異世界転移
よろしくお願いします。
「……あー」
首の後ろを掻きながら、七瀬は無意識に声を逃がした。
がんがん痛む頭と、隣に自分でない誰かの気配。
何気なく見やると、ぱっちりと大きな焦げ茶の瞳と出会った。
つるんとした肌はきめ細かく、瑞々しさが眩しい。
「きみ、大丈夫か? どこか打った?」
ぱちん、ぱちん。長い睫毛が瞬く。
「ううん。平気です」
「ならいい」
触れている肩が異様に冷たい。
体温を分けるために寄り添うと、凍えそうに冷たい華奢な身体が心細そうにくっついた。
「ところで、ここどこだろうな」
努めてのんびりと問いかけると、首を傾げる気配。
周りを改めて見渡して、また顔を見合せた。
「聖女様!」
「降臨されたぞ! 成功だ!!」
「あの男は誰だ!」
騒ぎ立てる人たちはみな、王子っぽかったり魔法使いっぽかったり騎士っぽかったり。
足元には、漫画のような魔法陣。
これは、あれか。
「ラノベかよ」
「それな」
何もこんなにテンプレを踏襲しまくったテンプレでなくてもいいだろうに。
ぼそっと呟いた少女に心底同意し、七瀬はひとまず、どこからどう見ても聖女な彼女を背中に隠した。
ああ、知ってる知ってる。つまりあれだ。俺は、お呼びでない方の奴ってことだ。
正直、七瀬は『異世界転移』やら『異世界転生』やらというジャンルがあることと、人気筋のストーリーをおおまかに把握している程度。
その七瀬が『なんか覚えがある』と思うということは、だいぶ王道な状況だろう。
まあつまりだ。
「そこの、魔法使いさんだか魔術師さんだか。状況説明より先に、この子を座らせてあげてくれないか? あと、あたたかい毛布と飲み物」
「えっ!? あっ、はい!」
「王子様? かな? わかんないけど。たぶん偉い方だと思うんで、落ち着いたらこちらから挨拶に行きます。どうぞ戻られてください」
「え、あ、うむ……」
「騎士さんかな? 悪いけど、できれば少し距離を取ってくれるかな。この子、見ての通りか弱い可愛い女の子なんで。怖がられるの、そちらとしても不本意でしょう」
「……承知しました」
誰よりも先にさくさくと仕切る七瀬に、なんか思ってたのと違う、という顔をしながら反論は出なかった。
他の方々はいったん退出し、魔法使いっぽいローブの男性が部屋に案内すると言うので、七瀬は少女の手を取って歩き出す。
騎士っぽい人たちは、三歩ほど後ろをついてくる。
「ぷ、ふふっ」
冷たい手を引かれながら、堪えきれなかった少女が吹き出した。
「やだ、何これ。こんなことある? 最強じゃん」
「ほんとだよなあ。魔法陣とかあるんだな」
「そっちじゃないですってば」
くすくす笑う少女の顔に、先ほどより血の色が戻っていることに安堵しつつ、七瀬は肩を竦める。
「これぞ、まさに『魔法陣に引き込まれる人を助けようとしただけなのに』ってやつだな」
「ぶふっ、ほんとそれ」
初対面の二人。
路地裏で突然出現した魔法陣に引き込まれた人、それを助けようとした人。
一緒に落ちた先は、異世界でした。というあれだ。
豪華絢爛な(たぶん)城の中をゆったり歩きながら、凍えた小さな手がただ心配で、七瀬はぎゅうと握りしめた。
作者の脳内の『異世界』『テンプレ』『王道』です…!




