第24話 思わぬ展開へ
ゲートを通過した俺たちの目の前には──予想外の光景が広がっていた。
ギルドの広間は普段の活気ある喧騒とは全く異なり、張り詰めた空気に包まれていた。入り口には衛兵が立ち塞がり、中央には精鋭らしき騎士団が整列している。
「え?なにこれ」
「騎士団?何故ここまでの数が……」
カナデとレックスが小声で驚く。デイモンも不安そうに周囲を見渡している。
その数は明らかに定員オーバーと呼ぶべき数であり、フレイアは眉間に皺を寄せていた。
「お、お父様……!?」
フレイアが小さく呟いた。その瞳は騎士団の先頭に立つ初老の姿を捉えていた。
白髪ながら堂々とした風貌。周囲の騎士達とは格別のオーラを纏っている。
「な、何故国王が?」
「それにこれ程の数の騎士……一体何が……」
レックスとデイモンも動揺を隠せない。
しかしそれはあちらも同じ様子であり、俺たちを見るや否や驚愕の声が上げた。
「まさか、生きて帰ってきたのか!?あの黒龍を討伐したとでも言うのか!」
「馬鹿な!?そんなこと不可能な筈!」
「だが……確かに皆無事に戻ってきて……!」
どうやら色々と事情を知っているらしい。国王の声に周囲の騎士たちも動揺の色を見せる。
「あの……国王、一体……」
デイモンが問いかけようとすると、国王は慌てて身振りで遮った。
「すまない、あれは先代の国王と他国がやむを得ず個別のゲートに封印したもの。我々にとっても今回の出現は全くの想定外だった」
国王の声は真摯だ。しかしどこか取り繕っている風にも感じる。
「本来なら決して解き放たれるはずのなかった存在だが、ギルドの管理不足で再び野に放たれてしまったのだ。それを……」
国王は俺の方に視線を向ける。その瞳には賞賛……いや、恐怖が入り混じっている。
「貴殿が、アドルフ殿の……?」
「あーはい。息子です。一応……」
ここはとりあえず礼儀正しく接しておく。すると国王は深々と頭を下げた。それを見て後ろの騎士たちも一斉に敬礼する。
「そうか。噂には聞いてはいたが、ここまでとは。我が国の恥辱を雪ぐばかりか多くの民の命を守ってくれたこと……深く感謝する」
国王の言葉に一同が沈黙する。彼の謝罪は心からのものに見える。
「他の皆も、よくやってくれた。我々の不手際で貴殿達未来ある若者に危険な目に合わせてしまい申し訳なかった」
国王はカナデたちにも敬意を払う。彼らは畏縮しつつも丁寧に頭を下げていた。
「お、おやめ下さい!国王陛下ともあろうお方が、我々のような平民に……」
「そうです。第一私達はミナト殿の魔力障壁の中でしたので……」
レックスとデイモンが恐縮しきりで答える。一方カナデはと言えば。
「なんか照れちゃいますね。ありがとうございます、国王様」
あっけらかんと礼を言う。このメンタルは流石の一言である。
「ただ……」
国王の視線がフレイアに向く。瞬間、さっきまでの態度が嘘のように鋭い眼光に変わった。
「フレイア、貴様は何を考えている。ギルドが緊急事態と知って尚潜入したな?」
「っ……」
「しかも、このような者達を連れ添いに選ぶとは。これも全てお前の考えか?」
フレイアは唇を噛み締めている。顔色が蒼白だ。国王の質問攻めに沈黙を貫いている。
「フレイア教官?
「まさか……知っていていたのですか?」
レックスとデイモンの問いにフレイアは俯いたまま答えず、国王の視線を避けるように目を逸らしている。どうやらこの異常事態について何かしらを知っていて黙っていたようだ。
「申し訳ありません……ですがお父様、これには理由があり……」
「黙れ!貴様の勝手な行動でどれだけの者が危険に晒されたと思っている!」
国王の声は激昂していた。周囲の騎士たちも困惑している。それは俺達とて例外ではない。
「この件はエアハート内でも王族と騎士団長のみに知らされた最重要案件。何故このような場所に彼らを連れ出したのだ!」
国王の詰問に対し、フレイアは黙り込んだままだった。顔は青ざめ、手は震えている。国王の言う通り、彼女には何か隠していることがあるようだ。
レックスとデイモンはすっかり青ざめている。カナデも深刻な顔で2人を交互に見比べていた。
「(なるほどな、通りでギルドがあんなに静かだった訳か……)」
ようやく俺は合点がいった。どうやら今回は、フレイアの単独判断で危険な任務に俺達を巻き込んでしまったらしい。
「……申し訳、ありません」
フレイアは膝を折る。涙が零れ落ちていた。その姿を見た国王は一度深呼吸し、表情を戻す。
「今回の件は厳罰に処さねばならない。だが……幸い犠牲者は出なかった。責任は私が負う」
国王は再び騎士たちに向かい指示を出した。
「全員配置に戻れ。ギルドの調査は明日以降改めて行う。今日のところは休養を取るように」
騎士たちは整然と敬礼し退出していく。広間に残ったのは俺たちと国王のみ。
「さて」
国王は咳払いし、俺たちの方を見た。
「諸君達は、セレニテスといったか。この度の働き、誠に見事だった。表沙汰には出来ぬが、報酬はいずれ」
「いえ、そんな……」
満更でもなさそうなレックス。一方デイモンは言葉に詰まっている。
「私はフレイアを連れて王宮に戻る。詳しい話は追って」
国王はフレイアの腕を掴み強引に立たせる。その眼差しは厳しさの中にどこか優しさも込められているように見えた。
「行くぞ」
「はい……お父様」
フレイアの声は弱々しい。しかし、最後に俺たちへと視線を送る。その瞳は深い悲しみと僅かな希望が入り混じっていた。
そのままフレイアは父親に連れられて行った。ギルド内部には再び静寂が戻る。残されたのは四人だけとなった。
「何というか、凄いことになったな」
「黒龍のこともそうですが、まさかギルドが緊急事態だったとは……」
レックスが首を傾げる。デイモンも考え込む表情だ。
「あの教官様、俺たちを騙してたのか?」
「違う……とは思う」
カナデも困惑している。会ってそう間もない俺に比べ、他の三人はフレイアに少なからず感情移入していたようだ。この反応も仕方ないだろう。
「まあ、今悩んだって仕方ないか。もう帰ろうぜ。疲れたし飯食って寝たい」
「うむ、賛成だ。色々考えるのは明日でも遅くはないだろう」
「だね」
俺の言葉にレックスが同調する。カナデとデイモンも頷き立ち上がる。
正直のところ、俺はフレイアが敵側と疑っているわけではない。
黒龍と遭遇した時は明らかに彼女も驚いていたし、俺が倒さなければあの場で自分が死んでいたのだ。利用されたといえばそうだが……。
「(何か、裏がありそうな感じだよな)」
心の中で呟く。今回の一件にはまだまだ何か事情がありそうだが、今は深追いしない方が賢明だろう。




