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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第7章 ~混乱~
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先進装備

 ―――その後、拠点に帰った後に、自らが取った写真を使って「身に着けているのがどういう装備か」を和弥に見てもらうことにした。本当は持ち帰りたかったが、ただでさえユイは荷物をもっているため、これ以上持たせたら行動に支障が出ると判断し、そのままにしてきたのだ。

 それでも、場所を記録し、角度を変えて何枚かに分けて写真を撮り、それを和弥に見せた。そしたら、


「……こりゃあやべえわ。欧米の軍隊しか持ってねえのばっかじゃんか」


 即行で驚愕の声を上げていた。新澤さんは欧米の装備にはあまり詳しくないらしいが、それでも、AKS-74Uだけは見分けていた。旧東側の銃は前々からテロで使われていたので、ある程度は知っていたのだという。


「最新型のMBAVに防破ニットか……大よそただのテロリストが持つもんじゃねえなぁ、ぇえ?」


「ここら辺は複製は難しいと聞く。そこはどうだ?」


「無理だな。ここら辺は比較的新しくできたこともあって、複製するには、高度な技術が必要な素材を使って、これまた高度な製造手順を踏まえなきゃならねえ。聞いた話じゃ、このMBAVの内部構造に至っては、改良するにあたってスパコン使って最適な防弾素材構成にしたらしいな。おかげで、軽量化と防弾性強化を両立させたって話だ」


「まともに複製するなら、スパコン前提で高い技術力を持ってこいって話か?」


「そういうこったな。こりゃあとんでもねえ代物だぞ。むしろお持ち帰りしたいぐらいだ」


 それを世の中では窃盗っていうんだよ、と思わずツッコんだが、考えてみれば事あるごとに敵の銃を奪っては弾薬補充の足しにしてる時がたまにあったため、割とそれと近いものだろうかと思い直した。

 しかし、和弥に言わせれば、そっちより気になるのはAKS-74Uだという。


「防弾装備は完全に欧米系なのに、持ってるのはロシアの銃だな……正確には旧ソ連製のだが、このAKS-74Uクリンコフ、側面にマウントレールがあるから、正確にはAKS-74U”N”だな。ここには、暗視スコープをつけるんだろうが……な~んかマウントの形が若干違う気がするんだよなぁ」


「元々旧ソ連が作ってたもんと違うのか?」


「いや……よくわからん。最近の欧米系の銃に使われてるマウントにそっくりなんだが、あれってAKS-74UNについてたっけか……」


 和弥は「この銃変だぞ」とこぼしながら、俺が取ったAKS-74UNの写真を凝視していた。自身の記憶の引き出しから、答えに導き出せそうなヒントをとにかく取り出しまくるが、それでも、中々見つからないらしい。

 すると、さっきから完全に置いてけぼり喰らっていた新澤さんが遠慮気味に言った。


「あのさ……単に誰かがそれっぽく改造しただけとかそういう発想ってあり?」


「ありそうっちゃありそうですよ。ていうか、たぶんそうだと思うんですよこれ。俺の知ってるAKS-74UNのレールと違いますもんマジで。……あぁ、あと」


「ん?」


 さらに、和弥は別の写真を指摘していった。


「この……コイツが防弾チョッキの下に着てる服の迷彩パターン。MBAVとは違って、こっちはロシア軍が使ってるのと結構似てますよ」


「ロシア軍?」


 今度はロシアが出てきた。アメリカ、欧州、ロシア……この三つがごちゃ混ぜなんだそうである。


「正確にはロシア特殊部隊のものですね。ごくたまに公開するんですが、その写真に写ってた迷彩パターンと酷似してます。下のズボンも……こっちは色彩が暗いですが、色が違うだけでパターンは同じでしょうね」


「MBAVの迷彩はアメリカなのに、下に着てるのはロシア……んで、銃もロシアで、一部は欧州も込み」


「欧米露の三つが合体した……てか。どういうことだ?」


 統一感がこれっぽっちもない装備だ。どこかの軍隊に所属しているなら、その軍が持っている装備体系は大体決まっている。旧東側の比率が高かったり、旧西側の比率が高かったりといったことはあるが、こうもごちゃ混ぜ、しかも、最新のものを持っているというのは、和弥にとってもおかしなものらしい。


「統一感がまるでゼロ、しかも最新装備ばかり……普通ならありえないタイプの装備体系だ。……だが」


「ん?」


「……一つだけ可能性がないわけでもない」


「え?」


 意味深な発言に、俺ら3人の耳は和弥の声に向いた。


「どういうことだ?」


「実はな……これは今の日本の特戦群も場合によってはそうなんだが、特殊部隊とかってのは身に着けてる装備から所属勢力がバレないように、あえてものくっそバラバラな装備をつけていくことがあるんだよ」


「あえてか?」


「そう。あえて。そうしないと、装備などからどこの組織の所属かバレるだろ?」


 なるほど。言えてる話ではある。米軍が持ってる装備で固めたら、大抵はアメリカの所属とみるだろう。大体で、予測がつかない様にする措置は、十分講じてきてくることは理に適っている。

 ましてや、他国に浸透する部隊なら、そういったどこの所属かバレるようなことは決してあってはならないだろう。外交問題になる際、十分な証拠として列挙されるからだ。


 ……ということは、


「……お前は、これはテロリストじゃなくて、”どっかの国の特殊部隊か何か”って言いたいのか?」


「あくまで確率論だ。これといった確証があるわけじゃない。だが、この写真から見る状況証拠から見て、もしかしたらって”仮説”は増えるだろうさ。……今言ったのは、そのうちの一つ、しかも、割と可能性として高いほうの仮説だ」


「だとしても……一体どこの誰が?」


「それがわからないように、こんな装備体系になってるんだろ。さっき言ったのもう忘れたか?」


「あー……そうか」


 それもそうだ。わかるような装備をしないためのこの混成体系だ。

 しかし、それでも一つだけ誤魔化せないのが……


「……でもこれ、明らかに白人ですよね?」


 ユイが言った、この肌色の事である。


「まあ、確かにな……ハーフだとかって可能性は十分あるが、確率的には低いだろうな。第一、そんなハーフな連中を特殊部隊染みたところに入れるかって話にもなるし」


「アジア系かどこかのテロ組織がそれっぽく……って説はないか」


「ないだろうな。こんな豪華な装備品はテロリスト連中にはまとめられない。複製する技術もあるなんて話も聞かないし、もっぱらとっかの国の組織の秘密軍事機関だろうが、そういったところにハーフ入れるなんてバカは今時どこにもいねえよ。機密に関わるだろうし、たぶんどっかの機関の人間……」


「しかも、欧米系?」


「と、俺は予測してる。……でもどこの人間だろうな? ごちゃ混ぜな装備体系のせいで全然検討が付かないが……」


 そういって和弥は再び写真を凝視した。複数枚ある写真を交互に見ながら「ん~……」と声をうならせている。写真から得られる情報は少ないが、その中で、何かヒントになりそうなものを探し出そうと必死だ。

 その間、新澤さんとユイは持ってきた飯を揃えて誰が何を食べるか簡単に振り分けていた。事前にこうしておくことで、あと何がどれくらい必要かを割り出すのである。二人で十分そうなので、俺はそっちにはいかず、和弥のその写真を凝視する様を何もせず見るだけとなった。


 ……しかし、ついに耐え切れなくなったのか、


「……しゃーない。祥樹、そこに連れてけ」


 端的に、かつ投げやりにだが、そう言い放った。


「え゛、おいおい今からか? 確かに、そろそろ近所の地形把握がてら哨戒して回ろうかと思ってはいたが……」


「さすがに今からとは言ってねえよ。次に近くを哨戒するにはいつだ?」


「えっと……2、3日後くらいかな。もしかしたらずれるかもしんねえ」


 あえて若干ぼかした。先の羽鳥さんの話を思い出したからだ。本当は3日後に近くを通る予定を立てていたのだが、適当にぼかしを入れて曖昧にした。極端に間違ったことは言っていないので、それで何とか納得してくれと願った。


「オッケー。2、3日後だな。その時にちょっと見せてもらおうか」


 よかった。これ以上は言ってこなかった。


「ああ。ただし、この件は無線で誰にも話すなよ? 不確定情報が満載だから、まだ簡単に向こうに伝えるわけにはいかない」


「そらそうだ。疑惑が正しいなら、たぶん無線盗聴ぐらいはしてるはずだぜ。言われてもするか」


 和弥の言う通りである。和弥の言った"仮説"が正しいのだとしたら、相手は機密性の高い軍事的な組織か、若しくは諜報機関ということになる。そういった組織はこっちの無線を盗聴しているだろう。簡単にされるのはマズイが、ないと言い切れない。この件は、直前まで本部はもちろん、味方の部隊にすら伏せておく必要がある。

 それに、考えてみれば写真より現物を見てもらったほうが確かに色々とわかっていいだろう。あまり放置していると誰かに見つかって回収されるかもしれない。そう考えた俺は和弥の提案を了承した。ついでに、そろそろ昼になるため、点を二人に預け、二人が振り分け終えた飯の自分の今日の分を取って、口にガツガツと入れ始めた……。






 ―――その3日後である。拠点を構えた状態での情報収集活動の折り返しの日に、俺は和弥を連れて哨戒と地形把握がてら再度例の現場に舞い戻った。


「―――あぁ、あったぜ、これだ」


 軽く周辺を地形把握がてら哨戒した後、先ほどの銃撃現場へと舞い戻った。幸いなことに回収などはされておらず、最後に見たときそのままの状態で維持されていた。人もあまり通りそうにない場所のため、そもそも見つからなかったのだろう。

 和弥による“実況見分”が即座に行われた。和弥はすぐに、その装備体系を見てみるが……。


「……こりゃ本物だな。材質が若干違う。サバゲーにあるようなもんじゃない」


「わかるのか?」


「サバゲーの装備を基にしたなら、大体触った感じでわかる。俺も昔サバゲーしてたし」


 そういえばそうだった。すっかり忘れていたが、コイツも昔は俺と一緒にサバゲーを嗜んでいた身である。だが、今でもその時身に着けるものの感触を覚えているのか。


「テロリストがそういうのを揃えるなら間違いなくサバゲーからだろうが、これはそれとは違うな。ほぼ間違いなく本物の奴だ」


「じゃあ、他の装備も?」


「たぶん同じだな。このニットもそうだが、このAKS-74UNなんてロシアですら悪用恐れてあまり流出させてないし、してもごく少数だ。……どうやって手に入れたやら……」


 そんな疑問を和弥はこぼした。ロシアの場合、テープ型爆薬が流出したって前科は確かにあるのだが、あれだって旧式のものだった。これは場合によっては今でも使われることがある銃火器で、旧式化はしたものの、未だに一部の特殊部隊では使われてる噂すらあるのだ。

 簡単に流されて、性能を確かめられたりでもしたら安全保障的に見てもあんまりよろしくない。それに、アメリカをはじめとする旧西側諸国からも嫌味に似た非難を浴びるだろう。ロシアがそんなことをされたいマゾか何かとは思えない。


「どれ、他に何かないかな~……」


「おいおい、あんまり荒らすなよ……?」


 和弥はさらに、ポケットなどを調べてそれっぽい何かがないかを探し始めた。あんまり荒らさないよう忠告はしたものの、こんな状況でそれを咎める人間もいないため、強く注意する気はなかった。

 ……すると、即行で、


「……なんだこれ、化粧用具か?」


 手のひらに乗るサイズの化粧用具を発見した。中には、ファンデーションなどの肌色を調整する道具一式が小型化されて取り揃えられていた。結構使い込んでいるのか、パウダーの量は少ない。


「なるほど、これで有色人種に化けていたか」


「だろうな。だが、軍用とはまた違う。市販の奴の流用のようだな。というか、これ女性用じゃないか?」


「知らん、そんなのは俺の管轄外だ」


 俺が女性だったならばわかったかもしれないが、生憎俺は男である。


「……おっと、これは……」


 さらに適当にポケットを漁ると、和弥が何やら板っぽい何かを取り出した。その正体に、和弥の顔が自然とにやける。


「こりゃあありがてぇ……タブレット型情報端末だ」


「スマホに似てるな。いや、似せてるのか?」


「たぶんな。大方本部や友軍との情報交換などに使われてたんだろう。幸いこいつは未だ生きてるらしい。どれ、中に何か入ってないかなー……、ん? あ、あれ?」


 即行で中身を見ようと電源を入れたが、出てきたのはパスワードの入力を求める英語の警告メッセージだった。まあ、さすがに暗号ロックなしの無防備状態で持ち歩きはしなかったか。しかし、和弥は少し残念そうだった。


「ちぇ、何か情報見れるかと思ったのに……」


「だが、この英語でメッセージが出てきたってのが気になるな。わざわざ他国の言語を使うやつもいないだろうし」


「ああ。まあ、万一の時にってことでそういう偽装をする可能性はあるが……一般的じゃないだろうな。少なくとも、中東方面はないだろう」


「あと、ロシアもな。ロシア人って英語好きだっけか?」


「いやぁ、そんな情報は聞いたことねえな。幾らロシアっつったって、こういうのは基本的にキリル文字使うだろ」


 だろうな。そんな返しをしながら、和弥の端末を操作する手元を見る。どうやら適当に数字を入力して暗号ロックを解除しようと試みているようだが、当然解除はされず。英語で『パスワードが違います』的な警告メッセージが出るだけだった。


「ちぇ、ダメか。……これは帰ったら解析してもらうとするか」


「だな。だが、これで一つ分かったのは……コイツは、テロリストじゃねえってことだな」


「ああ、同感だ。テロリストがこんなん持ってるとも思えんし、スマホにしては形が見たことないタイプの奴だ」


 和弥とこの部分は意見が一致した。テロリストならここまで高度な情報端末は持っていないはずだ。持っているなら、今まででも回収できているはず。それに、スマホにしてはメーカー名やブランド名が刻まれていない。消された形跡もなかった。そういった点から、少なくとも市場で流れているものではないだろうというのが、俺と和弥の見解だった。


「おそらく“オリジナル”だな。本部にいい土産が出来そうだ」


「お前にとってそれは土産なのか……」


 土産にしては嫌な情報しか渡しそうにないが……。


「しかし、コイツも焦ったな。こんな大事なもん持ってるのに殺されちまうとは。さっさと逃げればよかったものを」


 和弥がそう端末をニンマリとした顔で見ながらそういった。確かに、それほど重要そうなものを持っていてあんな行動に出たのは、今考えてみれば迂闊であっただろう。


「なんで攻撃してきたんだろうな? 逃げても良かったはずなのに」


「おそらく、自分らの姿を見られたくなかったんだろう。見られたからには、始末しなきゃならんって任務の方針でもあったんだろうぜ。仮に逃げたところで、お前は生きる。すると、俺等にこのことを報告するだろ?」


「まあ、目の前でしっかり見ちまったしな」


「な? だから、それを恐れたんだろう。となれば、コイツらの目的も大体読めてくる……」


 そういって和弥は端末をじぃ~っと表情を変えずに見つめた。和弥の言いたいことは大体わかる。俺たちの知らないところで、秘密裏に達成したい目的がある。だからこそ、俺やユイに見られたのが非常にまずかったのだ。……そうすれば、慌ててでも殺そうとした理由はつく。


「どういう任務方針を持ったらそうなるのか……気にならないか?」


「あまり関わりたくないってのが本心だな」


「まあ、そういうなよ。……しかし、持ち帰ったら楽しみだな。この中に何が入っているか―――」


 そう言いながら、立ち上がろうとした時であった。



ヒュンッ



「―――うぉ!? な、何だ今の!?」


「ッ!?」


 一瞬、「パァンッ」と乾いた発砲音がしたと思ったら、和弥が、立ち上がろうと若干頭を下げたと同時に、まさにそこを何かが高速で通っていった。


 そして次の瞬間には、



  ガキィン



 その先のコンクリートに、何かが当たった音が響く。若干へこんでいるのが見えた。あの威力、ただの“銃弾”じゃない。

 着弾位置から逆算して、何かを飛ばしたであろう“発砲先”を見る。すると、運よく視線の先にあった建物の屋上に、小さく人影が見えた。だが、伏せている。


 あの姿勢は―――



 ―――間違いなかった。次の瞬間には、



「逃げろ! “スナイパー”だ!」



 そう叫んで、近くの路地へと和弥を引っ張って逃げ込んでいた。


 相手は続けざまに2発の狙撃を行ったが、こちらが不意に動いたことで照準がズレたのか、幸い命中はしなかった。スナイパーの死角に入り込み、銃撃が収まったことを確認してもう一度その発砲先を見ると、先ほどまであった影はなかった。


 ……狙撃が失敗したとみて、逃げたのだろう。


「ふぃぃ……危なかったぜ」


「死ぬところだったな……怪我は?」


「問題ない。そっちは?」


「五体満足だ。かすり傷一つねえ」


「ハハハ、俺等、悪運だけは強いな」


「まったくだ」


 こんな悪運要らないんだがな、と言いたかった。また、しっかりとその情報端末だけは確保しておいた。


「へ、バカな野郎だぜ。仮に狙撃するんなら俺の持ってるこれを狙えばよかったものを」


「お前を殺せば、持ってる意味もなくなるだろうって思ったんだろうな。あとは端末を取ろうとした俺もさっさと潰せば御の字だ」


「優先順位を取り間違えんなって話だ。……しかし、厄介だな。待ち伏せしてやがったか」


「待ち伏せ……」


 俺たちがここに来るのを狙っていたってことだろうか。『犯人は現場に戻ってくる』とはよく言うが、それを似たような形であろうと、和弥は推測した。


「死体を放置しているのを見て、また確認しに来るだろうと見たんだろうな。それで、本当に取られてはマズイ”端末が示す情報”を持ち帰らせる前に、狙撃してしまおうって魂胆だったんだ」


「だが、ならなぜさっさと撃たなかったんだ? 今まで撃つタイミングあったと思うが」


「おそらく、俺たちが二人いたもんだから狙いに慎重になったんだろう。一人なら、まず適当にどこかを撃って動けなくした後とどめを刺すってことはできるだろうが、二人だとそうもいかん。場合によっては片方に逃げられ、その情報も彼が持ち帰る可能性がある」


「即座に二人を仕留めるために、狙いを定め過ぎた……てか?」


「だな。んで、俺が端末を見つけて、いよいよマズイってなった時、俺とお前の立ち位置が固まった隙をついて銃撃したが……」


「……外れた、と?」


 和弥はこくりと頷いた。慎重に慎重になりすぎた、というところだろうか。ある意味、相手が相手で俺らは助かったのかもしれない。


「とりあえず、スナイパーがいるのはマジらしいから援軍呼ぼう。誰かいたっけ?」


「近くにユイさんいたはずだぞ。予定なら、今頃近くのコンビニで足りなくなった飯持ってきてるはずだ」


「ああ、そうだったな」


 最初の日のうちに必要分持ってきたつもりだったのだが、割と皆食べる量が多すぎて、結局この日もさっさと確保しに行かざるを得なくなったという顛末が背景にある。読みが甘かったか。


「な? 俺が食べ過ぎててよかったろ?」


「お前そんなに食ってたらそのうち太るぞ……」


 しかし、皮肉なことに、状況的には確かに今はそんなことになってよかったのはある。

 とりあえず、俺は無線を使って、食糧調達のために近くのコンビニに来ているはずのユイに救援を求めた。今は単独でいるはずだが、合流した後は荷物は和弥に持ってもらい、ユイに拠点に戻るまでのスナイパーの監視をしてもらおう。

 無線で了承の返答を貰うと、向こうが来るまでの間、俺等はここで暇をさせてもらうこととなる。


「しかし、アイツ、屋上にいやがったぞ……UAVは一体何を見てたんだ?」


 俺は思わず愚痴を吐いた。屋上に敵がいるなら、何かしらの情報を送っても良かったはずである。だが、何もなかった。あそこに敵がいないと上空から確認できていたのである。


「UAVにバレずに屋上で潜んでいるってことか……何らかの”テクノロジー”を使ったな。おそらく、屋上の地面の模様や色彩に擬態したのだろう」


「だが、どうやって擬態するんだ? 最近話題の光学迷彩か?」


「それしか考えられない。UAVは基本映像識別だし、最近の光学迷彩は赤外線にもあんまり反応しにくいタイプのができている。うまくやればバレないはずだ」


「だが、あれってまだ試験段階の奴ばっかで、それも試験用の布タイプだろ? まさか、狙撃姿勢してる時にそれを上からかぶせて隠れてたっていうのか?」


「一応、理論的にはそれが可能となるぜ」


「おいおい……」


 そんなの、米軍とかを含む一部先進国軍しか持っていない筈である。しかも、試験用のやつばかりだ。そんな先進的な装備を持ってこれるってことは……。


「……大体誰か読めてきたぜ。ああいうのはまだ欧米系しかなかったから、よほどやべぇ奴と見た。アメリカか、イギリスか、はたまたさっきのタブレット端末の件から見て英語圏の国の何処かか……」


「まさか、こんな時にCIAとかMI6か? それともどっかの国の特殊部隊か?」


「だったらどうする?」


「俺は死ぬ未来しか見えない」


 こっちは一軍人なのに、相手は諜報機関やら特殊部隊やらの誰かだったって場合は、簡単に勝たせてはくれないだろう。それこそ、欧米系のものだった場合、一体何をどういう理由でやってきたのかも検討が付かないし、簡単に勝たせてくれる条件を与えてくれるとも思えない。


「(……勘弁してくれよ……)」


 何やら、マズイ奴らの仕事に首つっこんでしまったかもしれない。俺はいつもこのパターンだ。状況は別として、何かに手を出すと大抵碌な展開にならない。和弥の言う悪運は、俺にとってはとてつもなく強すぎる要素だ。


「こりゃあ、ガチで後で知らせなアカン展開になってきたぜ……」


 そう和弥が小さく呟いていると、


「何が知らせなアカンので?」


「お、来たか」


 救援で呼んでいたユイのご到着である。背中にはやはりパンパンに膨らんだカバンを背負っていたが、これっぽっちも重そうにしないで軽々と背負っている。まあ、中身は菓子類やら飲料やらなので、そこまで極端に重いというわけではないだろう。


「スナイパーを殺れると聞いて喜んですっ飛んできました」


「殺れるとは言ってねえよ。あと喜んじゃうのかそこ」


「まあまあ。一先ずそういうことですんで、詳しいことは後にして、今は……」


 と、一先ず和弥が荷物を預かろうとした時だった。


「……ん? その手に持ってるのは?」


 俺はユイが何かを手に持っていた。完全に潰さない様、軽く握る感じであったが、その形には見覚えがある。


「ああ、これ、例のヘアクリップです。祥樹さんから貰ったアレ」


「あぁ、あれね。どうしたのそれ。ポケットに入れてたんじゃ……」


「そのポケットがですね……」


 そういって向かって右側の胸ポケットを指した。すると、若干だが穴が開いてしまっている。


「さっきコンビニいったら天井のライトが落ちてきまして。間一髪よけたと思ったらギリギリここ削ったんですよ」


「うわぉ。ものくっそ危ないなユイさんや」


「いやもうほんと。危うくモザイクかかるぐらいには」


「ハッハッハ。うまいこと言いなさる」


「何言ってだコイツは」


 そのモザイクは一体どういう意味なのか。大体予測がつかないでもないが、そんな危険は確かに要らないのでさっさと排除するべきだろうな。できるか知らんが。

 しかし、コイツこんなちょっとアブナイ話をするような奴だったかね……と思ったが、あのアクティブな性格な上、そういう話に鈍感なコイツならここら辺のジョークもでてくるだろうか。今までそんなん一度も聞いたことなかったが。


「とりあえず、そういうことなら俺が持っておくよ。ほら、貸しな」


「あぁ、すいません。助かります」


 そういうことで、一先ずは俺が預かっておくことにした。ユイにはスナイパーの警戒に当たってもらわねばならないし、どうやら代わりに入れておく空きポケットもないようなら俺が一時的に預かっておくのがセオリーである。ポケットの空きなら後でいくらでも作れる。

 何より、たかだか一つのお守りがてらのヘアクリップのために、片手を潰すような暇もないだろう。そういうことで、俺が代わりにあずかることにした。


 ……とはいえ、こうして間近で見るのは結構久しぶりである。最後に見たのはいつだったか。ヘリでユイが手に持ってお祈りしてる時ぐらいだったか。


「しかし、こうして手に持つと久しぶりだn―――」


 そういってヘアクリップを見ていると、


「―――ん?」


 ふと、あることに気が付いた。それは、普通なら“ありえない事”であったが……


「……」


 数秒考えた後、


「……なるほど、そういうことか」


 俺は、ある種の結論を導き出した。

 同時に、隣でユイから託されたカバンを「よっしょい」と背負い込む和弥を見て、


「……和弥」


「あん?」



 一言だけ、俺は声にする。




「……最終日、ちょっと寄り道するかもしんない」


「は?」




 念のため、そう和弥に“忠告”した…………

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