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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
序章 ~遭逢~
13/181

私はロボット。名前は……

[PM18:50 団長室前]





 その後、一通りの各種説明を受けた後、俺たちは団長室を出た。


 結局、こいつの面倒自体は本部側サポートのもと、基本俺が見ることになった。その時の過程コミュニケーションでのAI負担を見るのは、さっきも言ったようにこれが一番ということで、一応前々から決められてたらしい。

 それに関連する書類も一応受け取った。当然、口外禁止の機密情報である。はっきり言って、下士官が受け取っていいものじゃない。


 また、それにプラスして、今現在各兵士に支給しているPC(ないしPDA)に関しては、本部側とのセキュリティリンクを強化してもらうことになった。

 掲示板やチャットなどの書き込み等の際の機密情報漏えい防止のための自動監視として使われていたが、それをさらにアップデートさせるようだ。


 というのも、今後俺にはコイツのAIが得た戦闘データ・言動・行動・思考処理等々のログをまとめて報告する役目も仰せつかったのだ。

 ロボット工学に精通し資格もある俺だからこそできることだ。

 本来なら研究チーム側から担当を派遣するかここに居座らせれればいいのだが、そこも政府が拉致等々を恐れて拒んでしまい、折衷案として、ということのようだ。


 そんなわけで、俺はコイツのAIの各種ログデータをまとめて諜報警戒プロセスを介して本部サーバーに送るという簡単なお仕事を任されたわけである。


 ……まあつまり、コイツはしばらく、いや、試験後も偏向等がない限りずっとここにいるというところから、実質“居候を通り越してもはや相部屋”ということになるのだ。


 一応下士官にしては珍しく一人部屋で過ごしていた身だが、今後はロボットとも共に屋根の下である。ロボットといえど女性なので倫理的な面で問題ないのか聞いたところ、


「大丈夫、ロボットだから問題ない。あと、適性だから、適性」


 こんな大雑把な返答で返された。いやいや、姿形が完全に異性なのに適性だけで決めていいのかと。


 なお、今この段階からコイツの身分は擬装され、ちょうど二十歳で入隊した新人の伍長ということになるらしい。

 この時点で俺たち全員に厳重な箝口令が敷かれ、秘密裏にJSAの監視も入るとのことだった。当然、機密漏えいをしようものなら確実に抹殺される。


 そして、最後に俺が指揮することになる部隊に関してだが、この後今日中にも随時ほかの二人にも話してみて、許可が得れたらそのまま部隊承認の後、他の編成された部隊とともに来週にも結成式が行われる予定のようだ。

 予定は1週間後。うまく事は上層部で進めるらしい。



 ―――以上が、今後の俺たちの行動基準等々である。

 これからは、コイツもただの一部隊員ということになり、そして、俺の事実上の“相棒”ともなる。

 そして、基本的には周りの許可がない限りは四六時中俺のそばにいることになり、俺がお目付け役となるわけであり……、


 ……はぁ、


「(……なんだかなぁ……)」


 嬉しさ半面、重圧半面。国家機密の塊を預けられて緊張しないやつのほうがおかしいわけで。あー、俺はとんでもない任務を任された、と何とも言えないようなプレッシャーを体で感じていた。


 とにかく、そんなわけで一通りの説明を終えた後、俺たちは団長室を出て互いに一時の別れを告げる。


 団長はそのまま爺さんを玄関まで送りに行くらしい。外はすでに政府が徴用した輸送用の車があるようで、俺たちはこのままフリータイム直行である。

 国家機密がまさかの放置プレイに入ったが、所定の手続き等はすでに済ませているらしい。なんとまあ、準備のいいことで。


 団長が最後に部屋を出て、カードキーで電子ロックの鍵を閉めると、俺たちに一言残す。


「じゃあ、俺は海部田博士をお送りしてくるから。お前らも、あとは自由だ。ちゃんとやれよ」


「はい」


 俺の返事に間髪入れず、爺さんも別れ際に言った。


「じゃあ祥樹、あとはよろしく頼む」


「あいよ、任せとけ」


「うむ……。あ、それと」


「?」


 すると爺さんは俺の右隣にいる彼女を向いて、少しにやけ顔で言った。


「……こいつのこと、よろしく頼むぞ。ちゃんと見てやってな」


「なんだよその俺が被保護者みたいな発言は」


 顔をひきつらせて苦笑いしつつそう即座に返した。

 まるで親みたいな発言だわ。いや、実質親みたいなもんだけどさ。

 というかちょっと待とうぜ。見てやるのは俺な? 俺のほうな? 俺が保護者な? そこんとこ間違えるなよ?


 そんなツッコミを心の中でしていると、隣にいるこいつは何ら疑問も持たない様子で、


「はい」


 そう一言だけ返した。ちゃんと笑顔である。

 ……真に受けなくていいからな?とか言ってもたぶんわからんだろうな。人間のジョークというものを理解するにはまだ早い、というか経験が足りない。

 あとで教えとこうか……。いや、ここは無理に教えると混乱するから自然に覚えるのを待つのも一考か。


 相手がロボットということを考えると、今後そこらへんの細かいところにも気を使うことも増えるだろう。気を付けていかねばなるまい。


「じゃあ、あとはよろしく頼む。……さ、行きましょう」


「ええ」


 そう一言残して、団長と爺さんは背中を向けて奥の通路を目指した。

 そこから入口まで送る。二人はすぐ近くにある階段から1階に下りていった。

 ここから玄関は近い。その階段を下りればすぐそこに玄関の透明なガラスで覆われた玄関の防弾ガラスの自動ドアである。


 そのまま俺たちはここに二人っきりで取り残され、団長たちが階段を下りて遠ざかっていくのを目と耳と気配で確認すると……


「……っはぁぁぁ~~~」


 しばらく続いていた緊張が一瞬にして解けて、肩からドッと力が抜けて隣にあった壁にそのまま重力任せに寄りかかってしまう。

 「ふぃ~~終わったぁ~~」とか言いながら、そのままさらに大きなため息をつく。もちろん、ここでのため息は安堵のほうだ。顔も少し手で覆っている。


「どうしましたか?」


 唐突に前方から声がかかる。壁に寄り掛かったことによって自然と正対する形にいた例のロボットからだ。

 心配、というよりはちょっと疑問形の顔である。中々他人を気にかけてくれるいいやつに思えるが、さて、どんなもんなのだろうか……。


 俺はそんなことを思いつつも少し手を前に出して小さなジェスチャーをしながら言った。


「あぁ、いや、別に……。いや、なに、団長とこうやって直で話したの初めてだからさ。こう……、やっぱり、緊張すんのよ、うん」


「はぁ……、なるほど」


 一応納得してくれた。こんな言葉を探しながらのたじたじな説明でも一応は理解できるのか。適応力は高いようだ。


 しかし、そうはいってもたぶん本質的な意味はまだ完全に理解はしてないだろう。いや、理解、というか“感じる”というか。

 ロボットに“緊張”などといった人間独特の感性はまだ理解しがたいはずだ。今後AIの成長によって、もしかしたらそういったことを理解するかもしれない。元より、今回の試験は初めて搭載された改良型セミブレイン型のその点の成長具合やAI負担などといったものも含まれている。


 予測できないからこそ、なんとなく湧き起るワクワク感。わかる人にはわかるだろうか。今後、どういった成長を遂げるか、今から楽しみではある。


「う~ん……」


 俺は壁から起き上がり、ファイルを持っていない右手を顎に当てつつまた彼女の顔を見る。

 時たま頬をかいたり頭をかいたり。

 不審に思ったのであろう彼女もすぐさま質問をぶつけてきた。


「? ……あの、何か?」


「あ、いや……。ロボットとこうやって話すのって初めてだからさ、こう、その……。どういった感じで話せばいいのかわからなくてな。はは……」


 そう言っているこの今でさえ少しかみかみである。まだこいつとの会話に慣れていないことがよくよく自覚できていた。

 まあ、たったの数十分そこらでそう簡単になれるものかって話でもあるが、しかし、これは少し慣れるのが大変そうだ。

 一応、こいつはロボットだってことを念頭に置いて会話等をする必要があるが、この姿を見ているとどうもそれとのギャップに苦しむ。

 一見、人間そっくりのロボット。これがまた、気味が悪いとまでは言わないが少なからず違和感がありまくりで、そこの感覚はやっぱり実際に体験しないとわからないものだろう。


 とはいえ、俺とて今までロボットと友達になることを夢見てきた日本人の一人。耐性はアニメやら漫画なんやらで培った……つもり。

 それの経験がどこまで成果として出てくれるか……。やっぱり少し不安でもある。


 しかし、こいつはあんまり問題視していないらしい。首を小さく傾けてニコッと笑うと、その俺の不安を扶植するかのように明るい声で言った。


「大丈夫ですよ。私も似たようなものですから」


「ほぅ? 人間と話すのってそんなになれないものか?」


「慣れないというか……周りとのギャップに違和感、ないし不安感を持つ感じですね」


「そうか……」


 ある意味ロボットらしい悩みだ。そうか、だからさっき俺に声をかけた時あんなにあたふたしてたのか。お互い様だが。


 自分だけ違う存在だとなんか周りと浮く感じ。いや、わからなくもない。人間でもよくある悩みだ。転入したての転校生とか、よくその点でよく悩むのをよく見かける。俺はしたことはないが。


 しかし、それを聞いて少しホッとする。相手も同じ。条件はイーブンだと考えれば、少しは精神の負担も減る。仲間がいると安心感が芽生えるのは、相手がロボットであっても同じらしい。


 仕方ないので、ここは一先ず人間相手でもやるような感じでいいだろう。というか、現状それしかない。

 まあ、何でもいいからとりあえず何か話すことから始める。きっかけなどそこから大量生産だ。


「あー……。そういえば、さっきは悪いことしたな……」


 と、少し申し訳なさそうに遠慮気味の声で。

 いきなり何を言ってるのか判断がつかないかったか、質問で返してくる。


「? 何がですか?」


「いや……、あの、さっき変に叫んだりしてたろ? はは……、我ながらお恥ずかしい一面を見せてしまった。まだ、ああいうの全然体験したことなかったからついな……」


 そう言ってる俺の顔は終始苦笑い。

 今思い出してみれば、相当あの時の俺はおかしいことになっていたな。いや、おかしいというか、傍から見れば何らかの精神障害でも患ってんのかって思われるレベルの発狂ぶりだったに違いない。


 パニックになった結果。俺の場合は少し変態的な行動に走ります。ええ自覚なんてないですよ自覚なんて。ええ。

 大人にもなってあんなガキっぽいことをしてしまうとは……我ながら不覚である。


「……ふふっ」


「?」


 しかし、なぜか彼女は微笑んでいる。

 なんだ、哀れみか? あんまりのアホさに哀れんだか?


 だが、彼女の思想は俺みたいに変な方向に偏ってはいなかった。


「お気になさらず。ある程度は予測済みでしたので」


「……え? 予測?」


「はい。ある程度回答パターンを呼んでいたので。その中の一つが返ってきたにすぎませんから」


「……え? あの大発狂が?」


「はい」


「すでに予測済みと?」


「はい。私自身の特徴上それも十分考えられましたので」


「……」


 どうお答えすればいいのかわからず視線をそらして口を波線に、バツの悪い微妙な渋顔をしてしまう。

 ……コンピューターにかかればこんなところまで読んでしまうのである。あのいろいろとおかしいことになっていた発狂ぶりがである。恐るべし、コンピューター。


 パターンの中で、とはいってたけど、あれが来ることを予測してたってことはつまり俺の性格ある程度把握してたってことか? いや、そうでなくても常識の範疇でいろいろとパターン予測できるか……。何れにせよ中々すごい性能を持っていやがるな。


 ……というか、逆に考えて、思考が人間よりは比較的単純なはずのロボットでさえ予測できることをした俺の性格っていったい……。


 ……なんか悲しくなってきた。話題転換をせねば。


「……あ、んだんだ、そういえば自己紹介まだだったな」


 あのごちゃごちゃな騒ぎなりなんなりで満足にそれをする時間がなかった。

 ちょうどいい。さっさとしてしまおう。


 小さく咳払いして、改めて自己紹介をした。


「えっと……。篠山祥樹。階級は曹長だ。よろしく」


 慣れない微笑みを最後に付け加える。

 すると、彼女は右のこめかみに右手を添えて、少し目線を右下に向けるしぐさをする。

 しかし、それも一瞬だった。たぶん、俺に関しての情報でも検索してたのか、それとも登録してたのか……。まあ、そこらへんのロボット的事情だろう。俺が一々気にするまでもない。


 また取ると小さく微笑んでお返し。


「こちらこそ。RSG-01Xです。どうぞ、よろしくお願いします」


 そういって小さく礼をする。礼儀正しい完璧な作法を見せられ、思わずこっちも頭を下げる。

 ロボットに頭を下げるという何ともシュールな光景。第3者目線で想像したらちょっと笑えてくるものがある。

 ……いや、相手がロボットということを知らなければそれほど違和感を感じられんだろうか。事情を知るかそうでないかによるのだろうか。


 俺もまた微妙に引きつった微笑みを返した。


「あぁ、よろしく。……んでさ」


「?」


 とりあえず、ついでなんで今まで気になってったことを一つ言う。


「……型名はわかったんだけど、名前は?」


「……え?」


 なぜか首を傾げられたが、まあいいだろう。いきなりの突拍子もない質問に少し驚いただけに違いない。


 今まで言ってた『RSG-01X』てのは要は型名だろう。型式ナンバーってやつだ。


 爺さんたちの説明によれば、型名のうちRSGが『Robotic Soldir Guard』、『機械化戦闘援護兵』の略ということらしい。

 “援護兵”と訳されるのは、コイツがただの歩兵としてというよりは、同伴部隊や要人などの護衛対象を守ったり支援したりすることを目的として作られたため、性質上は“歩兵並みの戦闘をする衛兵ないし護衛兵”という意味で“Soldir Guard”とつけたのはいいのだが、それを日本語訳したらどうしてもまともなのが“戦闘援護兵”しかなかったってことらしい。

 実際の英訳とはちょっと違うのだが、そこはいわば意訳、というものらしく、まあタイプを分けてるだけなのでそれほど気にしていないという。


 そんで、こいつはその試作型の一番機だから、試作を示すXナンバーに、一番最初の01。これらを組み合わせて『RSG-01X』というらしい。


 ……だが、それはあくまで型式ナンバー。機械には必ずこういった型式ナンバーと共に名前があるのが基本。

 多くは識別のためではあるが、命名者側からすればそれ以外にも、愛称つけたほうがなんとなく愛着がわくとか、そういった本音もあるし、そもそも型式ナンバーで呼ぶのが一々めんどくさいのだ。


 ましてや、こいつの場合は人型のロボットだ。そうでなくても即行で何かしらの候補がいろいろあったはずだ。

 命名元は……、まあ、大方爺さんあたりだろう。または、その開発チームが相談してつけたに違いない。


 それはまだ聞いてないから、ちょうどいいし今この機会にぜひともそれをと思っていた。


 ……だが、


「……あの、名前でしたらさきほど申し上げましたが……」


「……え?」


 俺は思わず呆気にとられる。

 しかし、それは向こうも同じだった。一瞬の間互いに呆気にとられて固まる。


 ……いや、ついさっき言ったのは名前でなくて……。


「……いや、さっき言ったのはいわゆる型式ナンバーだろ? それでなくて名前を……」


「え?」


「え?」


 そのまままた互いに固まってしまう。

 だが、俺は何ら変なことは言ったつもりはないんだが……。はて、なにが不明なのか。


 愛称ないし名前を聞きたかっただけの話がなぜこうなった?


 ……いや、ちょっと待て。冷静になって考えろ。


 まさかと思うけど……このパターンってもしかして……


「……もしかして……、名前、ない?」


「ない、というか……。私が記憶してる名前らしい名前がこれしか……」


「えええぇ!? うそぉ!?」


 俺は思わず驚いて叫んでしまった。向こうもどこぞのちっこい小動物みたいにビクッとして首をひっこめる。

 だが、俺はそのまま口をあんぐり開けて固まってしまった。


 ……いや、しかし、それはおかしい。ここまで愛称をつけるにふさわしい対象がいるのにないだと? 何にもないだと? 人とは似ても似つかない戦闘機ですらちゃんとした非公式愛称を授かっているというのにこれにはないだと?


 ……おいおい、なにかの間違いだろ? 冗談だろ?


「……まて、他にないのかほかに?」


「いや……、ですからさっきRSG-01Xって……」


「いや、だからそれはいわゆる型式ナンバーであって、名前とはまたちょっと違うんだよ。それとは他のやつ……、あ、例えば俺だったら祥樹とか、そういう名前は……」


「……いえ、記憶してないです」


「うそぉん!?」


 またしても驚いて互いにさっきと同じしぐさ。ついでに俺にガクッと肩を軽く落とした。

 ……おいおいおいおいちょっと待ってくれ。こいつが記憶してないってことはマジでつけてないのか? わざわざつけてもらったのをまさかロボットが忘れるはずもないし……。


 ……はぁあ?


「(……なんだってこんな大事なものつけてねえんだよ爺さんはよぉ……)」


 俺はため息をつきながら頭を軽く抱えた。


 何か忘れてると思ったら、これの存在だった。これを爺さんがいるうちに聞いてさっさとつけさせてもらえばよかったんだよ。かぁ~、失敗した。


 しかし、なぜつけないのか。戦闘機や銃ですらある愛称がなぜコイツにはないのか。爺さんはアレか。自分の大切な愛娘には名前は付けない主義か。アホかと。


 そんで、お前はアレか。夏目漱石の小説の『吾輩は猫である』に出てくる吾輩さんか。生まれた場所は逆にはっきりしてるくせに。

「私はロボットである。名前はまだない」とでも言わせたいのか。ピッタリじゃないかコンチクショウ。流行らそうかなこれ。


 ……なんていう冗談は置いといてだ。


 ……というか、ちょっと待て。じゃあ俺こいつの事なんて呼べばいいんだよ? 01X? そりゃ作戦中につかうコードネームだろ? こんなプライベートにまで使いたかねぇよそんなの。

 どうせなら愛称つけてそれで呼びたいよ。そっちのほうが互いに気分いいだろ。型式ナンバーで呼ばれるのと名前で呼ばれるのどっちがいいよ?


 ……しかし困った。となるとせめて誰かが代わりにつけてやるべきだが、如何せん俺のネーミングセンスなどたかが知れている。

 こいつに似合うそれらしい名前とか全然想像できない……。くそ、なんてこった……こんなところでいらなく躓いてしまうとは……。


「名前がない……か……、なにかつけてやりたいものなんだが……」


「いや、普通に01Xでいいのでは……」


「それじゃなんかやだ。何というか……、なんかやだ」


「えぇ……?」


 疑問しかないらしく、怪訝な表情を俺に向ける。


 ロボットにはさすがにそこらへんの感覚は分らないか。ただ単にナンバーで呼ぶのと名前で呼ぶのとの違いというか、拒否感というか。いや、どちらかというと“欲求”に近いだろうか。人によってはこれにプラスして、それ以外で相手を呼ぶことへの“めんどくささ”も追加される。

 ロボットにしてみればどちらで呼んでも問題ないのだろう。どっちで呼んでも自分を指名するという目的が達成されるわけである。ある意味、ロボットらしい合理的な考え方。


 とはいえ、それでもないよりはあったほうが愛着湧くよな……。日本人なんだ。なんかつけたやりたい衝動に駆られてしまうが、しかしなんてつけてやればいいものか……。


 誰か適任いないだろうか。女の名前なんだし、女が付ければいいとは思うが、すると新澤さん? 今どこにいっけなぁ……?


「あの……」


「ん?」


 そんな感じで少しばかり悩んでいると、またもや向こうからおもむろに声をかけられる。

 その表情はさっきと変わらず少し怪訝な様子だった。


「……別にそこまで悩む問題では……」


「いや、お前にとってはそうだろうが人間にとってはこれはいろんな意味で由々しき緊急事態であって……」


「そんなにマズイことですか?」


「マズイって、お前型番で呼ばれるのと名前で呼ばれるのどっちがいいよ?」


「別に私はどちらでも」


「アウチ」


 俺は思わずガクッと肩を落とす。

 しかしまあ、これはこれはこっちの思った通り。さっきの通り合理的な理由でしか判断してなかったパターンか。


 本人がいいなら……とも思うが、ここまで人間そっくりな奴で名前がないというのはさすがにそれはそれで違和感ありだ。というか、個人的なこと言わせれば“可愛そう”だ。

 せっかくこんな姿形して、そんでもって俺たち人間社会に飛び込むってのに、それらしい名前で呼んですらもらえないというのは個人的に酷だ。他人を知ったような口を利くが、実際そう思えてしまうのである。


 ……ふぅむ……。


「……まあ、ここで考えっぱなしってのもあれだな……」


 ここでずっとたちっぱでいてもどうせ何も思い浮かばないだろう。

 とりあえず……。


「……あぁ、そういえばお前ここに来たの初めてか?」


「あ、はい。ついさっき来たばっかりです」


「うん、となると、この施設の中に関してはまだよくわかってないよな?」


「はい」


「そうか……。よし、じゃあ時間もあるし、簡単に施設案内といこう」


 現在時刻はちょうど午後7時を回ろうかというところ。就寝時間まではまだ十分に余裕がある。いや、ありまくって余るくらいである。

 ついでに、その途中でいろいろ名前を考えることにする。何かしらのきっかけがめぐってくるかもしれんし。


「とりあえずだ。ここいらへんをまず案内するよ。ついてきな」


「はい」


 そのまま、少しの間の二人っきりでの行動に入った。


 ……つっても、ただここの施設案内するだけで終わりなんだけどな……。





 名前は……、



 ……まあ、やっぱりそこいらへん適当に案内してれば勝手にいいの思いつくだろう…………

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