東京23区震度7
【地震速報 08:30
緊急地震速報
東京湾で地震発生。強い揺れに備えてください
(気象庁)】
『緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください』
<緊急地震速報(気象庁)
東京湾で地震 強い揺れに警戒
東京 神奈川 千葉 埼玉 栃木
茨城 群馬 山梨 長野 静岡>
【 NHU地震情報
午前8時29分ごろ関東地方で強い地震がありました
揺れの強かった沿岸部では念のため津波に警戒してください】
【saigai.jp 緊急災害速報@saigaijp_zishin 11月2日
2日08時29分頃、東京都で最大震度7を観測する地震がありました。今後の情報にご注意下さい。
http://www.saigai.jp … #zishin #alert
08:32 - 2030年11月2日】
【■saigai.jp 緊急災害速報さんからのConnecterアラート
saigai.jp 緊急災害速報@saigaijp_zishin 11月2日
2日08時29分頃、東京都で最大震度7を観測する地震がありました。震源地は東京湾北部、M7.7。この地震による津波の心配はありません。
http://www.saigai.jp … #zishin #alert
08:36 - 2030年11月2日】
【官邸防災@kantei_BOUSAI 11月2日
【地震・津波関係】気象庁より、津波に関する注意報等はないことを発表。ただし、若干の海面変動は予測されるため、念のため海岸付近には近づかないこと、また、強い余震にも警戒するよう呼びかけています。
08:40 - 2030年11月2日】
【原子力管理連盟 / NMF @gensiryokukanri 11月2日
【地震関係】東京湾北部での地震に際し、既に全国すべての原発の運用停止を行っています。東京都テロ発生時から続く処置は依然として継続中のため、国民の皆さまは安心して冷静な行動をお願いします。
http://www.nmf.go.jp …
08:42 - 2030年11月2日】
【地震きたあああああああああああああああ!!!@3ch.net(1560)
503 Service Unavailable 】
[AM09:15 東京都 東京臨界広域防災公園全体本部]
度々起きるドでかい余震に揺られながらも、俺たちはどうにかこうにか中央区を脱し、本部まで戻ってきた。うまいことヘリが手配でき、降着地点からはヘリで移動できた。
テロリスト側も、この地震自体は想定外だったのか、どこにも姿が見当たらない。正直、今こそ攻めの時なのだろうが、想定外だったのはこっちも同じだった。本来、軍事の世界に想定外は許されるものではないが、現在、味方は敗走中。そんな状況下で、このタイミング、かつ最悪のケースを想定しろというのも無理な話であるし、仮にしたとて何かすぐに対策できるわけでもなかった。
……進軍中ならまだしも、あくまで“敗走中”なのである。
「新澤さんとユイはメンテと武器点検! 和弥、ちょっと付き合え」
「はいよ」
新澤さんとユイの二人と別れ、報告に戻るために廊下を走って司令部に戻る。ユイのことも話しておかなければならない。
だが、廊下も廊下で、既に多くの陸軍軍人や警察関係者、消防関係者等が慌てた様子で往来を繰り返していた。彼らにとっても、この地震は寝耳に水の事態だったのだ。
その人混みの波をかき分け、何とか司令部にたどり着くと……
「……うわぁお……」
「こりゃあ悲惨な……」
その室内はいろんな意味で“荒れていた”。
震源は東京湾北部という情報だった。ゆえに、ここにもとんでもない揺れが発生したに違いない。幸い天井にあるLEDライトが落ちてくることはなく、室内も大きな損傷はない。だが、その室内に設けていた各種機器は机ごとぶっ倒れ、修正作業が大急ぎで行われていた。
妙に薄暗い……と思ったら、ライトの一部が消えていた。一部のLEDが壊れていたらしい。人手が足りないのか、任務から返ってきた人らの一部はここにいた。その中に、二澤さんも含まれていた。
「二澤さん! 無事でしたか」
「あぁ、篠山か。そっちこそ、けがはなかったようだな」
「ええ。……しかし、7ですか?」
「7だ。しかも震源がここのすぐお隣だとよ。これほど効果的な奇襲攻撃もあるまい」
まったくだ。自然の驚異には限定的にしか対応できないとはいえ、その仕打ちをこのような形で受けるとは思わなかった。神様も意地悪すぎるタイミングで放ったものだ。
とにかく、羽鳥さんに事情報告をする必要があったが、生憎今いないらしい。それまでは、二澤さんの手伝いをしながら、状況を確認することにした。無線は混線しすぎて使い物にならなかったのだ。尤も、その無線を発信する場所であるここがこのありさまでは、無線どころではなかっただろう。
「地震の影響は? もうこっちはボロボロなのはわかりますが」
「粗方把握したようだが、細かい所で真偽性の調査中で、俺らも大雑把にしか知らされていない。少なくとも、東京を中心とした関東一帯は瀕死だな」
「死傷者って出てます?」
「そこもまだわからん。だが、今回のテロを受けて、既に国民は全員指定の避難地域に避難しているはずだ。あそこは地震発生時の避難場所としても使われてるから、案外被害らしい被害はそんなに起きていないかもしれん」
「そういう意味では、テロが起きて“よかった”……てところですか?」
「皮肉な話だな。一番会いたくないテロによって、もう一方の命の危機を救われるとは」
普通、こういう大規模な緊急事態が二つも起きたら、相応の被害は増えていくものなのだが、今回は発生時期がズレていたこともあり、双方でそれぞれ被害が発生するということはどうやら避けられそうだった。テロの事後対応をした結果、実は地震の事前対策にもなっていたとか、これを皮肉と言わずして何と言おうか。
「(地震だけ起きてこんな形になったら、これほどの理想はないんだけどな……)」
尤も、完全なる地震予知でもできん限りはどだい無理な話なのだが。
「よし、これをここに置け。ちゃんと接着しとけよ。また倒れたらやだからな」
「了解。おいっしょ……」
二澤さんに指示されるがまま、机の上に耐震接着マットを敷き、その上にPCのディスプレイを置いた時である。
「―――おぉ、中佐。お疲れさまです」
二澤さんがある方向を向いてそう言った。
視線の先には羽鳥さんがいた。相当急いできたらしい。息が若干荒い。
「ああ、3人とも。無事だったか」
「ええ。中佐も?」
「ああ。まったく、悪運だけは強いんだ俺は……」
そんなん初耳ですよ。と、二澤さんは軽くのたまいながら落ちていたパソコンのディスプレイを机に乗せる。
俺も、羽鳥さんに作戦の経過を簡単に報告するとともに、あのことも話すことにした。
「羽鳥さん、途中、俺の方と無線が一切通じなくなる時ありませんでした?」
「え? あぁ……新澤と通信中の時だな? ちょうどノイズが走ってたから妙に気になっていたが、あれ故障だったのか?」
「故障だったらよかったんですけどね……」
「……どういうことだ?」
俺は羽鳥さんに事の事情をすべて話した。ユイのことなので周りにはバレないよう小声、かつ遠回りな表現を使いはしたが、大まかに、無線が途切れいきなり“ロボットの本当の親”なる人物が現れたこと、ユイが突然ハッキングらしい電子攻撃を受けたこと、タイミングとそのあとの無線からして、犯人はどうやらこの無線主たる“ロボットの本当の親”らしいこと。そのあとの経過も、簡単に説明した。
……羽鳥さんや、ついでに聞いていた二澤さんにとっては、特に二つ目の電子攻撃についてこれでもかってぐらい驚いていた。周囲の人が驚いて思わず二人を見てしまうぐらいだ。すぐに取り繕って作業に戻りはしたものの……
「……冗談だろ?」
「そうだぞ篠山。彼女のセキュリティ対策は万全なんだ。何かの間違いだったんじゃないか?」
―――という、半分くらい現実から逃避してるんではないかという質問を投げてきた。そうでないというに足りる説明をしたつもりなのだが、伝わらなかったのか、はたまた聞かなかったことにしたのか……。
「わざわざこんな大事なことで嘘言いませんよ。実際、この目で見たんです」
「信じられん……どうやって彼女のセキュリティを攻撃した。というか、そもそもどうやって見つけた?」
「これも、下手すれば例のスパイの関係じゃないですか?」
和弥がさりげなくそれっぽいことを言ってきた。確かに、情報幹部なら、軍内外の情報を一手に引き受けてる。最初は持っていなくても、情報確認と称してユイのセキュリティに関する情報を得ることはできなくはない。
……が、それは羽鳥さんによってあっさりと否定された。
「それはありえない。あの人は特察隊とは無関係の人だ。彼女に関わる人間は限られているし、情報公開も許されていない。仮にするなら、俺か団長あたりの許可を得ねばならんが、俺はもちろん、団長もそのような話は受けていない」
「じゃあ、どっから漏れたんだ……そのあと攻撃の兆候は?」
「先ほども言ったように、ユイとはそのあとすぐに合流できました。電子攻撃自体は一旦離れた際に終わったらしく、セキュリティに関してはすでに対応したって本人は言ってます」
「だったらいいが……」
未だに羽鳥さんは疑い深い表情で小さく首をひねっている。そこに、二澤さんが入ってきた。
「俺たちの邪魔をするな、的なこと言ってきたんだろ? てことは、要はこれは警告で、まだ続けるならもう一回やるぞって意味にもなるんじゃ?」
「可能性はあるな。そうなると、もう一回攻撃が来るってことになるが……」
「ですが、時間を空けたら結局セキュリティ対策を施されて終わりです。ユイと繋がるのセキュリティ経路なんてそうそうあるわけじゃないので、向こうも複数大量に持ってるとも考えにくいですよ」
「それに、それが怖いならユイさんとネットワークの接続を一旦全部切るってやり方もありますからね。代わりなら俺らの持ってる通信機器で十分代替できますし」
「だな……」
「一理あるわ……」
和弥の指摘に二人はそのまま言葉に詰まった。
これも確かな話で、電子攻撃をしたいならば一つのタイミングで一気に攻勢をかけたほうが効果的だ。今回のように、比較的すぐに終わって、しかも再度攻撃の様子がないのは不自然だ。こっちに「どうぞ御対策ください」と言っているようなものだ。
警告の意味があったにしても、これは引き続き攻撃手段として効果を成さなければ意味がない。効果のなくなった攻撃手段を使って脅されても、何も怖くはないのだ。
しかし、もうユイ自身はセキュリティ対策をし終えたらしく、メンテのついでにさらに補強はするだろう。あくまで空白の時間を空けた理由がわからない。こっちの対応はある程度迅速なのは、向こうもわかっているはずだ。ましてや、親を自称するくらいならロボットのセキュリティについてはよく知ってるはず。
「(もしや、だからこそか……向こうがまだ秘策を残してるっていうのか?)」
……わからない。あの無線で会った男が、いったい何を考えているのか。しかも、無線の最後で言っていた意味深な言葉も気になって仕方ない。BZだなんだって何のことだ? 何かの略語だろうか?
「一先ず、後で無線通信履歴を徹底して調べるしかない……あと、無線電波の発信元も特定できれば、これを行った犯人が特定できるだろう」
「ええ。とりあえず、セキュリティ対応とこの電子攻撃をやった犯人の特定を急ぎましょう。これができるほどの奴等なら、既存の国防ネットワークにも攻撃する蓋然性は出てきます」
「そうだな。……一応、彼女のことは伏せつつ、ネットワークの再度補強を進言しておこう。団長経由なら何とか対応を―――」
そういって羽鳥さんが机を治し終えたときである。
「―――なッ!?」
室内にけたたましい警告音が響き渡った。復旧し始めたPCのディスプレイに、新たに小さなウインドウが表示された。そして、その中身を確認するまでもなく、誰かが大声で叫んだ。
「余震来たぞ! 全員伏せろ!」
言われるまでもなく、全員が机の中に隠れるか、そうでない人は何かの固定物に捕まるか、若しくは頭を抱えて伏せていた。復旧のために結構な人数がいたため、全員が安全な避難をするのはできなかったが、心配するほどのものでもなかった。
確かに大きい揺れは来た。全員が伏せ始めた直後だった。初期微動などをあまり感じることなく、すぐに主要動となる大きな地震が、下から突き上げるような形で俺たちを襲ったのだ。
その激しさに、二澤さんは舌打ちをした。
「クソッ、これもまたデカいぞ。5か?」
「いえ、6です。気象庁は6強だって言ってます」
「テレビつけてくれ。こっちは隠れてるから何もわからん!」
「了解!」
和弥はさっきまで見ていたPCのディスプレイから目を外し、近くのリモコンを操作して復旧し終えたばかりのTVの電源をつけた。
チャンネルはNBC。民放の日照TVだった。いつも見るニューススタジオではない。後ろは報道局員が大量にいることから、間違いなく報道フロアからの映像だ。
アナウンサーの男性と女性の2名が、この地震の情報を必死に伝えている。
『―――えー、緊急地震速報が出されています。千葉県で地震です。千葉県北西部で強い地震が発生しました。……えー、速報です。震度は、6強です。強い揺れに警戒してください! 現在、東京の報道フロアも大きく揺れています!』
『身の安全を確保してください。火災などを消す前に、まずは頑丈な机などの中に隠れてください。ご家族の方は大丈夫でしょうか? ご高齢の方は―――』
自身も慌てている様子は見て取れるが、それでも最大限冷静さを保ち、かつ若干強い口調で危機感をあおらせている。中々のプロらしい。
カメラは新橋の映像を自社が使って居るお天気カメラを使って送ってきた。カメラも大きく揺れている。それも横にだ。振れ幅の大きさからして、高層ビル群は軒並み横揺れ地獄の様相を呈しているだろう。
そのうち、縦揺れが消え今度は横揺れに変わった。若干収まってきたと思ったが、それでも、小さい揺れがまだ長引くパターンかもしれない。
テレビの向こうも騒がしくなる。報道フロア内のアナウンサー以外の否との声が大量に漏れて聞こえてきていた。
『えー、まだ大きな揺れが続いています。テレビをご覧のみなさんは、直ちに身の安全を確保してください。海岸にいる方は、直ちに避難してください』
『落下注意ィー! 大きいぞォー!!』
『どこからどこまで揺れてるって? よく聞こえねえよ!』
『揺れ収まったらテレピック流してテレピック! するがフェリーの人と電話繋がったから!』
『政府なんて言ってる!? テロと同時に対応とか声明出した!?』
『震度6強千葉だけ? 東京も? 23区までか?』
『関東各地と支社フロア繋がった? 栃木はまだか! 連絡入れろ!』
……正直、アナウンサーの声が若干聞き取りずらくなりかけた。耳はちゃんと生きていたので普通に聞き取れはしたものの、これテレビから遠くにいる耳が遠い人はちょっと聞き取れないんではないだろうか。
「(揺れが収まらない……余震にしては結構長いぞ……)」
随分な長さだ。このままどれだけ続けばいいのか。余震は最初の本震が来てから2回ぐらい来たのは確認したが、それでもここまでは長くないのに……。
「(畜生、余震でも相当デカいのが来ることはあるし……これのことなのか……)」
そんな悪態をついた時だった。
『えー……気象庁からの情報です。この地震による津波の心配は、現時点ではないとのことです。繰り返します、津波の心配は、現時点ではな―――』
……が、そこまで女性アナウンサーが言った時だった。
ピー ピー ピー ピー
「(ッ!? またッ!?)」
テレビの向こう小さく聞こえるの地震警報と、こっちの大きく聞こえる地震警報が申し合せたように同時に鳴り響いた。さらに、テレビの緊急地震速報欄の情報が警告音とともに表示された。
その瞬間、アナウンサー二人の顔が凍り付く。これも情報を確認する前に、
「―――ひぃッ!?」
「ま、まただ!」
再び大きな地震が発生した。さっき数分前ぐらいに大きな余震が来たばかりなのに、間髪入れずまた大きな余震が来た。地震がほぼ同時に複数来るというのは十分あり得ることで、3.11の時の余震は1分としないうちに連続で3回も地震が連発することがあったほどだ。
だが、本震が起きてからこうも早い段階でこれが起きるとは。余震頻度は、本震発生時から時間が経過するほど低くなるため、まだ本震から1時間すら経っていない今現在は相当高頻度で起こるだろう。
「(……にしたってこれはねえだろうが!)」
神は俺らを殺したいのか。それとも単に苛めたいのかどっちなのか。そんな暴言を心の中で吐きながら、俺はテレビに目線を釘づけさせた。机の下に隠れてる俺からは、それが唯一の情報収集手段だったのだ。
『えー、ま、また大きな地震です。千葉県北西部です。強い揺れに警戒してください。身の安全を確保してください。皆様の周りの方々の安全にも注意を払ってください!』
途中から焦りを隠しきれなくなったのか、若干早口になっていた。風貌が若いので新米の類の人なのだろう。隣にいる先輩と思われる男性アナウンサーが小さく「落ち着いて」と口を動かし、手のひらを上から下に動かして冷静を促していた。
……焦るのも無理はない。ストレスもたまるだろう。それでも、女性アナウンサーは警告をつづけた。
『えー、身の安全を最優先してください。強い揺れに警戒してください。震源は千葉県北西部です。震度は―――』
すると、その後ろで、
ガシャァンッ
『ひゃぁ!?』
『ッ!? だ、大丈夫ですか? 報道フロア!?』
思わずこっちがビックリした。アナウンサー二人の後ろに見える報道フロアの壁の上の方に立てかけていた、『NBC』と書かれた大きめの蛍光式看板がいきなり落ちた。しかも、それでは終わらず、左側の落下時の衝撃のせいか、右側の固定具も壊れたらしく、そのまま看板は前のめりに倒れてきた。
軽く見ても横3~4メートル、縦1~2メートルぐらいあるそこそこの大きさの看板だ。最初はゆっくり、そして徐々に勢いづいて落下してきた看板に、近くにいた報道局員は全員悲鳴を上げながら逃げた。
「……」
テレビを見ていたものは全員唖然としたに違いない。相当しっかり固定していたであろう看板が、こうも簡単に崩れ落ちたのだ。一瞬、二人のアナウンサーは言葉を失ったが、すぐにハッと我に返る。
『え、えー……あぁ、こちら報道フロアの看板も大きな揺れによって落下したのがわかるでしょうか。報道フロアも現在混乱している状況です。皆さまは冷静な対応を心がけてください。大きな余震は今後さらに―――』
『後ろ大丈夫? あ、誰もいない? 大丈夫? 大丈夫なん? うん、オッケー。えっと……』
思わずビックリしたような声を上げて振り返ってしまった女性アナウンサーは、すぐに向きを戻し、地震の警告をつづけた。男性アナウンサーも同様だが、カメラの後ろにいるらしいスタッフと局員の状態を聞いている。なお、ここにきてやっとヘルメットがスタッフから渡された。もっと早く用意してやってください。
そして、画面には今起きている地震の震度データを地域ごとに加えた関東周辺の地図が表示された。最新の地震の震度は6強。これも千葉県北西部なあたり、これの一つ前に起きた余震に感化されたとみるべきだろう。余計な奴を起こしやがったのだ。
「……首都でこんなクソでけぇ地震が起きたんだ。いくら対策してきたっつったって、実際に起きてみたら違うこともあるってことだな」
「ああ……」
和弥が未だに強い横揺れに耐えながら、そんなことを冷静に言う。お前、訓練受けてるアナウンサーですら怖いこれを現在進行形で経験してるのに、よくそんな涼しい顔してられんな……。
……結局、この地震は10分近くに渡って揺れ続けた。複数の揺れが同じ地区でほぼ同時間に発生したため、それによって起きるのは相殺か相乗かは詳しくは知らない。
……が、一つだけ言えるのは……
「(……俺はまだ地震の本気を知らなかったらしい……)」
正直、今まで体験したので一番デカかったのは震度5弱ぐらいで、そこから先の強さは体験したことがなかった。高校の時、国語の教師が3.11を体験した際の体験談を授業中に語ってくれたことがある。当時は、あまりに誇張染みた表現にしか聞こえず「大げさだろう」とか思っていたが……、今は、その教師に全力で土下座しなければならない。
「(なるほど……7とか6とかを何回も受けるっていうのはこういうことだったのか……)」
これは確かにストレスが溜まる。トラウマになる人が続出するのも頷けるだろう。こんなの、何回も受けたくはない。子供の時、青森ですら4が最大だったのに、子供だった俺は怖くて夜は眠れなかったのだ。
……正直、耐性のない子供の時に経験せずによかったと思う。
「ふぃ~……全員無事か?」
誰かが全体にそう声をかけた。それを皮切りに、すぐに点呼が実施され、室内にいた全員は怪我なく無事であることが確認された。
「よし、そのまま復旧作業を続けて。関係省庁と機関との通信復旧を最優先」
そう淡々と指示した。ある意味、あれがリーダーの理想の姿かもしれない。どれだけでかい地震が何回も起ころうが、冷静でどっしりとした態度で入れるのは同じリーダーについてる身として見習うべきであろう。
……だが、正直な話……
「……あんな地震を毎回受けながらこれ直すのか……?」
そればっかりはどうにかしてほしかった。してほしい、といっても、だからといってどうかできるというわけでもないのでもう諦めているのだが。
「こりゃぁ、この部屋直すまでにあとどれくらい地震が来るかを考えたらたまったもんじゃないな」
「やってらんねえよほんと」
「あと何回くるか賭けるか?」
「やめろバカ。不謹慎な」
「ちなみに俺は3回来ると見た」
「ほんとに来たらどうすんだよお前」
今の地震頻度だと本当にそうなりそうで……というか、室内の散らかり具合と時間帯考えたら、下手すりゃ3回なんて余裕で超えそうではないか。勘弁していただきたいのだが……。
「はぁ……テロだなんだでそうでなくてもストレス抱えてんのに、今度は地震にも気を付けにゃならんとか……」
「幸いなのは、東京湾北部が震源の地震だから、津波の心配はそんなにないってことだな。東京湾は水深浅いし、津波で沿岸が流される心配はないってこった」
「……それ、今のところはだろ?」
「……まあ、東京湾をちょっとでも出たところでさっきぐらいの地震が起きたら……」
「……死んだな」
羽田空港、お台場をはじめとする沿岸部は軒並み壊滅するのは間違いないだろう。ましてや、今現在俺たちはそのお台場にいる。防災の本拠地がここなのだ。
……こう考えると、ちょっとここに置くのリスキーではないのかと思わんではない。尤も、他にまともな敷地がなかったのかもしれんし、そもそも今更な話なのだが。
「しかしなんだな」
「ん?」
「こう考えると、ユイさんが羨ましいねぇ。あの人、こういうのに動じないだろ?」
「……まあ、確かにな」
尤も、あいつ自身はそんなに地震を経験したことはなかっただろうが。しかし、こういうのに対する耐性はある意味一番アイツが持っているだろう。こういうときだけは、俺はロボットになりたいと思ったりする。
「おし、とりあえずここら辺はオッケーだな……」
和弥が整頓し終えた周囲を確認していると、
「―――お、お二人さんお疲れ」
「ん?」
見ると、新澤さんとユイが帰ってきていた。向こうの仕事はもう終わったらしい。
……が、
「……うん?」
「……何やってんだ、お前」
ユイがおかしい。隣にいる新澤さんにべったりとくっついている。新澤さんの右腕を、自身の両腕でガッチリ掴んで引き離さない。どっちかが男性ならただの仲睦まじいカップルな状態である。
しかし、ユイの表情は若干強張っている。怯えてるって言えばいいのだろうか。片や新澤さんは、幾ら妹のように可愛がってるといってもここまで密着されるのは想定外だったのか、「どうしたものか」と複雑な顔をしていた。
「……あー、お二人とも。いつの間に百合百合な関係になられたので?」
和弥、なしてその言葉しか出てこなかったのか。
「ち、違うのよ。百合とかそんなんじゃなくて、ユイちゃんが……」
「彼女がどうしたです? まさかさっきの地震にビビりましたとでも?」
「……祥樹、あんたコイツのことエスパーだなんだって言ってたけど、事実みたいね」
「マジっすか」
「え、ちょっとまって俺の事そんな風に言ってんのお前?」
和弥の質問はスルーした。そして、隣のユイの怯えて固まっている表情を見て……
「……あれ、お前って地震そんな怖かったっけ?」
「……短時間でデカいの連続するとか聞いてません」
「お、おう……」
地震をあまり経験してない地域にいる外国人じゃねえんだからよ、お前。そんくらい知ってろよ仮に日本に住んでるなら……。
「でも珍しいわね。ここまで怯えるのも中々見ないわ。あと面白いし」
「……あの、言っておきますけど私見世物じゃないですからね?」
「え?」
「え?」
「……」
「……」
……微妙な空気の中、会話が途切れた。絶対見世物として見てた目だな、これは。
「(でもまぁ、確かに珍しいな……今まで冗談半分で怯えるしぐさはすれ、本気で怯えることなんてこれっぽっちもなかったのに……)」
特にこういう危険状態の時ほど、コイツが冷静になったことはない。命のかかわる戦闘状態でも冷静沈着だったユイが、地震が連発しただけでこうも怯えるのか……。
「(……戦闘用だから地震に対する恐怖心ぐらいはあるんかな)」
でも、だとしても正直地震が連発することぐらいは知っていればよかったのに。日本人なら基本的には誰でも知っていることだろう。
「……まぁ、それで、お二人はこの後は?」
「あぁ、うん。一応羽鳥中佐に報告言っときたいんだけど……、その本人は?」
「……あれ、いないな」
いつの間にか、羽鳥さんがいなくなっていた。また用事ができたのだろうか。お忙しい人である。
「今いないんで、外で待ってた方がよろしいかと」
「そう。……手伝おうか?」
「こっちは人足りてますんで。というか、その前にその怯えた子猫をどうかした方がいいですよ」
「誰が猫ですか誰が」
「……トラの間違いだったか」
「いやぁ、ライオンの間違いだろ」
「どれでもありませんよ!」
「しかも見事に全部ネコ科……」
久しぶりにユイのこの叫声ツッコミを見た気がする。最近見てなかったからな。懐かしさを禁じ得ない。
そのあと、二人は一旦廊下に出ていった。その時も、やっぱりユイは新澤さんに密着したままだった。相当怖かったらしい。この後余震が起きようものなら、廊下からコイツの悲鳴が聞こえてきそうだ。
「……新しい発見だな、ユイさんの弱点か」
「アイツを黙らせるには地震ぶつけろってか? HAARPでも使うか?」
「起こせるもんなら起こしてみろってんだ」
そういってお互い軽く笑いあった。よくある陰謀論なのだが、あれ科学的根拠が薄かったりするため、個人的には信じていなかったりするのだが、それでも、一定層の支持者がいるあたり、やはり信じる人は信じるのかもしれない。
「(……確かNEWCの都市伝説ってその類だったような……)」
まさか、あれの協力者とかって……なんて考えもしたが、俺個人がしても始まらないことだ。
「地震起きたら真っ先に飛んでってやれよ。そんで、ユイさんに飛びつくのさ」
「なぜ俺が飛びつかなければならないのか」
「あ、そうか向こうから飛びついてくるもんな」
「アホかこら」
そういうと和弥は「しっしっし」とニンマリした顔でしたたかに笑みを浮かべた。……ユイの前に、コイツを黙らせるのが先なのではと思ってきた。
……とはいえ、
「(……引っかかるな……)」
あのユイの反応に違和感がないわけではない。
ユイは、今まで今回のようなストレスフルな環境下を何度も経験し、それで堂々と構えはすれど、怯える事なんてこれっぽっちもなかったのだ。確かに、今回のような大きな地震の経験はなかったはずだが、だからといってそれだけでここまで変わるものなのか?
……う~む……
「(……よくわからん……アイツあんなにガチで怯える奴だっけ……)」
……尤も、その違和感も、
後にきた余震やいろんな作業にさらされるうちに忘れていくことになるのだが…………