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BUDDY ―鋼鉄の相棒と結目―  作者: Sky Aviation
第6章 ~疑念~
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爆破予告

[PM16:45 皇居前公園 日本国防陸軍特察隊仮設司令本部]





 もう日が暮れ始め、空はオレンジ色に染まろうというところ。

 敦見さんらのブラックホークによって皇居前公園の司令本部に戻ると、そこは最後にここを出た時よりにわかに慌ただしい様子を見せていた。

 報告のため羽鳥さんがいる司令本部内仮設司令部のほうに入ると、中では主に警察の方からもたらされた情報により、若干の混乱が起きているようだった。


「警察港区愛宕10から連絡入りました! 芝公園内の住人は避難開始!」


「赤坂・六本木地区南方と新橋・芝地区西方の住民移動を急げ。カウントはないが念のためだ」


「スカイツリーは無視だと? アホ言え! 近くには隅田川区役所を含む近隣避難地区が集中してんだ。万一倒壊したら破片と爆風がそっちにいきかねねえだろうが! そっちの注意喚起ぐらいはやっとけってんだ!」


「HQよりサピン2-5。新宿区への救援を急げ。もう向こうは処理容量を超えている。混乱が収まらない」


「一先ずシーサイドのほうを優先だ! あそこの南には全体本部の臨海広域防災公園もあるんだ! 余裕のある人員はそっちに割いてくれ!」


 ―――騒々しいぐらいの室内。見える人は全員、手に電話の受話器や無線をつけて指示・伝達事項の送受をしているか、口頭での意思伝達をしているか。何れかの人らばかりだった。


「……よほどマズイ場所に仕掛けられたらしい」


「だな」


 混乱の様相から事態の重さを察した和弥がそう言った。この声さえも、目の前の騒々しい喧噪からすればとてつもなく小さな小言に聞こえる。

 一先ず羽鳥さんを見つけ、そちらに向かった。事の次第を報告せねばならない。新澤さんはユイを連れて一旦整備・チェックをさせるために席をはずしている。


「羽鳥さん、ただいま戻りました」


「―――ッ! きたか、お疲れさまだ」


 羽鳥さんも各所に指示を出している最中だった。簡単に部下に指示を出し終えると、妙に忙しい様子で額の汗をぬぐった。


「どうやら悪霊でも取り付いてるみたいだな、お前らは。新幹線を止めたと思ったら度重なる敵の襲撃。おまけにタイタンのフレンドリーファイヤときた。……何か取り付いてるとしか思えん」


「それだけじゃないですよ中佐。コイツはそれ以前に政府専用機で太平洋に落ちかけたり、ハワイでテロの襲撃止めに入ったり、そのあと色々と不運がですね……」


「ハハハ……」


 否定のしようもなく苦笑を浮かべるしかできなかった。俺自身も概ねその通りだと認識していたのである。確かに、最近何かと不運な事態にしかぶち当たっていない。そのたびに何とかしてきたものの、それは所謂悪運が強いという奴であろう。

 ……今回の件が解決したら、さっさと神社に行ってお祓いをしてもらうしかあるまい。


「タイタンのAIを回収できたそうだな。そっちは?」


「もう担当に渡しました。解析を直ちに行うと」


「よろしい。事と場合によっては、すぐに現在稼働しているタイタンを全停止しなければならないからな……。マズイ事態になる」


 現在、東京に配置されているタイタンは半数近くが今中央区に派遣されている。それらが全停止する事態となると、間違いなく武装集団に対する抑止が効かなくなるだろう。ようやく機動戦闘車も投入できるようになったそうだが、先ほどまでの混乱もあり、まだ全域の敵勢力の偵察が済んでいない以上、闇雲に投入することもできない。

 テロは全国の主要都市で大なり小なり起きているため、あまり思い切ったことをするのに慎重な姿勢をしているようだった。


 すると、和弥がすぐさま疑問を投げかける。


「しかし、そのために埋め合わせとして民間のロボットの統合制御がされていたはずです。そっちはまだ使われないんですか?」


 和弥の言いたいことをすぐに察した。

 中央区で、あの3人の救助をする際の会話を思い出した。このような事態になった場合、企業が保有しているロボットは警備用などの用途に一時的に用いるため、政府が借用できるようなシステムとなっていた。それに関する指令は、R-CONシステムを通じてすべてのロボットに個別に通達され、一元管理される仕組みとなっている。


 ……結局、あそこにいるときはそのロボットは1体も見なかった。あれだけの広い場所を色々と駆けて回ったのだから、一体ぐらい目についてもよかったはずだ。和弥の言う通り、あまりに不自然である。


 羽鳥さんは真意を察し、少し眉間にしわを寄せながら言った。


「それがな……政府の方から各企業あてに、R-CONシステムを通じてロボットの主導権を一時的に委任するよう令達して、例外なく各企業もそれに従いはした。各企業ごとのR-CONシステムの上位にさらに政府が設けた指揮令達システムを置くことで、R-CON経由で指令がいきわたる様にしたんだが……」


「……が、なんです?」


「詳しいことは知らんが……そのR-CONシステム側がな、勝手に“処理落ち”しやがったらしい」


「処理落ちィ?」


 思わず呆気にとられたような声を出した。

 ……すべてのロボットを司る重要なクラウドネットワークが、あろうことかここぞという大事な場面で“処理落ち”をかましたという。タイミングが悪すぎる上に、お前それでもクラウドネットワークかと言わんばかりの無様さである。

 東京都内・近隣の企業などが保有するロボットの大半が桜菱・富士見・有澤の3つの企業のものだが、それらのR-CONシステムが完全に落ちたらしい。そのため、たったあれだけのロボットしか現場に投入できなかったのだそうだ。

 すでにR-CONシステムの主導権は政府に渡ってしまったため、一旦企業のほうに返して直してからもう一度リンクさせようとしてもうまくいかず、仕方なく政府のほうで原因を今現在調査中のようだ。

 しかし、それが済むまではロボットはこれっぽっちも動かずじまいで、ただの物置か人形になっている有様らしい。


「―――どうもシステムのほうに対する異常な処理的過負荷を受けたようで、それによってシステムと支配下のロボットの保護のため自動的に緊急停止信号が発せられたらしい。現在復旧作業と原因究明に躍起になっている。政府がもうそのR-CONシステムの主導権を持ってしまったから、一旦返して直してもらうこともできず、処理落ちした3つの企業のR-CONシステムをそれぞれで復旧させるそうだ」


「うわぁ、めんどくせぇ……」


 和弥が隣で小さくぼやいた。同感である。複数の企業のR-CONシステムを一手に引き受けた結果、その不具合処理すら政府がやることになるとは……。いくら政府でも、こんなことは想定してなかったらしい。少しばかり時間がかかりそうだということだった。


「処理的な過負荷って、外部からですか? それとも伝達システムが異常を?」


「それも含めて調査中だ。今まで何度も防災訓練でこのR-CONシステムを使った訓練はしてきたから、政府の伝達システムに問題があったとは考えにくい。たぶん、外部からの関与が疑われる」


「ハッキングかな……?」


 一瞬だが、ハッキングによってロボットたちを支配下に置こうとしたのでは?と考えた。

 だが、R-CONシステムのセキュリティは堅牢で、簡単なハッキング程度でどうにかできるものではないことぐらいはわかっているはず。ちょっとばかし遅延を起こしても、すぐに政府が復旧して投入するだろう。その際に、セキュリティ強度も強くさせるはずで、むしろ自分たちを苦しめる結果になるはずだ。


 ……ロボットを狙った線というのは考えにくい。では、何があるのか?

 司令部内でも動機を掴めずにいた。


「ただの混乱を起こして行動を遅らせようってだけじゃないのか? 事実、それも一因にあってこっちの動きは遅れて、ホテル日本橋は客と従業員ごと奴らにとられちまった」


「それだけで一々システムに攻撃を仕掛ける意味がわからない。ホテル日本橋を確保するためだけなら、別の他の方法でもいいはず。……一々これを狙うほどの理由があるのか?」


 ホテル日本橋の奴は、行ってしまえば別にR-CONシステムにちょっかいを出さずともやろうと思えば確保はできなくはない。事が始まった瞬間、大挙してそこに武装した集団をけしかけてしまえばいいだけの話である。ロボットがくるまでもなく。

 一旦確保してしまえば、中にいる人らを人質に取ればロボットとて無茶な行動はできない。そうなる前に、上位システムたるR-CONシステムを通じて政府側が自重させる。


 よくわからない。これを攻撃して一体何をしたかったんだ?


「(……別の何かがあったか?)」


 記憶をたどるが、フラグになりそうなものは見つからなかった。

 ……探し切る前に、羽鳥さんがさらに話を進めた。


「とにかく、そういうことでロボットの投入はもう少し後になる。うまく進めば明日の夕刻には順次投入できるといっていた」


「それでも夕刻って早いですね」


「政府が雇った腕利きの技術屋がいるらしいな。まあ、とにかくそれまでは人間オンリーだ。……そんなことよりだ……」


 羽鳥さんはそう言って目の前の喧噪が収まらない司令部内を「どうしたものか」と言いたげな渋い顔をして一瞥した。


「……東京都内に爆弾が仕掛けられたという一方が入ってからずっとこれだ。まずはこっちをどうにかせにゃならん」


「状況を整理させてください。まず、爆弾はどこに?」


 情報を欲した俺は、羽鳥さんから爆弾に関する情報を貰うべく進言した。同時に、和弥も持ち歩いていたタブレットを取り出して情報をメモろうとスタンバイする。

 羽鳥さんは、司令部内に立てかけられた電子MAPを指しながら、おもむろに口を開いた。


「ああ……仕掛けられた爆弾は計4つ。『東京スカイツリー』『東京タワー』『晴海シーサイド・オフィスタワー』『新宿住河ビル』。ご丁寧に高火力のHNIW仕様だそうだ」


 都内の地図の中に、4つの地点に赤い点が表示される。それぞれが、羽鳥さんが言った爆弾が仕掛けられた場所だった。それも、構造建築物の中である。

 場所を見た瞬間、和弥は顔を若干青くさせた。


「うわぁ……これほとんど避難場所の真っただ中かその近くだわ」


「その通りだ。これに、避難場所と地区内残留地区を当てるとこうなる」


 電子MAPを操作し、もう一つの情報を追加。東京都内に設けられた地区内残留地区、つまり、災害時に広域的な避難をしなくてもよい地域と、避難場所を示したものだ。東京スカイツリー以外は、3つとも避難場所の中にある建物で、新宿住河ビルに至っては、避難場所であり、かつ地区内残留地区に指定されている場所のほぼど真ん中にある。つまり、ある意味一番安全とされている場所に、とんでもない爆弾が仕掛けられているということになる。


 ……先ほどから、避難指示やその類の援軍の要請が後を絶たないのは、これらのせいなのだろう。今現在、この爆弾が仕掛けられている場所にいる人たちは、全員別の場所に避難させているという。


「HNIW型らしいが、それって?」


 名称はよく聞いたことがあるが、詳しくは知らない。和弥に聞いた。


「ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン。CL-20とも呼ばれる。量産されてる爆薬の中では、世界的に見てもトップクラスの爆破能力を持っていて、自然にはない完全人工の物質が使われる。一言で言うと、めっちゃヤバい奴だ」


「私幌の奴であったセムテックスと比べると?」


「あれよりヤバい。あれがTNTの1.6倍の強さがあるが、これは2倍だ」


「げぇ……2倍?」


 TNTも十分破壊力抜群のものだが、それの2倍という。件のセムテックスと同じ爆薬なら、おのずと犯人もわかりそうなものだったが……今回は爆弾が違う。同一犯かどうかは少し見当がつかなくなりそうだった。

 和弥は続ける。


「スパコンを使って絶妙に調整された分子構造を基に構成されることもあって、一部の工場でしか本来扱われてなかったはずなんですが……。これが、持ち出されたと?」


「そう考えるほかはない。しかも、これが各4つの場所に、大きなぬいぐるみに隠された状態で置かれていた。だから最初、ただの置物だと思って皆気づかなかったのだよ。しかも、それぞれの建物はすでに中にいた人は全員避難した後だから、発見も遅れた。中を警備しているときにようやく見つけたんだ」


「避難場所の近くにあって、しかもいち早く避難するから真っ先に人がいなくなる建物……なるほど、爆破解体の条件はいいですな」


「周りに人がいることが一番の懸念だがな」


 そんなブラックジョークを和弥とかわすが、顔はこれっぽっちも笑っていなかった。

 テロ等では、ぬいぐるみの中に爆弾を仕掛けることはよくあることだ。数年前のイギリスの地下鉄テロの際も、ぬいぐるみの中にVXガスを発生させる装置が内蔵されていた。ぬいぐるみというのは、一般市民にとってはただの“おもちゃ”なため、警戒心を軽減させてしまうのだ。

 今回のぬいぐるみには、偽装のための少量の綿と電子基板とともに、パンパンにHNIWの火薬が詰められていたた。もし仮にこれが爆発しようものなら、たちまちその建物はただでは済まない。

 晴海シーサイド・オフィスタワーのほうは、建物自体が老朽化してしまい、しかも下の階のほうに仕掛けられているため、爆破の仕方と威力の伝播のしようによっては、最悪建物自体が崩れてもおかしくないという。

 同じことは東京タワーにもいえた。ある意味晴海のビルより高齢なこのタワーも、支柱部分に取り付けられており、4つの柱で支えられているうちの一つがこれで破壊されてしまったら、その影響で間違いなくバランスを崩して倒壊しかねない。

 しかも、東京タワーの場合、爆発した際破壊される支柱は芝公園側にあり、つまり、下手すればそっちに倒れてしまう可能性があるのだ。


 あっちはまだ避難が済んでいない。この状態で爆破されたら、たちまち被害が大きくなってしまうことは避けられなかった。


「(……なんだってアイツらそんな爆薬持ち込めたんだ?)」


 この爆薬は、和弥が言うように簡単に手に入れれるものではない。現代の軍隊でもポピュラーな爆薬であるがゆえに、取り扱いなども厳重にされていた。漏れるようなことは簡単には起きないはずであるし、当然、自作するというのも簡単ではない。

 仮に自作だったとすれば、その詳細な生成方法がどっかからもたらされたことになる。


「(……もしかして、今回のテロって思った以上に広範囲の奴らが関わってるのか……?)」


 想像以上に、裏の顔を持つ奴が多く存在する予感がしていた。

 羽鳥さんがさらに解説を加える。


「ぬいぐるみにはそれぞれ小さい紙が貼りつけられていた。東京スカイツリーの奴には『BIG』、東京タワーの方には『NOW』、晴海シーサイドオフィスタワーのほうには『WATER』、そして、新宿住河ビルの方には『INCREASE』」


「……何の意味があるんですそれ?」


「わからん。俺もさっぱりだ」


 羽鳥さんも両手を上げて早くもお手上げの表情を浮かべた。


「爆弾の制御装置は例外なくぬいぐるみの中に仕掛けられている。装置はすでに一般で知られている製作法に基づいたものだが、それによれば、このぬいぐるみの中にある装置は重量も常時感知する仕様のようで、ぬいぐるみの中を少しあけて爆薬のみを取り出そうとしも間違いなく減量を感知するだろう」


「わざわざ重量を感知するような仕様にした理由なんて……一つしかありませんね」


「こっちのやることは全部お見通しというわけだ」


 気に入らない、といった顔を羽鳥さんは浮かべた。

 爆薬のみを抜いていけば、間違いなくその分減量する。大きなぬいぐるみの中に入っているのは本来は綿だが、その大半を取っ払ってHNIWに取り換えているのだ。それを全部取ろうとしても、途中で減量を感知したら一発ドカンといくだろう。

 ……むやみに動かせない。ぬいぐるみの下と上に穴をあけて、爆薬を徐々に取りながら、それと同量の何かを入れていくというやり方もできるっちゃできるが……減量感知の精度がどれほどかわからない以上、リスキーなことはできなかった。

 羽鳥さんが次に行ったことがその理由と言えた。


「ぬいぐるみの方からは通信伝播も傍受できた。発信先を辿ったところ、どうやら他の4つの爆弾と常時リンクを張っているらしい。わざわざリンクを張らせるということは、何かしらの情報を共有するということだ。爆弾が共有する情報なんて限られてる」


「どれかが爆発したら、こっちも……ということですか?」


「そういうことだろうと司令部は読んでいる。だからこそ、迂闊に動かしたり手を出したりできない。EODはすでに各爆弾の前に到着しているが、手をこまねいて何もできない状態だ」


「ぬいぐるみの爆発物解体なんてあんまりやらないですからね……」


 EODは普通の爆弾の通電回路を操作したり、実際に爆発させて処理することにはお手の物だ。だが、こういったぬいぐるみが出てくるとなると、さすがにやれることが少なくなる。

 イギリスなどの事件もあって、訓練自体はやらないことはなかった。だが、今回のタイプは想定外だったらしく、あまりに入念に準備されており手をこまねいているようだった。


「通信伝播をジャミングしたりとかは?」


「ここまで入念に準備している奴だ。おそらくそれも想定しているはずだ。おそらく、通信がどこか一つでも繋がらなくなったらドカンだろうよ」


「それ、爆弾扱う側にとってもなんかリスキーなような……」


 和弥が少し苦笑を込めていった。電子機器が不調を起こすということも十分考えられる。それで爆発してしまおうものなら、被害はこっちだけでなく、加害者たるテロリスト側にも及びかねない。

 ……よくまあ、そんな危険なシステムにしようと思ったものである。


 しかし、それもあってこっちはうまく手が出せないのも事実だった。この現状は打破せねばならない。


 その時、羽鳥さんが伝令から何か一つの紙を受け取った。伝令はそのまま退いたが、羽鳥さんはその紙を熟読する。


「解除方法は? 何らかの手立てはあるんですか?」


「ぬいぐるみに小さく暗証番号を打てるテンキーがあった。おそらく、番号を当てれば止まるモノだと思われる。タイマーが見えないが、仮に時限式だったら……」


「急いで入力する必要がありますな。一応、テロリスト側が何かあった時のために用意した緊急停止用のテンキーでしょうが、わざわざそれを隠さないってことは、“やれ”ってことでしょうね」


「……やれ、というか、“やってみろ”、だな」


 そういって、羽鳥さんはその手に持っていた紙を少々呆れた表情で渡してきた。その紙は、どうやらSNSに投げられたとある投稿のコピーのようである。


「……これは?」


「“犯行声明だ”。奴ら、これをただのゲームか何かと勘違いしているらしい」


「ゲーム?」


  紙の中身を拝見する。そこには、端的に「ルール」と題されたものが書かれていた。



<ルール>

 ・4つの爆弾に解除番号を入力するテンキーがある。ただし、3つはダミーで番号を入れるぬいぐるみを間違えると4つとも爆発する。

 ・ジャミングなどで電波を遮断したら爆発する。

 ・制限時間なし

 ・番号は4つ。

 ・都内23区にヒントをばら撒いた



 ……たったの、これだけ。そして最後に、



 >……諸君らの健闘を祈る……<



 ……何が健闘だこのクソッたれ。と、俺は心の中で悪態をついた。


「……わざわざこれを示すということは、こっちを試しているんですかね?」


「わからん。もはや、向こうはこれがれっきとしたテロか何かだとは思っていないらしいな。刑事ドラマや名探偵アニメにある爆弾ものじゃないんだぞ」


 羽鳥さんは若干いらだっている様子だった。

 ただ単に爆破テロをしたいなら、それぞれの爆弾を通信リンクさせるまでもなく爆破させればよし。こんなルールなどといったふざけたタイトル付けた投稿をSNSにせんでもよし。

 ……明らかに、俺たちを意識したものであるだろう。制限時間なしといっているのが意味がわからない。こういうのは制限時間付きで、この時間までに爆破を止めてみろといったもののはずだ。でないと、いつ爆破させるのかがわからない。


「(……気分次第とか言うつもりじゃねえだろうな……?)」


 爆弾として機能を持たせている以上、制限時間がないというわけではないはずだ。いつかは爆発させる。それが、まさかテロリスト側の指一本と気分に委ねられてるとした場合……余計な焦燥感に駆られてしまう。


「(あえて時間を明かさないことで、余計疑惑と焦りを……?)」


 セオリー通りのやり方より、少し変化球持たせた方が意外性があって不意をつける場合もある。実際、時間がわからないと地味に焦る。余裕があるのかないのかわからず、それはそれで焦る。

 ……心理的に、情報がないというのはそういう意味にもなるのだ。


「とにかく、警察が今動いてはいるが、こっちにも協力を要請してきた。都内にばら撒いてるということは、解決する糸口自体はちゃんと提示するということだ。開いている奴らはそっちの協力に回ることも考えられる」


「俺たちはまだ?」


「君たちは今日はこの後は予定はない。もう日が暮れる。代わりの部隊が中央区に入ったから、少し体を休めろ。……とりあえず、お疲れさん」


「了解。お疲れ様です」


 紙を羽鳥さんに返し、一先ず俺と和弥は退出した。今日は夕方から曇りが多くなっているせいか、今この時間ですでに結構空が暗い。日没にはまだ早いが、皇居前公園ではすでに施設隊によって明かりがともされていた。


「ユイさんの整備とチェックもあるから、今日はこのまま休みだな」


「だな。……しかし、どうみるよ? この爆弾」


 俺は和弥に今回の爆弾について聞いた。色々と不審な点が多くあるが、何の意図をもってやってるのかがわからない。和弥なら何か知っていると思った。

 しかし、さすがに和弥にもわからずじまいのようだった。


「さあな。というか、テロリストが仕掛けたものにしちゃあちょっとやりすぎなところがある。爆破テロを起こすのに、なんでビルや電波塔を使った? 人を殺す目的で爆破テロを起こしたいなら、それこそもう少し人がいる場所にしかけてもいいはず。都内にある避難所にも、さすがに抜け道みたいなのはいくらでもあるだろう」


「そこから入って、人が多くいそうな場所にぬいぐるみの爆弾を置いて爆破させるってのでもよかったはずだな……。わざわざ人目の付かない場所に置いたのは?」


「そりゃ、隠しておきたかったってのがあるんだろうが……、しかしだ。場所から考えて、タワーにしかけたものならまだしも、ビルに仕掛けたものに関しては、主にビルにいる人を狙ったと見たほうがいい。特に新宿住河ビルなんて頑丈な作りしてるから、晴海の方みたいに倒壊は期待できない。仮に爆破しても、建物ぶっ壊して終わりだぞ?」


「それこそ下にいる人たちを巻き込みたかったんじゃないのか? 晴海のほうはもちろん、タワーを狙った奴なんて基本そうじゃねえか?」


 尤も、スカイツリーのほうはあまり意味がなさそうに見えるが。一番近い避難場所の隅田川の向かい側にあるし。


「警備員が常時回ってることだってむこうは知らないわけじゃない筈。爆弾があった場所にもよるが、警備員に見つかるような場所に置いておきながら、制限時間はなしってのが意味がわからん。仮に見つかっても、制限時間をつけておくならこっち側に不利になるが、これだと“お好きにお使いください”と言わんばかりのもんだ。……矛盾が多すぎるな。ほんとに爆破したいのか?」


「……というと、何が言いたい?」


 妙に含みのある言い方だった。爆破したいのか。それを疑問に思うとともに、もう一つ別の意味が込められていると見た。

 和弥は熟考しながら静かに言った。


「……いや、ただの考えすぎと思いたいが……、この爆破が、奴らの考える目的の一つなのか、それとも“エサ”なのか」


「エサ?」


「そう、エサ。……俺たちを吊り上げてしまうための、な」


「ッ……」


 つまり、これはただの囮か何か、と言いたいのだろう。

 大げさに爆弾を置いた割にはやってることが矛盾しまくりな爆破予告。制限時間なしを筆頭とした、あまり一般的とは思えない爆破テロは、実は単なる釣りの餌でしかなかったとなると……。


「……目的は別にあるってか?」


「さあ、わからん」


「わからんっておま……」


「あくまで根拠もない予想だよ。実は本当に爆破させるつもりで、大衆が見守ってる中でテロの被害を演出することで、あえて恐怖心を与えたりするって意味もあるかもしれないし、狙われたのは東京の中でも結構著名な建物だから、心理的なショックを与えるつもりもあったかもしれないし……一応、幾らでも考えようはある」


「……」


 和弥の考える裏の推測はどれもありえそうなものばかりだった。心理ショックを与えるという面でも、こういうテロの際は住民と軍・警察との連携が重要な場面では弊害となる可能性もある。色々と入念に事を構えているらしいアイツらならありえなくはなかった。

 ……しかし、結局今の段階ではそれを断定はできない。情報が少なく、その少ない情報も矛盾をはらみ過ぎている。



「……何をしたいんだあいつらは……」





 矛盾した情報に、俺は混乱するしかなかった…………

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