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(※連載中の本編のネタバレを含みます。本編を読んでくださっている方はご注意ください)

 田舎の祖父の家で生活する中学生の少年・石部孝曜(いしべ こうよう)は、ある日たまたま観たテレビ番組で「スワンプマン」の思考実験を知り、近くの山の「瑞鐘池」と呼ばれる沼地に、似た内容の昔話が伝わっていることを思い出す。

 ―――山仕事の最中、倒木に巻き込まれて足に大怪我をした木こりの男が、家族のもとに帰りたい一心で瑞鐘池に眠る神様に祈りをささげた。すると神様は男の足を治すのではなく、五体満足な男の複製を産み出し、男の代わりに里に帰らせた。男が山で死んだと村の皆が気づいたのは、その何年も後に複製が死んで土塊に戻った時だった―――

 まだ続きがあったような気がすると心の閊えを感じつつも、瑞鐘池を調べれば何かがあるかもしれないという好奇心に駆られた孝曜は、親友の晶を連れて瑞鐘池に行こうと思い立つ。幼少の頃に早世した母・ひばりの仏壇に手を合わせ、出発の準備をしていたところに声を掛けてきた祖父・兼吉は、瑞鐘池という言葉を聞いて孝曜を心配する様子を見せるが、孝曜は気に留めず山へ向かった。


 瑞鐘池に到着し探索を開始する孝曜と晶だったが、生い茂った草木に視界を遮られ、少し目を離した隙に晶が姿を消す。池を一周したところで合流するも、名前を呼ぶと晶は拒絶反応のように苦しげに頭を抱える。

 何が起こったのか冷静に対処しようとする孝曜だったが、その時水銀のような銀色の液体が足元から噴き出し、晶を飲み込む。押し流された孝曜が体勢を立て直し顔を上げるまでのわずかな間に、銀色の液体は巨大なヒト型を成し、甲冑を着た骸骨の巨人のような姿へと変化した。

 自らの正気さえ疑う異常な現象と悍ましい巨人の姿に怯える孝曜は、家を出たときには思い出せなかった、昔話の続きを思い出した。

 ―――土塊と化した男の死体を目撃した村人たちは、神様に頼んで元の男を返してもらおうと瑞鐘池に向かった。しかし願いも空しく男の体はとうに腐り果ててしまっており、それを知った村人は神を懲らしめようといきり立つ。すると神は池の中から巨大な骸骨を呼び出して操り、村人衆の首魁を叩き潰した後、逃げていく取り巻きを尻目に眠りについた―――

 さらに追い打ちをかけるように、骸骨の巨人に並ぶ大きさの人型ロボットが現れ、ますます混乱する孝曜をよそに外部スピーカーで骸骨の巨人に呼びかける。

 ロボットのパイロットは骸骨の巨人を「ヴィブムス」と呼び、名を聞くと骸骨の巨人は「アムジィ」を名乗った。会話を端で聞いていた孝曜が反応したのは、その問答の内容そのものより、骸骨の巨人から返ってきたのが晶の声だったことだった。

 骸骨の巨人の中に晶が乗っている(あるいは変身している)と判断した孝曜は必死に呼びかけるが、アムジィは晶の名を呼ばれることに不快感を露にし、孝曜を叩き潰そうとする。

 孝曜が死を想起したその瞬間、先ほど晶を飲み込んだ銀色の液体が再び噴き出し孝曜を飲み込んだ。

 視界が開けた時、孝曜は新たな骸骨の巨人に乗り、アムジィの骸骨の巨人と相対していた。

 孝曜は敵ではないと判断したロボットのパイロットは「晶は"ヴィブムス"という異種族になり、アムジィという名の別人格に上書きされた」「骸骨の巨人はヴィブムスの戦闘用外骨格であり、アムジィの身柄を確保するためにこれを破壊する」と手短に説明し、孝曜に共闘を持ち掛ける。

 刃状の五指を備えた攻撃的な"副腕"を持つアムジィの鎧骨格"スケピュラ"に対し、孝曜の鎧骨格"イリアム"は盾のように大きく頑丈な副腕を持っている。

 アムジィを止めるべく、ロボットの援護を受けながら戦い始める孝曜だったが、人間の自我を保ったまま戦う孝曜はヴィブムスに変貌したアムジィに鎧骨格の扱いにおいて大きく劣り、心身の衰弱も重なり徐々に追い詰められていく。

 形勢逆転の一手を望む孝曜にイリアムが応えるかのように、盾が割れるように展開し赤熱する器官を解放、強力な熱線を放ちスケピュラの左肩を消し飛ばした。

 武器を失ったアムジィは逃走し、追おうとした孝曜は鎧骨格内の空間に満ちる銀色の液体の中に沈み、意識を失った。


 戦闘の後、孝曜は対ヴィブムス専門組織「フォートレス・ハック」に保護され、日本支部局長・黒澤から組織およびヴィブムスの概要と晶の現状について説明を受ける。

 晶を飲み込んだ銀色の液体の正体は、人間に寄生するアメーバ状金属生物"アルジェントゥム・ヴィブムス"。ヴィブムスは通常地下のマグマ層に漂うように生活しているが、火山噴火に巻き込まれるなどして地上に出ると、人間に寄生することで地上生活に適応する。ヴィブムスに寄生された人間"スワンプマン"は血液がヴィブムスの体液"銀漿"に置換され、頭髪・瞳の変色と人格の上書きが起こる。そして、有事の際に銀漿を操作・硬質化させて形成されるのが、全長10m前後の戦闘用鎧骨格"オステオン"である。

 現場に駆けつけた人型機動兵器"ST(サプレス・トルーパー)"を操縦していた第一機動部隊長・小野寺が説明の席に同席しており、親友がスワンプマン・アムジィになったという事実に打ちひしがれる孝曜は、自身の保護を優先してアムジィを取り逃した理由を問い詰める。対する小野寺の答えは、「人間の自我を保ったまま鎧骨格(オステオン)を操る」「従来のイリアムにはない特異な能力を備える」など他のスワンプマンとの差異が多い孝曜は、アムジィや他のヴィブムスとの戦いにおける強力な対抗札となりうると考えた、というものだった。

 晶の人格が元に戻るかは定かではないが、アムジィを仲間に引き入れられる可能性がもっとも高いのは、他でもない孝曜である。小野寺の考察に黒澤も同意を示し、孝曜は親友を取り戻すためにフォートレス・ハックへの参加を決意する。


 フォートレス・ハックには、ヴィブムスの出現を監視する観測班などのような非戦闘部署のほか、人間のみで構成されSTを運用する第1機動部隊と、人間側に離反したスワンプマンで構成される第2機動部隊の2種類の機動部隊が存在し、孝曜は人間ではあるものの鎧骨格(オステオン)で戦うということで弐機隊(第2機動部隊)に配属される。

 そこで出会うのは、身体は幼いが局長以上の古株を自称する非戦闘員のコハク、剛健質実の隊長リームダル、ヒーローに憧れアニメの影響を強く受けているプラシエ、性能的に一歩劣る鎧骨格(オステオン)を洗練された技量で操るバイルゥの4人の仲間たち。彼らはスワンプマンだが壱機隊のメンバーとも良好な関係を築いており、孝曜も種族の壁や特異性に対する偏見を全く感じさせない暖かさで以て彼らに迎え入れられた。

 フォートレスのデータベース史上最強の敵性スワンプマン・マディオンに初陣で遭遇する、学校の近くで戦闘が発生した際にヴィブムスに関する情報の守秘義務を理由に出陣を止められるなど、単なる戦闘に限らない様々な苦難に見舞われながらも、孝曜はアムジィと正面から戦えるだけの強さを目指して力をつけていく。

 孝曜以外の弐機隊員たちも、孝曜に触発されてか否か、ともに成長していく。

 熱エネルギーのコントロールに長ける重砲撃型鎧骨格(オステオン)"スターナム"に乗るプラシエは、過去の出撃において攻撃範囲の広い"必殺技"を放って作戦領域一帯を焼け野原にしたことで重い処分を受けたことがあり、それ以来出撃しても全力を出すことができずにいた。しかし毎週欠かさず視聴しているアニメのヒーローへの憧れは強く持ち続け、ある日の放送回で主人公が繰り出した新技をヒントに、プラシエも攻撃範囲を狭めて威力を集中させた新たな必殺技を編み出し、急病で出撃できない孝曜に代わり日本支部局を急襲したアムジィを撃退する。

 バイルゥは自身の鎧骨格(オステオン)"ティービア"が弐機隊で唯一のB級鎧骨格(オステオン)であることにコンプレックスを抱いており、いくら自身の技術を磨こうともA級鎧骨格(オステオン)で戦うリームダル隊長や他の隊員に及ばないという現実に悩んでいた。後から入隊した孝曜がみるみる成長していくことに更なる焦りを感じる日々を送る中、中米支部との合同演習中に敵性スワンプマン・トーマの奇襲を受け、バイルゥを慕う中米支部の後輩隊員が重傷を負う。怒りのままトーマに立ち向かうも、鎧骨格(オステオン)の性能差は覆せず一方的に痛め付けられる。共に戦う孝曜や中米支部の隊員たちが犠牲を覚悟した時、それでも絶望せず戦う為の力を望むバイルゥの意志に鎧骨格(オステオン)が応えるかのように、ティービアが純格闘型A級鎧骨格(オステオン)"コクシクス"に変化。今までティービアでは活かしきれなかったバイルゥ自身の高い技量を100%発揮し、不利な戦況を覆しトーマを撃破する。


 そして孝曜はある日ついにアムジィと遭遇、他の隊員たちに取り巻きの対処を任せ1対1の戦闘を開始する。アムジィのスケピュラは今までの戦いでも見せた刃の副腕に加え、孝曜のイリアムのガードの隙間から急所を狙う仕込み剣を繰り出し一方的に防戦を強いるが、対する孝曜のイリアムも戦闘中に進化を遂げ、熱エネルギーを盾の副腕の先に爪状に集束させる近接戦用の能力を開花させる。後にプラシエの発案で「炎神の爪(ウルカヌス・クラウ)」と名付けられたその能力は攻防一体のスケピュラの刃を破る決定打となり、孝曜はスケピュラを破壊、弐機隊によりアムジィの身柄が確保される。

 その後アムジィは日本支部局地下の収容施設に護送され監視下での生活を送っていたが、数日後に突如扉を破り脱出。演習場にスケピュラを出現させ、孝曜との一対一の決闘を要求する。本来なら人間を捕食か殺害の対象としか見ないはずの敵性スワンプマンから出た異例の要求に対し黒沢局長はそれを飲み、孝曜に出撃を命じる。今回は最初から炎神の爪(ウルカヌス・クラウ)を発動し、パワーで勝る孝曜とスピードで勝るアムジィが終始互角の戦いを繰り広げる。

 その決闘の最中、彼らに誘引されてか支部局の周辺で大量のヴィブムスの出現反応が検知され、壱機隊・孝曜以外の弐機隊全員が出撃を余儀無くされる。ここで孝曜が敗れれば、アムジィから支部局を守る者はいない。そのような状況になると分かった上で、尚も孝曜は決闘の続行を望んだ。

 一進一退の勝負の末、孝曜は炎神の爪(ウルカヌス・クラウ)の応用により熱線砲の緻密なコントロールをマスターし、数ヵ月前の初戦では最大出力での放射しかできなかった熱線砲を、2つの砲口に分割し連射する新たな技「炎神の矢(ウルカヌス・サジッタ)」を会得。アムジィのスケピュラは副腕を破壊され防御手段を失い、その隙に叩き込んだイリアム本体による全霊の拳が、孝曜のフィニッシュブローとなった。アムジィは負けを認めると同時に、ほんのわずかに晶の人格を取り戻し、孝曜に対する認識を「殺すべき敵」ではなく「ライバル」に改める。

 孝曜が決闘に勝利した一方、周辺区域のヴィブムス掃討に出撃した壱機隊・弐機隊総員は、敵の圧倒的な物量と乱入したマディオンに消耗戦を強いられ、特に壱機隊は近接戦仕様ST"オーウェン"搭乗の安芸山(あきやま)と防衛戦仕様ST"アルビナス"搭乗の緑門(みどりかど)が戦死、狙撃特化ST"チェゼルデン"搭乗の紋瀬(あやせ)も一命を取り留めたものの機体が大破するという大きな被害を受けた。また孝曜の実家や学校への情報操作などを担当していた対外班の神田(かんだ)が、戦闘区域の事後調査中にヴィブムスに寄生されスワンプマン・ディオパートとなり、已む無く除名・保護観察処分となる。


 隊長小野寺と隊員の花岡(はなおか)斑井(まだらい)、搭乗機を失った紋瀬を残して壱機隊が半壊し、今まで以上にヴィブムス出現の監視体制が慎重になったフォートレス・ハック。

 仲間を失った悲しみが拭えないままの日々が流れる中、ある日一人の男が日本支部局を訪れる。「小野寺かリームダルを出せ」と不遜に宣う彼の声に聞き覚えがあった小野寺が監視カメラを確認すると、声の主はマディオンだった。隠し続けてきた支部の所在を強敵に捕捉され、あまつさえそのマディオンが鎧骨格(オステオン)ではなく生身で現れたことに騒然とする支部の面々だったが、「話がある」という予想外の言葉、そしてこれまでの彼の言動から感じられる精神の高潔さを鑑み、小野寺は黒澤の許可の下マディオンを支部局内に招き入れる。黒澤と機動部隊員の前でマディオンの口から語られたのは、約2000年の潜伏期間を経て目覚めようとしている変異ヴィブムス"ヴァータブレイ"の存在だった。

 西暦79年ポンペイのヴェスヴィオ火山噴火で火砕流に飲み込まれた犠牲者たちを食らい尽くし、何千というヴィブムスの統合体とも言える混沌とした自我を獲得したヴァータブレイは、他のヴィブムスを吸収することで知識と情報を蓄えていった。時が移ろい現代、集積した情報から「人類は地球の支配種族たり得ない」という結論に至り、人類を駆逐するべく活動を開始しようとしている---とのことだった。

 マディオンがこのことをフォートレスにリークしたのは「ヴァータブレイの台頭を許せば小野寺やリームダルと戦えなくなる」からであり、フォートレスとの共闘はあくまで拒否。フォートレスに事前に情報を与えることで、ヴァータブレイとの最終決戦に向け戦力を充実させる時間を与えつつ、自分が心置きなく戦える舞台を用意させるのがマディオンの魂胆だった。種族単位の危機が迫っている状況に至っても敵であろうとするマディオンの頑なさに辟易しつつも、フォートレスの面々はアメリカ本部とメキシコ・イタリア支部に情報を共有し、組織全体で最終決戦の準備にとりかかる。

 ヴァータブレイが自発的に現れるのを待った場合、出現には大規模な火山噴火を伴い、周辺に甚大な被害が予想される。それを防ぐため、出現地点になると予想されるハワイ諸島から数十km沖合いの海底に刺激を与え、海底火山の噴火により新たな島を形成させそこを戦場とする「セントエルモ作戦」が立案される。海底への攻撃役として孝曜とプラシエが選出された。


 壱機隊配備機の耐熱力強化や弐機隊への野良スワンプマンの参加などが各国支部で着々と進む中、アメリカ本部でST開発主任カヤスタ・スリヴァノフによるクーデターという異常事態が発生する。カヤスタは妻をヴィブムスに殺されたヴィブムス殲滅派の人物で、銀漿を急速に凝固・劣化させる薬剤"ルザフチナ"を開発したヴィブムス生理学研究のプロフェッショナル。マディオンのリーク以降、人類とヴィブムスが共存の兆しを見せ始めていることに強い反感と憎悪を抱き、本部を占拠してルザフチナによるヴィブムス殲滅宣言を世界に発信した。日本支部は放送ではカットされていたルザフチナの臨床実験映像をハッキングにより入手、その映像内で全身が錆びるように黒化し苦しみながら息絶えるスワンプマンの姿を見た孝曜たちは、そのあまりの惨さに言葉を失う。黒澤はルザフチナを使った殲滅プランを「化学テロ」と断じ、ヴァータブレイさえ倒せば叶うはずの人類とヴィブムスの共存のため、3支部の合議のもとカヤスタ派の制圧が決定する。

 本部に向かった支部の隊員たちを待ち受けていたのは、ルザフチナを封入した弾丸を対鎧骨格(オステオン)用の兵器として実戦運用する専用ST"デュボアス"の大隊だった。わずかな傷でもそこから銀漿の凝固が始まり乗り手のスワンプマンを死に至らしめる、ルザフチナ弾の反則的な攻撃性能に対し攻め入ることができない弐機隊員たち。さらにデュボアスは遠隔制御の無人機であり、パイロットの生存性を無視した並外れた機動力と、本部からそれらを一手に操るカヤスタの頭脳が制圧隊の不利に拍車を掛けていたが、その状況を変えたのは日本支部局長・黒澤からの通信だった。

 ヴァータブレイという明確な敵との決戦を控えているフォートレスにとってこの内部抗争は不毛だと諭す黒澤に対し、カヤスタは黒澤も妻をヴィブムスによって失っていることを指摘し、それでいて何故ヴィブムスを恨まないのかと問う。黒澤の返答は、カヤスタを、そして同時に聞いていた日本支部の面々を驚かせるものだった。

 それは、「寄生された妻が死ぬ直前に産んだ息子が、フォートレスに入り戦っているから」。黒澤英一は、孝曜の父だったのだ。

 孝曜の母・石部ひばりは、孝曜を身籠っていた頃に瑞鐘池でヴィブムスに襲われた。しかしひばりに寄生するはずだったヴィブムスの半分が孝曜に寄生したことで、ひばりは完全なスワンプマンにはならず、人格を半ば失いつつも生きて帰り、数ヵ月後に孝曜を産みこの世を去った。当時民俗学者として瑞鐘池の伝承を調べていた黒澤はひばりの寄生と同時期にフォートレス・ハックの存在を知り、産まれた孝曜をひばりの父である兼吉に預け、ヴィブムスの根絶をひばりの墓前に誓って町を出ていった。しかしフォートレス加入後、コハクやリームダル達味方のスワンプマンに出会ったこと、そして巻き込むまいと村に置いていったはずの孝曜がスワンプマンとしてフォートレスの検知網にかかり、人間として親友を救うためにフォートレスへの加入を決めたことで、黒澤の心は殲滅から共存に変わっていった。

 黒澤の心変わりの真相と、人間とヴィブムスの混血という前代未聞の実例・孝曜の存在に、カヤスタは激しく動揺し、デュボアスの操作に乱れが生じ始める。デュボアスに機動力で渡り合えたリームダルとバイルゥを中心に日本支部部隊は形勢を逆転、デュボアス全機を破壊しカヤスタ派の完全制圧に成功する。


 カヤスタの身柄拘束後に行われた本部の内部調査の結果、デュボアス以外にも複数の新型STの開発プランがあったことが判明し、そのデータを元に日本支部の整備班長兼開発主任・猿飛(さるとび)が最終決戦用の純日本製ST"リンユウセイ"を完成させる。飛行ユニットを背面に装備した初の空戦型STであり、敵スワンプマンを殺さずに鎧骨格(オステオン)を機能停止に追い込む凍結反応弾(FMB)ランチャーを主武装とするリンユウセイのパイロットとして、乗機を失った紋瀬が選出される。またリンユウセイは戦闘と飛行を分担するために複座式を採用しており、以前から秘密裏に飛行シミュレーション訓練を積んでいたコハクの同乗が決定する。さらに小野寺の指揮官機(キューヴィエ)はプラズマ兵装プラン"ステゴ"の正式採用、斑井の防衛戦仕様機(アルビナス)は重武装プラン"トリケラ"による強化を果たし、近接戦仕様機(オーウェン)に乗る花岡は亡き安芸山の多刀流戦術を引き継ぐとともに、親友であった神田の身体を奪いながらも戦いに怯え収容室に引きこもるディオパートを叱咤する。


 そして来たるセントエルモ作戦決行当日。

 孝曜のイリアムから供給されるエネルギーをプラシエがスターナムで増幅し、ハワイ本島沖に向けて熱線を照射。計画通り溶岩の噴出により島が形成され、夥しい数の敵性ヴィブムスと共にヴァータブレイの出現が確認された。最前線で戦うプラシエの勇姿と花岡の叱咤により奮起したディオパート、孝曜との決着を経て「孝曜と再戦するために人類を守る」というマディオンとは似て非なる道を選んだアムジィを加えた機動部隊総員が、名も無き島に降り立つ。

 プラシエが群がる雑兵を一掃して道を開き、壱機隊が敵の第2波を食い止め、残る弐機隊の面々がヴァータブレイの鎮座する島の中心部に急ぐ。その途中でマディオンが立ち塞がりリームダルに勝負を挑んでくるが、追いついたプラシエが代わりにそれを引き受け、リームダルたちをヴァータブレイの下へと送る。

 マディオンとの早期決着を狙うプラシエは、自滅のリスクから封印し続けていた必殺技"サファイア・ソード"を発動。刀剣状に圧縮された熱エネルギーはスターナム自身をも焼き溶かす諸刃の剣だったが、孝曜たちがヴァータブレイと全力で戦えるようマディオンは必ず自分がここで倒すと誓ったプラシエの覚悟は揺るがなかった。過去にプラシエを一撃で斬り伏せ、今この時まで「英雄を夢見る幼子」と彼女を蔑視していたマディオンもその覚悟を認め、対等な戦士として真っ向勝負を受け入れる。全力の衝突の結果、プラシエはスターナムの片腕を失いながらもマディオンの鎧骨格(オステオン)"サクラム"を一刀両断し、勝利を収めた。

 ヴァータブレイの出現地点に辿り着いた孝曜、リームダル、バイルゥ、アムジィ、ディオパートの5人は、他のA級鎧骨格(オステオン)と一線を画するヴァータブレイの戦闘能力に圧倒される。ヴァータブレイは銀漿を操作・硬質化する能力が異様に発達しており、独立しているかのように柔軟に襲い来る触手状の刺突武器、細かい触手を編み込んで形作られた砲口から放たれる熱線、それらすべてが絶え間なく孝曜たちを攻め立てる。何千ものヴィブムスの統合体であるヴァータブレイに、エネルギーや銀漿が枯渇する気配は一切感じられない。

 仲間に後を託し、勝利のために命を捨てて切り込む―――その思考に最初に至ったのは、最も臆病だったはずのディオパートだった。彼の乗る"メタカルパル"はこの場で唯一のB級鎧骨格(オステオン)であり彼我の性能差は歴然だったが、「神田の代わりに命を懸ける」という花岡との約束を胸に最大出力で突撃し、ヴァータブレイの銀漿制御の要が背面に並ぶ背骨のような部位であることを暴く。

 ディオパートの命と引き換えに作られた突破口に残りの4人が攻撃を加えるが、ヴァータブレイはなおも彼らをあしらい続ける。さらに「他の生物にあって人間にしかない感情は"欲望"」「欲に溺れる人類は自身のみならず他の生物や地球もすべて腐らせる」と説き、人間の絶滅とヴィブムスの支配は地球生命に必要な自然淘汰であると断言する。

 一向に衰えないヴァータブレイの猛攻に弐機隊は疲弊していき、ついに孝曜たちの攻め手が止まる。トドメとばかりに孝曜に放たれた熱線をアムジィが庇い、スケピュラが高熱に耐えかね溶けていく。

 しかし、それこそがアムジィが狙った形勢逆転の最後の一手だった。融解したスケピュラの銀漿を孝曜のイリアムに吸収させ、イリアムは2体のA級鎧骨格(オステオン)が融合した強化体へと変貌する。

 たった2体の融合が何になるとヴァータブレイはあざ笑うが、新生イリアムの能力は元の2倍を大きく上回っていた。出力・機動力の向上のみならず、背中から伸びる2対4本の腕は、ヴァータブレイの触手を斬り払う切断力と熱線を防ぎ切る防御力を併せ持つ無二の武器となった。リームダルとバイルゥの援護もあり、孝曜はヴァータブレイの反撃を掻い潜りその背中に取り付くことに成功。そして―――

「ヴァータブレイ・・・人間だけが持つ感情、もうひとつ教えてやるよ・・・! 自分以外の誰かを守るために、自分の命を投げ出す、『覚悟』だーーーッ!!」

 マディオンとの勝負を引き受けたプラシエ、勝利への道を切り開いたディオパートとアムジィ・・・彼らの想いを背負った孝曜は叫びと共に全力の熱線を放ち、島の中心部諸共ヴァータブレイを消滅させる。


 セントエルモ作戦終了後、ヴァータブレイが居た島の中心部は赤熱する溶岩が渦を巻いていた。

 戦死が確認されていない作戦参加者の内、孝曜だけが行方不明となっており、各支部の弐機隊による溶岩内の探査が行われた。

 溶岩が冷えて固まり始め、発見は絶望的かと思われた時、溶岩が突如収縮し、中心部に孝曜のイリアムが出現。さらにその片腕には死んだと思われていたアムジィが入った銀漿のカプセルが抱えられており、孝曜と晶は無事日本への生還を果たした。

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