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仄暗い街

仄暗い街


ここは昔、それはとても綺麗な街並みで、たくさんの人がこの街を愛して、大切に思っていました。

ですがある日、この街にある男がやってきました。

黒いスーツに黒い帽子、そして黒い傘を持っている、まっすぐで綺麗な立ち姿をしているけれど、何処となく暗い雰囲気を隠しきれていない、そんな人でした。

男は街の人にこう言います。

「あなたはこの街を愛していますか?」

街の人はみんなが頷いて愛していると言います。

男は街中の人にそのような問いかけをします。

そして違いのない同じ返答を聞いては

『そうですか。』

と貼り付けたような笑顔で言うのです。

男はそうやって、聞いて回っていると、ふと、仄暗い路地裏が目に止まりました。

そこには子供が小汚いぼろぼろの布にくるまって明るい街並みを暗い目で見つめていました。

「あなたはこの街を愛していますか。」


子供は首を横に振ってから言いました。

「いいえ、私はこの街が嫌いです。どうしようもなく不愉快で大嫌いなんです。」

と言った後、自分は何故こんなことを口にしたんだろうと思いました。

子供は言葉を発するつもりはなかったのに、何故か思い浮かんだ言葉を吐き出してしまったのです。

「そうですか。」

子供はおそるおそる男を見ました。


男は泣いていました、けれど笑っていました。

ぐにゃりと歪んだその笑顔は今まで見たどんなものよりも恐ろしくて。


子供はその表情を見て体の芯までこごえたように感じました。

とても、とても寒いのです。

子供の心は恐怖で埋め尽くされてしまいました

ですがここから逃げたいと思っても、行く場所は何処にもないのですから、それを思い出した子供は恐怖なんかよりも、寂くてどうしようもなくなって男に問いかけます。


「わたしは、どこにいけばいいのですか?」


「そのまま。」

男は答えました。

「ここに居れば良いのです。」


そう言うと、男は子供に黒い傘を渡しました。


「すぐに一人ではなくなりますから。」


男は笑顔でそう言ったと思ったら幻のように消えてしまって、もう何処にもいませんでした。


その日からはずっと雨が降り続けました。

真っ昼間なのに空は雲で真っ暗になってしまって、明るい街並みも、いまではどんよりとした、とても暗い街並みに変わっていきました。

そのせいで、街の人はみんな雨に流されて、消えていきました。

子供の目はよりいっそう澱んでいって、いつしか何も見えなくなってしまいました。

私は一人のままだ。ずっと一人。まだ一人。

あの男は確かに言ったはずなのに。

すぐに一人ではなくなるって言ったのに。

私はまだこの路地裏でひとりぼっちだ。

そうやって俯いていると、子供の側に猫が近づいてきました。

猫はずぶ濡れで震えていて、今にもぱたりと、消えてしまいそうでした。


子供はその猫を見つめました。

暗くなってしまったこの街が明るく見えるほど,子供の目は真っ黒でした。

猫をしっかりと見つめているのに、その目には何も映ってなどいないのではないかと錯覚してしまうほど黒い、黒い目をしていました。


そんな目で、見つめられてしまっては猫も怯えて逃げてしまいます。


「ぁ...」


やはり、猫は逃げてしまいます、ぼろぼろの体を引き摺りながら逃げていきます。


子供はそうやって猫の背中を眺めていたら、ふと、水溜まりに映る自分が恐ろしい目つきで、自分を睨んでいるように感じました。


ばしゃり。


子供は怯えて傘を落とし、地面に尻餅をつきました。そしたらそのまま、地面に寝転がってしまいました。


「私は自分にすらあんな風に睨まれるのか。」


雨はまだ止みません、いや、多分もう止むことはないのでしょう。


少年は傘を拾って歩き始めました。

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