彼女はNoと言える日本人
翌朝、まつりに揺り起こされて目を覚ました七瀬は、彼女の冷たい手を引いて朝食が用意された食堂へと向かった。
「おっとぉ……?」
一歩先に扉をくぐったまつりののけ反った背が、七瀬の胸元に当たる。
小さな衝撃の声に見やると、なるほど。
どなた様の晩餐会だと言いたくなるような、白いクロスがかかった長方形のテーブル。
奥のお誕生日席と両側に、いかにも王族ですといった風体のきらきらしい方々が鎮座なさっている。
引き気味のまつりの背を支えつつ、七瀬は苦笑いでぺこりと軽く頭を下げた。
「失礼しました」
「待て。いや、待ってくれ」
立ち去ろうとする二人に慌てたのか、急いで駆け寄ってきたのは、昨日も見かけた顔。
たぶん王子様かなと当たりをつけた人物が、まさしく王子様だったらしい。
「第一王子のレヴェラルリディナロだ」
「ん……?」
七瀬より舌を噛みそうな名前を名乗られた。
朝一番にこれはきつい。覚えられるだろうか。
「挨拶がてら、朝食を共に取ろう。愛らしい聖女殿、エスコートしてもよろしいか?」
「七瀬さんと手つなぐからいい」
にべもない。
ちょっとだけ、王子様に同情してしまった。
「あと、聖女って名前じゃない。変な口上もいらない」
滅多刺しだった。殺傷力があり過ぎる。
宥めるためにそっと頭を撫でると、不満そうに膨らんだ頬が目に入る。
ふむ。どうやらまつりは、誘拐犯への警戒心が強いらしい。
大変よいことである。
とはいえ、こうも表立って対立してしまうのは、今後を考えるとあまりよくない。
もう一度頭を撫でて宥めてから、七瀬は彼女を隠すように前に出た。
「失礼。異世界から来た七瀬です。こちらはまつりさん。名前で呼んでください。俺たちのいた国では、初対面で他人の容姿に言及することが、あまりありませんでした。なので、まつりさんも驚いたのだと思います」
「なんと……褒め言葉もだめなのか」
「だめというか、容姿よりも、内面のよさに目を向けるというか」
たぶん。おそらく、そういうことではなかろうか。
かなり強引な気もするが、王子様は文化の違いだなと興味深そうに引き下がり、軽く謝意を述べた。
まつりと似た年齢なので、おそらく国としては聖女を伴侶に、という思惑もありそうだが。
苦笑気味の王様(お誕生日席にいたイケおじ)に促され、七瀬とまつりも席につく。
その際、テーブル越しに向かい合わせに案内され、まつりが渋る場面がありつつ、無事に隣同士に座ることができた。
まつりは、異世界転移やったー! というタイプではないらしい。
毛を逆立てた子猫と言えばいいのか、とにかく表情が固く七瀬以外への威嚇が激しめだ。
でも、無理もないなと七瀬は思う。
想像していたよりも、なんというか、非現実味が強いのだ。
美男美女ばかりと簡単に言っても、周りが『なりたい顔ランキング』ばりの美貌の人間のみなのだ。
しかも、『人生で一度はやってみたい貴族生活』みたいな豪華絢爛な城で、映画でしか見たことないくらいスプーンとフォークがやたら並んでいたりする。
騎士なんて、もはやアニメのフルプレート。
世界観も何もわからないが、とにかく異世界すぎた。
世界軸が、国が、人種がまったく異なる場所に、ぽんと放り出されたような不安がある。
この状況で、瘴気を浄化すればいいのね? 聖女ね、オッケーオッケー! となるためには、ちょっと、あと三回くらい生まれ変わりたい。
逆に言えば、非現実感に諸々を振り切れるのであれば、スイッチを切り替えられるかもしれない。
二人はおそらく、中途半端に理性的なせいで、警戒と畏怖が強い。
言動に出すか隠すかという違いだけで。
個人的なイメージが盛りだくさんです。




