった瞬間である。




 ダダッ




 後ろから数発だけ銃撃音が鳴り響く。だが、それは敵のものではなかった。すぐ後ろから。相棒の撃ったものだ。

 刹那、


「―――ぐぁッ!?」


 大きな爆発音とともに、後ろから複数の悲鳴が飛んできた。衝撃で何発か銃撃をしてしまったようだが、あらぬ方向に飛んで行ったのか、左右のビルの方面から命中音らしきコンクリートが破壊されるときの音が聞こえてきた。

 一瞬、俺の目の前にいる奴らも動揺した。


「右ッ!」


 後ろからのユイの叫び声とともに、俺は左の脇腹を右手で軽く叩かれた。その瞬間、俺は条件反射の如く右に全力で走った。フタゴーでとにかく牽制弾幕を張りながら、目の前にある廃車の影にめがけて飛び込んだ。左からの銃撃も、初動が遅かったことが幸いしたか、掠りすらしない。


「祥樹さんこっちに手榴弾投げて! 早く!」


 ユイが反対車線側にある廃車の影から叫ぶ。ちょうどよかった、あと2発ある。すぐに一発のピンを抜き、ユイの下にサイドスローで投げた。

 ……すると、


「おらぁッ!」


 影から一瞬だけ姿を現したと思うと、中腰のまま左足を向かって右から左へ振り回し、見事俺の投げた手榴弾にジャストミート。横から殴られた手榴弾は、一気に進路を変えてそのままイリンスキーらがいる男たちの下へ一直線に突っ込んでいった。

 破裂したのは、ちょうど彼らのほぼ登場に手榴弾が飛んだ時である。


「曳火射撃か!」


 ナイスシュート。いつぞやの俺が偽物から逃げるときにやったことのある奴だ。あえて空中でさく裂させることで、手榴弾の爆発時の破片や爆風を周囲に撒き散らす方法。本来これは対人戦法なので、彼らには効きやすい。ラッキーなことに、向こうにいた人間はほぼ倒れた。ついでに、数体いたロボットも怯んだ。


「今! 残りやって!」


「あいよ!」


 一瞬の隙を突き、俺は奴らに満遍なく銃撃を加える。数体のロボットから先に片づけ、うまい具合に頭部と脚部をぶっ壊して、まともに戦闘できなくした。腕だけ生き残っていたところで、狙いが定められないならば銃撃なんてまともにできない。

 残り数人の人間も、生きていたものはすべて片づける。イリンスキーの姿が見えないが、炎上する車の影にそれっぽいのを発見。奴ら、専用の車両で来ていたのか。さっきユイが撃って爆発させたのはこれなのだろう。

 護衛が二人ほどいたが、逃げる気だろう。ここからは銃撃できないので、やむを得ないが見逃すことにする。今は、ここを脱出することが先決だ。欲張りをしている暇はない。


 北側の敵が片付いたことで、廃車の南側にいたユイは場所を変え、逆に南側に廃車が来るようにした。ボスがいなくなったことで完全に浮足立った南側の敵は、一応、俺らと同じく近くにあった廃車などの物陰に隠れつつこちらに銃撃は加えているものの、逃げるか殺すか迷っているようだった。リーダーがいない組織など烏合の衆同然である。さっさと片づけねばならない。


「左右にまともに通り抜けられそうな小道がない。どうする?」


『正面突破。これしかなし』


「だろうと思った。手榴弾もう一発あるぞ。いるか?」


『もう一回シュート決めさせてください。一発で決めます』


「よしきた」


 ここも曳火射撃の要領で敵を怯ませる。銃撃をいったん止め、手榴弾を取り出し、ピンを抜く。そして、すかさずユイのほうに投げた。

 手順はやはり同じである。回し蹴りで手榴弾が一気に飛翔針路を変えると、今度は南方向に鋭い高速のストレートが飛んで行った。車道上にある廃車などの3つの物陰のうちの一つの上に来るように飛んでいき、向こうは直ぐに気付いたものの、ユイの本気の回し蹴りによりすぐさま目標上空にたどり着いた手榴弾は、その場で起爆した。


「倒れました!」


「よし。突撃にィ、前へ!」


 射撃がいったんやんだと確認するや、一気に廃車の影から飛び出し、互いに横一列に並んで廃車に接近。横から顔を出した敵を一人残らず撃ち抜き、さらに、逃げようとする敵も、申し訳ないが黙らせた。

 空中で手榴弾の爆発にあった敵は、やはり起爆により生じた破片の雨と爆風にやられ、死んでるかはわからないが、少なくとも戦闘はできそうにない状態となった。


「クリア」


「クリア。マガジン分けてくれません? こっち弾が少なくて」


「あいよ。ほれ」


 左手で予備マガジンを取り出し、ユイに投げる。空中でつかんだユイはそのまま今のマガジンを交換した。その流れ作業俺もかっこよくやりたい。


「とにかく南だ、南に行くぞ。道はどこでもいい。好きなところを頼む」


「了解。自由に行きますよ」


「ああ。電波状況はどうだ? ジャミングひどいだろ」


「ええ。でも若干減ってきました。さっき潰した奴に電子戦型がいたっぽいです」


「オッケー。先導してろ、俺は迎え呼ぶ」


 ユイが先頭に立った。銃口を進路上に向け、周辺を警戒しつつ速足ですぐにビルの隙間に入る。無線は通じにくくなりそうな気もするが、身の安全が最優先事項だ。同時に、俺は無線をかける。


「HQ、こちらシノビ0-1。レディオチェック。どうぞ」


 案の定、最初はノイズばかりが聞こえてきた。だが、場所が常に移動しているからだろうか、何度もかけていると、向こうにも徐々に届いてきた。ただし、ノイズがひどいが。


『……シノビ0-1、こちらHQ。感度不明瞭。だが、音声は認識できる』


「了解。捜索対象パッケージ保護。繰り返す、捜索対象パッケージ保護。迎えのヘリよこしてくれ。現在位置、ポイントER-154。ER-154」


『HQ、了解。空中輸送手段が残っている。ポイント、ER-188。そこに15階立てのマンションが建っている。その屋上へ行け。ETAは早くても30分後だ。周辺で再び対空火器の存在が確認された。排除に時間がかかる』


「了解。ER-188のマンション屋上。ETAは30分後以上」


 こんな時に厄介だ。ポイントの場所からして、ここからは数百メートルは先だ。マンションが建っていたのはわかっているが、そこまでには小道ばかりを行くのでは無理がある。幾つかは建物が倒れてしまっており、結構回り道をする必要があるだろう。

 だが、ないよりはましだ。陸路よりは空路でさっさと持って行ってくれるほうがいい。だが、念には念をだ。


「周辺にいる友軍にも伝えてくれ。こっちの支援に回ってほしい」


『了解。だが、向こうも現在戦闘中だ。時間がかかる』


「了解」


 和弥たちが心配だ。最後は戦闘中の中で無線が途切れた。ロボットの大群のとの戦闘ならユイがお家芸なのだが、向こうと合流できるまで持ってくれるだろうか……。いや、当然ながら信じる事しかできないが。


「ここから向こうまでどれくらいかかる?」


「回り道が多いので結構かかりますよ。10分は覚悟したほうがよろしいかと」


「こういう時の10分って長いんだよなぁほんとに」


 人間の感覚というのは本当にこういう時は厄介な代物となるのである。だが、それまでに敵に見つかりさえしなければ問題はない話だ。こんな小道にまで一々手を付けるほど向こうだって暇では……。


「よし、ここを右」


 そう言ってユイが次の十字路を右に曲がった。

 ……時である。


「―――え゛」


「え?」


 ユイからあまり聞きたくない声が聞こえた。刹那、聞こえてきたのは、銃声である。


「うわッ、向こう回り込んでた。ロボットが確認できただけで4体。全員アサルト持ってます」


「他回るか?」


「こんな距離で逃げれると思います?」


「だろうと思った」


 こうなれば正面から勝負をかける。ユイが経った状態から起用に体の一部を影から乗り出して射撃を開始。俺はしゃがんだ状態からユイの後ろより射撃をする。

 マガジンも大量にあるわけではない。こうなれば、敵ロボットが持っている武器も拝借する。ユイが起用に足を撃ったことで、あとは俺が丁寧に頭部を破壊して終わった。そして、フタゴーをスリングで締めて背中にまわし、敵と化したロボットたちが持っていた武器を持つ。


「AK-74か……こっちでこのロボットに与えたのじゃない。敵のほうで配布したか」


「やっぱり元から敵にする予定だったのでしょうか?」


「だろうな。あ、お前フタゴー担当な。マガジンやるから」


「私じゃなくていいんですか?」


「お前はフタゴーのほうがやりなれてるだろ。俺はAK-74は少し前にグアムで撃ちまくった」


「ほ~」


 偶然なことに、グアムの実銃が撃てる射撃場でAK-74は何度か撃った。撃ち方は知っている。ユイはフタゴーで何度となくおかしな技を披露したので、今後それをやってもらったほうがいいという判断だった。

 俺の持っていたフタゴーのマガジンを全部ユイに渡し、俺は敵ロボットが持っていたAK-74のマガジンを持てるだけ持った。一部の予備はユイにも持たせた。


 弾薬補充完了。再出発である。


「よし、急ぐぞ。ヘリは30分は来ないとは言っていたが、早目に着いといて損はないべ」


「了解」


 移動再開。ロボットがまだ付近にうじゃうじゃいるはずである。敵ロボットをどうにかこうにか欺きつつ、合流ポイントにあるホテルへ移動する。途中、ロボットではなく武装した人間に遭遇することがあったが、数が少ない。ロボットのほうが、若干多かった。中心部に行くにつれて、ロボットが多くなっているあたり、イリンスキーが言っている話がここらへんにも影響してきているのだなと実感する。普通逆だろと思わなくはない。


「ここを左。そこに行けばポイントにあるマンションの非常階段正面です」


「よし。そこをさっさと駆け上がって屋上に―――」


 そういって、こっそりとその道の様子を伺った時である。手鏡をこそっとその非常階段に繋がる道へ向けたとき……


「―――って時に限って、いるんだよな」


 目の前に入ってきたのはロボットの大群だった。寄りにもよって、ここの周辺は警戒場所だったようである。合流場所に向かうにはあまりに都合が悪すぎる。


「正面玄関に変えるか?」


「正面はもっと敵がうじゃうじゃです」


「裏口は?」


「あの非常玄関の隣がそうです」


「なんつーとこに作ってんだよ設計者こら」


 いや、今は八つ当たりしている暇はない。とにかく、ここからしかまともにいけないならば、合流場所もちょいと変えてもらおう。まだ今なら変更は効くはずだ。


「HQ、こちらシノビ0-1。聞こえるか」


 ……だが、聞こえてきたのはノイズのみである。


「HQ、こちらシノビ0-1、聞こえるか。応答を」


 だが、ノイズのみである。どうも、場所が悪いらしい。


「おいおい、ここからじゃ無線通らんじゃんか……」


 しょうがない。少し場所を戻ろう。そこからどうにかして無線を繋げて……



「危ないッ!」



 だが、後ろから聞こえてきた声とともに、俺の体は一瞬にして地面に押さえつけられた。

 それとほぼ同時である。



 ダダダダダッ



「ひィッ、じ、銃撃!? 右からか!」


 非常用玄関方面を見ていたのと反対方向から、複数の銃撃を受ける。地面に押し込んだのは、ユイの左腕だった。自身も伏せながら、俺のすぐ右でユイが右腕のみでフタゴーを持ち、右側から来た銃撃の元凶に銃弾をばらまいた。


「反対側から敵です。ここで始末しないと」


「待ってお前顔近い」


「おぅ失礼」


 すぐ横で顔を真っ先に見て言われても正直ビクッとするだけである。だが、この澄んだ青い瞳をまじかで見るというのも途轍もなく久しぶりだ。これこそが、今目の前にいるのが俺の相棒であると安心して言えるものなのだ。偽物もこれできてたが、何となくこれは本物とわかってしまうのはただの思い込みか。俺だけが分かる識別能力か。


「左も気づいたか。しょうがない、片づけるぞ」


 ロボットらがこっちに気が付いた。あまり騒がれては敵を引き付けるだけである。すぐに片づけ、目の前の裏口から入ってさっさと屋上に行くしかない。敵の目から逃れなければ。


「迅速にやれよ。敵がやってきちまうからな」


「もう少しで終わりますよ」


「はええよ」


 向こう見た限り5、6体ぐらいいたはずだが、ほぼ一瞬にして終わらせたのかよ。それはそれでありがたいが。

 ロボットは動きがノロい。突発事態過ぎたのか、それとも、元から障害があったのか。だが、ありがたいことだ。すぐに足を潰して、あとは裏口に突っ込むだけだ。


「裏口確認しろ。非常玄関は使わない。中から階段上がる」


「了解。……援護必要ですか?」


「いや、いい。合図で裏口に突っ込め。援護する」


「了解」


 徐々に数を減らす。残り3体。そろそろだ。行ける。


「よーい……行けッ」


 合図を送り、ユイが裏口に善良で走っていった。敵の射撃を阻害すべく、AK-74の5.45mm弾をとにかくばらまいた。足元を習うことはない。命中が期待できるでかい胴体に向けて一心不乱に撃ちまくった。

 ユイが移動を完了する。裏口のドアを内側に開き、その影から射撃できる態勢を整えた。


「いいですよ、援護します」


「よし、いくぞ」


 ユイが指で合図を出す。刹那、全力で突っ走り、ユイはフタゴーを全力でフルオート射撃をかます。だが、俺のように弾をばら撒くだけではない。時には足を潰して、腕を潰して、そして、頭も潰す。

 俺にはできない芸当だ。左側をすぐにつぶすと、今度は逆方向。まだ来ていたらしいごく少数の敵を牽制する。


「(左側はクリアかな……)」


 俺はユイが射撃しているのとは逆方向をチラッと見て確認する。


「……ッ!」


 だが、クリアしてはいなかった。

 ユイの射撃をギリギリ免れた敵が一名。足をやられつつも、生きていた右腕で、背中にしょっていた武器を取り出し、片腕でユイの方向に向け始めた。あの武器……


「(……うっそだろ、グレランじゃねえか!)」


 米軍が使っていたM25IAWS! アイツら、なんであんなの持ってるんだ。あれはまだ米軍でしか流通してねえだろ! 日本ですら訓練用で形だけ模造した奴しか持ってねえぞ! 一体どこから持ってきやがった!


「チクショウッ!」


 間に合えッ。俺はそう願いつつ、叫んだ。


「伏せろおォ!!」


 そう叫んだ瞬間。ユイはこっちを振り向いて目を見開いた。瞬間、俺は建物の中のほうにユイを抱えつつ飛び込んだ。

 ……その数瞬後である。


「―――ひィッ!」


 後ろで、空いたドアの淵爆風とともに破片となって吹き飛ばされた。コンクリート製の淵部分は完全に粉々となった。やはりグレネードランチャーの実弾だった。訓練用の模造銃なんかじゃなかったのだ。

 ユイを自身の腕の下に置き、俺が上からカバーするようにして守った後、すぐに起き上がった。まだ煙たい中、


「くるぞ、見えるか!」


 人間の目は煙たい環境に弱い。すぐにユイに助けを求めると、


「撃ちます。伏せて」


 すぐに伏せた。刹那、ユイの銃撃音が響いたと思うと、今度は裏口の玄関方面で金属的な破壊音が大量に響いた。しかし、それも数秒で無くなった。煙が晴れる頃には、そこに広がっていたのはロボットの“死体”であった。中には、やはりM25IAWSを持っていた奴もいた。


「クソッ、グレラン持ちまでいやがったのか……」


「グレランから相方を守るっていうと、いつぞやの訓練思い出しますね」


「よく覚えてんなぁお前。あの時は俺が守られたほうだが」


 ユイと出会って少しした後の市街地戦闘訓練の件だ。訓練用空気砲型グレラン持ちの敵役ロボットの、どう考えても空気圧縮率間違えて殺しに来てるグレランの射撃から、ユイが身を挺して守ったことがある。今回のこれ、確かに似ている。


「じゃ、あの時の貸しはこれで返したってことで」


「随分と時間かかりましたね」


「ああ、全くだ」


 貸しの話がそもそもあったかどうかはわからないが、とにもかくにも、せっかくだしこのM25IAWSも回収する。手榴弾がないので、グレランをある種の必殺技的な立ち位置の装備として活用させてもらう。幸いなことに、敵が使ったのは先ほどの1発のみで、弾薬はまだ6発入りマガジンを3個ほど蓄えていた。すべて回収。


「よし、これは……俺でいいか」


「私がフルオートパーティーしてる後ろから絶大にかましてやってどうぞ」


「機会があったらな……じゃ、さっさと屋上に行きますか」


 敵が来てはマズい。さっさと裏口のドアを閉めれるだけしめ、さっさと階段を見つけて上がっていった。



 ユイと合流して、ここまでたったの十数分の間の出来事である。





 ヘリがくるまで、残り最低20分弱。ちょうどいい。






 屋上では、色々と聞き出すこととしよう…………。

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