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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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11.魔法大会当日(コゴメ視点)

 大会の会場は、思っていたより賑やかだった。


 コゴメは王族用に用意された観客席の端に座り、試合が始まるのを待っていた。隣にはダリアが立つことも許されていたのだが、ダリアは参加者なので今はこの席には立ち入れない。


(……ダリア、緊張してないかな)


 そう思いながら選手入場を見ていると、制服姿の少年少女が列を作って歩いてきた。


 その中に、ルベルドがいた。


(あ、ルベルドさん)


 コゴメは思わず目を向けた。白と紺の制服を着たルベルドは、他の参加者に比べて異様に落ち着いた様子で歩いていた。周囲の生徒が緊張でかたくなっているのと対照的に、彼はいつもと変わらない様子で落ち着いて見える。


(……あの人、いつもああいう感じだな)


 コゴメは少し口元をほころばせた。


 ルベルドと初めて会ったのは、あの森の中だった。迷子になって泣いていた自分を助けてくれた、不思議な雰囲気の少年。素っ気なくて、あまり感情が顔に出なくて、でも真っ直ぐで嘘はつかない。


 学園に入ってきたときは驚いた。図書棟で偶然顔を合わせて、回復魔法の理論を教えてくれた。それ以来、図書棟で会うことが少しだけ楽しみになっている。


(……楽しみ、というか。話していると、なんか安心する)


 なぜそう感じるのかは、コゴメにも上手く説明できなかった。ルベルドは無愛想で、会話が得意なわけでもない。でも言葉が嘘くさくなくて、こちらのことを変に持ち上げることもなくて―――それが心地よかった。

 王女という立場上、コゴメに話しかけてくる人の多くは、どこか遠慮がある。言葉を選びすぎていて、本音が見えない。

 ルベルドは違う。思ったことをそのまま言う。「回復魔法が得意なら、それがお前の優秀ということだ」と言ったとき、お世辞ではないと分かったからこそ、本当に嬉しかった。


(……ルベルトさん、自分が優しいことに気づいてないよね)


 コゴメはそっと思った。


「始まりますわね」


 隣の令嬢が声を上げた。


 一回戦が始まった。


 コゴメはルベルドの試合番号を確認した。七番―――ということはすぐ前の方だ。


 一回戦の試合がいくつか進み、七番の試合が呼ばれた。


「七番ルベルド対十四番、試合開始!」


 コゴメは無意識に身を乗り出した。


 ルベルドが舞台に立った。対面には風属性を得意とする少女が構えている。


 試合が始まった瞬間、コゴメはすぐに気づいた。


(……あ、動きが全然違う)


 コゴメには戦闘の心得はない。

 そんな彼女ですら一目で分かる。ここまでの参加者と比べて、ルベルドの動きは無駄がない。

 相手の攻撃をかわすとき、必要最小限だけ動く。攻撃するときも、大げさな動作がない。闇の魔力弾が真っ直ぐに飛んで、相手の足元に正確に着地した。


 あっという間に試合が終わった。


「早っ……」


 コゴメは思わず呟いた。


「ルベルドさん、すごい……」


「七番の子、強いわね」


 隣の令嬢が言った。


「新入生だったはずたけれど」


「そうです。一年生です」


「あら、知ってるの?」


「少し」


 隣で「ふーん」と言っているのを横耳に、コゴメは再び舞台を見た。ルベルドは舞台を降りて、また淡々と席に戻っていく。


(……自分が勝ったのに表情変わらないな)


 少し可笑しくなった。


 試合はいくつも続いた。コゴメはルベルドの試合だけでなく、ダリアの試合も熱心に見た。


 ダリアの炎魔法は、本当に速かった。細くて鋭い炎が連続して飛んでいく。相手の生徒が圧倒されていくのが分かる。


(ダリア……強くなったな)


 コゴメは誇らしい気持ちと、少し複雑な気持ちを同時に感じた。ダリアはいつも「姉様を守るため」と言って修練している。

 コゴメは「そんなに無理しなくていい」と思っているけれど、ダリアは聞かない。


(でも、こうして結果として出てくると……やっぱり嬉しい)


 決勝に進んだのは、ルベルドとダリアだった。


 コゴメは思わず立ち上がりそうになって、寸前でこらえた。


(二人が当たるの……!)


 複雑だった。どちらにも勝ってほしい―――と言うのが本音だがそれは不可能。最終的にコゴメは「どちらもいい試合をしてほしい」という気持ちに落ち着かせた。


 決勝が始まった。


 ダリアの炎が走り、ルベルドがそれを打ち消す。ルベルドの闇が飛び、ダリアが跳ぶ。


(……速い)


 コゴメは固唾を飲んで見ていた。

 ここまでの試合と比べて全てが圧巻で息をすることを一瞬忘れてしまう程だった。

 ルベルドは一発防御で受けて少し動きが乱れた瞬間があったが、すぐに立て直した。ダリアはそこで踏み込んで——その瞬間、ルベルドの足元に闇が広がった。


 ダリアが体勢を崩し、舞台の外に踏み出した。


「判定——七番、ルベルド!!」


 観客席が沸いた。


 コゴメも、気づいたら拍手していた。


(すごい……)


 ルベルドが舞台に立っている。制服が少しだけ乱れているが、表情は変わらない。落ち着いている。それでも、コゴメの目にはやっぱりほんの少しだけ楽しんでいるような光を見た気がした。


(……ダリアとの試合楽しかったのかな)


 そう思うと、なんだか嬉しくなった。


◆◇◆◇


「では、一年生魔法大会優勝者を表彰する。七番、ルベルド!」


 司会の声に合わせて、審査員席から学園長が歩み出てきた。ルベルドが舞台の中央に進む。


 表彰が行われ、ルベルドに優勝の証である青い勲章が渡された。


「さぁ、優勝者に一言もらおうか!」


 司会が言った。


「ミスタールベルド、感想を」


 ルベルドの言葉を待ち観客席がし~んと静まった。


 ルベルドは勲章を手に持ったまま、少し間を置いた。


(何を言うんだろう)


 コゴメは自然と息を詰めた。


 そしてついにルベルドが口を開いた。


「……一つ、言いたいことがある」


 低く、しかしよく通る声だった。


 ルベルドの視線が、観客席を向く。そしてそれが——コゴメのいる方向で止まった。


 目が合いコゴメは心臓が跳ねるのを感じた。


「コゴメ」


 名前を呼ばれた。


 周囲の視線が集まるのが分かる。コゴメは思わず手を胸の前で合わせた。


「俺は特別近衛騎士になる。だから——待ってろ」


 観客席がざわっとなった。


 コゴメは……何も言えなかった。

 ただ頬に熱が集まっているのが分かる。

 ルベルドの目がまっすぐにこちらを見ていた。嘘のない、真剣な目で。


(……え)


 近衛騎士になる、と言った。だから待ってろ、と。

 それは——つまり、自分のために、という意味なの、だろうか。


(顔、熱い……)


 コゴメは自分の頬に両手を当てた。観客席のざわめきがまだ続いている。隣の令嬢が「え、今の貴方への言葉よね!?きゃ〜」と小声で騒いでいる。


 ルベルドは何事もなかったように勲章を受け取り、舞台を降りた。


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