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第23話 想像以上の化け物



 黒龍が咆哮する。その声はゲート内全体を震わせるほどの音量だ。全身から黒い霧のような魔力が噴き出し周囲の空気が歪む。


「な、何故……だってここの主はさっき倒したはずじゃ……」

「まさか、ゲートの管理不足……!?しかしこれは……」


 レックスとデイモンが驚愕の声を上げるがすぐに状況を把握したらしい。フレイアも事態の深刻さに気づいたようで表情が強張る。

 その大きさは先ほどの大蛇を遥かに凌ぎ、少なくとも全長20メートルはあるだろう。ただならぬ威圧感を放っている。


「ちっ……」


 思わず舌打ちをする。こんな怪物、フレイアやカナデ達が戦えるレベルじゃない。最低でも親父かそれ以外の国王クラスの実力者が複数必要だろう。


「俺がやる。先輩達はそこから動かないでくれ」


 魔力障壁の中のフレイア達にそう告げると同時にシールドの魔力量を増加する。もしもの時に備えてだ。

 黒龍が動く。巨大な体にも関わらず動作は極めて俊敏だ。まるで風のような速度で突進してきた。


「ミナト殿!」

「速い!避けないと!」


 デイモンとレックスの悲鳴が聞こえる。だが俺は微動だにせず構えを取る。だがこの程度のスピードなら対応可能だ。


 俺は魔力障壁を自身にも展開する。衝突する瞬間の轟音と衝撃が辺りに広がった。


「……一撃かよ。想像以上だな」


 魔力障壁が砕け散る。しかし隙が生まれたことで空中に避難し間合いを取ることに成功する。

 あの超スピード。大して魔力を使ってないとはいえこうもあっさりとシールドを破壊されては飛び道具で責めるのは得策ではないだろう。


「いいだろ。なら、接近戦でやってやるさ」


 俺は右手に魔力鎌を具現化する。漆黒の魔力が刃となり光を放つ。

 次いで左手に魔力槍を作り出す。同じく漆黒の槍が完成した。


「元々、こっちのが好きなスタイルだしな。行くぞ!」


 魔力を解放すると俺は体を高速で前進させる。黒龍は応じることもなく背後を取り、魔力鎌を振う。

 響き渡る雄叫び。黒龍は受け身を取ることすら出来ず、その尾を一閃で切り落とされる。


「なんてスピード……まるで見えなかった」

「体が反応できぬ程の速さとは……信じられません」


 魔力障壁越しの有難い実況。俺は追撃に入る。切り落とした尾が未だ空中にあるうちに槍を投擲する。狙いは黒龍の腹部。的確に突き刺さる。

 黒龍は怒りの咆哮を上げながら仰け反る。だが次の瞬間、信じられないことが起きた。


「嘘……尾が……!?」


 フレイアの驚愕の声が聞こえる。視線の先で黒龍の切断された尾が瞬く間に再生していく。

 そう、まるで時間を巻き戻すかのように失われた部分が元通りになっていくのだ。


「おいおい、マジかよ……」


 黒龍が再び怒りの咆哮を上げる。先ほどまでの痛みはもはや過去のものだとでも言うように。

 俺は舌打ちしつつ再び魔力槍を生成する……が、黒龍の動きも素早い。再生した尾を鞭のように振り回し反撃を仕掛けてくる。


「ちっ……!」


 鋭く伸びる爪と尾が襲い掛かる。俺はそれを魔力槍で受け止めつつ距離を取る。魔力の衝突による火花が周囲に舞い散る。


「……仕方ない。少し本気を出してやるよ」


 俺は両手を広げて魔力を凝縮する。空気が震え、周囲の湿度が急速に上がるのが分かる。水気が蒸発し、俺の周囲に自分でもわかるほどの凶々しいドス黒いオーラが形成された。


「な、何だ……?あの魔力量は……!」

「見たこともない規模です!」


 魔力障壁内からレックスとデイモンの驚愕の声が漏れる。フレイアは言葉を失っていた。

 黒龍も本能で危険を察知したのか大きく後退しようとするがもう遅い。

 俺の両手に巨大な魔力剣が形成される。我ながら禍々しい形状だが威力は折り紙付きだ。


「真っ二つになりやがれ」


 全力の魔力で剣を振り下ろす。黒龍の頭上から股まで一刀両断に切り裂いた。

 血飛沫が上がり巨体が左右に分かれる。威力に大地が揺れるほどの衝撃だった。切断面からは鮮血が噴き出し、肉片と共に地面に崩れ落ちた。


「や……やったの……?」

「そんな……一撃で……?」


 フレイアたちが息を呑むのが聞こえる。この状態で生きていればもはや魔獣ではなく神の領域だろう。だが……。


「う、嘘でしょ……?」

「まさか……!」


 切り裂かれた二つの死骸から魔力が溢れ出し始めている。それはやがて形を成し、なんと全く同じ姿の黒龍が二体に増えてしまった。


「えぇ……」


 さっきの言葉を訂正したい。普通に萎えた。なんで生きてんだよ。しかも二匹に増えたとかバグだろ。


「てめぇら、いい加減にしろよ!」


 思わず再度魔力剣を形成し横薙ぎに振り払う。

 今度は左右同時に攻撃を仕掛けてきた黒龍をまとめて両断する。

 だが結果は同じだった。切断された四つの死骸からそれぞれ魔力が集束し、計四体の黒龍が現れてしまった。


「ミナトくん……これは……!」

「あー、悪い。失敗した……」


 思わず頭に血が昇りすぎたせいで思考が鈍ってしまった。一回目の時に学習すべきだったと反省している。

 黒龍は四方を固め始める。その漆黒の瞳に宿るのはもはや怒りではなく明らかな殺意。偶然か否か、全員が同じポーズをとり始めた。


「あれって……!」

「まさか、ブレス!?」

「しかも四体同時の……!」


 フレイアが危惧する。これは予想外だ。俺は即座に魔力障壁の範囲を拡大しようとするが……遅かった。


 四体の黒龍が同時に巨大な魔力の光を口に溜め込み始める。そして一斉に解き放った。

 それは空間そのものを歪めるほどの熱量と破壊力を持った魔力の奔流だった。


「危ない!」

「全員伏せて!」


 フレイアの叫びが響く中、俺は魔力障壁を全開にしてそのブレスを受け止める。

 轟音と閃光が視界を覆い尽くす。障壁は耐えるもその圧力で俺自身が後方へ吹き飛ばされそうになる。


「くっ……馬鹿力が……」


 ようやくブレスが収まり視界が晴れてくると、そこには何もなかった。四体の黒龍は消え去っている。いや、正確には……


「ミナトくん!上!」


 フレイアの警告で上空を見上げると、なんとそこに一体の黒龍が浮かんでいた。しかもその巨体は先ほどよりも二回りは大きく膨れ上がっている。


「なるほど……分裂した魔力が再結合したわけか」

「そんな……こんなのどうやって……!」


 フレイアが絶望的な声を上げる。デイモンとレックスは言葉を失い、カナデも拳を握りしめていた。

 黒龍が再び口に魔力を溜め込む。今度は先ほど以上の魔力量だ。逃げ場などない。


「どうしますか!?」

「これ以上は……!」

「大丈夫。ミナトならきっと……」


 レックスとデイモンが動揺する中、カナデだけは一応信頼してくれているらしい。ちなみに俺はというと……内心苦笑していた。

 確かに今の黒龍は厄介だ。魔力総量も俺とほぼ同等。しかし問題はそこではない。


 重要なのは──それをこいつ自身に気づかせること。


 黒龍が魔力ブレスを放つ。それはまるで天災のような規模と威力だった。世界中の魔力を凝縮したかのような破壊の奔流が迫ってくる。


「自分の力で吹き飛べよ」


 俺は小さく呟きながら両手を広げた。黒龍の放った魔力ブレスが俺の手のひらに吸収されていく。そして次の瞬間──その全てを倍以上のエネルギーにして反射した。


「なっ……!?」


 フレイアたちの驚愕の声。放たれたブレスが逆向きに黒龍へと襲い掛かる。

 黒龍はもはや悲鳴すらあげる暇もない。自らの力が数十倍の破壊力となって返ってきたのだ。

 魔力が体内から爆発し、漆黒の鱗も巨体も見る見るうちに塵芥と化していく。魔力さえも跡形なく消え去り、ついに黒龍は完全に消失した。


「あー、流石に疲れたな……」


 その場に静寂が戻る。俺はゆっくりと着地し、魔力障壁を解除した。


「化け物とは思ってたけど……想像以上の化け物ね、あなた……」

「褒め言葉として受け取っとく」


 フレイアが呆れたように言う。レックスとデイモンは言葉もなく立ち尽くし、カナデは笑顔のままサムズアップを送ってくる。俺も一応返信おいた。


「ひとまずこれで一件落着か。つか、なんだっだんだよあれは」

「それは……」


 一瞬だが、フレイアの視線が泳いだ気がした。


「……ごめんなさい、わからないわ。あんな怪物、ギルドの資料にも記録がなかったし」

「もしかすると、ギルド内でトラブルになってるのかも」


 フレイアとカナデが推測を述べるが答えは出ない。俺自身、黒龍の存在を認識したのはカナデ達があの大蛇を討伐した後だった。

 まるで、用済みになった兵士を処理するかのようなタイミング……。


「ここで考え込んでいても仕方ありません。フレイア教官、今は報告を優先しましょう」

「カナデさんの推測通り、ギルド内部の問題の可能性もあります。詳細はそちらに任せるしかないでしょう」


 デイモンの提案にレックスも同意する。確かに現地での調査より早急な報告の方が重要だろう。


「そうね。またあんなのが現れない保証もないし、撤収しましょう」


 フレイアの号令で全員が移動を開始する。

 誰もが状況に安堵する中で、俺はさっきまでの戦いを振り返っていた。


「(魔力反射……今回は上手くいったが、やっぱ多様は出来ないな……)」


 他者の魔力を体内に吸収し、そのまま弾き返す技術はまだまだ実践的ではない。

 タイミングが最も重要になる上、一歩間違えれば体内で爆発するリスクもある諸刃の剣である。

 相手が知性もない魔獣だったから良かったものの、親父などの歴戦の猛者相手であれば間違いなく通用しないだろう。せいぜい初見殺しに毛が生えた程度の代物だ。


「理不尽を理不尽に塗り替えるにはまだ程遠い……か」


 また新たな課題を抱えながら、俺はカナデ達と共にゲートを潜った。

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