第9話 夜のカフェと静けさ
夜カフェには行ったことないのですが書いてみました!
火曜日の夜、オフィスの電気はもうまばら。残業しているのは、数えるほどの人だけ。パソコンの光が点々と浮かんで、静かなフロアに小さな島みたいに広がっている。
三十代前半のOLとして、まだ週の前半なのに少し心が折れかけている。今日の仕事も、正直言って地味な一日だった。数字を追って、メールを返して、会議に出て、修正して、また確認して。大きな失敗もない代わりに、大きな拍手もない。
誰も褒めてくれない。頑張ったかどうかも、自分しかわからない。
それでも手は止めなかったし、締切も守ったし、面倒な依頼も笑顔で受けた。十分、ちゃんとしている。そう思うのに、評価という言葉はどこか遠い。
パソコンを閉じ、静かに席を立つ。エレベーターの鏡に映る自分は、少しだけ疲れた顔をしている。
今日は、自分に甘くする。
外に出ると、駅前のカフェがまだ明かりを灯していた。ガラス越しの暖色の光が、夜の冷えた空気をやわらかくする。吸い寄せられるみたいに扉を押す。
「いらっしゃいませ」
穏やかな声。少し高めのチーズケーキとカフェラテを頼む。値段を見て一瞬だけ迷うけれど、今日は気にしない。明日のこと? 今は考えない。
席につくと、店内は静かで、コーヒーの香りがゆっくり漂っている。ソファに深く腰かけ、ケーキの甘い匂いを吸い込む。フォークを入れると、しっとりとした感触が伝わる。
一口食べる。
じんわりと、疲れが溶ける気がする。甘さだけじゃない。今日一日の“ちゃんとしていた自分”が、静かに報われる感じ。
ラテの温かさを口に含みながら、心の中でつぶやく。
「よくやった、私」
誰にも聞かれない。でも、それでいい。褒めてもらえないなら、自分で褒めればいい。自分の努力を一番近くで見ているのは、自分なのだから。
窓の外では、仕事帰りの人たちが足早に通り過ぎていく。みんなそれぞれに、見えない何かと戦っているのかもしれない。そう思うと、少しだけ孤独が薄まる。
こうして小さなご褒美を作ることが、火曜日の生き残り方。派手じゃなくていい。静かでいい。確実に、自分を回復させる時間。
食べ終わって店を出るころ、夜風が心地よい。さっきまで重かった肩が、ほんの少し軽い。完璧じゃなくてもいい。地味でもいい。今日もちゃんと働いた。
これであと二日、平穏に乗り切れそうだ。
推しは自分。
自分の機嫌は、自分で取らなくちゃね。
今日も今日とて主人公ちゃんはご機嫌なようです!




