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地獄の朝食会と検証


カチャ…カチャ…

なんとも気まずい沈黙の中、朝食会が開幕した。

食器の音がかすかに立つ室内の空気は、もはや通夜である。

せっかく豪勢な食事なのに味がしない。


「……あれ」


隣で、小さな声が漏れる。

七瀬が視線を向けると、フォークを持っているまつりと目が合う。

戸惑うように眉間に皺を寄せているが、たぶん七瀬も同じような顔だろう。


「……します?」


「いや」


そんなはずはないと、二人とも違う皿に手を伸ばして、やっぱり顔を見合せる。

本当に味を感じていないパターンだった。


顔を見合せて戸惑いつつ、腕によりをかけているであろう料理人の顔を立て、無言のまま完食した。


皿がすべて下げられてから、王様より改めて瘴気を祓うための尽力を頼まれて、朝食会は解散。

食べた気もしなければ、満腹も、なんなら空腹も覚えていない。


「七瀬さん。何だと思います?」


「さあ……喉も乾かない気がする」


「あ、確かにそうかも。あれば飲むんですけど、飲みたいかと聞かれると、特にそういうわけでも」


「御手洗いにも行ってないなあ」


「ほんとだ……」


お茶請けには手を出さなかったから、異世界に来てから初めての固形物だったし、空腹にならないのはおかしい。

確かに昨日の紅茶も味を感じた記憶はないが、緊張のせいだとばかり思っていた。


「お食事は、口に合いませんでしたか?」


部屋を訪ねてきたアデラに、気遣わしげに声をかけられるまで、二人して黙々と考え込んでしまっていた。

すっかり定位置のようになったまつりの右隣で、七瀬は苦笑する。


「味を感じなかったんだ。空腹も満腹もない。過去、そういう事例はあるかな」


「えっ? ちょ、待っ、すぐに調べます! 他に何か、気になった点はありますか!?」


「落ち着いて……あ、御手洗いにも行きたくならないし、そういえば耳がいい気がする」


「あ、それあります! 今鳴いてる鳥、どれくらい遠くにいるかなんとなくわかるよね。それに、なんかすっごい元気。なんだろ? たぶんわたし、今すんごい蹴りいける」


「まつりさん、今スカートでしょ。でも、わかる。身体どこも痛くないもんな。昨日あんな寝方したのに」


「ふふ。七瀬さん、わたしの枕元に突っ伏して座ったまま寝てたね」


きみが、日本語で呼ぶから。

言いかけて、誤魔化すように笑う。


なんとなく、言わない方がいい気がした。

それはたとえば、心のすごく深くのやわいところに触れるような。

気軽に手を伸ばすべきではない、大切なもののように思えて。


ひとまず検証をしましょうということになり、浄化の訓練を兼ねて外に出ることになった。

騎士団の制服を着た人たちが、グラウンドのような開けた場所で木製の剣を振っている。


「まつりさん、避けれる? レイシスさん」


「いっきまーす」


駆け出したまつりに、戸惑いながらレイシスが側にあった木剣を振る。

ぶおんと風を切ったそれを、まつりは軽い身のこなしで避けて見せた。


「えっ……武術の心得がありますか?」


もちろん本気ではなかっただろうが、それなりに力を込めた振りを避けたまつりに、レイシスが驚く。


「ないです。避けれる気がしたからやってみたけど、いけますね」


「目がいいんでしょうか……でも、身体がついてこないと意味ないし……」


ぶつぶつ呟いているアデラを横目に、七瀬は軽く地面を蹴った。

咄嗟に構え直したレイシスの木剣を目掛け、回し蹴りを仕掛ける。


木製の硬い剣は、七瀬の貧弱な細足で真っ二つに折れた。


「……うん」


「うん!? なんですか今のは!? レイシスは、こう見えて近衛騎士副隊長ですよ!!」


「落ち着いてください。俺、今のが初回し蹴りです。人生で」


「木とはいえ、これめちゃくちゃ硬いですよ……変な当たり方したら、骨も折れます」


折れた木剣と七瀬に呆然とする現地人二人の側で、まつりが何やら折れた剣先を拾って考えている。


「えいっ」


まつりが投げた重いはずの剣先は、まっすぐにレイシスの持っていた半分に当たり──元に戻った。


「「「…………」」」


沈黙が場を制する。


「い、一旦撤収!!」


アデラの号令で、騒然としたグラウンド(訓練場)の皆々様方の視線から逃げるように、七瀬とまつりは駆け出した。




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