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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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14.4年生大会 (前編)

 そして四日目―――四年生大会の日がきた。


 演習場の観客席は、過去三日間のどの日よりも多くの人間で埋まっていた。上位学年の生徒はほぼ全員が来ており、一部の教員も私服で観戦しているのが見えた。学園外からの見物客も何人かいるようだった。


「すごい人だ……」


 レインが圧倒されたように言った。


「四年生の大会というのはこんなにも注目されるのだな」


「特別近衛騎士が三人いるから、大きな騎士団が勧誘目的とかで来るんだ。それも今年で卒業だから見納めってのもあるかな」


「そうか」


 ルベルドは演習場の入場を待った。


 四年生の参加者が入場してきた。


 その中の三人が―――入ってきた瞬間に近衛騎士だと分かった。


 まず、青いマントを纏った長身の男子生徒。黒髪を短く刈り込み、四角い輪郭をした顔には落ち着きと貫録が滲んでいる。年齢は十七、八か。歩き方から体幹の強さが一目で分かる。


 次に、同じく青マントの女子生徒。赤い長髪を後ろで高く束ね、鋭い眼光をしている。身長はそれほど高くないが、体の線は鍛え上げられており、纏う魔力の質が他の参加者と段違いに濃い。


 そして三人目―――これが、ルベルドの目を最も引いた。


 細身の男子生徒。茶色の癖のある短髪、眠そうな目。歩き方は三人の中で最もゆっくりで、どこか無気力にも見えた。しかし、その周囲の空気だけが他の二人より、重かった


「……あの三人が特別近衛騎士か」


「うん! 左から、クロード・アルバ、エレナ・フォルテ、それとセン・ヴァルト。三人とも有名人だよ」


 隣の生徒が興奮気味に言った。


「センさんなんて、先生と試合して引き分けたって噂もある。すごいなぁ!かっこいい!!」


(……先生と引き分け、か)


 ルベルドは三人を観察した。


 三人の持つ圧力は——正直なところ、今まで一年生から三年生まで見てきた誰とも比べ物にならなかった。


(これが加護を得た、鍛え抜かれた人間の頂点か)


 ルベルドの中の、分析する部分が静かに動いた。


 興味があった。純粋に。


「それでは、四年生魔法大会を開始する!」


 司会の声が響き、最初の試合が始まった。


 四年生大会の最初の数試合はその試合でさえ、三年生大会の決勝と同等の水準だった。加護を持つ生徒の割合が高く、魔法の交差が常に鋭く、重い。


 ルベルドは全ての試合を見ながら、三人の近衛騎士の動きを観察した。


 クロード・アルバは土属性だった。体格を活かした大出力の魔法が得意で、防御を固めながら相手を押し込むスタイル。魔力の密度が桁違いで、大きな土の障壁が崩れるのを見たことがなかった。加護の神は大地神——それが見れば分かった。


 エレナ・フォルテは炎と風の複合属性。連続攻撃の速度と手数が圧倒的で、相手に考える暇を与えない。加護の神は戦神——そう聞いて、ルベルドは「なるほど」と思った。彼女の戦い方は、まさに戦士のそれだった。


「次の試合―――七番、クロード・アルバ!」


 クロードが舞台に進み出た。対面には四年生の中でも実力者と見られる、光属性の生徒。


 試合が始まった瞬間―――クロードは一歩も動かなかった。


 相手の光魔法が飛来した。速い。直撃すればまともに立っていられないであろう威力だ。


 しかしクロードが右手を前に出すと地面から石の壁が隆起した。高さ二メートル以上、厚みも相応の障壁が、一瞬で出現した。


 光魔法が障壁に当たり、砕ける―――いや、砕けなかった。障壁は光の衝撃を吸い込むように揺らいで、そのまま元の形を保った。


(……魔法を吸収する障壁?)


「大地神の加護か」


 ルベルドは独りごちた。


「岩や土に魔法を吸収させる力―――受け流すのではなく、完全に無効化している)


 クロードが左手を上げた。


 足元から地面が盛り上がり―――相手の立っている場所の地面が、まるで生き物のように隆起した。相手が跳んで回避しようとしたが、その足元にも連続して土柱が生えてくる


「わあっ!」


 レインが椅子から半分立ち上がった。


「地面が追いかけてる!」


 相手が舞台の端まで押し込まれた。一歩でも下がれば場外―――その瞬間、クロードが静かに右手を振った。大きな土の波が横薙ぎに走り、相手を舞台の外に押し出した。


「判定―――七番クロード!」


 会場が揺れるほどの歓声が起きた。


(……防御と攻撃を同時に展開しながら、魔力の消耗がほとんど見られない。加護の恩恵が防御に集中している分、攻撃は完全に自前の魔力だ。それでもこの出力)


 ルベルドは感嘆に近い何かを感じながら、次の試合を待った。


「次―――二十番、エレナ・フォルテ!」


 エレナが舞台に上がった。赤い髪が揺れる。鋭い目が相手を見据え、対戦相手がわずかに怯んだのが分かった。


「始め!」


 エレナは初動から全力だった。


 炎と風が同時に走った。炎の矢が五本、それを包む風の渦が相手の回避方向を限定する―――そういう組み合わせだ。


 相手が防御魔法を展開したが、エレナはその防御魔法ごと押し込んだ。炎の圧力が風の速度で倍加し、防御を一枚一枚剥がしていく。


「……手数と圧力が桁違いだ」


 ルベルドが言った。


「相手の防御を突破するために、後から後から押し込んでいる。静止する間を与えない」


「二属性同時なのに、制御できるなんて……!」


「通常の人間ならできない。加護で属性の適合範囲を広げているから、あの水準で二属性を扱えるんだろう」


「加護ってすごいな……」


 エレナの攻撃は止まらなかった。相手が反撃に転じようとする瞬間を先読みして、そこに炎を滑り込ませる。三十秒ほどの試合で、相手の防御が完全に尽きた。


「判定―――二十番エレナ!」


 エレナは勝利しても表情を変えなかった。淡々と舞台を降り、次の試合を待った。


(……戦い慣れている。勝利を当然のものとして受け取っている。それが、本当に強い者の所作だ)


 ルベルドはそれを見て、何かを感じた。こういう者たちが人間界の頂点にいるなら―――人間を「劣った存在」とひとくくりにしていた魔界の認識は、間違っていた。ここの頂点にいる人間たちはそこらの魔族を圧倒する。


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