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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
序章 ~遭逢~
12/181

出会い5

「……お、なんだ。もういいのか?」


 俺が団長のもとに戻ると、いつの間にかコーヒータイムに浸っていた団長が立ち上がりつつ言った。

 もうすっかり職務を忘れてお気楽モードである。右腕はソファの背もたれに回し、左手に持ってるコーヒーを優雅に嗜んでいる。というか、さっきから異常なまでに上司の部屋で大声でツッコミ叫んでたのだが、何もお咎めないのな。まあ、ありがたいことではあるが。


「ええ、まあ。とりあえず用は済みました」


「そうか。……どうだ、落ち着いたか?」


「ま、まあ……一応は」


 とはいっても、俺も俺でまだ少し苦笑い気味だ。考えてみれば俺も少し落ち着きが全然なかったように思う。反省反省。


「あー、すいません、少しびっくりしてしまいまして。ハハ……」


「いや、なに、気にするな。……俺も、お前ほどではないが最初なあんな感じだったからな」


「はぁ……」


 あんな感じねぇ。なに、実際に向こうに行って動作試験を見た時に質問攻めでもしたのだろうか? それこそ俺みたいに若干信じられないといった感情を表に出しつつ。あんまり想像できないな。

 何の試験をしていたのかは知らんが、大方、他のロボットみたいに歩行などの基本動作から銃を持った戦闘行動など幅広くやっていたのだろう。今どきのロボットもアクチュエータの進化で人間並みにスムーズに動けるようになったとはいえ、コイツの場合はそれらをすべてあの細い腕関節に収めてしまっている。だから、こうして驚いているともいえる。


 ……しかしまあ、


「ふむ……」


 俺はまた右に視線を向けた。

 もちろん、彼女の事である。


 今度の俺の視線は今までのやつとは違った。口元を山の形にし、興味津々な感じで見ていた。

 面白いもんだ。さっきまで異常なまでに驚いていたというのに、今になっては個人的な興味の対象になってしまった。人間慣れる生き物だとはよくいうが、我ながら慣れるのが早いなとも思う。

 あれだけ言ってはいたが、やはり冷静になって考えれば彼女はとてもすごい存在なのだ。まさに、日本の技術の結晶。人類が成し得た一つの夢だ。


 そのあとも少しの間全体を見渡したが、やはりロボットらしい特徴は見つからなかった。この間も彼女はピクリとも動かず呼吸している。この呼吸にいったい何の意味があるのか知らんが、とにかく、彼女は人間そのものだった。

 顔も、特にこれといった感情を表していない素朴な表情と視線を向けていた。中々可愛らしい。ロボットという事実を除けば間違いなくモテるであろう美少女だ。まあ、除かなくてもモテるだろうが。


 俺はその顔を見て思わず鼻でクスッと笑い、軽く頭をかいた。


「はぁ……、すげえなぁ、お前も」


「?」


 何のことを言ってるのか理解できなかったのだろうか、少し疑問形の顔をして首を傾げた。

 疑問を持った時の動作がさっきからワンパターンなのも、なんとなくロボットらしい。初期入力されたレスポンスパターンのせいなのだろうが、これも学習によって変わるのだろう。まさか、爺さんの言っていた学習がこれのことだとは思わなかった。SF映画にありがちな無機質会話がなされるのかと思ったが、どうやら返答内容に限った話ではないらしい。


 そんなことを考えて、また一つ思い出した。


「……そういえば爺さん、聞き忘れてたけど、この首筋のポートってどうやってつけてんだ? 自分でも端末つけるには不向きだっていってただろ?」


 ここでいってるのはもちろんさっきこいつが見せてくれた右首筋の端末のことだ。

 今はふちがしっかり密閉されているのでよく目を凝らさないと見えないうえ、そもそも今は衣服に若干かぶさっているので全然目立たない。普通は誰も注意して見ないところだから見つかることはほぼないだろう。


 爺さんも思い出したように何度か相槌を打った。


「あぁ、それのう。実はポート自体は中に収納してるんじゃ」


「え? 収納?」


 爺さんが説明する。どうやら、簡単に言えば外部皮膚と内部機器の間に衝撃吸収剤の装填のために少し隙間を開けているらしく、その間をゴム製チューブでつないでその中でポートを行き来させることで、首の柔軟性を維持しているらしい。

 つまり、使わないときは首のより中寄り(といっても首に搭載されるアクチュエータの邪魔にならない程度に)のほうにしまって首を動きやすくさせ、使うときはせり出すのだそうだ。

 そして、チューブ自体もが柔らかい上その周辺の衝撃吸収剤もより柔らかい素材でできているため、多少首の態勢が崩れていてもすぐにチューブを通じて端末カバーが動いて開口位置を勝手に調節できるのだという。

 例えれば、力なく垂れたゴム管に固い棒を突っ込ませるとピンッと張るようなものだ。あれをイメージしてくれれば大方わかると思う。


 とはいえ、そのUSBポートをせり出す時は、多少は融通は利くが首自体は自由な動きがあまりできななくなるらしい。そういった制約を課す前にほかのところに置けよと思ったが、やはり最初に言ったようにそこしかなかったようだ。それに、設計上そこにあったほうが都合がいいらしく、そのためにUSBポート自体は折りたたんでコンパクトにまとめれるような仕様にしたらしい。まあ、そこら辺は専門に任せるしかない。


 俺はその説明を聞いていたく感心した。


「(はっはぁ~、これは中々面白い発想だな……)」


 ロボット工学を学んでいた俺としては中々興味深い着眼点だった。中にしまう、という発想は少し俺の頭にはなかった。

 同時に、こういう説明を聞いているうちにこいつに異常な興味の実感を持ち始めた。異常、というと変な勘違いが起きそうだが、間違いない。これは、ある種“異常”である。


「……んで、お前はいつまで彼女をジロジロ見てるつもりだ?」


 それは、そんな忠告を団長にされるまで俺が夢中になって自分がやってることに気が付かないところからもうかがえた。

 気が付けば、横から肩を回してツーショット写真でも取るときのような馴れ馴れしい態勢である。俺は「ハッ」となってすぐに離れた。なお、この間も向こうは全然声は出さないし何の表情も出さない。そこはやはりロボットである。


 ……ふ~む、


「(……まあ、違和感はあれど、こいつがすごいことに変わりはなし……か)」


 無駄に長く考えたって仕方がない。とりあえず、今はここでの話を終わらせてしまおう。気が付けばもうすぐ1時間経ってまう。せっかくの自由時間だってのにあんまりロスタイムは出したくない。そろそろ眠くなってきた。


 話の矛先は団長に向く。


「それで、団長。こいつってどこ所属になるんです? こんな国家機密級のやつですから、たぶん本部中隊あたり直轄で管理して……、まあ、妥当なところで、普通科でしょうか?」


 妥当なところだろう。本格的な戦闘をさせたいならそっちが一番だ。そんで、どうせ本部中隊直轄で管理することになるのだろう。

 ……となると、機甲科で偵察隊所属の俺は全然関係なくなるわけだが。


「いや、本部中隊直轄というか、団本部自体が管理するのは間違ってないんだが……、普通科ではないな」


「え?」


 団長から否定された。

 普通科がダメとなると、あと本気で戦闘できそうなのと言ったら偵察隊くらいだが、しかし、わざわざ偵察のほうに送り込むのか? それもそれで疑問だ。


「……まあ、それで、話は最初の言った一つ目の件に戻るわけだ」


「?」


 団長がさらに続けた。


「実はな……。彼女を、その新設される部隊のほうに所属させたいと思っている」


「え? ほんとですか?」


「あぁ。その新設される部隊もいくつかの小部隊に分派されるんだが、その一つに彼女を採用させる。そこで、彼女自身の戦闘用ロボットとしての試験データを回収する計画だ」


「はぁ~あ……」


 なるほどね。それで一つ目の部隊新設の件につながるわけか。

 そこで彼女を試験的に採用、と。確か、試験期間は半年だったか。その間はそこでいろいろと……、


 ……あれ?


「……え、でも、ちょっと待ってください。その一つ目の件ででた話題って、俺が隊長になる云々も入ってましたよね?」


「あぁ、そうだな」


「―――? これと一体何が繋がって……」


 と、そこまで考えた時、


「―――ッ! あッ!」


 俺は、ある回答にたどり着く。

 俺が新設部隊の一つの隊長になるという提案。こいつがその新設部隊の一つに配属。

 ……ここから示される答え。おそらく、此れしかないだろう。


「……団長、まさか?」


「ふふ……やっと感づいたか」


 団長があたかも「そう来るのを待ってました」と言わんばかりに面白おかしくニヤリとほくそ笑んだ。俺はその顔で今までの話の全てを察した。


 そして、団はが俺が想像した通りの回答を出した。


「そうだ。実は、もし君がこの新設される部隊の一つの隊長になった時は……、彼女を、“そこに編入しよう”と思う」


「えええッ!?」


 俺は思わずのけ反った。いったい何度目の叫び声だと思ったが、しかし深くは考えない。またそんな余裕がなくなった。


「ほ、ほんとですか!? うちの部隊に!?」


「ああ。実戦的なデータがほしいということで一応それに合わせれるような部隊がよかったんだが、とはいってもいきなり大所帯でいく普通科とかに行かせたらチームワーク等々の面でまだ課題があることも言われていたんだ。それで、まず段階的にということで、少数人数が予定されるこの部隊に配属させるという話まではあった。しかし、少数人数とはいえロボットという異質な存在を比較的簡単に受け入れられそうな奴らがあんまりいなくてな……」


「そ、それで最初適性云々って……」


「そうだ。そういう意味“も”ある」


「も?」


「そうだ、“も”だ」


 俺はその「も」という一言に少し疑問を感じたが、最初、二つ目の件の話題に入った時の「素質や適性云々の問題」という団長の言葉を今ここで思い知った。

 そして、俺だけにしか頼めないというのも、つまりはそういうことで……、あれ、じゃあ残りのメンバーっていったいどこから……?


「そこなんだがな、実は、もう簡単に案として部隊内の配属メンバーの一覧はできてるんだ」


「え、そうなんですか?」


「あぁ。んで、お前がもし隊長になってくれるなら、お前の受け持つ部隊はお前を含めて4人で構成されることになる」


「4人って、これまた、結構少ないですね」


「そこは彼女が肩代わりで負担する形となる。この戦闘用ロボットの試験は、彼女だけで残りの兵士分の戦闘負担を受け持つことも兼ねてるからな」


「ははぁ……」


 ということは、こいつだけで数人分受け持つということか? 試験機とはいえ、さすがは戦闘用、といったところか。しかし、やはり内約が気になるところである。


「それでだ。こういう少数人数では互いのチームワークも求められる。だから、関係のいい奴同士で、かつ能力自体も申し分ないやつで構成したんだが……」


「それで、俺と彼女以外にだれが入るかもしれないんですか?」


「うむ……。まだ本人たちに相談させてないから変わる可能性もあるが……、一応はお前ら二人と」




「斯波伍長、そして副隊長として新澤軍曹を入れるつもりだ」




「え!? あ、あの二人を!?」


「うむ。こっちでしっかり厳選させた結果、そう判断した。もちろん、変わる可能性も十分あるが」


「うはぁ……」


 思わず何とも言えない苦笑いが起きる。まったくもって、意外なメンバーがやってきたもんだ。あの二人、ロボット関連で俺ほどの接点ないはずだが……。あ、和弥は俺と同じロボット工学専攻してたからまだわかるか。


 しかし、すんげぇ内約だなおい。いろいろと異色すぎないか俺の部隊。


「……さらにだ」


「?」


 団長の説明はまだ終わらない。

 最後の話題に、こんなことを切り出される。


「……もしそうなった場合、彼女を部隊内で管理することも想定されている」


「ぶ、部隊内で?」


「そうだ。団本部での管理に協力してもらうことになる。元々人とのコミュニケーションによるAI負担の試験も兼ねてるから、こういう部隊の中に放り込んでみたほうが効率いいと考えてるんだが……」


「が……、なんです?」


「うむ……。そうはいっても、一応は誰かそばについていないといけないと思ってな。まぁ、早い話、お目付け役ってやつだ。何か不具合とか起きた時とか、何らかの不明な点が彼女から発せられた時の対処役だな」


「ほぼ保護者じゃないですか」


「そうともいう」


「ふむ……」


 しかし、今後のことを考えると確かに必要ではあるだろう。

 アイツはあくまでロボット。しかも試作機だ。何か不具合等があった時すぐに対応できる人間が誰かいないとマズイ。そして、それの対処は一応部隊内の奴にしてもらったほうが望ましい、と。


 ……ほほう、んで、それとこれまでの話の関係性は? なに、俺が選べってか? ほかのあの二人もこういうのに慣れてるイメージないんだが。こうなったら和弥に押し付けちまおうか。


「……そんで、話は二つ目の“頼み事”に繋がるわけだが……」


「……え?」


 忘れたころにこの話題が再び思い起こされる。いきなりの話題でどういうことなのかと思考をめぐらしていると、団長がかまわず続けた。


「……一応、誰がいいかはこっちで既に考えてるんだ」


「え?」


 なんだ、もう決まってんのか。そこら辺までそっちで考えたとか、お疲れさんです。


「それで、いったい誰に頼むつもりなんです?」


「あぁ……」


 団長は一瞬だけ間を置いた。

 そして、隣にいる爺さんと目で会釈し、口をにんまりとさせる。


 その時は、俺自身は何ら意味を察することができなかったが……、


「……こっちで考えた結果、一番あてにできそうなのは……」


 ……考えてみれば、ここまでヒントを出されて何にも正解を察せれない俺も相当鈍感なのかもしれない。


「その、彼女のお目付け役を……」


 団長は目線を移して言った。


 ……誰でもない。




「お前に頼みたい。“篠山曹長”」




 そう、“俺自身”に向けて。



「……は?」


 俺は相手が団長だということも忘れて馴れ馴れしく喉の奥からそう聞き返してしまった。同時に頭を真っ白にして「ポカーン」と呆然としてしまう。

 しかし、相手の団長は何とも言わない。ただただにやけ顔を俺に向けるだけだった。それも、爺さんと同じくTVのバラエティ番組を見ている時のように面白おかしく。


 ……えっと……、


「……すいません。もう一度いいですか?」


「お前年寄りでもないくせに耳が遠いのか?」


「いえ、そういうわけではて、念のための確認をと……」


「そうか……。まあいい、もう一度言うぞ? ……だから」





「おまえにお目付け役を……」


「えぇ!? お、俺がこいつのお目付け役をォ!?」


「うわぁい!?」





 思いっきり団長に失礼な口調をしてしまった気がする。しかし、俺の脳内にはそれによる理性は働かない。

 びっくりもする。相手は国家機密級の戦闘兵器だ。明らかに俺みたいな一介な下士官軍人が担当するような代物ではない。どう考えても上の連中が責任をもって監視するべきもののはずだ。しかし、その上の連中からのご指名がまさかの、俺である。


 ……ハハハ。ウソだろ?


 俺はそんな呆れかえってるのか苦笑なのか、自分でも意味がわからない笑いを喉の奥から出した後、今度はクソ真面目な声で聴いた。


「……マジですか?」


「あ、ああ……。というか、ぶっちゃけたこと言うとだな。お目付け役というか、もう役目の中身の性質上……」





「……実質“相棒”だな。こいつの」


「ええぇぇぇええええ!!??」


「ぬぁ!? そ、そんなに驚くことか!?」


「いやそりゃ驚きますよ! 相手は国家機密ですよ!?」


「そ、それはそうだが……」




 しかし、団長の顔は一介して変わらない。「そこまで驚くなよ」と疑問に持った顔だった。一発殴らせろお前。

 よく考えてくれ。俺がコイツのお目付け役の相棒になるということは、日常生活でのサポート全面支援、部隊配備にい寄って同行動は当たり前、そして、それ以外でも俺はコイツの面倒を見ることになって……、



 ……ハハハハハハハハ。



「(……やっべえ俺とんでもない任務まかされたかもしんねえ)」


 どう考えても俺がやっていい任務じゃなかった。

 俺の人生23年。ロボット工学を専攻してて他よりは詳しいというだけで、まさかこんな国家機密の塊を預けられるとは思わなかった。そうだ。こいつは国家機密の塊なのだ。海軍の軍艦のCICの中とか内閣危機管理センターの中なんて屁でもない。見た目はただの若い女性。中身は機械。それが、彼女なのだ。


 俺の肩の力が違う意味で思わずガクッ抜けた。目の焦点が合わず呆けてしまい、口を開けて思わず呆然自失。


 ……あぁ、そうか。もう一つ思い出した。

 俺は大きなため息をついた。


「……なるほど。最初“彼の意向”って言ってましたけど……、そうか、これ、つまり“爺さんの推薦”ってことですね?」


「やっとわかったか」


 団長が爺さんと共に「してやったり」と口元をにんまりさせる。

 最初っから、あの時からすでにつながってたのか。はっはぁ、こりゃ参った。

 爺さんついでに言えば、さっきあそこの隅で言ってた時、吊り橋効果云々の話の最後に「今にわかる」って言った意味って……。ははは、何考えてんだかあの爺さん。ロボット相手に何を言っているのやら。アニメや漫画じゃあるまいし。


 そんな感じでヤレヤレといった感じで頭を軽く抱えて小さなため息をついていると、団長が話を戻した。


「まあ、とにかくだ。これは、こっちのほうで君が一番だと判断した結果だ。君はかつて中高と通じてロボット工学の勉学に励んでいたな?」


「ええ、そうですが……」


「なんて言ったっけか……。東北にあって、結構な名門だと聞いていたが……」


「『国立海桜学院工科大学付属中・高等学校』。青森中心地にあるロボット工学・情報処理工学の最先端の専門校ですよ。中高一貫校の」


「あぁ、そうそう。それだったな。確か、ロボット工学日本一、二を争う超名門校だったか」


「まぁ、そうですね」


 団長が思い出したように相槌を打つ。


 『国立海桜かいおう学院工科大学付属中・高等学校』

 青森県中心地にある併設型の中高一貫校で、世間では珍しく専門学校に値する学校だ。中学時代からその工学関連にも軽く手を触れ、高校からはそのロボット工学、及び半ばついでで情報処理系工学をも重点的に学習できる類まれな性質を持つ学校で、今の日本最先端のロボット工学を学ぶことができる。


 なので、ロボット工学に関しては結構な知識を蓄えているし、関連資格も結構とっている。そこらへんの素人には負けない自信がある。


 おそらく、団長としては、そういった専門分野に詳しい俺に保護を頼みたいというところなのだろう。まあ、理にはかなっている。

 ロボット工学に詳しいやつとしては、他にもここの卒業者の和弥もいるが、まあ、そこは適性とかの問題なのだろう。


 相槌を打っていた団長が続けた。少し真面目な顔に戻る。


「恥ずかしい話、お前以外にそういった知識面や性格面でほかにあてにできそうな奴がいなくてな……。どうだ、やってくれるか?」


「俺に……ですか?」


「あぁ、お前にだ」


「……」


 俺は少し戸惑いつつも、隣にいた彼女に視線を向けた。

 さっきから何にも言葉を発さずこの会話の流れを見届けていた彼女。俺の視線に気づいて細く微笑んでいた。

 この可愛らしい笑顔からは、その国家機密級の塊の雰囲気など微塵にも感じられない。しかし、だからこそ国家機密なのかもしれない。国家機密の塊だからこそ、なせる“技”なのかもしれない。


 そして、俺はそれのお目付け役という名の実質“相棒”を組まされるということは、事実上今後はこいつとつきっきりでってことで……。


「……ハハハ」


 俺はそう思うと少し笑いだしてしまった。

 団長がここぞとばかりに問い詰める。


「どうだ? やってくれるか?」


 俺はそれに対して少し微笑気味の苦笑で答えた。


「……まぁ、ここまでされては……ねぇ……」


 その一言に団長は「そうくると思っていたよ」と言わんばかりの安心した眼で返した。

 隣にいた爺さんにとっても、思った通りの回答だったらしい。それに対して互いに目で会釈した後微笑んで返してくれた。最初からグルだったなこいつらめ。


 ……ああ、そうだよ。こいつはロボットで国家機密級。俺なんかが扱うにはとんでもなく高価な代物だ。様々な意味でだ。


 だが、同時に俺は“頼られた”んだ。


 お前しかいないって頼られたんだ。それに、これは俺にとって昔っからの夢を兼ねるチャンスだ。

 この、おそらく一度あるかないかのチャンスをものにしない手はない。もちろん、ただの軽い気持ちで当たるつもりはない。任務は任務。しっかり機密を守って彼女のサポートを心身にやっていかなければならない。


 ……だが、それと同時に、このチャンスを俺はぜひとも手にしたかった。


 昔からの夢だった。こういう、人間そっくりのロボットと仲良くなってこれから過ごす時を共にすることが。ロボットと友達になったら何してやろうとか、そんな小さい子供が持ちそうな夢を、その昔の俺自身が小さい子供の時からこれっぽっちも失わずに持ち続けてきた。俺自身も、変なところで子供っぽいところがあるのかもしれない。


 夢をかなえるチャンスは、“今”しかない。


 しかも、これ、よくよく考えたら“世界初”だろう。


 SFにあるような、完全自律思考の、人間の手が一切加えられてない“人間並みの思考”を持ったロボットと関係持つ人間は、開発関係者以外では“俺が初めて”のはずだ。

 名誉じゃないか。俺が直々にご指名を受けたんだ。というか、政府ってここいら辺まで認可するのだろうか? もし仮にしてたとしたら、そりゃもうそっちはそっちで適切に審査するであろう政府からもご指名の認可を受けたわけで……。


 ……はぁ~、こりゃプレッシャーもあるがそれ以上に喜びが勝っているな。歓喜ものだろうこれは。拡声器がここにあったら喜び爆発させてそれに叫んで音が回ると思うと思う。近所迷惑など知ったことか。倍率がとても高い抽選当たった時のような歓びが今まさに俺の中で出所を探し求めて疼いている。どこかで発散しないといけない。


 興奮のあまり中々うまく落ち着けない中、団長はさらに聞いた。


「では、隊長の件も?」


 俺は軽く首を振りながら苦笑いで返した。


「……ええ、わかりました。……ここまで準備されたら、こっちとてさすがに引き返せませんしね」


 団長もそれに納得するように微笑んだ。

 団長たちのことだ。ここまで準備してるってことは、最初っから俺にやらせる気満々だったのだろう。そういう話前提でなければ、俺が何も言ってない、というか話すらちょっとしか聞いてない時点でここまで準備はしない。

 鼻っから俺にやらせるつもりだったんだ。こりゃ、言い方は悪いが一種の“嵌められた”というやつなのだろう。

 しかし、ここまで準備万端で待ち受けられては俺とて引き返すわけにはいかない。事実、多方面からご指名受けている。確かに、任務としては重要な新設部隊の一部隊の隊長の件。そして、それに加わる国家機密の塊のお目付け役だ。一応は俺も一介の下士官軍人ゆえ、小規模部隊の隊長ならやる権利はたしかにあるし、お目付け役のほうも、ご指名を受けるくらいだし適性自体はしっかりクリアしてるのだろう。


 ……いいぜ。面白い。やってやろうじゃねえか。


 俺は改めてピシっと気を付けの姿勢をとって、二人を一直線に見据えた。


「……了解しました。篠山洋樹曹長、団長からのご指名である、新設部隊の隊長と“彼女”のお目付け役の任務……」





「謹んで、お引き受けいたします」





「……あぁ、頼む」


 団長も、しっかり気を付けの姿勢で向き合った。その顔は、一つ役割を終えたと言わんばかりのほっとした表情だ。

 爺さんも、やっと一仕事終わったと言わんばかりに団長と同じような、いや、団長より少し大げさに安堵の表情をするとともに、一つ、大きなため息をついた。


 俺はその各々の反応対して同じく安堵のため息を一つつくとともに、隣にいる彼女を見る。


 相変わらず全然話さない彼女だが……、


「(……ロボットと相棒か。中々、面白そうじゃねえか)」


 自分の趣味全開である。ワクテカ感が全然止まらない。ブレーキとかそんなのは知ったことか。そんなもん最初っからなかった。

 人知れずにんまりと口元を微笑ませてしまう。無意識にやってしまうほど、俺は純粋に“うれしかった”。

 ある意味これは憧れていた夢。せっかく与えられたチャンス、しっかりものにしていかなければ。


 ……もちろん、任務は任務で別としてしっかりやりますがね。


 彼女がこっちに顔を向かせてくれた。背丈の関係上少し上目使いとなるが、その目は一直線に躊躇なく俺の目を突き刺す。

 最初とは違って、少し微笑んでいるようにも見える。俺に慣れたのか、それとも、この場の空気に慣れたのか。いや、ロボットに空気に慣れるとかそういう人間独特の感性はさすがにないか?


 互いに目が合う中、俺は嬉しげに微笑んで、


「……よろしくな。互いに」


 そう、一言添えた。


 彼女も喜んでくれたらしい。ニコッと笑顔の表情を見せ、


「はい」


 そう、機嫌よく答えてくれた。

 それを見て、また顔をひと際にんまりさせてしまう。


 案外、さっきのあれをやらかしても変なイメージはついてなかったらしい。てっきり「変なリアクションをかます忙しい奴」とでも思われてるんじゃないかと思ったが、どうやらその心配は杞憂に終わったようだ。一安心なんだかそうでないんだか、まあ、今はこの際細かいことはよそう。

 向き合っていた団長や爺さんも、ほほえましそうに俺たちを見ていた。






 ここに、おそらく世界初であろう、何とも異色な“コンビ”が結成された…………

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