第7話
技研への入所が確定した。それを聞いてほっとする。入所の申請こそしたものの、まだその申請が通ったかは分かっていなかったのだ。入所が確定した以上、これで目の前の二人に殺されることはなくなった。そう思うと少し二人に対する警戒心が緩和された気がした。
「さて、新しい仲間が出来たお祝いといきたいところだけど、もう次の任務のために移動しないといけないんだよ。さあ晴間君、行くよ」
両手をパンと叩いて、すぐに新しい話題に切り替える財部。ほっとしたのも束の間、任務という言葉を聞いて身構えてしまう。
「もう暗いのにこれから仕事ってことですか?」
「実際に仕事をしてもらうのは明日以降だよ。ちょっとここから遠いからもう出発したいんだ」
「ここから遠いって、そもそもここってどこなんですか?」
「ここ?ここは七王子市だよ。君が住んでた場所からは結構離れてるけどね」
七王子市内だと思っていなかったため、面食らってしまった。窓から見た景色に見覚えがないので近所ではない事はわかっていたが、自宅と同じ市内だったとは気づかなかった。
「質問はこれくらいにしといてもらって、さあいこうか」
周防が部屋から出ていき、財部がそれに続こうとする。急いで追いかけようとするが、ここでルームウェアだったことに気づく。ルームウェアから制服に着替え始めようとしたところで財部がそれを制止してきた。
「そのままでいいよ。ていうか、君は死んじゃってる扱いだから、通ってた高校の制服は着ないで」
「あっ、はい。それじゃこの制服は?」
「後で技研の人間が処分しとくからそこら辺に置いといて」
制服を置いてルームウェアのまま部屋から出ていき、財部を追いかける。
「あの、どこに行くんですか?」
財部の斜め後ろを歩きながら行き先を尋ねる。
「ん?名度屋」
名度屋市。国内では三番目、または四番目くらいの大きな都市だ。行ったことはないが、地理的な位置は把握している。確かに、ここ七王子市からは遠い。名度屋について可能な限り知っていることを思い出そうと考えていると玄関前に着いた。そこで財部は振り返り、マスクを渡してくる。
「はい、これつけて。一応、君は死んでいる扱いだから、万が一にも知り合いに顔見られたりしないように」
「わかりました」
素直にマスクを着ける。俺がマスクを着けたのを見た財部は靴を履いて玄関を開ける。玄関から出た直ぐ側の道路にはシルバーのワンボックスカーが駐車してあった。外見は、家族連れが使うような何の変哲もない普通の車だ。強いて気になった点を挙げるなら、フロントガラスと運転席の左右以外の窓は、スモークをはって、さらにカーテンで中が見えないようになっていた。
「あの車の後ろに乗って。それで外から見えないように低い姿勢か、もしくは寝っ転がっておいて」
「あのっ、俺って家から出て大丈夫なんですよね?」
手の毒薬を埋め込まれた箇所を押さえながら財部に確認する。確か、家から出たら毒薬が流されることになっていたはず。
「ああ、大丈夫、大丈夫。僕からの指示だから」
そんなに怖がらないで、といった表情をしている財部。玄関に用意してあった運動靴を履き、ごくっと唾を飲んで恐る恐る玄関を跨ぐ。手に違和感を感じないことを確認し、安心すると車へ向かう。車に着くと周防は既に助手席に座っていた。俺はスライドドアを開き、後部座席に入ると寝転がった。そしてそのすぐ後に財部が運転席に入ってきた。
「よし、それじゃしゅっぱーつ」
陽気な掛け声とともに財部がアクセルを踏み、車が動き始めた。
車が出発してからどれくらい経っただろうか。車内での会話が全く無い。せっかくなのでこちらから聞きたいことを聞いてみることにする。
「あの、財部さんと周防……さんはどんな超能力なんですか?」
周防と呼び捨てにしたときに睨まれたのを思い出し、敬称をつけてから質問する。
「言うわけないでしょ。生死に直結する情報なんだから」
周防がため息混じりに回答を拒否する。
「ごめんね、せっかく話しかけてくれたのに。でも綾音の言う通り、自分の生死に関わるものだから安易に自分の能力は教えちゃ駄目だよ」
財部が話に割って入る。必要とあらば人殺しも辞さない人たちだ。当然、自分たちが殺される危険も承知しているだろう。ともなれば自分の情報、特に超能力に関するものは話さないのは納得だ。
「ということで僕の能力もヒ、ミ、ツ」
周防に引き続き、財部も回答を控える。
「はあ?」
財部の返答を聞いて、周防が何言ってるんだコイツといった雰囲気で呆れているが、俺にはそれがどういうことかよくわからなかった。呆れている周防を横目に財部が話を続ける。
「新しい仲間として君のことは歓迎するけど、まだ信頼してるわけじゃない。信頼してない相手に、超能力含めて自分に関する情報を話すほど僕達はお人好しじゃないよ」
超能力以外も駄目なのか。少し冷たいと感じたが、命のやり取りをしてきた人達なので、凡人の俺とは感覚が違うのだろうと無理矢理納得した。
「でも、逆に君の身の上話を聞くことくらいはできるよ。どうだい?」
財部は優しい声で俺に話を振ってくる。ここ最近人と話すことがなかったので、つい色々とこちらから話してしまった。その際、超能力を秘密にしてきた理由を話すと、財部には超能力を見せたときに笑ったことを軽く謝られた。名度屋への道中、こちらから話すことが多かったが、人と話すことで緊張が緩和した気がした。