主導権は握っておくに限る
案内された客間で、七瀬と少女はソファに隣り合って腰かけた。
あまりに少女の身体が冷たいので、小柄な彼女を借りた毛布でぐるぐるに巻く。
正面の二人がけのソファに、魔法使いっぽい男性が座り、その後ろに騎士っぽい人が二人立った。
湯気の立ったティーカップが運ばれてきて、メイド服を着た女性がささっとお茶請けを用意して下がる。
「初めまして。俺は、瀬名といいます。瀬名 七瀬。舌噛みそうだろ。きみは?」
「わたしは、まつりです。秋名 まつり」
「まつりさんっていうのか。よろしくな。そちらの名前もお伺いしても?」
やっぱりここでも仕切り出した七瀬に、まつりが笑いを堪える。
どうやら彼女、笑いのツボが浅いらしい。
はっと我に返った男性たちが、きりりと真剣に表情を引き締めるが、ぽかんと呆けていたのはしっかり見たからな。
「私は、魔法使いではありません。いえ、魔術師ではあるのですが。魔法でなく、魔術を使います。魔術と魔法の何が異なるかと申しますと、」
「まあ落ち着いてくださいよ。ほら、お茶でも飲んで」
「は、はあ、すみません……」
どうやら少し混乱しているようなので、我が家のようにお茶を勧めてみた。
素直に何口か飲んでから、魔術師という男性はようやく落ち着いた表情になる。
ちなみに、まつりはずっと毛布の塊でぷるぷるしている。
まだ寒いのかもしれない。
紅茶を入れ直すようメイドに頼むと、小さく吹き出す音がしたので、元気はあるようだ。
「私は、魔術師長を務めるアデラ・フェリスと申します」
眼鏡の奥の紅色の瞳が、穏やかに説明することによると。
この大陸には五つの国があり、それぞれが持ち回りで五年ごとに異世界からの聖女降臨を担っていること。
(国の成り立ちを語り出そうとしたので、今度はお茶請けを勧めた)
大陸全土で数十年に一度〝厄災〟の年が来て、濃く淀んだ瘴気が少しずつ生き物や植物の生命力を奪うこと。
(瘴気の生まれる魔石があるらしいが、分析結果はひとまず置いて話を先に進めてもらった)
魔石に触れられるのは異世界から来た人間のみで、この世界の者は触れた瞬間に生命力を吸われて消滅すること。
(生々しい説明をしようとしたので、まつりを指さして黙らせた)
異世界から来た聖女は、瘴気を浄化する力を有しているため、騎士団と共に魔石のある森の奥深くまで行き、浄化をしてほしいこと。
(王子様も同行うんたらと言っていたが、テンプレなので聞き流した)
浄化を終えた暁には、王族に嫁ぐにしろ城に住むにしろ、可能な限り希望を叶えると約束すること。
(街で暮らしてもいいの? と聞くと真っ青になったので、無理と考えていい)
あちこち横道に逸れて深掘りしようとするので、話を聞き出すのに結構な時間がかかった。
ぽすんと肩に軽い衝撃を受けて見れば、緊張も限界だったのかまつりが寝息を立てている。
さて、ここからは大人の時間だ。
まつりの小さな頭を慎重に膝まで移動させて、耳を塞ぐようにしながら髪を撫で、七瀬はアデラに目を向けた。




