世知辛いのは異世界も同じ
七瀬の視線を受けたアデラと騎士たちは、なぜだかぎくりと緊張したように身動ぐ。
そんなに怖い言動をしたつもりはないんだが。
「いくつか確認を」
「も、もちろんです……」
「元の世界への帰還の可能性は?」
「ありません……」
アデラが答えた直後、片方の騎士がはっとして。
「で、ですが、魔術師たちが研究を! ねっ、してるんですよねっ!」
「あっ、は、はい! してます! 帰還の魔術陣を、はいっ!」
「うちの魔術師たちは、アデラ師長もそうですが、とても優秀なんです!」
「それに、魔石の場所までは、我々騎士団もお供します! 御身はお守りしますから!」
なんだろうか。この、上司に叱られる部下みたいな反応は。
怒られ慣れている気さえする。
話が進まなさそうなので突っ込まないが。
早く、まつりをちゃんと休ませたいし。
「帰還できないとして、強要されることはありますか? たとえば、王族との結婚とか、神殿への所属とか」
「具体的ですね……いえ、推奨はしますが、強要は、はい、いたしません。無理やり招いた自覚が、我々にはあります。お二人のしたいことを、可能な限り叶えたいと考えています」
「訓練などは? 魔法……魔術とか」
「ある程度の訓練は、行っていただく方が安全を確保できます。魔石は森深い場所にありますから、体力もあるに越したことはありません」
「衣食住は?」
「もちろん、すべて我が国が負担いたします。この城内にて自室を確保し、護衛も付きます」
なんだか問答が堅苦しい。
とはいえ、もう少し頑張らなければ。
「この子には当然のこととして、俺はどうなります?」
「もちろん、手厚く、手厚くお世話させていただきます。拝見したところ、聖女様はあなた様を慕っているご様子。聖女様の安寧のためにも、あなた様には健やかにいていただきたく思います」
慕っている、だろうか?
異世界なんて異常な場所に飛ばされて、一緒にいた日本人の七瀬しか寄る辺がないだけだと思うが。
どっちにしても、子供を守るのは大人の役割だ。
異世界で『じゃない方』として放り出されなかったのは、ちょっとほっとした。
「あとは……そうだな。召喚の条件ってあるかな。たとえば、トラックにぶつかって死んだ直後とか、聖女の力を元々持ってる女の子を特定して攫うとか」
「さ、攫う……ああいえ、そうですね。異世界人であれば、基本的にどなたでも聖なる力を有していると考えられています。私共といたしましては、性別を限定する意図はありません」
「特定もしないし、死んだ場合とも限らない?」
「召喚された際に亡くなっている方はいませんが、元の世界での状況と問われるとわかりかねます。ただ、魔術陣自体、かなり昔に組まれたもので、当時の傾向が色濃く残っていて……ええと」
「どうせ呼ぶなら若くて可愛い女の子がいいな、っていう理想が組み込まれていると」
「…………平たく言えば、はい」
なるほど。まあ、そうだろうな。
ふむふむと考え込む七瀬に、アデラが様々なことを説明してくれる。
曰く、召喚が成功すること自体が稀であり、そのため五年ごとに試行されている。
召喚には膨大な魔力(生命力のようなものらしい)を必要とするため、国ごとに持ち回りで行う。
最後に成功したのは、五十年前。
魔石による瘴気はかなりの濃度になっており、年々国民の数が減少傾向にある。
国力があるため、子が産まれる数も多いが、減少のスピードが増しているとのこと。
今回の召喚には、妊娠中の王妃を除くすべての王族と、魔術師からも同数が参加したらしい。
召喚の場にいたのは、主導していた第一王子。
国王は忙しい身なので、成功とほぼ同時に執務に戻ったとのこと。世知辛い。




