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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第7章 ~混乱~
129/181

リザレクション

「お初にお目にかかる、ミスターササヤマ」


 面と向かって言い放った最初の一言がこれだった。この短い文面にこれだけのツッコミどころを詰め込むセンスは俺にはない。

 「なんで俺の事知ってやがる?」。俺にはこんなロシア訛りな英語ぶちかます白人の友人などいなかったはずだ。せいぜい、高校の時留学してきた台湾人と韓国人の仲のいい友人がちょいといるぐらいだ。アジア圏の奴らばっかりだ。欧米出身はいない。


 どこの誰から俺のことを教わった? ユイか? 今奴のそばにユイがいるあたり、おそらく何か細工をされたに違いない。事と次第によっては、俺のことを聞き出すことはそんなに難しくはないかもしれないが……ユイがどれほど操作されているのかがわからない限り、明確なことは判断しきれない。


 前後には敵のロボットと人間の混成集団。左右は高い建物群……どうも、逃げ場はなさそうである。


「(……しょうがない、向こうのペースに乗るか)」


 わざわざ今こうして生かしているのは何かわけがあるはずだ。あえて相手の策略に乗るしかない。


「……どうも、こちらこそ。随分なご歓迎をなさってくれたようで」


「いやぁ、物騒に押しかけて申し訳ない。紹介しよう、私は『ヴァレリー・イリンスキー』。世界を変えるべく、この度極東の地に馳せ参じさせてもらった。以後、お見知りおきを」


 彼は至極丁寧な口調でそう言った。名前からしてロシア人か、もしくはロシア系の欧米人であろう。動画では理想論甚だしいというか、ファンタジーに片足突っ込んでるようなことを言っていた彼は、今はただの紳士の雰囲気を醸し出している。まるで、俺らは礼儀正しい正義のヒーローだとでも言わんばかりに。


「うちの者たちが迷惑をかけたことをお詫び申し上げる。我々はこの度は、貴方を迎えに参った」


「迎えだぁ? なんの迎えだよ」


 とぼけたように返しはするものの、大方見当はついていないことはない。わざわざこんなたいそうなお出迎えをしたのである。俺を撃つ様子もない。相手は丁寧な姿勢。ここから導き出されるのは……。


「簡単な話だ」


 相変わらず丁寧、かつ下手の姿勢で言い放った。



「……我々に協力してくれなi」


「おとといきやがれクソッたれ」


「Oh……」



 半ば遮るように吐き捨てた言葉に、彼は苦笑を浮かべて両手を広げた。

 予測してた通りの言葉が返ってきたと見るや、俺は即行で蹴った。誰が入ってやるものか。入るくらいなら自分から己の頭を撃ってやる。それくらいのつもりで覇気を伴って蹴った。


 だが、彼にとってはこれくらいは想定の範囲内だったのだろうか。そこまで動揺する様子はない。


「そういわないでくれ、我々は今を変えたいのだよ。それには、君が必要なのだ」


「ただの下っ端軍人に何を求めてんだよ」


「いやいや、君はぜひとも必要だ。彼女を扱うことができるのは、現状君が一番だからな」


「ッ!」


 彼女、と言ってユイの右肩に手を置いた。テメェの手で勝手に触れてんじゃねえよとブチ切れたい衝動を抑えつつ、それでも、口元が吊り上がってギリギリ抑えきれてないことを自覚しつつ、さらに聞いた。


「ユイを、どうするつもりだ?」


「そんなに大したことはない。彼女は我々人類の上に立つには理想的な存在だ。そんな彼女を補佐する逸材が必要なのだよ」


「いや待て待て待て。人類の上ってなんだ。何の話だ」


 言ってることがさっぱりだった。何を言っている? 人類の上にユイが立つってのは一体どういうことだ? 皇帝にでもなるんか? アイツなら絶対「ムリです!」って言って自分から逃げそうなものである。尤も、ただの操り人形と化している今のユイがそこら辺をいうとは思えないが。


「何のことはない。言った通りのことをするまでだ」


「人類の上に立たせるって、今人類人口何人いると思ってやがる」


「『83億2500万人』だ」


「それらすべての頂点に立たせるってか? なんだ、史上初の国連事務総長にでも就任させるんか?」


「それすらをも超越させる。もはや、国連などといったお飯事集団も必要なくなるのだ」


「はい……?」


 聞かないほうが良かったんじゃないかと思い始めた。これ、ただのファンタジーなSFを聞かされる展開ではないか? 真面目に何をしたいのか聞いてしまったのが運の尽きだったかもしれない。この後どれだけ理想論聞かされなければならないのか……。

 もちろん、向こうがこっちの事情など知るわけもない。案の定、話し始めた。


「我々は決してお飯事をしにきたわけではない。現代を憂慮し、変えるべく参ったのだ。この世を治める、そのためには、既存の概念に囚われない、全く新しいアプローチが必要だ。小手先の改造だけではできない。もっと根本から、全てを変えるつもりでやらなければ、世界は安寧を得ることはできない」


「……んで? 前置きいいからなにしたいんかはよぅ言え」


「そうせかすな……。我々は、なぜ今の世が腐敗したか考えた。そして、一つの結論に達した。……“人間にやらせているのが間違い”だったのだと」


「はい?」


 頭が半分くらい一瞬で真っ白になる。「お前は何を言っているんだ」と真正面から問いたいところだが、それでも、彼はさらに続けた。


「今の世を支配しているのは民主主義、資本主義であるのは疑いようもない事実である。だが、どうだ? アメリカが一時期は“理想的な政治体制”とまで詠い、宣教師外交をするほどにまで信奉したこの民主主義は、“理想的”な政治を齎したか?」


「……」


「少しでも政治を見たものならば、絶対にそんなことは言えないだろう。現実を見給え。民主主義は一体何を齎してくれたのだ? 「ごく普通の国民を含めた、全ての者の言葉を最大限尊重した意思決定システム」を標榜した結果、今は何が残った?」


 彼の言葉から漏れ出したのは、現行の民主主義に対する大きな不満であった。

 聞くに、決して、民主主義の全てを否定しているわけではないようだった。全ての者たちに意思決定の機会を与えることは、人間に与えられた基本的権利であり、それらは最大限尊重されるべきシステムであると。そして、資本主義はその民主主義体制の元、競争社会の中でさらなる高みを目指す、その原動力となったことは、疑いようもない事実であると。

 だが、いいことばかりではない。むしろ、現代においては、負の側面が多く噴出したともいう。


 曰く、民主主義の理想は既に立ち消えたということ。権力者は、国民からの信託を得た者たちであるにもかかわらず、その権力をほしいままにし、独裁の実態とそんなに変わらなくなってきたとする。国民からの監視も、結局は権力者たるマスメディアに踊らされ、それが空振りし、ほとんど国に届かないシステムとなった。それは、貧民になればなるほど、実感が持ちやすいのだという。

 さらに、国民も国民で、真面目に政治を見ようとする者も少なくなってきたとした。政治の実情を見ようとせず、イメージで語り、ただただ権力に踊らされるがままにデモ活動を行うバカな学生や老害共。さらに、それを見てバカ笑いし、同じ穴の狢になっているだけの“サイレントな”有権者共。結局、「みんなの意見を尊重する」と言いながら、誰もそれに真面目に向き合おうとしなくなった。

 それは、資本主義によって起きた貧富の格差を埋めようとする努力にも中々繋がらず、差を広げるだけである。


 そんな政治になった原因は何なのか? そもそも、理想的などと勝手に謳ったアメリカ等が積極的に広めた民主主義、資本主義に、根本的な欠陥があったとは思わなかったのか?


 ……とはいえ、俺はそこまで聞いて妙に思う。


「……じゃあなに、アンタは独裁やりゃあいいじゃんって話?」


 それだけ民主主義や資本主義が嫌いならば、社会主義、もしくは共産主義にでもしたいのかという話である。ソ連や中国、北朝鮮がそれをやってどうなったか見ればそれが最良の選択かは判断は可能のはずである。


 ……しかし、彼はそれをも否定した。


「言ったはずだ。今の民主主義は、実態は独裁とそんなに変わらないと。私たちは独裁主義を認めたつもりはないし、ましてや、間接的にそれを誘発するそれらの政治思想を持つつもりは毛頭ない。今の民主主義が、ほぼ固定された政治家やそれと直結する企業らの集団による独裁であって、党や一部権力者の独裁体制と何が違うというんだね? 民主主義や資本主義以上に、社会主義や共産主義は人間には使えたものではない」


「ほう?」


 どれを取るつもりもないという考えに少し興味が沸かなかったわけではないが、さらに彼は無視して続ける。


「嘗て、社会主義を作ったマルクスは理想を求めた。自身は決して富裕な人間ではなく、それを打開するため、皆が平等になるべく、格差がなく幸福な生活を送るための理想を追求した。マルクスは決して間違っていたとは思わない。だが、彼は、さらには、そのマルクスの言った言葉を信じた者たちは、あるミスを犯したのだ」


「ミス?」


「そうだ。……平等になるための改革を、“システム”だけで済ませてしまった事だ」


「システムだと?」


 曰く、マルクスは、自身の著書『資本論』を用いて、当時の資本主義の欠点を詳細に明らかにし、同時に、所謂社会主義、さらには共産主義の必要性を説いたのはいい。だが、それらを“詳しくはどうやって”実現するのかを明確にしないままに命を落としたことは、後世の人々らを混乱させた。

 彼らはマルクスの言った理想をどうにか実現するべく、改革を進めた。だが、それらは“体制”を変えるに留まった。これが、一番の“大きなミス”だったのであると、彼は説いた。


「人々は欲望にまみれた生き物だ。当然、欲を自らの理性によって操ることにより、さらなる高みを目指す原動力へと変化させることができる側面はあるだろう。だが、欲望に、さらに“権力”を与えてしまった瞬間、人間は簡単に“悪魔”へと変貌するのだ」


 つまり、人間の内面的な事情を、社会主義や共産主義などはまるっきり無視してしまったことが、その後の衰退の大きな要因なのだと彼は指摘した。結果的に、皆を平等にするために“理性ある権力者を立てる”ことを目指したものの、それすらも、初期こそうまくいけど、その後は完全にただの権力者の独裁の温床の場と化した。

 権力をほしいままにした者たちは、その社会主義、共産主義の政治的理念である“平等”の名の下に、ありとあらゆる暴虐の限りを尽くした。理想を求めた社会主義、共産主義が、逆に人々を絶望の淵に叩き込んだ歴史的瞬間であるとみることができる。国民は不満を持ち、さらに、それらの怒りは権力者に向けた。その結果どうなったか……歴史が知るところである。


 彼は、この歴史を一気に解説したのち、さらにこう説いた。


「……しかし、考えてみた前、ミスターササヤマ。政治の体制そのものは、これ自体はそんなに悪くないとは思わないかね?」


「……ていうと?」


「迅速な意思決定、国民の声に基づいた平等な幸福の分配システム、権力者への一極集中からの徹底的なトップダウン型の支配体制……。システムだけを見れば、むしろ理想的とすら言えるのだよ」


「てことは要はそれの支持者じゃねえか」


 違ういうてなかったか?と思いはしたが、彼は否定した。


「いやいや、勘違いしないでいただきたい。私は人間による独裁を誘発しかねないシステムを嫌うだけだ。逆に考えればいいではないか。……人間以外が、やればいいのだよ」


「…………は?」


 ……はは~ん、読めてきた。一瞬ついに頭が狂ったかと思ったが、彼が異常にロボットであるユイを重要視する理由も考えれば……要は、そういうことなのかもしれない。


「……まさか」


 答え合わせついでに聞いた。


「……お前、もしかして」




「超高性能なロボットを、社会主義のような政治体制のトップに添えさせるつもりか?」




 事実、体制だけを見れば、理想的といえば理想的なシステム。実際、そう思ったからこそマルクスや、彼を信じた者たちがこの社会主義・共産主義を信奉した。

 だが、彼の言ったように、人がその権力をほしいままにした結果、その理想は潰えたのである。それは、間違っているとは言えなかった。ということは、逆転の発想というわけである。


 政治体制を変えるのではない。その“運用者”を、変えるのである。


 彼は「正解」とでも言いたげに言った。


「……ロボットに欲はない。人間以上に、そこの制御がしっかり聞く。なら、ロボットに任せていいではないか。ロボットなら、目の前の権力欲に溺れることは決してない。しかも、下にいる人間から入ってくる情報に、より“冷静に”分析をかけることだって可能だ。……権力者として添えるには、これほどの逸材はいないのではないかね?」


「ロボットが、人類の上に立つってのは要はそういうことか……」


 てっきりロボットを崇め奉る宗教でも作るのかと思ったが、ある意味それ以上だった。トップダウン型の支配体制は維持しつつも、その一番上に、曰く“冷静で欲に溺れないロボット”を添えることで、人間がやっていたことよりさらなる幸福の実現を可能とするというものだったのだ。


 ……理想論どころの話ではない。完全に“ファンタジー”の世界だった。片足どころか、むしろ自分から全身浸かりに行っているレベルの“戯言”である。


「……ロボットが、人間を支配しきれるって言いたいのか?」


「ロボットは賢明だ。我々には遠く及ばない思考をするようになりつつある。ここにいる君の相棒も、そのような存在なのだろう?」


 もう何でも知ってるよ?と言いたげに口元をゆがませた。すまないが、あまり気分が良くなる笑顔ではない。あと、相棒の肩を何度も叩かないでくれ。あとでふき取るの面倒なんだよ。


「ロボットを過大評価し過ぎじゃないか? 人間がどれほど扱いにくい存在から、同じ人間ならわかるだろうが」


「真面に扱うことを放棄したような人間の権力者とどっちが良いと思うのだね? 権力に溺れ、人間をいい意味で扱うことを忘れた者より、真面目に、かつ地道に学ぶロボットのほうがよっぽどいい。……だからこそ、私は彼女を欲したのだ」


「欲した?」


 彼はユイを指してそういった。


「そうだ。彼は素晴らしい頭脳を持っている。人間とは瓜二つの。まさに、我々の理想とする指導者だ。権力の頂点に立ち、その絶大な思考能力をフルに発揮すれば、人類が本当の意味で求めた理想を実現することが十分可能となる。一番の、うってつけな存在なのだ」


「うちの相方そんなのに使われても困るんだが……」


「だからこそだ、君にも協力を求めたのだよ、ミスターササヤマ」


「俺を?」


 要はロボットを頂点に立たせてトップダウン的に支配させます的な話の中で、俺の出番が果たしてあるのか? この話の場合、俺はむしろユイから色々と幸福とやらを享受される立場のはずだが、彼に言わせれば、俺はそれには勿体ないのだそう。


「彼女にとって、君は特別な存在だ。同時に、君にとっても、彼女は大切な相棒でもある。この関係を断ち切ることは、君たちにとっても幸福なことではない。我々は、より多くの人々の幸福を願っているのだ」


「どの口が言うてるんやら……」


 幸福を願う人間が人を殺しまくるかという話だ。第二次大戦当時、広島・長崎に原爆落とした当時のアメリカも、たぶん似たようなこと考えながら落としたんだろうなぁと思う自分である。その結果生んだのは、ただの原爆の悲惨な現実と、今現代にまで続く核の恐怖による抑止力しかないが。


「まあまあそういわないでくれ。しかも、君の場合はロボットに関する知見も豊富だ。我々の新しい理想を求めるうえでほ補佐には一番なのだよ」


「でもさ、アンタらのやってることは結局はロボット使った独裁だろうが。最初あたりに言ってることと真逆だぞ」


「形的にはそうなるかもしれない。だが、我々が憎んでいるのは“権力欲にまみれた人間による独裁”だ。理想的な独裁は、無能な民主主義よりも勝ると我々は確信している。ロボットを用いた理想的独裁主義は、現行の無能な民主主義を超越する政治システムとなるだろう。言わば、世代交代なのだ」


「世代交代?」


「そうだ。もはや人類が人類を支配する時代は終わったのだ。今後は、人間が生んだロボットが、年老いた老害たる人類を支配し、纏め上げる時代へと移り変わっていくのだ。人間が、正当な行いをせず争い続けるならば、ロボットによってそれらを半ば強引にでも纏め上げ、平和を強制的にでも実現するほうが、遥かに幸せな世界を目指せるのではないかね?」


「……」


 彼の言うことを聞きつつ、俺は数か月前のTIRSの時を思い出した。展示されたロボットを見ているうちに、自分は「子供の成長を見る親の感覚」を、人間のやることのほとんどをロボットが真似できるようになった事実を見つつ考えたものだ。彼はおそらく、それを“過信”し過ぎたのだろう。

 ……ゆえに、さらに彼はこんなことも言った。


「我々はロボットこそが、次世代の権力者に相応しい存在であると考えている。もはや、ロボットは人間の役目を代行するのに十分な能力を持った。彼女こそは、その典型ともいえるだろう。ならば、ぜひともその理想を実現してもらいたい。そして、君にも、我々と協力し、それを補佐していただきたいのだ。実現した暁には、君もその幸福を享受する一番の立ち位置となるだろう。……どうだね? 理想を追求しないか?」


 彼は得意げにそう言い放ち、両手を広げて顔を歪ませた。全ての話をとてつもなく乱暴にまとめると、つまりは「ロボットに政治させたほうがみんな幸せだよね。権力欲とかないから全てに本当の意味で平等だし」ということであろう。

 確かに、ロボットは人間ほど欲望というものに執心はないだろう。ユイ自身も、暇さえあれば何かしらの形で欲求を満たしはすれど、基本的に人間の言いなりである。よほどのことがない限り俺の指示に忠実で、意見するときも、あくまで俺に提案という形をとるくらいには謙る。自身の能力を乱暴に使うこともない。そういった点は、ほかのロボットも共通ではあるだろう。そういう意味では、指導者としては、理想的な性質は持っているのかもしれない。


 ……だが、


「……やっぱりロボット信者じゃないか」


「なに?」


 結局、ロボットのこと何にもわかってないなと言わざるを得なかった。俺は“反撃”する。


「そりゃあだな、確かにマルクスさんが資本論書いて社会主義やら共産主義やらやりましょーいうて、それで実際にどうにかしてやってみたら失敗したってのは歴史的事実だから言い逃れできねぇし、対する民主主義だって、一見政治的には広く国民の意見反映できているようで、政治家は頻繁に変わらんから権力独占や利権発生の土壌が生まれ易い。それは間違いねぇんだが……」


「が、なんだね?」


「単純に考えやがれ。結局お前も“モノ”変えてるだけだろうが。内面がどーたらいうてる割には、権力に立つ“モノ”をとっかえてるにすぎないじゃねえか。しかも、その代替がまだ未熟すぎるロボットだぞ。アホったらしいったらありゃしねえよ、ロボット過信してんじゃねえよバカが」


「……言ってくれるではないか」


 満面のニヤケ顔が、ひきつったニヤケ顔に代わっていった。精神的には効いている様子である。

 人からロボットに変えればすべて終わりならば、最初っからスパコンぶち込んどけばすべで終わり話だ。だが、なぜ誰もやらなかったのか? 機械による支配が倫理的、宗教的にマズかったりするなどの理由はもちろんあれど、一番は、「できるわけがない」という判断からだ。

 一種の決めつけのようにも思えはするが、それは今でも変わらない。政治とは、途轍もなく複雑な要素が絡み合うのである。理想的な政治の追求とは、つまりはその国の国民の最大限の幸福を追求することであり、さらには、外国との理想的関係を同時に追求することでもある。

 ……いくら量子ニューロコンピューター使ってますって言ってるユイが日本の総理大臣になったとして、それを果たして完全にやり切れるのか?

 一国の国民の幸福すら追求できないのに、思想や宗教など、幸福の像が根本的に違う外国の人々の幸福も同時に追求するなんて神がかり的なことは、本当に神様ぐらいにしかできないであろうことだ。


 ロボットは、機械ではあれど、神様ではない。


 彼らの言っていることは、ロボットが「神がかり的な存在」であること前提の話でしかなかった。俺は、ユイのようなロボットは神様だとは思わない。


「アンタらがロボットをどんな目で見てるか察するに余りあるが、ロボットに関して少しでも知識があれば、自分たちの言っていることはただの夢物語で終わりであるということがすぐにわかるはずだ。人の幸福は、普遍的じゃない。全てを合わせたらとてつもなく極端なものだってあるんだよ。全部ロボットが判断できるってのか?」


「できると信じているが?」


「信じて何でもできるんなら幾らでも信じてやるんだがね、もっと現実を見ろ。信じるためには、その信じた内容を実現するための最低限の土壌が必要なんだよ。それは、その人の努力であり、環境であり、時には幸運だって必要かもしれない。……だがな、アンタらの言っている信じる内容には土壌がこれっぽっちも整っていない。ロボットはそこまでハイスペックじゃねんだよ」


「彼女が違うというのかね? 君が一番わかっているはずだろう?」


「わかってるから言ってんだよクソったれ共。俺はコイツのことを相棒としてみることはあれど、神様としてみたことなんざ一回もない。ましてや、超万能な全知全能の何かとすら思ったこともない。……この際はっきり言っておこう。こいつには、人間の幸福は完全にはわかりはしない」


「なに?」


 確かに、ユイはめっちゃいい奴で、ロボットの割には無駄に人間的なところがありすぎるし、感情表現も豊か。人の気遣いはできるわ、時には命投げ出せるわ……そして、誰かを助けるためなら、自分に対する評価だって投げ捨てる。そこまでやれなんて本人は言ってなかったのに、あまりに献身的すぎるぐらいに、自分を犠牲にできるようなやつだ。


 ……だからこそだ。


「……こいつは人に“優しすぎる”。俺みたいな人間のために、わざわざ自分から身を投げ出す事に何の躊躇もないぐらいにはな。政治ってのは時には冷徹さだって必要だ。政策の取捨選択。でないと、全ての幸福の要求にこたえなければならないが、それが簡単にできるほど政治は甘くねんだよ。だが、こいつにはそれはできない。冷徹になりきるスキルがない」


「ならその原因となる感情をとればいいではないか。我々はすでに、彼女を操作しきっているのだぞ?」


「バカいえ、幸福を感じるときは何で感じるかっていえばその人の感情だろうが。感情が幸福を判断するのに、感情をこれっぽっちも使わないで幸福なんざ追求できるか。感情を使って幸福を追求する。そのうえで、時には冷徹に切り捨てる判断も必要になるって言ってんだ。政治ってのはクッソ難しいんだよ」


 俺がユイには政治はできないと考えた一番の理由だった。幸福を追求するために必要な感情を、アイツは優先させすぎてしまう。冷徹になり切れないところは、政治の世界では致命的な欠点でしかない。限られたリソースをフル活用して国民の幸福を実現させるとはいえ、限りがある。その結果、切り捨てなければならない幸福だってどうあがいても出てくるのだ。そのとき、アイツはまともに判断できるのか。

 一時的に冷徹になって自身の俺からの評価を落としてでも、俺を“助ける”判断をしたアイツは、そのあと耐えきれず新澤さんにすべてを打ち明けて涙を流した。一回冷徹になっただけでこれなのだ。相手が俺だったからという分を差し引いても、こういった判断を何度も何度も繰り返して、それで長続きするだろうか。


 ……とてもではないが、俺はあいつにはすべての人類の幸福の追求はできないと考える次第である。


「ロボットには幸福は追求できない。ロボットは全知全能の神様じゃねえんだ。人間では無理だからロボットで、なんて話じゃない。逆なんだよ。“人間でも限界がある”んだよ」


「人間でも……だと?」


「そうだ、人間でもだ。全てにおいてロボットが人間より上なんて誰が言ったんだ? 政治の世界にロボットを置いた時のことをよくよく考えろ。そして、ロボットの中に入ってるプログラムを誰が作ったかを考えろ。こういう時こういう判断しろっていう風にロボットに教えたのはどこの誰だ? え? 俺か? お前か? それとも神様か?」


 彼は答えあぐねていた。そりゃそうだ。ロボットに対して、その思考の仕方を教えたのは誰でもない人間だからだ。「これが幸福だろう」という風に考えてロボットに教えた人間と、ほかの人の考える幸福は厳密には違って来れば、彼らの言っている理論は即行で破たんする。そのあと学習するとはいえ、その学習の基準も人間が作ってしまっているのである。まるっきり意味がないのだ。


 そういう意味では、スペックはロボットが上であっても、“頭の良さ”という意味ではロボットは人間には勝てないのである。


「ロボットの能力を無駄に過信してるやつに、俺は一々協力するつもりはない。貴様らみてぇなロボットを狂信するようなやつに手を貸すほど、俺はバカになったつもりもないし、今後なるつもりもない」


「……」


 彼は若干うつむいて黙って聞いていた。堪えたか? だが、これで奴らと決別できる。向こうがそう思っているならば願ったりかなったりだ。


「俺は貴様らについてはいかない。そして、相棒をそんなことに扱わせるつもりもない。悪いが、さっさとかえしてもら―――」


 ……だが、そのときだった。


「……やれ」


「ハイ」


 一瞬にして目の前に、ユイが迫ってきたのだ。恐怖しか感じない無表情で。

 さらに、フタゴーの銃床を使って俺の頭を殴ろうとした。


「ぅわッ!」


 すぐに頭を下げ、それを躱した。1秒と立たないうちに一瞬にして接近するその俊足力……。奴ら、俺を始末する気か。それにこたえるように、彼は口を開いた。


「……ならば、君には消えてもらわねばならない。幸福を願う気持ちがない者には要はない。無駄にこの話を広められも困る。01X、奴を消せ」


 やっぱりか。01Xとか久しぶりに聞いたなーとか呑気なことを思い浮かぶも、ユイがさらなる攻撃を加えたことでその発想は完全に記憶から消える。銃剣はついていないが、フタゴーをまるで殴打武器のように扱い、主に銃床をこちらの顔面に振り向けるか、もしくは、通常の格闘の時と同様に足や腕をつけ狙う。


 ……というか、それをここでやるのかッ? 周りにいる奴らにやらせないで、敢えてユイにやらせる当たり、こいつの性格の悪さがうかがい知れるが、これじゃあまるで古代ローマにあったコロッセウムじゃないか。


「おいおい待て待て、俺は別に見世物でもなんでもな―――」


 しかし、さらに牽制のためか、俺の上方向に向けて銃弾を一発放った。俺の発言は完全に中断される。


「……ワタシトイツマデスルツモリダ」


「あん?」


 またユイが喋った。相変わらず無表情、声も無感情。目もまだ血のように赤い。向こうの支配下にある中、向こうにとって都合のいいことばかりを俺に言い始める。

 威嚇のためか、また一発放った。


「タエキレナイダロウ。イマコウシテアラソウコトハムイミダ。オトナシクシタガエ」


「わり、俺は俺なりの信念がある。向こうには合わない」


 すると、また銃を撃った。


「シニタイノカ。ワタシヲミステルノカ」


「誰が見捨てるか。……俺はお前を連れて帰る」


「ハナシガムジュンシテイル」


「していようがいまいが、それが俺の意思だ。それができないということは、俺はたぶんお前の銃弾で死んでる頃だ。できるまでやる」


 それに反応するように、ユイはまた接近してきた。俺は直ぐに腰を低くして足を止めにかかろうとするが、簡単に止められ、逆に振り払われた。足一本で仮にも大の大人である身が簡単に宙を舞ったのである。こいつの脚力が改めてヤバいことを思い知った。


 ユイは倒れている俺に徐々に近づきつつ、また一発、適当な空中に銃弾を一発放った。さっきからなんだこれは。さっきの無意味なナイフの刃を当たる仕草といい、無駄に変なところに飛ばす銃弾といい。まるっきり意味があるようには思えないのだが……。


「ブキヲツカワナイノニ、ヨクマアソノコトバガダセル。ワタシヲウテナイクセニ」


「……あぁ、そうだな」


 そうだ。俺はコイツのことを撃てない。距離的にも、命中精度的にも期待できないのもそうだが……何より、俺は“撃ちたくなかった”。撃つ勇気もなかった。

 ……だからこそ、俺は引き金に、指をかける事すらできないでいる。ユイは問答無用だった。またさらに、適当なところに銃を撃った。


「ジブンノミヲアンジヨ。ジヒハナイ」


 さらに追撃をかけ、執拗に腕やら足やらに打撃を加え、徐々にダメージを増やしていく。今までずっと耐えてきたものの、時間が経つにつれて、足も悲鳴を上げてきた。腕も、切り傷のようなものはなかったが、内部にある骨や筋肉にダメージが蓄積されているのが分かる。


「―――ッ!」


 そのとき、息切れをしていったん立ち止まっていた俺の腰あたりに、一本の回し蹴りが入った。腕を前に立てて直撃はしなかったものの、代わりに思いっきり後ろに吹き飛ばされた。トドメをそろそろ出しに来たか。だが、俺は腕に入った痛みに悶えるしかなかった。

 ……だが、この時俺は妙な違和感を感じていた。


「(あれ……アイツの脚力ってこんなんじゃなかったよな……)」


 ユイと出会って最初あたりにあった動作試験の時を思い出す。200mを10秒台で走破するほどの脚力を見せたアイツだが、アイツは今本気で殺そうとしているのに、今の蹴ったときの衝撃が思ったほどなかった。やろうと思えば、腕の一本ぐらい回し蹴りで折ってもおかしくはないはずである。


 ……どういうことだ? まさか、手加減なんてことはあるまいな。


「もう諦め給え」


「ッ!」


 イリンスキーがまた口を開いた。最初とは打って変わって、威圧のかかった口調であった。


「我々に加わることがないと決めた以上、もはや彼女を取り戻すことなど不可能だ。彼女は我々がしっかり扱わせてもらう。後は任せて、君は安心して眠り給え」


 勝ち誇ったようにも聞こえた。ロボットにかなう人間ではない。それを、向こうもわかったのだろう。それは事実だ。

 ……だが、


「……うるせぇ」


「?」


 ……俺は、それが一番ムカついた。


「うるせぇよクソッたれがぁ!」


 耐えきれず、思いっきり叫んだ。よろよろと立ち上がりつつ、俺は叫んだ。


「あとは任せて眠れだぁ? テメェみてえな奴に相棒を預けられた日にゃぁ、死んでもたぶん亡霊になって付きまとってやるぜ。誰も貴様らなんかに渡すか……俺の、さいっこうの相棒に手を出すんじゃねえ!」


「ッ……」


 向こうも若干たじろいだ。よほど気迫が入ってしまっていたのだろう。なんでユイまで止まってるのかはしらんが、チャンスだ。ここぞとばかりに畳みかけた。


「何でも言ってやる。こいつの相棒はこの俺だ。ほかの誰でもねえ。コイツを一番よく知っているのは俺だと自負している。お前らみてえな浅はかな考えしかもってないようなやつの下には似合わない。ユイは皆の頂点に立つような存在じゃない。皆と同じ視点から……普通に、同じ仲間として立つのが一番なんだよ」


 ユイは一度たりとも、ほかの奴らより偉い立場になろうなどといったことはなかった。俺と出会ってすぐの時、新澤さんがユイの名前を決めるのに参考にするという名目で、抱負を聞いたとき、アイツはこういった。



“私は皆さん人間をサポートするロボットです。そのためには、皆さんと密接に繋がって、綿密な関係をもっていかないといけないと考えています”



 まだ初々しい頃の、懐かしいアイツの言っていた言葉だった。この密接な関係、というところから、ユイという名前ができたのだ。本当に、新澤さんはいい名前つけてやったと思う。

 密接に繋がるということは、ほかの奴らの頂点に立つことではない。たとえ同じ身分であっても、そこから互いが同じ時を、同じ場所を、ともに過ごすことができ、さらに、その中で互いが互いを信じあえる仲を目指し、そして、その中で自分ができるサポートをする……それが、こいつの願いだった。それが、ロボットとして最大限の力を発揮する場でもあると。


 それは、今も全く変わっていない。俺はその願いを、裏切るつもりは毛頭なかった。


「俺はそれを今後も実現させなきゃならない……お前らなんかに邪魔はさせない。俺とユイが、今までどんな時を過ごしたか知ろうともしないで、勝手に割り込んで奪い去ろうとしやがって……どうせならアンタにも体験させたいぐらいだ」


「……」


「どうせ奪うなら、俺とコイツの許可を得てからにしやがれ。……安心しろ、絶対に許可しないからな。“どっちも”な!」


 俺は、この時初めて銃を構えた。撃つつもりはなかった。だが、あくまで俺の意思が明白であること。そのためには、ユイではなく、お前に銃口を向けるつもりで行くということ、それを、この動作一つで示したつもりだった。さらに……。


「……今の俺には、アイツが必要なんだ。一時的とはいえ、失って改めてそう強く感じさせてらったよ。そういう意味では感謝してるぜ。そういう意味ではな」


「……貴様」


「なんとでも言え。俺はコイツを取り返す。それまでは帰らないし、できなかったときは……俺が死んだ時だ」


 これ以上言葉を発するつもりはなかった。言いたいことは全部言い切った。相棒の前では死にたくはない。死ぬ姿を見せたくはない。それも、自らの手によるもので。

 だからこそ、諦めるわけにはいかなかった。何なら、こいつの動きを抑えてでも、引きずってでも、俺は連れて帰る。そのつもりで、俺は銃口を前方に向けた。どうしても、引き金は引けなかったが。照準だけは、しっかりと固定させていた。


「……無様なことを。その選択が間違いであることを教えてやれ」


 ユイに対する指示だろう。それに呼応するかのように、ユイはまた、俺の頭の上数メートル上に銃弾を飛ばした。本当に、当てるつもりのないこれは一体何の意味があるんだ……。


「……オロカダ」


「ッ」


 ユイは、その撃った時の姿勢を戻し、フタゴーを片手で持って下した状態で言った。


「ワタシヲウタズニウバイカエストハ……オロカダ」


「言ってろ。俺はお前を見捨てて逃げたくはないからな。ここで死ぬか、お前を連れていくかのどっちかってもう決めた。何を言っても聞かねえぞ」


「ニゲナイ……オロカダ……ホントウニ……ナゼ……」


 妙にうつむき加減だが、そんなに愚か愚か言われてもなぁ……地味に傷つくようなそうでないような。


「まあいいさ。とにかく、来るなら来い。俺が今から相手に―――」





「……ウテッテイッタデシょ……」





 ……ん?


「(……今、何かつぶやいたような……)」


 向こうからの指示に答えたか? だが、そこから動く様子はない。むしろ、またフタゴーを持つ右腕を上げ、また変なところに弾を撃った。この無意味さ極まりない動作に追加して、さらに今度は、


「タテヨミ」


 と、いきなり意味の分からない言葉を言い放った。さらに、もう一回銃弾を放って、


「イニシャル」


 と、また別の英単語を言い放った。これには前後にいる敵方も首を傾げていた。何言ってんだお前?とでも言いたげであるが、それは俺も同じだ。


「(縦読みとイニシャル……頭文字か。銃を一回放ってなんでそれを……今までもそうだったが……)」


 銃を撃ったのは今の2回を抜くと計6回。そのたびに何か俺に色々と喋っていたが……。



 ……ん?



「(銃を撃った後……縦読み、いや、その前にイニシャルを……)」



 ……その瞬間、



「…………ああぁッ!!」



 俺は、ユイの奇行の全ての理由を悟った。

 そういうことだったのか。つまり俺は、まんまとしてやられたわけだ。


「……ハハハ」


 そう思うと、


「……プッハハハハハッ!!」


 思わず笑えてしまった。おかしかった。なんでこんなことに気づかなかったのか。どうやら俺は、“遊ばれていた”らしい。


「……何がおかしいッ?」


 イリンスキーが若干の気迫を込めてそう問いかけた。だが、それでも笑えてしまい、堪えつつ答えた。


「い、いやぁ、申し訳ない。どうも、色々ともて遊ばれていたっぽくてなぁ……」


「なんだと?」


 意味が分からなそうだった。当然だろう。だが、俺はもう確信した。だからこそ、今度はこっちが勝ち誇ったように言える。


「アンタ、ロボットをめっちゃ頭いい何かと思ってんだろ?」


「頭いいというだけではない。将来の理想的な指導者にだな―――」


「その御託はもういいよ。ほんで、ユイが、それをするに一番だって言いたいんだろ?」


「そうだ、それがどうした?」


「いやぁさ、さっきも言ったように、こいつにそれは向いてないって思ったんだが……」


「なんだ?」


 まだ何もわかってないらしい彼の様子に少し笑いをこらえつつ、さらに続けて、


「……理由、もう一つ追加しておくわ。政治の世界には、あまり“ドッキリ”って通用しないからな。どうもコイツ、変なところでそれをしちゃうような“アホ”らしくて、危なっかしくてありゃしない。人間をたまにこうして遊び道具にしちゃあ幸福追求とかそんなん笑い話だ」


「……は?」


「でも、それがいいんだろうな。コイツの一番の取り得。場所を問わず皆を笑わせるムードメーカー。ある意味、ロボットぐらいにしかできない芸当だ。良くも悪くも空気が読めないというか、場所を選ぼうとしないところはな」


「ま、待て貴様、なにをいってい―――」


「俺はそんなところに惚れたんだろうな。なぁ、おい?」


 俺は、さっきから俯いているそいつに向かってそう聞いた。答えようともしない。銃を下して、ただただ俯いて突っ立っているだけ。俺は、それすらもなぜか笑えて来ていた。


「……いつの間にか、そんなお前を好きになっててさ。全くバカりゃしいっちゃありゃしねえぜ。……お前が俺のために命張ったんだ。俺にも命張らせてくれ。……つーことで」


 俺はそう言って、左手に拳を作り、




「……やるぞ、ユイ。さっさと起きやがれ寝坊助め」




 そう言って、俯いているユイの前に拳を出した。



 誰もが、俺の行動を怪訝に思った。何をしたいんだ? 敵であるそいつになぜ?




 だが、一人だけ、「待ってました」とばかりに、それはもう元気に答えた奴がいた。



 ……そいつの口元がニヤけた。瞬間、






「……はぁ~いおっはようさんッ」






 そう言ってキレイなブルーアイを見せて満面の笑顔を見せ、左手に拳を作りグータッチを交わした。



 刹那、一気に互いの目つきが変わり、銃を構えつつ背中合わせになり、前後で退路を塞いでいた敵集団に各々で銃口を向けた。

 イリンスキーがいるほうはユイが向いた。だが、見なくてもわかる。今のあいつは……




「……バカな……ッ!?」






 とてつもなく、滑稽な顔をしているだろうなと思う…………

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