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夢と現実のはざまに

作者: 黒坂凪朔

私が投稿する2作品目……読みにくい部分もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

「ゾクッ」

 寒さで目が覚めた。目の前に広がるのは一面の白い壁。左に視線を向けると窓が見える。私は、柔らかい物の上に寝転がっているようだ。右側に何かの気配を感じる。顔を向けると、丸い机を挟んで、椅子に座っている女の人がいた。 

 色白で顔も小さい。そして切れ長の目に小さな唇。花魁(おいらん)のように(まと)めた髪には、金色の花の形の(かんざし)をさしている。白い蝶の模様の入った黒い着物を着た二十代くらいの女性であった。美しく見えるが、なにか怖いという感覚におそわれた。

 私の目覚めに気づくと、女性は、「おはようございます」と笑顔で言ったようにみえた。なぜか彼女の声は聞こえない。挨拶を終えると、白い花柄の急須(きゅうす)から白い蝶の絵柄の入った湯飲みにお茶を注ぎ、私に差し出した。

 この女性を心の中では警戒しているにもかかわらず、体は自分のものではないかのようにリラックスしている。ゆっくりと起き上がると女性の方を向いた。そして白い湯気の立つ湯のみを両手で持ち、窓の外の月を眺めていた。

 お茶を飲み干し空になった湯のみを机に置くと、目の前が真っ白にぼやけ記憶が途切れた。その後、今度は暑さで目が覚めた。周りを見渡すと、同じ部屋であるが、花魁(おいらん)のような女性はいない。


 この部屋は、大学内にある談話室である。室内には丸い机とコの字型の橙色のクッションがいくつも置かれている。増築されすぎて迷路のようになっているせいか、談話室にたどり着くのは難しい。そのため、この部屋に来る学生は、あまりいなかった。

 夏休みを終えたところで、まだまだ暑い日が続いている。私は、友人のクラブ活動が終わるのを談話室で待っていた。時計を見ると午後八時を回っている。いつのまにか眠っていたようだ。

 さっきのおかしな現象は、夢だったのだろうか。まだまだ三〇度を超す熱い日に、冬のように寒く感じ、熱いお茶を飲んでいたなんておかしな話だ。私自身、猫舌で湯気が立つような熱いお茶を飲むことがない。怖さを秘めた女性であったが、「また、あの綺麗な女性が出てくる夢を見られないだろうか」と思いつつ談話室を去った。

 この日以降、あの女性が出てくる夢をよく見るようになった。図書館、クラブの部室、食堂や空き教室など、大学のキャンパス内で眠ってしまうと彼女の夢をみてしまう。毎回、決まったように同じ場面の繰り返しだ。普通なら気持ち悪く感じ、友達や先生、家族などに話すのかもしれない。でもこの夢は、大学内で眠らなければ出てこない。そして夢に対して不安を感じることもなかった。「自分の理想に近い女性が、夢の中に出てきているだけだろう」と考え、この夢を誰かに話すことはなかった。しかし毎回のように同じ場面が続くと、夢の続きが気になった。そこで、また同じ夢をみたら彼女に話しかけようと考えるようになった。

 彼女が現れ始め、数か月がたった頃だ。前日に友人と深夜まで飲んでいたため、講義中すごく眠かった。でも、試験が近いこともあって踏ん張って講義を聴いていた。昼食を食べると午後の講義を寝てしまう可能性があったので、昼も抜いた。講義を終えた後、そのまま帰ってもよかったが、バイク通学をしていたので、ひと眠りしてから帰ることにした。

 談話室に行くことにしたのは、静かで眠りの邪魔をされることがないためだ。そして、もう一つ理由があった。ここなら彼女の夢を見やすいという期待があったためだ。

 コの字型のクッションに寝転がり、「今日、彼女が出てきたら、絶対話しかけよう」と思いつつ眠りについた。

 またいつもと同じ場面だ。着物姿の女性が、笑顔で私にお茶を勧めてくれる。しかし、いつもと違うことがあった。この女性と会話をしたいと思い眠ったためなのか、彼女が望んだのかわからない。夢の中で初めて彼女の声が聴こえたのだ。

「おはようございます東田さん、今日もお疲れですね」

と言って、湯呑みを差し出した。

「美月さんも忙しい人なのに…いつもありがとうございます」

 この女性と話しているが、私が言葉を紡いだのではない。私ではない私が、この女性と話しているのだ。男性が窓を向いた時、私ではないことがわかった。窓ガラスに写る顔は、私とそっくりだが、なで肩で骨と皮だけのようにやつれている。洋服ではなく浴衣を着ている。そして周りの風景もいつもの夢とは違う。天井は木造で、壁は砂壁作りだ。机も椅子も木製であった。私は、その木製の椅子を四つ並べて寝ていたのだ。

 お茶を飲み終わると、「夜の散歩に出かけましょうか…」と彼女に声をかけ、寄り添ってこの部屋を後にした。ここでゆっくりと彼から切り離され、夢から覚めた。

 私と思っていた男性は、どうやら東田という男性であった。そして、美しい着物の女性は、美月という名前であることが、この日の夢でわかった。

 それ以来、さらに夢の続きが気になった。だが美月の出てくる夢を見たいと考えれば考えるほど、自分の気持ちが強すぎるのか、大学で眠っても二人の物語を見られない。学業が忙しくなり現実のことで頭が一杯になると、再び二人の夢を見るようになった。

 二人の声が聞こえた後、美月と東田の物語は進展していく。ある時はお祭りの場面、二人で美術館に遊びに行っている場面などもあった。二人の距離はあまり変わってないように見えたが、美月に対しての呼び方が「美月さん」から「美月」へと変わっていた。また彼女が、東田に対して呼び方にも変化があった。「東田さん」から「正吉さん」へと……。

 夢に出てきた男性についても気になり始めていた。私と同じ顔立ちで、母の旧姓の名をもつ人物。気になり始めると他のことに集中できなくなる性格のため、すぐに母方の祖父の正次郎じいさんに会いにいった。

 祖父の家に着くと、挨拶もそこそこに、

「じいちゃん。先祖に、俺にそっくりな人いたの?」

「その人、超美人と付き合っていたとか、結婚とかしてなかった?」

と矢継ぎ(やつぎ)早に質問した。

 正次郎じいちゃんは、しばらく黙っていたが、ポツリポツリと語り始めた。

 三代前の祖父の弟が、私の顔立ちとよく似ている。古い写真を見せてくれた。そこに写っていたのは、まさしく夢に出てくる人達であった。驚くことに、二人の名前は、「正吉と美月」と夢に出てきた名前と同じであった。正吉は、体が弱く三〇代半ばで死んだそうだ。正吉が結婚を考えていた相手が、夢に出てきた美月であった。正吉が死んで深い喪失感を味わったのだろう。彼女は見る見るうちにやせ細り、正吉が死んで半年もたたないうちに姿を消したそうだ。

 正次郎じいさんの話を聞いて以降、さらに夢の続きが気になっていた。だが前回と同じように自分の気持ちが出すぎるのだろう。少しの間、大学内で正吉と美月の夢を見ることはなかった。現実が忙しくなり、夢のことばかり考える暇がなくなると、また二人の夢を見るようになった。

 久しぶりに見る夢では、白い布を顔にかけた正吉の脇で、美月が泣き崩れている場面だった。正吉が死ぬことによって彼から解き放たれたのだろう。夢の中で私は、宙に浮かび正吉と美月を見ていた。

 正吉が死んだ後、同じ場面の夢が続くようになる。夢の始まりは、美月が崖の先に座り込み、うつろな瞳で崖の下を見ている。そして、夢の終りは、何かを覚悟したのか美月が立ち上がる。それに合わせるかのように私は、夢から追い出され、目覚めるのだ。

 この時の私は、正吉とリンクしているときとは違って、体を動かすことも言葉も出すこともできるようになっていた。でも美月には、触れることも声が届くこともない。けれど彼女を見ていると、どうしても言葉をかけずにはいられなかった。同じ夢を見ているのは、わかっていた。だが夢を見るたび、美月を励ましていた。

 十一月二五日、美月の夢を見た最後の日だった。いつもの崖に美月がいる。だが、いつもと違うことがあった。崖の先端にたっている。そして、彼女の横には蝶の鼻緒の下駄が綺麗に並べられている。下駄の下に二つに折られた紙があった。彼女の顔には涙の跡があり、何かを覚悟しているようにもみえた。

それを見た私は、

「死ぬな~‼」と喉が潰れるほど大きな声で叫んでいた。

 彼女に私の声が届いたのかわからない。でも彼女は私の方を向いて、「正吉さん?…」と小さくつぶやいた。美月の振向いた方には、誰もいない。糸の切れた人形のように、その場に座り込んだ。そして、泣きじゃくりながら、何かを叫んでいた。だが、私には美月の声が聞こえない。

 美月の夢に白い(もや)のようなものが現れ始めた。目の前が真っ白になったかと思うと目が覚めた。美月がどうなったのか知りたかった。だが、この夢を最後に彼女の夢を見られなくなった。


 美月と正吉の夢を見なくなって数年が経っていた。最後の夢を見て以降、日々の忙しさによって二人の夢のことは、忘れていった。

 この日、小料理屋で、蝶の柄の器を見たり、蝶柄の着物を女性にあったりと、美月を思い出す出来事が続いた。そして気がつくと誰かに呼ばれたかのように私は、山の上にある正吉さんが眠る場所へ向かっていた。

 正吉おじさんの墓掃除を終え、お墓に「正吉さん、美月はどうなったんだろう。彼女は、幸せになったんだろうか」「正吉さんは、美月が自殺しかけたとき、あなたもあの場にいたのですか?」と、語りかけていた。そして、桶とバケツを戻しに水場に向かった。

 正吉さんの墓から十メートルくらい下っていくと、水場に一人の女性がいるのが見えた。近づくにつれ、その女性が、蝶の柄のワンピースを着た髪の長い人だとわかった。着物ではないが背丈も雰囲気もなんだか懐かしい。彼女のことを考えていたので、「もしかして、幻を見ているのだろうか」と私は、眼をこすったが、消えることはない。そして私が水場に着くと女性が振り返る。

 そこには夢に出てきた美月の面影をもつ女性がいた。


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