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第34話 吸血鬼の少女の出現

 月明かりの下、俺は全神経を集中させカナデの微細な魔力反応を探知する。彼女は魔力量はさほど高くないが、それでも俺にとっては容易に感知できる。


「──こっちか!」


 南西方向に弱いながらも確かに感じる魔力の残滓。空中を疾駆する俺の足元には街の灯りが流星のように流れていく。

 やがて郊外へと続く森の入口付近で地面に降り立った。


「ここか……?」


 周囲には人影もなく静寂が支配している。だが微かに漂う血の匂い。そしてカナデの魔力痕跡。

 間違いない、ここにカナデを攫った犯人がいる。


「忠告するぞ。大人しく出て来い。そうすれば命の保証はする」


 周囲に響き渡るように宣言する。反応はない。


「よし、強制排除だな」


 手のひらに魔力を凝縮し始めると──


「待って……!」


 木々の陰から小さな影が現れた。月明かりに照らされたその姿を見て俺は目を疑う。


「子供……?」


 そこに立っていたのは幼さが残る少女だった。白髪のショートヘアに特徴的な尖った耳。慎重などは150cmもあるか怪しい。

 一見すると迷子かと思える無防備な服装をしているが……問題はその瞳だった。


 血のように紅く染まった虹彩。そして微かに漂う“異質な魔力”。明らかに人間のそれとは異なる波長。


「お前がカナデを連れ去った張本人か?」

「……」


 少女は黙ったままこちらを睨むように見つめている。威嚇しているわけでもなく、ただ虚無的な瞳。


「答えろ。じゃないと」

「──彼女は返せない」


 ようやく発した声は驚くほど幼く高い。しかし抑揚のない語調には妙な凄みがあった。


「カナデは……彼女は“吸血鬼の未来”に必要だから」

「……は?」


 “吸血鬼”というキーワードに眉を顰める。何言ってんだコイツ?


「……彼女の血統は特別。我々の種族にとって……最後の希望」


 話が急過ぎて思考が追い付かない。カナデが吸血鬼?最後の希望?

 何かの比喩表現なのか、それとも本気で言っているのか判断がつかない。


「へぇ。ただ悪いな、俺には関係ない。カナデは返してもらう」

「それはできない」


 瞬間、少女の紅い瞳が妖しく輝いた。

 通常の魔力とは明らかに異なる赤く脈打つ光が彼女の全身を包み込む。


「──血の誓約に従い」

「っ!?」


 次の瞬間、少女の姿が消えた。否、移動速度が速すぎるのか。目では捉えられない速さで俺の背後に回り込んでいた。


「……だが」


 振り向きざまに魔力障壁を展開する。鋭い爪のようなもので斬りかかってきた少女を弾き飛ばす。


「ぐっ……!?」


 衝撃で地面に叩きつけられる少女。

 吸血鬼とはいえ見た目は幼女。あまり派手に痛めつけるのは気が引けるが。躊躇している暇はない。


「噂通り……」


 少女は苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がる。その瞳には怯えの色はなく、むしろ興奮に近い高揚感が見て取れた。


「片目くらい潰しとくか?それとも四肢を折れば大人しくなるか?」

「……!」


 少女の瞳に恐怖の色が浮かぶ。半分脅しのつもりだったが効果覿面だ。あるいは俺の魔力が本能的に危険を察知させたのかもしれない。


「手を出して来たのはお前だ。悪く思うなよ」

「くっ……!」


 再び赤い魔力を纏い逃走態勢に入ろうとする。だが遅い。今度は逃がさない。


「ダメっ!!」


 予想外の声に動きが止まる。それは紛れもなくカナデの声だった。

 茂みの奥から現れたカナデが俺の前に立ちはだかる。彼女は明らかに衰弱していたが、その手は俺を制止していた。


「ミナト!その子には何もしないで!」

「は?どういうことだ?」

「事情があるの!この子はわたしを傷つけたりしてない。寧ろ……望みを叶えてくれる」

「望み……?」


 困惑する俺を尻目にカナデは少女に近づく。そして膝をつき、優しく語りかけた。


「ごめんね。わたしの為に危ない目に遭わせちゃって」

「……」


 少女は俯いたまま答えない。だがその肩は震えていた。カナデはそっと手を伸ばし、少女の頭を撫でる。


「大丈夫。怒ってないから」


 その光景に俺は言葉を失った。一体何がどうなってる?

 とりあえず、カナデが無事であることは確認できたが。


「説明しろよ。なんでこの吸血鬼?はカナデを連れ去った?どうして庇う?」


 問い詰める俺に、カナデが観念したように溜息をついた。


「この子……吸血鬼っていうか……その血族の生き残りなんだって。わたしが持つ特殊な魔力が必要らしくて……」

「特殊な魔力?」


 初耳だ。そもそも平民のカナデが何か特別な能力を持っているなど聞いたことが……。


「(……カナデに、特殊な魔力?)」


 瞬間、脳内に彼女と初めて出会った日の出来事が蘇る。

 幼いカナデが俺に触れた瞬間、何か特別な魔力と共にその記憶を確かに垣間見た。当時は俺自身、自らを鍛えるのに夢中であまり意識しなかったが……。


「わたしも最近知ったばかり。もう死んじゃったけど、お母さん……実は吸血鬼の血を引いていたみたい。だから、存続にわたしが必要って……」


 カナデの言葉に思わず頭が痛くなる。なんだそのびっくり設定は。

 吸血鬼の存続?カナデが希少な血脈?そんな重要情報今更ぶち込んで来るなよ。


「なあお前、名前は?」

「……セラ」


 ようやく少女が口を開く。セラか。名前だけ聞くと普通の少女だな。


「何であんな強引に連れてった?普通に説得しろよ」

「……前からしてた。でもあのくそじじい、中々会わせてくれなくて」


 爺さんのことか。確かにこの手の話には警戒するだろう。てか口悪くないかこいつ? 


「危険はあるのか?カナデに」

「……ない。彼女を害する気は一切ない。ただ、種族の滅亡を回避する為に協力してもらいたいだけ」


 その言葉を信じるべきかどうか。正直、問うまでもないが。

 カナデを見る。困惑しつつも何かを決意したような表情をしている。このまま話を聞いても埒が明かなそうなので最低限の確認だけ済ませることにした。


「要はカナデに何の危害も加えないと?」

「……約束する」

「なら今度はちゃんと話し合え。こんな強硬手段は止めろ。じゃないと次は容赦しない」

「わかった……ごめんなさい」


 素直に謝罪するセラ。意外と話せばわかるタイプなのかもしれない。


「で、カナデはどうしたいんだ?」

「わたしは……この子を放っておけない。困ってるみたいだし……わたしなんかが役に立てるなら……」

「ふむ……」


 カナデの決意はそれなりに固いようだ。その魔力で吸血鬼の一族を救うという奇妙な使命。俺にはよくわからない世界だが、カナデが望むなら止める理由はないだろう。


「そうか。じゃあ俺は帰るわ。後は二人で勝手にやれ」

「えっ!?ミナト、一緒に行かないの!?」

「何で俺が行く必要があるんだよ。心配なら俺の魔力を分けた護符を渡しといてやろうか?何かあってもそれをぶつければ並大抵の敵は吹っ飛ぶ」

「そんな雑なの!?」 

 

 呆然とするカナデ。正直興味が湧かない。吸血鬼の未来?そんなもん知ったことか。 

 カナデは大切だが、彼女が決めたことなら責任は取らせてやる。俺には他にやるべきことがある。


「ミ〜ナ〜ト〜!」


 腕を掴まれ引き止められる。振り向くとカナデの顔が間近にあった。さっきまでの冷静さはどこへやら、今や笑顔で怒りのオーラを放っている。


「ちょっと冷たすぎないかなー?さっきまでの優しさはどこいったの?それに、こんな小さな女の子を夜道に放っておくなんて可哀想でしょ?」

「カナデが守ってやりゃいいだろ。必要とされてるんだし」

「わたしの心配はないのかなー?」

「だから来てやったろ。大丈夫だ。今のカナデの実力があれば大抵の相手は問題ない」

「並大抵以上だったらどーすんの!?」

「いや、だから護符渡してやろうかって聞いただろ」


 埒が明かない。吸血鬼だがなんだか知らないが、そんな謎種族を俺が救ってやる義理はない。カナデが行きたいなら好きにすればいいし、嫌なら断ればいい。俺が口を挟むことじゃない。

 

「あーもう!セラ、一回帰ろ!ニアとおじいちゃんを説得する!」

「え……」

「ミナトには絶対ついて来てもらうから!ほら早く!」


 呆気に取られているセラと俺をよそに、カナデは怒りながら森を出ていく。 

 俺とセラは思わず互いに顔を見合わせる。


「おい、何でこうなった?」

「……あなたが悪い。親代わりならきちんと守るべき」


 誰が親だ。大体、年齢的には前世を除けばカナデのが年上だろうが。


「……カナデの兄、弱かった。だからあなたしか頼れる人間がいない」

「お前、それ本人に言うなよ。今度は不意打ちなしで戦えとか挑まれるぞ」

「……問題ない。カナデの兄なら正攻法でも53%の確率で勝てる」


 ほとんど五分五分じゃねえか。なのにこの余裕綽々っぷり。まあ確かにさっきの戦いで見せたこいつの魔力は興味深いものがあったが……。


「……仕方ないからあのくそじじい説得する。手伝って」

「説得するならくそじじいはやめとけ。余計に話通じなくなるぞ」

「……難しい」

「はぁ……いいからいくぞ」


 なんで俺がこんな役回りをしなきゃならんのか。まあカナデの自己責任だ。俺は適当に付き合うとしよう。

 そんなことを考えつつ、俺はセラと共にカナデの後を追った。


面白い、続きが見たいと思われた方はブックマーク、評価をおねがいします。

 面白くないと思われた方も、出来れば評価での意思表示をしてくれたら嬉しいです。

 どんなつけかたでも今後の執筆の糧にします!作者としては反応が見えないのが一番辛いので……。

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