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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第6章 ~疑念~
104/181

核兵器捜索

 ―――さらに数時間が経過し、中央区のさらに深部に入る。午後もすでに半ばを過ぎ、現在捜索中の携行型対空兵器や、他の例の高層建築物爆破解除のヒントを探していく。残りは一つだが、先ほど見つかったのでそんな近くにはないとも考えられるが、念には念をである。


 ……が、今、その捜索対象はさらに増えた。


「―――そんで、新澤さん。“核は”どこにあるって情報ですか?」


 自分自身が、東京都という先進国の首都でこのような言葉を発することになるとは思わなかった。


 東京に核が持ち込まれた。


 この情報は、瞬く間にすべての治安維持部隊に通知された。当然、俺らのほうにもその情報は渡され、急遽追加で、その核の捜索、あわよくば回収も指示された。核の回収なんて、そんなん一偵察部隊に投げるんじゃねえよ、という文句の一つも投げたくなるところだが、そんなことは当然言えない。

 新澤さんはHMDでマップを網膜上に投影しながら言った。


「中央通り沿いのどこか。建物内部にあるみたいな情報が来てるわ。どこら近所に隠してるってところでしょうね」


「中央通り沿いってだけですか?」


「いえ、情報が曖昧で、他の地域にもあるみたいな情報が幾つか上がってるみたい。ただ、核なんて言う重要な兵器をそこいらにほっぽりなげてるとは思えないから、たぶんEBに近い所に置いてるでしょうね」


 EBとはエネミーベース、つまり敵の本拠地であるホテル日本橋のことである。敵としては、核は近くに置いておきたいはずだ。自分たちの手元より遠いところに放置しているとは考えにくいし、仮にあるとしたら相当奥深くだろう。……そんなとこ、特戦群の管轄じゃないかと思わなくはないが……。


「まあ、“兵器”とは決まってませんが、兵器以外とも考えにくいですね……。まさか核物質をドラム缶か何かに詰め込んだわけでもあるまいし」


「冗談ぬかせ。大方輸入品だろ? 中東のほうのテロリスト経由でよ」


 核兵器なんざ当然自作できるわけでもないし、間違いなく処分中に漏れたものがテロリストに渡ったと見たほうがいいだろう。ロシアあたりが核兵器を大量処分していたはずなので、おそらくそれのうち小型のものが渡っていったのかもしれない。


 ……が、


「でもよ、そんなん簡単に持ち込めるのか? 輸入品は厳正にチェックされてるはずだし、貿易船も全部密輸品がないか確認するだろ?」


 和弥の言う疑問は尤もだ。島国故、他国から物資を持ち込むには空輸か海路を使うしかない。空輸はもちろん無理だが、海路を使うとしても結局は例外なく船を使う。まさかどこぞの艦隊育成ブラウザゲームの如く、少女が海を突っ走ってくるわけでもない。船は例外なく厳重な物品検査が為されており、核なんて言う大層なものを容易に持ってこれるとは考えられなかった。


「まさかの自作か?」


「んなアホな。核融合炉なら割かし自作できなくはないが、核兵器なんて核分裂反応の操作とかにとてつもない技術が必要だから、国家レベルのトップシークレットよ。それ知ってるやつがいたらたぶんそいつ核兵器に携わった誰かだぜ」


「だよな……」


 日本という、ただでさえ核アレルギーがものくっそ高いこの国でそんなものを自作することもないだろう。日本という国が、そもそも核兵器を作る技術ノウハウがないのだ。

 そうなると間違いなく輸入しかないが……税関が寝ていたわけでもあるまい……。


「(……ほんとにあるのか? その核兵器)」


 個人的には、妙にその情報を完全に鵜呑みにはできなかった。信ずるに値する情報が、まだこれっぽっちも来ていない。そもそも、核兵器があるなんて情報を一体どこルートで持ってきたのかすらもわからない。

 あったとしても、どういうルートで中央区内に持ち込まれたのか見当もつかない。首都圏のど真ん中で堂々と核兵器持ち運んだりできるほど、日本の警備は甘くはないはずである。


「(……妙なもんだな)」


 あるかどうか微妙なものを探すことに変な違和感を感じつつ、一応捜索を続ける。



 幾つか候補があるということだが、俺たちが担当する地域では中央通り沿いの建物にある可能性があるらしい。といっても、その建物も結構ある。商業ビルからマンション、ちっこい賃貸住宅まで。より取り見取りである。

 それらを一つ一つ捜索していく。室内戦闘の要領は今まで何度となく訓練してきたこともあって手馴れたものだった。だが、何より一番ストレスなのか……。


「……ここにもねえわ。ハズレか」


「またかよ……こんだけ時間かけてるのに成果がゼロってのは堪えるぞマジで」


 和弥がうんざりした様子で愚痴った。一つ一つの建物がそこそこ大きいため、4人で探すには妙に時間がかかってしまう。ユイの電子機器を使ってスキャンしながら、探す範囲を最大限減らして迅速に捜索はするものの、これっぽっちも成果なし。


 地味にイライラする時間が、しばらくの間続いていった。しかし、それはどうやら俺たちだけではないらしい。


『―――ハチスカリーダーよりHQ。目標地点に着いたが、現地は何もない。次に行く』


『ノブナよりHQ、命令を受けて現着したが、ここにはなにもないぞ。本当にここでいいんだろうな?』


『HQよりノブナ、そこに何かが運ばれた形跡が確認されている。確認してみてくれ』


『了解。……ハァ、さっきからどれもハズレなんだがよ……』


『聞こえてるぞ』


『……』


 ……こんな感じで、どこの部隊でもうまい具合に成果を出せずにいた。中には、「そこにそれっぽいのがあるのでは?」と言われて調査に来ても、実はハズレだったというのが何度かあった。そのたびに、不満は漏れてしまう。

 核が相手のため、其れゆえの焦燥感も苛立ちを募らせることに拍車をかけていた。その矛先は、さっきから曖昧な情報ばっかり流すHQのほうに向いていた。

 もちろん、すべての非がHQにあるとは言わないが……あまり、繰り返してほしくないというのが現場の正直な感想である。


「放射線検知ってできてるか?」


 念のためユイに放射線が感知できてないか確認する。しかし、帰ってきたのは否定回答だった。


「放射能スキャンは正常ですが、これっぽっちも反応ないですね。ここにはないですよ」


「ないか……ったく、どこにあるんやら」


 中々見つからないことにストレスを覚え始める。相手は核兵器なので、できる限り見つけたいという若干の焦りもあった。


「もう一回確認するんですけど、UAVから検知したらそれっぽい放射能は確認できてないんですよね?」


「らしいわよ。UAVが上から何度となく調べてるけど、放射線が不自然に高い場所ってのは見つかってないらしいし、放射性物質も確認できていない。ただ、UAVが探知できてないだけで、建物内部にある可能性があるからこうして探してるけど……」


 先ほどから上空を飛んでいるUAVが、もしかしたら漏れているかもしれない放射線を感知するべく放射能測定を行っている。ただ、そっちでも未だに成果はないとのことだった。

 もちろん、核兵器であるだけに管理は厳重にされているはずだ。放射線が漏れてるなんて事態になったらそもそも危険な状況なのだが、それゆえに、今度は核兵器を見つけることが難しくなる。


「ユイさんの放射能スキャンが能動的なものだったらなぁ……核兵器の中にある核物質をこっちから調べれるってのに」


「ユイに乗ってるのは受動的だからな。向こうが漏らしてないと検知はできない」


 尤も、できたら今度は俺たちが危ないのだが。


「まったく、こんなん繰り返してたら時間の無駄だぜ。もうちょい増援出せねえのか? あまりに数が少なすぎる」


「さっきから新澤さんが繰り返し要請してるの聞こえなかったか? 全部門前払いだよ」


「ったく、向こうはこっちの苦労もしらねえで……」


 心底うんざりしたような表情で和弥はこの部屋を出ていった。そのあとをつけて、俺たちも部屋を出、この建物を後にする。

 さすがに個々の地域すべての建物を4人だけで調べろというのは無茶が過ぎるという判断は、前々からしていた。新澤さんも何度となく、警察系部隊でも軍隊系部隊でもいいから増援を寄越すよう頼んだが、向こうから帰ってくるのは「人が足りなくなるので無理」の一言ばかり。予備はどこにいったのだという問いに対しても、保護した住民の対応や避難施設の警備等々で人を使いまくっており、さらに、初日から今日までにもけが人が大量に発生しているため、他県から今増強を求めている段階のようだった。


 ……その間は、少数勢力でブラック企業的任務を果たせという意味になる。


「(現場の軍人だって、ユイを除けば全員人間なんだぞ……こっちのできることを過大評価しすぎだろうが……)」


 そんな不満を心の中でぶちかました時、HQから唐突に無線が届いた。


『HQよりシノビ。たった今、UAVが何かを輸送する敵武装集団を捉えた。結構大きく、警護も厳重を敷いており、例の核兵器を移動していると判断される。直ちに追跡せよ。座標を送る』


「―――ッ! 了解。直ちに追跡する」


『急いでくれ。あまりのさぼらせるわけにはいかない!』


 妙に焦りを見せているHQ。これは相当信憑性の高い情報を得たということなのだろう。

 相手は厳重な警護を要した輸送部隊といったところか。座標を受け取ると、それをHMDに表示。ちょうど中央通りを南下している。割とすぐ目の前を通っていくところのようだ。


「まさか、この中にか?」


「わからん。だが、相当厳重な警護なら、少なくとも可能性は結構高い」


 少なくとも、何か重要なものを輸送しているのは間違いない。そこそこ大きな何かに、HQが判断した通り核兵器が積み込まれていたりしたら厄介だ。UAVも、場合によっては検知が難しいかもしれない。そもそも、漏れているとも思えないが。


「まずは中央通りに出る。急ぐぞ」


 3人を従え、すぐに中央通りへと向かった。


 細い道を駆けて広い道路に出ると、南の方向に薄らと黒いバンの集団を確認。だが、もうすでに止まっているようで、人もちらほら確認できる。隣にある建物に入っていくところだった。


「あれだな。黒いバンが5台。北にあるEBからやってきたか?」


「かもな。よし、追うぞ。急げよ」


 中央通りを一気に南下。幸い敵は近くにいなかったため、悠々と接近することができた。現場につくと、5台の黒いバンは無造作に路上に駐車されていた。その横には……


「ここか……」


 中央通りの東京駅側にある、ほとんどがガラス張りの二十数階建てのドでかい超高級ホテル。今は閉鎖されていて人は出入りできないはずだが……


「……爆破されたか、銃撃受けてるな」


 玄関を見ると、しっかり厳重にロックされ、シャッターも仕舞っていたはずの玄関口は無残にも爆破されていた。そこには、人が一気に数人は入れる程度には大きい穴が開いており、周囲には小銃をぶちかましたような穴もあった。明らかに、強引に中に入った形跡がある。


「祥樹、全部のバンを全部見てみたんだが、鍵は開いてても中はもぬけの殻だぜ。それっぽいのはこれっぽっちもない。ユイさんが車底を調べたが、何も目ぼしいものはなかった。どうやら、追ってるものは全部このホテルの中に持ち出したようだな」


「何もないのか? これっぽっちも?」


「しいて言うなら、水着女性が表紙のなんか見るからに18歳以下には見せられない雑誌はあったぞ。見るか?」


「……捨てとけ」


 なんでバンにそんなの乗ってんだってツッコミはこの際野暮だろうか。いや、でも実際武装集団がなんでそんなの中に入れてるんだ。


「確認してみた。どうやら、そこに何かが入った形跡が、UAVの監視映像から確認できたみたい」


「つまり、入って確かめろってことですか……」


 そう呟いて、俺はホテルを見上げる。

 地上から見ると中々のデカさだった。比較的新しいこのホテルは、先ほども言ったように二十数階建て。1階ごとの広さも段違いで、とてもじゃないが4人だけで調べる建物じゃない。もっと人がほしいと思うのは、現場の人間の当然の要求だ。


「何度も聞くようで申し訳ないんですけどね、ちゃんとHQには言ったんですか? こんなとこ調べるならもうちょい人くれって」


「言ったんだけどねぇ……けが人とかが大量発生中で、人が足りないからそっちでやってくれって追い返されちゃって」


「おいおい勘弁してくだせえやマジで……」


「何なら自分で聞いてみる?」


「大方展開が予想できるんでいいです」


 どうせ「何とかしろ」って追い返されるのがオチである。まったく、こんなクソでかいホテルをたった4人で頼むって、調べる優先順位ぐらい設定して少しでも回してくれればいいものを……たった4人で調べてどれだけ時間がかかると思って……。


「はぁ……先が思いやられらぁこんなん」


 そんな愚痴をぶちかましつつも、爆破されたシャッターの穴から中に進入した。電気が入っていないのか、中はほぼ真っ暗だった。入ってきた穴から差し込む昼間の光以外は光源がほとんどないようで、あるとしても自家発電で自動的に点いている避難用の誘導灯ぐらいだった。


「HMDを暗視モードに設定。こっからは全部しらみ潰しでかかるぞ」


「どれだけ時間かかることやら」


「んなこと知るか。さっさと調べちまうまでだ」


 広々としたロビーを見回す。高級ホテルだけあって超豪華な空間だが、今はさびれてると錯覚するぐらい閑散としている。だが、つい先ほどまで人がいたような雰囲気は感じ取れた。


「ユイ、ホテル内部の地図ってあるか?」


「あるっちゃありますけど、どうします?」


「あまりに広いからな。それを新澤さんのHMDにも渡してくれ。二手に分かれる」


「室内じゃあまり少数人数じゃ危険じゃねえのか?」


「にしたって、向こうがここに急いで入った以上、何かしでかすのは間違いない。最悪、見つけさえすればいいんだ。これが一番だよ」


 ホテルの中身は大体わかるので、たとえ少数人数でもある程度は対応が可能だ。あと、ホテルの電気をつけて、ホテルの中にある監視カメラを使って敵を探す必要もある。


「和弥、ホテルの監視内の警備区域に行って、監視カメラの映像を調べてくれ。こっちでこのホテルに電気を通すように俺から要請する。新澤さん、護衛お願いします」


「了解」


「了解した。そんじゃ行きますか。え~っと、警備区域ってどこだっけな~……」


 新澤さんと和弥はそのまま俺たちの元を離れた。すぐに無線を入れ、このホテルに電気をすぐに通すよう伝達。電力会社に通達して、そこから通して……ってなるとどれだけ時間がかかるかわからんが、それまでは、この暗闇の中をしらみつぶしで調べるほかはない。


「HMD暗視モード……チェック。どれ、まずはこの階だな」


「問題は上に行ったか下に行ったかですが……」


「一先ず上に行こう。できる限り敵から離れたいって心理が働くはずだから、そうなると地上から離れた上にいくはずだ。屋上から逃げれなくはないしな」


 とはいえ、ここまで高い建物は周囲にないので必然的に飛び降りることになるのだが。

 ユイを先頭とし、一先ず1階を警戒。1階は巨大なレストランやレセプションホールなど複合施設が詰まっており、すべてを調べるのは中々に億劫である。広い所はユイが適宜スキャンをかけて何かいないか捜索し、気になった部分だけを探すという形でどうにか迅速に動いていた。


「ここは?」


『厨房。レストランと、あと客室向けの配食のための物凄くドでかいやつですね』


「中は金属ばっかだから、X線は使えない……」


 ……となると、ここはしらみつぶしってことになるな。しかし、厨房もそこそこ広い。

 何か出てきてもいいよう、少しばかり慎重に進む。次の出入口はこの厨房の奥にあるため、結局は個々を突っ切ることとなる。そのドアも、少しだけ開いていた。


「(もしかして、ここを通ったか? ここ自体はそこそこ広いから、例の何か大きなものも一応は通れるか……)」


 そう考えつつ周囲を確認。冷蔵庫、冷凍庫、ドでかいオーブンから調理器具置き場まで。色々な所に何か警戒すべき点がないか見る。とはいえ、そんなところに何かあるとも思えないが……


「(ここには何もないかな……?)」


 そう思い、少しばかり足を速めようとした時である。


「―――ッ! 伏せて!」


 その言葉に条件反射的に俺は体を伏せた。それとほぼ同タイミングであった。


「―――ッ! 銃撃!?」


 すぐ近くからだった。火薬の爆発した連続的な発砲音は、間違いなくこの厨房の中から起きていた。ユイは一瞬だけ顔を出して、その発砲音の音源に向けて一連射。その相手方の銃撃音はすぐに収まったが……。


「クソッ、どこから撃たれた?」


『出入り口付近にある冷蔵庫。一瞬扉が開くのが見えて幸いでした。どうやら、奇襲を仕掛けようとしていたようです』


「こっちの動きがバレてたか……?」


 わざわざあそこに隠れて待ち伏せをするということは、少なくとも俺たちの存在と接近を予知していたといことになる。暗視モードで警戒はしていたが、何かしらでバレていたらしい。面倒なことになった。あまり向こうを刺激したくはない。

 さらに、状況はさらに悪い方向に向く。


「……音が聞こえるな。奥か」


 すぐに厨房の奥の方にある出入口付近に向かう。すると、奥の通路の直角の曲がり角にある光が動いていた。おそらく懐中電灯の光が反射したものだろう。その光が徐々に近づいてきており、このままではもうすぐ目の前にある直角の曲がり角に差し掛かるだろう。


『銃撃音を聞いて駆け付けたみたいですね』


「あまり引き寄せたくはなかったが、仕方ない。引き返すのも時間がかかるし、ここで迎え撃つ」


『了解。じゃ、ちょっと拝借して……』


「え?」


 すると、ユイが先ほど自らが倒した敵の元についてごそごそと何かを漁っていた。武器でも奪う気かな、と考えていると、唐突に無線が届く。ホテル室内なので、若干感度が悪い。


『祥樹、こっちのほうに電力が回ってきた。今監視カメラを暗視モードで確認中』


「了解。そのまま敵を監視してくれ。今3階の厨房にいるんだが、ちょうど敵さんがお待ちかねだ。敵情を教えてくれ」


『了解。えっと……ああ、コイツだな。アサルトフライルを持ったのが4人。今そっちのほうに向かってる。全員懐中電灯を持っているな』


「懐中電灯持ち……」


 ということは、俺たちのように懐中電灯なしで行動できる暗視装置を持っていないということになる。懐中電灯を使っていると、少なくともどちらか片手は塞がり、射撃に支障が出るな。


「全員手に持つ奴か?」


『前衛二人は頭につける奴。でも後衛二人はハンドサイズの懐中電灯だ。それが?』


「オッケー。じゃ、ホテル内部の電灯はつけるな。上層階の電子ロックも全部電源切って、敵が入れない様にしろ」


『……いや、俺やり方まだ完全に把握してないんだけど』


「んなもん説明書読め」


『俺はロケランぶっ放した“シンディー”か!』


 文句はほどほどに無線は切られた。何だかんだでやっちゃうのがアイツである。


「暗視モードのセーフティはしっかりなってるな?」


『なってますよ。目つぶしは効かない程度には』


「敵が見えたら一気にぶちかませ。目はこっちがある」


 あえて暗いままにしたのもここに理由がある。暗視装置をつけてるこっちはハンドフリーで自由に重火器を使えるが、向こうは懐中電灯を使ってることもあって、その光に頼らざるを得ない。

 光がなくても戦える方と、光がないと戦えない方とでは差は明らかである。今時の暗視装置は強い光を当てて目を潰すといったことも効かないため、この場では明らかにこっちが有利だ。


『もうすぐ来るぞ。10秒後に曲がり角に進入』


「出入口向かいから撃て。俺はここから撃つ」


『了解』


 ユイは厨房の出入口の向かい側に移動し、そこからニーリングポジションでフタゴーを構える。俺自身も、厨房のドアを盾にしながらいつでも撃てる構えを整えた。

 ……そして、きっかり10秒後である。


『よし、来るぞ』


 懐中電灯の光源が、はっきりと確認できた瞬間だった。数は4つ。通路の陰から出てきた。俺は気づかれる前に小さく無線に呟いた。


「撃て」


 刹那、俺とユイ、二人のフタゴーの銃口が連続した破裂音とともに一斉に火を噴く。事前に通路の曲がり角に照準を合わせていたこともあり、それに自ら入ってきた形となった4人はほぼ一瞬で撃たれ、あっさりと制圧。ほぼ一連射で済んだため、弾薬も最小限度の消費で済んだ。


「制圧確認。そっちは?」


『確認。……でもこれ、妙に使いづらいですね。やっぱ粗悪品かな』


 そういって不満そうに見つめるのは、自らが手に持っているAK-47だった。おそらく、先ほど敵が持っていたものを拝借したものだろう。しかし、一部AK-47とは違う外見構造が為されており、前に政府専用機で見た3Dプリンタ技術を駆使して模造した奴と似ている。ユイが粗悪品と酷評したのは、要はそこに関する者なのだろう。

 見ると、弾薬も全部根こそぎ“借りた”らしい。


「……でも、どうせ返さないんだろ?」


『借りはしますが、返すとは一言も言っていません。そのことをどうか祥樹さんも思い出していただきたい』


「思い出すも何も、実際今数発分返せなくなったのをこの目で見たわ」


 借りるという名の丸パクである。相棒も中々に外道なことをしおる。

 しかし、使う分にはまだやれそうである。制圧射撃したりするときは十分効果的なので、今後もありがたく拝借していく様子。

 ……自分も、あまり使ったことはないが弾薬は節約したいので、敵のを少し使ってみることにした。ちょうど今さっき倒した敵もAK-47なので、これを拝借して弾薬も“お借り”する。返すとは言っていない。


「(3Dプリンタ使ってるだけあってそこそこ軽いな。材質を工夫したか)」


 そんなことを思いつつ、和弥に無線を繋げた。


「監視カメラ解析できたか? 何か目ぼしい奴は?」


『ああ、なんかそれっぽいような感じのがあったぜ。今階段を駆け上がっているが、二人がかりで何か長方形の箱を運んでる』


「まさか、それが?」


 二人がかりで運ぶほどの大きさなら、小型のものならもしかしたら入るかもしれない。事実、今ある核兵器の、例えば弾道ミサイルの弾頭の大きさなどと参照してみたところ、一部十分に入る大きさのがあったとか。


『一先ずこれをターゲットにしよう。そこからまっすぐ行って、エレベーターに乗ってくれ。今敵は10階にいるから、大体16階ぐらいに行って先回りすれば、何とかなる。途中他の護衛の奴等がいるから気を付けろ』


「了解。エレベーターな」


 俺たちは急いでそのエレベーターに向かった。所々にいる敵をAKをぶっ放しながら撃退した俺たちは、急遽電力を回して動かしたエレベーターに飛び込み、エレベーターの中随分と豪華やなと思いつつも和弥の言う通り16階に行き先を設定。その階はすでに客室などが集中しているため、ここより上の階のどこかの客室に、これを隠すつもりだったのだろう。

 高速で移動したエレベーターはあっという間に16階に到着。和弥の無線で、今敵は13階を回ったことが確認された。


『そこの近くにまた4人ほどいるぞ。たぶん先行組だ』


「了解。16階の階段で待ち伏せだ。相手は4人だから一気に潰すぞ」


『箱落とした衝撃で放射能漏れ起こさないよう願うばかりですね』


「向こうがその辺利口であることを祈る」


 まあ、利口だったらこんなことしてないとは思うが。


 エレベーターを降りた俺たちは、階段に向かう途中先行していた敵とも鉢合わせたが、事前に和弥から情報を知っていたこともあって対応は余裕だった。何とか彼らにはお眠り頂き、会急いで階段前に到着。

 階段前に占位した後、陰に隠れて敵が来るのを待つ。今のところ、敵は何も気づいた様子はなく一定のペースで上を目指しているという。

 周囲は暗いため、静かにしてさえいれば俺たちの存在には簡単には気づかないだろう。至近距離からの銃撃戦となるため、アサルトライフルではなく、サイドアームのハンドガンを用いて一発必中を狙った。

 拝借していたAK-47を置き、ハンドガンを構えて接近を待った。


『15階通過。スタンバイ』


 息をひそめ、敵が静かに目の前に現れるのを待った。階段前通路で、階段から見て左右それぞれの陰に、俺とユイは隠れている。懐中電灯の光が、徐々に確認できた。


『踊り場を通過。来るぞ』


 そして、それは姿を現した。懐中電灯の光に耐えながら見ると、前衛として二人。さらに、その後ろから大きな箱を持った二人組が現れた。そこそこ重そうにしている様子だが、何事もないかのように階段を昇っていく。案の定、俺たちの存在には気づかず、さらに上の階を目指そうと全員が背中を見せた。


 ……瞬間、


「撃て」


 すぐに陰から出て、2方向から同時に射撃。不意を突かれた敵は何があったのか理解するまでもなく銃弾を受け、一人につき2~3発の命中弾を浴び絶命。二人組が持っていた箱も、床に落ちはしたものの、そこまで激しい損傷は受けていない模様だった。


「……よし、確保した」


『確認した。敵はもういないらしい』


「オッケー。……あとは……」


 俺は目の前の箱を見る。結構な大きめのため、確かにこれくらいの大きさがあればちっこい核兵器、または、所謂核弾頭あたりなら普通に入りそうなものだ。昔開発されていた、小型の旧式核弾頭当たりを入れるなら十分な大きさだ。


「放射能漏れは?」


「放射線は確認できません。開けてもまぁ……大丈夫かと」


「よし……」


 体に害はないとわかっていても、やはり開けるときは躊躇する。その箱に手をかけ、鍵がかかっていないことを確認すると、ゆっくりそのふたを開けた。


「えっと―――」


 ……しかし、


「―――は?」


 その中身を見て、俺は思わず唖然とする。その箱にあったのは……



「…………、銃弾?」



 核兵器のかの字すら感じられない、ただの“自動小銃の弾薬”である。


「……え? なにこれ?」


「おいおい……これにあるって話じゃなかったのか?」


 話が思いっきり違う。HQはこれに核が入ってると判断したから俺たちを向かわせたはずだ。だが、いざ蓋を開けてみればただの弾薬ばかり。つまりこれは核兵器の入れ物ではなく、ただの“弾薬箱”だったのだ。


『おーい、何が入ってた? ガチもんの核兵器入ってたか?』


 和弥の無線にもすぐに答えることができなかったぐらい唖然としてたが、ハッと我に返りすぐに無線に応答した。


「……いや、そんなもんは入ってない。あるのはただの弾薬ばかりだ。これ、ただの弾薬箱だぞ」


『ええッ? いや、そんなバカな。ホテルの中の監視カメラを網羅してみたが、敵が持ってる箱ってそれだけだぞ?』


「じゃあ、HQが言ってた自信満々に核兵器を移送してるって判断したのって……」


 ユイが若干口をひきつらせてこっちに答えを求めていたが、俺はそれに対してただただ顔をひきつらせているだけだった。……あれだけ自信満々に言っておきながら、結果はこれである。


 ……つまり、


「……司令部の野郎、変な“誤報”突っ走らせんじゃねえよ!」


 今までにない動きだったうえ、最初あれだけ不安を煽っていた結果がこのザマだと? 慎重かつ迅速に確保したと思ったら、ただの弾薬箱?

 ……今のこれだけで、どれだけ貴重だった核兵器の捜索時間が削られたと思っていやがる。


「(ったく、せめて可能性が高いで済ませとけってんだ……)」


 報告がてら一つの文句でも言ってやるか、と思い無線に手をかけようとした時である。


『―――あー、HQより全部隊へ連絡』


「……あれ?」


 都合よく向こうから無線をかけてきた。全部隊ということは、命令の更新だろうか。俺たちは耳を傾けた。


『―――命令に一部訂正を加える。先ほどまでの捜索内容に核兵器が含まれていたが……』


 おう。


『再度確認をしたところ―――』





『―――都内に、核兵器が持ち込まれたという明確な報告が確認できず、“誤報”であったことが確認された。正確には、量産された何らかの化学兵器であるという点で、訂正を行う』





 おう。






 ……………おう?




「…………おう?」


 …………誤報?


「……おい、今なんつった」


「えっと、私の耳がぶっ壊れてなければ“核兵器持ち込みは誤報で実は化学兵器の方でした”って内容の無線が聞こえました」


「オッケー。お前の耳は壊れてない。俺もそう聞こえた」


 お互い、耳は正常だったようである。

 ……ということは、つまりだ。


「……核兵器、“存在しなかった”てことか?」


「そう……なりますね」


 ユイが苦笑込みでそう返した。

 ……しかし、俺はもうなんて返せばいいかわからなかった。


「…………おいおい待ってくれよ、“核兵器”と“化学兵器”をどうやったら間違えるんだ!?」


 俺はもう今まで散々核兵器捜索に動いていたことでたまった鬱憤を晴らすようにそう叫んでしまった。

 確かに、化学兵器も十分脅威なのでさっさと見つけねばならないことは間違いない。ただ、核兵器という一歩間違ったら即行で東京が瓦礫の山と化す兵器と一体どうやったら間違うのか、俺は理解できなかった。

 しかも、さらに無線を聞けば、別にその化学兵器がいろんなところに移送されまくってるという明確な証拠はあまりなかったという。一部、午前中に俺たちが経験したあのサリンの奴のように、どこかに仕掛けられたものはあっても、それ以上の物はほとんど確認できなかったらしい。あくまで、一部を除いて、大抵は最初からそういう形で仕掛けられていたものを、“新しく移送されているもの”と勘違いしたということだった。


 ……呆れてモノが言えなかった。HQからの無線は終わったが、このホテルで見つかったのがただの弾薬でしたって報告をした以外は何もいう気が起きない。


「……おい和弥、うちの司令部は全員NBC兵器の見極めがつかない奴等ばかりでそろってるのか?」


『核兵器とか化学兵器とかを全部“NBC兵器”って呼称で統一してたらこんな誤報は起こらんかったかもな』


「ギャグ言ってる場合かよ」


 しかし、これも和弥なりの皮肉ないし嫌味である。当然だ。こればっかりはHQの情報把握能力の低さに呆れるほかはない。

 向こうとて混乱はしているのだろうが、あれからもう3日もたってる。情報収集体制は整ってるはずだし、把握もしっかりされていたはずだ。なのに、こんなややこしい誤報を流したばかりか、それのせいで半日もその“幻の核兵器”を探し求めるという時間の無駄を演じていたのだ。

 そのピエロ状態となっていたのは、俺たちだけではなく、中央区にいたすべての部隊が同じだろう。


 ……司令部は一体何をしていたのか?


「……核兵器探してた時間どうやって取り戻せってんだか……」


 そんな愚痴を思わず漏らしてしまうが、今回ばかりは誰にも責められるいわれはないはずだ。当然の文句であろう。こればっかりは。

 その核兵器を探す時間を使って、本来の化学兵器を捜索する時間を得ることができたはずだ。しかも、より確実な情報を基にしてだ。

 ……相手は同じNBC兵器。一刻も早く見つけ出すことの重要性は高い。考えようによっては、貴重な時間を無駄に帰してしまうことになったとすることもできてしまう。


 ……地味に、ではあるが、HQは寄りにもよって、あまりやってはいけないタイプの誤報を流したのではないだろうか。


『……ま、まあ、なんだ。一応、なかったことが確認できたことは喜ぼうや。化学兵器の脅威を低く見るつもりはないが、核兵器は一瞬で大量に犠牲者が出ることが確定してる殺戮兵器の中でトップだ。一つ脅威がないことが確認できたなら、それは悪いことではない』


「まあ、そりゃそうだけどよ……」


『一先ずここを出ようぜ。この後はその化学兵器の捜索とかいろいろある。先に玄関でまってるぞ』


「……了解」


 そのまま俺は無線を切った。確かに、核兵器の存在が確認できず、その脅威もどうやらないらしいことが確認できたことは喜ばしい限りだが、だからこそ、あまり曖昧すぎる情報で動きまくりたくはなかった。


 ……この落とし前どうつけてくれようか。


「……ユイ、帰ったら一発誰かをぶん殴る権利を与えてもいいぞ」


「そんなんやったら私下手すれば解体されますけど」


「大丈夫だ一発くらいなら誤射だってどっかの新聞社も言ってた」


「それ大バッシングくらってたでしょ……」


 そんなジョークを放ってストレスを発散しつつも、そのままエレベーターでホテルを1階に降りていく。

 敵から拝借したAK-47も、ついでなのでこのまま使っていくことにした。弾がなくなったらそこら近所に捨てればいいのである。


「(……はぁ。参ったもんだ)」


 思わずそんなため息をつく。この後は、核兵器捜索から化学兵器の捜索に切り替わるが、もうHQがどんな情報を出して気もすぐに鵜呑みできそうになくなった。たぶん、どこの部隊も同じだろう。


 ……はぁ。



「(……一体司令部はどうしたんだ……?)」





 いつもと様子が違うHQに、妙に違和感を抱くのだった…………


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