16.秋から冬へ
大会が終わり、学園は通常の授業へ戻った。
秋が深まるにつれて、ルベルドの学園での立ち位置も少しずつ変化していた。
一年生大会の優勝、そして大会後の「あの宣言」は思いのほか広まっていた。特別近衛騎士を一年生が目指すと公言した事実は、上級生の間でも話題になったらしく、ルベルドの名前を知っている生徒が増えた。
「ルベルドって、あの大会で優勝した子?」
食堂で列に並んでいるとき、後ろで聞こえた声だ。ルベルドは振り向かなかったが、聞こえていた。
「そう。闇属性の一年生。なんか王女様に対して近衛騎士になるって宣言もしてたらしいよ」
「え、王女に向かって言ったの? 度胸あるな」
(……まあ、思っていたより目立つことになってしまったな)
ルベルドは淡々とトレーに食事を乗せながら、そう思った。目立つことの弊害は承知していた。しかし「言ってしまったこと」を取り消す気はない。
変化はネガティブなものだけではなかった。
一年生の中では、ルベルドに積極的に話しかけてくる者が数人現れた。魔法の質問をしてくる者、試合について聞いてくる者。ルベルドはそれを邪険にすることなく、必要な答えだけを返した。全員と仲良くなるつもりはないが、孤立することにも意味がない。
また、ダリアとの関係も少しずつ変化していた。
朝の廊下で顔を合わせると、今ではダリアの方から先に挨拶をするようになっていた。
「やぁルベルド」
「ダリア」
それだけだが、以前の無言と比べれば格段に違う。大会での試合が、二人の間に「認め合った者同士」というある種の共通認識を生んでいた.
ある日の放課後、演習棟に向かうと先にダリアが練習していた。ルベルドは少し離れた場所を使った。互いに干渉せず、それぞれの練習をした。
しかし練習を終えて道具を片付けていると、ダリアが話しかけてきた。
「……炎魔法の速度を上げる練習をしているが、これ以上速度を上げると精度が落ちる。どうすれば両立できる」
ルベルドは少し考えた。
「魔力の圧縮だ。速度は出力を上げることで得られるが、多少精度を犠牲にする。代わりに、魔力をより小さく圧縮してから放つ。密度を上げることで速度と精度を両立できる。最初は小さい魔法で練習する方がいい」
「……密度か」
「試してみれば分かる。俺の闇魔法がそのやり方だ」
ダリアは少し黙ってから「分かった」と言い、再び練習に戻った。
学業の面では、ルベルドはどの科目でも上位の成績を維持していた。
特に魔法理論は毎回最高点近く、歴史も安定していた。一方で「実技」の評価は、意図的に少し落としていた。本来の実力より明らかに下の点数をつけられることもあったが、それも「一年生の最優秀」という程度に抑えるための調整だ。まだ加護を持っていないはずのルベルドとしてはこれが丁度いい程度だと考えていた。
問題は、一部の教員がルベルドの「加減」に気づき始めていることだった。
魔法実技の担当教員―――ロウという名の四十代の男だが、演習中にルベルドの動きをじっと観察することが増えた。
「ルベルド、今の魔力弾の出力は?」
「中級一段階目の基準に合わせました」
「合わせた、ね」
ロウは眼鏡の奥の目を細めた。
「自分の上限で出したわけじゃない、ということか」
「……上限まで出す必要はないと考えています」
「課題に応じた出力で臨む。それは確かに正しい考えだ。しかし実技評価は君の『本来の実力』も含めて判断したい」
「それは、上限を試せということですか」
「試したいと思っている。もちろん強制はしない。ただ―――」
ロウは少し間を置いた。
「隠している理由がなんであれ、特別近衛騎士の選抜試験では審査員がある程度の実力者だ。ごまかしは通らない。それだけは頭に置いておきなさい」
ルベルドは答えなかった。
(……やはり気づいていた。この教員は鋭い)
選抜試験でどこまで力を出すか―――それはまだ決めきれていない問題だった。しかし、いつまでも先送りにはできないことも分かっていた。




