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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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13.3年生大会

 二年生の大会は、一年生のそれより規模が大きかった。出場者の数からしてその違いは大きく出ている。一年生は全体の3割程度が出場したのに対して二年生は7割を超えていた。


 演習場の観客席は上位学年の生徒たちで埋まり、先週の一年生大会とは明らかに熱気が違う。ルベルドとレインは観客席の中段に並んで座った。コゴメは同様に離れた別の区画にいる。今回はダリアもその隣で見ていた。


「レイン、二年生はどれ程強いのだ」


 ルヘルドが珍しく質問してきた。


「それはもう一年よりずっと強いよ」

 

 レインが嬉しそうに語る。


「まず、属性の習熟度と経験値が全然違う。単純に比べるものじゃないんだけど……何より加護の差がある」


「加護?」


「神からの祝福のことだよ。学年が上がるにつれて、加護を授かる者が出てくる。加護を受けた者の力は、受けていない者の平均を大きく上回るんだ」


「ほぉ……それが二年生にもいるのか」


「例年だと一人か二人、位。三年以上になると本格的に増えていくらしい」


 ルベルドは「よく知ってるな」と言った。

 レインは「まぁ、色々聞いてきたからな!」と返した。


 ルベルドは加護について考えた。

 昔の事にはなるがそれに関連した書物を読んだ記憶がある。魔族と人間の戦いの歴史を記した魔界の書物には、人間の加護制度についての記述があった。人間が魔族に対抗できる理由のひとつが加護であり、それを研究することは魔族にとっても重要だとされてきたという。


(……実際に見るのは初めてだが)


 ルベルドは観客席から演習場を見下ろした。


「十番、ユーリ・ファルコ。対、二十番、サクラ・レイン。試合開始!」

 

 二年生の試合は、確かに一年生とは次元が違った。


 特に目を引いたのは、試合の「密度」だ。

 一年生の試合は、攻撃と防御の間に間があった。魔力を集めて、放って、次の手を考えて——というサイクルが見えた。しかし二年生の試合はそのサイクルが圧縮されており、まるで会話のように攻防が連続する。


「速い……!」


 レインが前のめりになった。


「あの水属性の子、あの威力の攻撃を連続で七発撃ってる!」


「魔力循環の基礎が固まれば、あの程度の連続攻撃は可能になる。問題は相手も同じような実力ということだ」


 対面の炎属性の生徒が、七発の水魔法を炎の障壁で受け止めながら反撃している。炎の盾は鉄製の盾のように実体があるわけではないが、正しく展開すれば水属性の魔法を蒸発させて相殺できる。


「魔法が、ぶつかり合ってるっていう感じがする」


 レインが言った。


「一年の俺たちって、まだぜんぜんなんだな」


「そうだな」


 ルベルドは正直に答えた。一年生同士の試合は、今から考えれば互いの手探り状態に過ぎなかったのだと思った。


 二年生大会は順当に進んだ。印象に残ったのは、決勝に進んだ光属性を得意とする少女―――ユーリ・ファルコだった。


 短い銀髪に、涼しげな水色の瞳。表情の変化が少なく、試合中も淡々としている。しかし魔法の精度は二年生の中で頭一つ抜けており、光属性特有の「速度と見切りにくさ」を最大限に活かした戦い方をしていた。


「ユーリ・ファルコ、あの生徒はどんな奴なんだ」


 ルベルドは隣の生徒に聞いた。


「え、知らないの? 二年生の最優秀生徒だよ。特別近衛騎士の候補とも言われてる子」


「……二年生にも特別近衛騎士候補がいるのか」


「近衛騎士は現四年生に3人いるでしょ。でも卒業したら一気に三枠空くから、次の候補として注目されてる。ユーリさんはほぼ確実だって言われてるけど……」


 ルベルドは演習場のユーリを見た。


 光魔法が走る。相手が防御に回る。ユーリには余裕があった。相手は必死に抵抗するように戦っているがこちらは顔が笑っている。

 戦いを楽しむ余裕を持っているのだ。


(……強い。加減の範囲内では対処出来るか)


 ユーリを見て加護を受けた場合は話が変わるというのは本当なのだと思う。加護持ちの人間の戦闘力は、受けていない者の数倍に跳ね上がることがある。


 書物の知識と、今の目の前の情報をすり合わせながら、ルベルドは観察を続けた。


 ユーリが決勝で勝利し、二年生大会は幕を閉じた。


 表彰の場でユーリは短く「ありがとうございます」とだけ言い、壇上を降りた。観客席がわっと盛り上がる。それを見てユーリはにこやかな笑顔をつくって手を振ったりしている。


「なんか元気な人だなぁ」


 レインが言った。


「元気―――それだけではない」


「え?」


「試合が終わっても、気を緩めていない。常に次を見ている」


「ルベルドみたいな感じってことか?」


「……俺はもう少し隙がある」


「そういう自己分析する人間が隙があるとは思えないけど」


 レインに笑われて、ルベルドは答えなかった。ルベルドは同年代と比べれば達観している方だが、それでもまだ12歳の子供なのだ。


 ◆◇◆◇


 それから次に行われた三年生大会は、二年生のそれとも明確に違った。


 違いは「重さ」だ。


 演習場に漂う魔力の密度が、前二日間とは異なっていた。一年生、二年生と続けて観戦してきたルベルドには、それがはっきりと分かった。生徒たちが試合前に魔力を展開するだけで、空気がざわりとするような感覚。

 魔族の感覚器官を持つルベルドには、それが皮膚に触れる圧力として感じられた。


「なんか今日、空気が違わない?」


 レインが眉を寄せた。


「なんか、重い気がするけど」


「感じるか」


「なんとなく。気のせいかな」


「気のせいではない。魔力の密度が違う」


 レインは首を傾げながらも、演習場を見た。


 三年生の参加者が並んでいる。その中に、一人だけ——明らかに「色が違う」生徒がいた。


 背は高くはない、むしろ小柄な部類だ。紺色の長い髪を後ろで束ねており、制服の上に特別近衛騎士の証である青いマントを羽織っていた。年齢は十五か十六。整った顔に、細い目。口元には薄い笑みが浮かんでいたが、その笑みがどういう感情から来るものなのかは読めなかった。


「……あれが三年の特別近衛騎士か」


 ルベルドは小さく言った。


「そう! レオニード・クレインっていう人。三年生の近衛騎士だよ」


 隣の生徒が急に立ち上がり興奮したように話だす。


「去年の大会でも優勝してて、学園でも四年生の近衛騎士の次に強いって言われてるんだ!痺れるよね!」


「属性は?」


「雷属性。加護持ちで……加護の神様は確か、嵐の神だったかな」


(……雷属性、加護持ち、か)


 ルベルドは観察を深めた。


 レオニード・クレインの周囲の空気は、他の生徒と明らかに違う。魔力が常時漏れ出しているわけではないが、圧縮されたどっしりと密度の高い物を肌でジリジリと感じる。

 加護を受けた者特有の「魔力の質の高さ」―――書物で読んだ言葉を明確に理解できる実例だった。


(問題は、その実力がどの程度か。俺が本気を出した時に対処できるか?)


「七番、レオニード・クレイン対、十一番、マルコ・ベルト。試合開始!」


 レオニードが動いた瞬間——ルベルドの目が鋭くなった。


(速い)


 速い、という言葉だけでは足りないかもしれない。まるで雷そのもののような―――動き出しに予備動作がなかった。通常の魔法使いは攻撃前にわずかに構えを作る。しかしレオニードには、それがなかった。


 細い雷の束が走った。

 相手のマルコが横に跳んだ―――が、雷はマルコが動いた先に既にいた。


「ぐっ……!」


 マルコが痺れて膝をついた。試合の規定では「十秒以上の行動不能」が判定の条件だ。マルコは立ち上がろうとしたが、残留する電気が体を縛っていた。


「判定―――七番、レオニード!」


 会場が静まった後、大きな歓声が上がった。


「……早すぎだろ」


 レインが呆然と言った。


「今、何が起きたんだかルベルド分かるか?」


「読んでから動いた」

 

 ルベルドは答えた。


「相手の動きを見てから放ったのではなく、相手がどこに動くかを先に読んで、そこに雷を送ったのだろう」


「え、そんなことできるの?」


「できる者はできる。相手の動き出しの兆候――重心の移動、視線の方向、呼吸のリズム――それを瞬時に読めば、動作より先に攻撃を届けられる。雷属性の速度があれば、なおさら」


「……お前、今の一試合でそこまで読んだの?」


「見れば分かる」


「見てわかんなかったんだけど。……人間じゃないな」


 レインが呟いた。


 ルベルドは答えなかった。


(……人間じゃないのはそうだが、それは別の意味だ)


 心の中でだけ、そう付け加えた。


 レオニードの試合はその後も続いた。準決勝、決勝と進むにつれ、相手の実力は上がっていった。しかしレオニードの戦い方は変わらなかった―――淡々と、無駄なく、正確に。


 決勝の相手は風と水の複合属性を使う上位生徒だった。複合属性は単属性より制御が難しいが、その分攻撃パターンが読まれにくい。


 試合が始まった。複合属性を得意とする生徒が風で牽制しながら水の針を飛ばす。高速の複合攻撃、一年生にはまず防ぎきれないだろう。


 しかしレオニードは、その全てを()()()()()()


「……え?」


 レインが声を上げた。


 正確には、避けたのではなく「消した」。レオニードの体を包む薄い雷の膜が、飛来する攻撃を触れた瞬間に分解した。風は乱され、水の針は蒸散した。


「加護……あれが加護の力か」

 

 ルベルドは静かに言った。


「え、あれが?」


「常時展開型の防御膜。加護の恩恵によって、魔力を消費せずに維持できる防御壁だ。普通の生徒なら維持するだけで魔力を食い潰す。あの水準で展開しながら攻撃もできる。それが熟練の加護持ちなのだろう」


 レオニードが踏み込んだ。

 雷が三本、扇状に走った。相手が防御魔法を展開するが―――その瞬間、レオニードは笑みを深めた。


  防御魔法の隙間を縫うように、四本目の雷が一直線に走った。


「——っ!」


 相手が吹き飛んだ。舞台の外に出る。


「判定―――七番、レオニード!!」


 観客席が沸騰した。


 ルベルドは静かに演習場を見た。

 レオニードが壇上で勲章を受け取っている。表情は——まだあの薄い笑みのままだ。


(……強い)


 純粋に、そう思った。魔族である事を隠そうとしては、あの戦い方に対して苦戦するかもしれない。まだ力の余裕はあるが、余裕が必ずしも「楽に勝てる」を意味しないことは分かっている。


(加護を持つ人間の戦い方を、もっと研究する必要がある)


 ルベルドはそう記憶に刻んだ。


 表彰で一言を求められたレオニードは、薄い笑みのままこう言った。


「また来年も勝ちます」


 それだけだった。観客席がどっと笑った。


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